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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(28)Japan UK Veterinary & Business Services Ltd 共同代表 獣医師 草野寛一先生:前編
- 記事提供:動物医療発明研究会
- インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
- 動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
国内外の各分野で活躍されている獣医師の取材記事を掲載しています。
今回は、英国でJapan UK Veterinary & Business Services Ltdを設立されました草野寛一先生に取材を行いました。
(取材日:2025年11月15日)
Q1.Japan UK Veterinary & Business Services Ltdを設立された経緯を教えて下さい。
2022年に日本中央競馬会(JRA)ロンドン駐在事務所長として赴任となったことが英国在住のきっかけです。その後、家庭の事情で英国に残ることに決め、JRAを退職。現在は英国競馬統括機構(BHA)において獣医・研究および国際担当官として勤務しています。さらに、英国では副業が認められているため、これまで温めていたアイデアを形にすべく、Japan UK Veterinary & Business Services Ltdを設立しました。
背景としては、小学校時代をオーストラリアで過ごした帰国子女としての経験や、JRA業務を通じて日本にいる頃から国際的な仕事に携わっていた経験があります。
今後はこれまでの経験と人脈を生かし、日本と英国を結ぶ橋渡し役として多方面で貢献していきたいと考えています。
Q2.Japan UK Veterinary & Business Services Ltdのコーポレートロゴ(写真1)は何を示しているのでしょうか?
英国といえばアフタヌーンティー。その文化にちなみ、紅茶と馬を組み合わせたデザインには「日々の暮らしをより豊かに」という思いを込めました。
英国らしい気品と温かみを併せ持つ仕上がりで、私たちの会社の理念をやさしく表現されていると感じています。動物の家紋作品で知られるイラストレーター・寺田 創さん So Terada Illustrations に制作をお願いしました。
Q3.業務を教えて下さい。
当社は、獣医師として、また競馬サークルの一員として培った28年間の経験と知識、さらに日本およびアジア代表として15年以上にわたり携わってきた国際活動の経験をもとに設立しました。日本と英国の双方の制度や文化、価値観を深く理解していることを強みとし、「小動物・馬・教育・ビジネス」の4分野で専門的な支援を行っています。
小動物分野では、英国で暮らす日本人の方々を対象に、ペットの健康相談やセカンドオピニオン、治療選択肢の提案など、日本語で安心して相談できる環境を提供しています。
また、Official Controls Qualification (Veterinary) Small Animal Exports[OCQ(V)-SX] の資格を取得し(写真2)、犬・猫の日本帰国や英国からの輸出に必要な検査・書類作成などもサポートしています(写真3)。
Q4.OCQ(V)-SXの資格と業務の概要を教えて下さい。
OCQ(V)-SXは、英国政府の環境・食糧・農村地域省の傘下にある動物・植物衛生庁(Animal and Plant Health Agency、APHA)が認定する 政府認定獣医師(Official Veterinarian、OV)の資格の一つで、小動物の輸出に際して、政府公式の健康証明書(Export Health Certificate、EHC)を発行することができます。
対象となる動物は幅広く、犬・猫・フェレットおよびそのF1種などのペットをはじめ、動物園・研究施設向けの小型哺乳類、爬虫類、両生類、無脊椎動物(蜂などを含む)、観賞魚、および鳥類なども含まれます。また、動物園または研究施設向けに限り、霊長類および肉食動物の取り扱いも認められています。
Q5.具体例として、英国から日本へ犬・猫を輸出する際の手順と草野先生がカバーされている業務の範囲を教えて下さい。
以下、2025年11月時点での英国から日本へ犬を輸出する手順です(参考:「犬、猫の日本への入国 (指定地域以外編):動物検疫所」)。
- マイクロチップの埋め込み(生後91日齢以降)
- 狂犬病予防注射(2回以上)
- 狂犬病抗体検査(血液検査)
- 輸出前待機
狂犬病抗体検査の採血日を0日目として、日本到着まで180日間以上の待機が義務付けられている。 - 事前届出
日本到着40日前までに、到着予定の空海または港を管轄する動物検疫所へ届出を行う。 - 輸出前検査
