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■日本の競馬界の未来を切り拓く獣医師(16)ドイツPferdeklinik Duisburg GmbHに勤務 進藤千聖先生 前編

2026-06-22 17:17 掲載 | 前の記事 | 次の記事

写真1 進藤千聖先生(虎の門ヒルズのレストランにて)

写真2 国体出場時の進藤千聖先生(写真提供:進藤千聖先生)

写真3~写真7

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

JVM NEWSにおいて日本の競馬界を支える獣医師の先生方を紹介しています。

今までは、日本中央競馬会(以下JRA)に勤務されている獣医師、帯広のばんえい競馬場の馬を診療されている獣医師、全国的な規模で展開している乗馬クラブの馬を診療している獣医師、地方競馬に勤務されている獣医師を中心にインタビューを実施してきました。

一方、視点を海外に移し獣医大学を卒業後単身ドイツに渡り、馬の臨床獣医師として活躍されている獣医師やカナダのプリンスエドワードアイランド大学獣医学部で馬の外科のレジデント(専門科研修医)をされている獣医師、中近東のカタール国ドーハにて馬の診療所(EVMC)附属病理部長の獣医師にインタビューを実施してきました。

第13回目は社台ホースクリニックにご勤務されている獣医師、第14回目はノーザンファームしがらきに勤務されている獣医師、第15回目は、社台スタリオンステーションに勤務されている獣医師の先生と有限会社社台コーポレーション関係に勤務されている獣医師を3回にわたり紹介してきました。

今回は、佐藤俊介先生の所で学生時代に研修を受け、2025年3月に獣医大学を卒業後、4月からドイツのPferdeklinik Duisburg GmbHに勤務されている進藤千聖先生(写真1)に、なぜドイツに勤務されたのか、ドイツでの馬の診療状況、ドイツ人の馬に関する考え方などのお話をうかがいました。

進藤千聖先生については、以前JAVSとのコラボレーションで麻布大学を紹介した際に、ドイツでの2週間の修行状況について紹介いたしました(「JAVSコラボレーション-獣医師による獣医大学訪問(10)麻布大学-後編」)。

(取材日:2026年1月22日)

Q1.獣医師を目指されたきっかけを教えてください。

小学生の頃にTVドラマ「獣医ドリトル」を見て、作中でいろんな種類の動物の命を救う鳥取先生の姿に憧れを抱き、獣医師を志すようになりました。

Q2.馬と触れ合われた最初のきっかけや、乗馬との出会いや現在までの関係を教えてください。

初めて馬と触れ合ったのは、幼い頃に近所の公園でポニーの引き馬体験をしたことです。

その後、小学生になってから、年に一度、夏休みに長野にある観光牧場に外乗体験をしに行っていました。馬に乗ることの楽しさを覚えた私のために、母が乗馬を習うことを提案してくれ、小学校6年生から地元静岡の乗馬クラブでレッスンを受けるようになりました。馬に乗ることが楽しすぎるあまり、気づけば毎日のように乗馬クラブに通い、馬と共に過ごすことが日常になっていました。中学・高校時代には競技にも参加し、国民体育大会や全日本ジュニア、全日本Part1などの大きな大会で成績を収めることができました。

その後、大学受験に向けて競技生活には区切りを付け、Hobby Riderとして大学卒業まで愛馬と共にのんびり過ごしていました。

現在は獣医師として働き始めたばかりで、どうしても趣味に割く時間が限られてしまっていますが、せっかくドイツにいるので、近いうちにまた馬に乗る生活に戻れたらと思っています。

Q3.出場された大会でどのような成績を収められたのでしょうか?

大きな成績としては、国体3位入賞、全日本Part1Lクラス優勝をしました(写真2)。

Q4.馬の臨床医を目指された理由を教えてください。

大学5年次にドイツのPferdepraxis DelbrückのDr.Jürgen Matheaと佐藤俊介先生の来日診療を実習生としてお手伝いする機会がありました。その際、馬大国ドイツの先進的でスピード感のあるパワフルな診療に惚れ込みました。

その年の夏休みに彼らのドイツの馬専門病院を訪問し、約2週間実習をさせていただきました。学びが非常に多く、刺激的で、充実した、楽しい日々でした。

それまでは全く別の進路を考えていたのですが、その実習を通して、私もドイツで馬の臨床医として働きたいと一念発起しました。

Q5.馬大国ドイツの先進的でスピード感のあるパワフルな診療とは具体的にどんな診療方法なのでしょうか?

複数頭を同時並行で診療していました。

例えば、跛行の症例であれば、診断麻酔をかけて待機している間に他の馬のレントゲンやエコーの撮影をする、など。このようなスタイルは、獣医師と動物看護師がチームとなって診療するクリニックならではの方法だと思いました。

1日に多くの症例を見ることができますし、役割分担ができていることで獣医師は診断に集中することができると思いました。

跛行の原因がどんどん明かされていく様子に非常に興奮を覚えました。

Q6.馬の臨床医になるため、学生時代にどのようなことを実施されたのでしょうか?

