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■【寄稿】獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力(23) 上越市立水族博物館 うみがたり

2026-07-13 17:43 掲載 | 前の記事 | 次の記事

写真1、写真2

写真3~写真7

写真8~写真11

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

JVM NEWSに「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」を不定期に連載しています。

前回は、横浜・八景島シーパラダイスの獣医師へのインタビュー記事を載せました。

今回は、上越市立水族博物館 うみがたり(写真1)に勤務されている獣医師の田中彩瑛先生(写真2)にお話をうかがいました。

(取材日:2026年5月27日)

Q1.上越市立水族博物館 うみがたりの特色を教えてください。

日本海に生息する生きものを中心に飼育展示しています。

目の前に広がる日本海を表現した「うみがたり大水槽」には自然光が降り注ぐなか、コブダイ、ホシエイなどの生きものがくらしています。日本海の海底地形を1万分の1のスケールで再現しているジオラマ水槽になっています(写真3)。

そのほか、躍動感あふれるドルフィンパフォーマンスや飼育数日本一のマゼランペンギン、ゴマフアザラシなど魅力いっぱいです。

Q2.「うみがたり大水槽」、「イルカスタジアム」、「マゼランペンギンミュージアム」の特徴や見どころを教えてください。

「うみがたり大水槽」は、目の前に広がる日本海を表現しており、自然光が降り注ぐなか、コブダイ、ホシエイ、メバルなど日本海に生息する生きものがくらしています。角度によってみられる生きものや景色が違ってご覧いただけるのも特徴です(写真4)。

「イルカスタジアム」は、バンドウイルカとトレーナーによるパフォーマンスが見られるスタジアムで、日本海を借景にパフォーマンスが繰り広げられます。冬期は会場を下階の「イルカホール」に移し、幻想的な水中ドルフィンパフォーマンスを実施します(写真5)。

「マゼランペンギンミュージアム」では、100羽以上のマゼランペンギンがくらしており、飼育数は日本一です。毎年多くのヒナが誕生し、1年を通して繁殖行動や子育ての姿、ヒナの成長する姿を間近で観察できます(写真6、7)。

Q3.マゼランペンギンの飼育数が日本一という実績から、アルゼンチン政府から生息域外重要繁殖地として上越市立水族博物館 うみがたりが指定されました。この指定は、日本の水族館では初めてのことでしょうか?

そうです。

Q4.マゼランペンギンは他のペンギンと飼育方法が異なる点はありますか?

当館ではマゼランペンギン1種類のみを飼育しています。

マゼランペンギンだから~というよりは、「飼育環境が屋外だから」気を付けなければいけない点は多くあります。マゼランペンギンは土の上で休息したり、営巣したりしますので、アスペルギルス症や鳥マラリア症には注意が必要です。

土のエリアについても清掃をしっかり行い、その後乾燥させるように気を使っています。水たまりがあると蚊の幼虫であるボウフラが発生しますので、整地し乾燥させるように気を使っています。

当館の場合は、毎月(夏期)全羽マラリア症の予防投薬を行っているのが特徴的な点の一つです。羽数が多いので時間がかかりますが、この予防投薬に助けられています。

また、屋外は雨や風、直射日光にさらされますので植栽で木陰を作ったり、日よけを設置したりしています。

Q5.マゼランペンギンの子育ての方法ですが、人工飼育と親に育てさせるケースとどちらが多いのでしょうか?

親に育てさせるケースが多いです。

Q6.マゼランペンギンには毎月全羽マラリア症の予防薬を投与するとのことですが、どのような薬を与えるのでしょうか?また投与期間はどのくらいでしょうか?

人体用の薬であるヒドロキシクロロキン(製品名:プラケニル錠)を使用しています。投与期間は蚊の発生する時期で、昨年は3月から12月に投与しました。

Q7.上越市立水族博物館 うみがたりが入館者に伝えたいことは何でしょうか?

展示やイベントを通じて生きものや日本海の魅力を伝え、お客さまの生物理解や環境問題への興味関心を引き出し、当館のある新潟・上越に愛着を、地元の方々には誇りを持ってもらうことを目指しています。

Q8.興味を持ってもらうために、伝えて行くための工夫がありましたら教えてください。

常設展示のほか、企画展・特別展の実施、イベントの実施、学校向けの教育プログラムやサステナビリティ活動など多岐にわたる活動を通して、楽しみながら生きものについて学べる機会を創出しています。

Q9.上越市立水族博物館 うみがたりのロゴですが、3つの色の意味と、どんな想いがこめられているのかを教えてください。

「うみがたり大水槽」の上部にある、「日本海テラス」からの絶景をイメージし、下の青から、「大水槽」「日本海」「夕日」を表しています(写真8)。

Q10.飼育されている主な動物を教えてください。

魚類以外では、マゼランペンギン、ゴマフアザラシ、バンドウイルカを飼育しています。

Q11.何名の獣医師が勤務されていますか。また役割分担はどのようにされているのでしょうか?

