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羽山伸一, 三浦慎悟, 梶 光一, 鈴木正嗣 編

『増補版 野生動物管理-理論と技術-』

2016年6月発行・B5判・ソフトカバー・560頁・定価 7,776円(税込)

評者 酪農学園大学 教授 浅川満彦

 2012年に刊行された『野生動物管理-理論と技術』(以下,旧版)について,つい先日,書籍紹介を書かせて頂いたと思っていたが1),その4年後の今年,本書が2つの章と1つのコラムを加え,36頁増えて刊行された。総頁の増加分には日本語索引のまるまる1頁分も含まれる(それに比べ,外国語索引の量は旧版とほぼ同じ)。重要な専門用語の急増は,この分野を専攻する学生さんにとっては,まことに気の毒な話だが,たった4年でこれだけの増加があることは,まさに発展途上のフィールドであるのだと諦め(?),前向きに受け入れて欲しい。
 本書の基本的な枠組みは旧版を踏襲しているが,旧版刊行後に,旧来の「鳥獣保護法」が「鳥獣保護管理法」に変革するなど法制度が大きく変わったため,この更新が不可欠になったことが,この増補改訂版出版の目的であった。新旧のこれら両法規の違いは,前者が増殖・拡大,後者が削減・縮小で,ベクトルが全く異なる。また,後者では捕獲事業やその事業者なども盛り込まれ,より具体的な内容になっている。おそらく,本書に関わった編者あるいは著者らの多くが,新たな法規施行に関わったと想像されるが,それでも彼らが描く「望ましい管理」とは,この新たな法規が目指す狭小なものではないことも宣言されている。本書「増補にあたって」を一読するだけでも,この「保護管理」という概念と実際に関わる物事が,一筋縄ではいかないことが推し量れるであろう。
 さて,新たに加えられた章は「外来種管理の考え方」と「哺乳類の生息数調査法」,コラム「食性分析」であった。すべて有益な内容であり,特に,「哺乳類の生息数調査法」は日本野生動物医学会主催の野外実習を本学で行う際,コンパクトで良好なテキストとなろう。鳥類に関して注目されたのは「狩猟鳥個体群と生息地の管理技術」で,旧版でカモ類・キジ類の順で記載されていたが,本書で逆になっていた。最新の鳥類分類体系を反映したものの,狩猟鳥としてのウズラが除かれ,また,エゾライチョウの急減が深刻なこと(更新されたグラフから読み取るに)などから,このような軽重の逆転があったのかもしれない。
 このように追加された章以外でも,特に,旧版発行後に公表された原著・書籍などを引用文献に追加したものでは,若干の改訂が認められた。その中でも,本書刊行の理由となった法制度の変更については,「野生動物保護管理に関わる法律」の章で詳述されていた。ただ気になったのは,本章「今後の動向」は,旧版と同じで,2013年以降のことが記されていなかった。しかし,このあたりは,前述した「増補にあたって」の内容を読者自身が読み込めば宜しいのであって,かえって,学生さんにとっては学習効果が高い作業になるであろう。
 引用文献
1)浅川満彦(2012):ズー・アンド・ワイルドライフニュース (35), 28.

「獣医畜産新報」2016年9月号 掲載

長谷川大輔 監訳

『獣医臨床神経解剖学』

2016年4月発行・A4判変形,ソフトカバー,オールカラー・224頁・定価 12,960円(税込)

評者 那須野ヶ原アニマルクリニック 院長 鷹栖雅峰

 文永堂出版より本書の書評を書く機会を頂いた。なんとも有り難い話である。本書は神経病学の書物ではない。本書のタイトルは『獣医臨床神経解剖学』であるが,原書タイトルは『Veterinary Neuroanatomy: A clinical Approach』であり,それを訳すと「獣医神経解剖学:臨床的アプローチ」となる。内容はタイトルが示す通り,解剖学的な記載が主だったものである。ただし,臨床的アプローチという原書の副題の通り,臨床獣医師のためのアドバンテージが本書に与えられている。
 解剖学は臨床上重要であることは疑いようもないが,実際に解剖学の書籍を開いて熟読できる獣医師がどれほどいるだろうか? 学生時代に解剖学教室に在籍した筆者でも難しい。その理由は解剖学と臨床獣医学との乖離であるように思う。本書は神経系に限定して解剖学的記述を与え,同時に臨床的側面も説明している。したがって,神経学的検査の結果や神経異常を示す病態と解剖学的側面の理解が本書によって素早くできる。末梢神経からのインプットと脳を介して末梢神経に伝えられるアウトプットの経路が,それぞれ解剖学的に記載されている。本書を通読すれば,長谷川大輔 准教授から序文で与えられている課題への解答も考察できるだろう。ただし評者にとっては難しい課題(その序文は文永堂出版のホームページにも掲載されている)であった。長谷川准教授の考察を拝聴する機会を得たが,評者の考察はかなり拙いものであった。冷静に考えれば,評者のような一般的な獣医師が神経学の専門家が考察する深さに対抗しようも無いのだが…
 その課題への考察はさておき,本書は臨床獣医師にとってこそ,読みやすいものとなっている。ある程度の解剖学的知識を有し,神経異常を示す動物に接する臨床獣医師だからこそ,理解しやすい内容なのだろうと思う。特に,神経学的現象を何故? と感じる獣医師には非常に有用と思われる。
 評者は本文だけでなく,付録の断層解剖学アトラスが極めて臨床上有用であると考えている。神経病にはMRI検査を利用することが多い。本書だけで,MRI検査で得られた病変部分の解剖学的構造と神経機能を知ることができるはずである。神経病だけでなく,臨床的に利用されている画像診断は断層解剖学である。純粋な解剖学の書物では,断層解剖学に特化した書物は無い。体腔の断層解剖標本を作成することが難しいので仕方がないのかもしれないが,臨床医にとって,断層解剖学は肉眼解剖学と同様に必要とされると感じる。本書の付録に記された写真のクオリティは非常に高い。やはり肉眼所見に勝る情報はない。多くの読者は,本書の付録をMRIの結果を見る際に脇に抱えておきたいと感じるだろう。

「獣医畜産新報」2016年7月号 掲載

日本野生動物医学会 編

『コアカリ野生動物学』

2015年10月発行・B5判,ソフトカバー・212頁・定価 3,780円(税込)

評者 往診動物病院Fauna Vet’s 代表獣医師 笹野聡美

 タイトルになっている「コアカリ」(獣医学教育モデル・コア・カリキュラム)とは,獣医学生が卒業までに最低限身につけるべき授業内容の全国共通ガイドラインである。コアカリに導入されたことにより,これまで獣医学の中では特異な領域として扱われてきた「野生動物学」を,今後は全ての獣医学生が学ぶこととなった。これは,近年,人間社会の中で野生動物を取り巻く問題が深刻さを増し,対応できる技術をもった獣医師のニーズが高まっていると同時に,保全医学の観点を踏まえた人と野生動物の共存が重要視されるようになったことを意味するのであろう。
 本書は日本野生動物医学会が編纂し,学会メンバーである大学関係者をはじめ,野生鳥獣医療,フィールド,動物園の第一線で活躍している著者らによってまとめられている。内容は非常に幅広く,脊椎動物の比較形態,野生動物の繁殖生理・栄養・捕獲と不動化(麻酔)・疾病といった獣医学とリンクする分野から,生物多様性,生態,個体群動態などの生態学・動物学の分野,そして野生動物管理,絶滅危惧種の保全,外来種問題,法制度など人間社会と大きく関わる分野,飼育下野生種を扱う動物園・水族館学にまで及んでいる。さらに「アドバンスト」の項目として,臨床獣医師も関わることがある傷病鳥獣救護とリハビリテーションの基礎知識も学ぶことができる。特に獣医師が本領を発揮できる不動化については,動物ごとの薬剤と投薬量が記載されているので,そのまま実践で使えるだろう。生態と繁殖については,日本の代表的な動物種について具体的に記述されており,野生動物調査や対策に有用な情報となる。構成は,2色刷りで章ごとに学習目標と重要なキーワードが掲げられており,各章の最後には演習問題が付属していて読後の理解度を測れるようになっている。また,全てではないが専門用語に英学術語が併記されているので,関連の海外文献を探したり読んだりする際に大いに役に立つだろう。
 冒頭で述べたように,本書は獣医学生用として作成されたものだが,野生動物学について概観できる格好の書であり,応用動物科学系などの大学生,野生動物行政担当者,また野生動物調査員や動物園職員を目指す専門学校生にも是非お勧めしたい。特に最新の情報が盛り込まれていて,手頃な価格とコンパクトな形状から,上記のような動物系専門学校の教科書としても最適であると考える。

「獣医畜産新報」2016年1月号 掲載

臼井玲子 著

『犬と猫の耳の医学』

2015年11月発行・A4判変形,ハードカバー 付録:DVD-ROM(49動画)・240頁・定価 23,760円(税込)

評者 エムズ・アニマル・ホスピタル 院長 山口 勝

 2006年9月より足掛け10年に亘り,年間500症例以上のビデオオトスコープ治療を実施してこられた著者が,その経験と実践から得られた知見を余すところなくまとめあげられた集大成。ビデオオトスコープ治療の基礎から実際の臨床例を非常に貴重な画像と共に提供された世界初,もちろん本邦初のビデオオトスコープ治療の教本である。
 本書では,第1章から第2章でビデオオトスコープ治療の基礎となる操作方法などを大変わかりやすく解説され,特に第2章の最後にはビデオオトスコープを初めて手にした時に誰もが経験するであろう「どうしても上手に画像が描出できない」から脱却するための手法,すなわちビデオオトスコープの適切な操作法を挿入時のポジション写真と描出画像で簡潔に提示されている。この3頁だけをとっても本書の価値は非常に高いと思われる。また,第3章から第9章には,実際の臨床例を中心に経過をふくめた治療例が豊富な画像と共に提供されている。第4章では,日常の診療で遭遇しやすい耳道の大きさ・形態の異なる犬・猫16種類29例にもおよぶ外耳炎症例がおさめられており,その臨床経過が画像と共に確認可能である。臨床医にとって経過画像があることで日常の症例との比較検討に大変利便性が高い。第5章を中心に,第8章・第9章では,一般臨床ではなかなか踏み込むことができなかった中耳疾患のアプローチにもふれ,完治例はもとより鼓膜が再生されなかった症例への対処法なども著者の多数の経験から考察されている。
 以上,本書はこれからビデオオトスコープを導入される臨床医のマニュアルとなることは勿論,現在すでにビデオオトスコープを使用している先生方へのアドバイスにもなると同時に耳治療の新しい流れとして,全ての臨床医を対象とした書であると考えられる。

「獣医畜産新報」2016年1月号 掲載

臼井玲子 著

『犬と猫の耳の医学』

2015年11月発行・A4判変形,ハードカバー 付録:DVD-ROM(49動画)・240頁・定価 23,760円(税込)

評者 日本獣医生命科学大学名誉学長・自治医科大学名誉教授 池本卯典

 <動物の不快を可視化する> この技術を開発すれば,病気の動物達により適切なケアが提供できるはずである。その命題に秘められた仁・慈・愛を教訓として獣医療深化の科学は試行錯誤を続けている昨今である。
 言語を持たない動物の医療は,まさに小児科診療,クライアントによる病態の説明と診療の同意が獣医療行為の端緒である。したがって,担当獣医師は動物の不快を如何にして把握し,クライアントを納得させるか,その究極は動物の不快を可視化した診断情報をクライアントに提示することだと思う。
 本著『犬と猫の耳の医学』は,はまさに,時宜を得た代表的参考書といえよう。目的は著者が序文に記す「犬と猫の外耳,中耳,内耳炎の撲滅」であり,診断と治療の技術は,ビデオオトスコープを駆使した耳内部環境の可視化による精緻な診断と的確な治療である。5,000回以上に及ぶ診断・治療の実績に裏打ちされた,『犬と猫の耳の医学』の構成は,「第1章 ビデオオトスコープと鼓膜画像」から「第9章 犬の全耳道切除術とU字形」に講述され,すべて鮮明な写真を付した明快適切な解説に魅了される。頁を捲ると,ビデオオトスコープの有用性と機能,犬と猫の耳内環境,画像診断,耳炎の原因,外耳炎,中耳炎の症例,耳の寄生動物,ポリープ,難治性耳炎の治療,犬の全耳道切除術等,犬と猫の獣医学および獣医療を余すところなく,克明に説明されている。まさに動物の不快を可視化し,新領域の獣医療を啓発すると共に,インフォームドコンセント,動物倫理や福祉等の指針としても有用な,好個の学術書として推薦させていただく次第である。

 本書の完成には,パートナーの獣医学博士 臼井良一氏,アシスタントの動物看護師 福田美奈子氏の並々ならぬご協力を伝聞し,その豊かなチーム力に敬意を表します。

「獣医畜産新報」2017年2月号 掲載

清水邦一,清水宏子 著

『快適な動物診療 -技術のアイデアと心のマネージメント-』

2015年1月発行・A4判変形,ハードカバー,オールカラー・368頁・定価 24,840円(税込)

評者 帯広畜産大学 名誉教授 一條 茂

 著者らの30数年の伴侶動物診療を通じ,快適な診療のために実践してきた心構えや気配り(心のマネージメントと表現),改良・考案してきた診療器具などを紹介した約350頁に亘る大冊で,こなれた文章と巧みなイラスト,写真などが存分に組み込まれ,楽しく読ませてくれる。本書は以下の8章からなっている。

1)動物病院運営のアイデア:病院経営の基本方針による施設の特徴,カルテなど文書作成の諸アイデアへの工夫などが述べられている。
2)動物看護師さんとの関係:伴侶動物病院の重要なスタッフである動物看護師の役割分担などについてキメの細かい指導項目などを挙げ,連携の重要性に言及している。
3)飼い主さんにできること:診療では飼い主さんから信頼され,飼い主さんが安心できるが重要であり,喜ばれ,納得されるためのコミュニケーションの諸項目について細かく記載されている。また学校飼育動物管理の在り方についても経験からのアドバイスをしている。
4)終末期とペットロス:伴侶動物終末期の対応やペットロス軽減のための諸情報に詳しくふれている。
5)診療・治療・手技のアイデア:設備,器具・機械や処置,手技の工夫などが紹介され楽しく読ませる。またウサギなどの診療も紹介されている。なお,同著者には関連する著作(『やさしいエキゾ学』)もある。
6)コミュニケーション力:診療スタッフ,飼い主さん,MRなどの診療関係者とのコミュニケーションについて,楽しいイラスト入り,説得力のある文章で紹介している。
7)生活の輝き:開業者としての夫婦の生活信条(楽しく,若さを持続,子育て,老後への心構え)などである。
8)海外学会への参加:世界小動物獣医師会年次大会への参加など技術の研鑚,情報交換に努めている。また諸外国のペット事情をも紹介。
 その他,各処に五行歌,エッセイ,コラム,作成したパンフレットなどが挿入され,肩の凝らない内容への努力がなされている。
 著者はまとめの一言として,“もしかしたら,獣医療は愛情業かもしれない”と述べているが,本書は伴侶動物診療獣医師として重要な,飼い主やスタッフなど,関係者への気配りの在り方を示した好著としても楽しく読ませてくれるので,特に診療に関係する方々の一読をぜひお勧めする。

「獣医畜産新報」2015年3月号 掲載

茅沼秀樹 監訳

『小動物X線・超音波ハンドブック -検査手技と鑑別診断-』

2014年5月発行・B5判,ソフトカバー,2色刷り・394頁・定価 17,280円(税込)

評者 株式会社スカイベッツ代表取締役 / 日本小動物医療センター画像診断部長 小野 晋

 「この本いいよ」忘れもしない2010年8月7日,非常勤勤務先の読影室にて,本書の監訳者であり,私の恩師でもある茅沼秀樹先生がみせてくださったのが,本書の原著にあたる『Handbook of Small Animal Radiology and Ultrasound』である(ちなみに,日付が正確に分かるのは私の記憶力の賜物でもなんでもなく,その場で即,amazonで購入した履歴が残っているからである)。あれから4年,読影や執筆のお供として,本書を肌身離さず持ち歩いている。
 目次をみると「骨格系:全般」,「関節」,「付属骨格」,「頭頚部」,「脊椎」,「下部気道」,「心血管」,「その他の胸部構造:胸腔,縦隔,胸部食道,胸壁」,「その他の腹腔内構造:腹壁,腹腔と後腹膜腔,実質臓器」,「消化管」,「泌尿生殖器」,「軟部組織」の12章からなっており,文字通り,全身を網羅した内容であるのがわかる。
 本書の最大の特徴は,一般的な画像診断の教科書では,「この疾患・病態ではどんな画像所見がみえるか」というアプローチ方法をとるのに対して,本書では「この画像所見がみられた場合にはどんな疾患・病態が疑われるか」という真逆のアプローチ法をとっているところにある。
 例えば,第6章 「下部気道」の「肺胞パターン」では,(1)心因性肺水腫,(2)肺炎,(3)肺出血,(4)無気肺,(5)肺葉捻転,(6)腫瘍,(7)非心原性肺水腫,(8)外傷による肺挫傷,(9)肺血栓塞栓症,(10)肺葉捻転,(11)肺胞タンパク症,(12)閉塞性細気管支炎,(13)猫の特発性肺線維症が鑑別診断として挙げられており,その中の「非心原性肺水腫」をみると,その原因としてさらに①気道閉塞,(2)神経原性,(3)溺水,(4)低アルブミン血症,(5)多発性全身性炎症あるいは非炎症性疾患(尿毒症,急性膵炎,敗血症),(6)吠え続ける猟犬,(7)アナフィラキシー反応,(8)高浸透圧性造影剤の吸引,(9)毒素,(10)刺激性物質の吸引,(11)再拡張性肺水腫が記載されている。
 また,非心原性肺水腫は「尾背側の領域に生じる傾向があり,多くは非対称性で右側に生じやすい」など,各々の疾患が具体的にどのようにみえるのか,ということにも触れられている。読影の際には,こういった記載をもとに,さらに鑑別診断を絞っていくのである。
 本書に登場する画像は,2色刷りの綺麗なカラーイラストで描かれており,驚くべきことに,実際のX線写真や超音波画像は一切登場しない。しかしながら,イラストであるがゆえに,すべての画像が実際の写真ではなかなか実現されない,“超典型画像”である。実際の写真よりもむしろ理解しやすいので,その点は心配無用であることを強調しておく。
 鑑別診断がメインの内容であるため,内容にやや物足りなさを感じる部分もあるが,各章末に掲載されている豊富な参考文献を活用することで,さらに理解を深めることが可能である。画像診断の初級者から上級者まで,ご一読を強くおすすめしたい。

「獣医畜産新報」2014年9月号 掲載

入交眞巳,笹野聡美 監訳

『インコとオウムの行動学』

2014年1月発行・B5判・406頁・定価 17,280円(税込)

評者 日本獣医生命科学大学講師 入交眞巳

『Manual of Parrot Behavior』Andrew U. Luescher
 本書はAndrew U. Luescher先生が米国インディアナ州にあるパデュー大学で獣医行動学専門医として教鞭を取りながら,症例をみていらしたときに,監修された本である。Luescher先生は,カナダのゲルフ大学の獣医学科にいらしたころから鳥を飼育し,繁殖もしていたそうである。その時に,鳥を飼育している人の中には鳥に関して大きな勘違いをしてしまう人が多かったり,野生の鳥を飼育してしまったがために問題を起こしてしまう人を多く見て,心を痛め,正しい情報を伝えるために仲間を集めて本を作成したという経緯がある。
 私自身,本書の監訳者として翻訳作業に参加させていただいたたが,本当に米国において,鳥を専門とする多くの人(執筆陣は33名に及ぶ)が本書の各章を書きあげていたことを改めて知り,監修のLuescher先生の当時の「何とかしなければ」という思いにさらに触れたように感じた。
 内容がどうしても重複せざるを得ないところがある,非常にマニアックな所まで言及されているところがある,また章によっては意見が異なる記載を包括しなければならなかったことなど,1冊の本としては問題とも言えることが残されたままとなっている面も少しあるが,鳥の行動に主眼をおいて,鳥の飼育管理に関してまで幅広く書かれた本は,本書以外にないであろう。是非,鳥に興味のある先生は手に取っていていただきたい。
 内容は,鳥の分類学,知覚能力,社会行動,睡眠,繁殖,行動発達,認知力,学習,問題行動の評価,診断と治療,毛引き症,行動薬理学,アニマルウェルフェアと多岐に及んでいる。全部を通して読むのは根気が必要かもしれないが,症例が来たとき,質問を受けたときに,参考書として必要な項目や章に目を通していただくような使い方が便利であろう。
 翻訳書の出版をきっかけに,鳥の行動をはじめとした飼育管理に関して獣医師が学ぶような場がもっと増えることを切に期待している。私自身もその様な勉強会に参加し,さらに研鑽を積みたい。

