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Donald J. Meuten

『Tumors in Domestic Animals, 5/E』

2016年・Wiley-Blackwell発行・¥29,159(税込)

評者 東京大学准教授 内田和幸

腫瘍の獣医病理分野における必携の教科書『Tumors in Domestic Animals』の第5版が出版された。第4版に続きDr. Meuten, DJ (North Carolina State University)による編集である。初版から第3版まではDr. Moulton Jによる編集で,ある一定以上の年齢層の獣医病理学徒には,“Moutonの教科書”として親しまれた。今回の改訂では,これまでの本書の印象を一新する大幅な変更がなされた。まずイラストや写真は,すべてカラーに統一され,細胞診や免疫組織所見等を含む数種の組み写真が多く提示されている。全体のボリュームも4版の全788頁に対し,5版は全999頁で,しかもフォントが小さくなったため,従来版にくらべ2倍あるいはそれ以上の情報が込められたことになる。
 第5版の大きな改訂として,まず第1章から3章の総論的部分がある。ここでは最新の腫瘍発生に関する分子生物学的知見や腫瘍診断技術に関する情報が,美しく分かりやすいイラストとともに掲載されている。特に第2章の腫瘍組織の採取方法に関するパートでは,印象的な3D合成イラストを用いて,臓器ごとに腫瘍組織の採材方法について解説されている。意外にこの点を強調する教科書はないので,病理診断学の入門編として必読箇所であろう。3章には免疫組織科学に関する情報が掲載され,表3.2として多彩な一次抗体(多くは人抗原由来)の動物種交差性に関する情報がまとめられている。この表で製造会社とその製品コード番号の情報も確認できる。特に犬に関する情報が網羅されているので,新規に抗体購入を予定される際には,まずこの表で確認されることをお勧めする。
 各論部分では,特に「第6章 肥満細胞腫瘍」,「第7章 リンパ・造血器系腫瘍」,「第8章 組織球系腫瘍」の情報が充実している。これらの章は,各分野の第一人者であるDr. Kiupel M(第6章),Dr. Valli VEら(第7章),およびDr. Moore PF (第8章)により執筆され,各執筆者が個々にVeterinary Pathology誌でReviewした内容が忠実に反映されると同時に,それ以上の情報を含んだ内容になっている。また第17章の乳腺腫瘍はDr. Goldschmidt MらがVeterinary Pathology誌のReviewで紹介した,犬乳腺腫瘍の細分類に関する記述が詳細になされている。ただし,基本概念は第4版の同章と乳腺腫瘍のWHO腫瘍分類制定に尽力されたDr. Misdrop Wの考えを踏襲したものである。他章でも,それぞれ新しい概念が紹介されているので是非ご確認いただきたい。
 第4版のDr. Meuten, DJのDedicationは,母親に捧げられた個人的なもので,その意図をよく理解できなかった。第5版のものは明快でDr. Moulton Jら先人への感謝が捧げられている。“This book is dedicated to mentors. They taught us and built the foundation of veterinary pathology. We are all indebted to their hard work, and their willingness to teach and create new information.”第5版ではこの言葉が強く実感できるので,是非多くの関係者にご購読いただきたいと思う。

「獣医畜産新報」2017年3月号 掲載

Keith A. Hnilica, Adam P. Patterson

『Small Animal Dermatology: A Color Atlas and Therapeutic Guide, 4/E』

2016年・Elsevier発行・¥20,477(税込)

評者 東京農工大学名誉教授・葉月会アドバイザリドクター 岩﨑利郎

 この教科書/アトラスの第4版が出版され,一通り第4版に目を通した後で,改めて自分の監訳した第2版と第3版を読み返してみた。最初に第2版の日本語訳を校了したのは2007年,第3版は2013年であった。したがって,第2版の翻訳が終了してからもう10年近くが経過している。その間に著者は初版から第2版まではLinda Medleau先生とKeith Hnilica先生であったが,第3版ではHnilica先生1人となり,この度第4版からは著者にAdam Patterson先生が加わった。著者の編成が変わるとともに内容も徐々に変化し,第2版では治療前後の臨床写真がまとめて200枚も掲載され,第3版からはエキゾチックアニマルの皮膚疾患の章が追加された。さらに今回の第4版では図や写真が一新され,特にアレルギー疾患に対する新たな治療法も加えられている。
 もともとこのアトラスは,つとに有名な獣医小動物皮膚科教科書であるMuller and Kirkの『Small Animal Dermatology』のアトラス版として企画されたものであり,各疾患の病因,症状,疫学などについて詳細に記述するのが目的ではない。もし皮膚疾患の詳細な病因機序や皮膚の解剖,生理,生化学,細菌学,内分泌あるいは遺伝学のような基礎的なことについて興味のある方は,『Small Animal Dermatology』も併せて読まれることをお勧めする。この本はあくまで臨床家が,皮膚症状の外観やパターン,病歴あるいはシグナルメントを観察,聴取したのちに,考えられる診断を診察室あるいは治療室で視覚的に確認するものであろう。特に写真の美しさ,背景,角度,ポーズなどはカラーであるだけに他の教科書と比べてもクオリティーの高いものといえよう。
 本書の特徴の1つとして“Author's Note”があり,私はこの部分を非常に興味深く読んでいる。このコメントは主に臨床上の“落とし穴”について触れていることが多く,特に「必要以上に診断されすぎている疾患」,「見過ごされていることが多い疾患」などの記述が出色である。特に最初の“Author's Note”はこの教科書を手元に置かれたら最初に目を通していただきたい部分である。正に本書は臨床家が診察室に置くに相応しい教科書であると感じている。

「獣医畜産新報」2017年2月号 掲載

Darryl Millis, David Levine

『Canine Rehabilitation and Physical Therapy, 2/E』

2013年・Elsevier発行・¥16,589(税込)

評者 日本大学 准教授 枝村一弥

 本書は,小動物臨床におけるリハビリテーションの数少ない書籍のひとつであり,本領域の第一人者であるテネシー大学のMillis先生らのチームによって書かれた代表的な成書である。テネシー大学と言えば,世界的に有名な動物理学療法士の認定コースである「Certificate Program in Canine Physical Therapy」を主催している大学であり,そのチームによって書かれたことから,本書はリハビリテーション志す動物医療関係者にとってのバイブルとして確固たる地位を確立している。前版までは白黒であったが,第2版は全てがカラーで構成されており,より分かりやすい内容となっている。
 本書は7章で構成されており,リハビリテーションを展開する上で重要な理論が詳述されている。第1章は,リハビリテーションの導入として,現在までの歴史,定義,分類,リハビリテーションの進め方について紹介されている。第2章では,リハビリテーションを行う者が知っておくべき,行動学,解剖,各々の組織の治癒形式などが書かれており,運動療法の種類や効果についても述べられている。各々の運動療法の効果については,多くの科学的データを基に説明がなされており非常に説得力がある内容となっている。また,組織そして分子レベルからも治療効果が説明されており,科学的なリハビリテーションを実践するために理解しておくべき事項が細かく記載されている。第3章は,リハビリテーションの計画を組んだり,治療効果を検証したりするために知っておくべき,整形外科学的検査や神経学的検査,客観的な運動解析法,疼痛の評価法が紹介されている。さらに,サプリメントの給与,術後の管理,運動補助のための装具についても多くの図や写真を基に説明がなされている。第4章と第5章は,各々の理学療法の目的,適応,治療根拠,方法,効能について述べられている。第4章は,温度療法,超音波療法,レーザー療法,体外衝撃波療法といった物理療法が概説されている。第5章は,運動療法,関節可動域訓練,ストレッチ,関節モビライゼーション,マッサージ療法,バランス運動,トッレドミル歩行,カバレッティレール,ハイドロセラピーなど多くの療法についてわかりやすく解説している。これらの内容は多くのページを割いて説明がなされており,本書の最も重要な部分である。第6章は,代表的な整形外科疾患や神経疾患の診断方法やリハビリテーションの適用方法について書かれており,実践的な内容になっている。第7章は,リハビリテーション施設の設立方法や規模,そして運営の仕方までビジネスの視点から述べられている。
 このように,本書は小動物臨床におけるリハビリテーションのまさに1から10までがわかる内容になっている。犬や猫のリハビリテーションは多くの施設で行われ始め,ブームにもなりつつある。しかし,独学になりがちで,わが国においてはリハビリテーションについて体系づけて学べる機会は少ない。私の知る限り,リハビリテーションの全てを学べる本は世界でも本書のみであり,これからリハビリテーションについて学びたい方にとって本書は必携の書となるであろう。獣医師,動物看護師,そして学生の誰にとってもわかりやすい内容となっているので,是非ともひとりでも多くの方々に読んで頂きたい良書である。

「獣医畜産新報」2016年10月号 掲載

Susan L. Fubini, Norm Ducharme

『Farm Animal Surgery, 2/E』

2016年・Elsevier発行・¥27,086(税込)

評者 岩手大学 教授 岡田啓司

 『Farm Animal Surgery』が初版発行から12年ぶりに改訂された。“Farm Animal”の名前の通り,牛を中心としながらも,豚や羊,山羊など様々な家畜の最新の外科治療が記載されている。
 “Surgery”のイメージからすると“外科手術書”ととられる向きも多いと思う。日本の家畜,特に牛の獣医療の世界では外科手術の適用されるケースが非常に少なくなってきており,本書の必要性に疑義を呈する方もおられるかもしれない。しかし本書の内容は,家畜独特の保定法や注射法などから始まる“家畜の外科治療”全般の教科書である。教科書と言っても通り一遍の一般論の展開ではなく,疾病毎に診断と治療の手順について,必要なことを網羅しながらも簡潔丁寧に記されている。
 Part1の前半では,ロープワーク,保定法,診断法,薬剤や補液を含む治療法,麻酔法,画像診断法,注射法,術後管理法などの概論があり,学生教育にも理解しやすく,外科治療を得意としない臨床家の皆様にとっても大いに役立ちそうである。Part1の後半では家畜に共通の腫瘍,眼科治療,歯科治療などに関する詳細な記載がある。Part2以降では,牛,子牛,羊と山羊,豚と,動物毎に外科治療法が記載されている。このなかで最も重点の置かれている牛(Part2)では,体表の外科,呼吸器系と循環器系の外科,消化器系の外科,骨格筋系の外科,繁殖系と尿路系の外科に分けて,本書の半分以上を費やして記載している。それに続くPart3の子牛の項では,子牛特有の消化器系の外科,骨格筋系の外科,臍と耳の外科などが記載されている。
 本書の特徴はカラー写真の多さである。それも疾患そのもののピンポイントの写真のみではなく,カラー図,解剖写真,骨標本写真,X線画像,超音波画像,内視鏡画像,CT画像などを組み合わせ,患部の状態把握,診断,処置あるいは手術の方法を,これでもかというくらい懇切丁寧に解説している。処置や手術に用いる器具や道具に関しても写真を交えながら丁寧に記載しており,本書1冊さえあれば外科系の診断と治療には困らない内容になっている。
 図や写真だけを追っていくだけでも十分に勉強になり,学生の外科学の勉強にも有効であるが,臨床家が常に手元に置く座右の書として,本書は最適のものと思われる。

「獣医畜産新報」2016年9月号 掲載

Howard E. Evans, Alexander de Lahunta

『Guide to the Dissection of the Dog, 8/E』

2016年・Elsevier発行・¥11,528(税込)

評者 日本獣医生命科学大学 教授 竹村直行

 犬の解剖学を詳細に調査・分析した今の時代の解剖書
 犬の身体の構造は昔も今も同じである。だから,犬の解剖学の解説書に改訂など必要あるのか!? …という乱暴な批判が成立するのかも知れない。しかし,私にはそうは思えないのである。
 犬の身体構造は昔も今も同じだろうが,その解説書を利用する人々,つまり獣医学を学ぶ学生は昔と今とでは異なるからである。獣医学に限らず,教育にはその時代にマッチした教授法が必要であり,それに伴って教科書を含む教育ツールも進化する必要があると思う。
 そして,歴史ある解剖学書が今の時代にマッチした形にブラッシアップされて登場してくれたのである。
 本書の初版は1971年に発行され,以降,時代にニーズに合わせて改訂を繰り返してきた。そしてこの度,第8版が発行された。
 本書のタイトルにdissectionという一語が含まれている。ご存じのように,この言葉には切開,解剖,解体と言った意味があるのは周知の通りだが,もう1つ「詳細な調査・分析」という意味もあるのだ。本書は,1964年に初版が発行され2013年に第4版が発行された『Miller’s Anatomy of the Dog』という犬の解剖学専門書のコンパクト版に位置づけることができる。Miller’s…は850頁およぶ膨大な書籍であるのに対し,本書は327頁と確かにコンパクトになっている。
 解剖図は一部を除いてカラーのイラストである。これらのイラストは全てMiller’s…からの抜粋だが,イラストによってはMiller’s…のそれよりも大きく掲載されている。今の時代の解剖書としては当たり前だが,本書でもMRI画像が掲載されている。また,随所で触診との関連性に言及している点は,臨床教育に携わる者として非常に好感を持つ。
 その昔,白黒のイラストで解剖学を学んだ世代の方々には,「今の時代にマッチした解剖学書」である本書を楽しめると思う。また,私の印象では,本書は特に運動器系および末梢神経系の記載が充実しているように感じられる。すなわち,整形外科および神経病の基礎を復習したいとお考えの先生にも恰好の書だと確信する。
 本書は,これから解剖学実習を受ける学生が,実習前後に効率よく予習・復習するための参考書としてそもそも作られた。このため,Miller’s…と比較してコンパクトであって良いのだろうが,それでも本格的な犬の解剖学の解説書と筆者には思えるのである。そして,本書の著者も同じようなお気持ちでいらっしゃるのでは,と私には思えるのである。そう思う理由は,著者陣はこのコンパクトな解説書にあえてdissectionという一語を与えているからである。無論,このdissectionは「詳細な調査・分析」という意味に取りたい。

「獣医畜産新報」2016年9月号 掲載

Dominique Penninck, Marc-André d'Anjou

『Atlas of Small Animal Ultrasonography, 2/E』

2015年・Wiley-Blackwell発行・¥25,919(税込)

評者 麻布大学 講師 茅沼秀樹

 超音波検査では内部構造の観察が手軽にできる。X線CT検査は断層画像を得ることで内部構造の観察が可能である。それぞれに特長があるが,超音波検査の場合,無麻酔で行えるということが大きなメリットである。ただし,麻酔薬の安全性や麻酔技術が飛躍的に向上したことから,「麻酔の必要がない」ということのメリットは以前に比べ薄れた感は拭えない。また,X線CT装置は低価格化などが要因となって,小動物診療を目的としたCT装置は確実に国内に増加している。
 しかし,超音波検査はその手軽さから,X線検査とともに一般の動物病院で欠かせないことは間違いない。CT装置があまねく普及するとも思えない。
 さて,そこで問題は,超音波検査は自ら臓器や病変を描出しなければならないため検査技術を要し,全体像を想像するのが難しいということである。存分に使いこなすには,努力して技術を習得しなければならない。
 小動物の開業獣医師や勤務獣医師を対象とした超音波実習を20年近く行ってきて感じるのは,参加してくれている方々の検査技術はかつてと比較し,間違いなく向上していることである。臨床家であるならばぜひともその技術を得て欲しいものである。超音波検査に対して得意不得意が二極化するようなことがないようであって欲しい。  本書は2000枚以上におよぶ詳細な超音波画像によって,正常像から各疾患における特徴的な所見までを解説している。超音波診断装置は,常に様々な画像処理が改良または開発され,年々マイナーチェンジが施されている現状にあり,同一機種であっても製造年度の新しいものは画質が改善されている。このような時代に即した明確な画像が新しく追加されていることはもちろん,内容についても各章新しい著者が加わり,最新の知見が追加されている。また,従来通り,基礎から診断,さらには超音波造影剤の応用までと充実している。
 第1版が2008年に出版され,監訳者としてその翻訳出版に携わり,2009年には日本語版を出すことができた(文永堂出版発行)。その作業過程で第1版は4回以上は目を通し,精読し,その内容の充実さを実感した。この第2版はさらに内容が充実しているのは前述の通りである。本書は超音波検査が得意な人にも,不得意な人にも,さらには学生にとっても現在において最良の超音波診断書である。

「獣医畜産新報」2016年7月号 掲載

Christopher C. Pollitt

『The Illustrated Horse's Foot: A comprehensive guide』

2015年・Elsevier発行・¥23,328(税込)

評者 公益社団法人日本装削蹄協会 装蹄教育センター 調査役 森 達也

 日本の獣医教育では動物種ごとの専門教育も行われているが,馬については,生産頭数の減少や,その飼養目的がスポーツやレジャーなど高いパフォーマンス能力を必要とするため,獣医大学在学中に十分な専門教育を受ける機会が少ない。さらに,馬にとっての「蹄」は,パフォーマンスや跛行の原因として重要な器官であるにもかかわらず,大学教育の中での学習優先順位は低い傾向にある。そのため,馬の診療現場では,護蹄管理を専門に行う認定装蹄師と臨床獣医師との間で,運動器疾患の診断や装蹄療法の方針について,意見が相違することが少なくない。
 本書は,既存の獣医解剖学や臨床関係の書籍では不足している馬の蹄の複雑な構造と機能,代表的な蹄病(下肢部の疾患)などについて詳細に解説した「馬の蹄」の専門書で,馬の護蹄管理に必要な基礎的知識を得られるように配慮されている。旧版に相当する『Color Atlas of the Horse’s Foot』(1975年)と同様に,多数のカラー写真と図が使用されているが,本書では,これらに加えて,鮮明な光学・電子顕微鏡写真や血管造影写真もふんだんに盛り込まれている。また,最も大きな特徴は,書名にあえて“Illustrated”という用語を使用した理由にもなっているが,蹄を様々な方向から割断した写真とCTやMRIのデーターを基に3Dモデルを作成し,複雑な蹄の内部構造や病態変化を立体的にイメージできるようにしたところである。構成は大きく2つのセクションに分けられている。セクション1の「蹄の構造と機能」では,蹄鞘,知覚部,骨,関節,脈管系など,蹄を構成する項目ごとに解説されている。これに加え,X線像や組織構造,蹄骨懸垂機構についても別項目で説明し,馬にとっての蹄が,角質器としての役割に止まらず,体重を支持する重要な器官であることが理解できるよう構成されている。また,セクション2の「蹄疾患」では,蹄葉炎,ナビキュラー病,蹄尖の裂蹄,白帯病,蹄軟骨化骨症など,臨床現場で遭遇する主な蹄病の原因と症状,装蹄療法が明瞭に説明されている。特に,蹄葉炎については,ステージごとに肉眼写真や血管造影を含めたX線像,組織写真などを多数使用して,その多彩な病態変化とそれに合わせた装蹄療法理論を解説している。
 この書籍は,馬の臨床獣医師や教員などの指導者だけではなく,これから馬の獣医師を目指す学生にも大いに推奨される1冊である。また,獣医師・認定装蹄師・馬管理者・オーナーなど,馬関係者どうしの相互理解と協力体制を構築するための有用な資料としても活用できることだろう。

「獣医畜産新報」2016年6月号 掲載

Jaime Samour

『Avian Medicine, 3/E』

2015年・Elsevier発行・¥22,550(税込)

評者 小鳥の病院BIRD HOUSE CBL 代表 眞田靖幸

 本年(2016年)に出版されたDr.Jaime Samourによる『Avian Medicine』第3版は,2000年の初版,2008年の第2版につづく最新版である。本書で私が注目した4つの特徴について以下に紹介したいと思う。
1.タイトルに「The color atlas of~」と冠しても良いほど,鮮やかなカラー写真を900点以上も盛り込んだ著書である。また,表やイラストも多用しており,読者が視覚的に理解しやすい工夫と試みが随所にみられる。
2.多くの鳥医学書がオウム・インコ類を中心に書かれているのに対し,本書ではノガン類と猛禽類が主役に据えられている。これはサウジアラビアを拠点におく著者ならではの視点なのであろう。したがって,本書は,猛禽類の診療施設はもちろん,鳥類飼育展示施設や野生鳥獣保護施設においても必携の書であることに疑いの余地はないが,オウム・インコ類やフィンチ類といった一般的な飼い鳥を診療対象とする臨床医にとっては,多少の物足りなさを感じるかも知れない。それでも,血液検査や外科的手技を取り上げる章は,鳥種の垣根を越えた実践的で有用な内容が非常に多く,巻末の90頁超にわたる膨大な参考資料も多くの鳥種をカバーしている。
3.感染症の章では,ウイルス(19頁)や細菌(9頁),真菌(20頁)と比較して,寄生虫に割いている紙面が43頁(表11点,写真94点)と異常に多い。これは他の鳥医学書ではまずみられない大きな特徴であり,寄生虫好きの臨床医や研究者には垂涎の章となるに違いない。この傾向も著者が研究対象としているフィールドにおいては必然なのかも知れない。
4.臨床視点で書かれた「実践的な総合医学書」であることが本書の最大の特徴である。しかし,2000年の初版本に対する当時の私の印象はそれとは大きく異なっており,“偏った内容の変わった鳥医学書だな~”というものであった。8年ごとに2度の改訂を経てきた最新版は,果たして目を見張るほどの進化を成し遂げたのである。ちなみに,章構成は①収容,環境および国民意識,②鳥の知能,臨床行動および福祉,③栄養と栄養学的看護,④捕獲とハンドリング,⑤臨床検査,⑥臨床および検査室での診断検査,⑦麻酔と鎮痛,⑧医療,看護およびコスメティックの手順,⑨外傷に関連した病状,⑩飼育管理に関連した病状,⑪軟部組織の外科,⑫整形外科,⑬全身性疾患,⑭感染症,⑮繁殖,⑯死後の病理検査,⑰鳥類医学における法医学検査,と広範囲に及んでいる。
 最後に,この名著が1人でも多くの臨床医と研究者に読まれるためにも,日本語での翻訳本が早期に出版されることを強く望むものである。

「獣医畜産新報」2016年6月号 掲載

Mark Mitchell and Thomas N. Tully, Jr.

『Current Therapy in Exotic Pet Practice』

2016年・Elsevier発行・¥14,126(税込)

評者 田園調布動物病院 院長 田向健一

 本書を和訳すると『エキゾチックペット臨床における最新治療』ということになるだろうか。Elsevier社からのCurrent Therapy シリーズには小動物(犬・猫におけるKirk's Current Veterinary Therapyは有名で,すでに15版になっている)のほかに馬や鳥類,爬虫類が出版されており,この度エキゾチックペットがそのラインナップに加わった。わが国では,エキゾチックペット臨床に関する情報はまだまだ十分とは言い難い感がぬぐいきれないが,本書の刊行は欧米諸国においては,エキゾチックペットが獣医臨床の現場においても欠かせない一分野として認識されている証でもあるのだろう。
 本シリーズはタイトルに違わずその分野の最新の知見をもとに編集されている(言い換えれば,すでに周知されているような基本的な情報は詳しくは述べられていない)。手前味噌ながら,筆者は恐らく入手可能なエキゾチックペット医学に関する書籍のほとんどを入手している(全て読んでいるかは別にして)と自負できるが,それらの中には,残念ながら孫引きや過去に出版された情報の単に寄せ集め的な書籍も存在する。しかし,このシリーズの初版ということもあるだろうが,過去に見たことがないオリジナルの解剖生理学的なカラーイラストをふんだんに用いて詳細に解説されている。
 エキゾチックペットという多種を扱う教科書というと,どうしても広く浅くなってしまう感が否めないが,誤解を恐れず言うと本書は,狭く深くという表現にピッタリな構成となっている。したがって,既存の情報だけでは飽き足らない獣医師が細かな部分を検索する辞典代わりとして使うことも可能である。また,この手の多くの書籍は動物種別に解説されているが,本書は動物種で分けるのではなく,各器官別に編纂されているところも特徴である。その構成内容は外皮系,呼吸器系,循環器系,消化器系,内分泌系,骨格筋系,中枢神経系,眼科,生殖器系,泌尿器系となっている。さらに特筆すべき点は,非常に多種多様なエキゾチック動物を含んでおり,哺乳類,鳥類,爬虫類に留まらず,両生類,魚類,無脊椎動物(タランチュラやカニ!)にまで及ぶ。日本における実際の臨床現場で,両生類,魚類,無脊椎動物まで診療対象とする獣医師は極めて少ないと思われるが,一部のコアな開業医やむろん動物園水族館の獣医師にとって非常に有用な情報を提供してくれるだろう。
 ただ,この分野の初学者の方にとって重要な飼育技術や栄養学に関しての記載は一切ないため,そのような情報が必要であれば,エキゾチックペット臨床の教科書ともいえるKatherine Quesenberry らの編集による『Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery』第3版を手元に置き,本書を更なる情報の検索として活用していただければ,より確かな知識が身に付くだろう。

「獣医畜産新報」2016年5月号 掲載

Margi Sirois

『Laboratory Animal and Exotic Pet Medicine: Principles and Procedures, 2/E』

2015年・Elsevier発行・¥9,066(税込)

評者 一般社団法人葛城生命科学研究所 理事・研究所長 深瀬 徹

 書名を日本語訳すれば,「実験動物とエキゾチックペットの獣医学 -理論と実践-」というところだろうか。実験用の動物は,その多くがペットとしても飼育されているため,妥当なまとめ方だと思った。動物実験に従事している人とエキゾチックペットの臨床に関わる獣医師がともに購入してくれることが期待できるし,よいアイデアであるにちがいない。
 だが,目次をみると,第1部と第2部の2部構成になっており,第1部はPrinciples of Laboratory Animal Medicine,第2部はLaboratory Animalsと書かれている。実験動物だけ? エキゾチックアニマルはどうしたの? という疑問が生じた。
 そこで,内容を細かに読んでみたところ,第1部は総論,第2部は各論で,第2部の各論に取り上げられている動物は,掲載順にいうと,鳥類,爬虫類,両生類および魚類,ラットとマウス,ウサギ,モルモット,フェレット,スナネズミとハムスター,その他の種〔ハリネズミ,フクロモモンガ,チンチラ,ウッドチャック,アルマジロ,産業動物(豚,牛,羊,山羊,馬),オポッサム,コウモリ,無脊椎動物,犬と猫〕,そしてさらに霊長類,野生動物と,多岐にわたっている。そして,これらの様々な動物の各項目で,モデル動物としての意義についても述べられている。
 こうしたことからみると,本書は,基本的には,実験用の動物に関する書物であると思う。ただし,一般的な実験動物の書物とは異なり,多種多様な動物を対象としているのが特徴である。実験動物関連の書物のなかで独自性をだしているともいえ,様々なモデル動物を求めている研究者に役に立つように思う。
 そして,多様な動物種を扱った結果,この書物は,エキゾチックペットとして飼育される動物を網羅している。上記の各種ないし各グループの動物について,解剖学的,生理学的な特徴や行動上の特性,診療手技,疾病等について解説されているため,エキゾチックアニマルの診療に際しても有用である。
 写真が多用されていてわかりやすいという点も評価できる。その一方,それほど詳細には書かれていないため,たとえばウサギの診療について,フェレットの診療について,よく知りたいというようなときには,内容に不満を感じることもあろう。しかし,ある特定の動物種について極めるというより,多くの動物を診療したい獣医師の先生にはお奨めできる1冊である。
 また,巻末にある用語解説も,簡単ではあるけれども,なかなかよい。ちょっとした辞書の代わりになるかもしれない。
 本書は,基本的には実験用の動物に関する書物だと述べたが,エキゾチックペットの診療を行う獣医師,そしてさらに,野生動物の飼育管理と診療手技についてもよく書かれているので,野生動物の救護などに関わる方にも役立つと思う(結局は,色々な領域の人に販売したいという出版社あるいは著者の販売戦略に乗ってしまったかな)。

「獣医畜産新報」2016年3月号 掲載

C. Wayne McIlwraith, David D. Frisbie, Christopher E. Kawcak, René van Weeren

『Joint Disease in the Horse, 2/E』

2015年・Elsevier発行・¥25,142(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

 この本は馬の関節病の病態生物学的最新情報とその臨床応用法(とくに治療法)を馬の臨床家に向けて書いたものの第2版である。第1版は1996年に出版されているので,この新版にはその後19年間の進歩と変化が加えられている。旧版と同様,新版も馬の関節病の主流である発育性関節疾患および外傷性関節疾患の記述が中心であるが,これらに関する再定義や特定の病態生物学的・生体力学的メディエーターを目標とした新しい治療法も記載されている。また旧版では人や実験動物の理論を馬に外挿したところも随所にあったが,新版では馬自体のエビデンスを主体にした内容になっている。
 章の構成内容も大きく変えられた。第1章は関節病の一般原理と関節の生理機能を扱っている。関節の解剖,生理,生体力学を基にして外傷性関節炎から,さらに離断性骨軟骨症,感染性関節炎まで要領よく記載されている。第2章は診断と治療の一般原理となっているが,その内容は画像診断および関節液と血清中のバイオマーカー診断の総説である。ここでの治療というのは治療経過や治療に対する反応の診断評価のことを指している。第2章の末尾には馬の全関節のX線解剖参照像が付録として44頁のスペースを取って掲載されているが,これらはX線や画像を扱った他書に譲ってもよかったかもしれない。第3章では外傷性関節炎および骨関節炎の薬物別の治療法とその効果に関する最新の馬のエビデンスが中心的に記載されている。旧版の薬物中心の薬理学的記述が,新版では現存する製品を重視した内容になり,実務家には有難いだろう。しかし馬用に製品化されていない薬物の情報は省略されていて日本で製品が入手できない場合はお手上げになることもあり得る。新版でこの章に付け加えられたものは生物学的治療法および幹細胞を用いた治療である。さらに人でも盛んに宣伝されている関節疾患に対する経口サプリメントについても付け加えられている。その他,リハビリと理学療法もこの章に詳細な記述として収められている。第4章は新しく加えられた馬の関節疾患の各論の章で,関節ごとに解剖学的特徴,臨床診断法,あらゆる種類の画像診断法とその画像,治療法が詳細に記載されており,図像も多用されていて極めて理解しやすい。最後の第5章は付録的な章で,馬の関節病の現在と未来の研究方向について書かれており,早期診断,関節軟骨の修復,運動による関節外傷などが略記されている。
 この本は競走馬や競技馬を多く診る馬の臨床家にとって,これ1冊で馬の関節疾患の最新知識と情報が得られ,関節病を診れて・語れる獣医師になる有難い1冊でもある。