馬の臨床医を進路に定めたのが大学5年の夏と、かなり遅い時期だったのにも関わらず、ドイツで働くために達成しなければならないことが多く、とにかく時間がありませんでした。

まずはすぐにドイツ語の勉強を始めました。日本の獣医師免許を以てドイツで獣医師としての労働許可をもらうためには、ドイツ語“B2レベル”以上の認定が必要でした。当時の私はドイツ語能力が皆無だったため、英語学習で例えるならば、英単語を全く知らない人が1年半で英検準一級を取得しなければならない、というかなりハードな挑戦を強いられていました。

そして、翌年夏には再び約2ヶ月間ドイツに渡り、就職先を獲得するために複数の馬専門病院で実習を行いました。こうしたドイツで働くための準備や就職活動と並行して、大学での授業、試験、研究、さらには国家試験に向けた勉強まで、全てを完遂する必要があったため、本当に忙しく苦しい日々でした。

家族、友人、先生方のサポートなしでは間違いなく何一つ達成できなかったので、感謝の気持ちでいっぱいです。

Q7.ドイツ語B2レベル以上の認定はいつ頃日本で取得されたのでしょうか?短期間でそこまでレベルアップできた秘策を教えてください。できましたら活用された語学の参考書などをご紹介ください。

ドイツ語のB2試験には、読解、聴解、作文、会話の4つの科目があります。私は読解以外の3科目を2024年末から2025年3月にかけて取得し、読解を2025年4月にドイツに渡航してすぐ取得しました。

ドイツ語の学習を本格的に始めたのは2023年末だったので、約1年半でB2レベルに到達したということになりますが、秘策はとにかくドイツ語学習に時間を割き、集中することだけでした。

特に語学学校に通っていたわけでもないので(大学があってそのような時間もなかったので)、基本は市販のテキストを使った独学、それと合わせてたまにオンラインで単発でレッスンをしてもらったり、ドイツ語ネイティブの先生に会話の練習をしてもらったりしていました。

私の場合、試験に受からなければ就職できない、ドイツに行けない、という焦りがあったので、受かる以外の選択肢がありませんでした。そうした焦燥感は間違いなく成功の秘訣だったと感じています。

私が主に使っていた参考書は以下の通りです。

Q8.就職先を獲得するために複数の馬専門病院に実習されたとのことですが、具体的にいくつの施設で、またどこの施設で実習されたのでしょうか?

大学5年の夏休みは、Pferdeklinik Mühlen GmbHで1週間、Pferdepraxis Delbrückで2週間でした。

大学6年の夏休みは、Pferdeklinik Duisburg GmbHで3週間、Pferdepraxis Delbrückで3週間でした。

Q9.なぜ、ドイツの佐藤俊介先生の所での研修を希望されたのでしょうか?

先述した来日診療に参加した際の圧倒的な高揚感から、もっと見たい、もっと知りたい、と強く思ったことが1番大きな理由です。

また、初めての海外での研修で、そのうえ当時はドイツ語を全く話せなかったため、コミュニケーション等に大きな不安がありました。佐藤先生がいらっしゃったことで非常に安心感もありましたし、実際に研修中は全面的にサポートしてくださりました。

Q10.佐藤俊介先生の所の研修で学ばれたことは何でしょうか?研修は、その後の自分にとってどのように役立ちましたでしょうか?

佐藤先生がお勤めになるPferdepraxis Delbrückでの2度の実習では、本当に多くのことを学びました。獣医学的知識はもちろん、保定などの診療補助やオペの助手を経験させていただく中で、技術面での大きな成長を感じました。

また、実際の症例を見ながら所見・鑑別診断・必要な検査・治療方針等について佐藤先生方と話す機会が豊富にあり、アウトプットの能力やコミュニケーションスキルも磨かれました。

2度目の実習の際はドイツ語を少し理解できるようになっていたため、飼い主さんへのインフォームの仕方や、装蹄師さんとの打ち合わせなど、獣医師として働くために必要なドイツ語やコミュニケーションの取り方も学ぶことができました。その際に覚えたフレーズや表現は、現在の職場でも頻繁に活用しています。

Q11.アウトプットの能力やコミュニケーションスキルも磨かれましたとのことですが、具体的な例をそれぞれ1つずつご紹介いただけませんでしょうか?

