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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(33) 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染症サーベイランス研究部 第一室 篠崎夏歩先生

2026-07-27 17:38 掲載 | 前の記事 | 次の記事

左側から篠崎夏歩先生、筆者(国立感染症研究所の正門前にて)

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

国内外の各分野で活躍されている獣医師の取材記事を掲載しています。

厚生労働省に勤務されている獣医師の仕事について知りたいとの要望があり、厚生労働省獣医系技官の3人の先生にインタビューを行いました。その後ワンヘルスや人畜共通感染症に関する公衆衛生学分野において海外で活躍されている獣医師の先生にインタビューをして欲しいとの要望がございました。

今回は、国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染症サーベイランス研究部 第一室 篠崎夏歩先生(写真1)にお話をうかがいました。

(取材日:2026年6月17日)。

Q1.国立健康危機管理研究機構の概要を教えてください。

国立健康危機管理研究機構(JIHS)は、2025年4月に国立感染症研究所(NIID)と国立国際医療研究センター(NCGM)の2つの組織が統合して発足した機構です。「感染症その他の疾患に関する調査・研究の実施や医療の提供を通じて安心できる社会の実現に貢献する」ことをミッションとしています。

Q2.篠崎先生の現在の業務を教えてください。

感染症その他の特定疾病について、情報の収集および分析、ならびにこれらの結果の提供を行うサーベイランスに関する研究や業務を行っています。

当部では、主な成果物として感染症に関する週報(IDWR、ARIサーベイランス週報)や月報(IASR)を発行しているほか、疫学研究や人材交流等も行っています。

Q3.英国留学帰国後、なぜJIHSを希望されたのでしょうか?

留学後そのままイギリスで獣医師として働く選択肢もありましたが、現地で就職活動をするなかで、やはり「感染症に関わる仕事がしたい」と考えるようになりました。

当時修士論文を見てくださっていた先生がたまたま国立感染症研究所で勤務されていたこともあり、「キャリアの第一歩として、様々な分野の感染症の専門家が集まっている場所で働けたら理想的だな」と思い、感染研への就職を希望するに至りました。

Q4.現在の仕事の業務においてどのような時にやりがいを感じられますか?

当部で発行している感染症発生動向調査週報(IDWR)には「注目すべき感染症」という随時掲載の記事があり、ここでは報告数が急増していたり例年とは異なる挙動を示していたりする感染症について、直近の発生動向についての情報還元をしています。昨年何本か書かせていただいたのですが、自分の書いた文章が掲載された時にやりがいを感じます。

Q5.昨年、篠崎先生が主に担当された記事を教えてください。

下記4本の記事を主に担当いたしました(注目すべき感染症)。

Q6.獣医師としてのスキルが今の職場にどのように役立っていますか?

昨年はカンボジアにおける高病原性鳥インフルエンザの調査派遣に参加する機会をいただき、派遣チーム唯一の獣医師として、現地の農林水産当局の方と情報交換をする役割を担いました。

鳥類の防疫措置等についてもディスカッションができ、その時に獣医学部で得た知識が役立ったと感じました。

Q7.JIHSに獣医師は何人くらいいらっしゃいますか?また、どんな業務に携われているのでしょうか?

正確な人数は把握していないのですが、決して少なくはないです。

私の所属している部署だけでも私以外に4人おりますし、感染症研究所には動物由来感染症についての研究を行っている「獣医科学部」もあり、そちらにも多くの獣医師がおります。

Q8.海外での留学研修は今の業務にどのように役立っていますか?

海外の先生方と英語で円滑にコミュニケーションが取れることはもちろんですが、講義で予防接種や数理モデルなど幅広なトピックスを扱ったので、現職でいろいろな先生方のお話を聞いたり論文/文章を読んだりするうえで、留学中に培った「広く浅い土台」が活きているなと感じる場面が多いです。

Q9.NIIDとNCGMの統合によりJIHSが誕生し1年が経過いたしましたが、統合によるメリットは何だと思われますか?

研究と臨床が統合されたことで、臨床試験を含む研究開発が加速し、また感染症危機の際にNCGMの臨床能力が発揮されることを期待しています。

Q10.現在の職場においてどのような貢献をされていると思いますか?

まだ大きな貢献ができている段階ではなく、多くの先生方に助けていただきながらではありますが、少しずつ、日々の業務を安定して回す一員にはなれてきたかなと思います。

各種情報還元の英文校正には特に積極的に関わっています。

Q11.感染症発生動向調査に関する週報(IDWR、ARIサーベイランス週報)や月報(IASR)の発行にあたり気を付けられていることは何かありますか?

