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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(24)物産アニマルヘルス株式会社 寒川彰久先生:前編

2026-03-17 17:04 掲載 | 前の記事 | 次の記事

写真1 左側から吉田元信先生、筆者、寒川 彰久先生、小松忠人先生(大阪本社にあるbah 物産アニマルヘルスの入口前にて)

写真2 物産アニマルヘルス株式会社のコーポレートスローガンである「動物がうれしいと、人もうれしい。」を背景にして。このコーポレートスローガンは、動物の健康を支えることで、人々の笑顔あふれる暮らしに貢献するという理念を表している。

写真3・写真4・写真5・写真6・写真7・写真8

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

国内外の各分野で活躍されている獣医師の取材記事を掲載しています。前回は、厚生労働省に勤務されている獣医師へのインタビューを行いました。今回は、動物用医薬品メーカーに勤務されている獣医師の第6回目として、物産アニマルヘルス株式会社 経営戦略部 ポートフォリオ戦略グループマネージャー 寒川彰久先生、ポートフォリオ戦略グループ 吉田元信先生、開発部長 小松忠人先生の3名(写真1、写真2)の方々にお話をうかがいました。

(取材日:2025年7月2日)

Q1.御社の概況とセールスポイントを教えてください。

まず概況を。売上金額は57億円です(2024年度、富士経済調べ)。動物種別の売上割合は、コンパニオンアニマル78%、畜産動物22%です(富士経済調べ)。

主力製品は以下の通りです。

◆コンパニオンアニマル事業

ビクタスS製品群(フルオロキノロン系抗菌剤/経口剤、注射剤、外用剤のラインアップを品揃え)、アピナック錠/dsピモハート錠(循環器疾患治療を総合的にカバー)、コンセーブ錠(てんかん治療分野のトップランナー)、プロナミド錠(消化器疾患治療のパイオニア)、ステムキュア(本邦初の動物用再生医療等製品/椎間板ヘルニアの症状を内科的にケア、さらに適応症拡大が見込まれる)(写真3)。

◆畜水産事業

ビクタス注/水溶散(フルオロキノロン系抗菌剤/牛豚の感染症対策に必須)、ウルソ散/注(肝機能改善等/牛豚の利胆作用等に基づく生産性向上に寄与)、エクイバラン(馬の体内寄生虫駆除)/他に馬用製品が複数あり、馬市場では最大手です(写真4)。

◆診断支援事業

新規事業分野として、本邦でもユニークな「あにさぽ」システムを構築、採用を拡大中。さらに、院内で簡便に心電図を計測でき、必要に応じて専門的なコンサルティングを受けることができる「ハートチェック」の全国展開も開始。その他、検査受託機関と連携した心臓バイオマーカー(NT-proANP)や変形性関節症バイオマーカー(CⅡネオエピトープ)の検査(写真5)を展開するなど、治療や予防につながる検査事業の新規開拓にも注力していきます。

◆臨床検査事業

子会社として株式会社エム・エル・ティーを擁して、全国の動物病院を対象とした臨床検査を受託しています。事業内容は、動物の臨床検査、病理組織検査、ウイルス検査等であり、特に病理分野では高い評価を獲得しています。

セールスポイントは下記の点です。

養鶏業での治療薬からスタートし、水産用ピマリン、カルドメック、ヒルズ、ビクタス、エム・エル・ティー検査事業等、業界発展に重要な役割を果たしてきた自負があります。

  1. 会社の源流が医療用医薬品メーカー(旧大日本製薬)の一部門であり、動物用の製品といえども、ヒト医療用の研究開発・製造・販売の正道における矜持があります。特に提供する製品の「高品質」を徹底しています。
  2. 数少ない内資系メーカーとしての歴史と伝統。上記のポイントと同様、医療用医薬品会社のポリシーについて規制当局の信頼を自認しています。
  3. 月一回のフィラリア予防、犬猫用療法食の啓発、犬慢性心不全の治療薬、歯科領域の製品、非ステロイド系抗炎症剤、水産注射ワクチン(旧田辺製薬からの継承)、再生医療等製品…等、国内初となる製品の上市を実現。その後、競合他社の参画により、それぞれの市場が爆発的に拡大したが、そのトリガーは当社との自負です。
  4. 三井物産の100%子会社となったことで、今後は三井物産の持つリソースを活用し、今まで以上に海外とのパイプラインを拡充強化していく方針です。製品導入だけでなく国内開発製品の海外導出にも注力していきます。

Q2.海外事業の展開状況を教えてください

米国のメガファーマでオルビフロキサシンを用いた製品を製造、主に北米大陸で販売しています。米国での製品名はOrbaxです。

東アジアの複数国において、コンパニオンアニマル用の製品導出を準備中です。

ブラジルにおいて、三井物産が出資するオーロフィーノ社との協業を模索中です。

Q3.企業理念を教えてください。また、そのためにどのような行動をされていますか?

