HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
記事提供:動物医療発明研究会
インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
国内外の各分野で活躍されている獣医師の先生方の取材記事を掲載しています。日本獣医学生協会(JAVS)とのコラボレーションで獣医大学を訪ねた際に、学生さんから厚生労働省に勤務されている獣医師の仕事について知りたいとの要望があり、厚生労働省獣医系技官にインタビューを行いました。
今回はその第1回目として厚生労働省 健康・生活衛生局 食品監視安全課 乳肉安全係 高橋真央先生(写真1)にお話をうかがいました。高橋先生は、入省1年目から厚生労働省獣医系技官を含む公衆衛生獣医師確保業務を担当されており、その話を中心にインタビューを行いました。
(取材日:2025年5月21日)
Q1.就職先として厚生労働省獣医系技官を選ばれた理由を教えてください。
大学の講義を通じ、また地方自治体でのインターンシップに参加する中で、公衆衛生という獣医師の知識を活かして広く人のために働くことができる分野に魅力を感じました。
その中で、厚生労働省の獣医師は、国という立場で広いスケールで業務にあたることができて面白そうだと考え、厚生労働省の獣医系技官を希望しました。
Q2.高橋先生が現在行われている、厚生労働省獣医系技官を含む公衆衛生獣医師の確保業務について教えてください。
公衆衛生業務に従事する公務員獣医師の充足状況については、都道府県によって事情は異なるものの、全国的には横ばいの状況となっています。一方、厚生労働省の獣医系技官採用試験受験者数は年々減少していることに加え、一部の地方自治体からは慢性的な公務員獣医師の不足に陥っているとの声があります。
よって、厚生労働省としては、地方自治体も含めた公衆衛生獣医師の確保業務が重要となっています。業務の中での具体的な取り組みについて、以下でご紹介します。
①厚生労働省の獣医系技官確保業務
毎年、獣医系大学の学生さんや獣医師として働いている方々を対象に、業務説明会を複数回実施しています。その他、昨年度は厚生労働省獣医系技官のパンフレット、ポスター及びクリアファイルの作成や、近隣の大学に赴いての説明会を実施しました。
~業務説明会について
令和6年度は6回開催し、全体で160人(重複あり)の方々の参加がありました。広報時には、リーフレットの作成、各獣医系大学及び学生への周知、SNS等への投稿を行うことで幅広い周知を図るほか、現地及びオンラインのハイブリッド形式を用いることで遠方に住んでいる方も参加可能な形とするなど、工夫していました。
令和6年度の「厚生労働省獣医系技官 業務説明会」の開催実績は次の通りです。
- 令和6年5月1日:オンライン受験説明会-1回目0名、2回目1名、3回目2名
- 令和6年5月27日・28日:インターシップ説明会-27日9名、28日16名
- 令和6年8月27日:業務説明会&政策立案ワークショップ-現地2名、オンライン10名
- 令和6年12月26日:業務説明会-第1部 現地2名・オンライン21名、第2部 現地7名・オンライン12名
- 令和7年2月1日:霞が関OPENゼミ-第1部 現地3名・オンライン19名、第2部 現地7名・オンライン12名
- 令和7年3月28日:業務説明会-第1部 現地3名・オンライン18名、第2部 現地2名・オンライン14名
~パンフレット及びポスターについて
厚生労働省で働く獣医系技官の情報を多く盛り込んだパンフレットを作成し(写真2)、各獣医系大学への配布や厚生労働省獣医系技官Webサイトへの掲載を行いました。
加えて、採用試験の日程が固まった後には、その情報を記載したポスター(写真2)も作成のうえ、同様に各獣医系大学への配付や厚生労働省獣医系技官Webサイトへの掲載を行いました。
~クリアファイルについて
令和6年度は、厚生労働省で働く獣医系技官の存在や業務内容を幅広く知ってもらうために、クリアファイル(写真3)を作成のうえ各獣医系大学への学生さんを対象に配付を行いました。(参照:JVM NEWS2025-01-06「厚生労働省獣医系技官の認知度アップへ」)
デザインは、食品や感染症などの公衆衛生分野に係るイラストを盛り込んだものとし、裏面には厚生労働省獣医系技官WebサイトにつながるQRコードを掲載することで、厚生労働省で働く獣医系技官の存在を知ってもらうきっかけとなることを目的としました。
②公衆衛生獣医師全体の確保
地方自治体も含む公衆衛生獣医師全体の確保業務の一環として、厚生労働省の獣医系技官が、毎年全国の獣医系大学を対象に国及び地方自治体で働く公衆衛生獣医師の業務内容に関する講義を行っています。加えて、昨年度は公衆衛生獣医師のポスター(写真4)も作成しました。
~講義について
令和6年度は、全国の獣医系大学(17大学)の学生さんを対象に、講義を実施しました(写真5)。講義後には、座談会という形で自由に学生さんから質問を受け付ける時間を取ることで、少しでも公衆衛生獣医師に興味を持って貰える学生さんを増やせるよう、工夫しています。なお、私は17大学のうち、以下の3大学にて講義を実施いたしました。
- 宮崎大学:令和6年7月4日実施
- 帯広畜産大学:令和6年7月8日実施
- 岐阜大学:令和6年12月11日実施
~ポスターについて
令和6年度は、国及び地方自治体で働く公衆衛生獣医師の写真を集め、フォトモザイクとしたポスター(写真4)を作成しました。
デザインは、と畜検査を行っている獣医師や動物の画像を入れ込むことで、ワンヘルスの担い手として活躍する公衆衛生獣医師の姿を想起させるものとしました。このポスターは、各獣医系大学へ配付したほか、地方自治体でのリクルート活動等にも活用いただくため、可変媒体への配布も行いました。
Q3.新たな試みとして令和6年度に作成されましたクリアファイルで、特に工夫されたところやこだわりの部分はございますか?