出国前10日以内に、民間獣医師又は輸出国政府機関の獣医官による臨床検査を受ける。 - 輸出国の証明書の取得
マイクロチップによる個体識別、複数回の狂犬病予防注射、抗体検査などについて必要事項を記載した輸出国政府機関発行の健康証明書(EHC)を取得する。 - 日本到着後の輸入検査
日本の動物検疫所で輸入検査を受ける。
私はOCQ(V)-SX資格を活かし、手順1から7のプロセスをサポートしています。特に、狂犬病抗体検査後の待機期間中のスケジュール管理や、必要書類の準備・確認など、スムーズな日本入国に向けて、手間のかかる部分を的確にサポートする体制を整えています。
Q6.馬関連分野に関する業務を教えて下さい。
英国でのレジャーホース診療のほか、教育・人材育成・研究コンサルティング、ビジネスコンサルティングを行っています。コンサルティング事業については以下の通りです。
(教育・人材育成分野)
競馬・馬医学に関する講義やセミナーの開催、留学・研修プログラムの企画を通じて、国際的に活躍できる次世代人材の育成を推進しています。
(研究コンサルティング分野)
馬獣医学を中心に、研究テーマの選定、実験デザイン、データ解析、論文執筆、学会発表など、研究のあらゆる段階で支援を行っています。また、研究依頼者・出資者と研究機関・研究者を結びつけるマッチングも行い、実践的で成果につながる研究を後押ししています。
(ビジネスコンサルティング分野)
日英両国での事業展開を目指す企業に対し、市場調査やパートナー構築、現地調整などを包括的にサポート。競馬産業に限らず、幅広い分野で日本と英国を結ぶ橋渡し役として活動しています。
Q7.草野先生は獣医委員として何をされているのでしょうか?
英国の競馬場では、BHA(British Horseracing Authority)の獣医師(Veterinary Officer、VO)と、競馬場に所属する(雇用されている)開業獣医師(Racecourse Veterinary Surgeon、RVS)が共同で執務しています。
- BHA獣医師は主に、レース前の健康チェック、レース中の事故監視、およびドーピング検査(レース前・レース後)などを担当します(写真4)。
- 開業獣医師は、レース中の事故監視や治療を担当します。
私が現在担当している競馬場は、英国の南西部エリアに位置し、種類別に以下のように分かれます。
- 平地・障害競走の両方を開催する競馬場:アスコット、ニューベリー、サンダウン、ウインザー、ケンプトン、リングフィールド
- 平地競走のみ開催する競馬場:エプソム、グッドウッド、バース、ブライトン、チェルムズフォード
- 障害競走のみ開催する競馬場:プランプトン、フォントウエル、ストラッドフォード(写真5)
カバーすべきコースの地形や厩舎地区の構造、使用施設のバリエーションが多く、慣れるまでにもう少し時間がかかりそうです。
BHAでは、獣医・研究・国際担当官という役割を頂いています。
研究面では事故(競走中の致死的な疾病や熱中症)防止やアンチドーピングに関する研究の助言をしています。
また、国際担当は新設された部門で、英国に遠征してくる外国馬(カタール、イタリア、ハンガリー、オーストラリア、北米、日本など)へのサポートを行っています。具体的な例は以下の通りです。
- 英国競馬統括機構(BHA)が定める馬インフルエンザワクチンの要件(1本目と2本目の接種間隔が21~60日、2本目と3本目の接種間隔が120~180日、以降のブースターが6か月間隔以内)を満たしているかの確認、あるいは満たしていない場合の追加接種に関するアドバイス。
- 英国と海外とで取り扱いの異なる禁止物質(コバルト、β2刺激薬、ビスホスホネート製剤など)や禁止行為(レース当日は通常の飼料や水以外を与えてはいけない、レース前の飲水制限の禁止、レース前の過度な下肢部冷却の禁止など)の解説や対応。
- 出走に適しているか(Suitability to Race)やドーピングに関する出国前および入国後検査の調整および対応。
Q8.草野寛一先生と草野知子先生の業務の役割分担を教えて下さい。
明確な業務分担は設けていませんが、事業全体の対外対応や実務の多くは私が担当しており、獣医・競馬・ビジネス関連の専門支援や各種コンサルティング業務も含まれます。
一方、知子(家内)はこれらのサポートに加え、会社運営の基盤となる総務や会計などの管理業務を中心に担当しています(写真8)。
さらに、英国生活全般および教育に関するお問い合わせについては、主に知子が対応しています。
依頼内容に応じて関わる相手や求められる対応が異なるため、それぞれのネットワークを生かし、柔軟に連携できることが当社の大きな強みです。
このように、私が専門性を生かして実務面を支え、知子が生活面や管理業務を担うことで、幅広いサポートを提供できる体制を整えています。
Q9.会社を設立されて日本や英国から具体的な相談がありましか?
