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■獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力(10)大成建設株式会社

2024-05-01 16:24 | 前の記事 | 次の記事

写真1 左から筆者、小菅 智室長、渕 清和室長、原田健介 氏

写真2A:四国水族館 イルカプール(画像提供:大成建設株式会社、撮影:清水向山 氏)/2B:四国水族館 太平洋の黒潮を再現した大水槽 綿津見の景(画像提供:大成建設株式会社 撮影:北村 徹 氏)/2C:すみだ水族館 人工海水製造システム(画像提供:大成建設株式会社)/2D:イラストで読む建築 日本の水族館五十三次/2E:神戸の水族館 átoaの外観(画像提供:大成建設株式会社、撮影:田中克昌 氏)/2F:神戸の水族館 átoaの日本最大級の球体水槽/2G:神戸の水族館 átoa 水族館の水槽が観える素敵なバーラウンジ

写真3A:すみだ水族館 ペンギン水槽(画像提供:大成建設株式会社、撮影:ナカサ&パートナーズ)/3B:京都水族館の外観(画像提供:大成建設株式会社、撮影:野口兼史 氏)/3C:京都水族館のオオサンショウウオの展示展(オオサン祭)/3D:擬岩も含めて工場で製作して設置した四国水族館の大型ユニット水槽(画像提供:大成建設株式会社、撮影:北村 徹 氏)

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

JVM NEWSとして「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」を不定期に連載しています。

番外編の初回は、水族館や動物園の施設を感動を与えるものにするため、その展示の工夫に関してたゆまぬ努力を続けている世界のアクリル水槽のトップシェアーを誇るNIPPURA株式会社を紹介しました。

今回は、番外編の2回目として全国の水族館工事で業界トップの実績を誇る大成建設株式会社のエンジニアリング本部産業施設プロジェクト部水族館プロジェクト室の小菅 智室長、設計本部建築設計第三部の渕 清和室長、設計本部建築設計第三部アーキテクト 原田健介氏の3人(写真1)にお話をうかがいました。

Q1.大成建設株式会社のロゴは何を意味していますか?

オレンジは明るい未来、ブルーは優れた技術、そしてグリーンは豊かな自然を表しています。かけがえのない地球における、大地や海、あるいは太陽といった自然環境と、それらとの均衡を図りながら、より高く、より深く、より広く活動を続ける私達人間と大成建設とを力強いエネルギーとダイナミックさを込めて表現しています。

Q2.日本の水族館の中でどのくらい水族館の工事に携わってきたのでしょうか?

大成建設は、国内の約175館の水族館の内20館以上を当社が携わっており、水族館建築の設計及び建設において業界トップの実績を誇ります。

代表的なものとして、2000年代では、福島海洋科学館(アクアマリンふくしま:2000年竣工)、新江ノ島水族館(2004年竣工)、エプソン品川アクアスタジアム(現マクセルアクアパーク品川:2005年竣工)、サンシャイン水族館全面リニューアル(2011年8月)、京都水族館(2012年3月)、すみだ水族館(2012年5月)、マクセルアクアパーク品川リニューアル(2015年6月)、仙台うみの杜水族館(2015年7月)、マリンワールド海の中道(リニューアル2017年3月)、サンシャイン水族館天空のペンギン(2017年7月)、上越市立水族博物館うみがたり(2018年6月)、四国水族館(2020年2月)、átoa(2021年7月)があります。

Q3.他社と比較してのアピールポイントはなんでしょうか?

長年積み上げてきた設計と施工の実績とそれに基づく技術力、さまざまな水族館とのネットワークがあります。その実績をもとに、水族館事業者様の様々な「こうしたい」イメージを大成建設のノウハウで具体化します。

強みとしては、業界トップの実績と、開発から運営までの全フェーズに対応できる統合力、水族館建築の設計と施工に関する多様なノウハウ、高品質でありながら運用コスト低減を目的とした新水処理技術です。透明度を維持しながら少ない補給水で生物にとって快適な水槽環境を作り出すことを念頭に置いています。

Q4.水族館事業者の想いや水族館の課題は具体的にどんなものがありますか?

