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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(21)厚生労働省 健康・生活衛生局 食品監視安全課 課長補佐 川越匡洋先生

2026-02-02 16:37 掲載 | 前の記事 | 次の記事

写真1・写真2

図1・図2・図3・図4

図5

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

(取材日:2025年5月21日)

国内外の各分野で活躍されている獣医師の先生方の取材記事を掲載しています。日本獣医学生協会(JAVS)とのコラボレーションで獣医大学を訪ねた際に、学生さんから厚生労働省に勤務されている獣医師の仕事について知りたいとの要望があり、厚生労働省獣医系技官にインタビューを行いました。第1回目として厚生労働省 健康・生活衛生局 食品監視安全課 乳肉安全係 高橋真央先生のインタビュー記事を掲載しました。

今回は、厚生労働省 健康・生活衛生局 食品監視安全課 課長補佐の川越匡洋先生(2025年8月1日より、さいたま市役所 保健衛生局 保健部 生活衛生課に課長として出向)と厚生労働省 健康・生活衛生局 食品監視安全課 食品健康被害情報管理室 係長 井谷 寛先生(写真1)のお話です。

(取材日:2025年5月21日)

まず初めに川越匡洋先生にお話をうかがいました(写真2)。

Q1.厚生労働省獣医系技官は新型コロナウイルス感染症対策としてどのような業務に従事されたのでしょうか?

令和2年1月の中旬に、国内で初めて新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者となる可能性があるという連絡を受け、厚生労働省内で対応チームを作るという段階から対応にあたりました。

コロナ対応については、獣医系技官のチームというよりは、厚生労働省内の各職種の事務官、技官全体で連携しながら対応を行ってきました。

新型コロナウイルス対策について大きく3つのことについて対応しました。1番目は、立案・研究調整、2番目は、水際対策、3番目が広報です。

1番目の立案・研究調整の具体的な仕事は、コロナ対策の技術的な立案、健康危機管理に関する対応、コロナ研究予算の確保、コロナ研究(厚生労働科学研究・AMED研究)の省内調整/研究者との研究内容の調整、関係省庁との調整です。

2番目の水際対策の具体的な仕事は、中国武漢市に在留する邦人についてのチャーター便による帰国への対応(令和2年1~2月)、横浜港に寄港したクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」への対応(令和2年2~3月)、空港・待機施設における帰国者対応、関係省庁との調整です。

3番目の広報の具体的な仕事は、記者会見/記者ブリーフィング対応、プレスリリースの発出、リーフレット等広報媒体での作成、Webサイトの更新、SNS等での情報発信、コロナ相談窓口(コールセンター)の運営、関係省庁との調整です。

Q2.川越先生は令和2年1月~令和5年5月までの約3年3ヵ月の間、コロナ対応されたとうかがいました。その間の主な業務の概要を教えてください。

私が、一担当者として対応した各対策の主な業務は以下のとおりです。

  1. 水際対策:武漢からの邦人援護のチャーター便対応の調整など(図1)
  2. 立案・研究調整:コロナ研究予算の確保、コロナ研究(厚生労働科学研究・AMED研究)の省内調整/研究者との研究内容の調整など[図2、新型コロナウイルス感染症等の新興感染症に関する取組(令和2年3月10日):首相官邸Webサイト 資料「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの新興感染症に関する研究開発」]
  3. 広報:毎日のプレスリリースの対応、厚生労働省Webサイト/テレビ/CM/ラジオ/SNSを通じた情報発信、ポスターの制作など(図3)

Q3.約3年3ヵ月の間でご苦労されたこと、大変だったこと、また良かったこと、達成感について教えてください。

・苦労したこと/大変だったこと

初動時は、ウイルスの性状などが不明な状況で、武漢からの邦人援護のチャーター便対応の調整等行う必要があり、未知な感染症への対応の怖さを肌で感じました。

行政が望む研究成果と研究者がやりたい研究が一致しない時の調整は大変でした。

国民に広報内容が届いていない時は苦労しました。特に、新型コロナウイルス感染症に対する不安に起因する差別や偏見に対する対応は苦労しました。

・良かったこと/達成感

世界全体で一番の関心事項であった新型コロナウイルス感染症対策について、厚生労働省の一担当として、最前線で対応することができたことです。

コロナ研究の予算を得るために、昼夜問わず財務省の担当者に説明し、予算が獲得できた時は達成感を得ました。

立案・実行した広報内容が国民に伝わっていると感じた時は達成感を感じました。

Q4.「苦労したこと/大変だったこと」の中で、特に、新型コロナウイルス感染症に対する不安に起因する差別や偏見に対する対応は苦労したとありましたが、どのような差別や偏見があったのでしょうか?

