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記事提供:動物医療発明研究会
インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
JVM NEWSに「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」を不定期で連載しています。
動物園シリーズの第1回目は株式会社アワーズが経営する日本でジャイアントパンダの繁殖で有名な野生動物等を飼育している和歌山県南紀白浜にあるアドベンチャーワールドの、第2回目は行動展示で有名な旭川市旭山動物園の記事を載せました。
第21回目となる今回は、よこはま動物園ズーラシア(写真1)の園長の村田浩一先生(獣医学博士、写真2)にお話をうかがいました。
よこはま動物園ズーラシアは、オカピ(写真3)、セスジキノボリカンガルー(写真4)、ドール(写真5)、アカアシドゥクラングール(写真6)、ベニハチクイ(写真7)などの希少動物を飼育しており、種の保全にも力を入れている動物園です。
(取材日:2026年2月18日)
Q1.よこはま動物園ズーラシアの魅力や主な特徴は何でしょうか?
多くの動物たちに緑と土と水が与えられ、寝室と展示場の移動について選択の自由があるところです。後者はジェーン・グドールが必須であると指摘していました。
さらに園内に横浜市繁殖センターという研究施設が併設されていることです(非公開)。このような施設があるのは国内の動物園では極めて稀です。
Q2.寝室と展示場の移動について選択の自由があるとのことですが、これはいつからどのような背景で実施されたのでしょうか?
寝室と展示場の移動について選択の自由があるのはアニマルウエルフェア(動物福祉)の観点からです。海外では1990年代あたりからこの動きがあり、日本においてはここ10年くらいからこの動きがありました。
Q3.他の動物園と比べてバックヤードが広いように感じますが、いかがでしょうか?
そうです、他の動物園よりも広いと思います。普通の動物園はたくさんの動物を見せるため、バックヤードには小さなスペースと夜寝るだけの寝室くらいしかない動物園が多いです。ズーラシアはサブスペースやサブパドックがあって、そこでも飼育繁殖できます。
展示施設にいる動物だけでなく、バックヤードで飼育する動物もいます。
Q4.横浜市繁殖センターは、よこはま動物園ズーラシアのオープン当初から繁殖センターが併設される計画だったのでしょうか?
そうです。ズーラシアオープン当初から繁殖センターを併設する計画がありました。当時の関係者が種の保存を考えていたことは先見の明があったと思います。
Q5.よこはま動物園ズーラシアのコンセプトは何でしょうか?
「生命の共生・自然との調和」をメインテーマに掲げています。生息環境展示を採用し、世界の気候帯・地域別に8つのゾーンに分かれており、園内の植生や設置物にもこだわっています。キャッチコピーは、「ようこそ、世界一周の動物旅行へ」です。
Q6.8つのゾーンのうちの一つ「アフリカのサバンナ」ゾーンでは、日によって多種混合展示をしているとのことですが、どのような展示なのでしょうか?