水族館事業者の想いには、集客数を上げたい、ランニングコストを減らしたい、展示や設備の更新を容易にしたいなどがあります。また、水族館の設計の課題としては、展示演出はどうするか、リニューアル時には新規水槽荷重に耐えうるか、水処理配管はどうするか、バックヤードは全体の中でどのような配分とするかなどがあります。

展示演出の例として、四国水族館の場合ではまず海との一体化を目指し生物との隔たりを無くしたイルカプールがあります。飼育員さんと何度も打合せしながら、イルカが飛び出さないような浅瀬の形状を追求しました(写真2A)。プールの観客エリアとプールとの隔たりを無くし、浅場を広く確保しました。生物と観客の距離が非常に近く、ふれあい体験が楽しめる構成になっています。また、夕日をバックにオレンジ色に染まる瀬戸内海と融合したイルカライブは季節により異なる風景を見せてくれます。

もう1つの例として四国南部を流れる世界最大の潮流「黒潮」に暮らす海洋生物をダイナミックに表現した大水槽があります(写真2B)。水槽は奥行き感を感じさせるために側面部や底面部をR構造として、海中の一部を切り取った演出を行っています。観客は、水槽のサイズを感じることなく、どこまでも続く海中世界を堪能できます。アクリル画面前は広いホールとなっており、引いた位置からは、ダイナミックな海中世界を丸ごと鑑賞できます。

水族館事業者の想いや課題を、大成建設のノウハウ(展示・運用、生物生態、水処理技術、建設設計等)を活かし、いっしょになって具体化して対応していきます。

四国水族館については、空間デザインについて、創造性や社会性、革新性、持続可能性等の面で評価され、2020年の日本空間デザイン賞(short list)に選ばれました。

Q5.例えば水族館を設計・施工するにあたり、色々な環境条件がありますが、どのような条件に対応した水族館を工事されたのか具体的に教えてください。

下記の4つのまちづくりタイプの水族館を設計・施工しました。

  • 観光まちづくりタイプ→四国水族館、新江ノ島水族館など
  • 公園活性化タイプ→京都水族館、仙台うみの杜水族館など
  • 複合開発テナントタイプ→すみだ水族館など
  • 立地創造拠点タイプ→átoa神戸ポートミュージアムなど

Q6.水族館を設計する上で、クライアントにはどのような提案をしていますか。

大成建設は、創業以来数多くの水族館のプロジェクトに携わってきた実績を活かし、これからの時代が求める水族館の姿を考えていきます。加えて「事業性」と「環境に配慮」した水族館ソリューションを提案します。持続しながら変わっていくことができる水族館像を提案していきたいと考えます。

Q7.これからの水族館の役割は何だと思われますか?

水族館は、従来「教育」、「レクレーション」、「自然保護種の保存」、「調査・研究」の4つの役割を担う施設として運営されてきました。一方、来館者の水族館への期待は時代と共に変化してきています。大成建設は、時代のニーズに的確に応える水族館計画を提案します。研究だけでなく、情報の発信もさることながら、本物の生物と触れ合う喜びや感動なども届けられるような役割が求められると思います。

Q8.水族館の4つの役割と今後来館者の水族館への期待が何なのか具体的に教えてください。

  1. 「教育」については、従来は、生物・種の生態を学ぶことがメインでした。今後、水中の生物を通して生命の神秘、自然環境への関心などさまざまな分野への好奇心も引き起こします。
  2. 「レクレーション」については、従来は、楽しく過ごしながら「命の大切さ」「生きることの美しさ」を感じ取っていました。今後、癒し・憩い・潤いを感じる空間をそなえ、人々に文化的で上質なレクレーションを提供します。
  3. 「自然保護種の保存」については、従来は地球上の生物を守って次の世代に伝える。絶滅しそうな生物たちを保護し良好な自然環境を保全することです。今後、生物や地球への愛情を感覚的に呼び起こし、環境に対する意識を啓発することです。
  4. 「調査・研究」について現状は、飼育・繁殖・生態・病気などについて、研究することです。今後は、生物の生態・行動を研究し、展示を通じてその成果を社会に発信することになります。

Q9.これからの時代に応える水族館建設で事業性向上や環境配慮が重要なことがらとして、具体的にどんなことを提案されたのでしょうか?

