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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(29)Japan UK Veterinary & Business Services Ltd 共同代表 獣医師 草野寛一先生:後編

2026-04-30 11:34 掲載 ・2026-05-12 11:24 更新 | 前の記事 | 次の記事

写真9~写真11

写真12~写真14

  • 記事提供:動物医療発明研究会
  • インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
  • 動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

<前編はこちら>

Q11.草野寛一先生は日本の獣医師ライセンス以外に英国、香港の獣医師免許を取得されていますが、どのような方法で取得されたのかを具体的に教えて下さい。

英国の獣医師免許は2024年に取得しました。

英国の獣医師資格は、Royal College of Veterinary Surgeons(RCVS)が実施する「法定獣医師資格試験(Statutory Membership Exam)」に合格する必要があります。

まず、ヨーロッパ獣医学教育機関協会(EAEVE)非認定大学卒業者である私は、受験前にIELTS総合7.0以上などの英語力を証明する必要がありました。

次に、試験は筆記・実技の2段階で、小動物、産業動物・公衆衛生、馬、そして獣医倫理の4分野により構成されています。

受験許可が下りると「獣医学生登録」が付与され、英国各地の診療施設で実習が可能になります。実習は必須ではありませんが、馬、産業動物および小動物臨床の現場を複数個所で研修できた経験は、試験対策として大いに役立ちました。筆記試験はオンライン、実技試験は大学で実施される形式でした。

合格すると、Member of Royal College of Veterinary Surgeons(MRCVS)の称号を使用でき、さらにRCVSに獣医師登録を行うことで、正式に獣医師として活動可能となります(写真9)。1年ごとの更新制で、その際には年間35時間以上の学習活動(継続的専門能力開発 /Continuing Professional Development、CPD)を履修することが義務付けられています。

このCPD制度は、獣医師の知識や技術の質の向上や維持を目的としており、英国では一般的な仕組みとして定着しています。日本ではまだ馴染みの薄い制度ですが、英国の獣医師にとっては必須の専門活動です。

CPDとして認められるものには、学会、講習会、ウェビナー、オンライン講座、実地研修、症例カンファレンス、技術指導や講演、さらに自己学習などが含まれます。通常、獣医師として業務に従事していれば自然に必要時間を満たすことができる内容です。

また、多くのクリニックや獣医関連企業では、獣医師が継続的に研鑽を積めるよう、年間20万円程度の経費補助制度を設けています。これは受講費や旅費、教材費などに充てることができる仕組みで、学びを支援する文化が根付いています。

CPDの履修記録は、「1CPD」という専門アプリをスマートフォンにダウンロードし、活動内容を入力することで自動的に集計・登録されます(写真10)。こうしたシステマチックな仕組みが整備されており、英国では獣医師の生涯教育が制度的に支えられています。

一方、香港の獣医師免許は2011年に取得しました(写真11)。

きっかけは、当時国際委員として協働していた香港ジョッキークラブの獣医師からの推薦です。当時の香港には獣医教育機関がなく、海外で資格を取得した獣医師に対し、公的機関であるVeterinary Surgeons Board of Hong Kong(VSBHK)が審査を行い、その結果に基づいて資格を認定する制度でした。

提出書類には、日本の大学の成績証明書やシラバス(英語版)、農林水産省発行の英文免許証、所属学会からの推薦状などが含まれます。母校に英語版シラバスがなかったため、6年分を自ら翻訳する必要がありました。申請後1~2か月で承認され、現在も年次更新を継続しています。英国に習い、CPDは2023年から更新要件として義務化されています。

Q12.勤務医として働いているロンドンのペットクリニックの概要を教えて下さい。

私が2025年8月から週2日ほど代診を務める「Triage Vets」は、自宅から自転車で10分ほどの距離にある、こぢんまりとした地域密着型の個人病院です(写真12)。

オーナーは英国で初の女性獣医看護師の資格を取得しており、共に働く獣医師は30年以上小動物臨床経験を持つイスラエル人、オランダで獣医師資格を取得されたという特殊な経歴の持ち主です。その他、受付が2人、看護師補助が1人の小回りの利くチーム構成で、診療時間は朝9時〜12時、16時〜19時。間の時間は精密検査や手術に充てられ、1日フル稼働しています(写真13)。

私がお世話になるきっかけは、獣医免許試験の準備のために研修を受け入れて下さったことでした。診療の大部分は犬と猫で、その比率は約6:4です。エキゾチックアニマルはほとんど来院せず、ごくまれにウサギを見かける程度です。