企業理念は「私たちは、科学の力で新たな価値を創造し、動物たちの健康を支え、人々の笑顔あふれる暮らしに貢献します」です。

日々の各部門の活動において、あらゆる行動の判断基準として徹底されるように社内教育が実施されています。

Q4.今後目指すものは何でしょうか?

研究開発型企業として、価値ある製品を提供し続けることです。

事業開始以来70余年で培ってきたアニマルヘルス事業を基盤として、三井物産グループの海外ネットワークを活用し、グローバルな製品等の提供により日本や世界のコンパニオンアニマルならびに畜水産業界の関係者の発展に貢献することを目指します。

不確実な時代の事業環境の中、食の安全安心と安定供給、食品ロス削減、ヒトのみならずコンパニオンアニマルも含めた健康・ウェルネス向上、エネルギー問題、気候変動等々、さまざまな使命や課題があり、当社は長年の事業活動で蓄積したアニマルヘルスの知見と製品群を関係者の課題解決に役立つよう、新たな価値創出をさまざまな「創造物」として提供を継続したいです。

そして、アニマルヘルス企業として、コンパニオンアニマルの家族、畜水産事業の生産者の方々の「笑顔あふれる暮らし」、動物のQOL向上とサステナブルな社会づくりの実現に貢献することを目標とします。

Q5.寒川先生を含め、御社の獣医師のスタッフが担当されている仕事の概要を教えてください。

◆研究開発

コンパニオンアニマルおよび畜産動物用の医薬品/検査機器等の研究開発企画、開発実務、承認申請、製品の市販後調査と再審査対応、国内外の開発候補品の探索、評価です。

◆学術

自社販売品の学術情報の啓発(適正使用の普及、新規な有用情報の発掘)、科学的に正当な情報(エビデンス)の構築と定着、年間3回の学術情報誌の発行です。

◆営業

獣医学的な専門性を踏まえた自社販売品の使用機会の拡大、臨床現場でのアンメット・ニーズの収集です。

◆検査

新規の検査方法の立案と創出、検査子会社(エム・エル・ティー)における検査等の実施と情報のフィードバックです。

Q6.寒川先生、小松先生、吉田先生が大学卒業後、獣医師として思い出に残る出来事、残念だった出来事について教えてください

◆思い出に残る出来事

  1. めったにあることではありませんが、当社の薬を使ったお陰で、飼い犬や飼い猫が助かった、と(涙ながらの)お礼の電話を飼い主さんから頂いたこと。治療された獣医師の力量が主因であることに間違いありませんが、そこに当社製品が貢献したことは単純に嬉しかったです。
  2. 動物用医薬品の開発において接する社外関係者が獣医師であることは珍しくありませんでしたが、親会社が変わり、アニマルヘルス事業として新規事業に関わるようになってから、関係先の担当から「生まれて初めて名刺に獣医師と書いてあるのを見ました!」と感激されました。世の中で獣医師は稀有と知りました
  3. ディープインパクトが凱旋門賞に出走する際、海外では既に個体識別用のマイクロチップの装着が義務付けられており、当社のライフチップが本邦でウマに使用されたのは同馬が最初でした。結果は残念でしたが…
  4. 2015年に大村智先生がノーベル賞を受賞されたこと。この時の主役のイベルメクチンは、当社にとっても今の会社発展のヒーローに違いなく、ノーベル賞の受賞理由に動物関連のことは多く報道されませんでしたが、ヒトのフィラリア症治療と並んで、世界中のイヌの長生きに最大貢献した化合物であること、それを最初に開発・上市した会社の誇りを実感しました。
  5. 前職が地方公務員獣医師でしたが、就職後間もなく国内で口蹄疫が発生、冬には鳥インフルエンザ、春には東日本大震災による稲わら汚染問題などがあり、今思うと家畜衛生の転換期でした。
  6. 1990年代後半に、沖縄県の美ら海水族館からのお申し出で、オキゴンドウにおけるオルビフロキサシン血漿中濃度を測定する共同研究を実施しました。当時、同館の獣医師である植田啓一先生から「海獣類に参考となる薬物データがないので、ぜひ一緒に調べたい」との熱いオファーをいただき、上司を説得して実現しました。薬剤耐性(AMR)や抗菌薬の慎重使用が現在のように厳しく求められていない時代背景でしたが、犬・猫用の医薬品であるビクタスSS錠なので、オキゴンドウに投与するためには数十錠を餌の魚の腹に詰めて投薬されたり、尾びれから採血することなどを聞き(実際に見学もできました!)、今も忘れられない思い出となっています。