おかげさまで、日本および英国の双方より、獣医関連の専門的なものから教育、ビジネス、生活支援に至るまで幅広い相談やご依頼をいただいています。
まず、日本からのご相談としては、通訳、研修プログラムのコーディネートなどが挙げられます。
加えて、教育機関からの講演依頼や、英国駐在予定者のお子様の教育関連のご相談もいただいています。
一方、英国側からは、獣医系教育機関から日本の研究者・研究機関との共同研究に関する相談をいただいています。
また、英国の獣医師や獣医学生から国際的なキャリアアップや研修に関する相談を受ける機会も多いです。さらに、イベント企画調整、通訳・翻訳依頼を受けることもあります。
製薬会社などの企業からは、日本市場への進出や販売戦略に関するコンサルティング依頼も寄せられています。
このように、日本と英国の両方向から寄せられるご相談を通じて、分野横断的に両国をつなぐ役割を果たしていると実感しています。
Q10.草野寛一先生はJRAに28年間ご勤務されていましたが、印象深い出来事や残念だった出来事を教えて下さい。
最も印象深い出来事は、2003~2005年に栗東トレーニング・センター勤務時、「究極のサラブレッド」と称されたディープインパクト号の治療やコンディショニングに携わったことです。
均整の取れた馬体に触れたときの感触や、静かで力強い心拍を聴いた瞬間の感動は今も忘れられません。獣医師としてこれほど特別な馬に関われたことは大きな幸運でした。
また、国際舞台での経験も貴重でした。国際競馬統括機関連盟(IFHA)の各種委員やアジア競馬連盟(ARF)薬物管理委員会議長を務め、「競馬・生産および賭事に関する国際協約」の改訂に携わり、遺伝子ドーピング関連では、規制条項の初稿を担当しました。この経験をもとに、日本競馬の薬物規制制度の改定にも関与できたことはJRA職員としての集大成でした。
さらに、東京オリンピック馬術競技でのオフィシャル獣医師としての従事や、アン王女から2022年エプソムダービーでお声がけをいただいたこと、2024年天皇陛下ご臨席の晩餐会への出席なども忘れられない経験です(写真7)。
最後に、大学生時代にクレー射撃をしていた経験が思わぬ形で役立ち、上流階級の伝統行事である狩猟会(Game Shooting)にお招きいただけたる機会に恵まれました(写真8)。
公爵が所有する広大な領地(estate)には必ず狩猟場と関連施設が整備されており、招待客は前日から「ハンティング・ロッジ(Hunting Lodge)」と呼ばれるゲストハウスに滞在し、執事による手厚いサポートとサービスを受けながら他のゲストと寝食を共にします。翌日には、領主のもとで狩猟場の管理を任されているゲームキーパー(Game Keeper)の案内で、6~8種類の異なるシチュエーションでの狩猟やピクニックを楽しむという、まるで映画やドラマの世界のような夢のような体験をさせていただきました。
おかげさまで、一緒に狩猟を楽しんだゲストの皆さま(いずれも著名な方々)とは今でもご縁が続いており、その人脈は現在の仕事にも大いに活かされております。
一方で、子供の教育を優先し早期退職したことで、JRAで定年を迎えられないことは少し残念です。
以下、後編に続きます。
<後編に続く>


