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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(12)~メディカルイラストレーター LAIMAN社 代表取締役 永田徳子先生

2025-07-07 17:50 掲載 | 前の記事 | 次の記事

写真1 LAIMAN社 代表取締役 永田徳子先生(写真提供:©LAIMAN)

イラスト1 獣医系メディカルイラスト(イラスト提供:©LAIMAN)

イラスト2 医療系メディカルイラスト(イラスト提供:©LAIMAN)

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

国内外の各分野で活躍されている獣医師へのインタビューを開始し、第11回目は、動物用医薬品メーカーのひとつである共立製薬株式会社で水産用ワクチンの研究・開発をされている獣医師の先生方の記事を掲載しました。

今回は、メディカルコンテンツ制作会社の株式会社レーマン(以下、LAIMAN社)代表取締役である永田徳子先生(写真1)にお話をうかがいました。

(取材日:2025年2月12日)

Q1.LAIMAN社の名前の由来を教えてください。

良い運気やご縁、お仕事を惹きつけるという意味で「磁石」は縁起の良い単語として海外では知られており、a magnet(フランス語でla aimant)の造語でLAIMANとしました。

また、創業時2人で会社の立ち上げを行いそれぞれの頭文字がNとSであったため、磁石の由来となりました。

LAIMAN社のロゴマークは、メディカルイラストレーションの基礎である動脈・静脈の赤と青の意味合いのほか、磁石のN極とS極からイメージしています。

Q2.LAIMAN社の業務内容を教えてください。

下記の業務となります。

  • メディカルイラストレーション、メディカル3DCG制作、アニメーション制作(イラスト1、イラスト2)
  • 論文支援
  • メディカルコンテンツのコンサルテーション
  • 患者説明資料や教材の制作
  • メディカルクリエイターの育成
  • 医学教育アプリケーションの開発運営(「MEDITOR」meditor3d.com)
  • メディカルイラストレーション販売サイト「LAIMAN Stockweb」の運営

Q3.御社の主な納品先を教えてください。

厚生労働省、大学、大学病院、個人の医師や研究者、医療関係の企業様全般です。東北大学/東京大学/京都大学/大阪大学/京都府立医科大学/慶應義塾大学/東京医科歯科大学/JAXA/学習院大学/順天堂大学/虎の門病院/聖路加国際病院/国立研究開発法人理化学研究所/国立がんセンター/北海道大学/旭川医科大学/東京動物心臓病センター/東京ベイ浦安・市川医療センター/株式会社MEDLEY/コヴィディエン・ジャパン株式会社/ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社/大正製薬株式会社/株式会社資生堂など。

Q4.永田社長が獣医師を目指された理由を教えてください。

メディカルクリエイター®になるには理系のバックグラウンドを身につける必要があると思いました。そこで、医学部か獣医学部で考えた時に動物が大好きだったので、獣医学部に進みたいと決めました。

Q5.LAIMAN社を設立された経緯を教えてください。

卒業後すぐに勤めた企業が人間の医療を支えるための研究所でした。最先端の医療医学情報を目の当たりにする中で、論文を書く先生や研究者も多く、難しいことこそ、視覚情報でのコミュニケーションが重要であると感じ、幼少期からの憧れであったメディカル専門のイラストレーターになりたいという夢が再燃し会社を設立しました。

Q6.獣医大学卒業後、人間の医療を支えるための研究所でご勤務とのことでしたが、具体的にどんな事を研究されていたのでしょうか?

私は、人間の医療を支えるためのウエットラボの豚の専門医として勤務していました。手術時のトレーニングや医療メーカーで新しい医療機器を開発した際にいきなり人体を使用することができないので、豚を使用して研究します。再生医療や臓器移植の研究にも豚は使用されており、人間の医療にとって豚はきってもきれない重要な役割を果たしていました。2年間神戸で勤務していました。

Q7.LAIMAN社のメディカルコンテンツを利用される方で医師以外にどのような方が使われる機会がありますか。またどのような目的でメディカルコンテンツを利用されているのでしょうか?