診察する動物種は限られていますが、グループ動物病院からの転院やセカンドオピニオンの相談が非常に多く、症例の豊富さという点では大変充実した病院です。

Q13.Triage Vetsで使用されている日本未承認の薬剤が有りましたら教えて下さい。

先進的な治療を行う病院ではないため、抗がん剤やネコ伝染性腹膜炎の治療薬などを扱っていませんが、ウサギ粘液腫症(Myxomatosis)とウサギ出血病(Rabbit Viral Haemorrhagic Disease、RHD1/RHD2)のワクチンは日常的に使用しています(参考:「the NOAH Compendium」)。

少し話がそれますが、動物用医薬品の種類が豊富な英国では、獣医医薬品庁(Veterinary Medicines Directorate、VMD)による、「カスケード(Cascade)」制度 という法的枠組みがあります。この制度は、その動物種・疾患に対して承認済の薬が存在しない場合に、獣医師が“段階的な優先順位”に従って別の薬を使用することを認めるものです。

カスケード(Cascade)制度の概要-優先度ごとのに使用できる医薬品の範囲

  • 第1段階:その動物種・その疾患に対して 英国で承認済の動物用医薬品
  • 第2段階:①同じ動物種だが別疾患用の動物薬、②他の動物種に承認された動物薬
  • 第3段階:人用医薬品または他国(EU等)で承認済の動物薬
  • 第4段階:特注製剤(pharmaceutical compounding)※最終手段

Q14.カスケード制度の第2段階①②の動物薬の実例をご紹介下さい。

第3段階を含め実例をいくつか紹介します。

第2段階①同じ動物種だが別疾患用の動物薬:

  • 抗てんかん薬である「フェノバルビタール(「Epiphen」)」を犬の不安障害に応用。
  • 馬の関節炎治療でフィロコキシブ(「Equioxx」)が使えない場合に、馬の他疾患(疼痛管理)に承認されている「メロキシカム(「Metacam」)を関節疾患に使用。

第2段階②他の動物種に承認された動物薬:

  • 猫の細菌感染症治療に犬用抗菌薬「アモキシシリン・クラブラン酸(「Synulox」)を使用。
  • 馬の創傷感染に牛用プロカインペニシリン(「Depocillin」)を使用。
  • 羊の呼吸器感染症に牛用オキシテトラサイクリン注射剤(「Alamycin」)を使用。

第3段階(人用医薬品 または 他国(EU等)で承認済の動物薬):

  • 犬の慢性痛・整形外科的な痛みなどや発熱管理の目的でヒト用パラセタモールを使用。
  • 犬の神経痛、椎間板疾患、てんかんの補助療法として、猫の疼痛管理として人用ガバペンチン(「Neurontin」)を使用

なお、カスケード制度に基づいて医薬品を処方する場合は、飼い主様に必ず同意書にサインを頂くことになっています。

Q15.VMDにより獣医師が扱える動物用医薬品区分をご紹介下さい。

獣医師が扱える医薬品について販売・処方・使用に関してもVMDにより厳格に分類されていますので、主な医薬品区分を簡単に紹介します。

  • ①POM-V(Prescription Only Medicine – Veterinarian):獣医師による診察・処方箋が必要な医薬品。抗生物質、ワクチン類、鎮痛剤、ホルモン剤、作用の強い駆虫薬など。
  • ②POM-VPS(Prescription Only Medicine – Veterinarian, Pharmacist, SQP):獣医師・薬剤師・Suitably Qualified Person (SQP)のいずれかが処方できる医薬品。駆虫薬(例:「Panacur」、「Equest」)、鳥・家畜向けのコクシジウム薬など。
  • ③NFA-VPS(Non-Food Animal – VPS):非食用動物向けで、獣医師・薬剤師・SQPのいずれかが販売できる医薬品。「Frontline Combo」、「Advocate(猫・犬用)」、ノミ・ダニ予防薬など。
  • ④AVM-GSL(Authorised Veterinary Medicine – General Sales List):誰でも購入できる一般動物用医薬品。シャンプー・ビタミンサプリ、一般用のノミ取りシャンプーや消毒剤、軽度皮膚炎用クリームなど。

SQPになるには、VMDが認定した課程を修了する必要があります。主な認定教育・試験機関としては、AMTRA(Animal Medicines Training Regulatory Authority)、VetSkill、およびHarper Adams Universityなどがあり、習得内容は獣医医薬品法、動物の生理学・疾病・衛生管理、医薬品の正しい保管・記録・販売手順、動物種ごとの薬剤安全性(犬・猫、馬、反芻動物、家禽など)、飼い主・顧客への助言スキルなどに及びます。合格後、VMDが承認する専門職登録簿(Professional Register)に登録されて初めて、法的にSQPとして活動できます。