「獣医畜産新報」2016年3月号 掲載

Brian Speer

『Current Therapy in Avian Medicine and Surgery』

2015年・Elsevier発行・¥21,384(税込)

評者 日本大学教授 / よこはま動物園ズーラシア園長 村田浩一

 タイトルに冠せられた”Current Therapy”の2語が示すとおり,鳥類医学分野の最新情報が掲載された書である。これまでに出版された多くの鳥類医学書のつもりで手に取ると戸惑うかもしれない。実際,私は各項目を読み進めるにつれ「おや?」とか「あれ?」とか感じた。鳥の診療に必要な一般的情報の多くが欠けていたからである。反対に初めて目にする病名や病原体名や治療名が少なくなかった。勉強不足を露呈するようで恥ずかしいが,若い動物園獣医師の幾人かにそれらの名称を問い合わせても同様であったので,大勢は変わらないだろうと勝手に安堵している。
 本書の緒言には,常に新しい鳥類医学の情報を提供していきたいという編者の意気込みが書かれているので,今後,シリーズ本として数年毎もしくは毎年出版されるのかもしれない。最初に出版計画が立てられたのは2013年1月だから,すでに3年分の新たな知見が蓄積されているに違いないと思う。
 この大著を開いてまず驚いたのは,全908頁に挿入された多数の写真や図表がフルカラーであることだ。比較する意味はあまりないだろうが,40年以上前に使っていた獣医学の教科書とは隔世の感がある。本書は,4章と3つの別表で構成されている。各章は,1. 鳥類医学の発展,2. 麻酔・鎮痛・外科手術の発展,3. 動物福祉・保全・飼育管理の発展そして4. 地域別観点からの鳥類医学から構成され,章全体には25の項目(節)が含まれている。その概要を以下に記すと,1) 鳥類医学の歴史,2) 感染症,3) 腫瘍性疾患,4) 栄養学と栄養学的治療の発展,5) 行動,6) 心臓病学,7, 8) 下部臓器と胸部臓器の治療的特徴,9) 神経学と神経解剖学,10) 内分泌学,11) 免疫学,12) 繁殖学,13) 臨床病理学と診断医学,14) 画像診断学,15) 鶏病学,16) 走鳥類の医学,17) 救命救急診療,18) 毒物学,19) 麻酔,20) 疼痛管理,21) 外科手術,22) 鳥類の動物福祉,23) 鳥類の保全,24) 危機管理,25) 地域別による鳥類医学など多岐にわたる。 別表は,一般的薬剤リストと容量,臨床病理学的データ,生理値である。この項目名を眺めるだけでも,本書の新規性が理解できるであろう。
 本書を執筆したのは優に80名を超える。知っている名前も散見されるが,ほとんどが新進気鋭の研究者や臨床家のようだ。いつも感じることだが,欧米先進国における鳥類医学や野生動物医学の発展に追いつくのは容易なことではない。せめて,このような最新図書を読んで遅れないようにしておきたい。

「獣医畜産新報」2016年3月号 掲載

Susan Little

『August's Consultations in Feline Internal Medicine, Volume 7』

2015年・Elsevier発行・¥21,902(税込)

評者 JSFM(ねこ医学会)会長 石田卓夫

 これまでJohn R. Augustの編集によるシリーズとしてほぼ3年毎に1巻ずつ追加され,6巻まででほぼ完成をみていた猫の内科学全書ともいえるシリーズ刊行本であるが,今回からはAAFP(米国猫臨床医協会)会長のSusan Littleの編集による,全く新しい本ともいえるものに発展した。これまでのシリーズは1冊で完結するものではなく,前々からの知識の積み重ねで学ぶようになっていたが,今回はこれまでの多くの記述を新たにリセットして,これ1冊でも猫の内科学全書として通用するような充実した内容になっている。そのため頁数は圧倒的に増え,ハードカバー1061頁の堂々たる単行本に仕上がっている。編集の手法はこれまで通り,系統別セクション毎に,その分野全体に精通したセクションエディターを置き,その中の個々の項目を比較的若い専門家を中心に執筆させている。
 今回は,感染症,消化器病,内分泌/代謝性疾患,皮膚病,心臓病/呼吸器病,泌尿器疾患,腫瘍,栄養,ポピュレーションメディスン,救急医療,行動治療,小児科疾患/老齢疾患という猫の内科学を十分網羅する12のセクションに分け,それぞれの中で興味深い平均7~8項目について記載があり,合計103の項目からなっている。ただしこれらの項目は最新の記述が必要な項目であり,昔からあまり変わっていない項目については本書では触れられていない。したがって,本書で一から猫の内科学を勉強するというものでもなく,これまでの猫の内科学に関する基本的な知識は必要である。そのような意味では,猫の内科学を一から網羅した本として,同じSusan Littleの編集による 『The Cat』(Elsevier,2012) を手元に置いておくとよい。したがって,『The Cat』の内容を基本に,最新のアップデートを記述したのが本書であると理解すればよい。
 本書に書かれた数々の興味深い新知見を拾ってみると,複数の病態に対する幹細胞移植療法,インスリン休薬に持ち込める糖尿病,インスリン抵抗性および不安定な糖尿病,甲状腺機能亢進症と慢性腎臓病の併行治療,甲状腺機能亢進症の再発,内臓疾患と皮膚病,猫におけるシクロスポリンの使用法,心臓関連の血液検査の解釈,心臓病と栄養管理,大動脈血栓症の治療と予防,猫の軟部組織肉腫,プラズマ細胞腫瘍,猫の栄養における炭水化物,クリティカルケアーにおける栄養,シェルターにおける感染症の予防,凝固亢進状態の診断と治療,血液製剤の選択と使用法,猫のCPRに関するエビデンス,線維性胸膜炎,多頭飼育家庭における猫同士の調和を作る方法,老齢猫の筋肉減少と体重減少,老齢期の免疫低下への対処,心臓と腎臓の問題の同時発生,猫の認知症などなど多数ある。

「獣医畜産新報」2016年3月号 掲載

Boel A.Fransson, Philipp D.Mayhew

『Small Animal Laparoscopy and Thoracoscopy』

2015年・Wiley-Blackwell発行・¥19,439(税込)

評者 JASMINE どうぶつ循環器病センター 院長 上地正実

 外科手術は侵襲性が高いため,手術を受ける側の体力,消耗程度が手術成績に大きく影響する。低侵襲手術は手術侵襲を最小限にするため手術を受ける動物の体力の消耗を軽減することができる。獣医学領域において20年以上前から診断ツールとして低侵襲手術が行われており,多くの論文も発表されている。本書は,低侵襲術の基本となるテクニックを詳細にまた多くの写真を交えて解説している。セクションIでは腹腔鏡のスキルアップのためのトレーニング方法が詳しく解説されている。特にモニターを見ながらの鉗子操作や鋏の使用方法や縫合の練習法については写真を参考にしてイメージを作りやすくなっている。初めて腹腔鏡に触れる獣医師にとっては大変参考になる記述となっている。セクションⅡでは低侵襲手術に必要な器具機材が解説されており,切開,ポートの作成,剥離,切除,結紮,縫合などの手術に必要な一連の操作に適した器具が紹介されている。
 腹腔鏡手術についてはセクションⅢとⅣで紹介されている。腹腔鏡では気腹して腹腔内を見やすくする必要があり,その方法と注意点が記述されている。腹腔鏡のモニターの配置や術者の立ち位置についても図解されている。機材の使用法の注意点については特に細かく記載されており,大変参考となる。疾患別の腹腔鏡手術の解説は,消化管の検査・診断,消化管切除術,栄養チューブの設置,脾臓切除術,胆嚢切除術,副腎切除術,膵臓の手術,腎臓生検,腎切開術,腎摘出術,膀胱結石摘出術,卵巣子宮摘出術,腹腔内腫瘍診断などが詳細に記述されている。
 胸腔鏡手術についてはセクションⅤとⅥで紹介されている。胸腔鏡の基本的なテクニックについて麻酔から器具の使い方,各胸腔内の疾患別手術法について解説されている。胸腔鏡手術における麻酔では片肺換気が必要になることがあるため,気管内挿管法については目的に応じたサイズや形状の選び方が解説されている。また,片肺換気においては麻酔管理が複雑になると想定されるため,麻酔薬の影響,片肺換気の注意点,モニターの仕方などがわかりやすく記述されている。特に気管チューブの種類と選択法については写真とイラストを多く使用しているので実際に胸腔鏡を行う時に参考となりやすい。実際の手術例の解説では手術部位へのアプローチと合併症の注意点の解説がわかりやすい。実際の症例へ手術を行う場合の器具機材の配置,特にモニターの位置と人員の立ち位置について解説されており,胸腔鏡手術を行う場合のセッティングの重要性が理解できる。疾患別の手術法の解説では,肺バイオプシー,肺葉切除,心膜切除術,心外膜ペースメーカー,右心耳腫瘤切除,乳ビ胸,血管輪,縦隔洞腫瘤,胸腔内腫瘤の低侵襲評価について解説されている。
 本書は腹腔鏡ならびに胸腔鏡を用いた低侵襲手術を始めるにあたって大変参考になり,また,すでにこれらの手術を手がけている獣医師にとっても参考になる1冊である。

「獣医畜産新報」2016年3月号 掲載

Susan Meric Taylor

『Small Animal Clinical Techniques, 2/E』

2015年・Elsevier発行・¥9,843(税込)

評者 清水動物病院 清水邦一・清水宏子

 学会展示場の文永堂出版のブースで,夫婦合作の本『快適な動物診療』のサイン会をしていたら…「ちょっとためになる本があるので,書評をお願いできますか?」と見せていただいたのが,この本です。(わっ,英語だ! 無理でしょ!?)と一瞬思ったのですが,めくってみると見やすいレイアウトに写真やイラストがいっぱいです。
 血液検査や尿道カテーテル導入を行う時の保定のコツ,耳介での血糖値測定法,筋注のポイント,皮下注射の基本,留置針の取れにくいつけ方,耳・目・鼻・歯・肺・気管の検査も出ています。鼻カテーテルのつけ方など,ちょっとしたアイデア,臨床で役立つ手技が豊富に記載されています。本を購入するとネットでさらに勉強ができます。
 私達がなるほど! と感心した1つに,ノミやツメダニの検出に,吸引式の掃除機を使う方法です。吸引ホースの継ぎ目にフィルターをつけて,被毛部分を吸引して検出するという裏技でした。
 皮膚(パンチ)バイオプシーでは,浸潤麻酔法の具体的な手順や生検後の皮膚縫合法が,わかりやすいイラストと写真の組み合わせで説明されています。
 基本的なことはもちろん,関節や神経などほとんどの組織の検査および検査時の保定まで,ていねいに記載されています。エキゾチックアニマルの髄内留置法も含まれていました。
 「この頃の若い先生は,検査や画像診断は得意だけど,肛門腺しぼりは苦手みたい」という飼い主さんの声も聞きます。この本には,爪切りや肛門嚢の圧迫法のコツもわかりやすく出ています。高度なことができても,飼い主さんには理解しにくいことも多いので,誰にでもわかることやできることを,誰にもできないくらいていねいに行うことで,飼い主さんの心をつかめそう! と思いました。

清水宏子先生直筆イラスト

 この本のもう1つの使い方として,図がきれいでわかりやすいので,検査や処置の前に,飼い主さんにこの本で説明して納得してもらいます。説明文は英語ですがシンプルで,飼い主さんも横文字のアカデミックさに「あ,この先生や看護師さん,勉強好きで頼りになりそう?」と思ってくれるいう効果もあります。私達も専門用語の勉強と思って,日頃から英文に触れていると,自己のレベルアップにもつながります。
 待合室の飼い主さんにもよく見える所に立てかけて,獣医師だけでなく看護師さんにも活用していただけると,インターナショナルな空間となり,向上心旺盛の病院の雰囲気になることまちがいなし! の1冊でした。

「獣医畜産新報」2016年2月号 掲載

Grant Maxie

『Jubb, Kennedy & Palmer's Pathology of Domestic Animals: 3-Volume Set, 6/E』

2015年・Elsevier発行・¥63,634(税込)

評者 東京大学 准教授 内田和幸

 『Pathology of Domestic Animals』の第6版が出版された。編集は第5版につづいてカナダGuelph大学のGrant Maxie博士が担当している。本書は世界各国で獣医病理学各論の教科書として愛用されている聖典なので,その改版作業は通常保守的になりがちだが,今回の第6版では大胆かつ画期的な変更がなされている。編集を担当されたGrant Maxie博士は,長くCanadian Veterinary JournalのEditor in Chiefを務めており,時流にあった雑誌あるいは教科書のありかたに深い造詣をお持ちなのだろう。改版を重ねられた名著の場合,「旧版でも間に合うから,今回は購入を見合わせようか」という気持ちが涌くこともある。しかし今回の第6版は是が非でも購読しなければと思わせる内容になっている。
 今回の改訂では,まず冊子のフルカラー化が図られ,図もほとんど差し替えられた。第5版まで,写真はすべて白黒であり古い印象を与えていたが,これが一新されとても新鮮である。さらにその内容は,きわめて先鋭的であり,最新知見や学説が積極的に取り入れられている。聖典にここまで革新的内容を加えてよいのかと感じる部分さえある。しかし今回の改訂では,最新情報を可能な限り取り入れて,冊子体の決定版を作成したいという編集者の強い意志があったのだろう。次の第7版の改訂時には,電子図書になっていてもおかしくないころである。
 本を購入すると,裏表紙に本書のwebsite ID番号が記載されている。本書は第1巻~3巻がそれぞれ分冊として販売されるが,どの巻を購入しても,Website IDは配布される。Websiteでは,本書で使用された図をすべて閲覧することができ,さらに冊子体には引用されなかった文献情報も疾患ごとに整理され掲載されている。このページはPubMedにもリンクしており,すぐに引用文献にアクセスすることが可能である。今後,このWebsiteを利用したサービスで情報量を拡充しながら最新の知見を提供する方向に発展していくと予想される。
 第6版は,これまでの3巻構成を踏襲して,第1巻で骨と関節,骨格筋と腱,神経系,特殊感覚器系および皮膚,第2巻で消化器系,肝臓と胆道系,膵臓,泌尿器系および呼吸器,第3巻で心臓循環器系,造血器系,内分泌系,雌性生殖器および雄性生殖器の疾患を収録している。第6版では第1章として序文にあたるIntroduction to the Diagnostic Processという短い章が加えられた。本章は,編集者のGrant Maxie博士と米国Purdue大学のMargaret Peg Miller博士により執筆されたもので,動物の病気をどのようなアプローチで診断すべきなのかを示してある。今回本章が収録された背景には,この章に記載された内容,すなわち「診断学とは多角的検査により動物個体の疾病を診断する学問である」という非常に当り前でありながら,ともすれば忘れがちな事実を,常に念頭において疾病診断に取り組んでもらいたいという編集者の強い思いがここに込められているのだろう。
 第1巻は,骨と関節,骨格筋と腱の疾患から始まるが,これらの章では,すべての肉眼・組織写真がカラーに差し替えられ,今回の改訂のインパクトを十分感じることができる。冊子では前述のごとく厳選された参考文献が各疾患別に示されているが,この2つの章,すなわち動物の運動器系疾患に関する日本発の研究貢献が少ないように感じられた。神経系や皮膚疾患では,日本発の文献が多くFurther readingとして紹介されているのと対照的である。神経系疾患の章では,まだ白黒写真が他の章に比べると多く,改善の余地がありそうである。一方皮膚の章は,カラー写真化により肉眼病変の臨床感が格段に改善され,最新の学術情報が多く取り入れられている。本巻は冒頭で産業動物の骨病変が多く解説されているため,産業動物中心の教科書のような印象を持たれるかもしれないが,皮膚疾患の部分などは,小動物臨床を専門とする獣医師にも十分読み応えのある内容になっている。
 第2巻は,消化器系,泌尿器系,および呼吸器系という主要臓器の疾病を扱っている。これらは病理各論の中核をなす器官系であり,特に産業動物の感染症関係の内容が充実している。肉眼写真が特にカラー化されたことで,より明確にその特徴をとらえることが可能になったことが大きな特徴であろう。本書は日本獣医病理学専門家協会(JCVP)の資格認定試験における指定図書になっているが,本シリーズの3巻を一度に揃えるのが難しい場合は,まずこの巻を購入し熟読されることをお薦めする。  第3巻は,その内容の先進性に驚かされる。特に造血器系の章における腫瘍分類の項目にこの傾向が顕著で,胸腺腫やリンパ腫については,人のWHO分類を積極的に参照して,動物における新しい腫瘍分類を提示している。胸腺腫を例にとると,これまで動物腫瘍では用いられていなかったType A,AB,B1-3の分類が組織写真とともに解説されている。リンパ腫分類についても現在の動物腫瘍のWHO分類よりさらに細分化されたものが提示されており,今後,これらの分野の科学論文を作成する際には,本書の分類を引用文献として参照するものが増えるだろう。この点を考慮すると,この第3巻は,獣医病理学を専門とする獣医師のみならず,内科系の臨床獣医師にとっても必携の書となるだろう。
 本書のタイトルに名前が冠されているJubb VF, Kennedy PC, およびPalmer NCの3博士の写真は,本書の冒頭でみることができる。この3名のスナップショットは,オーストラリア・メルボルン大学で1983年に第3版を編集中に撮影されたものらしい。2015年現在で,第6版を手にすることができるのはPalmer博士だけになってしまったが,Jubb博士とKennedy博士が,本書に惜しみなく注いだ精神は,今後も変わらず受け継がれていくだろう。ビジュアルを一新し,多くの最新知見が盛り込まれ,さらにWeb化への道筋を示した第6版の改訂は,本書がもつ長い歴史の中でも大きなターニングポイントになるだろう。装いを新たにした獣医病理学の聖典の重みを,是非実際に手にとって感じていただきたい。

「獣医畜産新報」2016年2月号 掲載

Ilona Rodan, Sarah Heath

『Feline Behavioral Health and Welfare』

2015年・Elsevier発行・¥12,954(税込)

評者 どうぶつ行動クリニック・FAU 代表(現在,米国・Purdue University) 尾形庭子

 行動学関連の専門書は,いまだに十分揃っているとはいい難く,獣医学生や獣医師に適切な情報が広がりにくいという歯がゆい思いがある。猫に関する専門書となるとなおさら不足感が否めない。
 そんななかで手にした本書は,その構成が画期的だ。具体的には次の通りである。
①行動学をベースに理論および現場での応用に言及している。
②20人にわたる執筆者は半数が行動学専門家,残りの半数が猫専門の臨床医(5人),神経学専門医(1人), 麻酔専門医(1人),内科医(1人),および動物の福祉専門家(2人)で構成されており,それに伴って監修者も行動学専門医と猫専門の臨床医の2人である。
③執筆者はアメリカ,ヨーロッパ,オーストラリアと国際色豊かなため,文化や生活様式の違いにとらわれない知識を得ることができる。
 本文の内容を少し紹介すると,猫の移動,診察,保定,入院時の扱いといった具体的なノウハウはもとより猫のストレス,肥満,疼痛,が与える行動上の変化とその対処法などが含まれているのだ。このようなユニークな構成による全8章(以下に列挙)には, 正常な行動から問題となる行動,異常行動まで多岐にわたり, 網羅されている。加えて後半には一般臨床でよく話題になる30項目の飼い主向けハンドアウトも補足されているので,日本語に訳せば日常診療にもすぐに役立つはずだ。行動学と獣医学の融合が随所に述べられている本書は,猫の診察に携わるすべての臨床家の必読書といえるだろう。
1章:はじめに(臨床現場における猫の行動学の重要性と動物の福祉)
2章:猫の正常な行動
3章:問題行動の予防(家庭編)
4章:問題行動の予防(動物病院編)
5章:疾患と行動の変化の関係
6章:問題行動の治療と管理
7章:動物病院で問題となる行動の対処法
8章:家庭で問題となる行動の対処法

「獣医畜産新報」2016年1月号 掲載

Kristin J. Holtgrew-Bohling

『Large Animal Clinical Procedures for Veterinary Technicians, 3/E』

2015年・Elsevier発行・¥9,584(税込)

評者 宮崎大学農学部 教授 大澤健司

 第2版(本誌2011年9月号に書評)から4年が経過した今年,第3版が刊行された。大きな変更点は「栄養」および「画像診断」に関する章が追加された点である(第2版から100頁余り増加している)。特に「栄養」の章では種々の穀類の説明と写真が目を引く。その他,全編を通して写真や図表の追加や入れ替えがなされている箇所がある。特に,著者自身が繁殖に関心が高いと述べている通り,第3章「家畜の繁殖」では図表や説明の追加が目立つ。妊娠牛や雄牛の生殖器の図に目新しさはないが,位置関係の理解を助けるイラストとなっている。また,子宮洗浄や子宮内膜バイオプシーなどの手順に関する記述は獣医繁殖学の専門書にも劣らない内容である。著者は自身が動物看護師(VT)なのだが,先の版よりも一層獣医学の専門領域に踏み込んだ内容が加わった理由の1つは恐らく著者自身が下記の通り,キャリアを積んだためであろうと思われる。
 VT向けに執筆された本書のタイトルに変更はなく,著者も第2版と同じHoltgrew-Bohling氏である。ところが,BS (Bachelor of Science),AAS (Associate of Applied Science:応用科学系準学士),LVT (Licensed Veterinary Technician),RLATG (Registered Laboratory Animal Technologist)とあった第2版での著者の肩書の記載が第3版ではDVMに変わっている。ふたたび第2版に眼をやると,肩書きの下にProfessional Program of Veterinary Medicine Class of 2014(ネブラスカ大学がアイオワ州立大学と連携して獣医師を養成するプログラムの2014年卒業予定クラス)と記載されている。すなわち,Bohling氏はレターサイズ(ほぼA4サイズ)で600頁近くになる第2版を執筆した直後に獣医学部の学生になったのである。そして2014年にDVMを取得し,今度は獣医師のDr. Bohlingとして,本書(第3版)の著者になっている。現在,彼女は大動物と小動物の両方を診療するクリニックを開業し,院長として活躍中である。
 本書はVTとしての,およびVTの教育者としての著者の経験と熱意に裏打ちされた充実した内容となっている。また,獣医師になった著者が実感する,VTの責務の重要性を示した書籍であるとも言える。国内の動物科学,畜産学系の学生や産業動物の現場で働く職業人はもとより,獣医学生および産業動物獣医師にも熟読してもらいたい1冊である。特に日本では獣医学科の学生は平成28年度以降,4年次あるいは5年次の履修時に共用試験を受験することになる。その中でもOSCE(客観的臨床能力試験)は動物のハンドリングをはじめとした基本的なテクニックの習得を要求される試験であり,その準備のためにも本書は良い教科書,参考書となるだろう。

「獣医畜産新報」2016年1月号 掲載

Andrea M. Battaglia / Andrea M. Steele

『Small Animal Emergency and Critical Care for Veterinary Technicians, 3/E』

2015年・Elsevier発行・¥8,158(税込)

評者 日本獣医生命科学大学 教授 左向敏紀

 本書は動物看護師のために,緊急時および救命救急が必要な場合の高度な看護技と看護の実践内容が書かれている。なかでも小動物獣医療チームでアプローチする際の動物看護師の役割が明確に示されている。救命処置に関する各領域に細分化されたプロトコールが書かれており,さらに,詳細な具体例や段階を踏んだ手順が記されている。よって,即実践に対応できる内容にまとめられている。
 この第3版は,フルカラーになっており,写真,図や見出しが大変見やすい。「Technical Tip box」は,図や詳細な手順を一目で理解できる。さらに,「Technician Note」として重要な部分を強調しており,大変理解しやすい。そして,各領域にわたる救急の対応については,最先端の治療ガイドラインとなっている。また,救急場面における飼い主とのコミュニケーションなど新たな内容も加えられている。単元ごとに,事例をもとに考えるページもあり,より実際の場面を想起しながら内容をふりかえることができる工夫がしてある。小動物における救命救急が必要な場合のキー・アセスメントと実行される治療技術を補助する能力を身につける一助となる豊富な情報が1冊に集約されている。
 以下に本書の目次を紹介する。
第1章 重篤な小動物患者に対する技術:①クリティカル・シンキング:観察と解釈(アセスメント)の技術,②救急・負傷患者への基本的なモニタリング:身体検査,心電図監視~電解質,血液ガス検査まで,③患者のライフライン:静脈血管カテーテル,④輸液療法,⑤輸血療法,⑥重症患者への栄養管理:栄養チューブの設置から栄養剤の準備まで,⑦酸素投与技術:酸素の必要性の判断,酸素室,酸素毒性,⑧機械的人工呼吸,⑨疼痛アセスメントと緩和治療,⑩重症または負傷患者への麻酔法,⑪病院内の隔離・感染防止対策
第2章 小動物における救命看護:⑫救急患者の受け入れ,⑬ショック状態の患者への対応,⑭心肺停止状態への対応,⑮外傷への対応,⑯凝固・線溶系障害への対応,⑰循環障害への対応,⑱呼吸障害への対応,⑲急性腹症への対応,⑳代謝・内分泌異常への対応,㉑泌尿器障害への対応,㉒生殖器障害への対応,㉓眼の異常への対応,㉔脳・神経系の異常への対応,㉕中毒への対応,㉖鳥とエキゾチックアニマルへの対応,㉗災害医療
第3章 病院管理:㉘スケジュール管理技術,㉙救急場面におけるコミュニケーション

「獣医畜産新報」2015年12月号 掲載

Derek C. Knottenbelt

『Clinical Equine Oncology』

2015年・Elsevier発行・¥22,032(税込)

評者 東京大学 准教授 内田和幸

 日本の近代獣医学史に馬科学が重要な位置を占めることは良く知られているが,1980年代に教育を受けた自分にその実感はなかった。馬を特別な存在と認識したのは,英国の獣医系大学を視察し,さらに米国で病理研修医として修学した時だった。欧米と日本では,馬と人間の関係は大きく異なる。英米の馬は,基本的に伴侶動物であり,その疾患や治療法の研究も盛んである。本書の筆頭著者であるKnottenbelt教授は,英国グラスゴー大学とリバプール大学に籍をおき,多数の学術論文を執筆されている馬内科学の世界的権威である。英国王室よりOBEを叙勲されたのもこれらの業績が高く評価されたのであろう。
 本書は馬の臨床腫瘍学を,大きく3つのセクションに区分して解説している。第1セクションは,腫瘍学総論であり,9章で構成される。個人的には,本書の白眉はこのセクションと感じた。内容は最新の知見を反映し,獣医学を学ぶすべての人に有用な「動物腫瘍学」の教科書となるものである。加えて本セクションでは,多数のイラスト,表,肉眼および組織写真が使用され,その理解を手助けしてくれる。しかもいずれも実に美しい。特に肉眼写真や組織写真は,その鮮明さや色合いなど,素晴らしいものばかりであり,病理学のカラーアトラスとしての役割も兼ね備えている。第2セクションと第3セクションは,馬の腫瘍学各論に相当し,それぞれ17章,11章で構成される。まず第2セクションでは,腫瘍の病理像が細胞・組織分類ごとに紹介される。ここで特筆すべき点は,馬ザルコイドと黒色腫関連の病変に関する学術情報が極めて豊富であることである。特に馬ザルコイドに関する引用文献量の多さには圧倒される。この章は,馬を専門とする獣医師にも読み応えがあると思う。第3セクションでは,臓器別に腫瘍の肉眼像,診断,治療および予後が簡潔に述べられている。このセクションは実際に腫瘍に罹患した馬に対し,獣医師がいかに対応するべきかを導く,実用書としての価値が高い。
 本を楽曲にたとえると,本書のトーンを決定しているのは,Knottenbelt教授の英国紳士らしいウイットと馬への愛情である。教授のウイットは,イラストのさりげない隠し味として顔をのぞかせており,それに気づくと思わず笑みがこぼれる。本書の冒頭には,アルベール・カミュの言葉とともに,本書は馬,ロバ,ラバに捧げたものである旨のDedicationが配されている。短いながらもその言葉には,馬への愛情があふれている。本書のこのような世界を充実した内容とともに是非手にとって感じていただきたいと思う。

「獣医畜産新報」2015年12月号 掲載

Rose E. Raskin, Denny J. Meyer

『Canine and Feline Cytology: A Color Atlas and Interpretation Guide, 3/E』

2015年・Elsevier発行・¥19,699(税込)

評者 日本獣医病理学専門家協会会員,赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫

 2004年4月に文永堂出版より刊行された翻訳書『カラーアトラス 犬と猫の細胞診』(石田卓夫監訳)の原書が『Canine and Feline Cytology, A Color Atlas and Interpretation Guide』の第1版(2001年刊行)で,その後10年経過して第2版が発行され,その約5年後にはもう第3版が発行されてしまった。体裁は前版を引き継ぎA4に近い大きさで,ハードカバーであるが,さらに厚みを増している。
 第1版は「臨床医が現場で遭遇しやすい病変に限り,初学者をも対象にした内容を目指していた」と序文に書かれていたが,その後,内容は充実していき,第2版では細胞診の写真のみではなく,細胞診をバックアップする様々な証拠を提示し,さらに個々の病気に関する最新の論文が引用されていた。それはこの第3版でもさらに進み,病理組織学的診断との比較,特殊染色,免疫染色による証拠固めの写真を多く使用し,初学者用のアトラスから脱却して,専門家が参考にするような教科書に仕上がっている。
 したがって,この本はもはやアトラスではなく,しっかりと読むための本である。初学者が利用できることは,細胞診はこれだけの裏付けを持って利用されるようになったという安心感だけであり,むしろ病変というものの病態病理に興味がある人向けの本になった。それでは誰のためにこの本は書かれているかといえば,おそらく現在は全米でどんどん数が増えていると思われる臨床病理専門医とそれに向けて勉強中の人々のための参考書なのであろう。臨床医がこの本を利用するとしたら,相当レベルの高い本であることを知っておくべきである。そして,多くの論文を一つ一つ探すよりも,手っ取り早い勉強ができる本として利用したらよいだろう。カラー印刷の質,写真の質は,現在の日本の印刷技術のスタンダードからするといささか時代遅れである。それでも時代を反映して,スマートフォンで顕微鏡写真を撮るということも紹介されているが,器用な日本人は皆すでに知っているだろう。