獣医師は1名です。魚類・海獣の両方を担当しています。海獣類(主にペンギン)の飼育も担当しています。

Q12.獣医師と飼育の仕事の比率を教えてください。また、海獣類の飼育が獣医師の診療業務に役立っていることは何でしょうか?

飼育:獣医=8:2くらいです。

診療が続く時などはこれよりも獣医業務が多くなるので、一概にというわけではありません。

海獣類の飼育が診療に役立つことは…全部だと感じています。例えば、ペンギンで魚を飲み込みづらそうにしている場合、単に口が小さいだけかもしれないですし、肺や気嚢の炎症が気管に波及して気管壁が肥厚して食道を圧迫している可能性もあります。

自分でも給餌をして観察しているのである程度鑑別ができます。早めに検査をできれば、早期発見にもつながります。最近食べる勢いがなくなってきたな…太りすぎか病気のどちらか?となった場合も、過去の同じ時期や最近の様子と比較してどちらに近いのか判断しやすいです。

飼育業務をしっかり行うことで、飼育スタッフとの垣根がなくなるので、みんな早めに相談してくれますし、処置をする時もコミュニケーションをとりやすいです。

Q13.田中先生が獣医師になられた理由と上越市立水族博物館 うみがたりを就職先として選ばれた理由を教えてください。

幼少期によく連れて行ってもらっていた鴨川シーワールドのイルカ・シャチのショーが大好きで、小さい頃の夢はドルフィントレーナーでした。

高校生になり水族館で働くための方法を調べていく中で、初めて獣医師という職業を知りました。飼育に加えて医療面の知識があるとより動物たちに貢献できるかもしれないと思い水族館獣医師を志すようになりました。

自分が就職活動をしていたタイミングは、コロナ禍ということもあり特に求人数が少なく、また、ライバルも多く簡単には実現しない夢でした。動物病院、産業動物業界を経て、4年が経過してしまいました。

今のままでよいのか…とずっと悩んでいました。臨床経験がないと受験できない園館が多い中で、ようやく出会えたのが上越市立水族博物館でした。

これがダメならもう諦めようと思っていたので、本当に運に恵まれました。

Q14.いつからご勤務されていますか?

2025年2月からなので2年目です。

Q15.産業動物業界をご経験されていますが、どのような業務をされていたのでしょうか?

乳牛・肥育牛のコンサルタント業務を実施していました。主に飼料設計(どんな餌にすると、乳量が増えるのか、肉量が増えるのかなど)や、血液データに基づく牛群管理などを行っていました。

Q16.田中先生が上越市立水族博物館 うみがたりに転職されて嬉しかったことや残念だったことを教えてください。

  • 嬉しかったこと
  • 飼育業務ができること。水族館では獣医師である前に1人の飼育スタッフとして働いています。
  • 飼育に携わることで、健康な時の動物の状態を把握することができ、痩せていたり、食欲がなかったりという異変に気付きやすくなりました。あとは、日本海側は天気がわるいと聞いていましたが、思っていたよりも晴れる日が多いので嬉しかったです。
  • 残念だったこと
  • 生きものの死は残念であり、悲しく、悔しいことです。もっとこうしておけば助けられたかもと思うこともあり、不甲斐なさで眠れない日もあります。

Q17.治療を実施する上で参考とされているものは何でしょうか?

『CRCのハンドブック』は海獣類の基本的な生理学や解剖学について知りたい時に使用しています。図解のページもあり参考になります。

『海獣診療マニュアル』もかなりの頻度で読みます。よく出会う症例が載っているので経験値が少ない自分の助けになっています。ペンギンの薬用量に関しては、『エキゾチックアニマルの治療薬ガイド』も参考にしています。

Q18.田中先生が加盟あるいは参加される国内外の協会・学会を教えてください。

現在は加盟していないのですが、水棲生物医学会や鳥類学会に興味があります。

しっかり勉強して参加できるようになれたらなと思っています。あと当館では、眼の疾患もみられるので眼科についても勉強していきたいです。

Q19.どのような眼の疾患があるのでしょうか?

