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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(32)ボストン大学 公衆衛生大学院 グローバルヘルス学科 アシスタントプロフェッサー 塩田佳代子先生

2026-06-15 15:03 掲載 | 前の記事 | 次の記事

写真1、写真2(写真提供:塩田佳代子先生)

写真 写真3 CDC勤務時代(写真提供:塩田佳代子先生)

写真4 イェール大学にて 2人のお子様と共に(写真提供:塩田佳代子先生)

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

国内外の各分野で活躍されている獣医師の先生方の取材記事を掲載しています。厚生労働省に勤務されている獣医師の仕事について知りたいとの要望があり、厚生労働省獣医系技官の3人の先生にインタビューを行いました。

その後ワンヘルスや人畜共通感染症に関する公衆衛生学分野で海外活躍されている獣医師の先生方にインタビューをして欲しいとの要望がございました。

第1回目は戸上絵理先生でした。今回、第2回目として、ボストン大学 公衆衛生大学院 グローバルヘルス学科 アシスタントプロフェッサーの塩田佳代子先生にお話をうかがいました。

(取材日:2026年5月3日)。

Q1.東京大学に入学され獣医師を目指された理由を教えてください。

私は小学生の頃に南アフリカ共和国のヨハネスブルグに3年間住んでいました。その際、それまで育ってきた日本との違いにとても強い衝撃を受けました。言葉や人種はもちろん違いますし、子どもながらに差別も感じ、公衆衛生や医療制度の違いも日々感じました。そして家畜や野生動物が身近にいる環境にも大きく刺激を受けました。

そんな日々の中で、「将来は人の健康だけでなく、動物の健康や環境保全にも関わるような仕事をやってみたいな。いろんな国で働いてみたいな」と漠然と思うようになり、獣医師になることができる大学を目指しました。

Q2.どのような学生生活を過ごされましたか?

大学では臨床病理の研究室に所属して大学病院で臨床を勉強し、東京大学医科学研究所でジステンパーウイルスの研究を行いました。

部活は、小さい頃から打楽器が趣味だったので、東京大学音楽部管弦楽団に所属していました。

あとはWOAH(旧OIE)のインターンシップをしたり、スコットランドにあるエジンバラ大学などに2週間滞在したりしました。非常に充実した6年間を過ごすことができ、とても感謝しています(写真1)。

Q3.大学時代の授業で一番影響を受けた講義は何でしょうか?またその理由を教えてください。

小さい頃の南アフリカでの経験をもとに獣医師を目指したのは良かったのですが、進学してしばらくしてから「日本の獣医師免許は他の国では使えない」という重要なことに気がつきました(笑)。いろんな国で働いてみたいと思っていたので、結構悩みました。

そんなとき、獣医公衆衛生学や公衆衛生学の授業を通して、WHOやWOAH(旧OIE)、FAOなどを通して世界を舞台に働いている獣医師がたくさんいることを知ることができ、公衆衛生学が卒業後の進路の選択肢の一つになりました。

Q4.学生時代に、OIEアジア太平洋地域事務所にインターンとして勤務された理由、きっかけを教えてください。

前述の授業でWOAH(旧OIE)について学び、将来ぜひ働いてみたいと憧れるようになったことがきっかけです。

幸運なことにWOAHの事務所が東京大学農学部キャンパスにあったため見学に行き、さらに憧れが強くなり、インターンに応募しました。実際にたくさんの国の代表が集まる会議のお手伝いを行うことができ、大変貴重な経験になりました。

少し余談なのですが、将来いろいろな国で働いてみたいと思っていたので、卒業後はすぐに海外に行って経験を積もうと思い、留学についていろいろ調べていました。その中で、米国やヨーロッパの大学院に進学するためには、学部時代のインターンの経験などが高く評価されることを知りました。

日本ではあまりそういう傾向はないと感じていたので、全く経験がなく焦りました。WOAHでの経験はそういう意味でもとても貴重で、とても感謝しています。

Q5.2012年に大学を卒業後、渡米され2014年にジョージア州アトランタのエモリー大学で疫学の公衆衛生学修士を取得された理由、きっかけを教えてください。

南アフリカに住んでいた頃から、将来はいろいろな国で働いてみたいと漠然と思っていたので、なるべく早く海外に出て経験を積みネットワークを築いて仕事に繋げよう、と考えていました。

「このまま同じ大学で博士課程に進むのではなく、自分がどこまでできるのか、海外でどこまで通用するのか試してみたい」というチャレンジ精神も強かったと思います(写真2)。

Q6.留学に当たりどんな奨学金プログラムを活用されましたか?