「アフリカのサバンナ」ゾーンでは、サバンナの代表的な景観である大草原をはじめ、疎林や湿地帯及び岩場や草原の周辺環境を再現しています。肉食動物・草食動物の混合展示で動物たちの社会性を観察することができます(写真8)。日によって4種の日や3種の日があります。バードショーなど、動物たちを身近に感じることもできるゾーンです。
Q7.肉食動物(チーター)と草食動物(グラントシマウマ、エランド、キリン)を一緒に展示して大丈夫なのでしょうか?また大丈夫な理由を教えてください。
肉食動物のチーターは、自分よりも体が大きな動物(当園では一緒に展示しているグラントシマウマ、エランド、キリン)を恐れる傾向にあります。なお、チーターがいちばん苦手とするのはキリンです。反対に観覧通路を走る小さな子どもを見ると柵越しに追っかけたりします。
Q8.動物園動物の診療において特異なことがありますか。
コンパニオンアニマルとは違い多様性に満ちた野生動物なので、種によって生理や生態が異なっているため、まず動物学的な観点から学ぶ必要があり、それぞれに対処できる治療法や予防法を新たに開発する必要性があります。
Q9.具体的に実施してこられた治療法や予防法を教えてください。
3つの例を挙げます。
1番目は、前に勤務していた動物園のワオキツネザルのことですが、餌を独り占めするオスのワオキツネザルが一頭いて、高カロリーで糖分の多い食事をしたためか糖尿病になりました。その後、餌を一箇所だけで与えるのではなく、いろいろな場所に分散させることで糖尿病については解決されました。
2番目は、サルの仲間は指先が器用なことです。単純縫合ですと縫合糸を自分で解いてしまいます。そのため、縫合糸が出ないように埋没縫合したり、他の縫合方法をつかったり工夫をしています。
3番目は、オランウータンなど知能の高い類人猿が疑り深く用心深い性格のため、容易に薬を飲まないことです。薬を混ぜた飲みものを与える前に、事前に薬を入れキャップをしたものを目の前で外したり、まず自分が飲んで安心を与えるなどの工夫をしています。
飲み物を与える練習をしていると、もしオランウータンが病気になった際、投薬が必要な時に役立ちます。
Q10.勤務されている獣医師の数と各担当業務を教えてください。
当園では4名の獣医が勤務しています。各担当業務は分かれておらず、園内の動物を全員で協力しながら診療しています。
Q11.横浜市繁殖センターと共に種の保存に力を入れられていますが、成功した事例を教えてください。
横浜市繫殖センターとの協働のもと、繁殖に成功した動物は、たとえば腹腔鏡を用いた国内初のツシマヤマネコの人工繁殖(写真9)やオカピやテングザル(写真10)などの性ホルモン分析による交尾適期の判断や妊娠判定、分子生物学的解析によるフンボルトペンギンなど飼育下個体群の遺伝的背景の評価、地元で絶滅が危惧されているムカシツチガエルの飼育下繁殖と再導入など多々あります。
Q12.一度野生から消えた鳥が復活したとお聞きしましたが、どんな鳥でしょうか?
その鳥はカンムリシロムクという鳥です。
この鳥は、インドネシアのバリ島西部の一部にのみ生息し、最も絶滅に近いと言われていたムクドリの仲間です。カンムリシロムクの生息数が減ってしまった原因の一つに密猟が挙げられます。2012年ごろまでは野生の個体数が15羽しか確認できないなど、一向に生息数は回復しませんでした。
そこで横浜市繁殖センターでは2004から2015年まで国際協力機構(JICA)と協働で「カンムリシロムク野生復帰事業」を進めました。
横浜市繁殖センターで繁殖したカンムリシロムクはこれまでに160羽以上を現地に送り、インドネシアに送られた鳥は、現地での保全の取り組みに役立てられています。
その結果、徐々に野生の個体数は増え2022年8月時点で400羽を超えています(写真11)。
Q13.珍獣のオカピで多くみられる病気は何でしょうか?またオカピの飼育はどのようなことが難しいのでしょうか?
熱帯雨林に生息している動物のため、冬季の温度管理と湿度管理が必要です。また国内での飼育データが少ないため、海外から情報収集しながら飼育管理方法を検討しています。
腎臓病や消化器障害などが特徴的な健康問題です。
Q14.何の腎臓病でしょうか?
慢性尿細管間質性腎症や糖尿です。予防法としてカロリーを控えた飼料を与えています。
Q15.動物園用の飼料ではどのようなメーカーが有名でしょうか?
国内ですとオリエンタル酵母工業株式会社とフィード・ワン株式会社(旧:日本配合飼料株式会社)で、海外では米国のMazuri社などがあります。
Q16.飼育動物の中で麻酔時において注意を必要とする動物は何でしょうか?また注意が必要な理由を教えてください。
すべて注意を要します。
とくに初めて麻酔を行う野生動物は、事前の情報収集を怠ることはありません。例に挙げられた大型動物や希少種も麻酔事例が少ないため注意を要します。
Q17.どのようにして麻酔に関する事前情報収集を行うのでしょうか?