  • ①アウトプット能力
  •  ある症状や主訴に対する鑑別診断の列挙と、そこから治療を展開していくアウトプット能力。例えば、鼻汁が出ている馬が来院したとき、当時学生の私は、原因として感染性や慢性の呼吸器疾患、食道閉塞はすぐに思い浮かびましたが、他にも、副鼻腔、歯原性、誤嚥性、肺水腫など、様々な疾患が挙げられます。
  •  こうした可能性の中から、鼻汁の性状や他の臨床兆候、経過を踏まえ、必要な検査を選択し、診断を下す、という診療の流れのなかで、鑑別診断を上げることは、見当違いの検査や誤診を回避するための重要なステップです。
  •  ただ机に向かって知識を蓄えるだけでは、それをどう活かすのか、臨床現場でどのように重要なのか、良く理解していませんでしたが、実際実習をしてさまざまな症例を見たことで、座学で身につけた点と点が繋がったような感覚がしました。
  • ②コミュケーションスキル
  •  これは日本語であってもドイツ語であっても同様のことが言えますが、獣医師同士または看護師、装蹄師とのやりとりで飛び交う専門用語を、飼い主の方への説明の際には、理解しやすい言葉に変換する必要があります。
  •  先輩獣医師の先生方はその切り替えや言い換えが非常に明解で的確でした。こうした、臨床医に必要な語彙力や説明力を学ぶことができました。

Q12.覚えられたドイツ語のフレーズや表現を教えてください。

沢山ありますが、以下が代表的なフレーズです。

  • ①(検査方法や治療方法を提案する時)
  •  Ich würde vorschlagen, … zu machen. Als Alternative wäre auch … möglich.
  •  和訳:私としては…をお勧めします。あるいは、…も可能です。
  • ②(治療のリスクを説明する時)
  •  Diese Behandlung ist mit einem gewissen Risiko verbunden. Es kann zu Komplikationen wie… kommen
  •  和訳:この治療は一定のリスクが伴います。例えば、以下のような合併症が発生する可能性があります。
  • ③(似ていますが、手術や麻酔のリスクを説明する時)
  •  Wie bei jeder Operation und Narkose ist auch dieser Eingriff mit gewissen Risiken verbunden. Es kann zu Komplikationen wie Infektionen, Nachblutungen oder Problemen während der Aufwachphase kommen.
  •  和訳:他の手術や麻酔と同様に、この処置にも一定のリスクが伴います。感染症、術後出血、回復期における問題などの合併症が発生する可能性があります。
  • ④Die Heilung kann (期間) dauern.
  •  和訳:治るのに(期間)かかる可能性があります。
  • ⑤Die Prognose ist sehr vorsichtig. Wir müssen den Verlauf genau beobachten
  •  和訳:予後は非常に深刻です。経過を慎重に見ていく必要があります。

このように列挙してみると、特にネガティブな内容を伝える時のドイツ語を多く習得したように思います。こうした内容は、ドイツ語ネイティブが使っている表現に倣い、適切なニュアンスを添えて伝えられるようにしたいと考えています。

Q13.なぜ、大学卒業後国内でなくドイツでの就職先を選ばれたのでしょうか?

様々な品種、年齢、用途の馬の症例をたくさん学びたいと思ったからです。

ドイツは馬大国ということもあり、人と馬との関わりがとても深いです。乗用馬や競走馬はもちろん、ペットとしてポニーが飼われていることも決して特別なことではないですし、私が勤めている病院にはロバも来ます。

まだまだ知らないことだらけではありますが、獣医師1年目の今の時期をドイツの病院で過ごし、数多くの症例を経験できていることは、確実に自身の成長に繋がっていると実感しています。

また、馬臨床医向けの研修が欧州のあらゆるクリニックで頻繁に開催されており、豊富な勉強機会を得られること、様々な分野の専門医の先生方の診療を数多く見られることも、大きなメリットだと考えています。

Q14.ロバが来院されるとのことですが、診療において馬と異なる点は何かございますでしょうか?

私はロバの採血と胃内視鏡検査に立ち会ったのですが、馬より大人しかった印象です。

Q15.各分野で著名な獣医師をご紹介いただけないでしょうか。

  • 外科:Dr. med. vet. Kathrin Rasch、Dr. Maarten Haspeslagh
  • 歯科・副鼻腔:Dr. Chris J. Pearce、Dr. Nicole du Toit
  • です。

Q16.進藤先生はどこの馬の診療所にご勤務されているのでしょうか?

私は現在ドイツ北西部にあるPferdeklinik Duisburg GmbHという馬のクリニックに獣医師として勤務しています。Pferdeklinik Duisburg GmbHには、院長1人、私を含めた6人の合計7人の獣医師が常勤しています(写真3~写真6)。

Q17.Pferdeklinik Duisburg GmbHを選ばれた理由を教えてください。日本からどのくらいの時間でどのようなルートで行くのでしょうか?

大学6年次にこちらで実習する機会をいただきまして、その際に卒業後に獣医師として働かないかというオファーをいただいたので、就職を決めました。

ペットのミニチュアホースから現役のスポーツホースまで様々な品種・年齢の馬が来院すること(写真7)、経験豊富な獣医師の方々がたくさん在籍していること、特に疝痛や歯科・副鼻腔疾患の症例が多く、私が興味ある分野と合致していたことが決め手でした。

当院はデュイスブルクというドイツの中都市の近郊にあります。日本からのアクセスとして、①最寄りのデュッセルドルフ空港まで経由便+車で30分②フランクフルト空港まで直行便+電車で1時間半③アムステルダム・スキポール空港まで直行便+電車で2時間半という3つのルートが挙げられます。日本からおよそ16〜17時間程度かかります。

以下、後編に続きます。

後編に続く