「獣医畜産新報」2015年11月号 掲載

Francis W. K. Smith, Jr., Larry P. Tilley, Mark Oyama, Meg M. Sleeper

『Manual of Canine and Feline Cardiology, 5/E』

2015年・Elsevier発行・¥17,496(税込)

評者 日本大学 教授 中山智宏

 本書は1985年に初版が発行され,7年ぶりに改訂された第5版である。
 心臓病学に限らず,獣医学は日々発展を遂げている。そのことから,広い臨床分野において,各領域の最新情報を常に取り入れることはなかなか困難である。本書が対象としている主な読者は,臨床家や学生である。その内容は心臓病学の基礎に加えて,臨床的に重要な最新情報をわかりやすく効率的に提供することに重点が置かれている。多くの書籍は版を重ねるごとに内容量が増加していくのが普通である。本書における索引を含めた総ページ数は,第3版が443ページ,そして第4版は455ページであることから,ページ数からするとその内容量はそれほど増加していない。また,本書のサイズは旧版と同じ小型なサイズ(B5判大)であることから,コンパクトに最新情報を提供するという発刊の方針は守られている。
 ページをめくると旧版と比較してより多色刷りとなり,見やすくなった。内容的には,旧版と同様な構成であり,随所に「KEY POINT」という囲いの小項目が設けられ,それぞれの疾患の診断や治療等に対する重要点や勘所が記載されている。このKEY POINTのみを拾い読みしても循環器に対する理解を深めることに役立つ。また,FAQ(よくある質問)が各章の最後に設けられ,専門書としては形式にとらわれない解説がなされている。本書は一見すると第4版と同様に見えるが,両版を比較すると,随所に加筆修正されていることに容易に気が付く。治療薬については,新旧の薬物の入れ替わりがあったり,薬用量が変更されている。新薬については,ある薬は第4版から記述が増えているが,他の薬では減っていたり,場合によっては割愛されていたりする。このように治療薬の解説を読んでいくと,その薬物の臨床的研究の進捗状況や最新知見がわかる。深読みすれば,それぞれの著者の観点から,薬物の実際の使用感が推測出来るようで大変に興味深い。
 旧版にない章としては,診断から「遺伝子診断とバイオマーカー」が独立し,さらに「心臓病の栄養管理」が新しい項目として設けられた。第5版で著者が交代した章は,「猫の心筋症」,「心膜疾患と心臓腫瘍」であり,内容が大幅に変更されている。「先天性心疾患」,「不整脈の治療」,「心肺蘇生」,および「緊急治療」については,著者の一部が変更となった。このことにともなって,文章だけではなく,図表が非常に古いものから新しいものに差し替えられていることは好印象である(特に心エコー図)。
 以上,本書は初版から30年を経ているが,コンパクトであり続けながら,最新の知見を加え,発展を続けている良書と考えられる。

「獣医畜産新報」2015年10月号 掲載

Eric de Madron, Valérie Chetboul, Claudio Bussadori

『Clinical Echocardiography of the Dog and Cat』

2015年・Elsevier発行・¥22,680(税込)

評者 日本獣医生命科学大学 教授 竹村直行

あのDr. Chetboulによる心エコー図検査の解説書が発行!!
 本書は3名のフランス人小動物心臓病学者による合作である。3名のリーダーはあのDr. Chetboulである。彼女は獣医心臓病学者の間では有名な先生のお一人である。私の知る限り,彼女のグループは100を超える研究論文を発表してきており,その大部分は2003~2010年という限られた期間に集中して公開されている。そして,これらの論文の中には,我々にとって基本文献に位置づけられるものが少なくない。
 短期間で大量の論文を執筆・発行することが,彼女達にとって心労になっているのではと思い,数年前にDr. Chetboulにそのことを直接伺ったことがある。彼女の答えは「論文を書くことが楽しくて仕方ない」だった。
 さて,今年になってDr. Chetboulらは『Clinical Echocardiography of the Dog and Cat』という心エコー図検査の解説書を発行した。かねてから彼女の仕事ぶりに興味(というか尊敬の念)を持っていた私は,本書の発行を心から待ち望んでいた。
 本書は5つのパートから構成されている。最初に,正常なエコー図像の描出法,見え方,測定値が解説されている。次のパートでは組織ドプラ法,経食道心エコー図検査,3次元心エコー図検査など新規の検査法が扱われている。パート3では,心室の収縮能および拡張能を中心とする血行動態の評価法が述べられている。パート4および5は様々な後天性および先天性心臓病が解説されている。
 通読して,本書には2つの特徴があることに気づいた。
 第一に,心エコー図検査の学習に不可欠な動画ファイル(ビデオ)が,webサイトで閲覧できることである。その数,なんと91である。無論,読者が納得するまで繰り返し閲覧できる。加えて,約400の写真が約340頁の本書に掲載されており,視覚を通じて理解を深めることができる。
 第二に,心エコー図検査の誤差に言及していることである。これは,パート1の中の独立した章で扱われている。どんなに機械が優れていても,動いている心臓を相手に人間がプローブ(探触子)を操作して,心臓の各部位のサイズや血流速を測定するため,測定値に誤差が含まれるのは当然のことである。しかし,医学領域を含めこれまでに発行されてきた心エコー図検査の解説書で,この誤差の問題が取り上げられたことは全くといって良いほどなかった。本書が誤差の問題を扱ったことは,画期的だと私は思う。
 本書は単なる検査所見の解説に留まらず,随所に血行動態との関連性に言及している。心エコー図検査の学習に役立つばかりか,各種心臓病の病態を深く理解する上でも恰好の書と確信する。

「獣医畜産新報」2015年8月号 掲載

Erik Wisner, Allison Zwingenberger

『Atlas of Small Animal CT and MRI』

2015年・Wiley-Blackwell発行・¥23,327(税込)

評者 帯広畜産大学 教授 山田一孝

 ついに待望のCT,MRIの教科書が出版された。
 米国の放射線科専門医を目指すレジデントにとっても,CT,MRIを導入した開業の先生にとっても,強力な読影の手助けとなる実践書である。
 University of California Davisの教育病院では,CT検査が毎年1000件以上,MRI検査が750件,(X線検査 8000件,超音波検査 6500件)実施されている。その中から著者のWisner先生が15年間にわたり収集した厳選700症例が掲載されており,われわれがCTやMRI検査で遭遇する症例が全てカバーされている。放射線科は表舞台に出ることのない縁の下の力持ちの診療科であるが,UC Davisの放射線科は,他の診療科と連携をとり,画像診断結果の裏付けがとれるシステムが構築されている。何より本書の特筆すべき点は,病理検査や臨床検査によって症例の最終診断が得られている点である。それゆえ,画像の説明にも説得力がある。
 本書には「裏付けのとれた最終診断名」が,図のタイトルとして記載されており,目当ての症例を探しやすい。画像の直下に「CTかMRIか」,「撮像方法」,「造影」,「撮像断面」の情報と,「症例の動物種,年齢,臨床症状」が記載されており,続いて読影所見が述べられている。
 ここでは,私の本書の使い方を紹介したい。まず,自分の症例の鑑別診断リストに挙げた疾患名を,索引で調べる。例えば,「脈絡叢癌」を索引で調べると掲載されているページが見つかる。 脈絡叢癌のページには,典型的な画像と読影所見が記載されている。その前のページに目をやると,脳室に発生する腫瘍に上衣腫が鑑別診断リストに挙がることがわかる。そして,脈絡叢癌は造影効果が均一で,上衣腫は造影効果が不均一との説明に,「あっ,そうだったのか」と納得する。また,脈絡叢癌と脈絡叢乳頭腫は,画像では区別できないことを読むと「あっ,そうだったのか」と再び納得する。さらに前のページの希突起神経膠腫を読むと,腫瘍の発生部位が異なることがわかる。こうして,芋づる式に知識がつながる。
 今年の後期からは,本書を私の研究室のゼミの教材として使用する予定である。本文を一字一句訳すのは気が遠くなるので,付図説明を画像と照らし合わせながら訳していくことにした。画像と付図説明だけの輪読でも,この教科書を1冊読破したときにCTとMRI読影の全体像が見えてくるはずだ。また,読影所見を一度に覚えられなくても,特徴のある症例に遭遇したとき,この教科書に載っていたことを思い出せば,調べることができる。
 最後に,私が留学中にお世話になった著者のWisner先生を紹介したい。Wisner先生は,UC Davisの放射線科,9名の教員,7名のレジデント,9名のテクニシャンの大所帯をまとめる大ボスで,米国獣医放射線学会の会長やVeterinary Radiology and Ultrasound誌の編集委員も務めた経歴がある。華やかな経歴にもかかわらず,人柄は温厚誠実で,放射線科のみならず他の診療科,事務職員も含めて,UC Davisで最も人望の厚い先生と言っても過言ではない。膨大な画像データと裏付けの写真を見てみると,この教科書の出版はWisner先生だからこそできた偉業とつくづく感じている。

「獣医畜産新報」2015年7月号 掲載

Monica M. Tighe, Marg Brown

『Mosby's Comprehensive Review for Veterinary Technicians, 4/E』

2014年・Elsevier発行・¥9,066(税込)

評者 日本獣医生命科学大学 教授 左向敏紀

 本書はVeterinary Technicians がVeterinary Techniciansのために書いた動物看護技術における包括的なレビューである。「Veterinary Technician National Examination(VTNE)」(米国でのVTの国家資格)を合格するための参考書である。米国ではVT向けのコンピュータベーストテストが行われているが,その参考書としても用いられている。
 そのため内容は,犬,猫,そして産業動物,鳥類,爬虫類と実験動物も含めて広範囲となっている。第4版では,新たに,「疼痛管理」の章も含まれている。さらに,さまざまな種の細胞診断学,血液学,診断細菌学と真菌学,尿検査学,寄生生物学で重要な部分は,カラー写真を用いて理解を助けるようになっている。
 Veterinary Techniciansに必要な知識として,基礎および臨床科学,臨床応用,患者動物管理,看護と栄養,麻酔と薬学と専門職の業務,倫理まで,使いやすい概略フォーマットで,概念と手順が簡潔に書かれている。そして,本の最後には数多くの予想問題も付いており,理解度をチェックすることができる。その問題を解き理解するだけでも動物看護能力の向上につながるだろう。  日本における現職の動物看護師には日々の技術の振り返りに,また,日本での動物看護師統一試験を目指す学生にも参考書として,くりかえし読まれるものとなるであろう。
 目次内容は以下の通りである。
解剖と診断法:動物解剖学と生理学,尿検査と血液学,寄生虫学,臨床化学,細胞診断学,診断細菌学と真菌学,X線撮影,画像診断技術
患者動物管理:免疫学とウイルス学,滅菌消毒方法,コンパニオン動物行動学,保定とハンドリング,小動物栄養,産業動物栄養と給餌,遺伝学,繁殖学と新生子管理,実験動物医学,エキゾチックアニマルの医療,人獣共通感染症,獣医学的治療法:薬理学,薬剤の計算,麻酔,疼痛管理,手術の原則,小動物の看護と方法,馬の看護と手術,産業動物の看護・手術・麻酔,救急医療,獣医歯科学
専門家としての管理技術:専門的管理技術の実践と倫理

「獣医畜産新報」2015年6月号 掲載

John S. Mattoon, Thomas G. Nyland

『Small Animal Diagnostic Ultrasound, 3/E』

2014年・Elsevier発行・¥20,736(税込)

評者 麻布大学 講師 茅沼秀樹

 私がこのテキストの第1版を手にしたのはおよそ20年前で,大学院1年生の頃のである。この頃我々が行っていた超音波検査は,5MHzのプローブが主流であり,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,膀胱を観察する程度が一般的であった。消化管,膵臓,副腎については7.5MHzのプローブを使用すれば超音波で見ることができるらしいぐらいの認識で,これらの臓器や器官を検査対象とする感覚は薄かった。しかしながら,この第1版のテキストではすでに7.5MHzのプローブが多用され,犬・猫の心臓,肝臓,腎臓,脾臓,膀胱,消化管,膵臓,甲状腺,副腎の診断法が記載されていた。実験や動物病院の診療補助を行いながら,手が空いている時間はこの本を読み,実験犬で走査の練習をしていた。もう古くなってしまったので,数年前,研究室の引っ越しの際に思い切って処分してしまったが,このテキストは今でも自分の超音波技術と知識の核になっている。
 第2版が出版された頃には,本邦の犬・猫の超音波検査においても,7.5MHzプローブの使用が常識となっており,主要臓器は当然のことながら,消化管,膵臓,甲状腺,副腎の診断も特殊ではなく誰もが描出できるようになった。さらに,第3版が出版された今日では,超音波診断装置の性能向上,送受信方式の改良によって,プローブはさらに高周波数のものが使用されるようになり,高画質化している。見えない部分が見えるようになり,正常像や異常所見が以前と大きく変わった訳ではないが,よりクリアな画像で,より微細な変化を捉えることが可能となっている。
 全てのテキストがそうであるように,本テキストにおいても版を重ねるごとに蓄積された文献や著者の経験から,最新の知見が付け加えられているのは当然のことながら,超音波診断装置の現状に即した,よりクリアで,より詳細な典型画像にアップデートされている。現在入手できる小動物の超音波テキストは数あるが,本テキストはどの超音波テキストよりも,明らかに解説が詳細で実践的である。また,最も新しく発刊されたテキストであることから画像も美しく豊富で,理解しやすい。現在,超音波はいかなる画像診断装置よりも軟部組織の詳細な画像化が可能であり,装置自体の性能向上速度も非常に速いことから,ぜひとも最新のテキストで,最新の知見に触れることをお勧めする。

「獣医畜産新報」2015年5月号 掲載

Etienne Côté

『Clinical Veterinary Advisor: Dogs and Cats, 3/E』

2014年・Elsevier発行・¥15,422(税込)

評者 東京大学 准教授 大野耕一

 日常診療において,さまざまな疾患の診断や治療をコンパクトにまとめた本が1冊あると重宝する。そのような目的で作られた本はこれまでにも複数あるので,正直この本も類似本だろうと思っていた。洋書だしパラパラとめくってみても白黒で地味な印象である。がしかし,この本は凄い本であった。
 この本は大きく6章で構成されている。第1章:Diseases and Disorders(疾患と障害)は1091頁と最もボリュームがあり,さまざまな疾患のみならず多くの臨床徴候を取り上げ,それぞれについてBasic Information(基礎知識),診断,治療,予後と転帰そしてPearls & Considerations(ポイントと注意点)に分けて,コンパクトにまとめてある。とくにポイントの中には,執筆者が大事と思うコメントが箇条書きにされているだけでなく,Technician Tips(看護上のコツ)やClient Education(オーナーへの説明ポイント)までが記載されており,ここだけ眺めていても相当ためになる。また多くの疾患についてはウェブ上でオーナーへの説明用シートが用意されており,疾患についてのカラーの追加イメージも多数ウェブ上にUpされている。なかなかできた本である。でも驚きはこれだけではない。
 これまでの本では,上記の疾患のページに,おまけで薬の用量などを最後にちょいと付けていることが多いのだが,この本はおまけではなく,残りの約500頁で5章がまとめられている。第2章はProcedures and Techniques(手技とテクニック)で,さまざまな診療テクニックが図,写真(ウェブ上でカラーイメージあり)とともに記載されている。第3章はDifferential Diagnosis(鑑別診断)で,症状や検査上のプロブレムに基づいて,鑑別診断リストが見やすい表でずらりと並んでいる。症例のプロブレムリストを作成したら,真っ先に開くページである。第4章はLaboratory Tests(臨床検査)で,さまざまな検査値で,上昇(陽性),下降(陰性)を呈したときの意義,塗抹所見の意義などが並べられている。ここでもそれぞれの検査値でPearls(ポイント)項目が目を引く。第5章はClinical Algorithms(臨床フローチャート)で,さまざまな症状や疾患にどのように対応していけばよいか,フローチャートによってわかりやすく診療の流れが示されている。最後の第6章がDrug Formulary(薬品処方集)であり,犬や猫の使用する可能性のある薬剤の用法,用量そして注意点が表にまとめられている。
 第2章から6章はおまけではなく,それぞれの章だけで独立した本となるだけのクオリティを備えており,すべてはウェブ上でe-bookとしても閲覧できる。どこかのPCの宣伝の謳い文句「これさえあればなにもいらない」という言葉が頭に浮かぶ,まさにALL-in-OneでMust have(絶対持っているべき)なクリニカルアドバイザーである。

「獣医畜産新報」2015年5月号 掲載

Samantha Taylor, Andrea Harvey

『Feline Medicine - Review and Test』

2014年・Elsevier発行・¥8,288(税込)

評者 JSFM(ねこ医学会)会長 石田卓夫

 この本はソフトカバーで白衣のポケットにも入るハンディーなサイズで,しかも内容は豊富なカラー写真やデータもあり,持ち歩いて読むのに楽しそうである。  内容は症例に沿った診断アプローチのテストであり,第1章から9章まで,器官別,カテゴリー別の厳選された症例が示されている。器官別では,皮膚,消化器/肝臓,血液,呼吸器,泌尿器,内分泌,神経系,そしてカテゴリー別には中毒,創傷,その他の疾患というように分けられている。
 各症例では,最初に患者プロフィール,ヒストリーが示され,次に身体検査所見が写真と共に提示される。ここから設問がはじまり,問題点の特定,鑑別診断リスト,イニシャルプランニングという順番で診断に向かってガイドされていく。診断が確定すると,次に治療に関する設問があり,最後に転帰や経過が説明されて1症例が終わる。
 これはまさに欧米の大学病院における臨床教育を紙上で再現したものであり,診断の過程はともすればもたつくようなことはあっても,鑑別診断リストの中から追加検査によって絞り込むといった,決めつけ診断を許さない論理的なアプローチが教えられている。したがって,本書の意図する教育効果とは,POMRに沿ったアプローチを学ぶこと,そして猫の臨床で遭遇するやや難しい症例に触れることができる,といったものであろう。
 内容は難しいと思うが,初心者を導く方法で記述されているため,英語能力さえあればついて行けるだろう。

「獣医畜産新報」2015年5月号 掲載

Deborah Silverstein, Kate Hopper

『Small Animal Critical Care Medicine, 2/E』

2014年・Elsevier発行・¥16,200(税込)

評者 湯木どうぶつ病院 院長 湯木正史

 本書はA4版ハードカバー,2009年の初版からの待望の第2版であり,数少ない集中治療医学の成書の1冊であると言えるであろう。第2版では全体的なアップデートに加えて,新たに全身性炎症性反応症候群(SIRS),多臓器機能障害症候群(MODS),敗血症および敗血症ショック,低侵襲性医療,理学療法,集中治療室における胸部および腹部迅速簡易超音波検査法,ICU設計や管理,コミュニケーションスキルやカウンセリングといった章も追加されている。また,American College of Veterinary Emergency and Critical Care(ACVECC)のプロジェクトの1つである,獣医療における心肺脳蘇生指針Reassessment Campaign on Veterinary Resuscitation(RCOVER)についても加えられている。
 本書の特徴は,臨床現場での獣医師は集中治療時に,早急かつ適切にマニュアルを参照する必要があるが,本書は1152頁とかなりのボリュームでありながら,各23章に非常に簡潔にまとめられており,マニュアルとしても十分に活用できる。  各章にはガイドラインや薬用量などを簡潔にまとめた表をはじめとし,メカニズムを分かりやすく説明した模式図や,X線や超音波検査画像を含めた写真がふんだんに使われており,一目で見て理解できるような集中治療時に相応しい内容となっている。また,各章ごとの冒頭にはKEY POINTSとして簡潔なまとめが掲載されている点も非常に使い勝手がよい。
 また,本書は集中治療医学の専門書でありながら,適切な引用文献が番号を振って豊富に割り付けられている。通常,集中治療医学としての専門書は,マニュアルとして活用されることが多く,じっくり読む機会は少ないと思われる。しかし,時間がある時など興味深い内容の引用文献を調べる際にも,各章末に番号付きで引用文献が列挙されているため,文献の検索が非常にスムーズに行える。集中治療時でのマニュアルでもあり,集中治療医学をじっくり勉強するための成書としても十分である。若手の獣医師は集中治療医学の教科書として,ベテラン獣医師は集中治療医学の確認として,臨床の現場には必ず置いておきたい1冊である。

「獣医畜産新報」2015年4月号 掲載

James S. Gaynor, William W. Muir, III

『Handbook of Veterinary Pain Management, 3/E』

2014年・Elsevier発行・¥9,973(税込)

評者 東京大学 教授 西村亮平

 獣医療において,内・外科を問わずもっとも重要な事項の1つが疼痛管理であることには異論はないだろう。しかし,重要であることが認識されているにもかかわらず,臨床現場で十分・適切な管理が行われているとは言えない状況にある。その理由は,この動物はいったい痛がっているのか具合が悪いのかよく分からないとか,いったい何をどうやってどのくらいの期間投与すればいいのか分からないとか,何度か鎮痛剤を投与したけど効いたかどうかよく分からなかった,などなど“よく分からない”ということが大きいと思う。今回第3版が出版された本書は,このもやもやに十分に答えてくれる完成度の高い教科書である。さらに本書は,痛みの基本についてより深く知りたいと考えている人たちにも十分答えてくれる最新の情報も満載している。
 本書は携帯も可能なコンパクトなものであるが,その内容は驚くほど濃い。全体で28章から成っているが,最初の6章は痛みの基礎的な側面について述べられている。臨床的には,痛みの評価法について,様々な手法が詳しく述べられている章が大いに役立つだろう。一方で,痛みのメカニズムの最新情報がかなり詳細に述べられていたり,ストレスとの関係などについて記述されている章もあり,痛みの研究をやっている人あるいはこれらに興味がある人に貴重な情報を与えてくれる。
 次の11章は疼痛管理に用いられる鎮痛薬あるいは鎮痛補助薬について述べられているが,これも他に類を見ないほど詳細で最新の情報が満載であり,効果,使用法だけでなく副作用やそれに対する対策もわかりやすい。驚くことに薬物動態学および薬物の相互作用についてもそれぞれ1つの章が割かれており,より深い理解に役立っている。この他レーザーや変動電磁場を用いた鎮痛についても書かれた章があり興味深い。
 最後の11章は,鎮痛法の実際について述べられており,ここには鍼や運動療法/リハビリテーションについても触れられている。この部分においても漫然と鎮痛法が書かれているのではなく,いかに理論的により良い鎮痛に導くのかというコンセプトが生かされている。またケーススタディーを多用して読者の理解を深めようという努力がなされているし,犬,猫のみならずウサギ,フェレット,鳥,爬虫類,実験動物の鎮痛についてもそれぞれ章を割いて記載する力の入れようである。最後に多くの薬剤の投与経路や推奨投与量について表にまとめられており,これも大いに役立つだろう。ぜひこの1冊を手元に置いて頂いて,痛みに苦しむ動物たちが1頭でも減ることを願っている。

「獣医畜産新報」2015年4月号 掲載

Edward C. Feldman, Richard W. Nelson, Claudia Reusch, J. Catharine Scott-Moncrieff

『Canine and Feline Endocrinology, 4/E』

2014年・Elsevier発行・¥18,014(税込)

評者 日本獣医生命科学大学 教授 竹村直行

内科学全般の学習にも適した小動物内分泌病学のバイブル
 常に手許に最新版を置いておくべき専門書を我々は尊敬の意を込めてバイブルと呼ぶ。他の領域と同様,獣医学にも数多くのバイブルが存在する。獣医内科学全般ではSJ Ettinger先生の『Textbook of Veterinary Internal Medicine』(現在,第7版)やRW Nelson先生およびCG Couto先生による『Small Animal Internal Medicine』(同じく第5版)は誰しもがバイブルと認めるはずである。そして,小動物内分泌病学のバイブルと言えば,世界中の誰もが本書を思い浮かべるに違いない。
 本書の初版は1987年に発行され,今年に入って第4版が出版された。約30年の歴史をもつ本書の編集方針は一貫しており,それは内分泌疾患を網羅的に解説せず,小動物の医療現場で問題になることが多い。換言すると多発疾患に限定して解説していることである。具体的には,第1章では下垂体疾患のうち,特に水代謝および成長ホルモンの異常が扱われている。第2章は甲状腺疾患(亢進症および低下症)を,第3章は内分泌臓器としての膵臓の疾患(糖尿病とこれに続発するケトアシドーシス,インスリノーマ)を,第4章は副腎疾患(特に亢進症および低下症),そして最後の第5章は上皮小体疾患(亢進症および低下症)を扱っている。このように本書は小動物で頻発している内分泌疾患の理解に最適だと断言できる。本書の愛読者の1人としてもう1つ感じることは,内科学の広い理解にも本書は適しているということだ。例えば,第1章では水代謝が解説されているが,これは輸液療法の基礎になる。第4章ではステロイド剤療法が独立したセクションとして扱われている。そして,第5章ではカルシウム代謝の異常,つまり高カルシウム血症および低カルシウム血症が解説されている。これらは,いずれも臨床獣医師にとっては必須の情報・知識である。
 本書は索引を含めると約650頁という大著なので,読み返しながら読破するのに相当な時間と労力を要すると思われる。以前なら翻訳出版が計画されたであろうが,出版作業に要する時間を考慮すると,情報が古くなる可能性が高い。そろそろ我々獣医師は,翻訳書に頼らずに英語の専門書を読みこなさなければならない時期に来ているのではなかろうか。
 他のバイブルと同様,改訂を重ねるに伴って図表や写真は益々洗練されたものになっている。特に内分泌疾患では,外貌が特徴的な所見を示すことが多く,本書でもこのことを意識して症例の外貌の写真が多く掲載されている。最近,図表や写真はカラーになり,講義用にこれらの図版を利用するためのCD-ROMが添付されるのが当たり前になりつつあるが,本書では今回の改訂でもこの種の対応は施されていなかった。この点を些か残念に思うが,基礎的な整理事項に引き続き,各疾患の病態,診断および治療が丁寧に解説されている素晴らしい解説書であることに変わりはない。無論,愛読者の1人として本書の今後の改訂版の登場を楽しみにしている。

EC Feldman先生

 最後に,添付させて頂いた写真は2008年に開催された日本臨床獣医学フォーラム年次大会で講演するために来日・講演されたEC Feldman先生(中央)との写真である(右が石田卓夫先生,左が筆者)。この大会では,Feldman先生はスライドを使わず,会場を歩き回りながら,ホワイトボードを使いながら講義されていた。自身の講演の合間に私も参加させて頂いたが,この「昔はよくあった」スタイルのセミナーにとても新鮮な印象を持ったことを覚えている。加えて,スライドを駆使した今風のセミナーでは再現できない,心地の良い緊張感をもって参加者は勉強していたことが忘れられない。「素晴らしいテキストを編纂する専門家は良い講義をする。素晴らしい講義をする専門家は良いテキストを出版する」と,かつて私は師匠である本好茂一先生(日本獣医生命科学大学名誉教授)から伺ったことがある。Feldman先生はこのお言葉を見事に証明するお1人なのである。

「獣医畜産新報」2015年3月号 掲載

Derek C. Knottenbelt, Fernando Malalana

『Saunders Equine Formulary, 2nd ed.』

2014年・Elsevier発行・¥11,010(税込)

評者 酪農学園大学 教授 田口 清

 フォーミュラリー(Formulary)とは狭義には医療に使用できる医薬品の採用品目リストのこと,広義には物事を処理する方法のことである。したがって本書は馬臨床医療に必要な諸行(医薬品を含む物事)のリストであり,馬の生体情報や生理値から臨床医療に用いる医薬品および馬診療手技までが含まれている。馬の診療に当たり常に携帯し,参照・確認しながら使うためのハンドブックと考えればよい。この目的を達成するために,縦18.5cm,横12.5cm,厚さ2cm,全493頁のソフトカバーになっていて,片手で柔軟に見開きできて使用しやすい。
 内容は4部構成で,第1部:バイタルサインと正常値,第2部:診断検査法,第3部:馬医療の薬剤インデクス,第4部:診療方法となっていて,後2者が大部を占める。本書の4部構成は第1版(2006年版)と変わりないが,特に第3部:馬医療の薬剤インデクスおよび第2部:診断検査法を中心に書き替えられている。
 第2部の診断検査法では12項の機能検査目的別に合計24の検査が網羅されている。たとえば子馬の免疫状態を評価する項目では,7検査が含まれている。第3部の馬医療の薬剤インデクスは,このフォーミュラリー内の医薬品で,エビデンスを基本とした薬剤選択によって合理的な治療方針を立てる薬剤選択の基準を示しており,新しい薬品が追加されるとともに陳旧のものは削除されている。中枢神経薬,心血管系薬,呼吸器系薬,泌尿器系薬,消化器系薬,ホルモンとステロイド/NSAIDS,抗菌薬,凝固系薬,ワクチンの章に区分され,その他には局所麻酔薬,点眼薬,皮膚薬,関節薬,解毒剤・抗毒素剤なども追加されている。第4部:診療方法には鎮静法,年齢鑑定法から心電図や様々な部位の穿刺法など16章が図とともに記載されていて,馬の診療頻度が少ない獣医師にはとくに役立つだろう。
 フォーミュラリーの策定には,医学文献,各種臨床データ,診療ガイドライン,経済性(薬剤費,治療費)などが考慮されていることを考え合わせれば,馬医療に特異的なファンダメンタルな情報をコンパクトに手元に置いて利用できるパフォーマンスの高い診療ツールということもできる。あなたの診療鞄内や診療車のダッシュボードにあって使い込めば,その場で必要な情報をスマホよりはるかに得られることは間違いない。馬になじみの少ない獣医師には絶対にお薦め。馬診療に多く関わっていて第1版をお持ちの方も,検査と薬品のところが新しくなった新版を是非どうぞ。

「獣医畜産新報」2015年2月号 掲載

Alexander de Lahunta, Eric N.Glass, Marc Kent

『Veterinary Neuroanatomy and Clinical Neurology 4th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥19,829(税込)