主なものとして集客率の向上、運用コスト削減、省CO2をはじめとした環境負荷低減技術、環境教育があります。

集客率の向上としては、展示の最新化、客層の拡大、他の集客施設の差別化、効果的な宣伝広告、イベント・企画の充実、リピーターの増加などがあります。

運用コストの削減には省エネに配慮した設計に加え、飼育員等スタッフの効率的な運用が可能になるような施設計画を行うことで人件費の削減を図るなどがあります。

省CO2では熱源の高効率利用、自然エネルギーの活用、客数把握による外気取込を最小にする快適な換気計画、透明度を維持しながら補給水の低減を図る水処理技術、プール躯体を利用した蓄熱などがあります。

環境教育には、ラボゾーンとして、飼育員と自由に対話できる「予備水槽室」などバックヤードを積極的に展示活用していきます。また、機械室を「見せる化」するひとつのアイデアとして、ガラス張りの機械室、「見せる」エコシステムなどがあります。学校・学童などに出張飼育などのサテライト教育もあります。

Q10.大成建設は独自の水処理技術をお持ちとのことですが、どのような水処理技術でランニングコストを大幅に低減されているのでしょうか?

3つあります。1番目は、泡沫分離装置を併用した「硝化システム」と「脱窒システム」です。これにより、従来補給海水量が1日あたり総水量の5~10%が必要なところを、1%以下にすることができました。泡沫分離装置で有機物を除去することにより、従来方式よりも飼育に有害な有機物の量が少なくなります。さらに脱窒システムと併用することにより、海水による希釈量を極めて少なくできます。これらのことにより補給水量の低減が可能となり、海水購入費の削減、上下水道料金の削減、水温調整エネルギーの削減につながっていきます。

2番目は、海水再生システムです。水槽のオーバーフロー水、逆洗水など使用済の海水を再生し、ろ過洗浄水として利用システムです。これにより、洗浄水の再利用→使用水量の低減→排水量の低減になります。排水量の低減により下水料金の削減と浄水処理場の負荷低減に繋がります。

3番目に人工海水製造システムです(写真2C)。小型の製造装置で、大量の海水を自動で製造するシステムです。特徴として製造装置の小型化(省スペース化)、短時間に製造、独自の自動制御システムにより少人数にて管理が可能です。人工海水を供給するので海水輸送の必要が無いため環境負荷が少ないです。

3つのことにより、ランニングコスト低減、環境負荷低減、事業性向上に繋がります。

Q11.水族館の経営的な試算を提案するときに、他の都市開発と異なり、水族館の年度ごとの集客力を試算するのは難しくはないでしょうか?

確かに試算は難しいですが、別の部署では、他館の情報を整理分析し、試算をシミュレーションすることも可能です。長期的な見通しをたてることで、展示更新の必要性や投資に関して水族館事業者様にアドバイスすることもできます。

Q12.今後、水族館のタイプとしてテナントタイプが増えていくと思いますが、それに伴い建築上工夫されている点は何かありますか?

テナントタイプの水族館は、撤退時には現況復旧(スケルトン)にしなければなりません。また、不測の事態により溢水した時に下階に影響があってはいけないので、万全を期します。壁なども乾式を中心に撤去しやすい材料を選択しています。また荷重条件の精査も必要で、水槽だけでなく機械類も含めた平面計画が必須となります。弊社は関わっていないですが、カワスイさんのような、既存商業ビルのコンバージョンもこれから増えていくと思います。また今後は、クラゲの加茂やペンギンの長崎といったような展示特化型も増えていくと考えられます。

Q13.日本は海外と異なり地震が頻発することが多いので、水族館の耐震構造はどのようなことをされて検証されているのでしょうか?

建築としては、水槽も含めて建築基準法に基づいて設計しています。地震時の揺れによる水槽からの溢水(スロッシング)や水槽にかかる圧力に対しては、個々の水槽ごとに検討し、強度を増したり、水面から上の水槽の壁の高さを十分にすることで溢水しないなどの対策を行っています。生物の生存にはライフラインも必要ですので、二次電源や非常用発電機の容量を大きくしたり、ポンプ類は複数台で動かすなどの対策を行う場合もあります。

Q14.最近、水族館の建築的な観点で解説した本『イラストで読む建築 日本の水族館五十三次』が出版されています。編集協力で大成建設の名前が出てきますが、どのような経緯で協力されたのでしょうか?

著者の宮沢 洋氏は建築関連情報誌の元編集長で、ネットでも様々な建築に関する情報を発信されている方です。大成建設設計本部として協力し、冒頭で、水族館についての会話が漫画形式で紹介されています(写真2D)。

また、マリンワールド海の中道や四国水族館など各地の水族館を案内しながら、水族館建築の説明をした経緯があります。

Q15.水族館の配置計画では大きく3つのタイプがありますが、最近はどのような傾向ですか?

