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インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
国内外の各分野で活躍されている獣医師の先生方へのインタビュー記事を不定期で掲載しています。
第1回目は、米国ニューヨーク州でご活躍されている五十嵐和恵先生に、米国獣医師免許取得に焦点を当ててインタビューを行いました。
第2回目の今回は、その五十嵐和恵先生(写真1)のご要望を踏まえて、米国ニューヨーク州マンハッタン近郊での動物病院事情などについて再び五十嵐先生にお話をうかがいました。
(取材日:2024年8月8日)
Q1.日本でも色々な形態の動物病院がありますが、米国ではいかがでしょうか。
大きく分けて、(1)企業動物病院、(2)個人経営の動物病院、(3)夜間休日の救急&昼間は専門動物病院、(4)ペットショップに併設する動物病院、(5)ワクチンだけ行う出張動物病院、(6)往診専門、(7)低料金の避妊去勢専門動物病院があります。
Q2.各形態の業務内容をご説明ください。
- 企業動物病院
- だいたい治療の仕方が決まっていて、それに沿って行う形。会社の方針で使える薬の種類も、限定されます。最新の医療器具などが揃っていて、スタッフの人数が多いですが、診療費もとても高いです。
- 個人経営の動物病院
- 個人経営なので個人の裁量で自由にできます。
- 夜間休日の救急&昼間は専門動物病院
- 夜間と休日のみ緊急病院。24時間体制なので、非常に診療費が高いです。特に緊急の検査や手術を行うとものすごい金額になり、費用が負担できずに、途中で転院することも多いです。専門病院は、専門医の診察となり、費用が高く、また、なかなか予約が取れずに、数か月待つこともあります。
- ペットショップに併設する動物病院
- 主にワクチンや毎年のチェックアップ。ワクチンの費用は比較的安いようです。歯科処置を除いて、手術はほとんど行わず、提携している専門病院に送られ、結局は高額となることも多いです。
- ワクチンだけ行う出張動物病院
- 週末だけ大きな薬局やペットショップに出張します。ワクチンとフィラリアの検査のみを行います。異常があれば飼い主に伝えますが、薬の処方などは一切行いません。
- 往診専門の病院
- 主にワクチンなどのチェックアップ。検査や手術が必要になると、動物病院を紹介します。
- 低料金の避妊去勢専門動物病院
- 特に検査等せずに、避妊去勢手術のみ行います。飼い主は当日の朝に預けて、夕方にはピックアップします。直接確認した訳ではなく聞いた話ですが、獣医師からの説明はないようです。皮内縫合しているので、抜糸もリチェックもありません。もし、傷が開いたり問題があれば、他の動物病院に行くことになります。
Q3.臨床獣医師の現況を教えてください。
私の住んでいる地域に限定しての話です。
新規開業する先生はほぼいません。開業する場合は、リタイヤする先生の古い病院を、飼い主さんを含めて購入するのが一般です。
新卒で、一般診療の動物病院に勤務する人はそれほど多くなく、専門分野の資格を取る人が多い。または、数年インターンをして、専門医の資格を取ります。
一般診療を希望する米国人の獣医師が少なく人手不足で、私のような海外からの獣医師が一般診療の現場には増えています。特に、インド系の獣医師が動物病院を購入して、開業しています。
Q4.五十嵐先生の勤務する動物病院の概要を教えてください。
- 場所
- 私が勤務する動物病院は、電車で40分ほどのマンハッタンの郊外にあります。周囲にはマンハッタンで働く人の超高級住宅街と、低所得者向けの集合住宅があります。日本より貧富の差が激しいのと、住んでいる場所によって収入や生活層が異なり、飼育の仕方も異なるので、飼い主さんのニーズに合わせた治療を行うことになります。
- 形態とスタッフ
- 家族経営で開業して56年。元は兄弟で始め、今は、兄弟と弟の息子、私を含めて2人の勤務医で、合わせて獣医師が5人、動物看護師が2人、動物看護アシスタント(兼ケネルワーカー)が8人、受け付けが6人という体制です。
- 1日の流れ
- 診療時間は10時から12時、2時から5時。予約制ではなく、受付順番制。周囲の動物病院がほぼ予約制で、予約が取りにくい状況なので、いつも混んでいます。また、他で予約外を受け入れないために、緊急性のある疾患が来院することも多く、緊急病院のような役割も果たしています。避妊去勢や小さい腫瘍摘出手術、歯科処置、検査は午前中に診察と並行して行い、12~2時は大きな手術と処置。時間がない場合は、5時以降に手術を行います。
- 手術の受け入れ
- 古い動物病院で日本の昔ながらの動物病院のような形態。複雑な骨折を除いて、専門病院に手術を依頼することは少なく、ほぼ全て手術をこなします。専門病院での手術の費用が高価すぎるので、完璧でなくても、少しでも安くやって欲しい、信頼している先生にやって欲しいという希望により、大きな手術を行うことも多いです。
- 治療方針、手術の件数、飼い主と獣医師の関係
- 治療方針は、獣医師と飼い主さんとの相談で決めるので、決まった治療方法は特にありません。
- 手術は歯科処置や小さい腫瘤の切除などを含めて一日最低でも5件以上行います。
- 昔からある動物病院なので、小さい時から通っている、祖父母の時から3代で通っている、何代目かのペットをずっと診てもらっているという飼い主さんもおり、獣医師や本院との信頼関係が築かれている飼い主さんが多いです。
Q5.薬剤の選択基準を教えてください。
自分の経験や患者さんの症状、経済状況などを考慮して選択しています。
Q6.勤務されている動物病院ではどのような動物を診療していますか?
