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記事提供:動物医療発明研究会
インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
JVM NEWSに「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」を不定期に連載しています。
動物園シリーズの前回は、よこはま動物園ズーラシアの獣医師の先生にインタビューを行いました。
今回は、横浜・八景島シーパラダイスに勤務されている執行役員 横浜・八景島シーパラダイス アクアリゾーツ 館長 獣医師の大津 大先生(写真1)にお話をうかがいました。
(取材日:2026年3月18日)
Q1.横浜・八景島シーパラダイスの特色を教えてください。
野生生物や環境に興味を持つきっかけになる水族館であるということが特徴だと考えています。
Q2.入館者に伝えたいことは何でしょうか?
生きものたちの暮らし・煌めく命を通じて、新しい発見と明日へのきっかけをお持ち帰りいただきたいと考えています。
Q3.新しい発見とは具体的には何をさすのでしょうか?
今日水族館に行って楽しかったというだけではなく、生きものの魅力や海の環境などに興味・関心を持っていただくきっかけをお持ち帰りいただききたいと考えています。
Q4.入館者に興味を持ってもらうために何か工夫されていることがありましたら教えてください。
1年に一度も水族館に行ったことがない方、水族館にそんなに興味がない方たちに、どんな形でも一度は興味を持っていただきたいと考えています。当館では、Webサイトだけでも覗いていただくために、IPコラボなどいろいろな角度からアプローチしています。
Q5.横浜・八景島シーパラダイスにある4つの水族館の概要を教えてください。
①アクアミュージアム
「アクアミュージアム」は、『森から海へ、海から人へ』をコンセプトに多様な環境に生息する生きものたちのつながりがわかる水族館です。
「アクアミュージアム」は、LABO1からLABO11までのテーマが異なる展示スペースに分かれており、海の生きものたちをはじめ、森にくらす陸上生物や水辺の生物、淡水魚など、さまざまな生きものたちを観察できます。
館内では、5万尾のイワシが音楽にあわせて縦横無尽に群泳する幻想的なパフォーマンス「スーパーイワシイリュージョン(写真2)」をご覧いただけるほか、生きものたちの生態や特性などを紹介する教育プログラムの実施、コツメカワウソやサメなどの生きものたちとのふれあいを体験することもできます。
また、4Fライブスタジアムで行われる「Animal Life Live!」では、バンドウイルカやカマイルカによるダイナミックなジャンプ(写真3)、シロイルカによる優雅な水中パフォーマンス(写真4)などを通じて、生きものたちのリアルな動きや躍動を体感いただくことで、自然環境や生きものたちの未来を考えていただくきっかけを提供しています。
②ドルフィン ファンタジー
「ドルフィン ファンタジー」は、自然の光がふりそそぎ、今まで見たことのない視点からバンドウイルカの様子を観察できる水族館です。
アーチ水槽上部には、屋根がなく、晴れている日にはキラキラと揺らめく太陽光がふりそそぎ、雨の日には水面に無数の波紋が広がるなど、天候や時間帯によって変化するさまざまな幻想的なシーンの中、バンドウイルカたちが悠々と泳ぐ姿をご覧いただけます(写真5)。
③うみファーム
「うみファーム」は、自然の海を舞台に、海の環境や生きものたちを「観る」「知る」「獲る」「食べる」ことを通じて、海の環境を身近に感じ、そして考えるための海育をコンセプトとした水族館です。
「うみファーム」では、メインプログラムである魚釣り体験を通じて、楽しみながら「命の大切さ」「魚のおいしさ」などについて学ぶきっかけを提供しております。釣った魚は「うみファームキッチン」でフライやグリルにしてお召し上がりいただき、食育体験を味わうことができます。
「うみファーム」では、海の環境に育まれている生きものを観察しながら、身近な海のすばらしさや海を守る活動を楽しく学んでいただける場を提供しています。
④ふれあいラグーン
「ふれあいラグーン」は、入館者と生きものとの仕切りを可能な限り取り除き、生きものたちとふれあい体験ができる水族館です。
「ふれあいラグーン」では、生きものたちを観察するだけではなく、イルカなどの生きものたちとのふれあい体験を通じて、生きものたちの魅力をより間近で体感いただけます。
「ふれあいラグーン」内で行っている「アニマルパフォーマンス~ふれン Do!タイム~」では、ケープペンギン(写真6)、コツメカワウソ、オタリア、ハリスホークなどの生きものたちが登場し、生態を活かして、さまざまなパフォーマンスを披露いたします。パフォーマンス中には、登場する生きものたちの食性、認知能力、飛行方法などを紹介しながら、それぞれの生きものがもつ特有の能力、特性を解説しています。
Q6.アクアミュージアムはLABO1からLABO11まで異なる展示スペースに分かれているとのことですが、なぜ切りのいい数字である10で終わらずLABO11まであるのでしょうか?