体に関わるお仕事全般の方からのニーズがあります。教育教材に困った医者以外の医療従事者であるパラメディカル(看護師、管理栄養士など)の方からもご依頼があります。

人体解剖アプリは従来からありましたが、弊社の「MEDITOR」︎というアプリは、自分でメディカルイラスト、イメージをダウンロードして自分の学習に使用したり、自分の発表資料に使用したり、色を自分で着けることができるなど、従来になかった特徴があります。また、教材として柔軟にカスタマイズできることが大きな違いで、幅広い方々にご利用いただいています。

Q8.会社を設立するきっかけとなった、何故ビジュアルで伝えることが必要だと思われたのでしょうか?

視覚情報はインパクトがあり、ビジュアルを通じていろいろなことを伝える機会が多いからです。

例えばお医者さんが開発したものを一般の人に伝える時に必要となりますし、医者同士でも専門が異なるとビジュアルコミュニケーションにより伝えることで自分の専門分野を掘り下げることにつながります。

もし自分や家族が病気になった時、正しい情報を収集できれば、家族で話し合い、医師へ的確な質問ができたり、意思を持って治療方針の決定ができるかもしれません。

内容が難しければ難しいほど、すべての人にとって「視覚情報」が必要です。

私たちはそのためによりわかりやすく優しいビジュアルコンテンツを制作しています。

Q9.LAIMAN社の強みを教えてください。

20年近くこの業界で制作を続けてきた国内唯一のメディカルコンテンツクリエイターチームであることから、ビジュアルコミュニケーションにおいて多くの企業のサポートができることです。単に言われたままにイラストを作るのではなく、「どう見せれば相手にとってわかりやすいのか」をコンサルテーションすることが本来のメディカルクリエイターとしての存在意義であり、レーマンの強みです。

Q10.メディカルイラストレーターになるために必要なものは何だとお考えですか?

以下の点が必要だと思います。

  • 相手によって一番優しい伝え方を考える力
  • 強く粘る強靭な忍耐力
  • 好奇心(リサーチ力)
  • 画力
  • コミュニケーション力(ヒアリング)
  • 向上心
  • 運を逃さない
  • 努力を惜しまない

です。

Q11.イラストレーターで必要なものとされている「相手によって一番優しい伝え方や考える力」とは何ですか?

わからない人にわかるように伝えることが一番重要だと考えています。

どうやったら相手が理解しやすくなるか考えることができるのが重要だと思います。

例えば患者さんへの説明資料などが挙げられます。正しい情報を伝えつつ、ちょうど良いデフォルメを施し、理解できるように伝えることが重要だと思います。「可愛い」で誤魔化すのは簡単ですが、本質的な情報を削ってしまったイラストはメディカルイラストレーションといえません。

1例ですがコロナが発生した時に東京都医師会に頼まれたポスターを作成する際には、コロナが発生した際にいかに落ち着いて冷静に行動するかを一般の人にわかりやすく伝えるために、アイコンや可愛らしいイラストを駆使して制作しました。コロナウイルスそのもののイラストも制作しましたが、科学的根拠を残した上でのデフォルメが最も重要なポイントでした。

Q12.メディカルイラストレーターの技術レベルをアップするために、会社内でどのような取り組みをされていますか?

まず、基礎的なデジタルツールを社内のルールに基づいて制作できるようにレッスンします。並行してリサーチ力や医学の論文を読み込むトレーニングを行います。その後、医師や獣医師からのヒアリングをアップする力を磨きます。ある程度の技術力が身についたら、医師や獣医師の技術トレーニングにも参加します。

メディカルクリエイターのチームとしては国内で唯一、ウェットラボでの研修や医師の技術トレーニングに参加し、常に最新の医学情報、医療技術を学んでいます。また、海外の方が制作環境や情報が整っているため、定期的にコンタクトを取って交流をしています。

Q13.獣医師の専門知識とイラストという別のジャンルのものをかけ合わせることで、どのような効果が生まれるのでしょうか。

技術的な面からだと、獣医師は学生時代に内科学や解剖学を体系的に学習し、調べる力が自然に身に付く力がついているのではないかと思います。また医学的な論文を読める、理解ができるということ以外に、医師や専門家、企業の方々が話に耳を傾けてくれるという利点もあり、イラストレーターの仕事をする上で、獣医師の資格を持っているということは有利だと感じています。