白内障がみられます。老齢になると目が白濁してくる個体もいるので点眼薬で進行を遅らせるなどしています。角膜炎などもみられます。

Q20.診療上、開発して欲しい医療器具、薬剤あるいは剤形、書籍、学術データなどはありますか?

うみがたりはペンギンの羽数が多く、その分症例も多岐にわたるためペンギンに関する医療書籍があったら嬉しいです。日本の園館で協力したら作れるかもしれないですね。

ペンギンの撮影がしやすいX線装置がほしいです。今のポータブルタイプは設定が難しく、特に脚部の撮影には苦労します。

あとは、魚類チームでマンボウの長期飼育を目指して頑張っているので、マンボウに関する知見が集まったものがあるとうれしいです。

Q21.マンボウの長期飼育で苦労されていることを教えてください。

マンボウの飼育で苦労したことには、以下のようなものがあります。

まず、外見からは病状が判断しきれないことです。

例えば過去に飼育したマンボウは、前日まで餌食いは良好であったものの、突然痙攣して急死した件がありました。

解剖して病理検査を行ったところ、肝臓に異常が起きていたことが判明しました。生前に肝臓の異常を知るには採血が有効ですが、マンボウの採血は難易度が高く、他の園館ではエコーをあてて血管の位置を探したりしているそうですが当館では実例がありません。

今後挑戦していきたいことの一つでもあります。

Q22.飼育されている海獣類や魚類の主な疾病を教えてください

うみがたりはペンギンの症例が多いです。

上越は天気が荒れやすく、夏は横殴りの雨風、冬は積雪という厳しい環境条件です。屋外飼育で土の上で生活しており、アスペルギルス症やマラリア感染症がみられます。

また、趾瘤症の発生もみられます。趾瘤が大きくなってしまってからでは外科的処置ができないので、早期発見や予防は当館の課題の一つだと思います。

魚類の疾病としては大型繊毛虫が課題です。魚類チームでいろいろな方法を試していますが、なかなか根滅には至りません。大型繊毛虫の特効薬が見つかっていないため、試行錯誤中です。

Q23.今後チャレンジしたいことは何でしょうか?

ペンギンのことばかりになってしまいますが…ありがたいことにマゼランペンギンの繁殖が上手くいっています。

裏を返せば今後遺伝的多様性という点が大きな課題になってくるとも言えますので、血統更新手段の1つとして外部血統の精液を用いた人工授精ができたらよいなと思っています。

施設名に“博物館”という名がついているので、骨格標本の充実など、博物館らしい展示を取り入れられたらよいなとも考えています(写真9)。また、新しいことがわかったら、しっかりと形(論文)に残したいですね。

Q24.水族館の集客のために何か企画されていることはありますか?

近年は人気キャラクターとのコラボ企画にも力を入れています。

当館の新たな楽しみ方の提供のほか、これまで水族館に足を運ぶ機会のなかったお客さまにお越しいただき、生きものの魅力に触れ、新しい発見を促し、生きもののファンを増やしたいという思いがあります(写真10)。

Q25.水族館の獣医師として就職を希望している獣医学生へのアドバイスをお願いします。

1か所でもよいので実習に行くことをお勧めします。よい意味でも、わるい意味でも思っていた通り・思っていたのと違うなどの感想が出てくるかと思います。

私は獣医実習、飼育実習のどちらも経験しました。その上で獣医業務だけでなく、飼育業務ができる園館で働きたいと考えました。

あとは精神論になりますが、諦めない気持ちでしょうか。

Q26.この先の目標(どんな水族館にして行きたいか、目標に向けての自分の役割)を教えてください。

地方という土地柄を活かし、お客様にとって親しみのある水族館にしていけたらよいなと考えています。特にペンギンは屋外で飼育していますので、作業中にお客様と会話をすることも多くあります。「飼育スタッフと近い距離で話せることはあまりないからいいね」と嬉しいお言葉をいただいたくこともあります。

生きものたちにとっても快適にくらせる環境整備をしたいです。

Q27.他の水族館や獣医大学との技術的な面での交流がありますか?