「獣医畜産新報」2014年4月号 掲載

加藤 元

『ケーススタディ小動物の診療 -What Is Your Diagnosis and Treatment-』

2013年11月発行・A4判変形、カラー多数・484頁・定価 24,840円(税込)

評者 日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)会長 石田卓夫

 本書は,著者が院長を務めてきたダクタリ動物病院広尾セントラル病院の症例を主に,これまでJVMに連載されてきた60例を厳選して編集した,詳細な症例検討の記載からなる本である。ダクタリ動物病院広尾セントラル病院は現在は移転して,港区白金台でダクタリ動物病院東京医療センターとしてさらに拡充した施設で運営されているが,著者は引き続き院長として,80歳の高齢もものともせず指揮を執り続けている。
 本書の第一の特徴は,症例報告集にとどまらず,巻頭の30頁あまりをさいて,著者の信じる正しい獣医学に対する思いを,様々なグローバルスタンダードも引用しながら書き綴っていることで,すべての獣医師がまずこのパートを読み,完全に理解することが重要である。それがわかっていないと,後半の症例検討の部での複雑な検査や,大がかりな治療の真の意義というものを理解できず,ただ高度医療を記述した本であると感じてしまうかもしれない。われわれ獣医師が何のために働いているのか,誰のために働いているかを抜きにして,症例検討を語ることはできない。
 日本の獣医大学では24時間の救急救命体制をとり,かつそのための教育を行っているところは皆無であり,その点についても著者は大学病院での教育に救急医療を導入するよう訴えている。そして,そのような二次診療体制が整わない状況では,自らが24時間診療を行う使命を感じ,これまでの病院の診療体制に反映させてきた。したがって,症例の中には,比較的簡単なものではあるがエマージェンシーとしての正しい対応が救命のために必要な症例もいくつか含まれている。また,著者の得意分野である画像診断や外科的疾患に関しては,豊富な機器を駆使した診断,そして手術などで病変を目視すること,あるいは生検,剖検病理診断などで,ことごとく臨床診断の裏付けがとられている。その他,画像診断と様々な血液検査を組み合わせた内科的疾患も記載されている。診断に到達するまでの臨床的な迷いや誤りはあるにせよ,それらが最後の謎解きによって解明され,次の症例に生かされるようなグループ診療体制をとっていることがよくわかる。
 したがって,この本の読者は,このような臨床の現場を時間をかけて経験することなく(これだけを経験しようと思えばまさに20年は要するであろう),診断時の迷いや,画像診断所見と開腹所見の違いなど,臨床現場で経験できることを読んで学ぶことができる。あわせて,治療法の選択におけるインフォームドコンセント,さらにはその基礎となるボンドセンタードプラクティスの概念を学ぶことができるのだから,これこそが優秀な書物の力というものである。この本は買って書棚に飾っておくものではない。すべての臨床獣医師が実際に読んで消化しなくてはならない本である。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

日本獣医病理学専門家協会 編

獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠『病理学』(1)~(10)
『動物病理学総論 第3版』

2013年4月発行・B5判・320頁・定価 8,640円(税込)

評者 前東京大学教授 後藤直彰

『動物病理学総論』が一度の改版を経て今年第3版が刊行された。1994年の第1版刊行から約20年が経過している。その間の知識の集積は著しく、第1版を広げると何となく古ぼけた感じは否めない。今回の第3版の分担執筆の各著者を見るとベテランに加えて多くの新鋭が加わり一新している。内容もそれに伴って新鮮な感じを受ける。
獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠というタイトルの下でのテキストというのもものものしいが、ともすれば、ばらばらになりがちな授業内容をまとめて、全国画一的な授業を行うという思想が表されているのであろう。
内容については、当然ながら第1版、2版を踏襲して、従来の病理学総論の細胞の基本構造、細胞傷害のメカニズム、細胞および組織の傷害と死、細胞の適応、細胞の増殖と分化異常、循環障害、炎症、腫瘍について述べられている。腫瘍については「家畜病理学の時代」とは比べられないほど、かなり詳しく記載がなされているが、これは社会的要請に配慮してのことであろう。
これらと共に免疫病理、毒性病理学を意識した環境性疾患、感染病理等についても多くの紙幅が割かれている。しかし、仔細に考えてみると「病理」という用語が冠されている以外は、それぞれは別の体系の学問であろう。こだわらずに考え方を変えると、絶滅が危惧される古典芸能に例えられることのある動物病理学であるが、それら新しい概念を有する免疫病理、毒性病理、感染病理を包含することで、新たな局面が開かれる可能性が大いにある。体系の異なるこれらを迷うことなく1つにまとめた編者の英断が未来に向かって新しい分野を切り開く手掛かりを作ったものとして敬意を表されるべきものである。
教科書である以上、学生諸君を主とする読者に読みやすく、理解されやすいことが第一である。この版では図表は多く的確で、図版は美しく、版を重ねるごとに良くなっているのは明らかである。
ただ、分担執筆で陥りがちな簡潔であるべき記述が綿密でありすぎるきらいが、そこここにみられる。これは内容が深まったのではなく、他の執筆者と比べられるかもしれないという感情が無意識に働いての勇み足で、非難されるべき事柄ではない。
最後に、前版から引き継いで動物病理学の方法論がかなり詳しく述べられている。近年、この方面の進展は目覚ましく、微細形態的、分子病理学的研究法も紹介され、蛋白質の解析法まで述べられている。これらが動物病理学の発展に大きく関わっているのは言うまでもないことで、本書の読者も十分な知識を持ち理解を深めるべき事柄である。

「獣医畜産新報」2013年8月号 掲載

村田浩一・坪田敏男 編

『獣医学・応用動物科学系学生のための 野生動物学』

2013年2月発行・B5判 付録CD-ROM・348頁・定価 8,640円(税込)

評者 茨城県自然博物館 首席学芸員 山﨑晃司

本書の主たる対象読者は、獣医学あるいは応用動物科学を専攻する学生となっている。前もってお断りしておくと、当方はそのどちらの学域にも直接は属さず、研究の主テーマは哺乳類の行動生態である。しかし、最近は獣医学系の研究者と共同研究を行う機会も多く、本書を読んだ最初の感想は、これまで体系的には理解できていなかった獣医学系の世界を、素直に概観できたことである。本書は、獣医学系講座での教科書としての性格を持っているためか、各執筆者の専門性から網羅した項目に多少の偏りがあるものの、野生動物に関する分類、形態、生理・行動、生態・生息環境、疾病・病理、環境汚染、野生復帰、絶滅危惧種の保全、管理といった話題から、さらには動物園・水族館の概要、外来生物、法制度、捕獲と不動化といった非常に広い範囲を取り扱っている。どの章から読み進めても良く、当方のような者にとっても実に興味深い内容構成になっている。特に第2章の系統進化や分類学についての項は、昨今あまり脚光を浴びない、しかしすべての学問領域の基礎になる分野について非常に分かりやすくまとめられており、形態と機能について記述された第3章と併せて読み進めることをお薦めする。また他の章とはトーンが異なるが、第6章の麻酔不動化についての実務的な紹介はとても良い試みだと感じた。附属のCDにはカラー図版のほか、豊富な関連論文も収納されており、これも大変実用的である。
少し気になった部分は、複数の著者が、各章の中でもさらに分担執筆を行っているために仕方のない部分ではあるが、文体や難易度が異なり、読みづらい部分があった。本書は学部生のような初学者を対象としているのであれば、この点の改訂版での考慮は必要かも知れない。また関連して、本書はそれぞれの分野について網羅的に紹介しているために、より細かな内容を知りたい場合は引用文献にあたることを推奨している。しかし、引用文献が具体的に文章中に示されていない章もあり、この点も今後の充実を望みたい部分である。最後にもう一点、第7章にごく簡潔に福島第一原発事故による放射性物質汚染について触れられているが、もう少し詳しい記述がされることを次版で期待したい。
いずれにせよ、本書は獣医学系を学ぶ学生に格好の教科書となることは無論、農学や理学の他分野の野生動物学を学ぶ学生、またさらには大学院生レベルであっても、専門外の分野を系統的に理解するための格好の教科書であることは間違いない。昨今は、例えば生態学を学ぶ学生であっても、生理や形態に言及する研究テーマを持つことは普通だからである。その意味で、広い分野の自然科学系学生に推薦できる好著である。

「獣医畜産新報」2013年5月号 掲載

岩田祐之・押田敏雄・酒井健夫・髙井伸二・局 博一・永幡 肇 編

『獣医衛生学 第2版』

2012年10月発行・B5判・430頁・定価 8,640円(税込)

評者 農研機構 動物衛生研究所長 濵岡隆文

動物衛生分野で、獣医学部生の教科書、現役獣医技術者等の参考書として定評のあった『獣医衛生学』が7年ぶりに改訂され、第2版を手にすることができた。今回上梓された『獣医衛生学第2版』は、我々動物衛生分野を巡る情勢の変化を背景に「ミツバチの衛生」、「家畜の福祉」、「畜産物の安全と衛生」や「農場HACCP」などの内容が新設、強化されているが、初版改訂時の目玉でもあった環境とストレスの問題の扱いなどが変更されている。いずれにしても、2010年の未曾有の口蹄疫被害を教訓とした家畜伝染病予防法の改正に盛り込まれた新しい飼養衛生管理基準など動物衛生分野の現状を背景に必要な内容を取り込み時宜を得た改訂となっている。
先ず目を引くのが、カラー口絵の充実である。獣医技術者が手軽に利用できるミツバチの疾病の参考書が少ない中で、カラー写真で病態を示しているのが目を引いた。また、本書の前身である『家畜衛生学』にあった参考情報を別立ての「解説」として編集していたスタイルが復刻したと思われるのが、「コラム」である。『獣医衛生学』では姿を消していたがこの第2版では、口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザやプリオン病のような重要な疾病や放射性物質と環境、特用家畜や馬の管理衛生、ビタミンEなど項目立てできなくても重要な特記事項や獣医衛生を学ぶ者には知って欲しい事項などをまとめてコラムとして編集し掲載されている。よい参考となり、おまけの様で得した気分にさせられる。
獣医衛生学の特徴は獣医学と畜産学その他の境界領域を含む応用科学であるといえる。故に本書も実に多くの執筆者による、多くの内容を含んでいる。獣医衛生学の概要からはじまり、疾病予防、環境衛生、生産衛生、飼養衛生、畜産廃棄物と環境といった章立てとなっているが、筆者が注目したのは、動物福祉や畜産物の安全性といった問題が農場HACCPを含めて第4章生産衛生の中で項目立てされたことである。何れも、今日の社会的要請として我々獣医衛生を実践する者に求められている必須の知識であり、農家と一体となって、健康な家畜を育て、安全で高品質の畜産物を安定供給し、日本の消費者から受け入れられる健全な畜産を持続的に発展させるために必要とされるものだろう。これらは他の獣医衛生に係る要素との相互理解、すなわち獣医衛生が目指す総合の中で初めて実現できる。そうした点で、より詳細な個別の専門資料のみからでなく、本書の中から学び取ってもらうことに他にない意義を見いだせる。多くの獣医学部生や獣医技術者に本書を活用してもらいたい。

「獣医畜産新報」2013年1月号 掲載

羽山伸一・三浦慎悟・梶 光一・鈴木正嗣 編

『野生動物管理-理論と技術-』

画像  『野生動物管理-理論と技術-』

評者 日本大学生物資源科学部教授、よこはま動物園ズーラシア園長 村田浩一

まさに、待ちに待った書である、と言っても過言ではないだろう。野生動物や野生動物保全に関心をもつ人々に、ぜひ購読をお薦めしたい。
これまで、研究者や学生が野生動物管理(Wildlife Management)の技術や理論について学ぶには、主に欧米の書に頼るしかなかった。しかし、当然のことではあるが、日本産の野生動物は種や生態が外国産動物と異なり、野生動物の関連法案は海外のものとは違い、人々の野生動物に対する思考や文化的基盤も外国と同一ではない。たとえば、欧米で通常行われている安楽殺の手順を、そのまま国内へ外挿することはできない。なぜなら、安楽殺の是非自体が未だ十分に論議されていないからである。また、麻酔ひとつにしても、体型や生理が異なる種には、それぞれに適した獣医学的技術が必要である。このように、日本産の野生動物管理のためには、各動物種および日本の社会状況に応じた対策が求められる。その期待に本書は応えていると思う。
本書の執筆者は、現在、国内における各専門分野の最前線で活躍している39名の研究者もしくは技術者である。内容は、第1章の「野生動物管理と人間」から始まり、第34章の「被害対策のための行動制御技術」まで幅広く取り上げられており、書名どおり野生動物管理の理論と技術を網羅したものとなっている。とくに技術編では、日本産野生動物であるニホンカモシカ、ニホンザル、イノシシ、ツキノワグマ等の管理について章毎に解説されおり、野生鳥獣被害の対応を迫られた新任の行政担当者が即時的に概要を把握するのに役立つと思われる。図表や写真も多く掲載されており、初心者にも理解しやすいよう配慮されている。
多くの執筆陣の努力で509頁の大書となっているが、洋書には全2巻で1136頁にもなる関連の専門書がある(『The Wildlife Techniques Manual』 The Johns Hopkins University Press)。近い将来、国内の野生動物管理に関する研究や実践が発展し、本書の改訂が必要になった頃には、2分冊でも収まり切れないほどの情報が蓄積されていることを願っている。

「獣医畜産新報」2012年7月号 掲載

筒井敏彦 監訳

『小動物の小児科』

2012年5月発行・A4判変形オールカラー・544頁・定価 30,240円(税込)

評者 日本獣医生命科学大学教授(獣医内科学教室第二) 竹村直行

完全に私の主観だが、人間を含む動物を見ていて、一生のうちで最も可愛らしいと思えるのは出生後のほんの短期間なのではなかろうか。そのいっぽうで、幼齢期動物には、先天異常や感染症などに罹患するリスクが高いという問題がある。さらに栄養学的特徴に加えて、体内における生理機構、そしてこれに伴う薬物動態は、成熟期のそれらと大きく異なる点が少なくない。このように、同じ動物種であっても幼齢動物と成熟動物とでは全く異なる医学的対応を求められる場合が少なくない。
本来であれば、獣医学領域においても動物種別に小児科に相当する分野が存在していなければならない。ところが、すべての獣医師がご承知の通り、現状では小児科に相当する領域は存在しない。現状では、幼齢期動物の医学的対応は臨床繁殖学、内科学、外科学で扱われているが、やはりこれらを集約した幼齢動物の医療を医学総括的に扱う分野が必要なのは誰しもが認めることではなかろうか。この意味において、本書の発行は我々獣医師だけでなく、最も可愛らしい時期の動物、そしてそのご家族にとっても重要な意味を持つと思われる。
本書の特徴は、「幼齢期の主に犬と猫の医療に関するすべてを網羅している」の一点に尽きるであろう。セクション1では、問診や身体検査だけでなく、幼齢期ならではの栄養管理、救急医療、行動発達、免疫などが解りやすく解説されている。セクション2では、各種感染症の問題が扱われている。次のセクションでは、X線、エコー、麻酔、外科、疼痛管理、薬理学・毒性学、臨床生化学などの検査に関する解説に割り当てられている。最後のセクションでは、循環器、血液、呼吸器、歯・口腔、消化器、肝臓、膵臓、泌尿器、生殖器、神経、皮膚・耳、筋骨格、眼、内分泌などの臓器系の代表的疾患が人獣共通伝染病とともに解説されている。各セクションの末尾には、さらに興味を持つ読者に向けて代表的な参考書や基本文献のリストが添付されている。全般を通じて、良質な写真、カラフルな図表が随所に掲載されており、読者を飽きさせないよう工夫もされている。
翻訳は総勢31名の専門家が担当されている。さらに、監訳には長らく日獣大で臨床繁殖学の研究と教育に取り組まれた筒井敏彦先生(現・AHB国際小動物医学研究所所長)が担当された。一般臨床家は当然のこと、将来、小動物医療に進もうと思っている高学年の学生諸君にとっても、本書は格好の参考書になると確信する。

「獣医畜産新報」2012年7月号 掲載

中尾敏彦・津曲茂久・片桐成二 編

『獣医繁殖学 第4版』

2012年3月発行・B5判・592頁・定価 10,800円(税込)

評者 前 鹿児島大学農学部教授 小島敏之

文永堂出版発刊の『獣医繁殖学』が改訂され、この3月に新版が出版された。1995年に初版が出版されて以来、17年間で4回目の改訂になる。第3版と新版を比べてみると、編者の一部に変更があったこと、新しい執筆陣が加わったこと、それに伴い内容の一部変更と情報の刷新がされたことが大きな特徴である。特に、内分泌の章でキスペプチンが書き加えられたことは特筆に値する。しかし、章の分類、並び等、全体の構成に大きな違いはみられないので、第3版を使っていた教員にとって今回の改訂が負担になることはないであろう。
私が鹿児島大学に赴任した6年前はちょうど第3版が発刊されたばかりの頃で、在籍した6年間のうち最初の年の前期を除いて、第3版を使用して計11期にわたって講義を行ってきた。最初のうちは、教科書に記載されている順番を忠実に守って講義していたが、後半の2年間は、前半の繁殖生理学の基礎知識を与える部分と後半の臨床繁殖学の応用知識が得られる部分を組み合わせて講義をすることが多かったように思う。このように、教科書に並べられた順に講義をするのではなく、前述したように基礎と臨床を組み合わせて講義をするような工夫が学生の理解を深めるために必要な場合がある。そういった工夫を使う側が行えば、専門分化が進んでいる繁殖学において現在の執筆方法(多くの執筆陣が分担し、その際、執筆陣の専門性が重視されている)をとらざるを得ない状況をプラスに転じることができるのではないであろうか。獣医学教育における理想的な教科書は、学生が最低限の知識として習得しておかなければならない情報供与の機能を有するだけではなく、社会で活躍する獣医師の再学習にも役立つものでなくてはならない。その意味で、わが国が誇る一流の研究者が分担執筆している『獣医繁殖学 第4版』は、卒後教育にも十二分に役立つものだと評価できる。
ここからは少し批評のようになるが、第1章から最後の第13章まで執筆陣が異なるため、一貫したストーリー性に欠けること、章間で重複する部分(例えば、第5章「交配・受精・着床」と第6章「妊娠と分娩」の一部)が存在することは否めない。しかし、話は最初に戻るが、それぞれの章はわが国が誇る一流の執筆陣が担当しているために致し方なしとして、この点の解消は今後の改訂に期待したいと思う。
本年度から、国立大学法人獣医系大学の運営組織形態が大きく変わった。共同獣医学部体制をとるところ、教育連携をとるところなど様々な形態が現れた。この記念すべき年に“獣医繁殖学”の新版刊行は、まさに時宜を得たものと思われる。

「獣医畜産新報」2012年6月号 掲載

動物用ワクチン・バイオ医薬品研究会 編

『動物用ワクチン』

2011年11月発行・A4判変形・352頁・定価 10,152円(税込)