クリアファイルの表の部分は、食品や感染症などの公衆衛生分野に係る厚生労働省の獣医系技官の仕事についてイラスト風にしてわかりやすくしています。
具体的には、左上が、牛、馬、豚、羊、山羊、鶏、七面鳥などの動物や牛乳や肉、それらに由来する細菌などをイラストにし、厚生労働省の獣医系技官として働く中で日頃から関わりのある「と畜場法」や「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」等をイメージできるようなデザインにしています。右上は、輸入で取引される代表的な食品等です。具体的には、アボカド、レモンなどの果物、肉、ワイン、積み木のおもちゃなどについて、厚生労働省の職員が「食品衛生法」に基づいてチェックしているイメージです。その下は、コウモリ、プレーリードッグ、マーモセットなど、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づいた規制の対象となっている動物、それらを通じて媒介される可能性のある動物由来感染症の病原菌等やそれを持ち込む可能性のある飛行機を配置し、厚生労働省の職員が感染症の発生を未然に防いでいる状況をイメージしています。
クリアファイルの裏面は、厚生労働省獣医系技官のWebサイトにつながるQRコードを掲載しています。上側に犬の絵がありますが、「狂犬病予防法」に基づき犬には鑑札が描かれているのがポイントです。下の絵は、国という立場で海外の方々とやりとりすることが多いため、厚生労働省の獣医系技官のグローバルな仕事をイメージしたものです。
クリアファイルは、清潔感のある薄いグリーンを基調としたすっきりとした色合いにすることで、学生さんに日頃から使ってもらいやすいデザインとしました。
Q4.作成されたポスターの反響について教えてください。国及び地方自治体で働く公衆衛生獣医師の写真を集めたとの記載がありますが、何人の方が掲載されているのでしょうか?またその中に高橋真央先生の写真もございますか?
反響ですが、かなり評判が良いと聞いています。特にフォトモザイクについて、地方自治体の職員の方々からも褒めていただけることが多いです。また、犬と人の手がハイタッチをしている絵やと畜検査員をイメージした絵を配置することで、ワンヘルスの担い手となる公衆衛生獣医師の業務をよく表しているポスターであるとのコメントもございました。
このポスターは、国や地方自治体で働く公衆衛生獣医師約350名の写真で構成されています。私もポスターの中に写真が掲載されています。
また、このポスターは厚生労働省にて製作しましたが、ありがたいことに全国の地方自治体職員の皆さまに御協力いただけたことに加え、環境省、全国公衆衛生獣医師協議会、公益社団法人日本獣医師会、特定非営利活動法人獣医系大学間獣医学教育支援機構にも協賛いただきました。
Q5.厚生労働省の獣医系技官として入庁されてから、現在までの先生の経緯を教えてください。
令和7年度で入省4年目になります。
入省してからはずっと本省(霞ヶ関にある厚生労働省の建物)の食品監視安全課というところにいますが、その課内での異動は2度経験しました。
はじめの配属先は食品監視安全課の輸入食品安全対策室で、その名の通り輸入食品の安全確保や、牛肉等の日本への輸入条件に係る外国との協議等を担当していました。
入省2年目の6月には輸出先国規制対策室へ異動となり、今度は日本からの牛肉等の輸出に関して、農林水産省とも連携しつつ、外国との輸入条件協議や、地方自治体・事業者の方々からの照会、と畜場の輸出認定に係る対応を行っていました(写真6)。
今年度は乳肉安全係へ異動となり、現在は国内の畜産物に関する安全性の確保に関する業務を担当しています。
また、上述の業務と併行し、入省1年目から公衆衛生獣医師確保業務も担当しています。はじめのうちは、厚生労働省獣医系技官採用試験のお手伝いや大学講義の調整等を行っていましたが、入省3年目からは、実際に一部の獣医系大学にて講義を実施する機会をいただく等、より表に出るような業務も行っています。
Q6.入省1年目から輸入食品安全対策室や輸出先国規制対策室など国と国との大事な業務に携われていますが、海外出張などがございましたか?また、海外出張時にはどのようなことをされましたか?