内容と数値に誤りがないか丁寧に確認すること、そして定期的に刊行されているものですので、発行スケジュールに影響を及ぼさないように作業を遅滞なく完了させることを心がけています。

Q12.サーベイランス(主に感染症法に規定された1~5類感染症)に関する研究や業務を篠崎先生は実施されていますが、そもそも1~5類感染症の分類の定義を教えてください。

希少性や重篤性、そして患者が発生した場合の社会的インパクトの大きさ等に基づいて1~5類感染症の分類が定義されています。

1類感染症にはエボラ出血熱、2類感染症には中東呼吸器症候群(MERS)、3類感染症にはコレラ、4類感染症にはレジオネラ症、5類感染症にはアメーバ赤痢やインフルエンザなどが含まれます。

感染症の類型によって法的に実施可能な措置も異なります(1類感染症では入院や交通制限等、3類感染症では就業制限等)。

Q13.感染症法の中に動物由来感染症はいくつありますか?

定義によって解釈が分かれる可能性もあるので正確な数はお答えできませんが、軽く40は超えます。特に4類感染症の多くが動物由来感染症です。

いくつかの疾病についての詳細は厚生労働省Webサイトの「動物由来感染症」をご覧ください。

Q14.この頃SFTSが話題となっておりますがSFTSは何類に分類され、現在どのような発生状況でしょうか?

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は4類感染症に分類されます。

媒介動物であるマダニの活動時期に合わせた季節的な流行が見られ、2025年は第52週集計時点の速報値で191例の報告がありました(「IDWR(2025年第52週:通巻第27巻第52号)」)。

Q15.SFTSについて動物病院とJIHSとでどのような連携をされていますか。例えば感染の可能性のある猫の血液検査をJIHSで実施しているとか、検査サンプルの送付方法についてのアドバイスとか。また獣医関連学会との連携は何かありますか?

当部ではSFTSを専門に扱っているわけではないのですが、当所の獣医科学部でSFTSの検査依頼を受けています。

詳細につきましては、獣医科学部にご照会いただけますと幸いです(「SFTS検査依頼書」)。

Q16.SFTSを発症された獣医師の発生動向に特徴がありますか?

個別の症例についての回答はいたしかねますが、2025年10月31日現在で2018年以降12例の獣医療従事者が届け出られています。

診断時の年代は20代から70代にわたっており、感染地域は九州地方・中国地方・中部地方となっています。詳細はWebサイト「感染症発生動向調査で届け出られたSFTS症の動向について」をご覧ください。

Q17.鳥インフルエンザは感染症法の何類に分類され、どのような発生状況でしょうか?

ヒトにおける鳥インフルエンザのうち、H5N1およびH7N9によるものは感染症法上の2類感染症に、それ以外の亜型によるものは4類感染症に指定されています。いずれについても、これまで国内でヒトの感染例は報告されていません。

また、鳥類においてH5N1またはH7N9の感染が確認された場合は、感染症法に基づき、診断した獣医師等は保健所へ届出なければいけません。鳥類では、国内でもほぼ毎シーズン発生があります。

鳥類以外ですと、2025年にゼニガタアザラシとラッコから高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されました。直近のシーズンでも、タヌキからH5N1ウイルスが検出されています。

世界で報告されているヒトの患者のほとんどが、家きんなどの鳥類(死体含む)と接触したことにより感染したとされています。現在流行しているウイルスについては、持続的なヒト-ヒト感染は確認されていません。

Q18.サーベイランスの状況に応じて出張(国内・海外)に行くこともあるとのことですが、つい最近、国内外で出張された具体例を教えてください。

直近ですと、2月にヨーロッパを訪れ、欧州疾病予防管理センター(ECDC)や英国の感染症対策関連機関(UKHSA、NHS、アカデミア)との意見交換や情報収集を行いました。

訪問先では、感染症のサーベイランスとリスク評価、コミュニケーション、人材育成、そして研究に関して幅広く意見交換を行いました。

Q19.人材育成等のためにサーベイランスに関するプレゼン・講義・研修を行う機会も時々あるとのことですが、具体的にどんなプレゼンや講義を最近実施されましたでしょうか?