評者 社団法人日本動物用医薬品協会 専務理事 伊藤 治

本書を手にした第一印象は、動物用ワクチンに携わる者にとって、待ちに待った本が出版されたという喜びである。感染症対策にとってワクチンは最も重要な医薬品でありながら、その解説書がないため、これまでワクチンに対する正確な情報を総括的に知ることができなかった。そのような中、本書は総論、各論、将来展望からなり、まさに動物用ワクチンについての全てが凝縮された画期的な書である。
総論では、ワクチンの歴史から始まり、ワクチンがどのように効くかを免疫学的に平易に解説してあることから、ワクチンの理論が容易に理解することができる。また、ワクチンを使用することの社会的・経済的有用性や多数あるワクチンをどのように使用すべきかというワクチネーションプログラムが示されていることから、使用者にとっても有益である。さらに、ワクチンの品質管理、許認可制度、諸外国の法規制とその調和についても解説されていることから、ワクチンの開発者にとってこれ程便利な書は他に見あたらない。
各論では、現在実際に使用されている牛、馬、豚、鶏、魚、犬および猫の主要なワクチン86製剤について製造販売会社の専門家が解説している。全てのワクチンについて統一した記載、すなわち、対象となる疾病の概要、当該ワクチンの歴史、製造用株や製造方法、効果を裏付ける試験成績、臨床試験成績、使用方法、貯法・有効期間が簡潔にまとめられている。特に、製造用株の性状、有効性を証明する攻撃試験成績や抗体産生状況、野外での有効性や安全性を調べた臨床試験成績等、通常知る機会の少ないデータが多く記載されている点が大きな特徴である。さらに詳細に知りたい者にとって参考文献が記載されている点も便利である。
将来展望では、遺伝子組換え技術によるベクターワクチン、DNAワクチンや食べるワクチン等の開発状況、新規のワクチンデリバリー技術やアジュバントについて解説されており、今後のワクチン開発に示唆の富んだ内容となっている。
一方、各論の所々に挿入されているコラムは、動物用ワクチンに関連した肩の凝らない内容となっており、拾い読みされることをお勧めする。
このように本書は、臨床現場で動物用ワクチンを使用する獣医師をはじめ、ワクチン開発・販売に携わる製薬企業の担当者、研究機関や大学の研究者、家畜衛生に携わる行政職員にとって必読の書であるばかりでなく、獣医学、動物看護学や動物衛生学を学ぶ学生にもお勧めしたい書である。

「獣医畜産新報」2012年1月号 掲載

見上 彪 監修

『獣医微生物学 第3版』

2011年8月発行・B5判・468頁・定価 10,584円(税込)

評者 赤坂動物病院 医療ディレクター 石田卓夫

本書は1995年初版で、その後2003年の改訂第2版を経て、ここに第3版が完成した。本書出版の目的は、第一に獣医系大学における獣医微生物学教育のための教科書としての使用であり、「教科書としての使いやすさ」を念頭に執筆、編集されている。そのため、獣医微生物学全体をもれなく網羅し、個々の項目に関する記述は最小限ではあるが、広い知識を求める読者には、獣医微生物学に関する百科事典として使用可能である。したがって、本書は、大学教育の現場のみならず、学術研究機関、臨床現場において広く読まれている。とくに臨床現場における使用については、ある細菌、ウイルス、原虫、真菌について調べたいときに、最新の免疫学について調べたいときに利用可能である。
現在ではインターネット検索であらゆることが調べられるが、このような教科書を利用するメリットは、すべての記載が獣医学という立場で用意されており、無駄な情報がなく、すぐに望む情報にたどり着くことが可能なことである。さらに本書内にはインターネットを利用して情報を得るための重要なウェブサイトの一覧もあるため、最新情報を得る助けにもなる。
基礎系学問の記述に止まらず、臨床微生物学、免疫学、統計学に関する記述があることで、さらに本書の活用範囲が広まると思う。

「獣医畜産新報」2012年1月号 掲載

村田浩一・楠田哲士 監訳

『動物園学』

2011年8月発行・B5判・641頁・定価 9,720円(税込)

評者 財団法人日本動物愛護協会理事長、元東京都恩賜上野動物園園長 中川志郎

人と動物の関係を考える場合、その対象動物のあり方によって、大まかには次の3群に分けて考えることが可能であろう。すなわち、その種が本来あるべき自然環境内に生活している野生動物群、野生動物群の動物の中から人類が人類の便益のために遺伝的な操作を加え、人間に従属する動物集団として創出してきた家畜動物群、そして、野生動物群に属する動物でありながら、自然環境から人為的に隔離され、人工的環境下で生存する動物園動物群の3群である。そして、この3群のうち、学問的体系化、研究の深度や広がりの面において最も後れをとっているのは、第3群の動物園動物のグループと言ってよいであろう。
その理由は、この動物群が厳密な意味で本来の野生動物でもなく、また、家畜ほど人間の影響下で変容した動物でもなく、人間の力の誇示や新しいものに対する尽きざる興味に応える動物群として、学問的対象もさることながら市民的興味を起点として発展してきた経緯があるからであろう。
しかし、20世紀後半になって事情は大きく変わった。人間の物質文明の急速な発展の陰で、野生動物群は急速に疲弊し、家畜動物群は人間との心理的関係性を著しく喪失し、生物本来の繋がりを見失う状況になってきたからである。このような状況下において、人と動物の新たな関係性を模索する重要な拠点として見直されているのが、「都市の中の野生」・動物園動物群ということができよう。わが国においても、そのことを象徴するように動物園に関する本格的な著書が相次いで出版されており、海外においても同様の傾向が見られる。その中でも、今回、紹介しているオックスフォード大学から出版され(2008)、わが国の動物園関係者によって翻訳出版された『動物園学』は、今までの動物園、現在の動物園、これからの動物園を見据え、人と動物の関係性のなかで避けて通ることのできない諸問題を網羅し丁寧に論じていることで出色の労作ということができよう。
特に、動物園を取り巻く法規制(第3章)、動物福祉(第7章)、人と動物の関係(第13章)は、最も古い動物園歴史を持つ西欧諸国が、その歴史の重みと現代的意義への脱皮の中でもがきつつある一種の文明論と言っても過言ではない。その意味では、動物園関係者、研究者、学生のみならず、広く一般の方々にもお勧めしたい1冊である。

「獣医畜産新報」2011年10月号 掲載

遠藤泰之 監訳

『小動物の消化器疾患』

2011年7月発行・A4判変形・344頁・定価 23,760円(税込)

評者 東京大学動物医療センター(消化器内科)准教授 大野耕一

消化器疾患は日々の臨床で今も昔も頻繁に診る疾患であるが、国内の獣医消化器病学に関しては十分な教育がまだ行われていないように思う。その1つの理由として、系統的で分かりやすい消化器病学のテキストがほとんどなかったことが挙げられる。本書『小動物の消化器疾患』は国内で手にできる(日本語で読める)消化器の教科書として、非常に優れている点が多い。まず消化器では血液検査はほとんど役に立たないため、糞便の肉眼や顕微鏡検査、消化器の画像検査(X線、超音波、内視鏡、腹腔鏡)がとても大事である。本書をパラパラとめくればおわかりになるように、写真が非常に多く、そして写真のクオリティがとても高い“ビジュアル”を重視したつくりになっている(そのためか紙質も極めて高いように感じる)。見にくい写真の載った教科書ほどフラストレーションが溜まることはなく、本書の図表と写真はとても満足できるものでありがたい。このことは消化器疾患をイメージとして理解する上で非常に役に立ち、初学者も興味がもてるに違いない。
また本書は大きくパート1:診断法、パート2:各疾患の解説、の2部構成になっているのだが、診断のパートが全体の40%を占めるほど充実している。古くは対症療法中心に行われることも多かった獣医消化器病学であるが、診断なくして適切な治療はないのである。診断の項目だけでも一読すると、現代獣医消化器病学の全貌が見えてくる。監修者であるJrg M Steiner氏は、膵炎の画期的な診断マーカーとして国内でも多く利用されている膵特異的リパーゼ(PLI)の開発を行った中心人物で、Texas A&M大学のGI(消化器)ラボのディレクターとして多くの消化器疾患の診断を行っている人物である。このことが診断に重きを置く本書の作りに反映されているのかもしれない。もちろん本書には最新の診断法や、これまで何の疑問も感じずに行ってきた診断法の落とし穴も多く記載されており、ベッドサイドでも役に立つ1冊である。
もう1つの特色として、パート2の各消化器疾患(臓器別)では、それぞれの臓器ごとに、解剖学、生理学の項目が設けられるとともに、病理組織や細胞診の写真もふんだんに盛り込まれており、消化器病を基礎から臨床まで丸ごと理解できる作りになっている。消化器病について初めて学ぶ学生にも、これまで多くの消化器疾患を診てきたであろう獣医師の方々にも、心から推薦できる1冊である。
最期に、どんな素晴らしい原著であっても、翻訳が間違ってたり、日本語としてたどたどしいと、やはり読む気が失せるものである。本書にはそのような点がほとんどなく、監訳された遠藤泰之先生の努力に深く敬意を払うものである。

「獣医畜産新報」2011年10月号 掲載

武部正美ほか訳

『モーガン 小動物臨床ハンドブック 第5版』

2011年4月発行・A4判変形・1528頁・定価 46,440円(税込)

評者 タカダアニマルホスピタル 副院長 小村吉幸

Dr.モーガンの小動物臨床ハンドブックの第5版が出版された。1988年に第1版が出版されて以来、長年にわたって出版を重ねていることは、本書が世界中の多くの臨床獣医師に信頼され、使い続けられている証である。昨今は臨床獣医学の分野でも、専門書ならびに臨床獣医師を対象としたテキストが多数出版されているが、動物臨床の現場では、毎日、多種多様の問題を取り扱う必要があるため、手元に置く本の数が増え過ぎてしまい、いつの間にか簡便なマニュアルを見るだけで時間が過ぎてしまうこともある。しかし、臨床経験の浅い研修医は使いやすい参考書を手もと置き、新たに経験する事柄の重要なポイントにこまめに目を通すことが大切な勉強の1つと考える。
本書は、麻酔、臨床検査、そして造影X線検査を含めた患者の評価から始まり、19セクションに分類された中には、心血管系、呼吸器系、神経系、消化器系、内分泌および代謝系、尿路系、生殖器系、血液リンパ系、免疫系、筋骨格系、皮膚疾患、眼疾患、耳疾患、感染症、行動障害、栄養学、中毒学、外部環境に起因する損傷が網羅されている。さらに、それぞれのセクションはサブタイトルにより、総論から各論にわかりやすく区分されており、定義、原因および病態生理、臨床徴候、診断、類症鑑別、治療、経過が実際の現場における思考の流れに沿うように解説されている。自分の最も使い勝手の良い場所に、そしてマルチプラクティスでは、若手の獣医師の手が届きやすい場所に本書を備え、マニュアルだけで終わらない日々の勉強に役立てていただきたいと考える。
多数の執筆者を要しアップデートした第5版を世に送り出した、Dr. モーガンもきっと本書が現場で酷使されることを望んでおられよう。

「獣医畜産新報」2011年7月号 掲載

伊吾田宏正、上田剛平、鈴木正嗣、山本俊昭、吉田剛司 監訳

『野生動物と社会 -人間事象からの科学-』

2011年3月発行・A5判ソフトカバー・366頁・定価 8,424円(税込)

評者 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 近藤誠司

評者は以前よりこの本の監訳者の1人である鈴木正嗣氏から、原典である『Wildlife and Society、The Science of Human Dimensions』を奨められて入手し、興味のある章からパラパラと読んでいた。この度、気鋭の生態学者や野生動物管理の研究者により和訳書が発刊され、一気に読み通した。原典のHuman dimensionの意味は語感と内容から理解していたが、人間事象という和訳は苦労したところであろう。一方、内容は非常に興味深く、また多方面に及んでいる。
本書のまとめの章である第4部第23章に記されている「野生動物管理の焦点を、野生動物の量と生息地の広さや質からプラスの効果の達成に移行させることは容易に実現できることではなく、総合的な視点と手法での管理の生物学的事象と人間事象の統合なくしてはあり得ない」という文言が、本書の真髄を表している。20世紀初頭から始まった「自然」や「環境」に対する関心は、生態学を生み出したが、社会的な事象として現在最も重要なポイントはまさにこの「総合的な視点と手法での管理の生物学的事象と人間事象の統合」であろう。同じ章にはさらに野生動物管理の将来像に影響を与えるであろう難題として、「野生動物問題は根本的に生物学・生態学分野の問題であると無批判に想定する専門家や利害関係者の体質」が糾弾され、さらに「利害関係者が十分な情報を持って参加することに抵抗し、効果管理において市民の視点を幅広く取り入れることをしない野生動物管理の仕組み」が批判されている。「生物学・生態学分野の問題」を「生物学・生態学・獣医学分野の問題」としてもいいだろう。
現実の野生動物管理は複数の「利害関係者」、例えば自然愛好者と狩猟者もしくは保護論者と功利主義者、および管理機関の利害が錯綜する。本書は、管理とはこれらのバランスの上に築かれる「持続可能な形で人と野生動物が共生していくために必要な一連のプロセスや活動のことである」とする。こういった視点から、本書では野生動物管理を、人口動態、自然保護NGO,文化、法律、コミュニケーション、資金、都市の野生動物、釣りや野生動物観察ツアーといった新たなマーケットから論じ、また北米や南米、欧州やアフリカでの成功例および失敗例をあげて解りやすく解説している。
北海道では道東や道北を中心に、ガン、カモ、ハクチョウ、ツルの餌付けが盛んに行われている。本書で取り上げている野生動物の非消費的価値としての観察市場の章および人獣共通伝染病の章ではこうした餌付けの問題点が明確に浮かび上がる。餌付けすることにより、たくさんの観光客がこれを観察する喜びを得られ、同時に地元に利益が還元される。しかし一方では餌付け場所周辺の田畑が鳥に荒らされ、農業者の不満が出る。利害関係者の衝突が発生し、管理機関はこれを調整しようとする。ここに鳥インフルエンザという問題が持ち込まれると問題はさらに紛糾する。管理機関は立場上強力に鳥の大集合を抑制しなければならず、愛鳥家とそれまで恩恵を受けていた利害関係者と対立することになる。さらに、野鳥類の生態学者は自然界では見られないような大集合の危険性を指摘する。もしこれらの鳥類が小群で、それぞれの沼や池に分散していれば、伝染病が発生しても大規模な感染→大絶滅は避けられるからだ。本書で取り扱っている問題は、すでに我々の身近にある。
生態学の創始者の1人であるチャールズ・エルトンは「人間の社会と経済は、自然と別個ではなく、その属する環境の重要な一部分として、自然の中の生態として見るべきだ」と述べている。最近まで生態学は「手つかずの自然とその保護」という、いわゆるディープ・エコロジーという極地を生んだが、本書は本来の生態学を現代に蘇らせ、社会学という視点を取り入れながら新たな地平を切り開いたと言っていいだろう。現代の我が国で激増している野生動物問題を考える上で、必読の書である。

「獣医畜産新報」2011年5月号 掲載

菊水健史 著

『いきもの散歩道』

2011年1月発行・B6判ソフトカバー・306頁・定価 2,160円(税込)

評者 財団法人日本動物愛護協会理事長 中川志郎

「いきもの散歩道」という題名がいい。副題の「動物行動学からみた生物の世界」でも立派に通用する内容ながら、大上段に振りかぶらず、折々の動物たちの立ち居振る舞いを最近の行動学を通して読者と共に考えてみようという仕掛けである。
それゆえ、著者の愛犬もさりげなく登場するし、留学先や大学での仲間たちとの会話も臨場感を持って語られるという展開だ。おもわず引き込まれて読んでいるうちに身近なペットから研究室の実験動物、動物園動物、はては野生の動物たちの行動までを取り込んで、読者が意識する前に最新の動物行動学の土俵に上げられてしまうのである。
これは、著者がJVMという雑誌に本書所載の記事を連載し始めたころからすでに意図していたことではあるまいか、と改めて実感する。確かに、従来、わが国獣医学や畜産学の教育の中で、行動学という分野は決して主流ではなく、その研究者も限られ、動物園のように多数の野生動物を扱う動物園のような施設ですら、行動学を修めた職員は極めて限られていたのである。動物を扱いながらその行動を「心理と生理」の両方からアプローチし、「行動」の内容を見極めて対応するという認識に欠けていたのである。
1995年4月、ヒトと動物の関係学会(初代会長・林 良博 当時東京大学教授、現 東京農業大学教授)が、各分野の獣医師を中心にして発足したのも、動物たちの行動理解には、もっと広範で総合的なアプローチが必要なことを物語っていよう。その意味で、本書が「いきもの散歩道」をタイトルに掲げ、その折々に「早期離乳によって何が起こる」、「絆が壊れるとき」、「犬のやきもち」、「動物と人の共感はありえるのか」etcなど刺激的なテーマを次々に展開したのは、その入り口を広げる上で実に効果的だったのではあるまいか。
その連載が、こうしてまとまって1冊の本になると、いよいよその感を深くする。諸賢の一読をお勧めする所以である。

「獣医畜産新報」2011年4月号 掲載

斑目広郎 訳

『鳥類とエキゾチックアニマルの血液学・細胞診』

2010年6月発行・A4判変形、オールカラー・423頁・定価 30,240円(税込)

評者 明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門准教授 深瀬 徹

最近では、エキゾチックアニマルの診療に関する獣医学書はめずらしくない。とくに世界的な販路を有するアメリカ合衆国や一部のヨーロッパの国々の出版社の書物には、エキゾチックアニマルという一大ジャンルが形成されているといえる状況にある。
ここにご紹介する書籍は、『Avian and Exotic Animal Hematology and Cytology、3rd ed.』(Campbell,T.W., Ellis,C.K.著、Blackwell Publishing International、2007)の邦訳である。鳥類と爬虫類、両生類、魚類、小型哺乳類(マウス、ラット、スナネズミ、ハムスター、ウサギ、モルモット、チンチラ、フクロモモンガ、ハリネズミ、フェレット)(掲出順)の血液学と細胞診について概説している。
内容は大きく2つの部分に分かれ、前半部分では、上記の各種の動物について採血法や血液検体の処理法、検査法、骨髄細胞を含めての種々の血液細胞の形態、さらには住血性寄生虫の形態などが詳述されている。とくに鳥類に関する記述が充実しているのは、本書の前身が『Avian Hematology and Cytology』という書物だからうか。ただ、書名に血液学とあるが、実際には血液学の領域を広くカバーしているわけではなく、血液細胞の形態検査が中心となっている。いわゆる血算に関する記述はほとんどなく、動物種別の基準値が補遺の表に掲載されているだけなのが残念ではある。一方、後半部分では、細胞診の方法と代表的な所見が器官系統別に記載されている。エキゾチックアニマルの細胞診を詳述した書物はほとんどなく、本書の有用性は高い。
また、この書籍の優れている点は、顕微鏡写真の美しさにもある。これは、検体の処理が適正であり、そして何といっても、染色が良好に行われていることを示している。このことからも、本書に記載の検体処理法や染色法が優れていることが確認できるだろう。
いうまでもなく、エキゾチックアニマルといわれる動物の範囲は広い。動物は、種ごとに異なる形態と生理を有し、種ごとに独特の生活を送っている。そのため、私は以前から、エキゾチックアニマルの獣医学書は、理想的には動物種ごとに、あるいは少なくとも下位のタクサごとに編むべきであると考えていた。しかし、この書物をみて、いま思ったのであるが、様々なタクサにわたる種々の動物をまとめて1冊の書物にすると、それは単に獣医臨床上のテキストにとどまらず、比較生物学的にも興味深いものとなる。各種のエキゾチックアニマルの診療に役立つだけでなく、たとえば様々な種の動物の血液細胞を俯瞰することによって、動物の進化の過程を垣間みることができるような気がするのである。

「獣医畜産新報」2010年12月号 掲載

総合編集 深瀬 徹・専門分野編集 西 賢

『症例研究 小動物の眼科』

2010年8月発行・B5判ソフトカバー・232頁・定価 15,120円(税込)

評者 財団法人鳥取県動物臨床医学研究所 理事長 山根義久

症例をまとめた獣医学書あるいは雑誌はこれまでにもいくつか出版されている。臨床獣医学の発展は、症例の積み重ねであると言っても過言ではない。類似疾患でも全く同様な病態を示すことはなく、かつ予後も区々である。それ故、治療法も疾患毎に異なることになる。その様な状況を考える時、類似疾患を多数集め、検討することはとても重要である。少しでも治療、効果を期待するためには類似疾患でも病態の程度によって分類し、個々の患者に適した治療法を応用すべきである。
特に、眼科疾患は他疾病と異なり、1施設で経験できる眼科疾患数も少なく、かつ類似例を多数集積することは困難である。その様な状況下のもと本書は、多数の施設で経験された数多くの疾患を、簡易に理解しやすいスタイルでまとめてある。また、カラー写真であるため複雑な眼科疾患もとても理解しやすい。さらに、本書のすばらしい点は、実際に獣医眼科学に造詣の深い先生方が、実際に経験した症例を執筆したものであり、臨床家にとっては大いに説得力があるものである。
その上に、診断治療経過等も詳細に記述してあり、読者の先生方の経験した患者と比較検討することも可能であり、後日、同様症例に遭遇した時に大いに役立つものと思われる。本書は診療の現場に常備しておくと大変に重宝な獣医学書といえる。
眼科に興味ある先生方は勿論のこと、多くの臨床家にとって貴重な1冊といえる。