出願資格がある奨学金プログラムには全てアプライしました。結果的に日本学生支援機構の貸与型奨学金と、平和中島財団の給付型奨学金を頂いてエモリー大学に留学しました。

イェール大学での博士課程時代は船井情報科学振興財団から奨学金を頂きました(船井情報科学振興財団「事務局ニュース」)。

Q7.エモリー大学でどのような事を学ばれたのでしょうか?また、公衆衛生学修士を取得されたことは次のステップにどのように役立ちましたでしょうか?

疫学や生物統計の基礎を徹底的に叩き込んでいただきました。エモリー大学は公衆衛生大学院の中で現在全米2位で、規模も大きく、リソースも豊富で本当に充実した2年間を過ごしました。

エモリー大学で学んだスキルは卒業後すぐに活かすことができました。今でも授業の資料を大切に保存しています。当時はPDFなどでのスライドの配布はあまりなく、印刷された資料が配られるかノートをとる形でしたが、全部大切にとってあり、付箋を貼って仕事中にしょっちゅう見直していました。

Q8.CDC(米国疾病予防管理センター:Centers for Disease Control and Prevention)での2年間は、どのような研究や業務に従事されていたのでしょうか?

本当にさまざまな業務を担当しましたが、主に3つの柱を中心に仕事を行いました。

感染症サーベイランス、アウトブレイク対応、感染症疫学研究です。

サーベイランスでは、たとえばNORS(National Outbreak Reporting System)の管理・運営をしたり、新しい全州サーベイランスの立ち上げに関わったりもしました。

アウトブレイク対応では、ノロウイルスのアウトブレイクに対応したり、西アフリカのエボラウイルスのアウトブレイク対応に関わったりしました。

感染症疫学研究ではケニアでの下痢症のプロジェクトを担当したりしました。

CDCで働くのはずっと憧れで夢だったので、ポジションを頂けたときは本当に嬉しかったです。そしてCDCでの2年間で学んだことは何にもかえがたく、本当に夢のような時間でした。CDCを離れたあともずっとさまざまな形で共同プロジェクトを進めています(写真3)。

Q9.NORSとは何でしょうか?

NORSは、CDCが管理する、米国全土の食中毒や感染症のアウトブレイク(集団感染)データを収集するウェブベースの報告システムです。

州や地方の公衆衛生局が、食品、水、人から人への接触などによる疾患データをCDCに報告するために利用しています。

Q10.2020年にイェール大学で微生物疾患の疫学の博士号を取得された経緯を教えてください。

CDCでの経験は、私にとって「現場の公衆衛生」を深く理解する大きな機会になりました。実務を通じて学べば学ぶほど、「より高度なスキルを身につけたい」「自分にできることの幅を広げたい」という思いが強くなり、博士課程への進学を決意しました。

特に決定的だったのは、西アフリカでのエボラウイルスのアウトブレイク対応に携わっていた時の経験です。日々自分が入力していたデータが感染症の数理モデルに組み込まれ、「複数の介入策の中でどれが最も効果的か」をシミュレーションによって比較し、その結果が実際の政策判断に活用されていたということを知りました。

この経験を通じて、データが意思決定に結びつくプロセスに強い関心を持ち、数理モデルを体系的に学びたいと考えるようになりました。そこで、感染症の数理モデリングに強みを持つ大学院をいくつか受験し、その中からイェール大学への進学を決めました(写真4)。

Q11.イェール大学ではどのようなことを学ばれたのでしょうか?

ベイズ統計や機械学習、感染症伝播モデルなど、修士課程では十分に深められなかった分野を中心に学びつつ、研究に集中的に取り組みました。

Q12.微生物疾患の疫学の博士号を取得されたことで、次のステップに進む上でどのように役立ったのでしょうか?

イェール大学で学んだことをもとに、博士課程進学のきっかけとなった「データを用いて政策に貢献する仕事」を、まさに現在の職務として実現することができています。

博士課程で習得した疫学、統計学、数理モデリングのスキルは、感染症対策の効果を評価したり、政策立案に資するエビデンスを創出したりする上で不可欠であり、日々の研究やプロジェクトに直結しています。

また、「いろいろな国で仕事をしたい」という夢も実現することができ、これまで30ヵ国以上で仕事をしてきました。

Q13.米国大学院生の時はWHOのタイ事務所でインターンの経験をされましたが、その経緯を教えてください。

米国の公衆衛生大学院修士課程ではプラクティカムが必修で、在学中に公衆衛生機関で200〜240時間実務経験を積むことが卒業要件に入っています。そこで私はぜひWHOでインターンをしてみたいと思い、応募しました。

Q14.現在、ボストン大学公衆衛生大学院グローバルヘルス学科のアシスタントプロフェッサーですが、大学院ではどのような業務をされているのでしょうか?また何故ボストン大学を選ばれたのでしょうか?