今年ですと、自治体のサーベイランス関係者向けのサーベイランスオフィサープログラムで、サーベイランスの基礎に関する簡単な講義を行いました。

他には、メディア向けの百日咳の意見交換会に登壇し、発生状況等に関する情報共有を行いました。

昨年は、感染症危機管理リーダーシップ研修の実践研修にて「高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)サーベイランス」の講義を担当いたしました(Webサイト「感染症危機対応を行う 地域のリーダーシップ人材を育成」)。

Q20.感染症発生動向調査に関する週報(IDWR、ARIサーベイランス週報)や月報(IASR)の発行をされていますが、海外のどんな研究機関と連携を図っているのでしょうか?

昨年から、主にヨーロッパの感染症について発信しているECDC(Eurosurveillanceを発行)と積極的な情報交換を実施しています。

今年の2月には、先方のエディターの先生に来所いただき、所内の研究者向けのワークショップを行っていただきました。

Q21.篠崎先生は帯広畜産大学のEAEVE認証を利用して英国獣医師免許を取得されましたが、その後何か反響がございましたでしょうか?

2025年7月15日に酪農学園大学において、講師として自分のキャリアを事例に、EAEVE認証校での学びがもたらす進路の広がりについて講演をいたしました(酪農学園大学「ニュース」)。

Q22.今後チャレンジしたいことは何でしょうか?

特にベクター媒介性疾患や動物由来感染症に焦点を当てた研究に力を入れていきたいです。

Q23.JIHSに就職する際にどのような試験対策をされましたか?また受験の際に、気をつけられたことや注意すべき点は何かありますか?

大変申し訳ございませんが、採用に関する詳細は回答いたしかねます。

自分が今まで学んできたことや研究してきた成果について、きちんと説明できるように準備しました。

Q24.今後のビジョンを教えてください。例えば海外で公衆衛生関係の業務を経験してみたいとか。

正直なところ5年後の未来もまったく想像できていませんが、公衆衛生業務であれ研究であれ、何らかの形で感染症には関わっていけたらなと思います。漠然としていて申し訳ございません。

Q25.今後、JIHSを希望される獣医学生にアドバイスやコメントをお願いします。

JIHS感染症研究所の戸山庁舎と村山庁舎は、年に一度「一般公開」をしています。職員とお話しできるだけでなく、様々なイベントもご用意しておりますので、ご興味のある方はぜひお越しください。

また、JIHS感染研の業務等について個別にご質問がある場合は、いつでもご連絡ください。お待ちしております。

編集後記

篠崎夏歩先生には、英国ロンドン大学衛生熱帯医学部で留学中に国内外の各分野で活躍されている獣医師シリーズの第6回目としてインタビューを行いました(「国内外の各分野で活躍されている獣医師(6)~ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 篠崎夏歩先生」)。

その時は、帯広畜産大学のEAEVE認証システムを活用して、初めて英国獣医師免許を取得した経緯やプロセスを主にお聴きしました。

その後日本に帰国されて、国立健康危機管理研究機構 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染症サーベイランス研究部に勤務されていることを知り、取材を依頼いたしました。

現在は感染症サーベイランス研究部で、感染症その他の特定疾病の情報の収集および分析、ならびにこれらの結果の提供を行うサーベイランスに関する研究や業務をなされています。また同部が発行している感染症発生動向調査週報(IDWR)の「注目すべき感染症」という随時掲載の記事では、報告数が急増していたり例年とは異なる挙動を示していたりする感染症について、直近の発生動向に関する情報還元をされています。既に昨年は、ご自身が4本の記事を書かれていることは素晴らしいことだと思いました。

また、獣医師としてのスキルが今の職場にどのように役立っているかの質問に対しては、昨年カンボジアにおける高病原性鳥インフルエンザの調査派遣への参加において、派遣チーム唯一の獣医師として、現地の農林水産当局の方と情報交換をする役割を担われたことを例に挙げられました。

得意の語学を利用して、2026年2月にヨーロッパを訪れ、欧州疾病予防管理センター(ECDC)や英国の感染症対策関連機関(UKHSA、NHS、アカデミア)との意見交換や情報収集を行われています。訪問先では、感染症のサーベイランスとリスク評価、コミュニケーション、人材育成、そして研究に関して幅広く意見交換がなされ、現職場においてとても貢献されていることがよくわかりました。

人材育成等のためにサーベイランスに関するプレゼン・講義・研修を行う1例として、感染症危機管理リーダーシップ研修の実践研修にて「高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)サーベイランス」の講義を担当されたことも特筆すべき点ではないかと思いました。2025年1月に就職されてまだ、1年5カ月程ですが、かなり密度の濃い業務をされているのではないかと思いました。

篠崎先生の今後チャレンジしたい目標である、ベクター媒介性疾患や動物由来感染症に焦点を当てた研究でのご活躍を祈念しております。

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