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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(11)~共立製薬株式会社 御手洗すみれ先生

2025-06-09 16:34 掲載 ・2025-06-09 17:35 更新 | 前の記事 | 次の記事

写真1

写真2、写真3、写真4、写真5、写真6

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

国内外の各分野で活躍されている獣医師の先生方へのインタビューを開始し、前回はエキゾチックアニマルの診療をされている戸﨑和成先生の記事を掲載しました。

今回は、動物用医薬品メーカーに勤務されている獣医師の第5回目として、共立製薬株式会社ワクチン開発部水産ワクチン課 御手洗すみれ先生(獣医師)、ワクチン事業本部 川上和夫先生(獣医師)を中心に、ワクチン事業本部長 久保田 整先生(獣医師)、ワクチン事業本部ワクチン開発部長 高野良子先生(農学博士)の4名(写真1)にお話をうかがいました。

(取材日:2025年2月12日)。

Q1.共立製薬株式会社の概況とセールスポイントを教えてください。

動物用医薬品メーカーとして獣医療を支えるべく、ワクチンや医薬品、食事療法食、介護用品など、予防・治療・日常ケアに関わる幅広い製品を提供しています。

例えば、水産分野では、ワクチンだけでなく、「ムシオチール」や「スポチール」などの駆虫薬やウナギ向けの混合飼料である「ソイビーナス」といった多岐にわたる製品群を販売しています。

また、その他にも、ペット領域での取り組みとしてマイクロチップの普及活動、小動物臨床獣医師へ学術的・技術的情報を提供するWebメディア「SAC(Small Animal Clinic)NAVI」の運営、畜産分野ではHACCPの導入支援や、飼養衛生管理や臭気対策など生産現場に役立つコンテンツを発信するWebメディア「畜産ナビ」の運営など、獣医療だけでなく、人と動物の暮らしを包括的にサポートするようなサービスも提供していることが当社の特徴と思います。

Q2.先端技術開発センターの概要を教えてください。

先端技術開発センターでは、主に生物学的製剤の製造・品質管理や新規製剤の研究開発を行っています。当社の生物学的製剤の品目は、動物種や病原体の種類が多岐にわたっており、製剤ごとに製造法や検定法が異なることから、幅広い知識や専門性を持った職員が業務に従事しています。

Q3.共立製薬株式会社が目指すものは何ですか?

「動物と人の進む道を創る」というミッションを掲げ、動物と人と環境が調和する持続可能な社会を目指しています。そのために、高度な医薬品を提供することはもちろんのこと、医療・医学分野だけでなく、衛生用品、ペットオーナーや生産者の立場を考えた多種多様なサービス提供並びに情報の発信を通じて、動物と人の暮らし全体をサポートしていきます。

Q4.獣医師が会社で担当されている仕事の概要を教えてください。

研究開発部門、薬事部門、学術部門や臨床病理部門など、獣医師が担当する業務は多岐にわたっています。

  • 研究開発部門:新規製剤の基礎研究から実製造化、臨床試験など承認申請まで幅広い開発段階の業務を担当
  • 薬事部門:製剤の各種申請に関わる対応を担当
  • 学術部門:当社製剤に関する問い合わせの対応や営業支援、一般の方に向けて動物の病気などに関する情報発信を担当
  • 臨床病理部門:当社営業を通して顧客から依頼される検体の診断業務を担当

私、御手洗自身は水産用医薬品の研究開発担当として、これまでに、新規製剤の基礎研究や、実製造法の検討、販売後使用成績調査や臨床試験など、様々な業務に携わってきました。

このように研究から製造移管、承認申請から販売後使用成績調査といった、製剤が生まれてから形になる一連の工程に携わることができる点が当社研究開発の特徴と思っています。

Q5.御手洗先生は、入社されてから僅か5年の間に水産用医薬品の研究開発担当として多岐にわたる業務を経験されていますが、短期間の間にどのようにして実務経験を積まれたのでしょうか?