主に研究・教育・社会貢献の3つの柱で活動しています。

研究面では、感染症疫学やワクチンの効果評価、気候変動と感染症の関係などをテーマに、国際共同研究を含むさまざまなプロジェクトを主導しています。特に、実世界データを活用した政策評価や、数理モデルを用いた感染症対策の検討に力を入れています。

教育面では、感染症疫学、モデリング、One Healthに関する講義を担当し、次世代の公衆衛生人材の育成に取り組んでいます。

社会貢献の面では、国際機関や各国の研究者と連携しながら、研究成果を実際の政策や現場に還元することも重要な役割の一つです。

ボストン大学を選んだ理由としては、グローバルヘルス分野における強い研究基盤と、多様な専門性を持つ研究者との連携環境に魅力を感じたためです。

特に、Center on Emerging Infectious Diseases(CEID)があり、感染症に関する学際的な研究を推進できる環境が整っている点が大きな魅力でした。

また、BSL-4施設を有するなど、高度な感染症研究を支えるインフラが整備されていることも、研究を発展させる上で重要な要素でした。

Q15.CEIDとは何でしょうか?

CEIDは、主にボストン大学(Boston University)に設置された、新興・再興感染症の脅威に対する社会のレジリエンス(回復力・頑強性)向上を目指す組織です。

感染症の疫学調査、政策提言、トレーニング、情報共有を通じて、世界的な公衆衛生の安全保障に貢献することをミッションとしています。

編集後記

公衆衛生学分野において海外で活躍されている獣医師である塩田佳代子先生にインタビューを行いました。

塩田先生にお話をうかがいたいと思ったのは、「JVM NEWS:国際的に活躍する獣医師を目指してインターン制度の活用を」と「君の東大:東大卒業後の進路【疫学研究者】-卒業生のいま(4)」の2つのWebページを見たことがきっかけです。

塩田先生は、さまざまな国で学ばれ、仕事をされています。東京大学で学位を、米国のエモリー大学で公衆衛生学修士号を、そしてイェール大学で微生物疾患の疫学の博士号を取得されています。

修士号を取得後、米国連邦政府機関であるCDCで感染症疫学者として2年間勤務され、国内外の感染症アウトブレイク(特定の場所や期間で感染者が増加すること)への対応、サーベイランス(感染症の発生状況や変化を監視する活動)の設置や運営、疫学調査などの経験を積み、病院・市・州・国がどのように連携してデータを収集・解析し、感染症の効果的なコントロールや政策決定につなげているのかを現場で勉強されています。このように集められたデータをより効果的に使うため、統計的・数理的解析手法をより深く勉強したいと思われ、イェール大学の博士課程に進学されました。

現在のボストン大学においては、公衆衛生大学院グローバルヘルス学科アシスタントプロフェッサーとして研究・教育・社会貢献の3つの柱で活動されています。

塩田先生が、ステップアップしてキャリアを重ねられるにあたり、常に最良な選択をされ、その選択を実施するにあたり明確な理由や着実なるアクションをされていることは特筆すべき点だと思います。このような行動や考え方も東大時代に培われたのではないかと思います。

塩田先生自身も『東大に進学したことで、将来の選択肢が増え、夢が広がったと実感しています。「獣医師として国際的な仕事がしてみたい」という小さい頃の漠然とした夢を、東大で授業を受けたり、教授や先輩方と相談したりすることで、現実的で明確なステップに落とし込むことができました。また、学部生のうちから、各分野の権威である教授たちと日夜実験をし、議論をさせていただけたのは本当に貴重な経験でした。「こういうことをやってみたい」と意思表明すると、教授や先輩方はそれを実現するために何をすべきか、誰と話したら良いかのアドバイスをくれました。ありきたりですが、同級生とは悩みを共有し、刺激を与え合う貴重な毎日を過ごすことができました。東大には、夢を実現するために自分のやりたいこと、やるべきことに没頭できる環境が整っていると思います』と語られています。

今回は大学卒業後、公衆衛生分野でどのようにご活躍されているかを中心に紹介いたしました。第二弾として米国における子育てを中心とした話を紹介したいと考えています。塩田先生は、ハーバード大学小児精神科医の内田 舞先生と共に『仕事をしながら母になる』という本を株式会社KADOKAWAより2025年2月に出版されています。

動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。

シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」