評者 日本獣医生命科学大学 准教授 長谷川大輔

 我々獣医師が,それが基礎であれ臨床であれ,解剖学者であれ病理医であれ,生理学者であれ薬理学者であれ,内科医であれ外科医であれ,大動物であれ小動物であれ,ことに神経病学を専門的に学ぼうと思う者は必ず読まなくてはならない,あるいは必ず読む機会が訪れる“聖典”が本書,de Lahuntaの『Veterinary Neuranatomy and Clinical Neurology』(VNCN)である。一昨年,小生は本書の姉妹本,あるいはコンパクト版とも言うべきThomson & Hahnの『Veterinary Neuroanatomy: A Clinical Approach』を本誌のこの書評欄で紹介した。そして今年,ついにその真打ち・完全版であるVNCNの第4版が出版された。同第3版が出版されたのが2009年であり,およそ5年ぶりの改訂である。おそらく現在小生を含めた獣医神経科医の多くは1983年に出版された第2版が最も印象深いのではないかと思われるが,第2版と第3版の間は25年以上も経過していることから,今回はかなり短期間での改訂である。実は最も改訂がなされたのはこの第2版から第3版での出来事で,第2版で勉強された方は,第3版および本書第4版の変容ぶりに大いに驚くであろう。
 まずは第何版かに関わらずVNCN自体の特徴を述べよう。前述したように,獣医領域における神経病学の聖典であり,小生も神経病学の学術的基礎は本書から学んだ。米国Cornell大獣医解剖学の(元)教授であり,動物の神経病の開祖といっても過言ではないde Lahunta先生の緻密で奥深い神経機能解剖に関する記述は,他の代表的な獣医神経病の成書とも一線を画す。多くの獣医神経病学の成書は臨床徴候や疾患別に,すなわち臨床医が調べやすい,読みやすい様な実用書になっているのに対し,本書では章立てや見出しが機能解剖学的分類によってなされ,何より先に解剖と生理学の解説から入り,最後に臨床に結びつけた記述,すなわち真の教科書になっている。この構成からもde Lahunta先生の生真面目さというか,「解剖・生理をしっかりと理解した後に臨床へ向かいなさい」というメッセージが感じられる。したがって,小生が勉強した第2版は臨床医にとって非常に難しいものであった(また実践臨床的な記載も少なかった)。これが第3版からは共著者として臨床神経専門医のDr. Glass,そして第4版からは同じく臨床のGeorgia大Dr. Kentが加わり,さらにはインターネットを介した臨床例の動画集(本書ではなんと380本!)がリンクされるようになり,従来の解剖・生理から臨床の流れは残しつつも,臨床医が十分に納得できる仕上がりになっている。
 小生が思うに,本当にこれから神経病を始めようという全くの初学者が,いきなり本書で勉強し始めることはそれほど推奨しない。そうするためにはかなりの根性が必要であることを肝に銘じておかなければならない(普通の人間は挫折するに違いない)。もしかすると,多くの獣医師が「神経病は難しい」と思ってしまっているのは,この超ド級の聖典が鎮座しているからなのかも知れない。それでもやはり聖典は聖典であり,獣医神経病の基礎は本書にある。神経病の神髄に至るには必読の1冊である。

「獣医畜産新報」2015年2月号 掲載

Margi Sirois

『Laboratory Procedures for Veterinary Technicians 6th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥10,362(税込)

評者 日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)会長 石田卓夫

 本書はA4版ソフトカバー,全篇カラーの,テクニシャン(動物看護師)向けの検査マニュアルである。すなわち,病院内検査室で行われるすべての検査につき,材料の扱い,検査の意味,理論,そして検査手技が,豊富な写真と共に記述されている。書かれている内容は深く,人医領域の臨床検査技師のための技術書にも匹敵する内容と思われ,わが国の動物看護師養成校ではここまでは教えていない。第6版まで版を重ねているだけあり,血球計算盤のような古い記述もあるが,新しい機械や手技に関する記述も加えられている。
 手技の記載は,検査室の安全管理や機器,計算(米国人はメートル法に疎いため科学で使用されるメートル法の記述もある)から始まり,血液検査,血液凝固系検査,免疫学的検査(外注検査を含む),尿検査,血液化学検査,微生物検査,寄生虫検査,細胞診にまで及ぶ。骨髄検査や細菌培養,抗生物質感受性試験まで書かれているので,このような手技をマスターしたテクニシャンが病院にいれば,本当に楽だろうと思う。米国の一次診療病院ではここまでの院内検査は普通行わないと思うが,二次診療病院の検査室に勤務できるテクニシャンを育てるだけの内容がこの本に織り込まれているのだと思う。
 各章には,勉強の目標が書かれており,そして章の最後に理解度を確かめるための試験問題が多数含まれている。わが国には検査だけでこれだけの内容を集めた看護師用の本は存在しない。それは,現状の国家資格に向けたカリキュラムの中では,検査がこれほどは重視されていないためであろう。今後,わが国でのニーズにあわせてカリキュラムを充実させ,このような本を日本の実情にあわせて翻訳するか,あるいは参考にしてオリジナルの検査技術書を作る必要があるだろう。

「獣医畜産新報」2014年10月号 掲載

Kim A. Sprayberry, N. Edward Robinson

『Robinson's Current Therapy in Equine Medicine, 7th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥23,458(税込)

評者 帯広畜産大学 教授 南保泰雄

 日本では戦後馬の生産頭数の激減に伴い,馬の教育および研究の場が減少してきたが,サラブレッドに関しては生産頭数が世界第5番目のいわばサラブレッド生産大国とも言える。北海道の馬生産地や,本州の競走馬トレーニングセンター周辺,さらには全国の乗馬クラブ,等を対象とする馬獣医師の重要性は依然として高い。これら馬の使役目的や飼養場所が変わると,馬臨床獣医師が直面する病気や診療の種類も千差万別となり,対処方法も多種多様である。馬の繁殖等に関する臨床業務や,若馬の消化管疾患,呼吸器疾患等を身近に経験する環境もあれば,競走馬を対象とした独特のスポーツ医学,整形外科学,呼吸循環器病学等の幅広い知識が獣医師に要求されることもある。さらに,慢性的な病気に見舞われた愛馬の疼痛をコントロールし,最善の福祉を重視した治療の必要性もあろう。
 1983年に初版が発刊され,今回で7回目の改定版となる本書は,馬の臨床家,研究者からなる200名近くの分担共著者が,日ごろの馬臨床現場で遭遇する種々の症状や疾患等について専門家の立場から診断,治療および対処方法をわかりやすく紹介した馬臨床学の総合書である。過去5年以内の最新の報告や知見,情報を含め,病気の診断・治療について全18章,212項目に分類して紹介している。馬の代表的な疾患である外傷,上部下部気道疾患,跛行,疝痛は元より,疼痛管理や鞍の選び方,病院におけるバイオセキュリティなど臨床現場に付随した重要となる項目が平素な単語を用いて具体的に説明されている,馬臨床獣医師必見の実用的臨床テキストといって過言ではない。付録頁には,薬物の投与量,投与方法が一目でわかる一覧表が簡潔に記載されているため,忙しい臨床家が短時間に鎮静薬,鎮痛薬,抗菌剤等の投与量を検索したい場合にはたいへん便利である。また,索引には病名のほかに,一般的な臨床症状や器官名も多く記載されており,臨床症状や器官名から病状や診断法を参照,検索できるように工夫されている点もありがたい。各項目では,疾患の原因や症状,診断法,治療法が簡潔に記載されているほか,深く検討したい読者のために参照すべき文献suggested Readingsを紹介することにより,限られた紙面を有効利用しながらも読者に優しい1冊となっている。
 日本の獣医系各大学では,欧米に比肩する新しい獣医学教育体制の構築をめざし,欧米基準に則った馬臨床学の教育方法を確立することが喫緊の課題となっている。本書は,現役の馬臨床獣医師だけでなく,獣医系大学の臨床担当教員や馬に興味を持つ獣医系学生にも大いに推奨される。

「獣医畜産新報」2014年10月号 掲載

C. Wayne McIlwraith, Ian Wright, Alan J. Nixon

『Diagnostic and Surgical Arthroscopy in the Horse 4th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥34,992(税込)

評者 酪農学園大学 教授 田口 清

 本書は馬の内視鏡診断と手術の第4版である。第3版が出版されたのは2005年であるから本書には馬内視鏡手術9年間の進歩と発展が含まれている。むろん変わらない内視鏡手術の基本はそのままに記載されているが,テクニックはより分かりやすく,写真と図は改善され,エビデンスが付加されている。
 章立ては,内視鏡手術機器,内視鏡診断テクニックの総論に続いて,本書の主体である手根関節,球節関節,膝関節,足根関節,肩関節,肘関節,股関節,趾(指)節間関節の関節内視鏡手術の各論になっている。各論では診断のための関節への複数のアプローチ法,各アプローチからの病変別の手術法がすべてカラーの内視鏡像と図版およびX線像で解説されている。さらに各論では腱,滑液嚢などの軟部組織の内視手術,感染性関節と軟部組織の内視鏡,内視鏡による関節軟骨の修復法の章がある。全体のページのおよそ6~7割は写真と図版で占められている。本文は簡潔で読みやすいが,ややフォントサイズが小さく詰まっているので見にくいのが難である。写真と図をふんだんに盛り込み,450頁あまりのそう分厚くない本書に収めるためにはいたしかたないだろう。第4版では新しく内視鏡手術後の管理・補助治療・リハビリが最終章として付け加えられている。その記述はとくに手術後の長期的管理に向けられているが,わずか5頁の情報の羅列なので臨床的評価やエビデンスなどの科学的評価には至っていない。今後,この領域の進展に期待するべきだろう。
 人と同じように,馬の内視鏡医学の目覚ましい進歩は運動器病医療をより非侵襲的なものに大きく変えたばかりか,新しい病変,病態の発見と考え,そして各部位の内視鏡治療が次々と実現し,エビデンスが蓄積され… というふうに進行形であることもよくわかる。人では整形外科疾病の診断は内視鏡よりCTやMRIに移ったが,馬では関節だけでなく軟部組織をも含んだ内視鏡診断・治療の医療革命の時代である。内視鏡による詳細で新しい画像診断が進み,普及してくることは獣医師にとっても馬のオーナーにとってもすばらしいことではあるが,功罪共にあることも,そのオーバーユーズゆえに指摘されている。内視鏡手術適応例を適切に選ぶ診断の重要性,テクニック失宜,医療費の高騰,罹患予防への関心低下問題などもあろう。とはいえ,内視鏡診断・手術は様々な意味において医療をさらにポジティブなものに変えて行くだろう。本書は新しいを超えた進歩を示していて,見て・読んで楽しい。本書購入者はインターネットからアクセスして,内視鏡手術のビデオクリップを閲覧することができる。

「獣医畜産新報」2014年9月号 掲載

R. Eric Miller, Murray E. Fowler

『Fowler's Zoo and Wild Animal Medicine, Vol. 8』

2014年・Elsevier発行・¥21,902(税込)

評者 日本大学生物資源科学部教授 / よこはま動物園ズーラシア園長 村田浩一

 野生動物医学や動物園医学の分野では,よく知られている専門書の新版である。第1版と第5版の翻訳書は,『野生動物の獣医学』(1984年)と『野生動物の医学』(2007年)の邦題で文永堂出版から発行されている。これまで本タイトルの書は,野生動物と動物園動物の医学に関する包括的な内容の版と今日的な獣医学治療のトピック情報を集めた版が,数年毎に交代で出版されてきた。この新刊書は,前者にあたる第8版である。第1版が1978年発刊だから,4年半の間隔でほぼ定期的に刊行されていることになる。しかしこの第8版には,単に定期出版物だけではない特別な意味合いがある。それは,書名にも冠されているDr. Fowlerが編集された,おそらく最後の書であることだ。野生動物医学の権威であった Dr. Murray E. Fowler は,2014年5月18日に惜しくも亡くなられた。彼が残した多くの業績については,すでに学術誌上やネット上などに記されているので省くが,もっとも大きな業績のひとつが本書の出版であり,その名を世界中の野生動物医学関係者に広めるきっかけにもなった。
 このようにDr. Fowlerを知る者にとって特別な1冊であるが,野生動物の獣医学や生物学に関する最新情報を詳細に紹介するという,これまでの方針は踏襲されている。第6版からのカラー印刷も継承されている。序文にも書かれているとおり,野生動物医学の問題は地域や国境を越えたグローバルなものであるため,15か国の動物園や研究機関から執筆者が選ばれている。アジアからは,台北市立動物園の金仕謙園長が選出され,センザンコウ目(Pholidota)の記事を担当している。
 包括的な内容であると冒頭に記したが,本書の項目は動物分類の網(Class)別に分けられている。すなわち,Part Iでは両生網の医学,以下Part II から IVで爬虫網,鳥網,哺乳網の医学,そして最終章のPart Vでは一般的な野生動物医学に関する最新情報が提供されている。各網別の章は,さらに動物分類の目(Order)別に新知見が記載されている。たとえばコウノトリ目の項を例に挙げると,包括的な前書である第5版とは執筆者が異なり,内容も引用文献も大幅に更新されている。とくに最終章では,近年発展が著しい臨床技術やネット情報も含め,診断・治療に役立つ最新情報が紹介されている。日進月歩の野生動物医学に関わる獣医師や研究者は,数年ごとに繰り返される出費が辛いかもしれないが,本シリーズの最新刊を購読して,そこに記されている知見を野生動物保全のための臨床や研究に活かすべきだと思う。

「獣医畜産新報」2014年9月号 掲載

Bradford P. Smith

『Large Animal Internal Medicine 5th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥31,363(税込)

評者 帯広畜産大学教授 猪熊 壽

 本書は米国の大動物内科学テキストとしてあまりにも有名なSmithの『Large Animal Internal Medicine』の最新版である。馬,牛,羊および山羊を対象とした内科学の総論と各論について,総勢200名以上の専門家が執筆しており,そのボリュームと内容の充実さに圧倒される。日本でも先ごろ文永堂出版から『獣医内科学第2版(大動物編)』が出版されたが,ぜひ執筆前にこの第5版に目を通しておきたかった,というのが素直な感想である。
 本書は7部構成になっているが,テキストなので当然ながら臓器別の疾病各論(Part 5)が中心である。しかし,本書の特徴は,総論的な他のPart(1-4および6,7)に表れているように思う。Part2は症状別アプローチについて解説されている。150以上の症状あるいは臨床所見毎に,考えられる病気,いわゆる鑑別診断リストが表としてまとめられており,また本文にはそれぞれに対する説明が記載されている。リストは非常に細かい疾病まで含まれており,臨床獣医師としては正確で見落としの無い診断のために,参考にすべき点が多い。また,Part 3では新生子の疾病と管理,Part 4ではサンプルの採取と検査結果の解釈,Part 6では予防と治療戦略,Part 7は遺伝病と中毒について解説されている。これらのうち,第5版では動物福祉,馬の腹部エコー検査,分子生物学的診断法(DNAやPCRのこと),最新ワクチンプロトコール等,米国においてup-to-dateされた情報が満載である。読破するには骨が折れるが,関心のある部分を抜粋して読むだけでも必ずや得るものがあるだろう。
 もちろん,本書の中心である各論についても900頁以上にわたって病因・症状・診断・治療・予防について細やかに記述されている。また,本文にはその内容を科学的エビデンスとして裏付ける引用文献番号が記載されているが,文献リスト自体は別途webサイトにまとめられ,PubMedにもリンクしている。このため,深く知りたいと思った箇所については,web上で文献を参照にしながら読み進めることもできる。学会発表や症例報告執筆のために本書を読む際には大いに参考にすることができるうれしい配慮である。
 旧版に比べて写真や図が増えており,一部眼科疾患と消化管内視鏡所見にはカラー写真も掲載されてはいるものの,全体的には字が多く(情報量が多く),とっつきにくい感はある。しかし,大動物臨床獣医師としてはぜひ手元において日常診療の参考にしたい1冊である。

「獣医畜産新報」2014年9月号 掲載

Victoria Aspinall

『Clinical Procedures in Veterinary Nursing 3rd ed.』

2014年・Elsevier発行・¥9,325(税込)

評者 小島動物病院アニマルウェルネスセンター院長 小嶋佳彦

 評者は動物病院開業35年また動物看護師(職)の公的な仕事を始めて12年が経過した。わが国の動物看護師に関する書籍を拝見する機会はたくさんあった。そのなかで本書はわが国の動物看護師が知っておくべき知識,またできなければならない技術が確実に記載してある。ただ記載されているなかで,知識として知っていても,わが国の法律上,技術としてできないことがあるのは残念であり,歯がゆく思うのは私一人ではないだろう。
 本書は370頁でイラストと写真が多用され,『よし,コレ読んでみよう』と思わせる数少ない書籍である。14項目で構成されている。まず犬と猫が12項目で,ハンドリング,臨床的パラメータの測定,医学的看護法と看護記録,輸液の投与,栄養管理とサポート,麻酔処置,術前の滅菌と器具,外科看護,緊急疾患への対応,画像診断の検査法,院内の臨床検査,簡単な外科処置が述べられている。そしてエキゾチックアニマル1項目,さらにもう1項目は馬の基本的な臨床的処置となっている。
 2003年に初版が発行されているが,第2版以降,いかに多くのことが変わり何が変わらなかった(変える必要がなかった)かが明記され,改訂ごとに最新情報が記載されている。第3版では,特に麻酔とモニタリングの新しい方法,また獣医外科医が動物看護師の仕事の範疇を安全に広げられるように,動物看護師がチームとして行う幅広い技術を記載している。
 繰り返しになるが,第2版からアップデートされており,ほとんどが新しい写真と図表で,いくつかの方法や既存の方法が現在の動物医療に沿うように記載され,わが国の動物看護学教育のみならず,動物病院という臨床現場でもすぐに使える内容となっている素晴らしい出来栄えの本である。動物看護師はもちろんであるが,動物病院でも1冊は備えておくべき書籍である。平易な文章で,見るとすぐに理解できる写真と図表が魅力となっており臨床現場では大きな戦力となってくれることは間違いない。
 従来の動物看護師の書籍というのは,動物看護学ではなく“ミニ獣医学”的な記載がされているものが散見されるが,本書はまさに現場で働く動物看護師のための臨床を主体とした動物看護学書であり,動物看護学生と獣医師にも勧める書籍である。また翻訳書が出版されることを望む。
 今後の動物病院の運営は,現状よりさらに動物看護師の存在なくして運営はできない。動物看護師の教育(育てる)は動物病院に勤務する以前には,家庭教育と学校教育がある。しかし,社会人になって動物病院に勤務後の教育は動物病院が請け負わなければならないという現状がある。今後,日本の動物看護師が国家資格また公的資格に移行することになろうという,この時期に本書が出たことは本当に素晴らしいことである。
 私自身も本書を当院の動物看護師教育と新卒の獣医師の教育に使用したい。

「獣医畜産新報」2014年6月号 掲載

Siobhan Brid McAuliffe

『Knottenbelt and Pascoe's Color Atlas of Diseases and Disorders of the Horse 2nd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥21,643(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

 本書は馬疾病のカラーアトラスというタイトルになっていて,500頁を超える。アトラスというのはギリシャ神話に登場する巨人で,神々から天を支え続ける罰を受けた。このアトラスが16世紀の地理学者メルカトルの地図帳の表紙に描かれたことから,地図書をアトラスと呼ぶようになり,さらに転じて図版集のことを言うようになった。本書も『馬の疾病を知る』目的地までの道案内の地図書。よって馬疾病理解の入り口から全体的把握までを目的としている「馬本」である。
 アトラス本は図版中心で,文字文書は図の説明だけであることが大部分だが,本書では文章の部分も非常に多いのが特徴である。というよりビジュアルを重要視したテキストブックという位置づけで,各疾病の概要の他に必ず診断・治療法の項目が文章として載っている。たとえば蹄葉炎の項は全4頁ほどで,10枚の写真が配され,文字の部分も多い。喉嚢炎では9枚の写真と半頁の説明で写真が多い,と様々ではあるが。全12章立てになっていて,消化管,肝・脾・膵,呼吸器,心血管系,尿路,代謝・栄養・内分泌,骨関節・筋・皮膚・眼・神経系・生殖器の疾病の順に記載されている。また消化器病に80頁,骨関節疾患に60頁,眼疾患に50頁,生殖器疾患に70頁が割かれていて,バランスもよい。幼駒疾病の章がないのが少し残念である。写真はほとんどが疾病自体の写真で記憶に残りやすく,超音波やX線写真も配されて理解を助ける。
 本書では馬疾病について学ぶとき,その種類と区分の合理性や秩序を作り出して共同的理解に至るためにはアトラス(図版)だけでも,文書記述だけでもダメですよということが含意されている。獣医師,とくに馬を専門に扱う者にとっては下調べとアウトライン理解の書であり,専門的実務のためにはさらに詳細な専門書や文献へと進む必要があるだろう。一方,学生や初学者あるいは馬の飼養管理者にとって馬の病気を科学的・体系的に整理して知るために最適な書となっている。いつでも卓上に置いて,毎日パラパラ見ているだけで馬疾病をみればどのようなものであるかすぐ分かるようになるだろう。疾病が分かるということは健康をよく知るということである。他の領域にもこんな本があったらよいのになあと思う。

「獣医畜産新報」2014年6月号 掲載

Douglas R. Mader and Stephan J. Divers

『Current Therapy in Reptile Medicine and Surgery』

2013年・Elsevier発行・¥19,699(税込)

評者 一般社団法人林屋生命科学研究所 理事・研究所長 深瀬 徹

 本書は,2006年に刊行された『Reptile Medicine and Surgery』の第2版(獣医畜産新報2006年6月号に書評掲載)のcurrent edition,すなわち”現行版“である。
 『Reptile Medicine and Surgery』は,1996年に初版が発行され,このときもすでに500頁を超えていたが,第2版は1242頁にも及ぶ大部の書となっている。飛躍的に発展した爬虫類の獣医学の発展を盛り込んだ成果である。この第2版は,爬虫類の生物学や飼育法,解剖学,生理学,行動学から臨床検査,各種の疾病への対応まで,まさに爬虫類に関する獣医学の集大成といえるものであった。
 ここで,この『Reptile Medicine and Surgery』について改めて述べておきたい。現生の爬虫類はカメ目と有鱗目(トカゲ亜目とヘビ亜目),ワニ目,ムカシトカゲ目の4つの目(order)に分けられている。このなかで診療の対象になるのは主にカメ目と有鱗目であろう。そのため,爬虫類に関する獣医学書は,カメ類,トカゲ類,ヘビ類と分けて記載していることが多い。しかし,この書物では,動物のグループごとの記載を避け,爬虫類を全体としてとらえ,たとえば循環器疾患,皮膚疾患,感染症というように,疾病ごとの記載が中心になっている。しいていえば,哺乳類の獣医学として一括して扱っているようなものである。この点からすると,いささか乱暴な,といえなくもないのだが,爬虫類の獣医学の入門としてはこうした記載が好ましいのかもしれない。『Reptile Medicine and Surgery』は大冊であり,詳細に記載されてはいるが,位置づけは入門書であると私は思っている。
 さて,今回の”現行版“であるが,第2版出版以降の新たな知見を加えたほか,両生類についても詳述され,さらに保護などに関してもページを割き,新知見をもって書き直したというよりも,第2版の”補遺“としての色彩が強くなっている。
 本書は4部からなる。第1部は爬虫類の獣医学,第2部は麻酔法と外科的処置,鎮痛法,第3部は両生類の獣医学,そして,第4部は爬虫類と両生類の生物学と保護,法令,研究について,それぞれ最新の情報を記載している。CT検査やMRI検査,超音波検査,内視鏡を用いての検査や処置など,臨床に直結する内容も多いが,第1部には「爬虫類の進化に関する臨床的側面」という章も設けられていて,基礎の研究者にとっても興味深いものになっている。さらに付録もあり,爬虫類に関する原著論文をいかに評価するかという,少し変わった内容の記事や,爬虫類を宿主とするウイルスの一覧,薬用量,臨床検査値の基準値などが掲載されている。
 この”現行版“,やや高度で難解な部分もあるが,とてもよい書物であると思う。先の第2版とあわせて,爬虫類と両生類の診療に役立てていただきたい。

「獣医畜産新報」2014年5月号 掲載

Kenneth A. Johnson

『Piermattei's Atlas of Surgical Approaches to the Bones and Joints of the Dog and Cat 5th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥16,589(税込)

評者 相川動物医療センター 相川 武

 本書は犬と猫の骨関節外科手術(骨関節外科,脊椎外科)に必要なアプローチ法を網羅した極めて臨床に即したハンドブックである。本書の特徴は,それぞれのアプローチ法について,患者の手術台への固定法,切皮部位を図示し,筋肉の切開,切離部位を骨との位置関係,周囲の血管,神経の走行などの重要な局所解剖を含めた詳細なイラストを用いて,骨関節に到達するまでの過程を段階的に示している。
 本書は1996年にDonald L. Piermatteiが初版を発刊して以来,獣医整形外科の進歩と共に少しずつ改定されてきた。第5版ではDonald L. Piermatteiは退き,2004年の第4版から共著者として加わったKenneth A .Johnsonが著者となった。本のタイトルには『Piermattei’s Atlas of Surgical Approached to the Bone and Joints of the Dog and Cat』と名前が刻まれ,初版の発行以来,第4版まで40年以上にわたり本書籍の内容を発展させてきたPiermatteiへの強い敬意が伺える。Kenneth A .Johnson はとりわけ整形外科分野で高く評価されるACVSおよびECVSの専門医であり,近年はVeterinary Surgery誌と並び,獣医整形外科分野で最も権威のあるジャーナルであるVCOTVeterinary and Comparative Orthopedics and Traumatology)誌の主任査読者を務めている。
 第5版の内容をみると,第4版からの変更点として,第3~6頸椎への側方アプローチ法,腰仙椎椎間板への経腸骨骨切り術による側方アプローチ法,肩関節へ内方アプローチ法,上腕骨内側顆および内側鈎上突起への筋間アプローチ法,膝関節内尾側および内側側副靱帯へのアプローチ法など,近年実施されるようになった新治療法に必要なアプローチについての詳細なイラストが追加された。また,近年一部の整形外科医により開発,推奨されている脛骨,上腕骨,大腿骨の骨幹部骨折に対する最小限侵襲による骨接合法(minimally invasive osteosynthesis of diaphyseal fractures)に使用されるアプローチ法を紹介していて,整形外科医の間で評価の分かれる本手術法が一定のお墨付きを得たとの印象を受ける。さらに猫の上腕骨外側顆,股関節,大腿骨等へのアプローチ法が追加され,猫と犬の局所解剖について,僅かであるが厳密な違いが詳細に説明されている。
 本書は初版から多くの整形外科医に愛用され,本書を持たない獣医整形外科専門医はいないといっても過言ではなく,必須の書籍である。私自身,アプローチ法を再確認する際や若手スタッフの指導の際に頻繁に本書を愛用している。

「獣医畜産新報」2014年4月号 掲載

Bonagura,J.D., Twedt,D.C.