「獣医畜産新報」2010年11月号 掲載

牛繁殖超音波画像診断研究会 編(石井一功、磯 日出夫、大澤健司、上村俊一、畳 伸吾)

『牛の繁殖管理における超音波画像診断 -動画と静止画によるトレーニング-』

2010年7月発行・DVD-ROM & B5判・142頁・定価 16,200円(税込)

評者 繁殖サポート・サービス代表 三宅陽一

『牛の繁殖管理における超音波画像診断-動画と静止画によるトレーニング-』の刊行を喜ぶ
産業動物の繁殖管理や臨床繁殖学的検査の分野に超音波画像診断装置(エコー)が導入されて久しい。初期のエコーはモニター画面も小さく、画像の保存はポラロイドカメラをモニターに押し付けてカチャッと撮影し、1枚1枚大事に保存したものだった。このエコーで、金田義宏先生(当時岩手大学)から嚢腫様黄体(CCL)の画像を見せられた時は衝撃的だった。また、卵胞嚢腫と共存する成熟卵胞を嚢腫卵胞のすぐ脇に見つけ、直ちにGnRH投与と翌日AIを実施したところ受胎して農家に喜ばれたこともあった。雌馬の繁殖検診、とくに早期妊娠診断にエコー診断は非常な威力を発揮した。早いものでは最終交配後10日、14日になれば双子妊娠も含めて確実に診断でき、発電機を抱えて放野を巡っての検診と苦労したが農家の信頼を得たことを今でも鮮明に憶えている。なにしろ、エコー診断は「非侵襲」、「リアルタイム」、「客観性」に富んでいるので、農家が納得できる診断結果を提供できたことになる。
その後、エコーは進化を遂げ、バッテリー内蔵の携帯式エコーを個人でも保有する時代となった。とはいえ、まだ共通の目で、どこをどう視ると何が診断できるか、得られた画像をどう読み取るかなど、直腸検査技術も含め十分な「標準化」がなされていないために、折角の機器を使いこなせないでいる状況は否定できないだろう。そして、これを支える指導書も不十分だった。
このような時代に、畳 伸吾先生を代表とする「牛繁殖超音波画像診断研究会」のメンバーの英知で、DVD-ROMが付いている『牛の繁殖管理における超音波画像診断-動画と静止画によるトレーニング-』が文永堂出版から刊行されたことは非常に時宜を得たものだ。メンバーのエコー画像診断技術の高さはこれまでも様々な雑誌で取り上げられ、発表されてきたが、本書を読んで、改めてその技術の高さに驚くとともに、これらの技術を「平準化」したいという熱意に心から敬意を表したいと思う。同時に、本書を完成させるために、2年以上の時間をかけて、同一牛を用いて経日的に卵巣や子宮を観察・計測し、同時に血中P4濃度を測定したり、複数の同一症例を材料に特徴的なエコー画像を用意したりと、その努力は並大抵のことではなかったはずだ。その努力の結果が本書で示されている全ての画像に表れている。
そしてまた、添付のDVD-ROMに納められている動画と静止画が素晴らしい。私のようなパソコン音痴でも容易に操作でき、しかも説明が丁寧だ。まるで自分がエコーを操作しながら、各種の診断をしている錯覚に襲われるほどで、ワクワクする。
ぜひ、多くの獣医療関係者がこの書籍とDVD-ROMを入手して自らの技量の向上に活用されんことを望むところである。同時に本書を完成させたメンバーが書籍とDVD-ROMを携えて獣医療の卒後教育、学生教育などの場に出向いて、繁殖検診の技術の向上に貢献していただけることを切に希望するものである。

「獣医畜産新報」2010年9月号 掲載

山﨑 亨 監訳

『猛禽類学』

2010年4月発行・A4判変形・512頁・定価 19,440円(税込)

評者 北海道大学獣医学部教授 坪田敏男

本書は、『Raptor Research and Management Techniques』(David M. Bird, Keith L. Bildstein eds、2007年)の日本語版であり、1987年に全米野生生物連盟(National Wildlife Federation)から出版された『Raptor Management Techniques Manual』の第2版にもあたる。執筆母体となっているのは猛禽類研究財団(Raptor Research Foundation)であり、65名にも及ぶ専門家によって執筆されている。タイトルに『猛禽類学』とあるように、猛禽類に関するあらゆる分野の技術や知見が紹介されている総合図書である。フィールドワークを主とする生態学者や保全学者にとっても、また、診療やラボワークを主とする獣医師や生理学者にとっても必携の書であり、まさに猛禽類学のバイブルといえる書である。1~4章では猛禽類の文献、識別や系統分類学、研究構想・データ分析などについて記述されており、猛禽類の研究における基礎的な知見を得ることができる。5~14章では野外調査における実際的な手法や技術について紹介されており、15~18章では猛禽類の生理学、病理学など生物学的情報が紹介されている。そして19~25章では保護管理と保全について説明されている。いずれの章も猛禽類や他の野生動物の研究等に関する知識をもたない読者でも容易に理解することのできる内容となっている。
まず本書を手に取って驚くのは、その情報量の豊富さである。文献情報はもちろんのこと、国および州政府が制定する法令、各機関が提示するガイドラインや許認可情報などもその出典(URL)が記されている。とくに1章「猛禽類の文献」では、世界中の猛禽類に関する文献およびそのデータベースが紹介されており、文献検索の手助けとなる。また、保護管理と保全に関する記述(19~25章)は、猛禽類に限らず、他の野生動物にも共通する事項が多く、猛禽類の研究や保全に関わる人はもちろん、少しでも野生動物に関心をもつ人であれば興味深く読むことができるだろう。本書のねらいは猛禽類学の標準化ということであるが、他の野生動物にも共通する事項は多く、今後本書がお手本となって他の野生動物に関するテキストが出版されることが十分に予想される。本書を監訳された山崎 亨氏をはじめ翻訳にあたられた方々に深く敬意を表すると共に、次回本書が改訂される時にはこの中から執筆を任される日本の猛禽類研究者が出ることを期待したい。

「獣医畜産新報」2010年8月号 掲載

加藤 元 監訳

『小動物臨床腫瘍学の実際』

2010年1月発行・A4判変形・882頁・定価 46,440円(税込)

評者 日本小動物がんセンター センター長、米国獣医内科学専門医(腫瘍学) 小林哲也

『小動物臨床腫瘍学の実際』の原書である『Small Animal Clinical Oncology』は、1989年の初版から18年間、3度に及ぶ改訂を繰り返し今日に至っており、今回の改訂で第4版を迎える。獣医臨床腫瘍学に関する学術書の中でもとりわけ歴史が深く、獣医腫瘍学専門医はもちろん、一般開業医にも定評があり、また、分野が異なる臨床系専門医が、臨床腫瘍学に関する概要を掴む上で最も活用している本でもある。獣医臨床腫瘍学の基礎から応用までを総括する本として、成書と呼ぶにふさわしい1冊である。
今回の改訂では、多数の新進気鋭の専門家達を新たに執筆者に迎え、彼らの研究分野を中心に多くのチャプターが新しく書き下ろされている。私自身、初版から本書を愛用しているが、版を重ねる毎に各章の情報量は確実に増えている。第4版からは全頁がカラー化され、図表、肉眼写真、顕微鏡写真、X線や超音波などの画像写真が大変見やすくなった。特に細胞診のチャプターでは、腫瘍学に関する細胞診カラーアトラスとしても活用可能である。腫瘍学総論では分子標的治療や飼い主の心のケアに関するチャプターなどが新たに追加され、各論では各腫瘍の最新情報がアップデートされているだけでなく、様々な治療法の寛解率や生存期間をまとめた一覧表が多数見られる。一方、総論から各論に至るまで、本の構成は初版からの流れを引き継いでいるため、以前の版の構成に慣れている読者でも探したいチャプターの検索は容易である。
本書の充実した内容は、腫瘍学を学び始めた学生から、新卒獣医師、ベテラン獣医師、専門医まで幅広い読者層を満足させることであろう。原則的に、私は学術書を原書で読むことをお勧めしているが、限られた時間で幅広い分野を習得しなければならない多忙な臨床獣医師には、本書はまさに待望の1冊とも言える。

「獣医畜産新報」2010年5月号 掲載

竹村直行 監訳・三浦あかね 訳

『伴侶動物医療のための鑑別診断』

2010年2月発行・B5判・433頁・定価 12,960円(税込)

評者 赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫

この本は、鑑別診断リストの使用を勧めてきた私にとってはかけがいのない新刊であり、古くから使ってきた鑑別診断リストがこのようにさらに膨大なものになってしまったことも驚きである。リストの最後には参考文献も記載されているが、それが21世紀に入ってからの論文が主体であり、内容は確実に進歩している。
臨床徴候としての問題点、身体検査所見としての問題点、画像診断所見の問題点、臨床検査で発見される問題点、さらに生体に対する検査で明らかになる問題点ほぼすべてが網羅されており、それぞれの問題に対する鑑別診断リストが記載されている。また、いくつかの問題に対しては、診断アルゴリズムも書かれている。
これだけの鑑別診断リストを自らの横に置き、それからは使う獣医師側の問題である。最近では、決めつけ診断ではなく、鑑別診断リストを参照するという姿勢は若い獣医師には浸透しているのだが、鑑別診断はあげるが、それを詳細に検討しないという問題が多くみられる。すなわち、鑑別診断リストをみて、その中から決めつけ診断をする事例が多い。真の診断は他の疾患を全て除外することによって得られるものであると言われるが、これだけリストが膨大になると全てを除外することは確かに大変むずかしい問題になる。
本書のイントロダクションにも書かれているが、鑑別診断リストを自分なりに、順番を入れ替えて、可能性の高い病気から並べ替える作業が必要である。このような優先順位付けは、動物種、年齢、地域、疫学情報を検討して行うが、実際にはそれがかなり難しい作業となる。さらに、患者に複数の問題点がみつかった際には、どの問題に対して鑑別診断を行うか、言い換えればどの鑑別診断リストを使えば診断に最も早く到達できるかという知識やひらめきも必要である。
したがって、この鑑別診断リストはすべての臨床医に手近に置いてもらいたいものであるが、その使い方も早く修得してもらいたいと思う。すなわち、このリストを持ったからといって、すぐに診断ができるわけではない。リストができたからといって満足してはいけない。このリストを利用するためには獣医師の能力が試されるのである。しっかりした監訳が入っている優秀な翻訳書であり、次の版が出るまでは、ずっと使い続けられる獣医師必携の1冊である。

「獣医畜産新報」2010年4月号 掲載

茅沼秀樹 監訳

『小動物の超音波診断アトラス』

2009年6月発行・A4変形判・520頁・定価 30,240円(税込)

評者 日本獣医生命科学大学 准教授 小山秀一

小動物臨床おいて、X線検査、超音波検査、内視鏡検査、X線CT検査およびMRI検査などの画像診断はなくてはならない診断法となっている。その中で、超音波検査は、通常鎮静や麻酔等を必要とせず、非侵襲的かつ反復検査が可能であり、リアルタイムに診断情報が得られるため多くの病院で利用されている。その反面、超音波検査は、検査を行う人の技量と知識により、診断精度が大きく左右されてしまう難点もある。超音波診断装置は、技術の進歩により鮮明な画像が得られるようになり、これまでは不明であった変化も画像化することができるようになり、それに伴い情報量も増加している。さらに、超音波診断の応用が難しいと思われていた部位の評価も研究されており、その応用範囲はさらなる広がりをみせている。
2008年に本書の原書である『Atlas of Small Animal Ultrasonography』が出版されたことを知り早速手に入れたところ、最新の装置を用いたと思われる非常に鮮明な画像の正常像や多数の症例像が掲載されており感激した記憶がある。そして、翌年にはその翻訳書が日本で出版されるというスピードには、監訳者である茅沼先生を始めとする翻訳者とともに出版元である文永堂出版の関係者に敬意を表したい。
さて、本書の特徴であるが、前述した通りの鮮明な超音波像とともに、その断層像に対応するMRI、CT、X線像や肉眼写真およびシェーマなどを多数用いている点である。超音波像だけでは理解が難しい局所解剖の解説を他の画像診断像を併用することで解決している。さらに、この手法により超音波ビーム面の入射方向が分かりやすく、超音波像の理解ばかりでなく走査方法もイメージしやすいのではないだろうか。そして、本書のもう1つの特徴は、解説文が簡潔にまとめられている点であろう。画像診断の著書であるがため、読者はそれぞれの疾患でどのような超音波像がみられるのかに興味を持つのではないだろうか。本書は、超音波像の判読のポイントを簡潔に記載し、その確認のための超音波像を数多く示すことで、画像を通して理解できるように構成されている。さらに、頭部や関節といった新しい分野への応用や、これまで多くの研究および症例報告で築き上げられてきた、判断基準や超音波所見等が表形式でまとめられており、読者が整理しやすいようになっている。
小動物臨床では、より精度の高い診断が要求されてきている。そのための1つとして超音波診断の重要性がますます注目されてきており、本書は超音波診断を学ぶ上のよき教材として、学生諸氏から臨床獣医師にも満足していただける1冊と考える。

「獣医畜産新報」2009年8月号 掲載

町田 登 監修

『犬の臨床診断のてびき』

2009年1月発行・B6判・253頁・定価 9,504円(税込)

評者 麻布大学附属動物病院 副院長 小方宗次

このところ獣医関係書として毎日のように新たな出版物がリストに加わっている。新情報がふんだんに盛られ、いずれ劣らぬ良書であるが、類書も少なくなく時に本選びに迷う。情報氾濫が少々食傷気味となり、頭をすっきりと整理させるためのシンプルな本が欲しくなることがある。濃厚な食事の後にさっぱりとしたデザートが欲しくなるのに似ている。折も折、まさにデザート書が誕生した。小型で地味だがピリリと締まったこのてびきである。編集、執筆陣は臨床経験豊かなメンバーで申し分ない。
本書は臨床上重要な犬の疾病を臓器別に14章にふり分け、それぞれの章に代表的な病名と写真が載せてある。小型版のため掲載病名は限られているが、とり上げられたものは現在の臨床現場を反映した主要なものばかりである。文字数を絞りしかも箇条書きでまとめてあるため、すんなりと理解できる。ページ毎にかなりの空スペースがある。ここに写真を貼り付け、あるいは書き込みをすれば読者固有の実用的なてびきとなり、手放せないものとなるであろう。
てびきは古くは、袖に入るほどの小型の書物で袖(しゅう)珍(ちん)本ともいわれた。獣医袖珍本として初期に世にでたものは、東京農林学校(東京大学農学部の前身)の勝島仙之助、與倉東隆両教授によって明治21年(1889年)に刊行された『袖珍獣医宝鑑』であろう。その後、錚錚たる先生方による袖珍本やてびきが出版されていることは、昔からこの種の書物が重宝がられていることを意味している。こんにちでは“袖”でなく、白衣のポケットにすっぽり収まるコンパクトなものが臨床現場でのてびきである。てびきに望まれるのは携帯に便利で、調べたい病名を瞬時に検索でき、頻用に耐える丈夫さ、手触りのよさも軽視できない。手ごろな価格であればなおさらよい。本書はその条件をほぼ満たしているといえる。
本書は臨床現場での獣医師や、教育課程での獣医学徒に診療の閃きを身につけるのに役立つ。さらなる用途もある。「手軽に持ち歩ける実践的な小動物の病気の書物が欲しいのですが」と、大学で臨床研修している海外からの研修生によく訊かれる。本書はそれに適っている。このてきびをさっそく英訳して国際親善に貢献したいと考えている。

「獣医畜産新報」2009年5月号 掲載

山﨑 亨 監訳

『鳥類の人工孵化と育雛』

2009年1月発行・B5判・535頁・定価 12,960円(税込)

評者 バードクリニック金坂動物病院院長 金坂 裕

最近は鳥の臨床関係の本も数多く出版されていて、私の開業した当時の30年前とは雲泥の差である。だが多くは飼い鳥を中心とした疾病関係の本であり、人工孵化や育雛関係の本はインコ目やスズメ目と鶉鶏目以外、皆無に等しかった。そのため、春先に様々な理由で救護された雛を持ち込まれることの多い野生動物救護施設では、あまり馴染みのない種類の鳥が搬入された場合、まだ野鳥飼育が許されていた時代の古い野鳥飼育の本や、その鳥の生態や食性を参考に、手探りで育てていた。ゆえに、肝心の育雛にたどり着くまでに膨大な時間と労力を費やされることになってしまうこともあった。
今回出版されたこの本には、雛の識別に始まり、各種の雛の育て方、保護した雛鳥の基本的なケアや、救護施設への搬入方法、卵の人工孵化の方法などが記載されている。また雛を育てる時にかかりやすい疾病と対処、雛の成長率、餌や給餌方法、飼育環境等が、鳥の種類別に記載されているために、とても見やすい。特に水鳥はカモ類からサギ、カモメ、カワセミ他、その食性から生活環境まで多種多様であるため、それらの雛に対しての記載が多いことは、救護の現場の人間には大変参考になる。土地によっては搬入の頻度が低く、救護者にとって参考となる事例や経験の少ないこともあるシギやチドリ、サギ、ガンカモ類、ウミツバメ類まで詳しく書かれていることはありがたい。また、サギやツル、猛禽類に対してのパペットを用いた給餌方法も参考になる。
日本に生息していない鳥のことも書かれているが、動物園等に勤務しそれらに関わる機会のある人にとって実用的であることはもちろん、そうでなくとも鳥が好きな人なら興味深く読むことができる。インコ・オウム類のページは、飼い鳥を診療する獣医師であれば普段の診療の参考にもなろう。
また、現状では救護の当事者となった人が鳥に不慣れであることも少なくなく、この本は鳥の保護に対して技術的、あるいは情報の少なさから二の足を踏まれている獣医師等にも充分役に立つと思える。
この本が、野鳥救護に携わっている・あるいは携わりたいと考える獣医師や救護センターの方々、学生たちの座右の書となり、保護された雛を育てることの手助けになることを希望する。そして1羽でも多くの野鳥の雛が自然に帰ることを願う。

「獣医畜産新報」2009年4月号 掲載

小方宗次 監訳

『エキゾチックペットの皮膚疾患』

2008年3月発行・B5判・330頁・定価 20,520円(税込)

評者 明治薬科大学准教授 深瀬 徹

『Skin Diseases of Exotic Pets』(Sue Paterson編、Blackwell Science Ltd.,2006)の邦訳である。エキゾチックペットに関する成書は動物の分類のグループごとにまとめられていることが多く、こうした診療科ごとの書物はめずらしい。犬や猫と同じく、エキゾチックペットにも皮膚疾患が多発するため、このような皮膚科のみを扱った成書も有用であろう。
とはいえ、ひとくちにエキゾチックペットといっても、その範囲は広く、動物の系統分類上の位置は様々である。したがって、それらの皮膚の構造や機能も多様であり、そうした各種の動物ごとに皮膚の形態や生理を理解しない限り、皮膚疾患の診療を行うことは難しい。
本書は、全体を鳥類、爬虫類、魚類、哺乳類の4つの節に分け、各々の綱(class)ごとに“皮膚の構造と機能”、さらに“皮膚検査と診断試験”を概説したうえで、“皮膚疾患と治療”について記載している。この“皮膚疾患と治療”の部分は、鳥類は飼い鳥、猛禽類、水禽類に分け、爬虫類はヘビ、トカゲ、カメ目に分けている。また、魚類の項はとくに細分はされていないが、哺乳類に関しては代表的な種について種ごとの記述となっている。エキゾチックペットに関する現在の知見から考えて、妥当な分け方であろうと思う。
記載の内容は非常に簡潔で、診療の合い間に読むのにも適しているが、具体的な診断法に関して、たとえば細菌や真菌、外部寄生虫の同定法については述べられていない。微生物学や寄生虫学に関するある程度の基礎知識は必要である。
ところで、この書物では記載の順番が鳥類、爬虫類、魚類、哺乳類となっているが、なぜ一般的な系統分類の順に従わなかったのだろうか。また、哺乳類の項は前述のとおり、動物種ごとに分かれているが、それが原書では動物種の英名のABC順であり、訳書でもその順番を踏襲している。そのため、たとえばネズミ科の動物についてとか、近縁の動物種についての記載をまとめて読みたいときには、ページが離れていて少し煩雑かもしれない。これはもちろん、訳書に責のあることではない。ただし、ivermectinをアイバメクチンと訳している点については、イベルメクチンとすべきであったろう。
最後に、訳書がよくできていると思ったことを1つ。原書は、本文中の見出しの文字の大きさや体裁が複雑で、それらの大小の区別がつけにくく、とても読みにくい。それが邦訳では、見出しのデザインが工夫されてわかりやすくなっている。内容に関係ないといってしまえばそれまでだが、読みやすさも大切である。原書よりもわかりやすいデザインにされたことは賞賛に値する。