20年前にこの業界に飛び込んだ際に、イラストレーターは素晴らしいノウハウを持っていても、食べていくことが難しい業界でした。交渉ができるような状況でもなく、著作権がいつの間にか譲渡されているなど、不利な面がありました。

交渉という面では、獣医師の免許を取得していることが強みとなり、特に駆け出しの頃のメディカルイラストレーターの業務を実施する上で有利でした。

医者のCST(Cadaver Surgical Training)のトレーニングに参加する際にも、従来のイラストレーターではお願いしてもなかなか参加することができなかったのに対して、ウェットラボの獣医師として勤務していた経歴もあり、CSTに参加することが可能となりました。

Q14.メディカルイラストレーターの需要や現状などを教えてください。

今後増々、メディカルイラストレーターの需要は増えて行くものと思います。

ジャーナルへの論文投稿の際、特にトップジャーナルは著者へクオリティの高いビジュアルを求めます。インパクトファクターだけでなく、引用数、閲覧数、さまざまなポイントにおいて今後論文の中でのイラストとはとても重要な位置を占めるのではないかと考えます。

Q15.御社開発・運用の「MEDITOR」が2024年のグッドデザイン賞を受賞されましたが、受賞された理由および特長を教えてください。

受賞理由は、審査員からは、「長年にわたって蓄積された医学教育のデータを活用し、情報をアクセシブルでわかりやすい形で閲覧できるアプリが実装されている点を評価した。専門家だけでなく専門家以外のユーザーにも配慮されていることに好感を持った。」というコメントをいただきました。

「MEDITOR」は、弊社が2023年12月にリリースした医学教育アプリケーションです。

特長はカラダに関わる3DCGモデルが200以上(Premiumプラン)搭載されており、2次元の図では難解であった解剖学的理解が大幅に向上します。

また、子供から大人まで楽しく簡単に3Dを操作できます。自由自在に角度や色を変更し、ワンクリックでイラスト素材としてダウンロードできるので、発表資料やノート作りに、先生はプリントやテスト作りに使える、画期的な教育教材アプリケーションです。

Q16.会社を設立されて嬉しかった点、ご苦労された点を教えてください。

時間はかかりましたが、メディカルイラストレーションの業態の仕組み作りができたことです。

苦労した点は、創業当時にどうすればメディカルイラストレーターが日本において根づくのかをビジネスのプロたち、あらゆる業種の経営者1,000人以上に聞いて回ったことです。

Q17.クライアントとして獣医師から依頼がありますか?また費用はいくらぐらいかかるのでしょうか?

主にサージカルの先生方からのご依頼が多いです。メディカルイラストレーションの価格は内容の複雑さや表現の難易度によって大きく変わりますが、論文のイラストは特に難易度が高いので、20、30万円以上といった価格帯になります。弊社のメディカルクリエイターチームは「言われたものをそのまま描く」のではなく「どのような見せ方をすれば最も分かりやすいか」、というコンサルテーションから伴走します。そのため、獣医師の先生方の手術を実際に見て、先生がイラストについて悩む時間を削減し、完全にお任せいただけるという点でご好評いただいております。

Q18.今後LAIMAN社をどのような会社にして行きたいですか。また、今後取り組まれること、チャレンジしたいことを教えてください。

弊社が開発運営している医学教育Webアプリケーション「MEDITOR」と、みなさま誰もがご存じの「理科室の人体模型」がタッグを組み、2025年春から全国の小中高校の理科教材として子どもたちの教育現場に展開します。人体模型が1体あれば、添付のQRコードから個々の生徒のデジタル端末で「MEDITOR」︎の医学3DCGモデルにアクセスでき、全ての子どもたちが同時に人体について楽しく学習することができます。