輸入食品安全対策室時代に3回、輸出先国規制対策室時代に2回、合計5回海外出張に行きました。
例えば、輸入食品安全対策室での海外出張時には、実際に日本が牛肉等を輸入している国を訪問しました。その中で、その国の職員の方々から国内の牛肉の衛生管理方法や二国間で取り決めた輸入条件の運用等の説明を受けたり、実際にと畜場を訪問し、条件に沿った適切な管理がなされているかどうか、日本がその国から牛肉等を輸入するにあたって問題がないかについて、確認したりしました。
Q7.高橋先生の業務は、大きく食品監視安全課の乳肉安全係と公衆衛生獣医師確保業務の2つがございますが、それぞれの業務のウエイトはどのような状況ですか?
時期により変動しており、採用試験の募集時期は、獣医師確保業務のウエイトが高くなる状況です。
Q8.高橋先生が今までの厚生労働省獣医系技官を含む公衆衛生獣医師確保業務で経験された中で、うれしかったこと、残念だったことを教えてください。
・うれしかったこと
業務説明会や各獣医系大学での講義を通じ、学生さんに公衆衛生分野で働く獣医師の存在及びやりがいを新たに知ってもらえたことです。
公衆衛生分野で働く獣医師は、縁の下の力持ち的な存在で、一般的にはイメージしづらい職種だと思いますので、学生さんから公衆衛生分野に興味が湧いた、将来の進路の選択肢として考えたい、と言ってもらえた時は嬉しかったです。
・残念だったこと
業務説明会を開催しても、参加者があまり集まらなかったことです。
学生さんのうちから公衆衛生分野に興味を持ってくれる人を増やせるよう、頑張らなければいけないなと感じ、より広報等に力を入れるようになりました。
Q9.高橋先生が厚生労働省獣医系技官を含む公衆衛生獣医師の確保を進めていく上で大切にされていることやポリシーは何ですか?
ひとえに獣医師と言っても、就職先は様々あります。
学生さんと接する際には、まずは公衆衛生獣医師の存在を知ってもらい、将来の進路の選択肢の一つとしてもらえるよう心掛けています。上の質問でも述べたように、公衆衛生は我々が生活する基盤を支えているとても重要な分野ですが、あまり表に出る機会がないと考えています。そのため、公衆衛生獣医師の必要性や、どのような分野でどのように貢献しているのかを、まずは広く周知することが大切だと考えています。
Q10.高橋先生は厚生労働省獣医系技官を含む公衆衛生獣医師の確保業務をされていますが、自分がどのような部分で業務に貢献されていると思われますか?
先ほど申しあげたこと(Q8への回答)と重複しますが、業務説明会や各獣医系大学での講義を通じ、学生さんに公衆衛生分野で働く獣医師の存在及びやりがいを新たに知ってもらい、興味が湧いた、将来の就職先として考える、と言って貰えた際は、少しは現状の公衆衛生獣医師不足の解決に貢献することができたのかな、と思います。
<後編に続く>
シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」
- (1)米国 五十嵐和恵先生
- (2)米国 五十嵐和恵先生
- (3)ゾエティス・ジャパン株式会社 鍵和田哲史先生
- (4)VMAT 関 一弥先生
- (5)エランコジャパン株式会社 福本一夫先生
- (6)ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 篠崎夏歩先生
- (7)ベ-リンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパン株式会社 大槻朋子先生
- (8)林兼産業株式会社 飼料事業部 アクアメディカル・ラボ 藤田幸辰先生
- (9)日本全薬工業株式会社(ZENOAQ) 加藤正浩先生、池 慧詩先生
- (10)エキゾチックアニマル診療 アンドレ動物病院 戸﨑和成先生
- (11)共立製薬株式会社 御手洗すみれ先生
- (12)メディカルイラストレーター LAIMAN社 代表取締役 永田徳子先生
- (13)エキゾチック動物診療 日本エキゾチック動物医療センター 三輪恭嗣先生
- (14)農林水産省 消費・安全局 畜水産安全管理課 水産安全室 国際水産防疫専門官 高橋延之先生
- (15)エキゾチック動物診療 田園調布動物病院 田向健一先生
- (16)ロイヤルカナン ジャポン合同会社 井上 舞先生
- (17)米国アイオワ州立大学 獣医学部腫瘍科 村上景子先生:前編
- (18)米国アイオワ州立大学 獣医学部腫瘍科 村上景子先生:後編