「獣医畜産新報」2008年9月号 掲載

岩﨑利郎 監訳

『カラーアトラス 犬と猫の皮膚疾患 第2版』

2007年11月発行・A4判変形・532頁・定価 30,240円(税込)

評者 東京大学教授 辻本 元

本書は、日常の診療において、皮膚に異常が認められる症例を診察する際に参考となる最も優れた書籍の1つである。皮膚の異常や痒みを主訴として来院する症例ばかりではなく、他のさまざまな疾患の症例においてもしばしば皮膚の異常が認められる。いずれの場合にも、各疾患の特徴、類症鑑別、診断、治療と予後を簡潔にまとめ、ひじょうにクオリテイーの高い写真を豊富に掲載している本書は、その診療において実際的に役立つ解説書である。皮膚疾患を得意としておられる先生はもとより、少し皮膚病は苦手と考えておられる先生にも、手軽に読んでいただきたい、また見ていただきたいカラーアトラスである。私は以前から本書の原書であるMedleau & Hnilicaの『Small Animal Dermatology, A Color Atlas and Therapeutic Guide』を日常の診療の際に参照してきた。今回、その翻訳書が出版されたことにより、大変読みやすい皮膚病の書籍が手に入り、私自身も喜んでいる。
本書では、はじめに皮膚疾患の鑑別診断および診断手法が紹介され、その後に各種皮膚疾患に関する解説が簡潔かつ明解に記載されており、最後に皮膚疾患におけるスキンケアおよび治療に用いる製剤のリストが掲載されている。本書の最も大きな特徴は、各種皮膚疾患を有する症例の写真の数がきわめて多いこと、およびそれら写真が各疾患の特徴を明瞭に示している点にある。皮膚疾患はその病変を外から見ることのできる疾患であることから、このカラーアトラスを見ることにより皮膚疾患の見方を大幅にレベルアップすることができる。小動物診療を実際に行っておられる先生が1人でも多く本書を手にされることを願っている。また、皮膚科学の中で基本的に重要な疾患や臨床的に頻度の高い疾患を選ぶことにより、本書を獣医系大学における学部教育に取り入れることも可能である。
本書の翻訳には岩﨑利郎先生の教室に在籍中またはその卒業生である若手獣医師の方々があたられ、岩﨑先生が監訳されたことにより、和訳として妥当な疾患名や徴候名が慎重に選ばれているとともに、ひじょうに読みやすい日本語に翻訳されている。このような優れた翻訳書を出版された関係各位に敬意を表したい。

「獣医畜産新報」2008年5月号 掲載

中川志郎 監訳

『野生動物の医学』

2007年9月発行・A4判変形・818頁・定価 31,320円(税込)

評者 横浜動物園ズーラシア園長 増井光子

本書の原書は1973年に米国のモーリス財団によって企画され1978年に出版された、『Zoo and Wild Animal Medicine』の第5版(原書発行は2003年)である。野生動物医学に関する関心度は、1970年あたりから次第に大きくなり、1978年に発行された初版や2版は広く格好のテキストとして受け入れられた。1980年代はこの分野が獣医学の一分野として受け入れられるための揺籃期ともいえるだろう。当初は動物園や水族館など特殊な領域の問題とみなされていた野生動物医学であるが、最近の発展ぶりは目覚ましく大学や研究機関でも裾野は広がりつつある。初版が発行されてから、はや20年が経過した。その間に野生動物医学に関する知見は著しく増大し、研究者の数も増加した。改めて第5版が刊行されたのも、宜なるかなである。
本書と2版とを比べてみると、大きく異なるのは魚病学が取り入れられていることである。熱帯魚や鯉、金魚などの観賞魚の愛好家も多く、また水族館でも大型魚類の疾病に対して、陸棲動物同様な処置や気配りがなされるようになってきている現在、この項目は非常に役立つであろう。
また両生は虫類の項も以前よりずっと充実した。とくに両生類は、棲息環境の悪化や新たな感染症による絶滅の脅威に晒されており、世界的にその保全に関心が高まっているおりから、この項の充実は有り難い。
鳥類、哺乳類の項では動物分類学に沿って記載されているが、前回では大きくグループ的に括られていたものが、5版ではより細かく各目別に章だてされ、それぞれに生物学的、解剖学的特徴や保定法や飼育環境条件などが記載されている。分類は研究者により多少の変動が認められるが、鳥類は非常に種類数の多い動物群で、その目は28目におよび、種類も8800種以上を数えるので、合併された目はあるものの、概ね目別の記述は使い勝手がよい。哺乳類の項も同様である。全項にわたり疾病の記載のみでなく、その動物群の飼育管理上の特性や注意事項にも触れられているのは、疾病予防上も有意義である。事例の少ない種類では飼育失宜からくる疾患も多々あるからである。
野生動物を十分に理解し正しく取り扱うために、本書は臨床医のみならず、あらゆる分野の野生動物に関心をもつ人にとっての優れた参考書となりうるものであろう。最後に題名が2版の翻訳の『野生動物の獣医学』から今回『野生動物医学』へと替わったのも、かっての家畜が主体であった獣医学から広く動物一般へとの想いが籠められているようで、時代の流れを感じさせる。

「獣医畜産新報」2008年3月号 掲載

武部正美 訳

『獣医療における 動物の保定』

2007年9月発行・オールカラーA4判変・240頁・定価 12,960円(税込)

評者 麻布大学准教授 武藤 眞

良い本が出た。最近、小動物関係では診断と治療に関する本が数多く出版されているが、保定に関する本は久しくなかった。獣医療が細分化すると最先端技術の本は書く人がいても、基本的な技術の本はなかなか書く人がいないということだろうか。小動物臨床であれ大動物臨床であれ、診療に絶対必要なものは保定である。学生時代、採血時に「保定7割、採血3割」と先輩にいわれて文字通り殴られながら犬の保定を勉強したことを思い出す。訳者の武部先生は、保定を松葉重雄著『獣医外科手術学』(第9版、金原出版、1957)で勉強したそうであるが、実は1982年に北 昂監訳『動物の保定と取扱い』(文永堂出版)が出版された。馬牛から犬猫、実験動物さらには野生動物まで網羅されていた。北先生は麻布大学外科の恩師であり、下訳や浄書に携わった記憶がある。ただし四半世紀以上も昔の本で図版は少なく写真は勿論白黒である。文章が多く「硬かった」ため、読みやすいとは言えなかった。
今回の『獣医療における動物の保定』は図版が多く、しかもカラー写真で非常に読みやすい。内容は保定の原則、結節の結び方から入り、犬、猫、牛、馬、羊、山羊、豚、齧歯類・ウサギおよびフェレットそして鳥類の保定法と続く。とくに保定の原則では、人と動物の安全への配慮についても記されている。これは将に保定の原則であり、また目的でもある。さらに「重要な保定“道具”は声である」とあるのは、痛みと不安を抱えた患者に接するときの心構えとして至言であろう。
武部先生はすでに沢山の訳書を出版されていらっしゃるが、翻訳には実に真摯でいらっしゃる。内容に不明の点があれば、私のような後輩にも質問される。本書を訳すため縄結びの本を5冊も買われたという。こうした点が本書をさらに読みやすくしていると思われる。
小動物あるいは大動物臨床に携わる若い獣医師や動物看護士は勿論、獣医療を志す学生諸君にぜひ座右の書にしていただきたいと思う。

「獣医畜産新報」2008年2月号 掲載

浅利昌男 監訳

『わかりやすい 獣医解剖生理学』

2007年9月発行・A4判変形・246頁・定価 9,720円(税込)

評者 フジタ動物病院院長 藤田桂一

本書は、もともと獣医臨床の基礎となる教科書として執筆されたものであり、イギリスの全英統一試験で生物学を学習し、動物科学の分野で国家試験や学位取得を目指している学生を対象に書かれた本である。本書は獣医看護学を学ぶ学生ばかりでなく、獣医学コースの初年度の学生に対して解剖学や生理学の知識を向上するために薦められている。著者 Dr. Victoria Aspinallは、Hartpury Collegeの動物医療および獣医看護学科の主任を勤める傍ら、Abbeydale Veterinary Training教室を開催しており、動物看護学に関する著書も多数ある。また、共著者Dr. Melanie O’Reilly は、Royal Veterinary Collegeで獣医看護学の解剖学と生理学の講義を担当している。監訳者は麻布大学の解剖学第1講座の浅利昌男先生であり、適切で簡潔な文章で解説されている。
欧米では、以前から動物看護師の役割は大きく、日常診療において各動物病院では動物看護師は欠かせない存在となっている。一方、わが国でも20年ほど前までは各動物病院の獣医師の奥様方がその一端を担ってきたが、次第に動物看護師を雇用する病院が増加し、今やほとんどの動物病院が動物看護師を雇用している状況である。周知のようにわが国では動物看護師の国家資格はいまだに未整備であるが、日々の業務は多岐にわたり、動物看護師なくして動物病院の業務は回らないといっても過言ではない。1日の動物看護師の業務は、受付、清掃、電話での応対、洗濯、在庫管理、顧客管理、動物の保定、入院動物の看護・配膳、臨床検査、および手術準備・管理など多岐にわたる。その中で、動物看護師は、日常診療業務の補助を単に機械的に行っているだけでは日常業務に支障をきたすことは明らかである。したがって、少なくとも基本的な獣医学的知識を習得して動物看護師としての日常業務を果たすことが望まれている。
現在、獣医学書と比較して日本語に訳された動物看護学の著書は多くない。その中で本書は、動物の生体における解剖学的および生理学的知識を会得するには適切な書物といえる。とても見やすく、イラストもきれいで豊富に掲載され、重要な解剖学用語は太字で示されているので初学者においても非常に理解しやすい構成になっている。さらに、本書は犬と猫ばかりでなく、鳥類、その他の哺乳類(ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、スナネズミ、シマリス、モルモット、チンチラ、フェレット)、爬虫類や魚類に関しても基本的で重要な事項が簡潔に記載されている。
前述のように本書は獣医看護学生や獣医学教育課程の学生、あるいは生物学・動物学を学ぶ学生を対象に書かれた書物ではあるが、日常診療に携わっている動物看護師はもちろんのこと、私たち臨床獣医師にとって日々の診察や手術の際に忘れがちな解剖・生理学的知識を再確認する意味でも利用価値は高いといえる。

「獣医畜産新報」2007年11月号 掲載

池本卯典、小方宗次 編

『獣医学概論』

2007年7月発行・A5判ソフトカバー・267頁・定価 5,184円(税込)

評者 東京大学教授 佐々木伸雄

本書は、新しく獣医学を学ぶ学生のために編集されたものであり、その意図するところは、単に獣医学の各分野の教員がそれぞれの分野を概説する、ということではなく、獣医療の歴史あるいは生命倫理等も含めて包括的に概説したものである。
第1章は序論であり、獣医学の活動分野をまとめ、さらに獣医学教育の変遷、現在の各獣医学分野の状況をまとめている。第2章以降は、この序論に沿った形で編成されており、まず獣医学の歴史が古代にさかのぼって記述されている。この部分は、評者を含め、おそらく獣医学関連者もあまり知らない内容であり、獣医学のルーツの変遷がわかって興味深い。
第3章から第5章は、獣医学に関わる生命倫理的側面から、獣医療、動物実験、ならびに動物の福祉に関して記載されている。その中には、生命倫理の考え方や法律論が含まれており、従来、日本ではきちんと教育されてこなかった項目であり、獣医師を志す学生にとってきわめて重要な内容であろう。ただし、これらの中で、クローン動物、動物介在療法、異種移植などの分野は、今後の獣医療/獣医学の展開の項目で論じた方がより焦点が絞られたように感じられた。
第6章以降では、まず国民にとってもっとも重要な公衆衛生学の諸問題が説明されており、また、獣医師の各職域や国際的な活動が述べられ、そこでは、獣医師としての活動に関する法律論も概説されている。次に、獣医療の展開の章の中で、高度獣医療として小動物の臨床面が述べられている。この分野は最近の伸展の著しいこともあって、その概略が述べられているのみであるが、公衆衛生関連の記載に比較すると、現在の状況や諸問題をもう少し加えても良かったかもしれない。最後に、獣医療に欠かせない動物看護士、あるいは獣医療の経営の実際に触れている。
以上、本書は獣医学という多岐に亘る分野を概説したものであり、またそれらに関わる法律や倫理に関して多くを割いており、獣医学を初めて習う学生にとって獣医学を全般的に理解するのに役立つ本と思われる。本書の内容として、医学分野との連携、研究面での貢献、野生動物を含めた環境保護に関わる今後の発展など、もう少し踏み込んでもよいのではないか、と思われる部分もあるが、しかし、それらを全て包含すると本書は大冊となってしまい、目的からそれてしまうのかもしれない。したがって、本書を参考にし、その上で、教員がそれぞれ考える部分を増やして講義をすると、きっと良い獣医学概論になるのではないかと思われる。

「獣医畜産新報」2007年9月号 掲載

獣医繁殖学教育協議会 編

『獣医繁殖学マニュアル 第2版』

2007年3月発行・A4判・312頁・定価 5,616円(税込)

評者 岡山大学教授 奥田 潔

本書は、5年前に出版された初版の改訂版である。本改訂版においては、各章に最新の技術や知見に対応した説明や写真が加えられている。中でも牛の人工授精の精液注入の手技に関して、多くの写真を用いて詳しく解説されており、また牛のボディコンディッションスコアの評価法についてより実践的な解説が加えられ、初版よりも理解しやすくなっている。
長い間、獣医繁殖学の実習は各大学の有する地域性、歴史などを背景とした得意分野を中心に教育されてきたが、獣医学教育のさらなる高度化を実践する上で、大学間に偏りのない高度教育の指針となるテキストが望まれていた。そうした中、獣医学教育に携わる全国16大学の獣医繁殖学教育協議会メンバーを中心にすべての動物種を網羅する『獣医繁殖学マニュアル』が5年前に出版され、すべての大学において臨床(獣医)繁殖学実習の教科書として用いられてきた。本書は、牛、馬、豚、ならびに犬・猫という動物種で4章に分け、それぞれの動物種における「生殖器の構造(解剖)と生理」「雌の繁殖機能検査技術」「発情診断」「雄の性行動、精液採取、精液検査、人工授精」「胚移植、体外受精を含む生殖制御技術」「妊娠診断」「雌の繁殖障害の診断と治療法」「雄の繁殖障害」「周産期異常」さらには牛では「乳房炎」ついてコンパクトに解説されており、獣医学を学ぶ学生はもとより、獣医繁殖学を教育する教員、さらには専門分野で活躍する獣医師の技術の確認あるいは再教育用のテキストとして初版から広く用いられてきた。言うまでもなく、臨床技術は基礎となる解剖、生理、病理、薬理、微生物などの知識の上に成り立っているが、こうした臨床技術の背景となる詳細は教科書に譲ってはいるものの(姉妹書として「獣医繁殖学」が出版されている)、本書でも必要な基礎的情報はしっかりと解説されている。また、本書は「獣医繁殖学の技術マニュアル」として、多くの図表と写真を用いることによって具体的な知識や技術面でのノウハウを伝えることに成功している。
本書が、獣医学を学ぶ学生だけでなく、獣医臨床を教育する教員、さらには専門分野で活躍する獣医師自らの技術を確認するためにも手元に置いておきたい1冊であることは疑いない。

「獣医畜産新報」2007年6月号 掲載

日本獣医病理学会 編

『動物病理カラーアトラス』

2007年2月発行・B5判・312頁・定価 16,200円(税込)

評者 赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫

1990年初版発行、1998年第5刷改訂版発行の『獣医病理組織カラーアトラス』の新版が『動物病理カラーアトラス』と名を変えて、また体裁もペーパーバックとなり新たに刊行された。
今回の 編集方針として記載されているように、前書の記載の症例を残し新たな 症例を追加する形で、増補版として刊行されている。
内容では、伴侶動物に関する記述が増え、長寿化に伴う腫瘍や生活習慣病などが多く追加されている。また、産業動物では、新興感染症など、海外から入ってくる疾患に関する記述も増えている。そして、前書では「病理組織」としての集大成であったものが、今回はマクロの写真も追加されている。
全般に写真のクオリティーは高く、写真も大きく見やすいのが特徴である。1つの病名につき半ページないし1ページをさき、記述はコンパクトにまとめられているが、病名1つに対して写真1枚ないし2枚ですべてを説明するのは相当の苦労があったと思われる。その上に肉眼写真も追加されているため、組織写真が若干圧迫されている感があるが、ほとんどすべての病名につき網羅されている点については敬服する。
これだけの症例を個人で収集することは不可能に近いため、全国獣医大学の病理学の教員を中心に、多くの執筆者の協力で本書は完成している。本来の目的は、組織検査に従事する人達のため、あるいは大学教育での病理組織学実習のための参考書であるが、動物の病気ほとんどすべてを網羅する本書を臨床医が手元においても、十分参考となるに違いない。全ページにわたるカラー画像により、決して退屈な本とはならないだろう。学生向けを考慮して、価格も最低限に抑えられている。

「獣医畜産新報」2007年5月号 掲載

小村吉幸・滝口満喜 監訳

『小動物の救急医療マニュアル』

2006年12月発行・B5判・592頁・定価 16,200円(税込)

評者 株式会社VR ENGINE代表、社団法人大阪市獣医師会副会長 細井戸大成

私がクリティカルケアに興味を持ったきっかけは、私が研修させていただいた藤井寺動物病院の院長であった是枝哲世先生の「24時間クリティカルケアに対応できる動物病院をつくりたい」という一言であった。
そして、藤井寺動物病院退職後、1990年頃にテキサス州のサンアントニオで2年に一度開催されていた全米のクリティカルケアに関わる多くの専門医や関係者が集う学会に参加し、その後も何度か参加するうちに、より興味を持つようになった。
また、仲間の獣医師たちとネオ・ベッツを設立し、1989年9月に夜間救急動物病院を、2005年10月にはVRセンターとERセンターを開院し、欧米のエビデンスに裏付けられた獣医学を尊重しつつ、日本の文化に則した、地域に根付いた夜間診療・二次診療システムの構築に取り組んできた。
その20年間で、ペット(家庭動物)の社会的な役割が大きく変わり、それに伴う家庭動物医療に対する要望が高度化かつ多様化し、よりよい動物医療の提供が不可欠になってきた。その中でも救急疾患への対応は、最も重要なものと考えられる。
しかし、どんなに経験を積んでいても、いざ緊急時に的確な対応ができないことがある。そのようなことを防ぐためにも、この度、小村吉幸先生・滝口満喜先生の監訳で出版された本書は、広範囲にわたる緊急救命医療についてそのアプローチから治療そしてアフターケアに至るまでが分かりやすく解説されており、大いに役立つものと思われる。さまざまな緊急時において、より適切な対応ができるように普段からこのマニュアルを熟読しておくことをお勧めする。
そして、人と動物とのすばらしい共生社会の実現に向けて頑張っていこう。

「獣医畜産新報」2007年4月号 掲載

斎藤陽彦 監訳

『カラーアトラス 犬と猫の眼科学』

2006年6月発行・A4判変形・264頁・定価 19,440円(税込)