3つのタイプは建屋が分棟の「パピリオン型」、展示室がゾーンごとにグルーピングされる「ぶどう型」、順路が一方通行の「ひと筆書き型」があります。パピリオン型とぶどう型は比較的自由動線ですが、ひと筆書き型は、強制動線です。自由動線は、建屋やゾーンごとに比較的分かれているので、全館閉鎖することなく、各水槽の修繕や改修がしやすいのが長所です。

パピリオン型は、のとじま水族館や鴨川シーワールド、ブドウ型は四国水族館・すみだ水族館など、ひと筆書き型は大阪海遊館や新江ノ島水族館があります。

最近は、自由動線を採用することで、来館者が思い思いの時間を心行くまで過ごすことで、滞在時間を伸ばしていく傾向があります。

Q16.水族館の耐久年数や建て替えはどのくらい頻度になるのでしょうか?

一般的には20から30年くらいで全面リニューアルを実施している水族館が多いですが、建築学的な観点では、コンクリートで設計したものは50年以上持つこともあります。展示替えは5年程度の比較的短いサイクルで行うことが多いです。時代により、ユニバーサルデザインとか、法的な厳密性など求められるものが変わっていくので、骨組みはしっかりと作って、それ以外は容易に改修しやすい構成とすることが求められます。

水族館の2020年問題というのがあって、バブル期に建てられた館が老朽化し、改修するか建替えするか、閉館するか迫られているところが多々あります。須磨海浜水族園(1987年)は既存館を壊して建替え、葛西臨海水族園(1989年)は既存館は残すものの近接地に建替えを選択しています。

当社が2017年に大々的に改修設計・施工に携わったマリンワールド海の中道(一期1989年、二期1995年)は、改修を選択することで、愛されてきた地域の象徴を継承しました。それにより、優れた改修を実施したことを評価されBELCA賞(ベストリフォーム部門)を頂きました。水族館では新潟市水族館マリンピア日本海(1990年、2013年リニューアル)についで2館目です。

Q17.最近工事をされた神戸átoaを設計した時の経緯や思い出深いことがありましたら教えて下さい。

átoaのある神戸は海と山が接している地形であり、átoaの建設地は倉庫街を再開発した場所です。三ノ宮などの商業地区から距離は遠く、阪神高速によって分断されている状況であったが、開港150周年を迎えた神戸港からマリンタワーなどが綺麗に観られるロケーションであり、水族館にとどまらず、それらの景色の鑑賞を含めて新たな文化・商業・ビジネスの複合商業施設として設計しました。

átoaの外観は洞窟のようなイメージでこれから探検していくようなワクワク感があります(写真2E)。実際中に入るとアートを駆使した球体水槽(写真2F)などがあり、幻想的な世界を醸し出しています。

1階は複合施設なので、ブライダルや少し高級感のあるレストランのテナントが入っています。バーラウンジは、下から水族館の水槽が観ることができ、水族館に来なくともその一部を体感できるようにしています(写真2G)。

こうした内部構成や、六甲山と瀬戸内海を素材として活かして洞窟のような洗い出しの外壁での試みなどにより、繰り返し訪れたくなるような公共施設として評価され、2022年のグッドデザイン賞を頂きました。

Q18.水族館の工事でご苦労はありましたか?

一番苦労したのは、同時に3つのプロジェクトが進行したことです。3つの水族館とは、サンシャイン水族館の全面リニューアル、京都水族館、すみだ水族館です。3館の工事中に東日本大震災があり、工事の中断や工期の延長、オープンに向けて苦労した経験があります。資材が手に入らないとか、展示に使うガラス工場の近辺が火災になって立ち入り禁止で再開のめどが立たないとか、水族館の方から工事に関わる職人さんまでみな不安な気持ちだったことが非常に印象に残っています。

当社が関わったアクアマリンふくしまや、のちの仙台うみの杜水族館の前身 マリンピア松島も甚大な被害にあい、水族館(だけではないですが)が災害時のことも想定に入れるべきであると強く感じました。

Q19.海外の水族館の設計は考えていますか?

国によっては政情不安のリスクもありますので現段階では考えていません。しかし、チャンスがあれば、ぜひ取り組みたいと考えています。

Q20.水族館の工事で気を使われた事例はありますか?