コロナ感染初期には、医療従事者をはじめエッセンシャルワーカーの方々、コロナ感染者やその周囲の方々に対する差別・偏見が見られました。コロナ対応最前線で感染のリスクもある中コロナに向き合う皆様への差別、偏見は、一人の人間としてもなかなか厳しいものがありました。また、感染者数が少ない時は、コロナに感染したことで、感染者自身やその周囲の方々に対する差別・偏見があったことは事実です。そのため、厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症の感染対策とともに差別・偏見をなくすため、趣旨に賛同する想いとともに情報発信することで感染症に強い社会を実現する目的で、本取組について理解し情報発信の協力をしてくださる方を集い「#広がれありがとうの輪」プロジェクト(図4)を実施しました。

Q5.「良かったこと/達成感」の中で、立案・実行した広報内容が国民に伝わった時は達成感を感じたとありましたが、広報内容が国民に伝わった時とは、どのような変化を見て川越先生が感じられたのでしょうか?

例えば、感染症予防の観点でのお願いをした際、日常生活はもちろんのこと、メディア等を通じた情報などで広報内容が国民に伝わっているなと感じることができました。

Q6.コロナ感染症対応時、獣医師としての知識や経験がどんな所で役立ったと思いますか?

大学で学んだ公衆衛生学、微生物学、感染症学などを通じて、病原体自体の特性や、コロナウイルスに起因する人獣共通感染症の情報等についての知識があったため、対応にあたって1から勉強することはありませんでした。

また、感染対策を検討するにあたって、専門家の先生方に意見等もらう際にも、感染症に関する一般的な知識を持っていたため、内容について理解することができ、スムーズな対応ができました。

Q7.コロナ感染症対応時、国内外の獣医師(研究機関や国、WHO)との連携がありましたか?また、共有されたことはありましたか?

多くの専門家(獣医師)が厚生労働科学研究やAMED研究等を通じてコロナ感染症に関する研究を行っており、連携しながら対応いたしました。

また、コロナウイルスの発生源の調査・検証として世界保健機関(WHO)の専門家としても獣医師が派遣されるなど、様々なところで獣医師が活躍しておられ、連携しながら対応いたしました。

Q8.今回コロナ感染症で得た経験を活かして、今後発生する可能性のある感染症にどのように対応あるいは対策をしようと考えていらっしゃいますか?

今般のコロナ感染症で明らかとなった課題や幅広い感染による危機に対応できる社会を目指す目的で、政府全体で令和6年7月に「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を改定しています。

Q9.厚生労働省の獣医系技官として入庁されてから、現在までの足跡を教えてください。

図5に示します。

Q10.今まで業務でご経験された中で、うれしかったことを教えてください。

自分が関わった施策が実現した時です。

(例:健康牛におけるBSE検査の廃止に向けた対応、人とペットの災害対策ガイドラインの策定等)

Q11.仕事をしていく上で大切にされていることやポリシーは何でしょうか?

  • 何事も国民目線(現場目線)に一度立ち返った上で施策を進めていくことです。
  • 先輩後輩など関係なくチームの結束を重要視し、目に見える成果を残すことです。

Q12.厚生労働省獣医系技官を目指す学生さんにアドバイス、メッセージをお願いいたします。

厚生労働省の獣医系技官は、食品衛生、感染症対策などのキーマンとして必要不可欠な存在です。

入省してから今まで、様々な施策や事件対応等に携わってきて、忙しい時期も正直ありましたが、多くのことを経験できる仕事だと思います。今まで仕事に飽きたことは一度もありません。公衆衛生分野に興味のある獣医師の皆様、獣医学生の皆様、ぜひお待ちしております。

以下、井谷 寛先生の記事に続きます。

後編に続く

シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」