評者 麻布大学獣医学部助教授 印牧信行

獣医眼科臨床はこの数年、目覚しい進歩を遂げている。今や眼科関連の講習会、研究会などが頻繁に開催されている。一方、この数年は眼科学の学術的な基盤が定着してきた時期でもある。多くの優れた獣医眼科学の成書やアトラスが発刊されている時期であり、私達は眼科疾患に対するより多くの情報を得ることができるようになった。今回、斎藤陽彦先生が監訳された『カラーアトラス・犬と猫の眼科学』も優れたアトラスの1つとして位置づけられる。
本書の特徴は、「眼の外観異常をどのように見いだすのか」といった臨床技術を自学自習できるアトラスである。数多くの外貌写真が眼瞼、結膜、瞬膜、涙器、角膜、強膜、ぶどう膜、水晶体、緑内障の一部、硝子体および眼窩の疾患について掲載され、また各写真に添えられたコメントも簡潔かつ分かりやすい内容である。外観異常は観察像の異常として、さらに隅角鏡検査像を掲載した緑内障と、豊富なボリュームの眼底像を掲載した網膜・脈絡膜・強膜および視神経の疾患と緑内障および眼窩の疾患にみることができる。これらの観察像も外貌写真と同様、丁寧で、かつ分かりやすいものである。また各章のイントロダクションは掲載写真を理解する必要最小限の知識が記述され、その丁寧さはDziezyc、Millichamp両先生のお人柄を窺い知るものである。
手に入れておきたいアトラスの1つである。ご一読の程を。

「獣医畜産新報」2006年12月号 掲載

見上 彪 監修

『獣医感染症カラーアトラス 第2版』

2006年6月発行・A4判変形・651頁・定価 27,000円(税込)

評者 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 小野寺 節

小生は、農学部の学生時代は、家畜病理学教室に属して居た。当時、全国の獣医科大学で、年1回、東京の学会の際に病理研修会が行われていた。現在はこれをスライドショーと名称変更された様であるが、同じ組織から、新しい美しい切片を40枚作製しなければならず、この仕事が秋からの病理学助手の大仕事であった。また、米国のNIHに職を得た時、すぐ近くにAFIP(Armed Force Institute of Pathology、陸軍病理研究所)が存在していた。ここでは、各病気のまれな症例の博物館が存在し、その維持管理に莫大な国家予算が費やされていた。時折、日本からの留学生が、この施設に参加し、診断の研修を受けていた。
現在、獣医科大学も医学並みに専門が分化しつつあり、我々としてもまれにしか見ることのできない疾病については、一生経験せずに、キャリアを終えてしまう。まして、大学の先生において、自分が経験したことの無い病気を学生に、講義、教育する機会は、これからますます増えてくるものと思われる。これらのまれな病気、あるいはこれから増えつつある病気の診断教育には、本来莫大な国家予算の必要とする所であるが、その議論は別の機会に行うこととして、書評について述べさせていただく。
本書は、1999年に発行された本の第2版である。1999年にくらべ、国内外で新興・再興感染症の発生も続発したことから、その内容の改訂は切に求められていた。また、食肉処理場において、肉眼診断は、極めて重要であり、その方面の診断マニュアルの充実はますます必要とされていた。その中で、112名の執筆者による、大部の新書をまとめられたことは、正に敬意を表する以外に無い。これらの内容をまとめられた出版者、編集委員、監修者の労力も莫大なものであったことは想像に難くない。
本文については、カラーアトラスの名が示すように、頁の50%近くが図、または表に費やされている。その結果、これらの図表の提供者を尊重し、現役の研究者あるいは、専門家がそのまま執筆している。現場の第一線で仕事をしている獣医師の生の声が反映されている様で、学生の教育には極めて適切と思われる。
当教室で、この書評を書いている最中も、若い獣医師から早く内容を見たいとの要望が多く寄せられた。教科書、参考書にお勧めできる1冊である。

「獣医畜産新報」2006年7月号 掲載

森田正治 編

『野生動物のレスキューマニュアル』

2006年3月発行・B5判・267頁・定価 7,344円(税込)

評者 日本大学生物資源科学部教授 村田浩一

約30年前、私が動物園で働き始めた当時、あまりにも多様な野生動物治療に毎日悩み途方にくれていた。その当時は、今以上に野生動物医学への関心は低く、当然のごとく大学では野生動物臨床の教育がなかった。病気の野生動物を前にしても、手元には大学で使った家畜中心の獣医学書と講義ノートしかない!
おそらく、本書の編集者である森田正治さんも、野生動物臨床を始めた当初は、同じ悩みを抱かれたに違いない。だが私と違うところは、同じ状況に遭遇するであろう後輩たちに、同じ苦労を味わうことのないよう本書を出版されたことである。
本書は、野生動物救護の初心者にとって、大いに参考となる。具体的な治療法や手術法を知るためのマニュアルとしても利用できる。本書は、単なる事例解説書ではなく、著者らの貴重な経験が提供されている。各項目で豊富に挿入されている写真や図表が、そのことを十分に証明している。読者は、著者らが味わった苦労や悩みを、この1冊を読むことで容易に乗り越えられるに違いない。
本書の特徴のひとつは、森田さんらが活動している根拠地=北海道の地域性が反映され、当地固有の野生動物や感染症例が取り上げられている点である。本州以南で救護活動を行う場合には、アザラシの救護やエキノコックス症の情報など必要ないと思われる読者がいるかもしれない。しかし、タマちゃんやカモちゃんの例を挙げるまでもなく、野生動物の行動は予測し難く、救護の機会が皆無であるとは言い切れない。また、交通機関の発達や環境変化などにより、これまでその地に存在しなかった病原体が侵入してくる可能性は低くない。そういう意味で、野生動物臨床を目指す者には、国内外にアンテナを張り巡らせ、できるだけ多くの知識と情報を蓄えておくよう心がけて欲しい。
本書でとくに注目されるのは、野生動物救護における新たな概念に配慮している点である。たとえば、「トリアージ(triage)」で、これは欧米の野生動物リハビリセンターで、近年広く採用されている基準である。国内では、阪神・淡路大震災の時の被災者救助で知られるようになった。今後の野生動物救護では、施設収容能力や予算の問題から、助けるべき動物の科学的選別が求められるようになるであろう。さらに、人獣共通感染症についても言及されている。治療によって病原体保有者となった動物の放鳥獣や抗生剤投与による薬剤耐性株拡散への再検討が、これからは厳しく求められるようになると考える。
先に、傷病救護の初心者にとっては有用な参考書になると述べたが、欲を言えば更に専門的で詳細な記載内容が望まれる。たとえば、保護機会の多いスズメやツバメのような小鳥に対する成長段階毎の飼料の記載、また対象動物の血液・尿検査値や体重などの参考値がより多く掲載されていれば、臨床現場では一層有用となるであろう。今後本著を改訂される時にはぜひ検討していただきたい。

「獣医畜産新報」2006年5月号 掲載

太田充治 監訳

『獣医眼科アトラス』

2004年9月発行・B5判・462頁・定価 25,920円(税込)

評者 トライアングル動物病院院長 斎藤陽彦

監訳者の太田充治先生はお会いするたびに「先生、何年生まれ?」と質問してしまうほど、童顔であるばかりでなく真に若々しいエネルギーを感じるお人柄である。実際私より10歳近くお若いのだが、 2001年に発刊された原著の翻訳を短期間にまとめ上げたバイタリティーには敬服する。
さて、この『獣医眼科アトラス』は原著者のK. N. Gelattが序文で述べているように、『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』、『Essentials of Veterinary Ophthalmology』に続くシリーズとして、両書の読者からの要望によって発刊されている。私自身の経験においても、始めに『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』、そして『Essentials of Veterinary Ophthalmology』、最後にこの『Color Atlas of Veterinary Ophthalmology』に出会っている。そういった観点では、この『Color Atlas of Veterinary Ophthalmology』は前2著があってこそ価値のある書と評価せざるを得ない面を持っている。一方、我が国ではこの『獣医眼科アトラス』が今般文永堂出版㈱から発刊され、『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』や『Essentials of Veterinary Ophthalmology』を知ることなく本書を利用される先生も多いことと思う。では、「『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』や『Essentials of Veterinary Ophthalmology』無くして本書の価値は下がるものか?」の問いには、即座に“いいえ”と答えざるを得ない。なぜなら、本書は3つの大きな特徴を備えているからである。その1つは分かりやすい大判の症例写真と必要にして最小限の解説、そして2つ目には各疾患について病歴、臨床症状、鑑別診断、治療法が簡潔に整理されて下段に記載されているところである(さらに、詳しい情報を要求する読者には『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』や『Essentials of Veterinary Ophthalmology』の参照頁も記載されている)。まさに、監訳者序文で述べられているとおり、眼科診療を専門的に行っていない診療施設においても、症例とアトラスを照らし合わせ、同時に疾患の概要をレビューするにうってつけの書である。幸い本書は、原著に比べ紙質も製本も良質で、臨床家のタフな使用に耐えうる点も喜ばしい限りである。そして、3番目の特徴は80数頁にわたり馬の眼科学、食用動物、そしてエキゾチックアニマルの眼科疾患が掲載されていることである。私自身、診療対象でない動物種の眼科疾患に触れ、教養としての獣医眼科学を楽しんでいる。最後に各章ともに丁寧に翻訳されている訳者の先生方に敬意を表したい。

「獣医畜産新報」2004年11月号 掲載

望月雅美 著

『ウイルスハンティング ペットを襲うキラーウイルスを追え!』

2004年7月発行・A5判・207頁・定価 4,104円(税込)

評者 赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫

尊敬する友人で、ウイルス学が専門の望月雅美博士(通称:もっちゃん)がこのほど文永堂出版から「読み物」的な本を出版しました。もっちゃんは、いつもははにかみやで、あまり本音を言わないのですが、この本には本音が書かれていると、直感しました。本文を読んで、さて書評を書こうとまえがきを読むと、書こうと思っていたことがすべてそこに本人の言葉で書かれていたのには驚きましたが、この本を読んだ人には、本人の研究への姿勢や出版に対する意図が、きちんと伝わるということだと思います。
この本の内容は動物のウイルスを中心としたトリビア的なもので、本人曰く、「大学の授業の途中の雑談」だそうです。しかもそのすべてが、これまでに論文発表されたエビデンスによりサポートされていることは特筆に値するものです。こう書くと、重箱の隅をつっつくようなとるに足らない事実と誤解されるかも知れませんが、ここに著者の社会に対する熱い思い入れが存在するのです。もっちゃんは自分自身を、「獣医臨床ウイルス学」の専門と言っていますが、ここがキーポイントです。すなわち、医学とは、獣医学とは、何のために存在するのか、それをわかって研究を続け、論文を書き、このような本にまとめる著者だからこそ、読者は興味を持って読めるし、読んでためになる本が出版できたのだと思います。学問は自分のためではない、社会に還元してはじめて価値があるものだということを、この本を通じて著者は語りかけてくれます。
内容では教科書的なウイルスの説明は一切なく、ワクチンの話などのウイルスとの戦いについて、そして犬と猫の代表的なウイルス、狂犬病、ジステンパー、パルボウイルス、肝炎ウイルス、コロナウイルス、レトロウイルスなどにまつわる多種多様な話題がとりあげられています。さらにエマージング感染症やプリオン病、トロウイルスなどという聞いたこともないウイルス、それからイリオモテヤマネコやツシマヤマネコにまつわる話題もあります。コンピュータウイルスについての記述もご愛敬でのっています。
この本は犬と猫の臨床医を対象に書かれているため、どこを読んでも興味がわくと思います。1つの項目が1ページ程度にまとめられているので、読みやすく、どこから読んでも大丈夫です。失礼ながら、飲んだときに相当にかしこい話をして尊敬を集めるためのタネ本としても最適だと思いました。

「獣医畜産新報」2004年9月号 掲載

石田卓夫 監訳

『カラーアトラス 犬と猫の細胞診』

2004年4月発行・B5判・392頁・定価 24,840円(税込)

評者 米国獣医内科学専門医(腫瘍学)、日本獣医畜産大学非常勤講師、小林犬猫病院 小林哲也

本書を初めて手にとって眺めてみた時“きれいな写真が沢山載っている!”と素直に感じた。392ページがフルカラーで、カラー写真が800点以上も掲載されている。
細胞診を学び始めた学生あるいは臨床獣医師が、診断に結びつくようなヒントを得ようと必死に参考書をめくる時、実際に彼らが行っている作業は“絵合わせ的なパターン認識”であることが多い。目前の症例に類似した形態を呈す写真を本から探し出そうとしているのである。つまり、本の掲載写真が多ければ多いほど、目前の症例とマッチする確率も上がるはずである。そして、ある程度系統立てた見方が可能になると、典型的な写真ばかり紹介されている本では少し物足りなくなってくる。実際の臨床現場では、誰もが躊躇なく診断可能な典型例に遭遇することはむしろまれで、顕微鏡を見ながら頭をひねり続けることの方が多い。その様な症例に対し、細胞診の熟練者は“なるほど”と思える合理的な理論を展開するのであるが、この“なるほど”と納得できる程のきめ細やかな説明を従来の参考書に見いだすことは難しかった。本書は写真掲載点数の多さもさることながら、本文および各写真に対する事細かな説明文、そして細胞診と病理組織標本との対比によって非常に理解しやすく要点がまとめられている。また、例えばリンパ腫であれば典型像だけの掲載でなく、少しずつ特徴が異なる様々な種類のリンパ腫が紹介されている点も特記すべき事項だと思う。さらに、正常細胞の細胞診写真が各項目の最初に載せられている点も評価に値する。目前の細胞をなぜ異常細胞と認識しなければならないのか? 私自身が細胞診を学び始めた時に最も強く疑問に感じたことである。異常細胞を異常細胞と認識するためには、まずは正常細胞をしっかり認識することから始めるべきである。絵合わせ的なパターン認識で自己の診断能力に限界を感じている読者は、正常組織の微細構造や細胞レベルでの病態生理学の習熟を目指せば、ひと皮もふた皮もむけた見方ができるようになるかもしれない。
本書は読者を選ばない優れた参考書であると思うが、特に犬と猫を診療の主幹とする小動物臨床医に是非お薦めしたい1冊である。今まで顕微鏡から遠ざかっていた臨床医も、染色液を新調し、顕微鏡を磨き、座り心地のよい椅子を用意してみよう。そして、外来の往来しない落ち着いた時間に、本書を片手にミクロの謎解きに挑戦するのも悪くない。

「獣医畜産新報」2004年7月号 掲載

武部正美 訳

『フローチャートによる 小動物疾患の診断』

2003年5月発行・A4判・272頁・定価 12,960円(税込)

評者 麻布大学獣医学部附属病院小動物部門長 小方宗次

来院した動物の診察はどの時点から始めるであろうか。私は、問診に至るまでの段階がかなり大切と思っている。駐車場から病院の入り口に到達するまで、待合室で待つ間、そして診察室に入室するまでである。この間、診察を控えて動物、飼い主ともにわずかな緊張があることを考慮しても、どこかにありのままの症状を表現しているものである。問診の時に役立つ飼い主の性格も垣間見ることもできる。しかしながら、その間にみせた症状のほとんどは診察室に入った途端、ふっと消えてしまう。診察台に上がってしまうとなおさらである。
だが、大抵の病院は多忙であって待合室の様子をノンビリと眺める悠長さはない筈。よって診断作業は診察室に入ってからのことになる。緊張によって隠された症状を問診によって見出し探るのだから診察は難しい。問診を取りながら、動物の仕草を目で追い、隠れた症状を想定しカルテに記載する。一方では順次、鑑別名を脳裏に浮かべて行く作業を行わなくてはならない。鑑別名の列挙には成書、文献の検索、学会・研究会の参加、あるいは数多くの症例経験が要求される。そして、インフォームド・コンセントを考慮しつつ、予想される診断名、治療法、予後などを飼い主に説明することになる。
この過程で参考となるのが本書『フローチャートによる小動物疾患の診断』である。序文にあるとおり“一つの問題だけ”で来院する動物はほとんどいないといってよい。つまりひとつの症例からいくつかの鑑別名が導き出されるのが普通である。その鑑別診断に本書が役立つ。本書の目次には一般の症状から、臓器系全般にわたって多く見られる症状が網羅されている。診断の道筋がチャートによって示されている。
本書は横長の形をしているが、これによってチャート部分は大きく分かりやすくなっている。開いて右頁にチャートが、左頁に解説が記されている。これによってチャートだけでは表せない部分が補われている。日常よくみられる症状、例えば発熱、高体温症などでは、チャート図は2頁にわたっており、解説も懇切丁寧となっている。
多少気になるのは、活字がやや細かいことである。なるべく多くの情報を記載するためであろう。だからといって読みにくさはない。それはやはり翻訳者の武部先生の文章力によるためであろう。武部先生は、いくつもの翻訳を手がけておられるがその全てには誤りがなく、こなされた日本語となっている。きちんとした仕事をされる先生の性格が文章に表れている。本書は学生や臨床医向けに書かれたようだが、診察に携わる全ての人にとって有益なものと考える。私も診察に携帯し、診察の合間に頁を捲り、学生にチャートを見せ大いに重宝している。

「獣医畜産新報」2003年8月号 掲載

尾﨑 博・西村亮平 著

『小動物の臨床薬理学』

2003年5月発行・A4判・376頁・定価 17,280円(税込)

評者 東京大学名誉教授 唐木英明

米国の医学部から薬理学講座が消えている。その理由の一つは医師にとって必要な知識は「臨床薬理学」あるいは「薬物治療学」であって、基礎ばかりやっている「薬理学」は不要、というものである。薬理学は薬物開発にも役に立つ(と思っている人もいる)。しかし、これも実績から見るとはなはだ心もとない。そんなこともあってか、製薬企業研究所からも「薬理」の看板が次々消えている。
薬理学は、「薬の作用を知る」ためにあるが、その結果を臨床にも創薬にも利用できる。しかし、実際には薬理学は臨床や創薬に本気でかかわってはこなかった。獣医領域でも臨床に役に立つ薬の教科書がほしいという声が高かったが、そんな本はほとんどなかった。そんな状況の被害者は、国家試験のために薬理学を勉強するけれど、薬理学が獣医臨床のためになるとは考えたこともない学生たちであり、社会に出た獣医師である。
この本は、臨床を考えずに薬理学を教えていた尾崎助教授と、薬理学を考えずに薬物治療をしていた西村助教授が、そのような過去を深く反省し、仲が悪い基礎と臨床の壁を越えて、協力をして書き上げた、わが国で最初の「臨床に役に立つ薬理の本」である。臨床で実際に使う薬を中心にして、なぜその薬が効くのかについての薬理学的な解説と、どんな病気にどんな使いかたをするのかについて薬物治療学の解説を融合させて、分かりやすく、しかも役に立つ書き方を試みている。臨床家と臨床を志す学生には必携の1冊である。

「獣医畜産新報」2003年7月号 掲載

日本野生動物医学会 大泰司紀之、野生生物学会 丸山直樹・渡邊邦夫 監修 / 鈴木正嗣 編訳

『野生動物の研究と管理技術』

2001年11月発行・A4判変形・926頁・定価 21,600円(税込)