2つの水族館があげられます。

1番目は、すみだ水族館のペンギンプールです。すみだ水族館のような室内型で開放型の水槽を持つ水族館は、魚を主食とするペンギンの臭いが結構強いことが懸念されました。様々なシミュレーションを行い、擬岩の中に臭いを吸い取る吸気口を設けることでエアバランスをコントロールしました。また完全屋内なので、人工照明を使用することにより、換羽など生態のコントロールを実施しています(写真3A)。

2番目は、京都水族館です。京都に相応しい環境配慮型の体験型水族館であり、国内初の完全人工海水による内陸型の大きな水族館です。具体的には、梅小路公園内に建ち周辺住宅への配慮から建物の高さは15m以下に抑え、地中は京都という土地柄、埋蔵文化財保護への配慮などから地下掘削も最小としました。つまり上も下も抑えられた限られたボリュームの中で、水族館を設計しました。

このような空間的規制の中で、必要諸室と水処理設備を含めた多くの機械、配管スペースの確保を実現しました。また従来の都市型水族館では海水をタンクローリーで運搬していましたが、京都水族館は人工海水を採用することで、CO2排出量を大幅に低減させることが可能となりました。そのほかに太陽光発電や躯体蓄熱などさまざまな環境配慮アイテムを採用した水族館となっています。

更に水の都・京都をテーマとした展示構成になっています。『水と共につながるいのち』をコンセプトとした展示となっています。鴨川に生息する特別天然記念物のオオサンショウウオから始まり、川から海の魚たち、海獣たちにつながり、最後は京都の里に戻るといった生態系を再現したストーリーを展開した建物となっています(写真3B、3C)。

Q21.工期を短縮する上で工夫されている点は何ですか?

例えば四国水族館では、大型ユニット水槽の工場製作を採用しています(写真3D)。

従来は、水量20m3以上の水槽は現場で製作するコンクリートの躯体水槽が主でした。今回の工事では、水量50m3を超える水槽を水槽内の擬岩を含めて工場で製作しました。それにより、現場工事の負荷を低減し、安全や工期短縮で非常にメリットがありました。

ユニット化することにより、将来リニューアルする場合でも解体の容易さや移動可能など躯体水槽にないメリットがあります。工場で作ることにより、高品質の水槽を実現できました。

Q22.魚の生態を研究する施設をお持ちでしたが、今はどのような状況でしょうか?

昔は、東戸塚の技術研究所で魚の環境に与える影響を研究しており、現在は、委託研究を陸上養殖で行っています。

Q23.国内外の水族館で参考になる水族館や今後行ってみたい水族館はありますか?

海外ですと、中国やドバイ、シンガポールなど最新のものも、もちろん興味はあり参考にしたいと考えていますが、原点ともいえるモナコ水族館や、モントレーベイ水族館などはぜひ一度見ておきたいです。

国内では、世界淡水魚園水族館アクア・トト ぎふが淡水展示としてはかなりの規模になり参考になります。

コペンハーゲンのブループラネットは建築デザインとしても魅力的です。変わらないものと最新のものを見極めながら、機能性やデザイン性をもっと追求し、今後の水族館建築に生かしてみたいと思います。昨年の9月に最新の世界のトレンドを発信している「ELLE」の建築ページで、四国水族館やátoa、上越市立水族博物館うみがたりがブループラネットと一緒に紹介され、うれしかったです。

編集後記

今回、水族館や動物園を支える人々の紹介で、水族館建築の設計及び建設において業界トップの実績を誇る大成建設株式会社にインタビューを行いました。

大成建設株式会社は、ホテルオークラ創始者で、帝国ホテルや帝国劇場、鹿鳴館も設立した大倉喜八郎 氏が作った会社です。

水族館も日々多様化しており、その要求に対して、柔軟な対応が図れているからこそノウハウの蓄積ができ、水族館の受注件数が多いのではないかと思いました。

また、水族館を建設する上で、構造上の堅牢さも重要ですが、デザイン的にも神戸の水族館であるátoaが、2022年グッドデザイン賞建設部門を受賞したのも特筆すべき点ではないかと思います。

まさしく、大成建設株式会社のキャッチコピーであります「地図に残る仕事」をされていると思います。今後のさらなるご発展を期待しています。

シリーズ「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」