LABO1からLABO10までは海の生きものを展示していますが、LABO11は森にくらす陸上生物や水辺の生物、淡水魚などを展示しています。海のすべてを伝えるためにも、海と陸のつながりをお伝えすることが重要であると捉え、LABO11を設けました。
Q7.アクアミュージアムの中で5万尾のイワシが音楽にあわせて縦横無尽に群泳する幻想的なパフォーマンス「スーパーイワシイリュージョン」がありますが、5万尾のイワシがなぜ音楽にあわせて縦横無尽に群泳するのでしょうか?
最初からイワシは音楽にあわせて群泳するのではなく、水槽内に設置された専用の筒から餌を与えることでイワシを誘導し、音楽に合わせて縦横無尽に群泳するパフォーマンスとしてご覧いただけます。
Q8.シロイルカが見られる水族館は全国で4か所しかありませんが、シロイルカが他のイルカと異なる点は何でしょうか?
2つ挙げられます。1つは繁殖が難しいことです。もう1つは、シロイルカは人を見分けるほどの賢さを持った動物です。
Q9.シロイルカの人を見分けるほどの賢さとは具体的にどのようなことをさすのでしょうか?
シロイルカは人をそれぞれ見分け、その人の能力や癖を把握し、より効率的にご飯をもらう方法を考え、対応を変えることがあります。
また、採血トレーニングを実施している時と、採血の本番で獣医師が針を持って採血を実施する時とでは、シロイルカは人に対する対応が異なることがあります。トレーニング時は素直に対応するのに対して、本番採血の場合は、わざとじらして中々採血をさせないような行動をとる時もあります。
Q10.主な飼育動物を教えてください。
すべての生きものが主役ですが、横浜・八景島シーパラダイスならではの生きものはシロイルカやセイウチ、レッサーパンダ、アメリカビーバーなどです。
Q11.レッサーパンダやアメリカビーバーはどのような病気にかかりやすいでしょうか?
レッサーパンダは、消化器疾患(粘膜便症)や体表の感染症が多いです。
アメリカビーバーは、げっし目(齧歯目)なので、前歯(切歯)が伸び続けるため、噛み合わせの異常(不正咬合)が発生します。上顎の門歯が折損しており、その伸長を促すために伸びた下顎の門歯を定期的に切っています。
Q12.ホッキョググマの水中へのダイビングが大変迫力がありますが、健康診断をする上で採血はどのように実施しているのでしょうか?
前肢の指の付け根付近にある血管から採血しています(写真7、写真8)。
Q13.何人の獣医師が勤めていますか。その役割分担も教えてください。
獣医師は3人です。特に役割分担はしていません。開業医に比べ圧倒的に症例が少ないので、すべての症例を自分事にして対応するよう、協力し合っています。
Q14.大津先生が獣医師になられた理由と横浜・八景島シーパラダイスを就職先として選ばれた理由を教えてください。
中学入学時から、馬かイルカの仕事がしたくて、共通している仕事が獣医師くらいしか思いつかなかったためです。日本中のイルカ飼育施設に手紙を書きましたが、その年獣医を募集している施設が横浜・八景島シーパラダイスしかありませんでした。
Q15.大津先生が横浜・八景島シーパラダイスで嬉しかったことや残念だったことを教えてください。
嬉しかったことは繁殖です。今でも毎度すごく嬉しいです。
残念だったことは、死亡です。特に、今なら助けられたなぁ…と思うものは今でも悔しいです。
Q16.嬉しかったことが繁殖とのことですが、印象深い事例があれば教えてください。
私が入社した時の繁殖方法は動物任せでした。その後、ホルモン値を測定し、計画的な繁殖スケジュールを決定するようになりました。その結果、同時期に3頭のバンドウイルカの繁殖に成功したことは思い出深いです。また、いろいろな動物の人工哺育を経験しましたが、中でもレッサーパンダの人工哺育は思い出深いです。
Q17.レッサーパンダの人工哺育のどのようなことが思い出深かったのでしょうか?