犬と猫、ウサギ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、鳥、爬虫類です。たまにペットの豚や鶏なども診ます。
犬はラブラドール、ゴールデンレトリーバー、ピットブル、ラブ系の雑種などの中大型犬が主で、最近の流行りはゴールデンドゥードゥル、バーナドゥードゥルやキャバプーなどのプードル系ミックス。また、マスチフやアイリッシュウルフハウンド、グレートデン、秋田犬などの超大型犬もかなり多いです。
小型犬も多いですが、小型犬種でも、大きめなサイズ。ヨーキーでも5キロから10キロ。日本のような掌にのるような小さい犬は非常に少ないです。
猫も骨格が大きく、10キロ超えるような猫も来院します。
鳥はセキセイインコのような小さい鳥も来院しますが、アフリカングレー(ヨウム)やオウム、頭の先から尾まで1メートル近くもあるような金剛インコなども来ます。
Q7.勤務地であるニューヨーク州における安楽死の考え方を教えてください。
小さいころから動物をずっと飼っている人が多いため、動物の最期がどうなっていくか、すでに知っている人が多く、たとえ、延命治療をしても、長くは生きられないことも知っています。獣医師もきちんと正直に話します。
動物が苦しむ姿を見たくないという考えから、安楽死が定着しており、がんや腎不全など治る見込みの少ない疾患の場合には、診断時にそれほど重症でなくても、安楽死を選択する人が多いです。
また、安楽死が初めてという人も少なくないので、飼い主さんが提案してくることも稀ではありません。
Q8.勤務されている動物病院の診療で思い出深い出来事あるいは残念だった事、珍しい症例などがありましたら教えてください。
- 思い出深い出来事
- 椎間板ヘルニアで手術をしても歩けなかった犬が、長い間のリハビリの成果で歩き始め、普通に生活できるようになり、走ることまでもできるようになったことです。
- 残念だった出来事
- レントゲン撮影をすると、銃弾が入っている犬や猫が結構見られることです。
- また、せっかく動物が治りかけても、費用の面から、安楽死を選択されることも多い点です。
- 珍しい症例
- 大きなコング(フードを詰め込むゴムのおもちゃ)を丸のみして、食道内にコングが詰まってしまった症例です。その症例では、胃内にはボールが入っていました(写真2)。
Q9.エキゾチックアニマルを診療する際に参考となるバイブルのような本はあるのでしょうか?
以下の2つの本を使用しています。
- 『Blackwell's Five minute Veterinary Consult; Small Mammal』
- 私は電子版を利用しています。
- 『Current Therapy in Exotic Pet Practice』(写真3)
Q10.米国における獣医師と動物看護師の役割分担について教えてください。
日本より動物看護師のできる処置が多い気がしますが、最近の日本の状況がわからないので、比較はできません。
例えば、獣医師の指示の元でワクチンや抗菌薬などの注射全般、採血、静脈留置針設置、麻酔の導入と維持、投薬、手術の助手、レントゲン撮影などを行っています。
動物病院の規模にもよるかもしれませんが、入院動物の看護で必要な場合を除いて、資格のある動物看護師は、犬舎掃除や院内清掃、洗濯などはほとんど行いません。犬舎掃除は別の担当スタッフが行います。
編集後記
米国ニューヨーク州で活躍されている五十嵐和恵先生に、米国ニューヨーク州マンハッタン近郊の動物病院事情に焦点を当ててインタビューを行いました。
米国では、主に7つの動物病院の形態があり、新規開業の先生は少ないことや、一般診療を希望する米国人の獣医師が少ないので、人手不足の状態になっているとのことが印象的でした。
また、安楽死に関する考え方も日本とは異なるようで、動物が苦しむ姿を見たくない人が多く、安楽死が定着しているので、がんや腎不全など治る見込みの少ない疾患の場合には、診断時にそれほど重症でなくても、安楽死を選択する人が多いということも印象的でした。
米国における動物看護師の業務内容については、日本より範疇が広いのではないかと思いました。日本も令和4年5月1日に愛玩動物看護師法が施行され、第3回愛玩動物看護師国家試験が令和7年2月16日に実施されます。今後ますます日本も米国のように愛玩動物看護師さんの役割は大きくなるものと思われます。
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シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」
- (1)米国 五十嵐和恵先生