◆残念だった出来事

  1. 国内で水産養殖業が定着・拡大・安定化した、当初の最大貢献は適正な感染症対策となる抗菌剤使用でありましたが、今や最大の「悪」として扱われていること。水産業にかかわらず耐性菌対策が重要であることは間違いありませんが、製品が悪ではなく、使用者の意識にこそ善悪があることを知らしめて欲しいです。
  2. 牛海綿状脳症(BSE)の発生。マイナーではありますが、プリオン病の存在は知られていたのに、全世界的に多くのウシが犠牲になりました。この病気の蔓延の中、北海道の獣医師が不当な責任を負わされ、自殺に追い込まれたことも残念でした。
  3. 口蹄疫の発生。上のBSEの時以上に、国内の家畜、特にブタでは甚大な被害が広がりました。加えて、被害拡大防止のための家畜の安楽死に多くの獣医師が駆り出され、誰しも慣れることのできない殺処分を担当させられ、トラウマを負われたことも悲しい出来事でした。

Q7.コンパニオンアニマル事業の製品である「ビクタスSS錠」「ビクタスS MTクリーム」「プロナミド錠」の製品特長を教えてください。

いずれも安全性の高さが特徴です。

◆ビクタスSS錠

  • 主剤であるオルビフロキサシンの優れた薬効(高い抗菌活性)と良好な組織移行性
  • 超小型犬~大型犬にも利便性のよい含量設定(10・20・40・80mg錠)
  • 発売から30年間で積み上げられた使用実績(有効性&安全性の圧倒的なエビデンス量)

◆ビクタスS MTクリーム

  • 細菌性/真菌性の皮膚感染症に有効な成分が的確に配合
  • カルボキシビニルポリマーを使用したさらりとした使い心地
  • ビクタスシリーズの注射剤/錠剤とのコンビネーション使用による高い治療効果

◆プロナミド錠

  • 主剤であるモサプリドクエン酸塩はヒト医療でも確かな安全性と有効性を確立
  • イヌの消化管運動亢進においてもエビデンスが豊富
  • 他社にない独自製品

Q8.画期的な下記新製品の開発時の臨床試験の難しさ、開発でご苦労された点は何でしょうか?また2つの製品特長を教えてください。

  • ステムキュア 1mL/2mL:世界初の犬 (同種) 脂肪組織由来間葉系幹細胞製品
  • コンセーブ錠 25mg/100mg:日本で初めての犬の抗てんかん薬

開発時の臨床試験の難しさ、開発で苦労した点は以下の通りです。

◆ステムキュア(写真6)

  • 細胞医薬品の開発はヒト用製品でも黎明期であり、製品開発の手本(ガイドライン等)が乏しい状況でした。規制当局でも定まった判断軸がない中、当局と随時折衝しながら開発プロセスを推進しました。
  • ヒト医療では、製品単価 数百万~数千万円が平気で設定されていますが、イヌ用で開発/実用化させるためには、これらより桁二つ以上を切り下げる必要がありました。これを実現したことは、当時の親会社・大日本住友製薬(現住友ファーマ)の関係者も驚かせました。
  • 適応症とした「胸腰椎の椎間板ヘルニア」の発生が漸減傾向にあり、さらに治験エントリーの条件の制限が厳しく、通常の治験症例数 60症例は高いハードルであった。本邦では初の期限及び条件付承認となりました。