『Kirk's Current Veterinary Therapy XV』

2014年・Elsevier発行・¥19,829(税込)

評者 日本獣医生命科学大学教授 竹村直行

最新版のバイブルで知識の更新を
 その分野に従事する者が絶対に手許に置かねばならない書籍のことを我々はバイブルと呼ぶ。
 私が高校生の頃(昭和54年),近所の動物病院にお邪魔した際に,話し好きの院長先生が「僕らはね,こんな分厚い本を夜中まで必死に読んで勉強しているんだ」とぼろぼろになった本を見せて下さった。それが『Current Veterinary Therapy』 (CVT)の翻訳書である『小動物臨床の実際』だったことを知ったのは,数年後に私が日獣大に入学して直ぐのことだった。
 Dr. Ettingerの『Textbook of Veterinary Internal Medicine』,Dr. Slatterの『Textbook of Small Animal Surgery』とならんで, CVTも伴侶動物医療の世界ではバイブルである。
 2009年に発行されたCVT14から5年ぶりとなる今年になってCVT15が発行された。寄稿者数は約400名である。日本人獣医師にとっては,この中に3名の日本人獣医学者が含まれていることは非常に名誉なことである。
 CVT15はこれまでと同様,クリティカル・ケア,中毒,内分泌・代謝性疾患,腫瘍・血液病,皮膚病,胃腸疾患,呼吸器疾患,心疾患,泌尿器疾患,生殖器疾患,神経疾患,眼科疾患,感染症という13のセクションに分けて記載されている。
 このうち,筆者の目を引いた中毒のセクションでは,一般家庭でよく見られる有毒植物トップ10という章 (chapter 28) があり,それによると,アロイド(サトイモ科)は口腔刺激,カランコエ,シャクナゲ,セイヨウキョウチクトウおよびイチイは心毒性を,ユリおよびブドウ(レーズンを含む)は腎毒性を,そしてイヌサフラン(別名コルチカム),ヒマの種およびサゴ草は重篤な胃腸または肝障害を引き起こすと記載されている。また,別の章 (chapter 29) ではハーブの有害事象が扱われている。
 言うまでもなく,伴侶動物医療は急速に進歩している。小動物臨床獣医師は情報に溺れていると言った方が正確かもしれない。このような状況にあって,その分野のエキスパートが平均して4~5頁で各章を要領よく解説するという,本書の編集方針はこのCVT15でも引き継がれていることは,多忙を極める臨床家にとって有り難いことである。内容が内科疾患に偏っている傾向があるように感じられるが,ベテランであろうがルーキーであろうが,獣医師である以上,本書を常に手許におき,必要な箇所や興味のある章から読み進めることで,正確な知識を効率よく追加・更新するのに格好の書である。ご一読を強くお勧めしたい。

「獣医畜産新報」2014年4月号 掲載

Kenneth W. Hinchckiff, Andris J.Kaneps, Raymind J. Geor

『Equine Sports Medicine & Surgery 2nd ed.』

2014年・Elsevier発行・¥36,806(税込)

評者 帯広畜産大学准教授 佐々木直樹

 日本の馬獣医学は,主にサラブレッド種競走馬を対象として研究および教育が発展してきた歴史を持つ。世界へ目を向ければ,馬の種類はスタンダードブレッドに代表される中間種,ぺルシュロンに代表される重種,ポニーなど多様な馬が競技などに利用されている。本書『Equine Sports Medicine & Surgery』は,馬をアスリートとして普遍的にとらえたストロング・タイトルを持つ。2004年に第1版が発刊されて以降,評者は馬臨床の場面において不明な点はまず本書で調べるようにしている。その理由は,本書の扱う領域の広さのみならず,初学者でも理解できるように記載されていることによる。
 本書は10年ぶりの改訂版であり10のセクション,(1)馬の運動生理学,(2)筋骨格系システム,(3)呼吸器系システム,(4)心血管系システム,(5)代謝と栄養,(6)体液と電解質,(7)血液と免疫,(8)胃腸システム,(9)獣医師マネージメントとプアーパフォーマンス,(10)リハビリテーション,により構成されている。
 この10年間で進歩した病態,診断,治療の内容ついてアップデートされており,全体を通して明瞭なカラー写真と図表が添付されている。また,筋骨格系では骨,筋肉,腱,靭帯,関節に関する生理,画像診断,治療法,手術,運動解析,予防法,神経原性の歩様異常について詳細に記載されている。跛行診断については,これまでに蓄積された運動解析のデータに基づき,歩様検査,屈曲試験について簡潔明瞭な説明が加えられている。さらに,前版で大勢を占めていたX線や超音波の画像に加え,近年主流となっているCTやMRIの画像が多く取り入れられており,各疾患の病態や診断について多角的に解説している。今回,追記された反復するストレスが関節軟骨の下層にある軟骨下骨の病変を誘発し,軟骨損傷に至る学説について,明瞭なイラストを用いて説明している点は興味深い。最後に,獣医学的視点に基づいた乗馬,競技馬の調教方法の記載は,他に類を見ない本書の特徴といえる。
 スポーツホースを扱う競馬関係者,乗馬関係者,大学関係者,学生に対してエビデンスに基づいた生理,解剖,病理,内科,外科ならびに臨床薬理学の知識を与えてくれる一書といえる。本書が馬の福祉に役立つことを祈念する。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

Debra C.Sellon, Maureen T.Longr

『Equine Infectious Diseases 2nd ed.』

2014年・Elsevier発行・¥21,773(税込)

評者 日本中央競馬会競走馬総合研究所栃木支所 分子生物研究室 室長 近藤高志

 世界的に見ると馬は主要な家畜のひとつであるが,日本では,馬の飼養総数は8万頭程度にすぎず,馬の感染症の専門家も数少ない。2007年に出版された第1版を手にしたとき,馬の感染症に特化した成書が600頁もあることにまず驚かされた。第2版では著者が一部変更されているが,全体のボリュームや構成は第1版をほぼ踏襲している。
 本書は6節と付録で構成されている。第1節は,呼吸器,消化管,中枢神経系,生殖器系など部位別の感染症の解説9章と,炎症反応と子馬の敗血症の計11章から構成されている。この節は,臨床獣医師が馬の感染症の知識を得ようする場合に役に立つ項目であろう。第2から第5節は,それぞれウイルス,細菌,真菌,寄生虫(外部寄生虫も含む)の馬感染症の病原体別の各論である。各節の最初の章には,その節の病原体の実験室内診断法に関する記載があり,その後に個別の感染症の章が続いている。主要な感染症では,多くのカラー図版を含む10数頁にもおよぶ詳細な記述がなされている。第6節は,疫学総論,馬の感染症の予防,管理,治療に関する章から成っている。付録には症状別の感染症一覧,診断機関一覧(残念ながら米国のみである),抗菌薬の処方などが記載されている。
 本書には文献リストは掲載されていない。Elsevierが最近発行している他の専門書と同様に,購読者は本書のWEBサイトにアクセスして,本書の文献リストを見ることができる。数え間違えていなければ全部で7,800件近い文献がリストアップされており,それぞれPubMedの文献情報にリンクしている。また本書に掲載されている574ものカラー図版と付録もWEBサイトでみることができる。最近はこのような形式が普通なのであろう。ちなみに前版ではCD-ROMが付録としてついていた。
 本書には,およそ馬の感染症の原因として知られている病原体は網羅されており(もちろん個々の記述量には大きな違いがあるが),獣医系大学の学生だけではなく,研究者や臨床獣医師など,馬の感染症について何か調べようとする全ての者に役に立つであろう1冊である。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

James A. Orsini, Thomas J. Divers

『Equine Emergencies 4th ed. Treatment and Procedures』

2013年・Elsevier発行・¥15,552(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

 馬の救急医療のテキストである。著者によれば"most common"から "not so common"までの馬のエマージェンシー治療を扱ったとする。本書は大きく4つのパートからなっており,900頁に及ぶ大部の書である。パート1は救急処置法と診断で,静脈確保,生検法,酸素療法などからラボ検査・各種画像診断までを含んでいる。パート2では臓器別の救急検査が記載され,本書の中心部分である。このパートでは各臓器の他に妊娠・周産期・新生子期の章の約70頁も含まれている。パート3は毒物学,パート4は救急の特殊問題について書かれている。特殊問題とは,火傷,起立不能,災害時救急,蹄外傷,蹄葉炎,レースホースの救急,胸部損傷などで,その他にも麻酔時,疼痛に関するエマージェンシー,栄養,バイオセキュリティに関する救急管理などの章も設けられ幅広い。このように馬の疾病診断と治療をエマージェンシーという軸で捉えると外科,内科などと異なった新しい馬の専門医療分野とその側面が見えてくる。"救う"とする医療が先にあり,それを体系付けるのが医学で,その逆ではないということ。
 驚くべきことは,この大部の書がほとんど箇条書きによって記載されていることである。さすがエマージェンシーの書である。また扱った疾病や項目ごとに"What to do(すべきこと)"という緑色で目立った項目立てがあり(もちろんこれも箇条書き),さらにエマージェンシーの思考過程と処置を明確にしている。
 当然ながらわかりやすく,美しいカラーの図と写真は満載されており理解を容易にしている。本書に付いているIDコードでインターネットにアクセスでき,そこには本書に掲載されているすべての図表が収められている。またこれらはすべてパワーポイントにもなっているので利用しやすい。残念ながらreferenceは本文中になく,このインターネットサイトに収録されているので,利用にはちょっと面倒である。それにしてもこのような日本では信じられないような馬医療の書を見るたびに,馬とかかわる歴史と文化の違いを感じざるを得ないのは私だけではないだろう。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

David L. Williams

『Ophthalmology of Exotic Pets』

2012年・Wiley-Blackwell発行・¥12,959(税込)

評者 一般社団法人林屋生命科学研究所 理事・研究所長 深瀬 徹

 動物医療における診療科には,内科や外科,眼科,皮膚科など,医療の場合と同様の区分のほか,猫の診療とか,エキゾチックアニマルの診療あるいはウサギの診療,鳥の診療というような分け方も成立する。ただし,この2つの観点からの分け方が併用されることは少ない。たとえば,「猫の病院」はあるし,「(動物の)眼科の病院」もありうるとしても,「猫の眼科の病院」は成り立ちにくい。これは,それだけの社会的な要求(いいかえれば市場)がないからにほかならない。
 ここに紹介する『Ophthalmology of Exotic Pets』は,邦訳すれば『エキゾチックペットの眼科学』ということになろうか。従来,獣医学領域の眼科に関する書物もエキゾチックアニマルの診療に関する書物も,数多くが出版されているが,エキゾチックアニマルに関してここまで細分化された書籍は,本書のほかには,『Skin Diseases of Exotic Pets』(Peterson S,Wiley-Blackwell,2006)〔邦訳『エキゾチックペットの皮膚疾患』(小方宗次 監訳,文永堂出版,2008)〕など,ごくわずかである。だが,こうした書籍が上梓されるということは,エキゾチックアニマルの診療が確固たる地位を占めてきたことを感じさせる。
 さて,本書の内容であるが,比較眼科学の歴史とエキゾチックアニマルの眼科学に関する総論的事項に続いて,その後は動物の種ないしはグループごとの眼の解剖学と生理学,視覚の特性,そしていくつかの疾病に関する臨床的な解説となっている。取り上げられた動物は,掲載順にいうと,ウサギ,モルモット,フェレット,ラットとマウス,その他の哺乳類(ハムスター類,スナネズミ,チンチラ,デグー,ハリネズミ類,霊長類),鳥類,爬虫類,両生類,魚類であり,脊椎動物が広く扱われている。
 だが,この書物を読んでも,それだけでは,エキゾチックアニマルの眼科診療を十分に理解できるまでには至らないように思われる。前もって眼科に関する基礎知識を有する必要がある。本書は,眼科にある程度は精通した獣医師が読者であることを想定しているのではないだろうか。つまり,この書物は,眼科の診療を中心に行っている獣医師がエキゾチックアニマルについても診療の領域を広げたいときには有用であろうが,エキゾチックアニマルの全科診療を行っている獣医師が得意とする領域を眼科にも広げるために読むとすれば,眼科に関する一般的な(つまり犬と猫の眼科学に関する)書物と併読する必要があろう。
 だが,本書には,診療と離れて,もう1つの価値がある。動物の眼や視覚について進化と関連して系統的な理解を得たいとき,本書は優れた参考書になるにちがいない。この意味で,動物の眼の進化について興味深い記述がある『The eyes』(堀内二彦,創英社/三省堂書店)と併せて読まれることをお奨めしたい。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

Jhon Chitty, Aidan Raftetry

『Essentials of Tortoise Medicine and Surgery』

2013年・Wiley-Blackwell発行・¥8,941(税込)

評者 一般社団法人林屋生命科学研究所 理事・研究所長 深瀬 徹

 カメ類は,爬虫綱のなかで1つの目を形成する。その最大の特徴は甲羅を発達させたことであろう。およそ300種があるといわれるカメ類のすべてが甲羅を有している。だが,こうした共通の特徴があるとはいえ,それらの生活の場は様々で,水・陸両方の多岐にわたり,ひとくちにカメといっても色々である。
 さて,こうしたカメ類の呼称だが,日本語ではカメ(亀)といい,例外としてスッポン(鼈)だけは別になっている。スッポンは甲の表面が滑らかなため,他のカメ類とは異なる動物だと思われたにちがいない。一方,英語では,水棲ないし半陸棲のカメ類をturtleといい,その一部の種はterrapinと称し,また,陸棲のカメ類をtortoiseという。日本語でtortoiseに相当する言葉が生まれなかったのは,日本には陸棲のカメが分布していなかったからである。英語でtortoiseといわれるカメ類は,現在,日本語ではリクガメといわれている。
 では,本書『Essentials of Tortoise Medicine Surgery』を紹介したい。書名のとおり,この書物はtortoise,すなわちリクガメ類の臨床に関するものである。内容は2部の構成になっており,第1部は,リクガメ類の生物学や飼育法,診療を行うために必要な準備,血液学的検査や血液生化学的検査,寄生虫の検査などの種々の検体検査のほか,画像診断,麻酔法,その他を簡単に解説している。また,第2部は,各種の疾病への対応についての記載だが,主に症状ごとにまとめられていて,食欲低下,下痢,呼吸の異常,というふうに各項目が続いている。
 これまでにも,カメ類の臨床に関する多くの獣医学書が上梓されている。ただし,ほとんどは,エキゾチックアニマルないしは爬虫類に関する書物のなかでの記載である。カメ類だけを扱った書物もあるが,それらもある特定のグループに限ったものではなかった。これに対して,本書はリクガメ類だけに焦点をあて,その診療に際して必要なことを簡単にまとめている。
 完全な水棲のカメと半陸棲のカメ,陸棲のカメでは,飼育法がまったく異なり,好発する疾病や基本的な診療手技も大きく異なっている。したがって,陸棲のカメの診療を行うにあたっては,それに応じた方法によらなければならない。もちろん,『Medicine and Surgery of Tortoise and Turtles』(McArthur S, Wilkinson R and Meyer J,Wiley-Blackwell,2004)のような大部の書物をみれば,リクガメ類に関しても詳述されているのだが,簡単に済ませたいときには,どうしても簡略に書かれている書物を読みたいと思うものである。とりあえずリクガメ類の診療を行いたいが,あまり詳細な書物は読みたくない,といってカメ類の全体について略述している書物では不十分,リクガメ類だけに限って基礎的な知識を得たい,というようなときに本書が役に立つと思う。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

Jorg Mayer, Thomas M. Donnelly

『Clinical Veterinary Advisor: Birds and Exotic Pets』

2012年・Elsevier発行・¥13,219(税込)

評者 一般社団法人林屋生命科学研究所 理事・研究所長 深瀬 徹

 エキゾチックペットの診療について記した750頁以上に及ぶ大冊である。収載されている動物は,掲載順にあげれば,無脊椎動物,魚類,両生類,爬虫類,鳥類,小型哺乳類〔ラット,モルモット,ハムスター類,スナネズミ,チンチラ,プレーリードッグ(オグロプレーリードッグか?),デグー,ハリネズミ類,フクロモモンガ〕,そしてウサギ,フェレットと,まさにエキゾチックペットといわれる動物をほぼ網羅している。ただ,リス類に関する記載がないが,これはこの動物が海外ではペットとして一般的ではないからだろう。
 内容は6つの部分からなり,第一に,上記の各々の種ないしはグループの動物にみられる各種の疾病が概説されている。疾病によって記載に軽重はあるが,原因から診断,治療,予後など,一般的な事項はおおよそ網羅されているといえる。この部分は,頁数でいえばおよそ500頁,この書物のおよそ2/3を占め,本書の中核をなしている。
 この後は,動物種またはグループごとの検査法や処置法,鑑別診断,臨床検査(検体検査),いくつかの動物種とグループに関して各症状への対応のアルゴリズム(手順),人と動物の感染症と,5つの項が続いている。
 ここで,対応のアルゴリズムの項について簡単に説明しておくと,たとえば小型哺乳類の慢性的な体重の減少というところでは,まず初めに,慢性的な体重の減少がみられた場合の食餌摂取量を減少,増加,不変の3つに分け,続いてその3つのそれぞれに関して所見を分けていく操作をフローチャート様の図で示している。こうして診断に至ることができればよいということだろうが,しかし,実際はそれほど単純ではない。この項は,実際の症例の個々の診断に役立てるというよりは,診療の流れを考えるために活用するのがよいと思う。
 さて,この書物の特徴は箇条書きで記載されていることである。本書は,判型がA4判と大きく,頁数も多く,文字もそれなりに小さいのだが,箇条書きであるために比較的読みやすくなっている。だが,このことは逆に,エキゾチックアニマルの診療を基礎から理解するためには不向きともいえるかもしれない。エキゾチックアニマルの診療について定評のある書物,たとえば『Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery 3rd ed.』(Quesenberry KE and Carpenter JW, Elsevier,2012)などを読み,ある程度の基礎的な知識を得たうえで本書を用いてその知識を整理するのがよいのではないだろうか。
 なお,本書にはそれなりの数の写真が収載されているが,すべてモノクロ印刷なのが残念である。しかし,この大きさの書物の価格を抑えるためには,いたしかたのないところでもあろう。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

Dwight D. Bowman

『Georgis' Parasitology for Veterinarians 10th ed.』

2013年・Elsevier発行・¥14,515(税込)

評者 宮崎大学教授 堀井洋一郎

 『Georgis' Parasitology for Veterinarians』の名前で永く親しまれている本書は,米国の獣医系大学はもとより,世界的にも英語版の寄生虫学教科書のスタンダードとして広く使われており,今回の改訂で第10版となった。北米で流行する寄生虫種を中心に書かれているものの,獣医臨床の主要な対象動物である,犬,猫,馬,豚,反芻動物の他に鶏,実験動物,さらにはエキゾチックアニマルの寄生虫も網羅的にカバーしている。第9版以前でも,白黒の質の高い寄生虫写真や図,組織切片像,あるいは生活環のイラストなどを多数使用し,わかりやすい教科書として定評があった。  今回の改訂で最初に目に付くのは,ふんだんにカラー写真が用いられていることである。改訂にあたり新たに写真を集めたと思われ,写真の質が高く,寄生虫アトラスとしての役割も十分に果たしている。さらに,生活環のイラストがオリジナルの挿絵を使ったカラーバージョンとなっている。これに加え,見だし,小見出しなどが色分けされて整理されており,第9版よりもさらに使いやすく,わかりやすいものとなっている。全体で,548もの図版が挿入されている。
 第10版は,序説,節足動物,原虫,蠕虫,ベクター媒介性疾病,駆虫薬(抗寄生虫薬),寄生虫学的診断,組織病理学的診断の8章全451頁から構成され,第6章の駆虫薬(抗寄生虫薬)には,41頁が割かれている。理解しやすいように汎用される駆虫薬の特徴,機序,使用法が動物別に既述されている。第7,8章の寄生虫学的診断,組織病理学的診断は,虫卵や組織像の写真・図を中心に,診断の参考となる情報が多く盛り込まれている。これまでの定評通り,教育面のみならず臨床家にとっても実用価値の高いものとなっている。
 今回の改訂で,新たに序説が創設され,寄生虫学総論が加わっている。さらに,15頁と短い章ではあるが,ベクター媒介性疾病で1章を設けられ,蠕虫,原虫のみならず,ウイルス,細菌,リケッチアのベクター媒介性疾病が紹介されている。  寄生虫学を体系的に理解する上でも,寄生虫疾患に対峙した際の参考書としても有用な1冊となっている。

「獣医畜産新報」2014年3月号 掲載

Alleice Summers

『Common Diseases of Companion Animals 3rd ed.』

2014年・Elsevier発行・¥8,806(税込)

評者 東京大学名誉教授 長谷川篤彦

 現在,日本においても獣医臨床における看護師の役割が重視されるようになり,その教育や資格に関して種々議論されていると仄聞するが,残念ながらその内容につての情報は得ていない。欧米では依然から各分野で努力がなされ,かなり高度な知識と技術を兼備した人材が養成され,Veterinary Technician (VT)として活躍しているという。その一端を窺わせるのが今般上梓されたVT向けの参考書であるAlleice Summers著の本書である。第3版であることから,恐らく改訂を重ねるほど広く受け入れられているものと思われる。内容は表題の示すように,各種家庭(伴侶)動物の主な疾病についての解説書である。彼女の長年に亘るVT教育に専心した体験の結実であって,疾患の全体像をVTに理解を促し,日常の診療に役立つ重要な問題点が解説されており,また飼い主に助言ないし指導する折に必要な要点などが示されている。
 本書の構成は,はじめに生体の防御系として,疾病に対する生体反応として,自然免疫と獲得免疫に関する簡単な解説が3頁ほどに纏めて述べられている。それに続いて,疾病解説が6編にわたり各種動物ごとに記述されている。すなわち,犬・猫,フェレット・ローデント・ウサギ,鳥,ヘビ・イグアナ・カメ,馬および羊・山羊に分けられている。また,各編にはそれぞれ11章または12章が割かれて主に臓器系毎に疾病が紹介されている。例えば犬・猫での各章は,心血管系,消化器系,内分泌系,眼,血液・免疫疾患,皮膚,筋骨格系,神経系,全身性疾患,生殖器系,呼吸器系,泌尿器系の12章である。そして,本書の約40%であり,犬・猫を専門とする獣医師にとっては常識であっても,VT指導の参考になるものと思われる。また,約60%に及ぶ犬・猫以外の動物についての内容について言えば,VTが知っている以上の知識が獣医師には要求されることになるのは当然である。
 各章の当初には主要用語,概要として目次的な項目,学習目的が示されている。本文中では,随処に注意する点が枠内に示され,また章末には理解度を確認する設問が付されている。図表や写真も適宜挿入されており理解する上で参考になっている。さらに,2頁の文献,そして付録として9頁に及ぶ用語解説が示されており,利用価値が高い。最後に各章の末尾にある設問の答えが表示されている。巻末の索引にも工夫が見られ,有益に活用できると思われる。
 したがって,VTやVTを志す人は無論のこと,VTと共同して診療に当たる獣医師,獣医師や看護師を育成する立場の人々にとっても参考にすべき一書と考えられる。

「獣医畜産新報」2014年2月号 掲載

Amy C. Valenciano, Rick L. Cowell, Theresa E. Rizzi, Ronald D. Tyler

『Atlas of Canine and Feline Peripheral Blood Smears』

2014年・Elsevier発行・¥10,621(税込)

評者 動物病理診断センター代表 田邊美加

 本書は,臨床獣医師が犬猫の血液塗抹を観察する際,顕微鏡の傍らにおいて必要に応じて参照することを念頭に作られたアトラスである。本書を利用するにつれ,その目的を達するために非常に良く考えて作られていると感心する。まず頁をめくって驚くのがその写真の豊富さである。本は片手で持てるB5版ぐらいのサイズであるが,1頁につき最大8枚の写真が載っており,本全体では1000枚以上の写真が掲載されている。その写真のクオリティーはどれも高い。特記すべきは,写真毎の注釈がない。これは臨床現場で日々使うことを考慮しているためと思われる。忙しい現場ではいちいち写真の注釈など読んでいる暇はない。
 本書では大抵見開きで1トピックを扱っており,左頁の最初の部分で詳しいながらも非常に要点を得た説明がなされている。大赤血球症の項目を例に挙げれば,まず大赤血球症を見分けるための特徴が短い一文で定義され,次の段ではどのような診断意義があるかを説明している。さらにこの本でユニークなのが,大赤血球と判断したら次に臨床獣医師がするべきことを解説している。この解説は非常に実践的で臨床現場で重宝されるであろう。このような文字による解説は左頁の上部で終わり,あとは残りの1頁半をフルに利用して関連写真が掲載されている。大赤血球症の項目なら大赤血球の例として10の写真が載っている。これは大赤血球を見慣れない者にとっては非常にありがたい。よくある血液のアトラスで例として挙げられる写真は1枚か多くてもせいぜい数枚程度である。この場合,自分が実際に見ている像が写真と若干違ってみえると確信をもって判断ができない。同じ像であっても多数の異なる細胞の写真をみることでバリエーションの範囲を理解し,経験不足からくる判断の迷いを少なくできる。また,項目によっては,慣れないと判断を迷う像の比較写真が載っており(例えば小リンパ球と有核赤血球など),これもこの本の大きな特徴となっている。
 この本で解説されるトッピックは非常に細かく多岐に渡る。血液の異常所見だけでなく,正常像,血液塗抹を観察するときのポイント,あらゆるアーティファクトも取り上げており,かゆいところに手が届く感じである。血液学を学びはじめの頃にこの本に出合っていればどれほど楽だったかと思い,これからこの本を手にする獣医学生に嫉妬する。
 本は見開きでそのまま置けるリングバインダー式で,頁はめくりやすく,多少濡れてもすぐに拭けば良い素材を採用している。また裏表紙の余白部分が折り返されていて,しおりの代わりになるような工夫もされている。臨床現場で活躍することは間違いない本である。

「獣医畜産新報」2014年2月号 掲載

Richard W. Nelson, C. Guillermo Couto

『Small Animal Internal Medicine, 5th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥28,382(税込)

評者 東京大学名誉教授 長谷川篤彦

 カルフォルニア大学の獣医内科学教授のNelson,R.W.とオハイオの獣医内科学専門医のCouto,C.G.の両先生が監修された小動物の内科学書,第5版が上梓された。この度は5年振りの改訂である。昨今の獣医学,獣医療の進歩を考えると今回の改訂は当然のこととは思われるが,その著者らの努力には敬服する。初版は1992年に『Essentials of Small Animal Internal Medicine』として発刊されたもので,教科書などとして江湖に受け入れられ,版を重ねて今日に至っている。1998年出版の第2版と2003年に刊行された第3版はそれぞれ1999年と2005年に縮刷版が刊行されるほど世界的に流布している。本邦でも筆者らが監訳し第2版,第3版および4版の訳本を2001年,2005年および2011年にそれぞれ出版し,多くの学生および臨床獣医師に利用されてきた。
 今回の改訂第5版は,これまでの編集方針を継承し,各章の編集者として監修者に10人を加えて12人が担当し,1名の執筆者を加えて内容をさらに充実したものになっている。彼らは何れも獣医内科学の専門医で,英米の大学で教鞭を執るなど第一線で活躍している臨床獣医師である。したがって,彼らの臨床経験を加味した最新情報が診療の現場に直ちに応用可能なように配慮され,全面的に再考された記述となっている。しかし,例えばカンジダ症について言及されていないことや,免疫疾患の発現機序としてはGell & Coombsの紹介に止まっており,またFIPなどではサイトカインの関与の記載が欠落しているなど気になる点があるが,これだけの大著であることを考慮すれば致し方ないものと思われる。
 各章には全体的な解説,臨床症状,鑑別診断,検査(選択,手法,解釈),一般的な治療方針,特異的疾患,さらに推奨薬剤の表が示されている。多数の臨床写真が随所に挿入され,樹状図がそれぞれの章にみられる。また前版同様,各章の関連性にも配慮され,要約の表および鑑別診断が治療などの項目に直結するように工夫されている。参考図書や参考文献も付記されているが,この参考文献の掲載はネット社会の今日においてきわめて活用に値するものである。末尾の索引は利用者にとっての便宜が図られ,33頁にも及んでいる。
 本第5版を通覧して感じることは,学生の教科書として,また多忙な臨床獣医師にとっては欠かせない参考書であることから,学生は勿論のこと,初心の獣医師はまずこの書物を読みこなす力量を養って頂きたいものである。1人でも多くの獣医師に活用して頂きたい成書であり,推薦されるべき佳書である。

「獣医畜産新報」2014年2月号 掲載

S.J.Langley-Hobbs, J.L.Demetriou, J.F.Ladlow

『Feline Soft Tissue and General Surgery』

2013年・Elsevier発行・¥17,626(税込)

評者 東京大学教授 西村亮平

 最近外科関係の教科書で,小動物の軟部組織外科だけを扱うものが次々と出版されているが,中には腹部だけのものや,腹部をさらに部位ごとに分けたものも含まれている。獣医療の専門化が急速に進んでいる中で当然の流れと言えるが,これらの本には原則犬と猫の両方が含まれている。これまでも猫に特化した教科書は数冊出版されているが,猫の軟部組織外科だけに限ったものは,知る限りでは本書が初めてである。犬と猫の両者を扱う外科の本では,どうしても手術数の多い犬が主体となり,猫に関してはおまけ程度という場合も少なくない。しかし,よく言われるように猫は小さな犬ではない。もちろん基本的なところは共通している部分も多いが,取り扱いや評価法はずいぶん異なるし,解剖や生理も異なる点が数多くある。また,猫に特徴的な疾患の手術もある。さらに最近では猫の飼育頭数の割合が増えてきており,猫で行われる手術数も大幅に増えていくものと思われる。このような状況下で,猫に特化した軟部組織外科の書が出されたのは世の必然と言えるかもしれない。
 本書は2009年に出版された『Feline Orthopedic Surgery and Musculoskeletal Disease』と同じ出版社から出された本で,ヨーロッパテイスト溢れる大変魅力的な1冊である。編者の3人は英国人(英国の機関所属),著者もヨーロッパ人が主体で,これに米国人が加わった陣容となっている。本書を開いてみるとまず目に付くのが,ふんだんに用いられているカラーのイラストや写真である。もちろん術式の写真もたくさんあるのだが(術式を主に写真で説明するのはヨーロッパの本に多いようだ),猫の描画や写真がたくさんある。これが,猫の性格やしぐさをよく捉えたもので,猫好きにはたまらない。とくに描画は秀逸のものが多く,編者や筆者たちの猫への愛情がよく出ている。
 本書は700頁を超える,ボリュームのある1冊で,特殊なものを除いて必要な軟部組織外科手術がほぼ網羅されている(脳外科も含まれているので,特殊なものも含まれていると言ってよいかもしれない。とくに経蝶形骨洞下垂体摘出術まで載っているのには驚いた)。本書は7つの章に分かれ,第1章では周術期管理すなわち術前評価に始まり,麻酔・鎮痛,術後管理,栄養管理,輸血について,第2章では猫への対応法(待合室や入院室のこと扱い方など),画像診断や内視鏡検査,手術に必要な器具,用具,消耗品などについて,3章では腫瘍外科と補助療法について述べられており,それに引き続き4章から7章で皮膚や皮膚付属器官の手術(注射部位肉腫含む),腹部手術(開腹術,内視鏡手術,ヘルニア,消化管,肝臓,内分泌器官,泌尿生殖器の手術),胸部手術(開胸術,内視鏡手術,胸壁,横隔膜,呼吸器,心臓の手術),頭頸部の手術(耳,咽喉頭,甲状腺,鼻,口蓋,上・下顎,眼瞼・眼窩,脳の手術)について詳細に述べられている。これらすべてが猫に特化したものであり,その情報量は驚くべきものがある。ぜひ手元に置いて日々の診療・手術に役立てたい。獣医療にまた1つ新しい幕が上がったという感を強くさせる1冊である。

「獣医畜産新報」2014年2月号 掲載

Christopher Cebra, David E. Anderson, Ahmed Tibary, Robert J. Saun, LaRue W. Johnson

『Llama and Alpaca Care
  Medicine, Surgery, Reproduction, Nutrition, and Herd Health』

2014年・Elsevier発行・¥19,699(税込)

評者 日本大学教授・よこはま動物園ズーラシア園長 村田浩一

 本書は,ラクダ科の動物であるラマとアルパカに関する獣医学書である。どうして,これら南米産の野生動物を対象とした獣医学的専門書が発刊され,その書評が国内の獣医学誌で紹介されるのかと訝しく思われる読者も少なくないと思う。しかし,ラマやアルパカは世界中で家畜として広く利用され,動物園や観光牧場では展示動物として飼育されている。国内の動物園でも,かれらの姿を見ることはそれほど難しくなく,ラマは33動物園に170頭が,アルパカは9動物園に28頭が飼育されている(2012年末現在)。その他にも全国各地のふれあい牧場やアルパカ牧場などで飼育されていているから,その数を合せると優に1,000頭を超えるかもしれない。とくにアルパカはインターネットで検索すればすぐに分るだろうが,子どもたちのみならず大人にも人気の動物になっている。このような現状であるから,いつ何時,ラマやアルパカに関する動物相談が寄せられるかもしれないし,診療を依頼されるかもしれない。実際すでに診療に携わっている開業獣医師や動物園獣医師がいる。そのような訳で,本書が国内で販売されることは全く可笑しくないし,反対に関係者にとってはとても有難いことである。
 最初に獣医学書と記したが,本書の第1章(Part1)では7節(Chapter)にわたり飼育管理方法や保定方法や捕食者への対応策などが解説され,第2章では6節にわたり栄養学に関する解説がなされている。さらに第3章では,繁殖に関する解説が16節にわたり解説され,全頁の35%を占める277頁が充てられている。このことからも,家畜としての本種の重要性が理解できるであろう。第4章から第7章までは,獣医学的健康指針,疾病学,麻酔学そして外科学について解説されている。つまりこの1冊を読めば,ラマとアルパカの飼育や健康管理の全体が十分に把握できるようになっている。しかも,ほとんど全ての図版がカラーであり,各タイトル文字も色分けされ読みやすくレイアウトされている。40年以上前にモノクロの獣医学書で学んだ筆者には隔世の感がある。これまで,牛の医学書を参考にして治療にあたっていた獣医師が本書を読めば,ラマとアルパカの獣医療に対する考え方が大きく変わるかもしれない。
 本書の執筆に関わった獣医師や研究者は53名である。海外における野生動物や動物園動物分野の研究者層の厚みに驚きを感じずにいられない。翻って我が国を眺めると,日本産野生動物の一種に特化して789頁ものボリュームある本書のような獣医学書が出版できる現状ではない。動物園動物や野生動物の医学を,国内でさらに発展させる必要があると,本書を手に取り改めて痛感した。