日本では承認されている動物医薬品が少ないため、適用外使用が当たり前との感覚をもっておりましたが、英国で獣医師として働くことができたからこそこのようなシステマチックな仕組みや考え方を知ることができ、獣医師としての知識の幅が出たと実感しています。

Q16.日本と英国におけるペット文化の違いを教えて下さい。

英国は、世界の中でも特に動物福祉(Animal Welfare)意識が高い国のひとつであり、動物種を問わず、ペットは「家族の一員」として位置づけられ、人々の生活に深く溶け込んでいます。

法制度の面でも日本との違いは明確で、動物福祉法(Animal Welfare Act 2006)では、動物の「生涯福祉責任(Duty of Care)」を法的義務として明文化し、動物の輸送に関する福祉規則(Welfare of Animals Transport Order 2006)においては動物の移動・輸送に関する厳格な基準が定められています。

さらに英国は、世界で最も歴史と影響力を持つ動物福祉団体、動物虐待防止王立協会(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals、RSPCA)の本拠地でもあります。

RSPCAは民間の慈善団体でありながら、警察や自治体と連携して動物虐待現場への立入調査や介入を行うことが可能で、その影響力は準公的機関に匹敵する特別な存在として、国内外から高く評価されています。

・犬・猫関連

犬を連れてレストランやホテルに入ることはごく普通で、地下鉄やバスなどの公共交通機関でも同伴が可能です。職場に犬を連れて出勤する人も多く、散歩や食事のために中座することも社会的に許容されています。

医療面は高度な治療を希望する飼い主が多く、二次診療施設や夜間救急病院が整備されており、サービスも充実していますが、経済的に困難な人のために、チャリティによる無料または低料金の動物病院も多数存在します。

犬・猫の保護・譲渡活動(リホーム)も非常に盛んで、英国全体が動物福祉への高い意識に支えられた「ペット先進国」といえるでしょう。日本のような「ペットショップでの生体販売」はほとんど存在せず、動物を「所有するもの」ではなく「共に生きるパートナー」として位置付ける文化が広く浸透しています。ブリーダーにはライセンス制が導入され、繁殖環境や販売方法が厳しく監督されています。

例えば、Dogs Trustという英国最大の犬福祉団体は、すべての犬種を対象に、「救助 → 治療 → 心理ケア → トレーニング → 譲渡」という洗練された一貫体制のもと、年間約1万4千頭以上の犬を保護しています。

また、高齢犬・集団飼育犬・虐待犬などを対象とした専門ケアチームの設置、海外(ルーマニア・アイルランド等)からの救出支援、学校教育や動物福祉啓発活動など、その活動は多岐にわたります。こうした取り組みは国際的にも高く評価され、多くの国が参考モデルとして注目しています。

その他、英国には「禁止犬種制度」があり、ピットブル・テリア、土佐犬、ドゴ・アルヘンティーノ、フィラ・ブラジレイロの4犬種は飼育・繁殖・販売が法律で禁じられています。

・馬関連

馬文化に関しても、日英で顕著な違いがあります。日本で馬は主に産業動物として認識されるのに対し、英国では伴侶動物や家族の一員として扱われることが多く、乗馬などのレジャー文化も庶民層に広く浸透しています。

また、競馬も単なる賭け事ではなく、社交場や家族・友人が時間を共有する機会(誕生会や結婚記念パーティーなど)、地域のイベント(お祭り)としての一面もあり、英国の生活に深く取り込まれています。

英国では、動物福祉と文化的価値観が見事に融合し、人と動物の共生が社会全体に定着していると実感しています。

Q17.リホーム活動とはどんな活動でしょうか?

先に少し触れましたが、英国における動物福祉活動の中でも特に特徴的なのが、レースドッグ(主にグレーハウンド)のリホーム(引退後の譲渡・再飼育)活動が盛んなことです(写真14)。

国家レベルで登録された複数の慈善団体が活動しており、たとえば以下のような団体があります。

  • Greyhound Trust(1975年設立・英国最大・年間約4,000頭をリホーム)
  • Forever Hounds Trust(栄養失調・外傷・トラウマ個体に特化し、高齢犬のリホームやフォスター制度に積極的)

これらの組織はいずれも非常に高い認知度を誇ります。

Q18.リホーム活動は犬だけでしょうか?