また、2025年春からは、弊社の運営するメディカルイラストストックサイト「LAIMAN Stockweb」が、厚生労働省に正式導入が決定いたしました。

日本では、子どもの頃から大人になるまで、自分自身のカラダについて学ぶ機会が少なく、自身や大切な家族が病気になって初めてインターネットで医学情報を調べます。医学情報が氾濫する時代において、正しい情報を精査し、正しい判断をするためには、子どもの頃からカラダについて正しく知ることが非常に重要です。

日本人の誰もが一度は触れる「理科室の人体模型」と「MEDITOR」のコラボレーションによって、子どもたちが人体に興味を持ち、正しい知識を身につけ人生を歩むことは、ヘルスリテラシーの向上、医師不足の解消や女性の社会活躍推進、医学医療技術の発展にまでつながるかもしれません。超専門家との長年のお仕事で得られたノウハウをもとに、これからはメディカルコンテンツを一般の方々、子どもから大人まで、すべての人にわかりやすく噛み砕いてお届けしたいと思います。

専門性の高い分野を含めて、世界中の医学教育を支えたいです。

そして、すべての人が医療・医学を理解できる世の中にしたいと思っています。

Q19.海外展開は考えていますか?また何処の国で拠点を考えていますか?

海外展開は考えています。拠点先はいくつか検討していますが、具体的には今後判断したいと思います。

Q20.会社を設立して獣医師の資格で役立ったことは何ですか?

ウェットラボの獣医師だったので、迫力/説得力/交渉力/耳を傾けてくれるというメリットがありました。初期は業界を創り上げるというゼロからのスタートだったので、きっかけとして獣医師免許があることは重要でした。

Q21.メディカルイラストレーションの仕事を設立する上でご両親等の影響を何か受けたと思われますか?

祖父が薬の化学者だったので、身近に美しいサイエンス雑誌が多かったです。

薬剤師の母が科学雑誌をたくさん買ってくれました。

父がカーデザイナーなので、絵の世界の厳しさと、絵のテクニックを教えてくれました。

Q22.御社にどのくらいの獣医師が働いているかを教えてください。

獣医師は少ないですが愛玩動物看護師が多いです。また、獣医師なら新卒としてスタート地点としては有利ではないかと思います。

Q23.御社に対して就職を希望する獣医学生に対して先輩としてメッセージやアドバイスをお願いいたします。

視野の広さ、視座の高さを持って欲しいです。何事にも興味を持つことも重要です。

素直さや人間力、感謝の気持ちを持つこと、伝えることが人生で最も大切です。

“好き”のパワーはとっても強いです。何かに夢中になっていることがあれば、そこから仕事につながるアイデアや行動力が生まれるかもしれません。

編集後記

今回はLAIMAN社を設立された獣医師であり代表取締役の永田徳子先生にお話をうかがいました。日本獣医学生協会(JAVS)の麻布大学での取材の際に訪問して欲しい会社としてLAIMAN社の名があがり、今回のインタビューを実現させました。

医師が一般の人に説明を行う時や専門が異なる医師同士での伝達に、ビジュアルという視覚情報があれば、よりスムーズにわかりやすくなる。すべての人にとって分かりやすい「視覚情報」をとの思いで、わかりやすく優しいビジュアルコンテンツを制作し、この分野を事業として成り立たせたLAIMAN社には敬服いたします。

学術論文への質の高いビジュアルの要望を考えると、「メディカルイラストレーター」の需要は今後増えて行くでしょう。インパクトファクターだけでなく、引用数、閲覧数、さまざまなポイントにおいて、論文中のイラストは重要な位置を占めるのではないかと考えられています。

また、多大な努力の末に生み出された医学教育アプリケーションである「MEDITOR」が2024年のグッドデザイン賞を受賞されたことは、素晴らしいことです。「理科室の人体模型」と「MEDITOR」のタッグによる人体模型とQRコードが合わさった革命的な理科教材は、子供たちの知的好奇心を高め、楽しく人体について学習することができるようになるでしょう。

メディカルイラストストックサイト「LAIMAN Stockweb」が、2025年春に厚生労働省に正式導入が決定したことは、今後の飛躍が期待されるものです。また、海外展開も大いに期待できます。LAIMAN社のますますの発展を祈念しております。

動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。

シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」