JVMNEWSロゴ

HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事

■獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力(4) NIPPURA株式会社-後編

2023-12-21 13:41 | 前の記事 | 次の記事

ギネス認定。A:沖縄美ら海水族館/B:ザ・ドバイモール/C:チャイムロング横琴海洋王国(画像提供:NIPPURA株式会社)。

美ら海水族館のジンベイザメが泳ぐ黒潮の海水槽のアクリルパネルの設置作業(画像提供:NIPPURA株式会社)。

A:アザラシが中をグルグル泳ぐ姿が観察できるドーナッツ水槽(登別マリンパークニクス)/B:約50年前に作製したホテルオークラのランタン/C:銀座ディオールのファサード工事(画像提供:NIPPURA株式会社)

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

NIPPURA株式会社のインタビュー記事の後編です。前編に引き続き代表取締役 敷山靖洋 様にお話をうかがいました。

Q1.息をのむ別世界が広がる「超大型水槽」で3度ギネスを更新されていますが、その水槽の大きさと水族館名を教えて下さい。

まず初めは、2003年に沖縄美ら海水族館で「世界最大のアクリルパネル」としてギネスに認定されました。アクリルパネルの製品寸法は、幅22.5m×高さ8.2m×厚さ60cmです(写真1A)。

2番目は、2008年にアラブ首長国連邦のドバイにあるザ・ドバイモールでギネスに認定されました。幅32.88m×高さ8.3m×厚さ75cmです(写真1B)。

3番目は、2014年の中国の珠海にあるチャイムロング横琴海洋王国で、幅39.6m×高さ8.3m×厚さ65cmです。アクリルの製品寸法以外に、この水族館は、「水族館全体の総海水量」、「メインタンクの海水量」、「直径12mのアクリルドーム」、「アクリルパネルの開口部」でもギネス世界一に輝いています。全部で5つの項目でギネスに認定されています(写真1C)。2023年に第2施設には、更に大きな水量のものやアクリルパネルの開口部を含めて約100個の水槽を納入完成させました。

Q2.最大どのくらいの大きさまで超大型水槽を作製することが可能でしょうか?

弊社には横3.3m×縦8.3mの基盤アクリルパネルがあり、それを現場で透明な接着剤を用いて繰り返し接着して繋いでいきます。横の幅を広げることに関しては展示スペースさえあれば、ある意味無限大と言えます。

縦については8.3mの原板の2段重ねを実施したことはあります。横よりも設置は難しいです。現在3段重ねのリクエストがありますが、今後の課題となっています。

Q3.国内外含め工事は同時並行に進んでいるようですね。それらを遂行していく工夫を教えて下さい。

弊社では、接着,成形、研磨、現場接着などの作業全てをオールマイティにできるような教育を行っています。そのためには、工場における各種アクリル水槽の製造作業、技術を習得するだけでなく、施工現場での作業(水族館へのアクリル水槽設置作業等)の両方ができるように人材育成を実施しています。大手メーカーは概ね分業体制なのですが、一人で多くの作業ができかつ完結できるのが我々の強みだと考えています。

また、チーム制を導入し、チームリーダーの下にサブリーダーをおいて各プロジェクトに対応しています。海外においては、各チームリーダーの指示で働くスタッフは、途中で何人かが入れ替わることもありますが、チームリーダーはそのプロジェクトが完了するまで交代はせず、現地関係者とも信頼し合う良好な関係が構築され、クライアントからの評判も良いです。

Q4.アクリル水槽の輸送や現場での設置は自社で行っているということですか?

そうです。国内輸送やアクリルパネルの取り付け、防水工事等の対応は、原則、他の業者に依頼することなく、ほとんど弊社のスタッフが対応しています。多くのスタッフは多能工です。

Q5.多能工とはどんな資格を持った方なのでしょうか?

玉掛け作業(クレーンの荷を掛け外しすること)、各種クレーンの運転作業、フォークリフト、大型トラック、トレーラーの運転資格、有機溶剤取扱い、溶接作業ができる者で、その資格取得に対して会社が費用を負担しています。それ以外に現場で必要な資格、例えば危険物取扱業者や潜水士の資格等を取得しています。

実際、美ら海水族館でのジンベイザメが泳ぐ黒潮の海水槽のアクリルパネルの設置においては、自社の大型ラフタークレーンを持ち込んで、自ら稼働して作業を行いました(写真2)。

Q6.中国でのビジネスはいかがですか。

特に中国だからという苦労はありません。ただ、何でも世界一を目指すのが第一優先という価値観があるようです。珠海のチャイムロング横琴海洋王国は、アクリルパネルの大きさで2014年度ギネスに認定されましたが、その後中国内で記録の塗替え競争をくり返しています。

また、珠海の第2施設であるチャイムロング宇宙飛船水族館にはシャチが13頭飼育されています。日本では千葉県の鴨川シーワールドは4頭、名古屋港水族館は3頭で、それぞれの施設の3倍以上の数のシャチが群れで泳ぐ姿は圧巻でした。

Q7.中国では水族館の開設が進んでいるとの事ですが、どのくらいの数の水族館があるのでしょうか?

現在、中国各地で水族館が建設されており、私共が知る限り、例えば上海に3つ、北京に3つ、成都に3つと大都市圏には複数の水族館があるのが当たり前となってきており、総数はおそらく日本の数を追い抜いていると思います。

山深い、自然豊かなジャイアントパンダ繁殖研究基地のある、四川省の省都である成都(三国志の時代の蜀の国)に3つも水族館があるとは、びっくりでした。

Q8.チャイムロング横琴海洋王国とは15年という長い年月のお付き合いですね。ギネスを更新で世界一に輝きましたが、今後はどのように展開していくのでしょうか?

