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■日本の競馬界の未来を切り拓く獣医師(18) 酪農学園大学 獣医学群 獣医学類4年 沼田衣澄さん

2026-08-25 15:51 掲載 | 前の記事 | 次の記事

写真1~写真6(写真提供:沼田衣澄さん)

写真7、写真8(写真提供:沼田衣澄さん)

写真9~写真12

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

JVM NEWSにおいて日本の競馬界を支える獣医師の先生方を紹介しています。

今までは、日本中央競馬会(以下JRA)に勤務されている獣医師、日本の競馬界に貢献した生産者の獣医師、帯広のばんえい競馬場の馬を診療されている獣医師、全国的な規模で展開している乗馬クラブの馬を診療している獣医師、地方競馬に勤務されている獣医師、馬の歯を特に治療されている獣医師、視点を海外ににも向け、ドイツで馬の臨床獣医師として活躍されている獣医師、カナダのプリンスエドワードアイランド大学獣医学部で馬の外科のレジデント(専門科研修医)をされている獣医師、中近東のカタール国ドーハで馬の診療所(EVMC)附属病理部長の獣医師にインタビューを実施してきました。

第13回目から第15回目は社台グループ企業に勤務されている先生方で、二次診療で有名な有限会社社台ホースクリニック、ノーザンファームしがらき、社台スタリオンステーションの獣医師を、そして前回(第16回、第17回)はドイツで勤務されている獣医師を紹介しました。

今回は、卒業後単身ドイツに渡り、馬の臨床獣医師として活躍されている佐藤俊介先生の所で、獣医学科3年の後期の授業を休学され、3か月研修をされた酪農学園大学 獣医学群 獣医学類4年 沼田衣澄さんに研修内容についてインタビューを行いました。

(取材日:2026年6月17日)

Q1.なぜ獣医師になろうと思われたのでしょうか?

高校3年生の時に当時相棒だった馬の突然の体調不良と死を経験し、長く馬と関わってきたにもかかわらず何も気付けなかったことや何もできなかったことに悔しさを覚え、専門的な馬の勉強をしたいと強く思いました。

このような事態の対応ができるのももちろんですが、長く馬と付き合っていく上でその馬の小さな変化にも気付くことができ馬が快適に過ごせるようにしたいと考えるようになりました。

しかし何かの症状が出ないと獣医師を呼ぶということにならないため、難しい目標だと感じ、大学受験に向けて悩んでいる時期に馬医者として情報を発信しているドイツの佐藤俊介先生の動画を見かけて拝見し相談をしました。

Q2.どの大学の何年生でしょうか?研究室に所属されているのでしたら所属研究室を教えてください。

酪農学園大学の4年生で、伴侶動物外科の研究室に所属しています。

Q3.ドイツの佐藤俊介先生の所で研修をしようと思われた理由を教えてください。

大学受験のときに相談に乗っていただいたこともあり、馬術の本場であるドイツのクリニックがどのようなものなのか現場をこの目で見たいと思ったからです。

海外に行くのは言語の壁も大きかったのですが、佐藤先生がいらっしゃることでその壁が小さくなり実現することができました(写真1)。

Q4.佐藤先生の所で研修期間を3か月間にされた理由を教えてください。その間、大学の講義等はどうされたのでしょうか?

後期の休学を予定しているところに研修の話が進み、観光ビザで滞在が可能な3か月に決めました。研修期間は最初2025年9月16日~10月8日の1か月の予定でしたが、せっかく時間があるならと追加で2か月滞在することになりました(10月31日~12月31日)。

冬の対策をしていなかったため一度帰国いたしました。

Q5.3か月とまとまった研修期間でどのようなことを見て、学び、経験されたのでしょうか?

朝からオペ、入院馬の治療、跛行診断、歯科、疝痛など往診にも同行し、その場の対応も見せていただきました。跛行診断ではレントゲンやエコーを見て治療まで携わることができ、実際の症例を見ながら読影で注意するポイントなども教わりました(写真2、3)。

歯科は定期的なチェックや抜歯のオペも間近で見させていただきました(写真4)。

また、日本ではめったに関わることのない多くの品種の馬に触れ、品種による違いも学びました。

一次診療と二次診療の両方をしており飼い主さんがクリニックに連れてこられる環境であるため、1日の症例数が多く様々な症例を見て症状と結びつけていくことができました。

Q6.読影で注意するポイントを具体的に教えてください。

辺縁、軟部組織、関節面を見ることや、その読影のために撮影時に関節がはっきり見えるように気を付けることなどを教わりました。

Q7.抜歯時においてどのような鎮静剤や麻酔剤を使用されているのか教えてください。

私が見学したオペでは立位で行っており、デトミジンとブトルファノールを使用していました。

Q8.日本ではめったに関わることのない多くの品種の馬に触れたとのことですが、具体的にどんな品種なのかを教えてください。

最大の馬といわれる品種のシャイヤーやアイスランドホースなどです(写真5)。

Q9.馬の品種により違いがあるとのことですが、品種による違いで何が異なるのでしょうか。具体的に教えてください。

品種による違いで鎮静剤の効果や好発疾病が異なることを教わりました。

Q10.好発疾病の具体例を教えてください。

重種での蹄癌やシェトランドポニー等の高脂血症などです。

Q11.二次診療ではどのような症例の馬が来ましたか?

疝痛のオペや関節鏡手術(写真6)、肺胞洗浄などです。

Q12.1日の症例数は平均どれくらいでしょうか?