当社の研究開発担当は1つのプロジェクトのみ推進するのではなく、同時進行で複数のプロジェクトを推進しているので、短期間の間に多岐にわたる業務が経験できたのではないかと思います。また、当社の研究開発担当は、社歴に関係なく、様々な業務に挑戦させてもらえる環境であることも一因と考えます。

Q6.御手洗先生が入社後、獣医師として思い出に残る出来事、残念だった出来事を教えてください。

・思い出に残る出来事

水産用ワクチンの野外試験を担当した際、当社製品を使って良かった、昨年より生産効率が上がったと喜びのコメントをいただけた時が一番印象に残っています。

製剤一つでも食用動物のより安定した生産に繋がり、より大きな利益を生産者にもたらすことができると知り、自身が携わる仕事の影響力の大きさから、責任とやりがいを実感する出来事でした。もっと良い製品を出そうという日々の業務へのモチベーションにも繋がっています。

・残念だった出来事

試験用の魚を自ら養殖場に受け取りに行って、飼育管理をしたものの、病気や共食いなどで大部分が消耗してしまったことです。

日々減耗していく魚を見てもなすすべなく、生産現場の方の足元にも及びませんが、生き物を飼育することの難しさを痛感した出来事でした。現在は、この失敗から、試験用の魚の状態を日々観察し、適切な管理によって良好な状態を維持できるよう務めています。

Q7.残念だった出来事の失敗体験から、試験用の魚の状態を日々観察し適切な管理をされたということでしたが、具体的にどんな管理をされているのでしょうか?

日々、魚の状態を観察し、疾病発生の兆候を迅速に発見できるように気を付けています。その他、餌の量や与えるタイミングを微調整しながらコントロールを行い、共食いによる減耗を抑える努力をしています。また魚の飼育密度にも注意しています。

Q8.水産用ワクチンの国内シェアはどのくらいですか?

水産用ワクチンの国内シェアは8割以上です。

Q9.水産用ワクチンの開発の経緯や特徴について教えてください。

2000年代に発売されたⅠ型α溶血性レンサ球菌症に対するワクチンでは防御できないⅡ型α溶血性レンサ球菌症(Ⅱ型レンサ)に対処すべく、当社では2016年に「ピシバック 注 レンサα2」を上市しました。また、魚体サイズに比例して感受性が高くなるというⅡ型レンサの傾向に対応するため、オイルアジュバントを添加することで免疫持続期間の長期化が期待できる「ピシバック 注 5 oil」(写真2、右端)が開発されました。

「ピシバック注 5 oil」には次の特長があります。

  • ブリのⅠ型α溶血性レンサ球菌症、Ⅱ型α溶血性レンサ球菌症、J-O-3型ビブリオ病、類結節症及びイリドウイルス病の予防(国内初のオイルアジュバント添加5価不活化ワクチン)
  • オイルアジュバント添加による免疫持続効果の長期化

Q10.「ピシバック」の名前の由来を教えてください。

ピシは、ラテン語で魚(piscis)、バックは(vaccine)を意味します(写真2)。

Q11.「ピシバック注 5 oil」に含まれている、イリドウイルス感染を防御する為の製造用イリド株は「マダイイリドウイルス YI-717株」と記載されていますが、マダイ由来株ですか?

「ピシバック注 5 oil」(対象魚種:ブリ)はブリ由来イリド株、「ピシバック注 イニエ+イリド」(対象魚種:マダイ)はマダイ由来株となっており、それぞれ、製剤の対象魚種から分離されたウイルス株を製造用株として使用しています。

原因ウイルスの名前自体がマダイイリドウイルス(red sea bream iridovirus, RSIV)なのでややこしいのですが、ブリ由来であってもマダイイリドウイルスと表記されます。

Q12.海外に輸出している水産用ワクチンはありますか。またどんな国に輸出していますか?

PISCIVAC Irido Si」をシンガポールとベトナムに輸出しています。

対象疾病はβ溶血性レンサ球菌症及びイリドウイルス病で、対象魚種はアジアンシーバスとバラマンディ(スズキ目アカメ科)です。シンガポールでは2017年10月23日に、ベトナムでは2019年3月27日に承認されました。

Q13.今後どんな水産用ワクチンが必要と思われますか?

現行の国内ワクチンは注射ワクチンが主流となっています。しかし、稚魚などの極端に小さいサイズや逆に2歳魚など大きいサイズになると、注射によるワクチネーションでは作業性に課題があります。そのため、経口や浸漬投与など、注射よりも簡便な投与方法を模索することが必要と考えます。

また、現在、国内の水産用ワクチンの剤型は不活化ワクチンのみですが、未だ有効なワクチンが存在しないような一部の病原体では、不活化ワクチンでは十分な予防効果を得られません。

そのため、こうした病原体に有効なワクチン候補として、海外ですでに承認されているような遺伝子工学を利用したワクチンや新規のアジュバントなどを検討していくことも必要と思います。

Q14.海外の水産用ワクチンで、日本にない特長的なものがありましたら教えてください。

日本の水産用ワクチンの剤型は不活化ワクチンのみとなっていますが、海外ではDNAワクチンや弱毒生ワクチンなど、不活化ワクチン以外の剤型も販売されています。伝染性造血器壊死症(IHV)に対するDNAワクチンなどが一例です。

ワクチンの多価化も日本よりも進んでおり、ノルウェーではサーモンを対象としたワクチンにおいて、7種混合ワクチンが開発されています。

韓国では、日本で未承認のヒラメのVHS、エドワジエラ症やストレプトコッカス・パラウベリス感染症(血清型3種)に対するワクチンが上市されています。

Q15.水産用ワクチンゆえの臨床試験の難しさ、開発で苦労された点は何ですか?