「獣医畜産新報」2014年2月号 掲載

Bryan Markey, Finola Leonard, Marie Archambault, Ann Cullinane, Dores Maguire

『Clinical Veterinary Microbiology 2nd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥16,459(税込)

評者 東京大学准教授 堀本泰介

 1994年の初版から19年を経て第2版が完成した。全6節69章で構成される901頁に,獣医領域において問題となる重要な感染症の基礎,臨床症状や診断法などが,網羅的かつ詳細にまとめられている。
 第1節(1~6章)は,総論的な内容であり,診断用サンプルの採取方法から,病原体の培養・分離方法,それらの生化学的,血清学的,遺伝学的同定方法について記載される。細菌病原体に対する染色法や培地の選択,同定のための生化学試験などの鮮明な写真資料,診断フローチャート図など大学での獣医微生物・伝染病学の講義や実習,また研究・行政機関での教育にぜひ活用すべきである。さらに,遺伝学的診断法や抗菌薬に関する最新情報は,実際の病性鑑定や治療に携わる獣医師にも高く貢献するであろう。
 細菌感染症に関する第2節(7~36章)では,主に病原細菌種毎の章立てからなる。各章とも,各細菌種の基礎性状や病原性因子についての最新知見から,病原体の同定・診断法の解説という流れで構成されるが,その教科書レベルを超える充実した内容はアドバンス教育や研究者の興味にも対応できる。マイコプラズマ,クラミジア,リケッチア感染症もこの節に含まれる。
 第3節(37~44章)は真菌感染症,第4節(45~67章)はウイルス感染症に関する解説である。真菌の形態学的検査法では豊富な写真や図が理解をサポートし,実際の診断時における利用価値は高いであろう。ウイルスの節では,ウイルス科毎に章立てされそれぞれ獣医領域で問題となる感染症を網羅する。各感染症は,概説から始まり,病原性そして診断法という共通した項目で記載される。一部の感染症ではウイルス学的性状についての踏み込んだ記載も見られるが,あくまで診断法をメインにコンパクトにまとめられており,臨床診断の場のみならず,講義のための教科書的な使用にも最適である。プリオン病もこの節に含まれる。
 第5節(68章)は人獣共通感染症という括りでウイルス,細菌感染症などを非常にわかりやすく表にまとめてある。また,原虫感染症についての附表もあり,獣医師が扱う広い範囲の人獣共通感染症について俯瞰し,理解することが可能である。第6節(69章)では,感染症を動物(家畜)毎にまとめた表で構成される。全て病変や症状から想定される病原体とその診断法をウイルス,細菌を問わずまとめており,鑑別診断に大いに役立つ内容である。
 以上,本書の構成,特徴をまとめたが,教育の場,臨床・病性鑑定の場,あるいは研究の基礎資料などいろいろなシーンでの活用が予想される。総じて,本書に匹敵する既存の和書は存在せず,英文も平易であるのでぜひとも推薦したい1冊である。

「獣医畜産新報」2014年2月号 掲載

Debra Archer

『Handbook of Equine Emergencies』

2013年・Elsevier発行・¥13,219(税込)

評者 NOSAI日高家畜診療センター所長 樋口 徹

馬の急患・緊急事態のオンライン・ハンドブック
 とても新しい利用方法を提案して出版された本だ。パソコン,タブレット,スマートフォンからインターネット上のこの本独自のウェブサイトへアクセスでき,文章,ノート(注意書き),画像,音声,動画を観たり聞いたりできる。
 馬の診療は急患が多く,なおかつその場で正しく対処しないとその後の経過に差し障りが出ることが少なくない。疝痛も多いし,外傷も多いし,ひどい跛行もあるし,分娩は急を要するし,新生子馬の処置ものんびりはしていられない。この様な馬の臨床の緊急事態において,さらにこの本は眼科,神経症,泌尿器,代謝病,ロバやラバ,医原性のトラブル,感染症,中毒,突然死,安楽死までも含めて,わかりやすく解説し,対処法を記載している。本文は,「臨床症状」「畜主への最初のアドヴァイス」「最初の診断」「最初の治療」「継続治療」「その後の検査と治療」などのようにその疾患や病態に応じた項目について箇条書きされている。A5判で400ページあまりの本であり,馬の緊急事態についてすべてを網羅する内容ではなく,あくまでハンドブックである。150以上のフルカラーの写真や,カラーのイラスト,わかりやすくまとめられた表も載っていて読みやすい。ペーパーバックだが,表紙も本文もしっかりした紙で製本されていて,これなら持ち歩いたり,往診車に積んでおいたり,診療室に置いても傷みに耐えるだろう。
 しかし,この本自体は机や書庫に置いておいても構わない。パソコン,タブレット,スマートフォンから,本文や画像にアクセスでき,さらには動画を観たり,音声を聴くこともできるからだ。この本のウェブサイトには購入者のIDとパスワードを設定するようになっていて,そのために「第○章の最初の段落の●番目の単語は?」を入力しなければならない。このオンラインハンドブックは,いろいろな利用方法があるだろう。遭遇したことがない急患で何が考えられるか調べることもできるし,対処方法で自分に忘れている方法がないか確認することもできる。主な薬の投与量も示されている。畜主に「ほら,この状態と同じでしょう?」と画像を見せることもできるだろう。本ではHow toと題された章があり,ウェブサイトでは「テクニック」とタブが付いた一連の項目になっていて,あまりやったことがない部位の関節穿刺や神経ブロックや腹腔穿刺,胸腔穿刺,さらにはキャストやバンデージの巻き方まで画像や音声で確認することができる。
 「新卒馬獣医師やふだん馬の急患を扱わない獣医師を主な対象としているが,経験豊富な馬臨床家が特定の領域の知識の刷新にも使えるし,学部学生にも役に立つ」とある。獣医師以外の馬関係者にも役立つと思う。

「獣医畜産新報」2014年1月号 掲載

Molly Varga

『Textbook of Rabbit Medicine 2nd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥17,107(税込)

評者 斉藤動物病院・さいとうラビットクリニック院長 斉藤久美子

 本書は2002年に出版されたDr. Frances Harcourt-Brown著の『Textbook of Rabbit Medicine』をDr. Molly Varga が修正しアップデートした第2版である。ちなみに,2002年の第1版は霍野晋吉先生の監訳によって,2008年2月に日本語版が出版されており,日本の多くの臨床獣医師がこの日本語訳を活用して日頃の診療に役立てている。
 本書は第1版から12 年の歳月を経て出版された第2版であり,第1版の内容の骨格に新たな知見や,異なる視点からの考察が加えられ,画期的な新しさを備えている。12年間といえば,臨床獣医学の世界ではかなりの変化があるものであるし,ましてウサギなどエキゾチック動物の領域ではなおさらである。特にウサギの診療に関してはこの12年の歳月の間にもたらされた新たな情報はあまりにも多く,それを丁寧にまとめあげた著者の努力には頭が下がる。
 自分が日々行っているウサギの診療を考えてみても,12年前と今とでは大きく様変わりしている。何が変わったかといえばウサギの疾病の治療の仕方が変わってきているし,疾病の発生傾向も大幅に異なってきている。治療の仕方が変わるというのは,この間に新たに学んだことと,自身の経験に基づいたことによって次々と修正が加えられた結果,変わるのである。また,疾病の発生傾向が変化するのは,多くの場合,食餌管理をはじめとした飼養管理の向上によるところが大である。
 このような変化の著しいウサギの臨床について書かれた本において,第1版から12年後に第2版が出されたことの意義は大きい。第1版も内容が充実しており,役立つ参考書であったが,第2版はさらに内容が豊富になっている。すべての章においてアップデートされているが,特に消化器疾患,歯科疾患,神経疾患などの多発する疾病についてより新しい情報が盛り込まれていることがありがたく,また臨床病理や麻酔などについてもより充実した内容となっている。図はより見やすくなっており,新たな写真も加えられている。しかし,症例の写真がやや少ないことが,読者のよりよい理解のためには残念なところである。
 世界的に見ても,犬や猫に比べたら,ウサギの臨床はまだまだ遅れをとっていると言わざるをえない。この20年くらいの間にウサギの診療について書かれた参考書が次々と出てきたし,内容もどんどん向上しているが,本書のようにウサギ単独の書籍はさほど多くはない。書籍もまだまだ犬や猫に追いつけないのである。しかし,犬や猫を中心に診療し,ウサギの診療数が少ない日本の臨床獣医師にとって,本書のような参考書は,逆に,犬や猫の参考書よりも心強い情報源となるのではないかと思う。索引も割合充実しているので,ウサギの診療で分からないことがあった時に,この本に答えが見いだせることが少なくないだろう。

「獣医畜産新報」2014年1月号 掲載

K.W.Clarke, C.M.Trim, L.W.Hall

『Veterinary Anaesthesia 11th ed.』

2014年・Elsevier発行・¥15,163(税込)

評者 東京大学教授 西村亮平

 Hall & Clarkeの『Veterinary Anaesthsesia』が最新の情報を伴い11版となって帰ってきた。第10版の出版が2000年だったので,すでに13年が経過したことになる。ちなみに9版はその9年前の1991年,第8版は1983年の出版なので,改版の間隔はそこそこ長く,初版からは相当な年数が経過しているに違いない。そう考えると本書は,綿々と受け継がれてきた近代獣医麻酔学の伝統を汲む本と言ってよいのだろう。何と言っても本書はAnaesthesiaでありAnesthesiaではない。
 本書の編者は上記2名にもう1人Dr. Trimも加えた3名だが,ついつい9版までのHall & Clarkeで呼んでしまう。麻酔の教科書として双璧をなす『Lumb & Jones’ Veterinary Anesthesia and Analgesia』と区別するためでもある(残念ながら1927年生まれのDr. Hallは2010年に亡くなっている)。本書は,麻酔・鎮痛学を学ぶ獣医学生に向けて書かれたものであり,また日々麻酔を行っている臨床獣医師あるいは動物実験に携わる人の参考図書として,またより専門的な道を目指す人のきっかけを作る書として工夫されている。獣医学生にとっては麻酔のコンセプトを分かりやすく理解でき,またどのように麻酔をすればいいのかを明確に学ぶことができる。臨床医や実験動物学者には,麻酔や鎮痛に関わるエビデンスだけでなく,筆者らの数多くの経験も提供してくれる。
 本書は,3つのセクションに分かれており,最初のセクションでは麻酔や鎮痛に必要な基本的な知識について書かれており,麻酔理論に始まり臨床薬理学の基礎,麻酔モニター法,鎮痛法,鎮静薬・注射麻酔薬・吸入麻酔薬・筋弛緩薬の薬理,麻酔に用いる器具,および呼吸生理学と人工呼吸までエビデンスにもとづいた記載が分かりやすくなされている。2つ目のセクションは,各種動物の麻酔について,それぞれの動物種ごとに書かれている。ここには犬,猫だけでなく馬,牛,羊,山羊,豚の他エキゾチックアニマル,野生動物,動物園動物,魚類など幅広い種にわたって詳細な記述がなされている。とくに愛玩動物や産業動物以外の種の記述は新版で新たに加わった部分である。最後のセクションは特殊な状況の麻酔,麻酔合併症およびこれも新たに加わった心肺蘇生の項から成っており,どの部分をとっても興味深く読むことができる。
 麻酔や鎮痛の知識や技術は,目覚ましく進歩している。我々が相手にする動物たちがより安全で快適に麻酔を受け,またより痛みから解放されるとしたらそれは素晴らしいことではないだろうか。机のすぐわきに備えておくべき麻酔書としてお勧めする。

「獣医畜産新報」2013年11月号 掲載

Karen L. Overall

『Manual of Clinical Behavioral Medicine for Dogs and Cats』

2013年・Elsevier発行・¥10,621(税込)

評者 麻布大学教授 菊水健史

 本書を手にして,まずはその情報量の多さに驚かされる。Karenはこれまでもいくつかの獣医行動学の教科書を手がけてきていた。今回はその集大成のような充実した内容になっている。犬や猫の行動学に関しては,近年の日本獣医医療の中でも特に注目されてきている分野だと言えよう。飼い主と犬や猫との関係性は,多くの場合はふれあいなどの行動を介して成り立っているし,飼い主の関心の多くが行動上の変化や特性であったりする。臨床獣医は飼い主の声に耳を傾け,適切なアドバイスが求められよう。しかしこれまで犬や猫の網羅的な情報が纏められた本はなかった。今回の本書はまさにそのような百科辞典的な役割を担っている。
 第一部では,日常の臨床場面における犬や猫の行動学の捉え方や考え方が記載されている。上記のように獣医医療における行動学は,そもそも飼い主と動物の関係性の根幹をなすことからも,たとえそれが高度獣医医療として取り扱われないとしても非常に重要度の高いものである。その行動学をどのように捉えるかの基本理念は,今後の日本の獣医医療においても再認識すべき課題であろう。
 第2部と第3部ではそれぞれ犬と猫の行動の基本メカニズムが総括されている。子犬のころからの行動発達や感覚器の機能,正常な犬の行動を紹介し,さらにそこから異常行動や問題行動のメカニズムを紹介している。特に犬や猫が示すどの行動に,病的あるいは問題行動のサインが出てくるのかが詳細に紹介されていることから,多くの読者はその事例の多さ,詳細な行動レパートリーの記載に驚きを隠せないだろう。
 第4部,第5部では問題行動や異常行動に関しての対処方法が薬物療法のみならず,食餌療法,運動や飼い主との関係性の再構築までもが詳細に記載されている。さらに特筆すべきは第5部であろう。この部分はこれから行動治療をはじめようとする獣医師にはとても役立つ。一般的な質問シートに加え,攻撃性など特殊なケースでの質問紙,さらには個別の行動治療プロトコルも具体的に記載してあり,これらの資料をもとに,行動治療がかなりすみやかに開始できると思う。またすでに行動治療をされている先生方にもシステマティックな実施に向けた体系化が容易となる。
 様々な行動治療に関しての書籍があるが,この1冊があればほぼ全領域をカバーでき,重宝するものといえよう。

「獣医畜産新報」2013年11月号 掲載

Willem Back, Hilary Clayton

『Equine Locomotion 2nd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥20,347(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

 この本は馬の運動科学の本である。馬は5,000~6,000年前に家畜化され,移動や運搬手段となり,さらに戦争手段からスポーツパートナーとなる現在に至っている。これらはすべて馬の運動能力に依拠するもので,他の動物の家畜化過程とは決定的に異なる。現代の馬の運動科学は馬のパフォーマンスを改善し,怪我を予防し,怪我をすれば治療を成功させること,総じて馬の福祉に利益をもたらすことを目的としている。本書では馬のパフォーマンスにおける運動シグナル測定,運動の神経生物学,前肢と後肢の様機能,蹄と蹄鉄,跛行の運動学,頚と背の機能,体型の影響,遺伝的影響,筋骨系構造への運動効果,競争・競技パフォーマンス,馬と騎手との相互関係,馬の行動学と福祉,馬のスポーツ医学,馬の代謝エネルギー論,力学解析法などの順に章立てされている。いずれも基本的な説明に多くのページが割かれており,馬の運動科学とは何かということを最新の切り口からよく理解できるようになっている。むろん従来の獣医学,馬学,運動器学,装蹄学を凌駕する,あるいは解体・統合するもので馬の運動科学がここまで研究され,論理的に構成されたテキストブックになっていることに驚かされる。このことは日本の日常ではもうあまり経験することがなくなってしまった馬と人間の関係の深さを改めて想起させる。やはり人間にとって馬は特別な動物なのである。
 たとえば基礎的な事項である馬の歩行と走行の種類と肢の出る順番,リズム,速度,歩幅についてどれだけの人が知っているだろうか? 飛節の関節運動が伸長-屈曲だけでなく,内転-外転,内旋-外旋の三次元運動で,互いにどのような関係になっているか知っているだろうか?跛行の運動学や動力学の章は獣医師のみならず,馬の飼養者,管理者,育成者に必須の知識だろう。また頚や背と運動能の関係における構造,生体力学,機能不全などの総合的記述は乗馬経験のないものにはわかりにくいが,「馬ならでは」で興味深い。
 競馬馬券の売り上げが低迷しているのも景気の問題ばかりでなく,本書のような馬の運動科学に基づいた情報が少なく,馬の配当金がいくらかの話題ばかりだからかもしれない。馬の運動科学的視点から競技予想や内容が専門家によって解説されれば馬のスポーツ競技はもっと一般的に楽しめるものになるだろう。楽しいものでなくても,人の「ロコモ症候群」がワイドショーで取り上げられ,誰もが知るようになったように。
 日本でもこの本に触発され,馬の運動科学の専門化が多く輩出されることを望んでいる。そんなことも思わせるマニアックで馬関係者のみならず馬好きには興味の尽きない科学書である。

「獣医畜産新報」2013年11月号 掲載

Jane E. Sykes

『Canine and Feline Infectious Diseases』

2014年・Elsevier発行・¥13,997(税込)

評者 鹿児島大学教授 望月雅美

本書は一言で表現すると「犬と猫の感染症に関する臨床獣医師の,臨床獣医師による,臨床獣医師のための教科書」である。もちろん学生にも使えるように企画されている。
 犬と猫の感染症に関する書籍としてはすでに4版を重ねているCraig E. Greeneの『Infectious Diseases of the Dog and Cat』が世界的に有名で百科事典的である。探しているものはほぼなんでも見つかる。一方,本書は,出版社も同じであることから,手にする前は,Greeneさんの本を臨床獣医師が使い勝手が良いように編集し直したのかなと先入観を持った。Sykesさんはカリフォルニア大学デービス校の獣医臨床系教授で,正直なところあまり存じ上げていなかった。もちろん小生も一昔前の世代であるからして,デービスと聞けばNiels PedersenだとかFrederick Murphyなどのbig nameに馴染みがある。本書はその大部分をSykesさんが執筆している。そしておそらく自身の経験の少ないところはより経験のある方に共著ないし執筆を依頼しているように見受けられる。しかも著者の選定には「感染症の診断と治療に造詣があり臨床経験豊富な獣医師」にこだわっている。
 正直なところこの類いの書は誰が執筆や編集をしても似たり寄ったりになるのは避けられない。最初に診断や治療,管理の総論,続いて臨床頻度の高い代表的なウイルス,細菌,真菌と藻類,そして原虫類が原因となる感染症,最後に器官・臓器単位の感染症について解説している。もちろん最近の書籍に共通しているように,「直ぐに知りたいことが見つかります」と図表や写真を多用している。特に新鮮で好印象を受けたのは各感染症の最後に載っている「Case Example(症例)」である。著者の実例が詳細(病歴,理学的検査,CBCなどの検査,画像検査,細胞診,微生物学検査,診断結果,実際の加療内容と結果,獣医師のコメント)に記載されている。
 実際に野外で起きている感染症は,おそらくほとんどの場合,教科書に書いてあるようには起きていない。教科書には宿主と寄生体が1:1の関係にある時について,あるいは多くの野外例の断片的な病徴的所見があたかも1頭の患者に全てが出てくるように若干デフォルメされて書かれていることが多い。臨床が不得手の感染症の専門家は直ぐにPCRで診断するという。確かに病原学的検査法は金科玉条的で,感染症を診断する上でその結果は重い。しかし検査と診断は違う。木を見て森を見ずではいけない。感染症の診断と治療の場合も良い書籍に出会うこと以上に,臨床経験がものをいうのであろう。その意味で,症例紹介の最後にある担当獣医師のコメントは新米の獣医師や学生には大いに役立つに違いない。

「獣医畜産新報」2013年10月号 掲載

Mark S.Thompson

『Small Animal Medical Differential Diagnosis 2nd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥8,029(税込)

評者 東京大学名誉教授 長谷川篤彦

診療とは診断と治療の意味に解されるが、考えてみると治療を決定するのが診断である。したがって診断は治療に至るための過程である。この治療への最初の時点である診断の良否が症例のその後を左右することになる。そして診断の第一歩は当然問診であり、身体検査である。問診と身体検査で得られる所見は徴候の把握である。それ故に、自分が把握できる徴候の種類や数を整理しておくことが必要であるが、厳密に考える機会は稀で、ただ漫然と過ごしていることが多い。そこで、ここに紹介する改訂第2版である本書もまさしく徴候を重視して診断を展開できるように配慮し、簡潔な記述を意図した携帯用の良書と言える。
本書は3編から構成されているが、第1編には85種の徴候を挙げて、それぞれについてその発現の根拠ごとに分別して検討すべき疾患などを列挙している。一瞥すれば徴候を確認したら次にやるべき行動が示唆されるように疾病が提示されている。
また、第2編は疾患別の15章から構成され、それぞれに問題を区分して該当する疾患が記載されている。すなわち、徴候を心肺、皮膚、内分泌・代謝、消化器、血液、免疫、感染、骨・関節、肝・膵(外分泌系)、腫瘍、神経、眼、中毒、泌尿器、疼痛に分類して疾患検索の方向性を示している。
第3編は臨床検査結果の評価について解説されている。取り上げている検査は多岐にわたり、異常値に遭遇したときに考慮すべきこと、注意すべきことが記載されている。
本書は書名が示す通り、鑑別診断を挙げ臨床の現場で一瞥して知識を確認するためのもので、謂わば備忘録として利活用するのに便利な書である。そうでないと残念ながら本書を臨床の現場で十分活用できないことになる。また本書の記述の背景にある事柄について十分理解しておく必要がある。例えば、なぜ鑑別するべきなのか、鑑別となる要点は何かを把握していなければならないかについては欠落している。このことからむしろ読者自身が本書から知識の欠如している点を発見し、自己学習の参考にすることも可能であると考えられる。この初版から7年で大幅に改定された第2版は、診療中は勿論のこと、臨床上の問題を検討する場合にも役立つ手放せない1冊であると思われる。

「獣医畜産新報」2013年9月号 掲載

Marg Brown, Lois Brown

『Lavin's Radiography for Veterinary Technicians 5th ed.』

2013年・Elsevier発行・¥9,584(税込)

評者 帯広畜産大学教授 山田一孝

先般Donald E. Thrallの『Veterinary Diagnositic Radiology 6th ed.』が参考書として優れることについて書評を書いた(JVM Vol.65 No.9 784)。Trallの充実した内容は、ある意味情報量が非常に多く、教科書というよりは専門書である。つまり、臨床で活躍する先生が何か調べるときの参考書である。一方、今回紹介する『Lavin's Radiography for Veterinary Technicians 5th ed. 』は、動物看護師の方々に向けて書かれた教科書である。
画像を学ぶにあたり、読影は確かに面白いのではあるが、その基本は正しい撮り方と撮影原理の理解である。大学の講義では、読影の話をすると学生は興味深く学ぶ。一方で、放射線防護の話は眠くなる。しかし、将来を担う獣医師の卵にとって、安全に仕事を行う必要性は今更述べるまでもないだろう。本書には、画像診断に携わるわれわれが当然知っておかなくてはならない基本的な事項が網羅されている。
本書は、イラストと撮影風景の写真を多用し、一貫してわかりやすく説明されている。また、各章毎にキーワードと到達目標が明確に示される。海外の馬臨床では当たり前に行われていて、日本にはまだ導入されていない馬の核医学検査についても、本書には当然記載されている。例えば、核医学検査の章のキーワードは、「半減期」「ミリキューリ-(単位)」「シンチグラフィー」「減衰」「放射性同位元素」で、到達目標は「核医学検査の原理の理解」「所見の病因の知識」「核医学検査の放射線防護の理解」が明記されている。本書の到達目標は、獣医学教育モデル・コア・カリキュラムの到達目標に類似する。モデル・コア・カリキュラムとは、獣医学教育の質の保証を目的として、教えるべき標準的な教育項目を示したもので、欧米の獣医学教育に比べて遅れていた日本でも、ようやく教育すべき内容について具体化されたところである。
オン・ザ・ジョブ・トレーニングで技術を修得した看護師さんが、本書でおさらいすることで「あっ、そうなんだ」と、理屈が知識としてすり込まれるはずである。米国の動物看護師は、米国獣医師会で認定された課程を経て、国家試験に合格し有資格者となる。動物看護師は、麻酔やX線撮影を任され、獣医師に準じた獣医療従事者とみなされている。日本の動物看護師も認定資格となることをきっかけに、本書のような教科書を使って技術を体系的に学んではどうであろうか。本書は、動物看護師のための教科書であることはもちろん、私は、学部教育の副読本として利用しようと思う。

「獣医畜産新報」2013年9月号 掲載

Joann L. Colville, Sharon A. Oien

『Clinical Veterinary Language』

2013年・Elsevier発行・¥9,454(税込)

評者 東京大学名誉教授 長谷川篤彦

事物を確定して、名称を付すことは、認識の基本であり、相互の意思疎通の根幹であり、社会成立の基盤でもある。科学においても用語の存在意義は極めて重要で、用語の種類とその定義がその領域の進歩発展の指標でもある。獣医学にあっても、また獣医臨床においても、このことは厳然たる事実である。そこには現在に至る歴史と未来への萌芽が窺知される。
近代ヨーロッパに勃興して発展し続けている科学の濫觴はギリシャ・ローマにあることから、その用語の語源はギリシャ語やラテン語の場合が多い。ところが、欧米においてもギリシャ語やラテン語の教育が等閑視されている傾向にあり、獣医師を志す学生の古典の教養も希薄化しているものと推測される。
このような問題は我が国にも認められ、先人の常識であった漢籍の素養が欠落して、徒に意味不明の片仮名が横行して混乱を極めている。例えば菌種名が片仮名で記載されているが、経文と同様で読むにも記憶するのも困難で、なぜ片仮名かと理解に苦しむ状況にある。このような現状を踏まえ、米国ではこの度紹介するような言語学的情報を基にした書籍が出版されているものと推察される。
本書は、解剖や生理に関する用語のみならず、臨床も含め獣医学を修学する人が知っておかなければならない用語・言語についての解説書と言うべきものである。用語の構成は勿論発音(英語式:ラテン語の発音方式は多々あるが、独自に読むことが許されている)などについても詳細に記述されている。
第1編の1章から3章は獣医臨床に不可欠な用語の説明で、第2編は4章から15章で、臓器系統別に用語を取り上げて詳述している。また、テスト形式を導入して、記憶を明確にして確認できるように工夫されている。付録としても4種類の項目があって、付録Aでは、6頁以上にわたり用語の語源をアルファベット順に並べてその意味、発音、用語例、参照する章が示されている。また付録Bでは、用語の意味を順に並べてその用語の中心部分、発音、用語例および参照すべき章が14頁にわたり記されている。付録Cは2段組み2頁の略語の解説である。さらに付録Dでは、分解分析できない用語についての10頁にもわたる解説である。これら付録を見ているだけで興味がそそられる。最後の索引も丁寧に作られていて利用価値が高いと思われる。
いずれにしても、外国語である英語の獣医学用語を能率良く修得するには言語学的素養を身に着けながら学習することは重要なことであると考えられる。したがって本書を獣医学の指導的立場にある人には勿論のこと、獣医学、獣医臨床の関係者には1人でも多く座右において参照して頂きたいものである。

「獣医畜産新報」2013年9月号 掲載

David R. Hodgson, Kenneth Harrington McKeever, Catherine M. McGowan

『The Athletic Horse Principles and Practice of Equine Sports Medicine 2nd ed. 』

2013年・Elsevier発行・¥20,995(税込)

評者 帯広畜産大学准教授 佐々木直樹

『The Athletic Horse Principles and Practice of Equine Sports Medicine 2nd ed. 』は、馬の運動生理学に関する最新の書籍である。本書は馬のプアーパフォーマンスとバイオメカニクスの2点に焦点をあてて、乗馬関係者、競馬関係者、獣医師、運動科学の専門家、生理学者、学生など幅広い読者を対象に執筆されている。
1994年に初版が出版されてから約20年ぶりの改訂版となり、これまでに蓄積されたデーターがカラー写真や図表として掲載されており、運動生理学に関する知見が幅広く整理されている。
一般に、プアーパフォーマンスとは、「馬が体の何らかの原因によりその走行能力を充分に発揮できない状態」を指し示す。競走馬では筋骨格系の異常(跛行)が最も多く、次いで呼吸器系の異常が多いとされる。通常は微妙な変化しか認められず、原因を確定することは容易ではないことが多く、場合により運動負荷試験を必要とすることがある。プアーパフォーマンスの診断では、もともと運動能力が低い個体との鑑別が重要であり、多角的な知識が必要とされる。本書では、運動生理学の基礎として栄養学、血液代謝、呼吸器の解剖と生理、循環器の解剖と生理、筋骨格の解剖と生理、年齢による影響をとりあげ、わかりやすく解説している。
バイオメカニクス(biomechanics、生体力学)とは、生物の構造や運動を力学的に研究する学問領域であり、これまで個々の経験や理論に頼ってきた馬の調教プログラムや跛行診断の領域に科学的な視点を与えてきた。本書ではサラブレッド競走馬、ジャンプ競技馬、エンデュランス競技馬などのトレーニング時における生理学的変化や運動器への負荷などについてわかりやすく解説している。特に、体骨格の関節の可動領域に関する記載は、乗馬関係者に役立つ情報と思われる。
本書は馬のスポーツ医学の原理と実際について最新の知見が記載されており、多くの読者に役立つことが期待される。近年、科学技術の発展にともない馬の運動生理学に関する実用面での研究が進展しており、今後のさらなる飛躍を予感させる1冊である。

「獣医畜産新報」2013年9月号 掲載

Bassert,J.M. & Thomas,J.