シーズンによって差はありますが、15~40症例くらいです。

Q13.3か月の研修で一番印象に残った症例を教えてください。

疝痛のオペの後、一時回復したものの悪化し再びオペになり、その後の回復は早かったことです。その馬は腸管に大量の砂が溜まっていました。術後管理の大切さを学びました。

Q14.日本とは異なる環境で学ぶことにより、多様な視点や価値観など何か変化はありましたか?

日本でもアニマルウェルフェアの考え方が浸透してきましたが、ドイツではその考え方が進んでおり目指す先はこうなのだと実感することができました。

飼い主さんの馬への理解が日本とは全然違うと感じました。異常を些細なことで気付き、そこから見当を付けている飼い主さんもいて衝撃を受けました。

また、実際に赴いて勉強することが大切だと感じたので様々な実習に参加していきたいと思います。

Q15.ドイツではアニマルウエルフェアの考え方が進んでいるとのことですが、具体的に教えてください。

馬のQOLを上げることが第一で、乗馬としては活躍できなくても痛みから解放する手段があり、何より獣医が身近にあり、馬の輸送も乗用車でトレーラーをけん引する形が多く日本より手軽にできそうだと感じました。

安楽殺(安楽殺処分)も目にし、動物に関わる者として考えるべきことだと感じました。

Q16.今後、様々な実習に参加したいとのことですが、どのような馬の実習先を考えていますか?

乗馬の診療所、競馬も含めた馬の診療所、JRAの実習にも参加したいと思っています。

Q17.今回の研修を進路にどう役立てていきたいのか、あるいは抱負を教えてください。

競技馬として求める馬の状態が自分の中で明確になったので、早い段階で確かな診断をし、馬それぞれのパフォーマンスを向上させられるような獣医師を目指していきたいです。

また、日本でも獣医師がもっと身近な存在になっていき、馬に関わる人の馬への理解がもっと深められるようにしていきたいと思いました。

Q18.競技馬として求められる馬の状態が自分の中で明確になったとのことですが、求められる馬の状態を具体的に教えてください。

日本にいても異常と思わなかったような歩様でも実際には問題があり、今まで関わった馬の中にも痛みを抱えている馬がいたのではないかと思いました。

また、ドイツではローカルの大会でもポニーでも馬の動きが大きく、日本でも馬が体全体を柔らかく使って運動できるようにしていけばパフォーマンスが変わるのではないかと思っています。

Q19.馬との出会いはいつですか、そして今どのように関わられていますか?

小学1年生のときに乗馬クラブの体験乗馬で初めて馬と関わりました。

中学生頃から馬場馬術を始め競技に出場するようになりました。高校では2年間国体に出場し6位、7位入賞しました(写真7)。

大学では馬術部に所属し全日本学生馬術大会、選手権大会にも出場し、卒部しました。

Q20.酪農学園大学は2024年12月にEAEVE認証を取得しました。私立大学ではアジア初で、一つの大学が単独で取得するのもアジア初です。学生の1人としてどのように感じていますか?また、このEAEVE認証取得を活用して英国獣医師免許を取得し、馬臨床医として本場の英国で働くことは考えていますか?

海外で働くという道に進みやすくなったと思います(写真8)。

まだ先のことで具体的に考えられていませんが海外で馬の臨床医として働く道も選択肢に入れています。

Q21.沼田さんのように馬の臨床医をめざす学生や獣医大学受験を目指す高校生に対してメッセージやアドバイスをお願いします。

馬の獣医師にも様々な分野があるので情報を集めたり話を聞いたりするのは大切です。

それに加え、頭ではわかっていても実際に触らないとわからないことも多いので、様々な形で馬に触れる機会もあるとよいと思います。

いろいろと経験して将来の可能性を広げつつ目標に向かって歩んでいきましょう。

Q22.最後に乗馬の魅力とは何でしょうか?

人馬のコミュニケーションが魅力だと思います。その馬が動きやすい乗り方に気付けたときや、望んでいることが馬に伝わったときに特に楽しさを感じます。

編集後記

今回、酪農学園大学の獣医学群 獣医学類4年の沼田衣澄さんにお話をうかがいました。沼田さんは大学を休学されて3か月間、佐藤俊介先生の所に研修に行かれました。研修に行かれた理由は「馬術の本場であるドイツのクリニックがどのようなものなのか現場をこの目で見たいと思ったから」とのことでした。

私はその行動力と決断力に感銘し、佐藤俊介先生を通じてインタビューを申し込みました。記事の中でも記載しておりますが、3か月の研修期間の内容は多岐にわたり、充実した研修をされたと思います。

また、高校生の受験相談に乗り、さらに3か月間の研修を引き受けて、指導された佐藤俊介先生も素晴らしいと思いました。3か月という長期間の研修を実施することはとても根気がいることだと思います。

日本にはない馬の品種についてじかに接したことや、ドイツ人の馬に対するアニマルウエルフェアについての考え方に触れたことなどの海外経験は、沼田さんの進路に影響を与える学びとなったことでしょう。

2026年2月21日に東京のJRA馬事公苑で第7回ホースメッセTOKYO2026が開催され、私も見学に行ってきました。その中で佐藤俊介先生が代表を務める「EQUILENGE」が、ブースを出展していました(写真9、10、11)。沼田さんは、子ども向け聴診体験のお手伝いをされていました(写真12)。

沼田さんの今後のご活躍に期待したいと思います。

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