グループ園館の獣医師の皆様にはたくさん助けていただいています。

横浜・八景島シーパラダイス、マクセル アクアパーク品川はもちろん、羽村市動物公園、台湾Xparkの獣医師の方々からもアドバイスをいただくことができます。

自分だけで考えていても煮詰まってしまうこともあります。多角的な視点から意見をいただくことで生きものにとってよりよい選択ができると思います。

私の場合、治療に関する相談だけでなく飼育環境の改善方法についても相談することがあります。掃除のやり方1つとっても大きな影響があります。おかげさまで、アスペルギルス症の発生を抑制できました。

Q28.具体的にどのようなことを相談されるのでしょうか?

グループ園館の獣医師で構成されるチャットがあります。私は結構な頻度で相談をしています。

具体的な症例をあげるときりがないので難しいのですが、今やっている治療が上手くいかないときに次の一手を相談したり、超音波検査画像の見方について聞いたり…本当にいろいろです。いつも丁寧に教えてくださります。しっかり成長して、いきものたちの健康を維持することで恩返ししたいです。

Q29.どのような掃除をした結果アスペルギルス症の発生が抑制されたのでしょうか?

換気と乾燥を意識し、以下のように対応を変えました。

  • ①人工芝の糞を落とした後、人工芝はかけて干す
  • ②人工芝の下の床を流してブラシでこする
  • ③一度完全に水を切る
  • ④微酸性電解水を撒き消毒
  • ⑤もう一度水分をしっかりと切る
  • ⑥乾いた人工芝をもどす
  • ⑦常時換気を行う(夜間は扇風機の使用)

しっかり掃除し、乾燥した状態を維持することで新規罹患がなくなり、こんなにも違いが出るのかと驚いたことをよく覚えています。

Q30.国内外で参考にしたい、あるいは訪問してみたい動物園・水族館を教えてください。また、その水族館を選ばれた理由も教えてください。

  • プラハ動物園(チェコ)
  • 世界最高峰のアニマルウェルフェアと言われているからです。
  • 上海海昌海洋公園(中国)
  • 大きなシャチがいることで有名ですよね。シャチ好きとしてはぜひ行ってみたいです。

編集後記

今回は新潟県直江津駅から徒歩15分の距離にある上越市立水族博物館 うみがたり(以下うみがたりと略す)の田中彩瑛先生にインタビューをいたしました。

うみがたりの特徴は大きく3つあります。

1つ目は、日本海の海底地形を1万分の1のスケールで再現しているジオラマ水槽があることです。角度によってみられるコブダイ、ホシエイなどの生きものや景色が違って見えることも魅力です。

2つ目は、マゼランペンギンミュージアムです。100羽以上のマゼランペンギンがくらしており、飼育数は日本一です。毎年多くのヒナが誕生し、1年を通して繁殖行動や子育ての姿、ヒナの成長する姿を間近で観察できます。マゼランペンギンの飼育数が日本一という実績から、アルゼンチン政府から生息域外重要繁殖地として、うみがたりが指定されました。この指定は、日本の水族館では初めてのことです。

3つ目は、うみがたりの建物の外観や施設内に併設されているレストラン(写真11)がスタイリッシュでオシャレなことです。1945年に創刊されたフランスを本国とする女性ファッション雑誌であるELLEの『建築やデザインを楽しめる、美しい水族館【2023最新】』の国内外水族館の第5位にランキングされています。レストラン名『Restorante Los Cuentos del Mar』はスペイン語で、「海の物語」を意味します。スペイン語が用いられているのは、同水族館が日本一のマゼランペンギン飼育数を誇り、ペンギンの主な生息地であるアルゼンチンの公用語がスペイン語であることにちなんでいます。

田中彩瑛先生は、2025年2月からの勤務でまだ2年目ですが、獣医師でありながら海獣類の飼育員も兼任されています。

獣医師としての業務と海獣類の飼育業務の比率が2:8と飼育業務に重点を置いているため、飼育動物の異変にもいち早く気づき、早期に対処することにより、病気を未然に防ぐという予防医学の観点で対応ができている点が素晴らしいと思いました。田中先生の経歴、乳牛・肥育牛のコンサルタント業務において乳牛・肥育牛を群管理し、予防的なコントロール対策をされていたご経験が今の業務にも生かされていると思いました。

また、田中先生はグループ園館の獣医師の方々に治療に関する相談だけでなく、飼育環境の改善方法についての相談もされています。その結果、ペンギンに多いアスペルギルス症の発生を、清掃により抑制できたことは特筆すべき点でしょう。

血統更新手段の1つである外部血統の精液を用いたマゼランペンギンの人工授精へのチャレンジを含めて、今後の田中先生の活躍を期待しております。

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シリーズ「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」