『McCurnin's Clinical Textbook for Veterinary Technicians 8th ed.』

2013年・Elsevier発行・¥14,645(税込)

評者 公益財団法人動物臨床医学研究所理事長 山根義久

英国では1900年代の初頭に、すでに犬に対する看護師協会が設立されており、動物看護学の歴史の深さに驚かされる。欧米と比較し、日本における動物看護学の発達はこれからの感が強い。それは文化の違い、いわゆる狩猟民族と農耕民族の違いもあると思われるが、いずれにしても動物との接触の差異は否めない。そのことは、欧米の教育体制の充実さ、専門書の豊富さ、さらに制度の充実さを比較すれば一目瞭然である。
本書は、動物看護学の専門書として1985年に初版が出版され、その後大体4年毎に再版され、今回で8版目である。日本と異なり、動物看護が経てきた長い年月と豊富な経験によるものか、執筆者も各界の多士済済のメンバーであり、それも総勢65名という多人数であり、その内容の豊富さ、充実さには目を見張るべきものがある。本書は、パートⅠからパートⅧの8つの項目で構成されており、その内容は動物看護学におけるすべての内容を網羅しているといっても過言ではない。イラストやカラー写真を豊富に駆使し、学生は勿論、専門職業人である看護師や獣医師にも大いに参考になる内容である。
パートⅠでは、獣医療技術についての概略を述べ、その中で法律や倫理についても触れ、さらに臨床におけるマネージメントや、実際の臨床上における各種の記録保存の必要性を述べ、動物病院内での安全管理にまで言及している。パートⅡでは、患者動物の管理と栄養について記述し、その中で動物行動学と動物の拘束や取り扱い方に触れ、さらに病歴と一般身体検査法や各種の予防プログラムを解説し、栄養学においては小動物・大動物別に記述し、繁殖学についても触れている。パートⅢでは、臨床上における血液、細胞、尿、寄生虫、微生物等の検査について解説し、画像診断にも触れ、さらに基本的な剖検方法まで記述してある。パートⅣでは、動物医療看護における採材方法や動物別での医療看護、さらに理学療法とリハビリテーションにも触れてあり、パートⅤでは、救急疾患時の対処方法について、輸液、輸血療法、外傷の管理と包帯法についてまで述べてある。またパートⅥでは、薬理学に引き続き鎮痛処置や麻酔法等について、さらに疼痛管理について記述してある。パートⅦでは、外科手術時における看護について触れてあり、手術器具、機械の消毒や材料、さらに外科手術時の看護についてそれも動物別に記述してある。そしてパートⅧの最終章では、ホスピス的看護や、ヒューマン・アニマル・ボンドについて、さらに死別時の対応や安楽死についても解説してある。
以上、本書は今後の我が国における動物看護の進むべき道を示唆しており、動物看護学の充実、確立を目指す者にとっては道標になり得るものであり、かつ動物看護師にとっては必読本といえる。

「獣医畜産新報」2013年8月号 掲載

Paul McGreevy

『Equine Behavior A Guide for Veterinarians and Equine Scientists 2nd ed.』

2012年・Elsevier発行・¥16,848(税込)

評者 公益社団法人日本装削蹄協会常務理事 楠瀬 良

本書は馬の行動について、カラー図版や写真を多用してわかりやすく記載された、獣医師や馬関係者向けの書籍である.著者はオーストラリアのシドニー大学教授で動物行動学とアニマルウェルフェアを担当している.また同時に、著者は長い乗馬の経験も有している.
馬の行動学の教科書といえばG.H.Waringによる『Horse Behavior』が有名だが、本書がWaringの本と異なる点は、記述された内容が、実際に馬に乗ったり調教したりするときに直接応用できるような配慮が随所になされている点であろう.たとえば馬の感覚機能を解説した章では、生理学的に検証されている馬の視覚特性から、現に馬たちが目にしているであろう風景を大胆に推測して提示している.なぜ馬が特定のものを怖がるのか、障害飛越をさせようとするときに、馬の姿勢によって障害がどのように異なって見えているのか.こうしたことを知ることは、馬を取り扱ったり管理したりする際に有用であるばかりでなく、騎乗者および馬の安全にもつながるものと考えられる.
研究者であると同時に長い乗馬経験を有している著者ならではであり、いわば本書のきもともいえる章は、「乗馬の科学」と題された第13章であろう.この章で著者は、動物を対象とした心理学、行動学的研究の成果にもとづき、馬の調教の基本について詳述するとともに、調教する際の留意点を理論的かつ具体的に記述している.乗馬の調教法については、いわゆる馬術家の手になる英文の書籍がたくさん出版されている.そうした本は自らの長い間の乗馬経験に即して書かれたもので、技術の向上に有用な場合は多い.しかし時として思い入れが強かったり、感覚的な記述に終始するばかりで、体系的、論理的な面ではものたりないという場合も多く、応用がききにくいケースもある.本章で述べられている調教方法は、その記述の背景に科学的に検証された動物の学習理論があるため、汎用性が高く、さまざまな場面で応用がきくものと思われる.
現在のところ日本語で読める本で、本書に類似した書籍は存在しない.翻訳出版されれば日本の獣医師ばかりでなく、広く馬関係者の意識や技術の向上に大いに役立つと思われる.ただし商業的にペイできるかどうかは保証しかねる.

「獣医畜産新報」2013年7月号 掲載

Mair,T.S.,Love,S.,Schumacher,J.,Smith,R.K.W. & Frazer,G.

『Equine Medicine,Surgery and Reproduction 2nd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥20,218(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

本書はいわゆる「馬の臨床」あるいは「馬の診療」といった本で、内科、外科、繁殖あるいはもっと細分化された専門科の本ではないが、全体は26章に分けられ600ページに及ぶ.各章は基本的には臓器器官系別(例えば消化器では上部消化器、胃腸病と疝痛、肝臓・腸管疾病、腹腔の疾病)となっており、その他、耳鼻咽喉科、呼吸器系、泌尿器系、免疫系、内分泌系、神経系、眼科、皮膚科となっている.また整形外科分野では跛行、蹄、肢近位、背と骨盤の4章にわかれ、別章として筋疾患も扱っている.感染・寄生虫病、代謝病、子馬疾病などの内科系疾病、外傷、鎮静・麻酔、画像、救急治療などの外科系疾病を扱った章も設けられている.繁殖の章は120ページあり、産科疾患、繁殖管理、雄馬の疾患にまとめられている.
すなわちこの本は馬の臨床で一般的に遭遇する疾病のほとんどについて体系的に記述されている.各臓器器官系の章では、まずその器官系の検査法が解剖・生理学的背景とともに記述され、大きな概念からむようになっている.そしてこれに続く、個々の疾病の記述では病因、臨床症状、診断法、治療法、予後などについて番号がふられて、あるいは箇条書きを含めた様式となっていて分かりやすい.もちろん美しい図と写真、診断画像などはふんだんに加えられていて、理解を助ける.臨床に関する獣医学雑誌では常に新規性が求められるので、掲載される論文は新しいことがらを含むとはいえ必ずしも毎日の診療に直接寄与しないだろう.その点、本書のような普通の疾病をきちんと教えてくれるものは、実は臨床家にとって最も有り難い.また馬の疾病について知識や経験が乏しいものにとっても決して程度を下げた説明ではないながら取つきやすく、全体像を理解しやすい.
すなわち本書は現在のところ、馬の臨床医療においてもっともよく使える本といってよいだろう.馬の臨床の初学者や経験の少ない臨床家ばかりでなく、馬の臨床の経験者にとっても診療内容の精査だけでなく最先端の臨床知識の整理に役立つ.このような本で学びながら馬の臨床の謎解きをできるのは本当に楽しい仕事だろう.毎日が自分にとって新しい発見の日になるだろうし、畜主への説得力も増すだろう.最終的に本当に新しいことや考えを得るに至れば本書の目的以上のことが達せられることになるに違いない.

「獣医畜産新報」2013年7月号 掲載

Victoria Aspinall,Richard Aspinal

『Clinical Procedures in Small Animal Veterinary Practice』

2013年・Elsevier発行・¥11,139(税込)

評者 日本獣医生命科学大学教授 竹村直行

スポーツにしても診療にしても、基礎を忘れたり無視することほど怖いものはない.基礎を忘れたスポーツは怪我の原因にも、上達の障害にもなる.基礎から外れた診療は誤診の原因になり、最悪の場合には動物を死に至らしめることにも発展する.ルーキーだろうがベテランだろうが、とにかく我々は基礎を大切にすべきである.
診療行為の基礎と言うと、立場(獣医師・動物看護師)によってその範疇が異なるかも知れない.しかし、少なくとも経験年数には左右される性質のものではないであろう.
この意味において、基本事項にこだわったテキストはその時代に見合ったスタイルで発行され続けるべきだと筆者は考えている.
ご紹介する『Clinical Procedures in Small Animal Veterinary Practice』はそんなテキストの1つである.本書は動物の保定法、取り扱い法、投薬法、救急療法、包帯法、画像診断を含む各種検査法、内科疾患の診断および治療法、麻酔法、滅菌法、縫合法、一般的な外科的手法が数多くの、そして最近では当たり前になったカラーのイラストや写真と共に簡潔よく述べられている.扱われている動物種は犬および猫は当然のこと、ウサギ、鳥類にまで及んでいる.
本書では、Prefaceでも著者らが断言しているとおり、日常的な診療での診断・治療に関する各種テクニックのみが扱われている.言わば診療の「いろは(基礎の基礎)」と言って良いだろう.このため、これから本格的な臨床教育を受ける3~4年生には格好の参考書になるであろう.一通りの教育を受けた6年生にとっては復習する際の役立つと思われる.同時に、動物看護師の方々にとっても、知識を整理したり、動物の取り扱い法、各種機材の使用法、検査の実施方を見直す際の格好のテキストになると思われる.本書は「いろは」に内容を限定しているため、ベテラン獣医師にとっては不要の書に見えるかも知れない.しかし、本書を利用して、日頃の様々な診療行為に本当に誤りや無駄がないかどうかを一通り点検し直すことは有意義なのではなかろうか.
たまには基礎をじっくりと見直し点検する… このような行為も診療のレベルアップにがると確信する.

「獣医畜産新報」2013年7月号 掲載

Cecilia Gorrel

『Veterinary Dentistry for the General Practitioner 2nd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥11,010(税込)

評者 フジタ動物病院院長 藤田桂一

本書は、一般の小動物臨床獣医師に向けて書かれた獣医歯科の専門書であり、日常診療に直ちに役立つ内容ばかりである。日常診療でよく遭遇する疾患を中心に解説されており、一般臨床獣医師が行う口腔治療としては十分網羅されていると思われる。
著者のDr. Cecilia Gorrelはヨーロッパにおける獣医歯科学の第一人者であり、獣医歯科の世界では、知らない者はいないといっても過言ではないほど著名な先生である。獣医歯科学の専門書の中では、Dr. Cecilia Gorrelの著書がヨーロッパにおいて最も多く出版されているのではないかと思われる。何度も来日され、獣医師向けに講演を行っていただいている。また、私も海外の学会でDr. Cecilia Gorrelと何度かお会いしており、お会いするとその親しみやすい人となりで誰でも彼女のファンになってしまうほど魅力がある人柄である。講演の際は、多くの参加者の顔をみながら講演を聞いている参加者がどの程度理解しているのかを把握しながらゆっくりとした口調で講演していただけるので英語が得意でなくても聞き取りやすく、その分かりやすさには定評がある。
本書は、下記の14章から構成されている。
1.歯科器具・器材/2.麻酔と鎮痛/3.抗生物質と消毒剤/4.歯と歯周組織の解剖/5.咬合と不正咬合/6.口腔検査と記録/7.歯科X線検査/8.よく見る口腔疾患/9. 歯周病/10.予防歯科/11.吸収病巣/12.緊急処置/13.抜歯/14.ウサギと齧歯類の歯科疾患
獣医歯科学では重要項目ばかりである。各章における解説は簡潔に書かれており、決して分厚い専門書のような記述ではなく理解しやすい構成になっている。すなわち、単に獣医歯科の技術指導書ではなく、これまでの論文報告や獣医歯科専門誌の記載に基づいて書かれており、その疾患の原因、背景、発生機序、治療、ならびに予後などが簡潔に書かれている。しかも、各章の最後の頁には、その章における要点が書かれており、何が大事かが一目で分かるように構成されている。さらには、その章における参考文献や、さらに深く学びたい人のための各獣医歯科の専門書まで紹介されている。本書の最後の頁では、専門用語も解説されており、初心者にも理解しやすいように工夫されている。写真、イラスト、表など豊富に掲載されており、写真やイラストも美しく、色彩がきれいで、しかも大きい。
したがって、本書は、小動物臨床獣医師ばかりでなく、獣医歯科学の臨床を初めて学ぶ獣医学生や研修医、あるいは動物看護師にとっても分かりやすい良書と言える。

「獣医畜産新報」2013年6月号 掲載

Geor,R.J., Harris,P.A., Coenen,M.

『Equine Applied and Clinical Nutrition Health, Welfare and Performance』

2013年・Elsevier発行・¥21,125(税込)

評者 NOSAI日高家畜診療センター所長 樋口 徹

とても美しい装丁の本だ。背表紙、裏表紙はゴールドで、白い表紙には葦毛馬のシュールな写真が用いられている。誇らしげに英国アン王女による序文が掲げられている。
馬の栄養学の本は今までもあり、版を重ねている本もある。しかし、本書はまったく新しく計画されていて、馬の栄養学の分野を基礎からすべて網羅し、なおかつ実践的な飼料給与に役立つこと、さらには病気との関係まで詳述することを目的としている。「栄養学の基礎」「ライフステージ、飼養目的別の栄養」「応用栄養学-飼料給餌」「応用栄養学」「臨床栄養学」の5つのセクションから構成されている。
思えば人の健康問題でも一番注目を浴びているのは遺伝素因と生活習慣かもしれない。馬、とくにサラブレッドは遺伝素因については競走成績だけで選抜されていて、あとは、飼養管理が強い馬づくりのために熱心に取り組まれている。育成馬では速く大きく成長させること、競走馬では故障せずに速く走れること、繁殖馬では繁殖成績を向上させることが栄養管理に求められている。栄養補助食品、サプリメントが大はやりなのは人と同じで、飼料計算や牧草の成分分析、コンサルタントによる栄養管理指導も行われている。しかしそれは、馬の飼養や、故障の予防や、障害の治療の上で、栄養管理が重要だと認識されていながら、理想に近い飼料給与の実現が難しいことの裏返しかもしれない。実践的に、飼料給餌を実現するための情報が本書には記載されている。
私は臨床家で、どうしても病気との関係に興味が行く。「臨床栄養学」の章では、蹄葉炎(18)、病的肥満(16)、痩せた・飢えた馬の給餌(9)、高脂血症(9)、運動に関連した筋障害(15)、成長期の整形外科的疾患(13)、骨関節症の治療における経口関節サプリメント(9)、胃潰瘍(10)、消化器疾患(14)、泌尿器疾患(10)、肝障害(5)、グラスシックネス、ボツリヌス症、馬モーターニューロン病、馬退行性脳脊髄症(10)、手術前後の給餌管理(11)、孤児子馬と病気の子馬の給餌(10)、経腸・非経腸補助給餌(10)について()内に示したページ数だけの記述がある。どの項目も馬臨床家にとってたいへん興味深い。
文章のみの本になりがちだと思うのに、本書はすべてカラーページで、見やすい表とグラフ、新たに描かれたイラストが多く含まれている。各記述の重要項目は「キーポイント」としてまとめられ、速読にも対応している。
多くの馬臨床獣医師、馬飼養者、調教師、乗馬関係者、そのほか馬に関わる方々におすすめしたい。

「獣医畜産新報」2013年6月号 掲載

Eric Monnet

『Small Animal Soft Tissue Surgery』

2013年・Wiley-Blackwell発行・¥25,530(税込)

評者 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 西村亮平

コロラド州立大学小動物外科教授Eric Monnetによる軟部組織外科の教科書である。Monnet先生は、その長い肩書(DVM、PhD、FAHA、DACVS、DECVS)から只者でないことは容易に推察がつくが、ACVS等でのスピーカーとしてあるいは日本での講演でもお馴染みの先生方も少なくないだろう。 本書は、教科書というよりは、軟部組織外科医を目指す獣医師のための指南書のようなものにも思える。軟部組織外科に的を絞った86章からなる800ページを超える専門書であり、獣医学生や初心者をターゲットとしたものではない。むしろ中級者以上あるいは中級者以上を目指す獣医師向けのものであり、これは16章から構成されるFossumの教科書とは明らかに趣を異にする。このため総論的な部分はほとんど無いが、軟部組織の手術を行う際に必要性が高いと思われる内科や画像診断に関する記述は充実している。例えば膵炎について1章が割かれているし、“耳”に関する画像診断の章もある。 この本を開いてみると、最近の教科書や雑誌に多用されている“イラスト”が少ないことに気づく。記載のあるイラストも写真に近い写実的なものが大部分である。これは本書が入門的な部分は理解したうえで、その先のエキスパートならではの部分にフォーカスしたものだからであり、軟部組織外科について深く知りたい人にはたまらない1冊と言えるだろう。これまでこのような教科書は見当たらなかった。この本が届いた日についつい徹夜して読んでしまったと語っていた外科好きの先生がいたが、それも納得できる内容と言える。さらにこの本の裏表紙には1枚のDVDが添付されており、これもこの本の大きな特徴の1つとなっている。オンラインあるいはDVDなどによる画像情報は近年の教科書の大きな流れとなっており、これから大いに期待される分野だとは思うが、発展途上なものも少なくない。残念ながら、本書のDVDの画像やビデオも本書の内容すべてをカバーしているわけではないが、その内容の完成度は非常に高い。軟部組織外科の本当のエキスパートならではの視点でまとめられている内容は、目から鱗が落ちるという言葉が続けて出てしまうほどである。この部分は、本書が版を重ねることになれば、さらに充実していくことが期待される点であり、大いに期待したいところである。 本書の特徴から、最初から通読する必要はない。必要な部分だけを読むことでその部分のディープな知識を得ることができる。軟部組織外科に関するこれまでの自分の知識と技量の殻を破りたい人、一歩進んだ外科的テクニックを得たい人にぜひお勧めしたい1冊である。

「獣医畜産新報」2013年4月号 掲載

Signe Plunkett

『Emergency Procedures for the Small Animal Veterinarian 3rd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥12,694(税込)

評者 日本獣医生命科学大学教授 竹村直行

受験生を抱えた家庭では「滑る・落ちる」、結婚披露宴の挨拶では「切れる・別れる」は今でも御法度である。このことは現代を生きる我々日本人が古代人から「言霊信仰」、つまり「言葉に出したことは現実となる」という信仰を引き継いでいる証拠である。だからこそ「専門家ですら想定できなかった規模の地震」を政治家や自治体が想定すると、「巨大地震が本当に来てしまう。だからそんなことは考えない、言わない方が良い」と思い、我々は防災に対する徹底的な準備を放棄してきた側面があるように個人的に思う。少なくとも人命に直結するのであれば、我々は「危機管理」を言霊信仰から切り離して考えなければならない。 自然災害と救急医療は全く別物だが、それでも関連する最新の知識を持ち、日頃から訓練を重ねる必要がある点は共通している。 さて、小動物の救急医療と言えば、1969年に初版が発行された『Kirk and Bistner’s Handbook of Veterinary Procedures & Emergency Treatment』が有名である(現在は第9版が出版されている)。ここにご紹介する『Emergency Procedure for the Small Animal Veterinarian』の初版は1993年に発行されており、いわば「新参者」と言える。しかし、本書の第3版は支持療法、ショックの管理に続いて、心臓、呼吸器、外傷、皮膚、血液、胃腸、代謝・内分泌、泌尿器、繁殖、神経、眼、中毒に関連する緊急的対処法が箇条書きで丁寧に解説されており、Kirk and Bistnerと堂々と渡り合える素晴らしいテキストに仕上がっている。ご家族から電話で問い合わせがあった場合、ご家族に指示すべき処置にも言及されており、実用面で参考になる部分が少なくない。当然のこと、エキゾチック動物の救急療法も扱われている。 本書は約900頁の大著だが、そのおよそ3割弱を中毒時の緊急療法に割いている。この点が本書の最大の特徴かもしれない。また、巻末には有毒植物、妊娠動物に有害・安全な薬剤、重篤な腎不全で使用すべきでない薬剤などのリストが掲載されている。蛇足ながら、アボガド(アボカド)が犬および猫では胃腸炎を、鳥類では急性心不全を引き起こすことを筆者は本書を手にとって初めて知ったことを告白しておこう。 緊急療法を要する動物のトラブルは多種多様で、同時に場所と時間を選ばない。万全を期した準備が必要なのは当然である。我が国の危機管理にも、そして動物医療にも「言霊信仰」はあってはならないのだ。

「獣医畜産新報」2013年4月号 掲載

G. Landsberg, W. Hunthausen, L. Ackerman

『Behavior Problems Dog & Cat, 3rd ed.』

2013年・Elsevier発行・¥14,256(税込)

評者 北里大学獣医学部講師 入交眞巳

『Handbook of Behavior Problems of Dogs and Cats』というタイトルで第1版の本書が出版されたのが1997年である。米国では獣医学科の中の獣医行動学の教科書の1つとしてずっと使用され続けている教科書である。問題ごとにまとめてその病態から治療まで記載されており、第3版となる本書はたとえば「問題行動治療のための薬物の使用」「行動修正法のテクニックについて」「ハーブを用いる場合」「給餌と関連する問題」「恐怖や不安に関連する問題」「恐怖からの攻撃行動」「学習と攻撃行動」「子どものいる家庭でペットを飼うこと」など、問題行動の診断と治療の内容のみでなく、そこに関連する内容(精神薬理学分野、動物飼育者としての考え方、統合医療の関連分野など)も細かく本の中で色を変えて分類した上に紹介されており、初版よりも細かい内容まで記載されているように感じる。また第2版で問題であった参考文献も今回の第3版ではきちんと記載されているため、教科書としての充実度もアップしたと言えよう。 第2版ではCDを本の付録として付けており、家族の方に渡すハンドアウトや、診察で使用する問診票をCDからプリントアウトできる形式をとっていたが、今回の第3版では、本に記載されているコードナンバーを用いて出版社の指定するホームページにアクセスするだけで最新のハンドアウトや問診票、必要な情報がコンピューターから手に入るようになっている。また、本自体にもそのハンドアウトは掲載されているため、必要なものを本の中で探してから、コンピューターにアクセスして改めてダウンロードできる便利なシステムとなっている。 さらにこの第3版の新しい特徴として、新たに数名の著者を加えて内容を初版、第2版よりもかなり充実させ、濃くしている点があげられる。また、もう1つの特徴として、米国の獣医行動学の考え方のみでなく、ヨーロッパの獣医行動学の考え方やアプローチも取り入れているのがこの本の面白さである。違う角度から同じ問題行動を見ることができ、読者は多角的視点から考えることができるようになっている。これは読者に混乱を招くと言う難点もあるが、著者たちは敢えて色々な考え方を紹介しようとしている狙いがある。 獣医行動学は日本の獣医学教育においてもコアカリキュラムに取り入れられた。獣医師として獣医行動学はある程度知っていて当たり前、という時代がそこまで来ている。だからこそ、欧米で教科書の1つとして使用される本書をちょっと手に取ってみても良いのではないだろうか。

「獣医畜産新報」2013年4月号 掲載

William W. Muir,III, John A. E. Hubbell, Richard M. Bedarski, Phillip Lerche

『Handbook of Veterinary Anesthesia 5th ed.』

2012年・Elsevier発行・¥12,046(税込)

評者 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 西村亮平

今回紹介する本は、今や獣医麻酔の教科書としてなくてはならない1冊となった『Handbook of Veterinary Anesthesia』の第5版である。手元に1995年に出版された第2版があるが(1996年から麻酔の講義を担当させてもらったが、その準備の時にとても世話になった思い出の1冊である)、版は変わってもそのコンセプトは揺ぎがないようだ。若干大きくなったが、厚みはさほど変わらず、白衣のポケットには充分収まるサイズである。全体の作りも少々汚れても気にならない感じで、角を丸くカットして使いやすくしてあるのも以前と変わらない。
題名にあるようにこの本はhandbookであり、机の上でじっくり読むというよりは、現場で必要な時にポケットから取り出して必要な情報を限られた時間の中で得られるように作られたものである。また現場もあらゆる状況を想定してあり、対象動物は犬、猫、馬、反芻獣はもちろん豚、エキゾチックアニマル、さらにラマ、アルパカ、ラクダと米国ならではのものまで含まれ、実験動物以外のほぼ全ての動物に対応している(実験動物の麻酔は別の領域として独立した感があり、専門の教科書も出版されている)。本書は30章(600ページ)から成り立ち、動物の術前評価から始まり、麻酔前投薬、局所麻酔(薬)、注射麻酔(薬)、吸入麻酔(薬)、筋弛緩薬、気道確保、麻酔器と呼吸回路、人工呼吸(器)、麻酔モニター、鎮痛と一連の麻酔の流れに沿ったものに加え、より詳細な項目として酸塩基平衡と血液ガス、周術期輸液、低体温と高体温、鍼による鎮痛についても言及されている。これらに引き続いて、各種動物(上述の動物)における麻酔法について述べられ、最後に帝王切開の麻酔、呼吸系の救急医療、循環器系の救急医療および安楽死に関する章で終了する。第5版では特に鎮痛、輸液、モニターなどの項目に力を注いだようである。
本書のよいところは、前述したようにそのハンディーさにあるのは容易に理解できよう。しかし、本書の本当に素晴らしい点は、気軽に読める中に麻酔や鎮痛に必要な項目がほぼ網羅されていることにあると思う。文章ではなく箇条書きを多用することでこのことを可能にしている。もちろん文献等が省かれているし、詳細な記述が省かれている点もある。しかし、それは落ち着いてデスクの上に置いた大書で調べればいいのである。こう書くと文字ばかりの基本的なことばかりというイメージを持つ方もおられるかもしれないが、流石に一流の麻酔医師によって書かれたものであり、写真やイラスト、図表も豊富にあり、さらに最新の麻酔・鎮痛テクニクックについても十分なページが割かれており、麻酔経験のある獣医師にも大変役に立つ本に仕上がっている。麻酔や鎮痛に携わる全ての獣医師にお勧めの1冊である。

「獣医畜産新報」2013年3月号 掲載

David J. Maggs, Paul E. Miller, Ron Ofri

『Slatter's Fundamentals of Veterinary Ophthalmology, 5th ed.』

2012年・Elsevier発行・¥17,496(税込)

評者 動物眼科センター長 太田充治

筆者が今回の本書の改訂を知って、「ついこの間前版(第4版)を手にしたばかりなのに…」とまず驚いた。しかし前版の発刊年を確認したところ2008年となっていた。そう、もうすでに5年も経つのだ。
本書は前編集者のDr. Slatterの死後、その改訂・編集作業を委託されたDr. Maggs、Dr. Miller、Dr. Ofriといった3人の獣医眼科専門医が5年前に第4版を完成させた。第4版発刊の際にも筆者は書評を書かせていただいたが、その内容はこれまでの構成内容を踏襲しながらも臨床家向けによりわかりやすく、参考書としてより利用しやすい大胆な改訂であったことを鮮明に憶えている。さらにこれまでの改訂の間隔が7~11年であったのに対して今回5年という短期間で改訂されたことは、このシリーズの一愛読者として編集を担当された前述の3先生には大いに敬意を表したい。
前回の改訂でこれまでのモノクロの図や写真から多くのものがカラーに変更されたが、今回の改定ではそれらのほぼすべてがカラーとなり、さらに見やすくなっている。症例の写真については前版で採用されたものをより分かりやすいものに更新されている箇所もみられる。さらにページ数は約100ページほど増えており、紙質も良くなっているために書籍として全体的な厚みは増しているが、これは日常本書を持ち歩くことにそれほど負担となるほどのものではなく、内容の充実度を考慮すれば全く気にならない。
内容は特に視覚についての解説、眼科用薬剤、眼瞼の外科、涙液欠乏性疾患および網膜疾患について重点的にアップデートされており、この5年の間での獣医眼科学の変遷によく対応し、臨床家の知りたい事柄についての情報をさらに充実させた改訂であると感じる。
本書は非常にコンパクトでありながら獣医眼科全般に及ぶ多くの基礎知識と疾患について網羅しており、眼科診療を専門的に行われている臨床獣医師よりもむしろ一般臨床家にアトラス的に臨床現場での参考書として大いに利用していただきたい1冊であることに間違いはない。
今回の改訂でひとつ気になったのは、これまでの版では各章の末に記載されていた参考文献がこの第5版ではなくなっていることである。これも本書が臨床家に机上よりも現場で大いに活用して欲しいという編集者たちの意図からであろうか。

「獣医畜産新報」2013年3月号 掲載

Michael E.Peterson, Patricia A.Talcott

『Small Animal Toxicology 3rd ed.』

2012年・Elsevier発行・¥13,219(税込)

評者 日本獣医生命科学大学教授 竹村直行

本書の初版は2001年に、第2版は2006年に、そしてこの第3版が2013年に出版されていることからも解るように、着実に改訂が行われている。お恥ずかしいことに、筆者は本書の初版および第2版を見たことがないので、第3版の改訂内容を指摘することはできない。しかし、いくつかの特徴は直ぐに解った。
910頁からなる本書の内容に筆者はある種の迫力のようなものを感じる。
最初のセクションでは中毒の一般的な診断法と治療法が述べられている。これまでにpharmacokineticsに関する複数の論文を執筆・発表してきた筆者としては、次のセクションは非常に興味深い。性別でみた各種有毒物質の繁殖毒性、妊娠および泌乳への影響、幼齢動物および老齢動物での有害物質の体内動態などの記載は今までになかった新しい概念と言える。これらの記載は、より適切な薬物療法のヒントになり得るであろう。加えて、は虫類、小型ほ乳類および鳥類での中毒の問題点も解説されている。本書のタイトルにあるSmall Animalは犬・猫のみを指すのではなく、人が一緒に暮らすであろう全ての小型動物を視野に入れようとする意気込みが感じられる。3番目のセクションでは最近はやりのハーブや自然製剤に関連する危険性、観葉植物、室内の有毒物質などが解説されている。特にハーブに関する記載は新しい情報と言えるであろう。
最後のセクションでは当然のこと、各種有毒な物質や植物、あるいは薬剤、科学物質による中毒が記載されている。アセトアミノフェン、アミトラズ、殺鼠剤、抗痙攣薬、イベルメクチンなどの医薬品、ヒ素、鉛、鉄、水銀などの金属、パラコート、プロピレングリコール、有機リン系殺虫剤などの「中毒の定番」とも言うべき有毒物質、さらにはユリ、マカデミアンナッツ、メタノール、マッシュルーム、ブドウ、キシリトールなど「我々を楽しませてくれるもの」も取り上げられている。このセクションで扱われているのは55項目である。有毒植物はカラー写真で説明されていて、植物になじみのない読者に配慮している。
本書には動物と暮らすご家族にとって重要な情報が満載されていると言える。英語で記載されているために、ちょっと取っつきにくいかも知れないが、必要な箇所だけ辞書を片手に頑張って見ては如何であろう。新たな発見が必ずあるに違いない。その発見を通じて、通院されるご家族に提供できる情報の質がアップすると確信する。