評者 酪農学園大学助教授 浅川満彦

本書は、米国における野生動物と生息環境の研究・保護管理方法について包括的に解説した本で、今回、日本で野生動物の保全を中心的テーマにする日本野生動物医学会あるいは野生生物保護学会に所属する専門家32名により訳出された。研究者のみならず関連行政機関にも有用な実用書としてばかりではなく、調査上の心得や動物福祉など「技術以前の問題」にも言及され、データ解析や統計処理の基礎に関する記載もあり、関連学部・研究科生の教科書・参考書としても有効であろう。また、日本でも科学的な野生動物の保護管理が求められている昨今、この書籍が重要な資料の一つになることは確実である。よって、色々なところで、本書書評は掲載されるであろうが、ここでは、主に獣医学的な側面から本書を眺めたい。
本書は28の章で構成されるが、特に既存の獣医学に密接に関連する部分、すなわち、当該学部の学生が、専門科目をこなした後、無理無く理解できうるのは次の章である。第1章「研究と実験の設計」、第4章「野外研究における野生動物の適切なケアと利用のためのガイドライン」、第5章「野生動物の捕獲と取り扱い」、第6章「大型獣の化学的不動化」、第8章「性判別と齢査定」、第11章「野生動物研究の生理学的手法」、第12章「野生動物の栄養学的分析手法」および第13章「野生動物の死因の評価」(以上を「第1群」と称する)。いずれも、野生動物ばかりではなく、動物園動物やエキゾチックペット動物を扱う(あるいは、扱うであろう)獣医師や学生も、必ず読まなければならない内容であろう。ただし、若干の脊椎動物の分類(学)や生態(学)の基礎的知識、鳥類学の初歩、飼料学などの事前学習が必要である(各獣医大学低学年レベルの野生動物(医)学教育が展開されているので、問題は無かろうが)。
読者に、野外調査や野生動物医学実習の経験、自然史に対する強い興味などが備わっておれば、第7章「野生動物の標識方法」、第14章「水中・陸上の生息地における無脊椎動物の採集」、第15章「ラジオテレメトリー」、第17章「狩猟管理」、第18章「野生動物被害の加害種の判別と防除」、第19章「都市野生動物の管理」、第20章「絶滅の危機に瀕した種の回復と管理」、第22章「植生のサンプリングと計測」、第23章「生息地の評価法」、第24章「生態学的影響評価」、第25章「野生生物のための湿地管理」、第26章「野生動物のための農地管理」、第27章「野生動物のための牧野管理」および第28章「野生動物のための森林管理」(以上を「第2群」と称する)なども十分理解可能であろう。もちろん、今、野生動物を材料に卒業論文を書いている学生諸君にとっては、極めて有益かつ重要な情報源であることは明らかである。当然ながら、国・地方自治体の保健所や環境関連のセクションなどに勤務される獣医師にとっても、実際的な重要項目が記載されており、一度は目を通される方が良い。
残った章(「第3群」と称する)、すなわち、第2章「データの分析」、第9章「野生動物個体群の生息数の推定」、第10章「脊椎動物による陸上の生息地と食物の利用の測定」および第16章「個体群解析」の理解には、中程度の統計学の知識が前提条件ではあるが、獣医学をバックグラウンドで野生動物の保護管理の職に就く(あるいは、就こうこうとしている)獣医師や関連テーマの博士論文作成中の大学院生などは、これらを、まず、一読すべきであろう。第3章「野生生物の管理と研究における小型コンピュータの利用」と第21章「地理情報システム(GIS)」は、原著者が記したように日進月歩の分野であり、それぞれの運用にあっては、個別の最新書にあたるべきであろう。両章では、極めて基礎的かつ概念的な事項が扱われており、これら分野の入門編としての役割を果たしている。
この機会にわが国の獣医大学への要望をしたい。もし、いまだに第1および2群を理解できうるような基礎的な項目が、野生動物医学の低学年レベル向け教育で扱われていないのなら、大至急、用意をすべきである。これは、昨今議論に上る「獣医学教育改革」以前のレベルである。第2(一部)および3群については、これらに密接に関係する個体群動態学に密接に関連した統計学などを選択科目とともに、選択科目として独自に開講するか、拠点大学などで開講して他大学受講制度などにより、獣医学部の上級者かマスターレベルで習得する機会をご用意いただきたい。
若干の注文をしたい。この本は基本的に米国の事例を扱っているため、法律や動物などがは我々日本人には馴染みが薄い。したがって、日本における関連法規の解説や訳者注などは適宜必要であろう(本訳書には一部の章を除き、訳者の注は無い)。また、巻末付表で、本書に登場した生物名が一覧表になっているが、原書と同じように英名が最初に掲載されている。しかし、和名を最初にして五十音配列などにして、学名、英名(できれば科名も)を掲載いただくととても助かる。
ところで、私は、この翻訳本の編集会議を兼ねた輪読会に参加した。時は1996年1月19日から21日、場所は北海道苫小牧演習林宿舎である〔このオリジナルは発行までに7年を要したとのこと。その翻訳本である本書も刊行までにほぼ同じ期間を要している点(翻訳の途中の1996年にオリジナルが改訂され、本書もそれに合わせて最新版の翻訳に切り替えられている)は、いかにこの分野の書籍発行が難しかったかが理解できる。最近の獣医大学や獣医師会などの野生動物医学に対する理解の高まりは、そのようなマイナス要因は一掃されていると願いたいが〕。当時、私は、その年の4月から開始予定の「野生動物学」開講に向け、苦悶していた時期で、それを気遣ってか、その輪読会に部外者の私を編訳者の鈴木正嗣氏が誘って下さった。訳者のほとんどの方が集合して、激しく討論をした。その時配布されたメモや参考資料、粗原稿などを引っ張り出して、分厚い本になったものと比較して眺めていると、6年近くたっているにもかかわらず、あの熱気が伝わってきた。
実際、英国野生動物医学の研究留学帰国直後、約3週間をかけてこの本を読んだ。向こうで日本の野生動物医学のレベルがいかに低いか実感したものであったが、本書発行により、一気に追いつくことになろう。とても嬉しい。鈴木氏は、「これからは日本版の『野生動物の研究と管理技術』も必要だ」と語っておられたが、私としても全く同感であり、その刊行に期待したい。

「獣医畜産新報」2002年2月号 掲載

高橋迪雄 監訳

『獣医生理学 第2版』

2000年11月発行・B5判・760頁・定価 18,360円(税込)

評者 東京大学名誉教授 浦川紀元

Cunninghamの『獣医生理学』の第2版
初版は1992年に出版され、1994年に日本語に翻訳発行された。第2版は5年を経て、1997年に出版され、2000年に翻訳発行された。初版についてはJVM(Vol.49 No.7 591頁)に書評を書き、その内容を紹介した。第2版の内容も骨格においてほとんど変わらず、その書評によって御理解いただきたい。ここでは初版と第2版がどう違うかをとり上げる。装丁についてはデザインが全く変わり、図が入り明るく楽しいものとなっている。内容は初版の本文653頁が第2版で715頁となり、約60頁増加している。この数字がまず内容の記載が改訂され充実したことを示している。
具体的に改訂の一部分を述べてみよう。「Ⅲ 心血管系生理学」の変更が一番大きい。「17 心臓血管機能の概説」は初版では第1項は正常な心臓血管系の知識を持つことの意義を記述しているが、第2版ではこれを3項に分け、第2項で心臓血管系の機能的障害は原発性より二次的なものによって多くの場合起こされることを記し、第3項でこの系で運搬される物質を記述し、初版の第1項を理解しやすく整理し、かつ充実させている。第5項の拡散と総体流の説明には新たに図が加えられた。また第11項に血液の細胞成分、第12項に血液中の酸素とヘモグロビンについての記述が加わっている。全体で初版の10頁が第2版で16頁となった。
「18 心臓の電気的活動」では第2版の第3項で心臓の機能的合胞体が骨格筋と異なることを強調している。初版の第3項では心筋の活動電位とイオン透過性と関連性を述べているが、第2版では第5~9項にわたって詳しく説明している。また初版の第5項の交感神経と副交感神経の影響を第2版では第11~14項に分けて詳述している。初版の17頁が24頁に増えている。
「Ⅳ 消化生理学・代謝」の「27 胃腸管の運動」では第19項に鳥類の消化管の記載が2頁加えられ、「4種の鳥類における消化管の比較解剖学」の図が挿入されている。
「Ⅴ 内分泌系」の32章、33章は初版では、Dr.G.H.Stabenfeldtが1人で執筆していたが、第2版ではDr.D.Grecoが加わった。また「Ⅵ 繁殖・泌乳」の34~38章は初版ではDr.G.H.Stabenfeldtが執筆し、第2版ではDr.A.P.Davidsonが加わったが、両者とも内容は余り変わっておらず、新たな執筆者が加わった理由が理解できない。また新たに「39 雄の生殖生理学」が加えられ、Dr.S.R.Brinskoが執筆し、翻訳は西原眞杉氏が担当している。
最も大きく訂正されたのは、先述の循環系の17章と18章であるが、「Ⅶ 腎臓生理学」の「42 水分平衡」「43 酸-塩基平衡」にも相当の改訂が見られる。第2版全体に内容を新たにし、図を解りやすく書き換えた努力が見られる。本書の大きな特徴である「臨床との関連」と「各章の練習問題」は二三の字句の訂正を除いては初版と全く同じである。
最後に、このような膨大な図書に対し、わずか数年の間に改訂版を出し、その翻訳も直ちに行われたことは、著者の学問的良心のあり方とともに、日米の出版社が経済的負担を顧みず学術図書に対する理解と努力を示された賜物であり、心から敬意を表します。

「獣医畜産新報」2001年2月号 掲載

柏原孝夫、河本 馨、舘 鄰 編

『動物遺伝学』

2000年8月発行・B5判・252頁・定価 7,560円(税込)

評者 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 酒井仙吉

『動物遺伝学』の刊行によせて
光陰矢の如し。月日の経つのは、まことに早い。遺伝学が誕生したのは、今からわずか100年前である。最近の分子遺伝学の進歩は目覚ましく、1年も経過すると今までの定説に新しい定説が加わり、毎年、教科書の書き換えが必要なほどで、専門家と言えども広い領域を完璧に理解することが難しくなっている。まして、これから遺伝学を学ぼうとする初学者にとって、遺伝学がカバーする領域さえ知ることが難しい現状である。この意味から、今回、文永堂出版から刊行された『動物遺伝学』は、専門家にとっても、初学者にとっても、格好の著作といえる。また、的確な模式図が、理解を一層容易にしている。
全体の構成から見ると、遺伝学の基礎であるメンデル遺伝から始まる点は他の専門書と変わらない。しかし、第Ⅰ章と第Ⅱ章を読むと、古典的遺伝学から遺伝子としてのDNAの役割までが述べられており、遺伝学の基礎から最近の分子遺伝学を理解するために必要な事項までを的確に知ることができる。第Ⅰ章と第Ⅱ章を理解すれば、最近の知見と言えども理解は容易である。むしろ最近の知見を、第Ⅰ章と第Ⅱ章で述べられている立場から理解すべき、というのが本来の姿であろう。『動物遺伝学』の最大の特徴は第Ⅲ章以降で見られる。まさに編者の編集方針がここに凝集されているようである。
最近マスコミで話題となり、また、我々の暮らしにも影響しようとしている、遺伝病、輸血や臓器移植に係わる問題、我々の病気の原因解明や治療のモデルとなる動物の作出、クローン動物、人の成長ホルモンを作る動物、異常行動など、遺伝学が関係していることを知るものは、むしろ少数なのではないであろうか。
また、進化論が遺伝学で語れるなども同様であろう。全ての遺伝子配列を明らかにしようとしてヒトゲノム計画が進行中であり、あと1~2年で完了する。その結果、どのような影響を我々の生活に及ぼすのであろうか。すでに一部では、遺伝子診断によって好ましくない影響が現れている。このように見てくると、世の中を見る道具としての遺伝学の持つ重要性が改めて認識されられる。幸いにも執筆者の顔ぶれを見ると、我々の身近かな動物を研究の対象とされ、書かれていることを容易に我々の興味ある事項に置き換えることができる。
もっとも表紙から裏表紙まで1冊全てを読む必要はない。話題になっている事柄を、もう少し深く理解したい、その時、関係する章を読む、という読み方であってもよいのではなかろうか。この意味からも『動物遺伝学』は手元に置いておきたい1冊である。

「獣医畜産新報」2000年11月号 掲載

練馬小動物研究会 編

『コンパニオンアニマルQ&A』

2000年1月発行・B5判・304頁・定価 2,808円(税込)

評者 武部獣医科病院院長 武部正美

動物愛護週間をはじめ、さまざまな機会に動物の健康相談コーナーが企画され、家庭動物の臨床獣医師として参加を依頼されることは多くの獣医師が経験するところである。筆者も時にこうしたコーナーに駆り出されることがあり、目の前に相談の対象となる動物を見ずして、的確な回答を余儀無くさせられる場合がある。
数年前の相談コーナーで「散歩中の老犬(雌)の頻尿」についての相談を受けた時のことを思い出す。老犬でもあり、決して正常とは言えないまでもよくあることである。適当にお茶を濁す程度の回答に終始せざるを得なかったが、最後に重篤な泌尿器疾患(膀胱腫瘍、結石など)の疑いも考えられることから、近隣の獣医師を訪れるよう付け加えておいた。数日後、偶然にも当相談者が予期せずして筆者の病院に現れた。お互いに「あなたでしたか」という挨拶を交わしたのち診察してみると図らずしも化粧石鹸大の膀胱結石であった。目の前に動物のいないこうした相談コーナーでは、普遍的な回答も必要ながら、時として的確な推察と示唆が要求されることを痛感する経験であった。
この10月1日に、『コンパニオンアニマルQ&A』なる書物が文永堂から出版されている。東京練馬区に所属する開業獣医師を中心に活動されている練馬小動物研究会による新刊書である。本書の「はじめに」を一読してみると、地域の動物医療を向上させ、より良い医療を提供し、獣医師不信を払拭するには、地域の獣医師がお互いに協力しあって社会に向けて活動することが大切であり、この活動の一貫として10数年にわたり地元の一角で相談コーナーを設けて会員が担当してきたという。こうした地道な活動に称賛を送ると同時に本書はこの素晴らしい取組みのなかで生まれてきた紛れもない賜物であろうと言いたい。本書は単に相談内容を想定して回答集を編纂したというのではなく、10年余りにわたって実際の相談のなかで得られたものを十分に吟味した上で、推敲に推敲を重ねて適切な回答を練り上げたものといえよう。
内容は呼吸器、循環器、消化器、泌尿器、歯科、産科、眼科、皮膚科、寄生虫、腫瘍など疾病に関する相談をはじめ、ワクチネーション、しつけ、日常の手入れ、食餌そして動物病院とのつき合い方まで、多岐にわたる内容が186項目取り上げられている。中心は犬・猫であるが、なかにはウサギや小鳥、カメなども含まれている。回答は極めて簡潔明瞭であり普遍的な説明に重きを置いてはいるが、重篤さや危険性が推測される場合には、直接獣医師による診察を促す表現も数多くみられる。また我々が説明を文章で表す場合、やむなく専門用語を使わざるを得ないことがある。こうしたことを補うためにKey Wordの頁を設けて、専門用語に分かりやすい解説が加えられている。ここにも読者に対する優しさが窺える。
美辞麗句に終わるつもりであったが、敢えて一言進言するとすれば、しつけの項目がある。「罰」に近い叱り方など若干首を傾げたくなる表現も散見される。最近では、主に女性の獣医師を中心に正式に行動学を学んだ新進気鋭の臨床家も多くなってきた。再版が重ねられる際には、こうした専門家の意見を参考にすることも必要ではないだろうか。
相談コーナーに参画される獣医師はもとより、多くの飼い主が本書『コンパニオンアニマルQ&A』を利用されることにより、動物がますます幸せになることを祈ってやまない。

「獣医畜産新報」2000年11月号 掲載

朝倉宗一郎、太田充治 監訳

『カラーアトラス 最新 ネコの臨床眼科学』

2000年3月発行・A4変形判・219頁・定価 27,000円(税込)

評者 安部動物病院院長 安部勝裕

本書は、1998年にW.B.Saunders社より発行された『Feline Opthalmology -An Atlas & Text-』が邦訳されたものである。現在までに発行されている獣医眼科学の多くの著書は犬を中心としたものが多く、本書のように猫を対象とした眼科学に関する著書が皆無であったことは事実である。今回、原書が出版されてから短期間で邦訳が出版されたことは、小動物臨床に日頃携わる獣医師、獣医大学の学生ならびに猫の飼い主にとって喜ばしいことである。 本書は15章より構成されている。1章は眼科と付属器官の検査であり、正確な診断に重要な病歴の聴取、各種検査器具の使用方法、基本検査の使用方法とその解釈ならびに正常眼について鮮明な写真を用いて述べられている。また、3章は眼科緊急疾患および眼外傷で、日常遭遇しやすい緊急疾患についてこの章だけは基本的な対処法が端的に述べられており、クイックリファレンス的に使用できるように配慮されている。他の章は解剖学的な分類による眼球の部位別に、解剖学、生理学からはじまり、各疾患について豊富な写真とテキストで構成されており理解しやすい。また、各章別に引用文献が、付属として副読本が紹介され貴重な資料がまとめられている。 本書は豊富なカラー写真とテキストより構成され、猫という魅力的な動物の眼科疾患について述べられている。眼科学に興味ある獣医師のみならず、日常診療に忙しい臨床医にもクイックリファレンスとして明日の診療に役立つものと考える。

「獣医畜産新報」2000年7月号 掲載

『カレントベテリナリークリニック 1』

2000年4月発行・A4判変形・296頁・定価 17,280円(税込)

評者 川口動物医療センター院長 安藤 純

本書は、その表紙を一見しただけでは、内容をうまく想像できないかもしれないが、内容を読むにつれてその充実した構成に気がつく。腫瘍学、病理学、臨床病理学、循環器学、眼科学、皮膚科学、外科学など、私たち一般臨床家がよく遭遇する疾患に関する記載だけではなく、行動学、栄養学、公衆衛生学を含めた内容が、現在各分野で活躍されている先生方によって執筆されたオリジナル(米国の先生のオリジナルの翻訳も含まれる)が掲載されている。構成はシンプルで読みやすく、それでいて最新の情報が、図や表、写真とともに上手くまとめられている。また、本邦の臨床現場に即した内容になっており、どれも臨床の現場ですぐに役立つエッセンスに富み、これまで蓄積された知識のupdateだけではなく、不得意分野の知識導入の糸口を容易に提供してくれる。自身の獣医療を客観的に見直し、最新の知見を修得することは獣医療従事者にとって必要不可欠であるが、我々一般臨床を主とする獣医師は、診療科目が多岐にわたり、さらに種々雑多な仕事に追い回されてなかなか十分な時間がとれずに困っている先生方も多いのではないかと思う。本書は、各分野の疾患をコンパクトにまとめてあるため、各人の時間に合わせて一章ずつゆっくりと読みながら内容を修得することが可能であり、気負いなく読破できる専門書である。さらに次号以降、各専門用語に対するインデックスも作成していただき、より使いやすい本にしていただければ幸いである。

「獣医畜産新報」2000年7月号 掲載

内藤善久、浜名克己、元井葭子 編

『生産獣医療における牛の生産病の実際』

2000年2月発行・B5判・260頁・定価 9,720円(税込)

評者 NOSAI宮城 佐藤 繁

生産獣医療は飼養管理や畜産経営上の問題を解決し、疾病の予防と生産性の向上によって畜産農の経営安定を目指したものである。臨床獣医師による個体診療は、畜産業の発展に極めて重要な役割を果たしてきた。今後も個体診療が重要であることに変わりはない。しかし、近年、牛の疾病とその病態極めて複雑なものになるとともに、臨床獣医師に対する畜産農家の要望は個体診療から生産獣医療へと変化している。今や生産獣医療は、我々臨床獣医師が避けて通れない課題になっていると言っても過言ではない。
本書は、第一線で活躍している臨床獣医師が生産獣医療を実践する場合に役立つよう配慮されている。本書の特長は、第一に代謝プロファイルテストの実施法とその解釈法が詳細に記載されていること、第二にミネラル代謝障害、エネルギーやタンパク質代謝障害、ビタミンの代謝障害など古典的な生産病(代謝障害)のほかにも、微量元素の欠乏による障害、ホルモンに起因する障害、ストレスによる障害、繁殖障害、乳房炎、運動器疾患、先天異常、遺伝性疾患など、我が国で問題となっている主要な疾病が網羅されていることである。各疾病の症状、臨床病理検査、診断、治療および予防に関して最新の知見が平易な用語で記載されている。紙面の制約のためか、生産病の予防で重要な牛群全体の飼養管理状況のチェック項目や乾物摂取量の低下など生産性の阻害要因に関する記載がやや少ないのが残念である。本書の第三の特長は、ケースレポートとして乳牛や繁殖和牛に対する代謝プロファイルテストの応用例や代表的な症例が紹介されていることである。これらは極めて実践に即したものと言える。
我が国の生産獣医療は個体診療と密接な関係にあり、その実践は日常の個体診療とともに行うのが現実的である。しかし、生産獣医療を実践する場合、牛の疾病に関する獣医学的な知識だけでは不十分であり、栄養学や行動学など畜産学に関する広範な知識が要求される。また、生産獣医療を定着させるためには、獣医学的な知識に基づいた明確な方法論と情熱にあふれた行動力が要求される。したがって、本書に記載されている最新の知見を応用して、生産獣医療を発展させることは、我々臨床獣医師の責務である。

「獣医畜産新報」2000年5月号 掲載

菅沼常徳 監訳

『X線と超音波による小動物の画像診断』

1999年11月発行・A4判変形・650頁・定価 32,400円(税込)