野外での試験では、陸上の室内で飼育されている動物種とは異なり、台風などの悪天候や試験対象となる疾病以外の病気が発生するなど、試験の継続に影響しうる予測し得ない事象が頻繁に起こることが難しい点と感じています。

そうした事象が発生した際は、実施施設である養殖場の生産計画も優先しながら、信頼性のある試験成績を取得するためにはどう対処すべきか、養殖場の方と齟齬がないよう、よくコミュニケーションを取りながら試験を進めていくことが重要となります。

特に、注意しているのは、疾病の発生時の対応です。例えばワクチンの臨床試験では、ワクチン効果を対照群とワクチン群間の疾病による死亡率で評価することがあります。有効性評価のためには、対象となる疾病の確定診断が必須となりますが、一方で、病気が発生したタイミングを見誤れば、治療が遅れ、特に対照群での斃死が抑えられなくなる可能性が高くなります。

そのため、疾病が疑われるような場合は、死亡魚の回収状況や菌分離結果、PCR陽性率などの連日の検査状況、その他の臨床症状など、養殖場の方としっかりと情報共有しながら、試験の進め方を迅速に決定していけるよう心がけています。

Q16.野外臨床試験を実施する上で、「養殖場の方と齟齬がないよう、よくコミュニケーションを取りながら試験を進めていくことが重要となります」とお話しされていますが、具体的にどんなコミュニケーションを取られているのでしょうか?

試験の実施施設のリーダーを通じて情報交換する場合もありますし、実務担当者と直接コミュニケーションを取る場合もあります。各養殖場によって体制も違いますので、実施する施設ごとに、情報が正しく、迅速に伝わる方法で対応しています。また、魚の疾病や飼養管理のことなど、実施施設から問い合わせがあった際は、迅速かつ丁寧に返答するように心がけています。養殖場の方が当社へ連絡する際のハードルを少しでも下げられればと思っています。

Q17.御社の研究開発は、野外試験を含めて生産現場などフィールドを重要視した研究開発に思えますが、これは会社の方針によるものでしょうか?

そうです。当社は単に研究所内にこもって研究開発を推進するのではなく、生産現場にどんどん訪問して研究開発を推進・実施するポリシーです。

そのようなことを実践することにより、より現場のニーズに則した製品開発ができるのではないかと考えております。また、それが当社の強みではないかと思います。

Q18.養殖場の方を含めた生産現場の方々を対象に、何か情報を発信されていますか?具体的にどんな情報をどんな媒体を通じて発信されていますか?

Webメディア「畜産ナビ」を発信しています。具体的な例を以下に挙げます。

Q19.近年養殖場で話題となっている疾病のひとつであるⅢ型α溶血性レンサ球菌症の発生状況を教えてください。

Ⅲ型α溶血性レンサ球菌症の発生件数に関する資料は、農林水産省のWebサイト「水産動物の病気を防ぐために(水産動物の衛生及び水産動物の感染症について)」のWEBページに掲載されている「水産動物の疾病に関する情報-新たな型と思われるα溶血性レンサ球菌に関する調査結果」をご参照ください。本疾病は特にシマアジで被害が出ています。

当社では、この疾病に対応すべく、Ⅲ型α溶血性レンサ球菌症の抗原を含む「ピシバック注 レンサα3 oil」を上市しました(2025年3月21日承認)。

ワクチンの使用により、被害拡大が抑えられることを期待します。

Q20.水産用ワクチン以外で水産用駆虫薬である「スポチール200」(ブリのべこ病対策)の製品特長を教えてください。

ベンズイミダゾール系駆虫薬アルベンダゾールが主剤です。微胞子虫Microsporidium seriolaeによるシストの形成を抑制します。M.seriolaeに感染した魚に投与することで、効果的にシスト形成を抑制し、生産性の向上に貢献します。

室内試験では、各群74尾(開始時平均体重:約3g)を室内導入(水温20℃)2日後に、アルベンダゾールとして、20mg/kg魚体重となるよう、3日間又は5日間連続投与し、投与終了後1か月間飼育し、シスト形成の有無を確認しました(写真3)。

Q21.「スポチール200」の名前の由来を教えてください。

スポは、微胞子虫Microsporidiumのspoが由来です。チールに関しては、虫が落ちるということにちなんで名づけられた、当社、先行販売品の外部寄生虫駆除剤「ムシオチール」のチールに関連づけたものです。200は、本品1g中に有効成分であるアルベンダゾールが200mg含有しているからです(写真4)。

Q22.養殖場の魚病予防対策において研究会や学会などに入られていますか?