2つあります。1つは、レッサーパンダの子供はミルクを飲みたいだけ与えると太りすぎてしまうので注意が必要でした。もう1つは仰向けで寝ることで胸郭がつぶれてしまうレッサーパンダの子供が1頭いたため、寝ているときも注意を払う必要がありました。
Q18.治療を実施する上で参考とされているものは何でしょうか?
『CRC Handbook of Marine Mammal Medicine』は若い頃よく見ていましたが、今は見ることが少ないです。
『海獣診療マニュアル』は、他館の投薬量を見るくらいです。新しい発表や論文を探して読むことが多いです。
Q19.大津先生が加盟あるいは参加される国内外の協会・学会を教えてください。
日本水棲生物医学研究会、野生動物保全繁殖研究会、日本獣医エキゾチック動物学会です。
Q20.今後診療上、開発して欲しい医療器具、水棲動物・野生動物のための薬剤あるいは剤形、翻訳本、学術データなどがありますか?
今はまず、薬剤の供給を安定させてほしいです。例えば抗菌剤で人体用アモキシシリン製剤が販売中止になったことです。アモキシシリンはバンドウイルカの場合15mg/kg Bidで投与しますが、小動物用のアモキシシリン製剤だと、投与錠数が人体薬の2~3倍の多さとなり1回で45錠与える必要があるため、大きい動物には使いづらい製剤となってしまいます。
Q21.飼育動物の主な疾病を教えてください。
やはりどの動物も感染症の罹患が多いです。その他、高齢個体が多くなってきたので腫瘍性疾患も多くなっています。現在はネフローゼのイルカの治療中です。
Q22.感染症が多いとのことですが、どのような動物に対してどのような抗菌薬を投与されますか?
海獣類はペニシリン系やセフェム系薬剤を第一選択薬とすることが多いですが、過去の傾向や、同居個体の状況、その時の個体の便や呼気の菌叢を見て決定して投与しています。アメリカビーバーなどの齧歯目にはペニシリン系やセフェム系の薬剤は投与できないので、キノロン系(例:エンロフロキサシン)の薬剤を第一選択薬として投与しています。
Q23.高齢動物の個体が多くなり、腫瘍性疾患も多くなったとのことですが、どのような対応を図っているのでしょうか?
基本的に対症療法が中心となってきます。いかにQOLを保てるかが課題となります。腫瘍性疾患の1例として、アシカは肝臓癌、ペンギンは胃がん(腺胃腺癌)の発症が多いです。
Q24.今後チャレンジしたいことは何でしょうか?
もう、自分でというのはあまりないです。とにかく、後輩を育てることに尽力して、安心して引き渡したいです。
Q25.水族館の集客のために何か企画されていることはありますか?
SNSでの定期的な情報発信、各種体験プログラムの実施、季節・IPコラボイベントの実施などです。
Q26.水族館に獣医師として就職を希望している学生へのアドバイスをお願いします。
飼育をはじめ獣医以外の業務もたくさんあるので、そういうものをしっかりやる覚悟とコミュニケーション能力がとても大事です。あとは、後悔がないくらい学生生活を満喫しておくべきです。
Q27.今後目指すゴール(八景島シーパラダイスをどんな水族館にして行きたいか、ゴールに向けての自分の役割)は、何でしょうか?
生きものたちのくらし・煌めく命を通じて、新しい発見と明日へのきっかけをお持ち帰りいただける水族館です。来ると元気になって帰れる水族館。そして、生きものたちに恩返ししたくなったり、(生きものを)未来に残したいと思ってもらえるような水族館を目指していきたいと考えています。
Q28.他の水族館や獣医大学との技術的な面での交流がありますか?