◆コンセーブ錠(写真7)

  • 巷では「てんかん様発作」との表現が成り立つほど、てんかんの確定診断が難しい時代でした。
  • 当時、コンパニオンアニマルのてんかんに対する国内のKOLにくまなくお声掛けをすることで、万全の治験実施体制を組みました。
  • そうであっても治験組入れに相応しい症例のエントリーは頻繁ではなく、治験期間が長期に亘りました。
  • 通常の疾患における診断/治療/評価と比べても、内容が複雑、難解であり、それも長期化につながりました。
  • 結果的に、治験で苦労した分のデータの蓄積が、その後の販売時の「糧」となったのは幸甚でした。

次に製品特長です。

◆ステムキュア

  • 「世界初」、「国内発」の動物用再生医療等製品。
  • 椎間板ヘルニアの外科処置だけでなく、内科処置の提供。
  • ホーミング、パラクライン効果による炎症抑制。

◆コンセーブ錠

  • 動物用医薬品として国内初の抗てんかん薬として新発売、不動の地位を確立しました。
  • 他の抗てんかん薬でみられるような副作用がない(肝障害)。
  • 定常状態に至るまで短時間である。

Q9.導入品で2025年12月に発売され、ユニークな製品であるクレボル(犬用催吐点眼剤)を導入された経緯を教えてください。

国内の内科領域のKOLと定期的な面談/情報交換を実施する際、臨床現場での顕在ニーズ、時にアンメット・ニーズを探索していました。

当社の主力製品であるプロナミド錠の効果の一つである「制吐」について話していたところ、たまたま「逆に獣医療では安全な催吐が難しいんだよね…」との話題となりました。

既存では、トラネキサム酸やオキシドール等が止む無く使用されていますが、いずれも効果が不十分、安全性・倫理観に問題がある、などの指摘がありました。

そのニーズを鑑み、世界での有用品を調べようとしたところ、海外情報誌でクレボルの存在を発見しました。

その後、当社の有能な事業開発担当がオリオン社との交渉に成功し、国内販売権を獲得しました。

Q10.クレボルの製品特長と、どのようなケースを想定されて犬に意図的に嘔吐をさせているのでしょうか?また処方をした獣医師の先生が投与する際に気をつけなければならないことは何かありますか?

◆クレボルの製品特長(写真8)

  • 従来の古典的かつ慣習的な催吐の手段と比べると、その安全性と有効性の高さは明らかです。何より、正式に薬事承認された製品を使用することの安心感は絶大だと思います。
  • 投与法が点眼によることがユニーク。いわゆる「目薬」と同じ方法になるので、複数の手が必要にならないです(ワンオペでOK)。
  • 使い切りサイズにふさわしい容量に設定しています。
  • 催吐による嘔吐が続く場合は、拮抗薬としてメトクロプラミドが利用できます。

◆犬に意図的に吐かせるケース

あくまで獣医師判断でありますが、誤飲したものを放置してはいけないケースです。外科的あるいは内視鏡を用いた除去でなく催吐させた方が良い場合や、人員や時間帯によって前述の処置が困難な場合も想定されます。

催吐によって食道を傷つける懸念があるなど、適応外の場合もあるので、獣医師判断は重要です。

◆獣医師が投与する際に気をつけること(加えて、投与した後)

本剤に限らず、添付文書に記載された用法用量と使用上の注意の喚起事項を遵守されれば、特段の留意点はないです。

投与後に誤嚥性肺炎を惹起しないよう、動物の状態を慎重に観察することは重要です。

使用する製品は対象の動物だけに限定し、無事に催吐が確認されたら廃棄すること。いくらきれいに保管したとしても、後日、別の動物に使用することは禁忌です。

Q11.クレボルはフィンランドオリオン社の商品で、欧米では既に発売されていますが、論文などに使用状況や臨床試験のデータ結果などの学術情報は既に掲載されているのでしょうか?

臨床試験については、以下の文献が公開されています。

Q12.クレボルの日本での承認申請に当たり、海外のデータはどのくらい活用できたのでしょうか?

海外の申請用データはかなり多く活用できました。農林水産省もコンパニオンアニマル向け医薬品の承認に当たり、海外データを活用することを認めており、これはVICHの功績と思います。

以下、後編に続きます。

後編に続く

シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」