当社のワクチン開発部長の高野良子が、農林水産省が主催する魚病対策促進協議会の委員の1人で、水産用医薬品メーカーのメンバーの1人として参画しています。加えて、日本魚病学会の大会には毎回参加し、国内の魚病動向について迅速な情報入手を心がけています。また、当社営業を通じて、顧客から魚病診断の依頼を受け付けており、魚病診断結果については「畜産ナビ」に投稿し、社外にも情報提供をするなど、魚病対策の促進に少しでも貢献できるよう努めています。

Q23.今後、養殖現場において重要となる水産獣医師の育成についてどう思いますか?

水産獣医師の育成に関して、ポイントは数多くあると思いますが、学生から就職を通じた自身の経験から、「水産獣医師としての役割(雇用)」と「実務を想定した教育体制の整備」が重要ではないかと思っています。

私、御手洗が在学していた時代は、実際に水産獣医師としての具体的な役割や雇用を知る機会が乏しくイメージしづらかったため、獣医学生からすると、水産獣医師がキャリアの選択肢として浮上しづらいのではと感じています。

つまり、まず、育成以前に、水産分野に参入しづらい状況にあることが課題ではないかということです。この点は、実務経験を積んでいる水産獣医師のキャリアに関する情報発信や、国内における水産獣医師の役割(雇用)について行政や企業が体制を考える機会があってもよいのではないかと思っています。

また、就職してからは、水産分野に対する知識・経験が圧倒的に不足しており、私自身は、実務を通して、これまで魚病・養殖分野で従事してきた方々の支援のおかげで、徐々に養殖や魚病を学ぶことができています。同様の環境がどの程度整備されているのかはわかりませんが、水産獣医師を目指す人と水産分野の専門家をつなぐ、実務を想定した教育環境が整備されると、より育成も進むのではと考えます。

Q24.牛乳房炎ワクチン「スタートバック」の製品特長を教えてください。

日本初、国内で唯一承認されている乳房炎ワクチンです(写真5)。

黄色ブドウ球菌(CP8)SP140株の不活化菌体と大腸菌J5株の不活化菌体が含まれており、黄色ブドウ球菌、大腸菌群及びコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)による臨床型乳房炎の症状の軽減に効果を示します。

Q25.「スタートバック」は2016年に発売されてから9年が経過していますが、蓄積されたデータによる使用例などの情報発信をされていますでしょうか?

「畜産ナビ」に掲載してある「スタートバックを知る 2.乳房炎ワクチンの効果~北海道での事例~」をご覧ください。

Q26.「鶏サルモネラ不活化3混・KS」の製品特長を教えてください。

油性アジュバント加不活化ワクチンで、3種類のサルモネラ(Salmonella EnteritidisS.TyphimuriumS.Infantis)の腸管内への定着を軽減します(写真6)。

1回の注射で1年間免疫が持続します。注射量は1羽当たり0.25mLで鶏への負担が低減されています。

ワクチン開発の際、有識者の先生方からのアドバイスにより3種類のサルモネラ菌を含みました。

採卵鶏のワクチネーションプログラムは、MD、ND、IB、ILT、IBD、MG、MSなどいろいろな鶏の病気に対するワクチンを接種する機会が多いので、なるべく1回の摂取量を少なくし、鶏への負担軽減をはかりました。

Q27.御手洗先生が今後チャレンジしたいことは何ですか?

まずは、新規水産用医薬品の開発・上市です。加えて、水産分野に従事する獣医師として、病理組織学的検査を含む魚病の診断スキルの向上・社内における魚病検査体制の強化にチャレンジしたいと思っています。

Q28.今年は御社の創業70周年になりますが、新たに取り組む課題は何ですか?

創業70周年を迎えるにあたり、当社のミッションである『動物と人の進む道を創る』をより一層推進し、ペットも人も安心して暮らせる社会「ペットの社会化」や、持続的な畜水産業の実現に貢献していこうと考えています。

Q29.日本の開業獣医師に何かメッセージがありますでしょうか?