ZIMS(Zoological Information Management System)を利用しています。Species360が運営する世界中の動物園・水族館のための統一データベースです。
約100カ国以上の施設が飼育動物の血統、健康、移動データをリアルタイムで共有し、希少種の繁殖や国際的な保全活動に活用されています。もちろん、野生動物麻酔の最新論文や専門書にも目を通しています。
Q18.動物園動物の診療において参考とされている参考本、学術冊子を紹介ください。
獣医療にとどまらず動物学や生態学に関する図書など無数にありますが、例えば下記のような出版物を主に参考にしています(写真12、13)。
- 『Fowler's Zoo and Wild Animal Medicine Current Therapy, Volume10』
- 『Medical Management of Wildlife Species: A Guide for Practitioners』
- 『Zoo and Wild Mammal Formulary』
- 『Carpenter's Exotic Animal Formulary, 6th ed.』
- 『Surgery of Exotic Animals』
Q19.神戸市立王子動物園、大学での勤務を経験されていますが、その経験がよこはま動物園ズーラシアの園長としてどのような点で役立っていますでしょうか?
まず、多様な動物の飼育を最初に経験したことが、とても役立っています。仕事を終えてから、医科大学の研究室に通い、染色体分析や集団遺伝学に関する勉強や研究をしてきたことも後の仕事で大いに役立っています。
Q20.園長としてのご苦労、感動された点を教えてください。
動物園の経営(マネジメント)や動物園の要となる職員の相互関係や協調への対応です。
Q21.村田園長が加盟あるいは参加される国内外の協会・学会を教えてください。
主なものとしては、JAZA(日本動物園水族館協会)が主催する総会、動物園技術者研究会、水族館技術者研究会があります。他には、野生動物医学会、WAZA(世界動物園水族館協会)の大会、SEAZA(東南アジア動物園水族館協会)の大会などです。2026年には、新たに動物園学会が設立される予定なので、そこにも精力的に参加するつもりです。
Q22.新たに動物園学会が設立されるとのことですが、その設立理由を教えてください。
日本における動物園の在り方ですが、従来は見世物的な要素が強かったです。
今後は動物園学や博物学などの文化的な基盤が必要です。動物園学の発展により、今後の動物園は教育、調査、研究、希少動物の保護・保全を行う機能を持つ「文化・科学施設」へ進化(転換)する必要があると強く思ったのが理由です。
研究者だけではなく、動物園のことを論理的に考えられる市民も含めて「学び合う会(学会)」になることを願っています。
Q23.今後、開発して欲しい医療器具、野生動物のための薬剤あるいは剤形、翻訳本、学術データなどがありますか?
野生動物の種ごとに使用可能な薬剤やワクチンそして診断キットの開発です。大型動物の麻酔薬も開発してもらえれば動物園界では助かります。
Q24.野生動物の種ごとに使用可能なワクチンや診断キットとは具体的にどのようなものでしょうか?
鳥インフルエンザに対するワクチンやアフリカ豚熱に対するワクチンです。
診断キットについては、未知の病気に対する診断キットで細菌やウイルスが検出できる、種ごとに対応したものを希望します。
Q25.大型動物の麻酔薬も開発してもらいたいとのことですが、どんな麻酔薬をイメージされていますか?