非常に多くあります。問い合わせも多いですし、聞くことも多いです。
Q29.国内外で参考にしたい、あるいは是非訪問してみたいと思われる水族館を教えてください。また、その水族館を選ばれた理由を教えてください。
特定のところはあげられません。どこにでも行きたいです。行くと必ず新しい刺激と、高いモチベーションを持って帰れると考えております。
Q30.株式会社横浜八景島は、国内に4か所の水族館を運営している以外に海外展開をしている水族館があるとお聞きしていますが、その概要を教えてください。
Xparkは日本の水族館事業者初となる海外展開として、2020年8月に台湾桃園市に新規開業した都市型水族館です(写真9、写真10)。Xparkには水生・陸上合わせて300種、30,000以上の多様な生きものの行動展示をはじめ、最先端テクノロジーにより気温や湿度、香りや音まで様々な演出が施された360°圧倒的な没入空間です。横浜八景島の30年以上にわたる水族館技術・演出ノウハウを駆使し、生きものたちの魅力をエデュテイメント体験を通してお届けしています。
日本から獣医師を1名派遣し現地の獣医師と連携のもと、健康管理面についてアドバイスを行っています。
編集後記
横浜・八景島シーパラダイスは、横浜市にある国内屈指の規模を誇る大型水族館です。
①広大な敷地内にはLABO1の「はじまりの海」からLABO11の「フォレストリウム」まで11のエリアとライブスタジアムが併設されている『アクアミュージアム』、②イルカたちが暮らすアーチ型の水槽で、自然の光がふりそそぎ、今まで見たことのない視点からバンドウイルカの様子を観察できる『ドルフィン ファンタジー』、③海の環境や生きものたちを「観る」「知る」「獲る」「食べる」ことを通じて、海の環境を身近に感じ、そして考えるための海育をコンセプトとした『うみファーム』、④生きものたちを観察するだけではなく、イルカなどの生きものたちとのふれあい体験を通じて、生きものたちの魅力をより間近で体感できる『ふれあいラグーン』の計4つの水族館があるのが特徴です。
中でもアクアミュージアムは2つのことが特徴的ではないかと思いました。
1つ目は、5万尾のイワシが音楽にあわせて縦横無尽に群泳する幻想的なパフォーマンス「スーパーイワシイリュージョン」です。
2つ目は4Fライブスタジアムで行われる「Animal Life Live!」です。ライブスタジアムでは、バンドウイルカやカマイルカによるダイナミックなジャンプに対してシロイルカによる優雅な水中パフォーマンスなどが行われ、バンドウイルカやカマイルカによるダイナミックなジャンプが「動」とすると、シロイルカの優雅な水中パフォーマンスは、まさに「静」ではないかと思いました。
診療面では、海獣類はペニシリン系やセフェム系薬剤を第一選択薬とすることが多いのに対して、アメリカビーバーなどの齧歯目にはペニシリン系やセフェム系の薬剤は投与できないので、キノロン系(例:エンロフロキサシン)の薬剤を第一選択薬として投与するというように、投与する動物の種類によって使用する抗菌剤が異なることは、特筆すべき点ではないかと思いました。
また、シロイルカが人を見分けるほどの賢さを持った動物であることや、ホッキョググマは健康診断時に前肢の指の付け根付近にある血管から採血するなど、動物の個体ごとに異なる対応が必要になることも大変勉強になりました。
株式会社横浜八景島は、国内に4か所の水族館を運営している以外に、日本の水族館事業者初となる海外展開として、2020年8月に台湾桃園市に新規開業した都市型水族館であるXparkをオープンしました。Xparkは、横浜八景島の30年以上にわたる水族技術・演出ノウハウを駆使し、生きものたちの魅力をエデュテイメント体験を通してお届けしているところが、とても素晴らしい点だと思いました。
動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。
シリーズ「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」
- (1)四国水族館
- (2)仙台うみの杜水族館
- (3)NIPPURA株式会社-前編
- (4)NIPPURA株式会社-後編
- (5)átoa
- (6)アドベンチャーワールド
- (7)AOAO SAPPORO
- (8)沖縄美ら海水族館-前編
- (9)沖縄美ら海水族館-後編
- (10)大成建設株式会社
- (11)新江ノ島水族館-前編
- (12)新江ノ島水族館-後編
- (13)旭川市旭山動物園編
- (14)猛禽類医学研究所-前編
- (15)猛禽類医学研究所-後編
- (16)NIFREL
- (17)名古屋港水族館
- (18)海遊館
- (19)サンシャイン水族館
- (20)マクセル アクアパーク品川
- (21)よこはま動物園ズーラシア