近年の気候変動、コロナ後の人の移動活性化等に伴い、今まで国内で発生がなかった疾病が認められるようになりました。当社といたしましては、現場の先生方と一緒にこの変化に対応し、常に現場で求められる物の創出、環境の提供をしていければと考えています。新規製品を開発・提供するにあたっては、現場での試験が必要となるものもあります。その際は先生方にご協力を仰ぐことになりますので、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

Q30.御手洗先生、今後御社に対して就職を希望する獣医学生への先輩としてメッセージをお願いいたします。

ありきたりなアドバイスかもしれませんが、進路で迷ったときは、何のためにその仕事に就きたいのか、何をして生活したいのかを掘り下げて、より具体的に想像してみるとよいかと思います。

あとは、もし実習などで学外の動物医療関係者と出会うことがあれば、繋がりを大切にしておくことをおススメします。狭い業界ですので、巡り巡って、その繋がりが生きることもあると思います。

Q31.動物用医薬品業界への貢献を含め、御社の活動をもう少し具体的に教えてください。

家族の一員である犬、猫が健康に暮らせるように、下記のような幅広い製品やサービスを提供しています。また、令和6年能登半島地震発生時には、環境省および石川県からの要請を受けて被災した犬・猫の情報サイト「被災犬猫保護情報掲載サイトを立ち上げ、1頭でも多くの犬・猫が飼い主と再会できるように活動するなど、当社ノウハウを生かし、人と動物のより良い未来を実現できるように活動しています。

  • 食事療法食、健康補助食品(サプリメント)やデンタルケア、スキンケア用品
  • マイクロチップの普及活動
  • 動物病院による保護犬・保護猫の譲渡活動(里親マッチングサイト『Veterinary Adoption(ベテリナリーアドプション)』)
  • 小動物臨床獣医師へ学術的・技術的情報を提供(「SAC(Small Animal Clinic)NAVI」)

また、食の安全を守るために、下記のような幅広い製品やサービスを提供しています。

  • ワクチン、抗菌剤、ビタミン剤、飼料添加剤などの提供
  • HACCPシステムの普及を推進
  • 農場の臭気対策(製品名:「エポリオン」)
  • 生産者に向けた情報発信(Webメディア「畜産ナビ」を運営)

編集後記

動物用医薬品メーカーに勤務されている獣医師の第5回目として、共立製薬株式会社の獣医師である御手洗すみれ先生と川上和夫先生を中心にインタビューを行いました。

同社を選んだ理由は、水産養殖の中で魚病疾病を予防する一つの対策として水産用ワクチンはとても重要な位置を占めており、その水産用ワクチンの開発・販売について長い経験を持っている会社だったからです。

今回、御手洗先生のお話のなかで特筆すべき点が2つありました。

まず1番目は、入社されてから僅か5年の間に水産用医薬品の研究開発担当者として多岐にわたる業務を経験されていることです。同社の研究開発担当者は1つのプロジェクトのみ推進するのではなく、同時進行で複数のプロジェクトを推進しているので、短期間の間に多岐にわたる業務が経験できたということです。また、研究開発担当者は社歴に関係なく、様々な業務に挑戦させてもらえる環境にあるということです。

2番目は、単に研究開発担当者が研究所内にこもって研究開発を推進するのではなく、生産現場にどんどん訪問して研究開発を推進・実施していることです。

これらを実践することにより、より現場のニーズに則した製品開発が可能となり、ブリのべこ病対策である「スポチール200」や、水産用ワクチンである「ピシバックシリーズ」などの素晴らしい製品が次々と発売できたのではないかと思います。

それが共立製薬株式会社の強みではないかと思いました。

先日、農林水産省から発出された「2024動物用ワクチン戦略中間取りまとめ」を読む機会を得ました。

そのP4の表1.「畜水産業の生産現場におけるワクチンの主な活用実績例」の中に水産用ワクチンのひとつである「α溶血性連鎖球菌症ワクチン(ブリ)」がありました。活用事例として、1980年代の当該疾病におけるブリの魚病被害額は100億円を超えていたが、1997年のワクチン販売開始後、被害額は半減したとの記載がありました。いかにα溶血性連鎖球菌症ワクチンの発売が日本の養殖業に貢献したかが良くわかりました。

今回のインタビューは、共立製薬株式会社の創業70周年となる節目のタイミングでした。さらに歴史を重ね、海外においては既に承認されているような遺伝子工学を利用したワクチンや新規のアジュバントの開発、被害金額が大きい魚の疾病を予防できるような魚ワクチンの開発を期待します。

動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。

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