評者 戸ヶ崎動物病院院長 諸角元二

本書は、1986年にChurchill Livingstone社より発行された『Small Animal Radiology- A Diagnostic Atlas and Text-』の第2版が邦訳されたものである。第1版の原著と見比べてみると、使用されている症例のX線写真はほぼ同じであるにもかかわらず、新たに超音波所見を追加することによって、第1版とは異なる総合画像診断の成書となっている。本書の内容は、サブタイトルに示されているように専門書というよりむしろ教科書的な内容であり、典型的な疾患の各画像所見が網羅されている。
X線および超音波画像の読影には整理された知識と経験が必要であり、ときには拡大鏡を用いてX線画像を観察するほどの注意深さも必要である。しかし、このように詳細に画像を評価したにもかかわらず、開腹時あるいは剖検時に、画像に描出されていた異常所見を読み切れていなかったことに気付くこともしばしば経験される。その異常所見が誰しも理解できないものであれば納得できるが、成書に記載されているようなことであれば、おのれの不勉強に赤面することとなる。獣医学における画像診断法がいかに進歩しようとも、臨床現場での画像診断の基本はX線および超音波であり、これらの画像診断の重要性は今後も不変である。それ故、日々の診療のあい間に、多くの勤務医さらに院長先生方にも本書を活用されていただければ幸いである。
2000年8月には、日本においてInternational Veterinary Radiology Associationの学会が開催され、Suter,P.、Morgan,J.P.、Kealy,J.K.ら著名な先達が来日される予定になっている。この時期、実にタイムリーに本書が発刊されたことは喜ばしい限りであり、我々もいま一度画像診断学の基本を整理し、さらに発展していこうと考えている。

「獣医畜産新報」2000年2月号 掲載

江口保暢 著

『動物発生学 第2版』

1999年9月発行・B5判・264頁・定価 7,560円(税込)

評者 帯広畜産大学教授 山田純三

今、分子生物学や遺伝子工学が花形ではあるが、発生学の重要性はさらに増してきている。なぜならば、ノックアウトマウスでもジーンターゲッティングでも、発生のどのステイジでどの様な変化が起こっているかを正確に理解することが大切であり、そのためには発生学の基礎をしっかり理解することが必要である。
我々のような獣医学や畜産学の教育にかかわっている者にとっては、発生学を如何に教えるかを真剣に考えなければならない。発生学の重要性が増しているにもかかわらず、残念なことに、わが国では発生学の教育・研究を主目的とした講座は獣医学関係大学にはないし、発生学を専門としている教官もいない。成り行きで解剖学の教官が個人的な努力で教えているのが現状であり、私もその1人である。この様な状況であるので、発生学を教える時、または学ぶ時には教科書の選択が非常に重要になる。
我々の大先輩である江口保暢先生は、1979年に『家畜発生学』を出され、1985年には訂正と図版を追加され『新版家畜発生学』とし出版され、さらには1995年に『動物発生学』と改名されて出版された。1995年の時は名前が変わっただけで、内容の大きな改訂は残念ながらなされなかった。しかし、今回の改訂第2版は、装丁も魅力的になり、第1章の序説を全面的に改訂され、発生学におけるバイオテクノロジーの概略を解説されるとともに、発生学を学ぶことの意義を分かりやすく説かれている。さらに、新しい図を12枚ほど追加または入れ替えされ、相当数の図版をより理解しやすいように改善されている。価格の制限のためか、総頁数は10頁を増やしただけに留まっているが、参考文献も約1頁分追加されている。
私が強調したい点は、中で用いられている専門用語が、我々の日本獣医解剖学会(獣医発生学日本語用語委員会)で出している獣医発生学用語に基づいた用語に統一されていることである。この用語は国際獣医発生学用語委員会(International Committee on Veterinary Embryology Nomenclature)で決定されたラテン語の用語を日本語にしたものであり、解剖学用語や組織学用語と同じ性格を持ち、学会発表をするときや卒業論文などを書くときに用いられる、いわゆる専門共通語であるので、このことはこれから発生学を学ぼうとする人たちには非常に重要なことであろう。
一つ残念なことは奇形に付いての章が無いことである。次回の改訂では奇形についての章が追加されることを期待したい。
この改訂版は、獣医学や畜産学を学ぶ方々だけでなく、動物学を学ぶ方々にも発生学の基礎を学ぶ方にも推薦できる本であることは間違いない。故に、私は本書を獣医学科や畜産系の学科を含む全1年生対象の動物発生学の教科書として活用させていただいている。

「獣医畜産新報」2000年2月号 掲載

友田 勇 総監修

『ブラッド獣医学大辞典[英和・和英]』

1998年11月発行・B5判・1296頁・定価 34,560円(税込)

評者 武部獣医科病院院長 武部正美

その国で発刊されている辞典を幾つか見れば、その国の文化水準が分かるといわれている。すなわち一国の獣医学的水準というのは、その国で出版された獣医学的辞典によって概ね推測できるということになる。
1988年に英国で発刊され好評を博してきた辞典『Bailliere's Comprehensive Veterinary Dictionary』が、わが国獣医界における一流の研究者達によって、この度『ブラッド獣医学大辞典』として完全翻訳され文永堂出版から発行された。本辞典は本邦獣医学の水準を世に示すと同時にさらに高める役割を果たすものといえる。
近年の獣医学の進歩は目覚ましく、ますます専門化され細分化され精緻化される傾向にある。特に免疫学や遺伝学などはうっかりしていると、あっという間に置き去りにされてしまう分野でもある。一方では魚病学をはじめ動物行動学や人と動物の関係学あるいはエキゾチック・アニマル学といった分野も獣医学のなかに参入してきた。常にアンテナを広げ情報を収集しておかないと知らぬ間に置いてきぼりを食らう時代にある。ところが常に最新の情報を得ようとすると、残念ながらそのほとんどは英文化された情報という場合が多い。したがって、正確に最新情報を得るためには、幅広い領域を網羅する獣医学英和辞典なるものが不可欠となる。本辞典はまさにこうした要求を満たしてくれるものといえる。 本辞典の素晴らしさには四つの点が挙げられる。第1は用語に対し訳語だけでなく、極めて簡潔明瞭にその定義や説明が記されている点である。多くの医学あるいは獣医学英和辞典では、例えばcomedoという用語を引いてもコメドあるいは面皰としか記されていないことが多い。furuncle・セツ(やまいだれに節:漢字の登録がないためこのインターネット上ではカタカナで記載しています)にしても然りである。仕方なく皮膚科学の成書を紐解く必要に迫られる。第2は獣医学に関連するかなり幅広い動物種や植物種が詳しく解説されている点にある。また心理学用語や行動学用語など新しく獣医学に参入しつつある用語についても、網羅されている。第3は付録として加えられている付表である。検査基準値やウイルス分類などの付表は勿論のこと、なかでも解剖学(動脈、静脈、骨、靱帯、筋、神経に分けた)用語に到っては、親切極まる配慮がなされている。今までのように訳語を知ったのちに解剖学の成書をとり出して分布や起始部、終止部などの解説を読むといった手間が省けることになる。第4は翻訳に携わった監修者と編集委員による着想であろうと思われるが、巻末の索引欄である。獣医学和英辞典としての効用を意図されたことに敬意を表したい。ますますもって、本辞典1冊で全てことが済むということになる。ただ、あえて贅沢をいわせていただくとすれば、発音記号の表示を加えて欲しかった。正しい発音を頭に入れておくことは、国際交流の場で極めて重要となる。
獣医学に関与する多くの方々が、本辞典を座右の書として活用されることを願うと同時に、多忙ななか訳出に携わられた一流の研究者達に心から感謝と敬意を表する次第である。

「獣医畜産新報」1999年2月号 掲載

浅利昌男 監訳

『猫の解剖カラーアトラス』

1998年1月発行・A4変形大判・280頁・定価 25,920円(税込)

評者 麻布大学附属動物病院助教授 小方宗次

解剖学書を臨床に役立つように書くには、臨床知識を十分備えた解剖学者が執筆するか、解剖学に造詣のある臨床医が執筆する、あるいは解剖学者と臨床医とが共同で執筆するかのいずれかの方法が取られるであろう。本書は、解剖学者はもちろんのこと、外科医、皮膚科医、麻酔医、放射線医、眼科医、さらに免疫学や寄生虫学分野の人を引き込んだ多彩な執筆陣となっている。執筆者それぞれが猫の臨床に即した局所解剖を解りやすいカラー図によって解説している。Hudsonらの解剖学者は、臨床医と連携をとって柔軟な発想で臨床に向けた編集を進めたと予想する。とかく、基礎学と臨床とに亀裂が生じやすい状況にあるわが国獣医界には実に羨ましいやり方である。
臨床に役立つ解剖学とは、「体の構造と機能の臨床的意義を考慮しながら体表解剖学と局所解剖学を主とし、系統解剖学を従としてclinically oriented humananatomyを学ぶことである」と星野一正教授が著書『臨床に役立つ生体の観察』(医歯薬出版)で述べている。星野教授は元は産婦人科を専門とする臨床医であったが、米国留学中に解剖学者に転じ、帰国後には京都大学の解剖学教授に就任した。この人体解剖学書を私が手にしたのはかれこれ15年ほど前であったが、医学には門外漢でしかも臨床獣医師である私に対し、解剖学への好奇心を今なお煽っている。そのような解剖書が獣医界で出版されることを切望していたが、本書はその期待に十分応える内容を具備している。全般的に体表から視診、触診、聴診やX線などで観察できる身体内の構造を網羅し、運動時の臓器の変化および隣接器官との相互関係や機能を明快に表現している。表題に臨床獣医師のためのとあるように正に臨床に即しており、本書が診療室や手術室での活用に十分耐え得るものと確信している。また、本書の従来の解剖学書と視点を異にした内容は、解剖学者あるいは学生にも啓蒙的な刺激を与えるであろう。
監訳者の浅利教授は、かつてCornell大学の獣医解剖学教室に留学し獣医解剖学の教育と研究を研鑽された。この教室は『Veterinary Neuroanatomy and ClinicalNeurology』を著したde Lahunta教授やEvans教授が終始臨床を重視した研究や教育を進めていたという。浅利教授は帰国後、その教室の雰囲気を継承するため、本学の動物病院にもしばしば出向き、一つ一つの症例から解剖学に関連したヒントを収集されている。現在、わが国で臨床を最も理解した獣医解剖学者のお一人である。本書の監訳に最も相応しい浅利教授を選ばれた文永堂出版社編集者の慧眼に敬意を表する次第である。

「獣医畜産新報」1998年4月号 掲載

今井壮一、神谷正男、平 詔亨、茅根士郎 編

『獣医寄生虫検査マニュアル』

1997年11月発行・B5判・320頁・定価 7,560円(税込)

評者 帯広畜産大学名誉教授、日本獣医寄生虫研究会会長 鈴木直義

世界の獣医学6年教育科目の中での寄生虫学は極めて重要な位置を占めている。家畜の寄生虫病学、とくにズーノーシス関連における寄生虫病の世界的防疫対策が強く叫ばれている現状にあり、日本も例外ではない。
『獣医寄生虫検査マニュアル』の表題の如く、本書は日本の獣医系大学における主要な寄生虫病の学生教育実習の手引き書として、とくに修得すべき寄生虫病診断のための検査法について簡明に記述されている。
まず、内容は「基礎」と「応用」に大別され、「基礎」には主として日本の獣医寄生虫病学学部教育における重要項目が記述されている。一方、「応用」編では、社会人獣医師が関連領域において寄生虫病診断などに十分対応できる専門的手技が簡潔に記載され、寄生虫学実習参考書として非常によく纏められている。
したがって、本書は、わが国獣医寄生虫学教育実習の手引き書として学生の参考書としての活用のみならず、社会人獣医師の座右におくべき必須専門書として診断技術の向上に役立てていただきたい。

「獣医畜産新報」1998年2月号 掲載

杉浦勝明 訳

『獣医応用疫学』

1997年8月発行・B5判・434頁・定価 8,640円(税込)

評者 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 見上 彪

わが国では、獣医学領域での疫学教育の重要性が指摘されて久しい。最近、欧州諸国での牛海綿状脳症の流行、日本を含めた欧米での腸管出血性大腸菌O157の大流行、台湾での豚口蹄疫の流行など、家畜の疾病やそれに起因する、あるいは疑われているズーノーシスが社会問題となり、家畜生産の現場から消費段階での衛生問題が非常に問われている。そして、国内外で家畜の集団防疫とコストパフォーマンス(経済疫学)を中心とした獣医疫学の重要性が特に訴えられている。
本書はフランスのアルフォール国立獣医科大学のDr.Toma,Bらによってまとめられたもので、獣医師が疫学の実践に当たって必要な知識が体系的に記載されている。
まず疫学の基本概念では、記述アプローチと分析アプローチの違いを示し、次いで家畜の伝染性疾患のスクリーニングの検査法とその利用、防疫すべき疾病の疫学的状況を把握するための記述疫学の調査と疫学的サーベイランスについて、そして疫学的サーベイランスのネットワークの構築、病原体の存在場所および伝播態様が説明されている。さらに費用対効果を念頭においた疾病のコストおよび予防に進み、次いで各種の防疫措置、集団防疫の検討と実施、疾病の原因の解明が記され、最後に家畜衛生における評価で締めくくられている。10章からなっているが、各章の始めにはその章の目標が設定してあり、その最後に練習問題で習熟度が分かるという親切な構成となっている。
従来、煩雑な統計処理(もちろん必要なことであるが)にとらわれた疫学書が多かったが、本書は理解しやすく実によくまとめられている。
家畜に防疫業務に携わる先生方にはもちろんのこと、産業動物に携わる臨床獣医師や獣医学を学んでいる学生諸氏には役立つ書である。最後にフランス語の原書を分かりやすく翻訳された杉浦勝明氏の功績に敬意を表したい。

「獣医畜産新報」1997年11月号 掲載

森 裕司 監訳

『臨床獣医師のための猫の行動学』

1997年4月発行・B5判・280頁・定価 8,640円(税込)

評者 タテマツ獣医科Animal Behavior Clinic院長 立松 誠

この本はとても素晴らしい本だと思う。私は出版者の社員ではないが、この本はできるだけ多くの人に読んでもらえればよいと思う。私が犬・猫の臨床行動学に興味を持ったのが、今から約20年前である。当時はこの分野に関する情報は、日本ではほとんどなく、ただ行動学、心理学に関する書物を手当たり次第に読み、いかにしたら犬・猫の問題行動の解決に応用できるかと毎日頭を痛めていた。私がこの本の原版(1980年刊)に出会ったのが、今から10数年前の米国留学中のことであり、この時以来、本当に多くの情報を与えてくれた。通常、行動学に関する書物は一般の病気に関する書物とは違い、耳慣れない言葉が多く、私も苦労してきた。
今回、多くの先生方の御苦労で日本語版が出版されたことは、本当にありがたいことである。この本は、出生から成熟および成熟後の猫の様々な行動が、感覚器官、脳を中心とした神経系およびホルモン等の生理機能と関連づけられて詳細に述べられている。また、具体的な猫の様々な動きについても、いろいろな方向から実にわかりやすく述べられているので、読者が猫の動きを理解する上で非常に役に立つ。各種の問題行動につていも、その原因から治療法に至るまでのいくつかの症例を示し、明解な説明が加えられている。これは、臨床家にとってとてもありがたいことである。参考文献の紹介も豊富で、より深く研究しようとするときには、大変役だった。
最後に、もう少したくさんの問題行動の症例と治療法に関する詳細な説明があればよいと思うのは、少々贅沢すぎる望みであろうか。
とにかく、素晴らしい本である。

「獣医畜産新報」1997年8月号 掲載

菅沼常徳・浅利昌男 訳

『鳥のX線解剖アトラス』

1997年4月発行・A4判変形・224頁・定価 12,960円(税込)

評者 ミュージアムパーク茨城県自然博物館館長 中川志郎

“手にとるようにわかる”という表現があるが、この本を見た第一印象はまさしくそれであった。インコ類、カモ類、ワシタカ類など、20種にわたる鳥類の解剖学的な特徴がまるで精緻なイラストレーションを見るように的確に描出されているのである。
その秘密は、通常のX線写真とともにゼロラジオグラフィー(電子X線)による写真を併用していることにあろう。ゼロラジオグラフィーは、X線写真では撮影できない微細な骨組織はもちろん、軟組織までを余すところなく写し出すからである。
従来、動物園などでも鳥類の外科的疾患は治療が難しいとされてきたが、その理由は鳥類骨構造の特殊性とともに、種類ごとの解剖学的特徴が必ずしも明らかでなかったことによる。
その意味で本書の登場は、鳥類外科診療の基礎学として不可欠な部分をカバーしたものということができよう。紹介されている鳥の種類は必ずしもわが国でポピュラーなものばかりではないが、グループ代表としてみても十分役に立つはずである。臨床獣医師はもちろんのこと、鳥類の体のしくみに関心のある生物学者、教師、研究者にも広く活用してほしい本である。

「獣医畜産新報」1997年7月号 掲載

野生動物救護ハンドブック編集委員会 編

『野生動物救護ハンドブック -日本産野生動物の取り扱い-』

1996年4月発行・B5判・326頁・定価 8,640円(税込)

評者 ミュージアムパーク茨城県自然博物館館長 中川志郎

このところ、ボランティア的な野生動物救護活動が盛んになっているが、一方、各地方自治体が行う組織的な取組みも確実に増加している。それは一般の動物愛護思想がかつてない高まりをみせつつある現代世相の反映であり、また、保護を必要とする野生動物が実際に多くなっていることへの対応でもあろう。
事実、動物園の動物相談室への問合わせ内容などをみても、傷病動物や幼鳥、幼獣の育て方などに対するものが著しく増加している。
このように、野生動物に関する関心度が高くなることは大変結構なことであるが、これらに対する対応が適切になされることは、それ以上に重要である。
その意味で、本書は野生動物救護に直接かかわる人は勿論、これらに関係する行政窓口や市民センターなどでも役に立つ内容となっている。現在、わが国で問題となるであろう動物種はほとんど網羅されており、しかも、実際家が分担執筆しているので、内容も行き届いているからだ。
ただ、野生動物救護のような幅広い分野での症例としては、ここに集められているものは、まだごく一部であり、この本を利用しながら読者自身が資料を追加していくことも求められよう。いずれにしても、その端緒となる本書が誕生してくれたことは、日本の野生動物救護にとって一つのエポックとなろう。

「獣医畜産新報」1996年7月号 掲載

山村穂積 監訳

『イラストによる小動物整形外科-手術手技とアプローチ-』

1994年5月発行・A4判・334頁・定価 21,600円(税込)

評者 麻布大学獣医学部外科学第一講座教授 若尾義人

本書はAlan J.Lipowitz、Dennis D.Caywood、Charles D.NewtonおよびMartin,E.Finchによる『Small Animal Orthopedics Illustrated -Surgical Approaches and Procedures』の訳書である。
これまで多くの整形外科の訳書が出版されているが、本書の特徴は整形外科の理論は最少限に押さえ、実際の臨床に必要な外科手技を中心に豊富なイラストを用いて説明することを第一としており、極めて実際的な手術書である。本書全体は、左頁を手術ポイントの的確な記述に使用し、右頁を皮膚切開からその手術の重要な手技の操作終了までを詳細なイラストで埋める構成を採っている。左頁の記述に関しても各頁にはコメントが挿入されており、実際のイラスト以外の方法あるいは注意点、または予後について述べられている。イラストは全て丁寧な写実によってしめられており、このイラストは時には実際の写真よりも手技の修得に役立つことはすでに多くの先生方が経験している。また、全体的な構成と文章の平易さから、これから獣医師を目指そうとする多くの学生のための参考書としても大いに役立つものと思われる。著者らが前文で述べているように、本書は全ての外科的処置が網羅されている整形外科書ではなく、実際の臨床における必要な手技について記載していることから考え、学生から臨床家まで幅広く利用できる訳書として推薦できる。
小動物の整形外科の分野は、器具の改良によってかなり高度な手技が可能となってきたが、本書に記載された基礎的手技を会得し、さらにその手技を使用して実際の症例にアプローチする方法を身につけることが、整形外科には極めて重要である。

「獣医畜産新報」1995年9月号 掲載