競走馬のリホーム・再活用活動も世界最先端の水準にあります。

特に有名なのが、英国競馬界が統括する引退競走馬のリトレーニング(Retraining of Racehorses、RoR)です。これは、引退した競走馬の再調教(乗馬・障害・セラピー等への転換)および再譲渡を国家的に支援するアフターケアプログラムで、世界各国の競馬主催国にとって模範となっています。

なお、英国における競走馬リホームのベースには、レースドッグのリホーム活動モデルが参考にされてきた歴史があります。そのため、英国の競馬場では、レースドッグのリホームを支援するチャリティ団体が競馬開催時にPR活動を行っている姿も珍しくありません。

Q19.仕事のやりがいと大切にされていることを教えて下さい。

年齢を重ねるにつれ、やりがいや価値観は変わると思いますが、私の仕事の原動力は「人の役に立ちたい」「社会に貢献したい」という気持ちです。さらに、家族や大切な人の幸せに寄与する行動に、真の価値ややりがいを感じています。

Q20.今後チャレンジしたいことをあるいは目指すことは何でしょうか?

私は食べることが大好きで、人が食事を楽しむ姿を見ると何よりの喜びを感じます。そのため、昔から「料理人になりたい」という夢を抱いてきました。

趣味は料理と畑仕事で、自分の育てた野菜で調理することが日々の楽しみです。魚介類にも強い関心があり、現在もロンドンの「Billingsgate Market」(魚市場)に足を運んでいます。特に江戸前寿司が好物で、将来的には寿司職人として本格的に修業することが、私の小さな夢でありチャレンジです。

Q21.英国と日本の獣医療の架け橋を目指される獣医学生さんにメッセージをお願いいたします。

私が50歳を過ぎて英国で転職できたのは、これまで培ってきた専門性と経験のおかげと自己分析しています。

競馬におけるアンチドーピング・福祉の知識や薬物動態の研究歴、臨床獣医師としての実務経験が、変化の激しい環境でも力となりました。どの分野でも構わず、まずは「専門=強み」を意識してご自身を磨いて下さい。努力を続ける人のもとには必ず支えてくれる人が現れます。自分の殻に閉じこもらず、周囲の声に耳を傾ける姿勢が、新しい縁やエネルギーを引き寄せるはずです。

編集後記

ロンドン駐在員事務所長として赴任した後に、28年間勤務したJRAを2025年3月に早期退職され、Japan UK Veterinary & Business Services Ltdを設立された草野寛一先生にお話をうかがいました。

前編では会社業務の内容や具体的なビジネス例を、後編では英国獣医師免許や香港獣医師免許取得までの経緯や勤務されているロンドンのペットクリニックの概要、英国の動物薬に関する制度、日本と英国におけるペット(小動物・馬)に関する文化の違いをまとめました。

小動物分野では、英国で暮らす日本人の方々を対象に、ペットの健康相談やセカンドオピニオン、治療選択肢の提案など、日本語で安心して相談できる環境を提供しています。また、OCQ(V)-SXの資格を取得されていることを強みとして、犬・猫の日本帰国や英国からの輸出に必要な検査・書類作成などもサポートしているのも特筆すべき点でしょう。

馬関連の分野では、英国でのレジャーホース診療のほか、教育・人材育成・研究コンサルティング、ビジネスコンサルティング事業を行われています。

奥様である知子様(獣医師)の力も大きく、草野先生が専門性を生かして実務面を支え、奥様が生活面や管理業務を担うことで、幅広いサポートを提供できる体制を整えていることがとても素晴らしいと思いました。

海外において日本人駐在員が多い国の中で第6位が英国です(64,970人)です。日本人駐在員にとって草野夫妻の活動はどんなに心強いことでしょう。

草野先生の英国獣医師免許取得までのステップは、今後、英国獣医師免許取得を目指す人たちにとても参考になります。

また、獣医医薬品庁によるカスケード制度は、 かなり画期的な制度であり、英国獣医師の診療時における動物用医薬品に関する裁量権が日本に比べて広いと思いました。日本において届出伝染病であるウサギ粘液腫症とウサギ出血病に対するワクチンが日常的に英国で使用されているとのことですが、日本でもこのワクチンが必要になる日がくるかもしれません。

犬・猫の保護・譲渡活動(リホーム)、ブリーダーのライセンス制、引退競走馬のリトレーニングなど世界の中でも特に動物福祉の意識が高い国の英国の実例も紹介いただきました。動物種を問わず、ペットが「家族の一員」として位置づけられ、人々の生活に深く溶け込んでいることはとても印象的でした。

今後、日本と英国の架け橋となるビジネスサービスがますます発展されることを祈念いたします。

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シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」