今使用できる麻酔薬で注射麻酔薬は塩酸メデドミジンと塩酸ケタミンで吸入麻酔薬ではイソフルランが中心です。
それ以外に新たな麻酔薬が欲しいです。
Q26.動物園の獣医師として就職を希望している獣医学生へのアドバイスをお願いします。
まず、獣医学の基本をみっちりと身に付けておくことです。獣医系大学では学べない生態学や行動学は独自で勉強する必要があります。フィールドへ出て野生動物を観察することも大切です。動物園で実習し多様な関係者とのネットワークを作っておくことも就職時に役立つでしょう。
Q27.よこはま動物園ズーラシアをどのような動物園として展開していくのか、構想を教えてください。
あらゆる観点から世界の先進的動物園と肩を並べることができるようにしたいです。さらに生物の多様性や地球環境の保全のための社会変革に貢献できる動物園にしたいと考えています。
Q28.先進的な動物園を3つ程教えてください。またどういった点が先進的なのかも教えてください。
多くの先進的動物園が存在しますが、個人的には北米のブロンクス動物園(飼育下の個体群管理と維持、域内保全への注力など)、英国のチェスター動物園(保全教育に力を入れている)とロンドン動物園(動物学を基盤とした近代動物園の走り)です。
Q29.「生物の多様性や地球環境の保全のための社会変革に貢献できる動物園にしたい」ということですが、具体的にはどのようなこと考えられているのでしょうか?
2つ挙げられます。
一つは、飼育繁殖技術を活かした希少種の域外保全と域内保全との連携に努力する動物園です。
もう一つは、将来的に地球環境の保護を担う子どもたちに対する保全教育(Conservation Education)を積極的に展開する動物園です。
Q30.国内外で参考にしたい、あるいは是非訪問してみたいと思われる動物園を教えてください。また、その理由も教えてください。
アメリカのブロンクス動物園やリンカーンパーク動物園やヘンリードーリ動物園、スイスのチューリヒ動物園、パリのズー・パルク・ド・ボーヴァル、スペインのバレンシア・バイオパーク、ベルギーのペリダイザ、チェコのプラハ動物園、ウィーンのシェーンブルン動物園、ドイツのライプチヒ動物園など多々あります。園名を挙げた動物園は、NHKの「探検!世界の動物園の舞台裏」で紹介され、番組の監修を行いました。
編集後記
今回は、日本最大級の広大な敷地に世界の希少動物を数多く飼育し、その生息環境を再現している「よこはま動物園ズーラシア」の園長 村田浩一先生にお話をうかがいました。
よこはま動物園ズーラシアは、4つの役割をパンフレットに明示しています。
4つの役割とは、①出会いを感じる(動物に魅せられ、共に生きることの大切さを感じられる公園としての役割)、②理解し学ぶ(動物に対する科学的な知識を深め、その情報を市民と共有する役割)、③知り伝える(動物や生息環境のことを多くの人々へ伝え、行動につなげる役割)、④守り続ける(世界と手を取り合って野生動物を計画的に守ってゆく役割)です。
園内は世界の気候帯・地域別に8つのゾーン(アジアの熱帯林、オセアニアの草原、中央アジアの高地、亜寒帯の森、アマゾンの密林、日本の山里、アフリカの熱帯雨林、アフリカのサバンナ)に分かれており、世界一周の動物旅行を楽しめます。園内には4つの飲食施設もあります。
種の保存にも力を入れています。記事の中で紹介しましたが、希少動物種の展示が多いのが特徴です。特にオカピは最近「国際希少野生動植物種」に追加されました(参考:JVM NEWS「国際希少野生動植物種の新指定 法改正が閣議決定される」)。
園内にはオカピの形がデザインされた椅子もあります(写真13)。
アニマルウエルフェアの観点でバックヤードが広いこともありますが、従来の飼育環境をより改善することにより疾病を予防することを試みていることは素晴らしいことです。例としてアジアゾウの寝室におが粉を敷くことにより、横になって寝る時間が増加し、睡眠時間は平均97.6分増加したとのことです。エビデンスベースの結果は説得力のあるものです(写真14)。新たに寝室を改善することによる費用についても、横浜市民の方々にご理解いただけるように説明をしっかりされています。
ズーラシアが世界の先進的動物園と肩を並べる日は近いと思いました。
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シリーズ「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」
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