5つのギネス記録は1期目のプロジェクトで達成したもので、2023年にオープンした2期目のプロジェクトで更に多くのギネス記録を更新しています。

そして、オーナーからは、「3期目プロジェクトにおいて次なる世界一のアイデアを提案して欲しい」とのリクエストがあり、現在検討中です。

Q9.そのリクエストに応えるために、どのような事がなされているのでしょうか?

先日、私と社長室/営業推進室の室長が、北米エリアで水族館に限らず最新の大型施設に関する海外視察を行いました。また幹部スタッフが、東南アジアや中近東を中心に最新の大型施設に関する情報を収集するべく海外視察を行いました。

Q10.その成果を教えて下さい。

参考になる2つの施設がありました。

1つは、米国ラスベガスにある巨大な球体型アリーナ「The Sphere(スフィア)」です。高さは約112メートル、幅は約157メートル、広さは約1万4864平方メートルで、1万8000人収容可能な世界で一番大きな球体建築物とのことです。壁にはプログラム可能な120万個のLEDライトが敷き詰められていて、球体の内外の全面に映像を映し出します。総工費は23億ドル(約3500億円)で、2023年9月29日にオープンしました。球体建築物の中の映像は圧倒されるほど素晴らしかったです。

もう1つは、ニューヨークにありますエンパイアステートビルの展示の仕方です。エンパイアステートビルの展望台の新しいミュージアムでは巨大なキングコングが窓から覗き込み手を伸ばしてくる動画を目の前で見ることができ、とてもリアリティー感がありました。また、当時のエンパイアステートビルの建築作業風景を映像動画にして実際のビルの壁に再現投影するなど、エンパイアステートビルの歴史などをより楽しく理解してもらうための、見せ方に対するさまざまな工夫が強く感じ取られました。

Q11.「人も動物もワクワクするドーナッツ型水槽」を設計されたとお聞きしましたが、どのようなコンセプトでできたのでしょうか?

見る人をワクワクさせるだけでなく、そこに棲む動物の快適さも両立できないかを追求したのが、独特な形状のドーナッツ型水槽です。限られた空間の中で少しでも、アザラシのストレスを軽減するように配慮した画期的な水槽です(写真3A)。

「遊び心のある水槽で動物のイキイキした姿を見てもらおう」というのがコンセプトです。見る人も楽しい。そこに住む動物たちも楽しい。ふたつの思いを同時に叶えることが、弊社の使命だと考えています。

Q12.ドーナッツ型水槽を開発するにあたり、アザラシが快適に過ごせるかどうかの検証はどのようにされたのでしょうか?

2006年経営を引き継いで、リニューアル運営している新屋島水族館で飼育しているアザラシで、試作した「ドーナッツ型水槽」で問題ないかどうかを検証しました。検証には納入予定先の水族館の飼育員の方々も立ち会ってもらい、問題ないことを確認後、納入が決定しました。

Q13.水槽以外の製品を教えて下さい。

ブルーオーシャンというアクリル素材を生かした超高精細リアプロジェクションスクリーンがあります。最大270インチの継ぎ目のないスクリーンの制作が可能です。

また、直近では耐候性に優れた道路用のアクリル遮音板や透明の防潮堤用アクリルパネルの製造にも取組んでいます。

Q14.水槽以外の作製物について教えて下さい。

印象に強く残っているものを紹介します。

まずは1つ目。今から50年前くらいにホテルオークラ東京のロビーにあるランタンを製造納入しました。旧館に展示されていましたが、もう一度同じものを製作することは困難で、新館建設時に50年間使用されていたランタンが移築されました。建築雑誌にも取り上げられています(写真3B)。

最近では、2017年にGINZA SIX(銀座シックス)の外装工事でディオールのファサードを手掛けました。クリスチャンディオール社からの依頼で、技術的に難しい作業だったため、一度お断りしました。その後、世界中のどこにも引き受ける企業がなく、再度の打診を受けました。機械加工では困難な仕上げ部分を、最終手段としての技術者総出の手仕上げでやり遂げました(写真3C)。

Q15.高い技術力に対して数々の受賞がありますね。その受賞歴を教えてください。

平成17年度に第一回ものづくり日本大賞で内閣総理大臣賞を受賞しました。平成19年度には、デザイン・エクセレントカンパニーに選定されました。平成20年度には、日本クリエイション大賞を受賞しました。平成26年度には、グローバルニッチトップ企業100選に選定されました。

Q16.目指すべきものは?

アクリル水槽の製造を通じて、子どもたちの未来に教育的な情報を提供していく会社にしていきたいと考えています。また、アクリル水槽の大きさだけを競うのだけでなく、観客への見せ方を工夫して、人に感動を与えられるものづくり屋であり続けたいと考えています。

編集後記

2回にわたりNIPPURA株式会社を紹介しました。アクリル水槽のシェア70%を維持し、また3度のギネス記録の更新を実現してみせる技術力は、常の研鑽と創造性あるアイデア、多能工を生み出す人材育成システムや外国企業に対応した工場のリスク分散などが実を結んだ結果であろう。

NIPPURA株式会社の思いは、水族館や動物園に来る子どもたちを中心とした人々に感動を与える展示を見せるということに向いている。それを実現するための手段のひとつとして、海外視察など世界中からの情報収集を怠らない企業である。

約50年前に作製されたホテルオークラのランタンや銀座ディオールのファサードなど、水槽に限らず世に感銘を与えるモノづくり実現しているNIPPURA株式会社のさらなる飛躍に期待がもてます。

動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。

シリーズ「獣医師の眼から見た水族館と動物園の魅力」