「獣医畜産新報」2013年2月号 掲載

William H.Miller Jr., Craig E.Griffin, Karen L. Campbell

『Muller & Kirk's Small Animal Dermatology 7th ed.』

2013年・Elsevier発行・¥24,624(税込)

評者 ASC皮膚科院長・どうぶつの総合病院診療統括部長 永田雅彦

今から24年も前の話である。私にとってはじめての海外渡航が米国コーネル大学への皮膚科研修であった。この地を訪れたのは、『Small Animal Dermatology』のオリジナル著者のお1人であるRobert Kirk先生が設立した獣医皮膚科があり、さらに当時出版された本書第4版の主たる執筆をしていたDanny Scott先生がその教授を勤めていたからである。わずか1年しか滞在できなかったが、この間に本書を2回精読したことを覚えている。本書は版を替えるごとに執筆者が代わり、第5版ではオリジナル著者のお2人が退かれ、同じコーネル大学のWilliam Miller Jr.先生と同大卒のCraig Griffin先生が参加、そして今回出版された第7版ではDanny Scott先生が退かれ、初めての女性著者としてイリノイ大学のKaren Cambell先生が招聘された。これまで約5年の周期で改訂されてきた本書は獣医皮膚科学のバイブルと呼ばれ、常に最新の情報が満載されてきた。ところが2001年の第6版以降、なんと11年も沈黙があり、その歳月を経てこの度まったく新しいバイブルが生み出された。これまでは3名の著者により執筆されていたが、今回は3名の監修のもと合計17名の著者によって執筆されている。また出版社はELSEVIERとなり、膨大なボリュームを効率よくカバーすべく実に無駄のないレイアウトとなって、読みやすさに配慮し各章には付箋が添えられ、驚くなかれ全ページカラー印刷で仕上がっている。コンテンツは従来の流れに準じ21章で構成され、しかも図表の質がこれまでと比べて格段に向上し、皮膚科の醍醐味である臨床や病理のカラー写真が1,300以上も掲載されている。もちろんバイブルの本質である文献の網羅的収集は本書でも遺憾なく発揮され、国内外ジャーナルに留まらず、興味深い学会抄録も拾い上げられている。当然のことながら皮膚臨床に関わる獣医師や皮膚科学を学ぶ学生の必読書であり、さらに皮膚科研究者にもなくてはならない1冊である。本書が届いてまだ1週間、多くを語るには十分といえないが、全938ページを誰よりも早く読破したいと息を巻いている。
最後に、本書のオリジナル著者であるRobert Kirk 先生、そして獣医皮膚科の父と言われているGeorge Muller 先生が、一昨年ご一緒に他界されたことに触れておきたい。1969年に初版が刊行され、43年の長い歴史をもって本書が今年刷新されたのは、彼らの魂が乗り移ったからなのでろうか。この場をお借りしてお2人に改めて敬意を表すとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。平成24年12月31日ASCにて

「獣医畜産新報」2013年2月号 掲載

Stephen J.Withrow, David M. Vail, Rodney Page

『Withrow and MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 5th ed.』

2012年・Elsevier発行・¥17,885(税込)

評者 ダクタリ動物病院名誉院長・コロラド州立獣医科大学Affiliate Faculty Member 加藤 元

最初に、執筆編集の代表者であるDr. Stephen J Withrow(コロラド州立獣医科大学)、Dr. David M. Vail(ウィスコンシン州立獣医科大学)、コロラド州立獣医科大学動物がんセンターに第2代所長・教授として着任されたDr. Rodney Page(ノースカロライナ州立獣医科大学、コーネル獣医科大学腫瘍内科学教授を歴任)らは、この本が人と動物との双方のすべての臨床腫瘍学の研究者、医学系学生、獣医科系学生たちのためのOne Medicineとしての分子細胞腫瘍学を基礎とし、がんの生物学的な生態の解明、臨床における診断、治療、さらに比較腫瘍学においても最高のテキストブックにしたいと述べていることを紹介しておく。
おそらく、全世界の文明国の動物たちのがんについて、獣医学的、医学的に、正確に知りたいBiomedical Sciences生命医科学に携わる獣医師、医師、すべての臨床獣医師、獣医学生や医学生にとって(獣医学、医学に携わる大学の先生方を含め)、1冊だけ比較臨床腫瘍学の成書を選ぶとなれば、私は躊躇なく本書を推薦したい。
『Small Animal Clinical Oncology』の初版は(24名執筆)、1989年に出版され、その後版を重ね、第2版1996年、第3版2001年、第4版2007年(52名執筆)、さらに第5版である本書がこの度、65名の執筆陣により全体の約20%が改訂され、内容が倍増されている。なお、初版は1995年に、第4版は2010年にどちらも文永堂出版により日本版が翻訳出版されている。
Dr. Withrowは本書の代表著者・総編集者であり、米国の代表的な臨床腫瘍学者であり、特に腫瘍外科のパイオニアの1人である。彼はニューヨークのAMC(Animal Medical Center)の勤務医時代から、人の臨床腫瘍学のメッカであるミネソタ州のメイヨークリニック、世界的に有名なニューヨークのスローンケタリング病院など、人の臨床腫瘍家との密接な交流を通じ、獣医臨床腫瘍学を発展させてきた。
コロラド州立獣医科大学動物がんセンター(2002年に世界で初めての動物がんセンター)が開設された。そして初代所長・教授のDr. Withrow(人の骨肉腫をはじめ外科・内科治療にも大きな貢献をしてきた)および、各獣医科大学や比較腫瘍学の研究者たちによって、臨床腫瘍内科・外科学、腫瘍放射線治療学などの分野で豊富な臨床例の集積が行われている。それらの研究者・臨床家の協力のもと、第5版ではその成果が盛り込まれるとともに、すべての章がアップデートされている。
また分子細胞生物学、腫瘍遺伝学、腫瘍免疫学などの基礎的研究の進歩と実際が分かりやすく詳しく述べられている。さらに犬のゲノムの解析完了、分子細胞生物学、薬理薬物学などの長足の進歩を反映し、腫瘍診断学、特に生検と細胞診、腫瘍病理組織学の重要性、腫瘍外科、腫瘍放射線治療学、各種の腫瘍化学療法、腫瘍分子ターゲット療法などの進歩が取り込まれている。
「One Medicine」、「One Health」、「Evidence-based Medicine」、「Bond-centered Practice」を目指し、2012年現在における、すべての進歩を余すところなく取り込んでいる。第4版に初めて「Organized Medicine」が取り上げられ、国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)を中心に、人と犬との比較腫瘍学に関する2つのconsortium(1つは犬比較腫瘍consortium、もう1つは比較腫瘍診断治療consortiumと呼ばれるプログラム)のスタートで比較腫瘍学の飛躍的な発展、「Organized Medicine」が一層促進され、第5版には画期的な成果が盛り込まれている。
このような成果は、NCI、獣医科系大学、医科系大学、製薬業界の研究者たちの全面的な協力の下に行われ、consortiumのメンバーたちの統括的で集中的なデータ管理と膨大な症例の検討と集積は、特にモーリス動物財団(世界の小動物の臨床獣医栄養学の学術ベース)の協力によるものであることを言い添えておく。

「獣医畜産新報」2013年2月号 掲載

Kathleen A. Cooney, Jolynn R. Chappell, Robert J. Callan, Bruce A. Connally

『Veterinary Euthanasia Techniques A Practical Guide』

2012年・Wiley-Blackwell発行・¥8,552(税込)

評者 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 西村亮平

この本は、タイトルにもあるように動物の安楽死に関する実践書である。動物の安楽死に関する記述は、麻酔の教科書を中心に結構数多くあるが、多くは概念的なもので安楽死を具体的にどう行うべきかにつての情報は十分ではなかった。動物の安楽死のガイドラインとしてAVMA(American Veterinary Medical Association、数年おきに改定されている)が出したものがあり、広範囲な動物種について推奨される安楽死法や使用する薬剤などの記載がある。しかし、これにも具体的な実施方法までは記されていない。本書は、安楽死を動物の飼い主とどのよう決めていくのか、必要な器具、保定法、安楽死前の鎮静・麻酔、具体的な安楽死の方法、遺体の処理法の順で構成されており安楽死を適切に行う実際を細かく知ることができる。ちなみに筆者の1人のDr. Cooneyは、安楽死の専門機関のオーナーと記されており、豊富な経験をもとに書かれたものと推察される。ただし本書はエキゾチックアニマルを含めたペットと生産動物を中心に扱っており、実験動物の安楽死についてはあまり記載がないので注意が必要である。
以前の調査で、日本の獣医師の大部分が安楽死を経験しており、安楽死を行うことは正当な医療行為であると考えている。一方で、安楽死に対して抵抗感が強く、自分から患者の安楽死を申し出る獣医師の数は少なく、また安楽死の際には飼い主が同席することを求めるものが多いことも報告されている。日本では安楽死の話は出ていても、飼い主が実際に安楽死を選択することはあまり多くない。お互いに精神的な緊張感が高い中で行われる安楽死に対しては、決定に至る思考回路をしっかり構築することが重要であり、またより適切な方法でなされる必要性も高い。
獣医師、獣医学生、看護師を始めとする動物の安楽死を行う、あるいはそれを補助する人にとってとても参考になる1冊である。個人で買いそろえる必要はあまりないと思うが、病院に置いておきたい1冊である。

「獣医畜産新報」2012年12月号 掲載

Katherine E.Quesenberry, James W.Carpenter

『Ferrets, Rabbits, and Rodents:Clinical Medicine and Surgery 3rd ed.』

2012年・Elsevier発行・¥11,398(税込)

評者 林屋生命科学研究所所長 深瀬 徹

『Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery』は、1997年に初版が発行されて以降、2004年に第2版、そしてこのたび2012年に第3版と版を重ねている。版を重ねるということは、この書物がそれだけ広く受け入れられている優れたものであることの証左であろう。7年ないし8年で新しい版を出版しているが、この間隔は、エキゾチックアニマルに関する診療の発展を反映するのに、短すぎず長すぎず、ちょうどよい期間であるかもしれない。
では、本書の内容を簡単に紹介しておきたい。扱っている動物種は、フェレット、ウサギ、モルモットとチンチラ、小型齧歯類(ラット、マウス、ハムスター類、スナネズミ)、さらに、書名の範疇には含まれないが、その他の小型哺乳類としてカンガルー目(有袋類のうちの1つのタクソン)に属するフクロモモンガとハリネズミ目のヨツユビハリネズミとなっている。エキゾチックアニマルといわれてペットとして飼育されている動物の種は多岐にわたるが、サル類を除けば、哺乳類のなかで代表的なものはほとんどが含まれているといっても過言ではない。しいていえば、リス類についても述べられていれば、よりよかったというところか。
これらの各種の動物について、解剖学と生理学、飼育法、診療手技に続いて、各種の疾病がおおよそ器官系ごとに記載され、また、最後の章には、一般論として、麻酔法と鎮痛法および沈静法、歯科診療、整形外科診療、内視鏡を用いての検査と治療、画像診断、血液学的検査と細胞診、眼科診療、救命救急診療、行動学、人と動物の共通感染症についての項が設けられている。エキゾチックアニマルの診療を行うとき、その準備と日常的に遭遇することが多い疾病への対応に関しては、ここに記載の内容で十分であるように思う。
加えて、付録として、薬物の投与量のリストが動物種ごとに一覧となっており、投薬量を考える際に有用といえる。ただし、投薬量の根拠となる文献が示されていないのが残念ではある。エキゾチックアニマルに使用する薬剤には、承認薬がない。そのため、記載する投与量には、文献を示し、必要に応じてそれを参照できるようにしていただきたいと思う。もっとも、エキゾチックアニマルへの薬物投与量に関しては、詳しくは『Exotic Animal Formulary, Fourth Edition』(獣医畜産新報、Vol. 65、No. 11、p. 959、2012に書評掲載)などを参考にすればよいだろう。
エキゾチックアニマルの診療を行う際、何冊かの書物を備えてくとよいことはいうまでもない。そのときに選ぶべきものとして、本書『Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery』と、そして上にご紹介した『Exotic Animal Formulary』をお奨めしたい。

「獣医畜産新報」2012年12月号 掲載

James W.Carpenter

『Exotic Animal Formulary 4th ed.』

2012年・Elsevier発行・¥8,677(税込)

評者 林屋生命科学研究所所長 深瀬 徹

薬は、ある程度以上の量を投与しなければ、その効果を得ることはできない。しかし、だからといって、多く投与すればするほどよいというわけでもない。
薬理作用を発現する最小の用量を最小有効量(限量、ED0)、すべての個体が反応する用量を最大有効量(極量、ED100)、この間で半数の個体が反応する量を50%有効量(ED50)という。
また、個体が死に至る最小の用量を最小致死量(耐量、LD0)、半数の個体が死に至る用量を50%致死量(LD50)とする。
ここで、ED50とLD50の比(LD50 / ED50)を治療係数といい、いわゆる人体薬では、治療係数が10以上であれば安全、3以下だと危険と考えられている。標準的な投与量、すなわち常用量は、こうした治療係数などを考慮して定められる。
医薬品は厚生労働大臣、動物用医薬品は農林水産大臣の認可を受けて製造や販売が行われるが、この承認を得るためには、用量設定試験や安全性試験、毒性試験などを実施する必要がある。したがって、承認薬の推奨用量には、それなりの根拠があるということができる。
しかし、エキゾチックアニマルの場合はどうか。承認薬がないのが現状である。獣医師は、他種の動物のために承認されている薬剤を自らの責任において処方することになり、その際の投与量も自らが決定しなければならない。とはいえ、まったくの白紙の状態で投与量を考えることはできないから、人間や犬あるいは猫などにおける用量をもとに推定するのだが、動物種によって薬物代謝のメカニズムや代謝サイズが異なるため、話はそれほど単純ではない。
さて、本書『Exotic Animal Formulary, Fourth Edition』の紹介である。この書物は、エキゾチックアニマルといわれてペット用に飼育される各種の動物について、哺乳類については種ごとに、それ以外は鳥類、爬虫類、両生類、無脊椎動物としてまとめているが、これらの動物に対する薬物の投与量を表の形で示している。エキゾチックアニマルに対する用量設定や安全性に関する試験が行われた薬剤は少ないため、経験的な使用にもとづく記載が多いことは否めないが、掲載されている投薬量は多くの報告にもとづいており、その根拠となる文献が明示されているのが嬉しい。
さらに、投薬量に加えて、生理学的な種々のパラメーターや血液学的検査所見、血液生化学的検査所見、その他、動物種あるいはグループによって注意すべき諸々のことが一覧となってコンパクトにまとめられている。
本書の内容はほとんどが表であるため、英語が不得意でも大丈夫。エキゾチックアニマルの診療の現場に常備すべき1冊だと思う。

「獣医畜産新報」2012年11月号 掲載

Theresa Welch Fossum

『Small Animal Surgery 4th ed.』

2012年・Elsevier発行・¥29,290(税込)

評者 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 西村亮平

“Fossum”とだけ呼ばれることも多い『Small Animal Surgery』に待望の新版(第4版)が出た。第3版が出たのが2007年初めだったので5年半が経過したことになる。新版では約半数の著者が入れ替わり、再生医療と外科のための高度画像診断の章が加わった他、神経検査や低侵襲手術における新しい情報などが加わっている。一方で、全体の内容は従来通りstep-by-stepで記載されて非常に読みやすく、またイラストが多用されているので、これから実際に手術を行おうという場合にとても役に立つ。また、“NOTE”や“BOX”が随所に配置され、注意すべき点も分かりやすい。扱う内容も、基本的な外科手術からまれに行うものまで幅広く、この1冊で必要な分野がほぼ網羅されている。さらに本書で使われている英文は分かりやすく、専門用語が大体分かればそれほど苦労しないで読み進めることができる。最近の獣医学の進歩は速い。ネットに情報があふれている時代には、英文の最新情報を常に取り入れておく努力が求められている。
第4版のもう1つの特徴は、最近のこの手の本の多くがそうであるように、オンラインサポートも用意されている(書籍版だけのものもあるので要注意。値段はあまり変わらない)。Web siteにアクセスし、本に記載の個々のactivation codeを入力すると本文を全文読むことができる他、使われている図が別にも用意されjpgとパワーポイントスタイルで提供されている。本文がオンラインで読めると、出先でも気軽に読めるため、学会等で出張しているときにはとても重宝している。さらにこのweb siteではreferenceがPubMedにリンクされており、さらに読み進めることが簡単にできるようになっている。この他ビデオも用意されており、より理解を深めることができる。このビデオは今のところは領域が限られているが、今後コンテンツが充実していくものと思われる(2か月に1度内容がアップデートされるようだ)。他では見かけない内容として、各々の手術ごとに飼い主に対する退院指導書が用意されている。もちろん英文なので、そのまま使うことは難しいが、これを参考に各病院で独自のものを作るのもいいだろう。この書評の執筆時にはまだ公開されていないが、"fracture management application"も用意されている。ぜひ手元において、webとともに楽しんでいただきたい1冊である。

「獣医畜産新報」2012年10月号 掲載

Robert J. Washabau & Michael J. Day

『Canine & Feline Gastroenterology』

2012年・Elsevier発行・¥20,995(税込)

評者 宮崎大学農学部附属動物病院准教授 鳥巣至道

本書は、肝胆道系、膵臓を含む消化器病学の集大成ともいえる本である。Robert J. WashabauとMichael J. Dayが17か国85人の消化器病のスペシャリストを招集し、消化器疾患の基礎的な解剖や生理から、内視鏡、腹腔鏡に至るまで事細かに記載してある秀逸の教科書といえる。
本書の特徴としては、臨床家が今すぐ知りたい内容を探せるように、各種のアプローチ法が事細かに分類されていることである。例えば、腹痛を示す消化器疾患へのアプローチ、栄養学的アプローチ、画像診断のアプローチ、薬理学的アプローチなど知りたいと思う項目が一目でわかるつくりになっている。中でも、病理組織学の解説では豊富な組織写真が、非常に分かりやすく解説してある。
肝胆膵を含む消化器疾患を理解するうえでは、病態生理や薬理学はもちろんであるが、病理学の知識がかなり必要となる。病理組織学的な知識があると、その疾患の全体像が把握でき、なおかつ治療方針も明確に決めやすくなる。しかし、従来の消化器病の教科書や参考書は、白黒で印刷されており、お世辞にも見やすい内容ではなかった。本書は、カラーで印刷されており、また画像やイラストも上質である。また、知りたい内容を調べる上でも、疾患名がわからず臨床症状だけだとなかなか教科書で調べることは困難であったが、本書はいろいろな角度からのアプローチ法が記載されているので、この本を開けば、答えがある可能性は高いといえる1冊である。
また本書は、臨床家が経験ではなんとなく理解しているようなことが、理論的にイラストや写真で図解してある(これには、本当に驚かされた!例えば、消化管壁がレントゲンで分厚く映るのは、なぜか?など)。この本で、何気なく目の前にいる消化器疾患の患者について調べだしたら、次から次へとページをめくっていくに違いない。そして、知りたいことが分かった時には、その疾患のスペシャリストになれるかもしれない。
知りたい内容を調べた後は、病態生理の項目も是非一読していただきたい。分子生物学的知識や免疫学的知識がないと、読み進めるのは少し根気がいると思われるが、豊富なイラストに助けられながら読み進めることで、消化器疾患の全体像が理解しやすくなる。治療法や投薬の項目だけではなく、なぜその薬が必要なのか?どうやって作用しているのか?どのようなデータがあるので、こんな治療法が選択されているのか?などもコンパクトに記載してある。
本書は本棚に飾るものではなく、診察室に置いて常に参考にするべき1冊であり、明日からの消化器疾患の診療に必ず役に立つと思われる。

「獣医畜産新報」2012年10月号 掲載

Steven E. Holmstrom

『Veterinary Dentistry A Team Approach 2nd ed.』

2012年・Elsevier発行・¥9,066(税込)

評者 フジタ動物病院院長 藤田桂一

現在、動物病院では獣医師1人だけで日常診療を行うことは困難である。人の医療では、すでにチーム医療という言葉があるように医師とともに他の医療スタッフが協力しあって十分な治療や看護、ケアを行える環境が整いつつある。
一方、現在、日常の獣医歯科医療では、個体の全身状態の把握、処置前の血液・血液化学・血液凝固系検査、全身X線検査、必要に応じて超音波検査、飼い主との承諾・同意書の記入、歯科器具器材の準備、処置前・中・後の薬剤投与、口腔X線検査、全身および局所麻酔、疼痛管理、歯科治療、歯科器具器材の片づけ・洗浄・消毒、処置後の注意事項の説明、デンタルホームケアなどを実施していると考えられる。これらの一連の処置において動物病院内の複数のスタッフの協力なしに実施することは極めて困難である。
本書は、獣医歯科学の第一人者のDr. Steven E.Holmstromが、基本的な獣医歯科学全般について書かれた書籍である。Dr. Steven の巻頭の言葉で、多くの歯科医療を実施する際の関連事項‐麻酔、口腔X 線検査、歯科治療、入院、薬剤投与、ケアグッズの販売などに対してチーム医療を行うことで医療サービスが拡大され、適切な歯科医療が展開できると述べられている。本書の読者の対象は、獣医師ばかりでなく、獣医学生、受付、動物看護師、および獣医歯科助手であり、獣医歯科において必要な臨床の知識や技術、ケアの仕方、および術者のストレッチの方法などを教授する目的で書かれている。
その内容は、獣医歯科学の序論、口腔検査と診断、歯科器材、自己防御と人間工学、局所麻酔、歯周病の発生機序、予防歯科処置、ホームケアの方法とオーラルケアグッズ、歯周治療、猫の歯科学、歯科X線検査、抜歯、進んだ歯科治療(歯周外科、歯内治療、歯冠修復、歯科矯正)、齧歯類・ウサギ・フェレットの歯科学、獣医歯科市場を含み、広範囲の獣医歯科が学べるように構成されている。各章の冒頭には、その章の内容が瞬時に把握できるキーワードと概略、学ぶべき目的が書かれており、紙質も優れ、鮮明で美しいカラー写真とイラストが豊富に掲載されている。いずれの内容も文章が短く、簡潔に書かれているので、初めて獣医歯科を学ぶ獣医師や動物看護師あるいは獣医学生にぜひお勧めしたい。巻末には、ワークシート(質問と答え)が掲載され、その章を適切に理解しているか否か自分で確認することができる。また、American Veterinary Dental College(AVDC)が使用している歯科用語の略語と2011年にAVDCが是認した用語の定義、ならびに歯科器材の一覧表も掲載されている。さらに、歯科用語の解説も付随しており、あたかも歯科用語辞典のような頁もある。全体的に、いたれり、つくせりの最新情報が網羅された書籍といえる。

「獣医畜産新報」2012年10月号 掲載

Donald E. Thrall

『Textbook of Veterinary Diagnostic Radiology 6th ed.』

2012年・Elsevier発行・¥19,181(税込)

評者 帯広畜産大学教授 山田一孝

待望の『Veterinary Diagnostic Radiology』第6版が刊行された。2007年以来5年ぶりの改訂である。本書は、獣医放射線学の専門家39名によって執筆された獣医画像診断の教科書で、第6版にはDigital Radiography、CT、MRIの画像が追加され、以前にも増して充実した内容となっている。獣医放射線学を学ぶ学生、臨床家のための標準的な教科書といって間違いない。
臨床画像の説明には、典型的な「写真」を用いる方法と、特徴をとらえた「イラスト」を使う方法があり、それぞれ一長一短である。全く同一の症例は存在しないことから、同じ疾患であっても全く同一の「写真」は存在しない。つまり、所見の成り立ちをわかっていなければ、「写真」だけ見ても理解できない。一方、「イラスト」は特徴所見を的確にとらえているものの、経験がなければ実際の画像をイメージできない。本書は「写真」を中心に構成されている。そして、所見が理解できるよう、詳しい付図説明がついている。
私が考える本書の特徴として、まず圧倒的に豊富な写真数が挙げられる。臨床で実際に遭遇する画像が網羅されている。なお、情報の量が多いので、最初から読み進めるよりも辞書のように調べる使い方が便利である。次に、検査のモダリティがX線、超音波、CT、MRIと系統的に網羅されている点がよい。特にDigital Radiographyはこれまで馴染みがあったフイルムスクリーン法との違いが説明されているし、第5章のX線画像の解釈は、そのまま授業で使える内容である。さらに、小動物だけではなく馬の画像診断についてもかなりのボリュームが割かれている。内科や外科の専門医は、小動物と馬で区別されているが、米国獣医放射線専門医は、動物種を限定せず馬も伴侶動物として診療対象としている所以である。さらに特筆すべき点として、また、本書に収められている画像はウェブサイトから無料でダウンロードすることができる。自習用に画像ライブラリーを作ることも可能である。
第2版が日本語訳されてから15年が経過した。この15年間に獣医画像診断は飛躍的に進歩した。Digital Radiography、CT、 MRI、超音波を含んだ第6版の訳本が待ち遠しい。

「獣医畜産新報」2012年9月号 掲載

Simon T. Kudnig & Bernard Sguin

『Veterinary Surgical Oncology』

2012年・Wiley-Blackwell発行・¥22,679(税込)

評者 東京農工大学動物医療センター教授 伊藤 博

国内における一般的な外科の教本としては、すでに第3版が出版されている『Textbook of Small Animal Surgery』が多くの獣医師や学生に使用されている。また、他の外科手技に関するテキストや教本は、実用的な外科手技を中心に解剖学やイラストおよび手術時の写真などがふんだんに掲載され、極めてわかりやすく解説されている。しかしながら、腫瘍に関する教本は『Small Animal Clinical Oncology』、『Felline Oncology』、『Small Animal Oncology: An Introduction』など腫瘍全般に関して解説している内容が多く、専門的な外科教本は極めて少ないと思われる。
本書は、学術論文による科学的なエビデンスに基づいた新しい知見が系統立てた内容で記述されており、外科手術の手技は勿論、臨床における最も適切な治療法の選択や学術発表などの情報提供に大きく貢献できるものと思われる。
各章では、外科手技に関連する解剖学的な関連性をイラストと術中の写真を組み合わせてリアルに描出しているとともに、腹部および胸腔鏡における術式やステプラ-を用いた新しい方法も掲載されている。特に腫瘍に関する写真やイラストは、術式で注意しなければならない縫合法や皮弁法などのポイントなどが描写され、その内容が詳しく記述されている。例えば顔面部分の腫瘍をどこまで積極的に摘出するかは、その外科医の経験に基づいた主観的な説明に委ねられることが多く、飼い主とのインフオームドコンセントに難を要することもある。しかし、本書は、腫瘍の形態や術後の顔面部分の変形などが写真やイラストにより詳細に描写されていることから、アグレッシブな摘出手術が必要とされる飼い主さんへの説明には十分活用できるものと思われる。
また、腫瘍外科の専門書でもあるが、術式以外に各種腫瘍におけるヒストリ-、臨床症状あるいは臨床ステ-ジによる犬と猫の違いなども詳細に記述されている。さらに、診断の基本である各種バイオプシ-法や抗がん剤療法、免疫療法も含めた内科的治療方法や放射線治療が紹介されている他、それぞれの腫瘍における内視鏡、X線、CTおよび超音波画像の情報が豊富に盛り込まれている。
前にも述べたように犬や猫に関連する臨床腫瘍学の専門書は、国内版も含めて数多くみられるが、腫瘍外科に特科された教本は、極めて少ない。本書は、腫瘍外科学の“集大成”といえる内容であることから、ぜひとも腫瘍外科医として手許に置いておきたい逸品である。今後、腫瘍外科医としての手術手技を研磨し、腫瘍の基本をマスタ-したいと希望されている学生、大学院生および獣医師には、無くてはならない専門書であると思われる。

「獣医畜産新報」2012年9月号 掲載

Howard E. Evans, Alexander de Lahunta

『Miller's Anatomy of the Dog 4th ed. 』

2012年・Elsevier発行・¥22,032(税込)

評者 日本獣医生命科学大学教授(獣医内科学教室第二) 竹村直行

Miller’s Anatomy of the Dog (4th ed.)を拝見して感じたこと
本書の原書第1版は、我が国では東京モノレールや東海道新幹線が開業した1964年に発行されている。この翻訳書は1970年に和栗・醍醐両先生のご尽力により学窓社から発行されている。筆者も日獣大に入学してこの翻訳書を購入してはみたものの、当時の著者には判りにくい箇所が多く、読破できずに放り出してしまった記憶がある。原書第2版は1979年に、そしてその翻訳書は同じく学窓社から望月先生の監修で1985年に発行されている。残念ながら、筆者は1993年発行の原書第3版を拝見したことがない。また、第3版は翻訳出版されなかったようだ。
さて、第4版の特徴として大部分の図版がカラーになったこと、そして随所に挿入されている写真はより鮮明なものと差し替えられたことの2点をまず挙げることができる。加えて、これまでの原書や翻訳書をご覧になった先生方ならご存じのように、これまでの本書の英文は決して平素で読みやすいものではなかったが、今回の改訂では文書も非常に読みやすく改められている。また、臨床と解剖学の接点が随所で述べられていることは最近の風潮と言えよう。
これは筆者の独断だが、本書において初版から貫かれている最大の特徴は、解剖図を写真ではなくイラストで提示していることではなかろうか。現代の技術を考えると、鮮明な写真を教科書に掲載することは容易なはずである。本書がカラーになったとはいえイラストに敢えてこだわったのは、おそらくイラストだからこそ読者に伝えることができる「何か」があると執筆陣が確信していたからではなかろうか。
「こんな風に綺麗なスケッチを書けるようになりたい」、「写真では余計な構造物まで写ってしまうが、イラストならすっきりして判りやすい」、「写真と異なり、必要があれば色分けするなどして、理解がより容易になる」…などなど、 その「何か」の正体は読者毎に様々であって良いように筆者は感じる。自分なりに「何か」を見つけることが、本書の本当の楽しみ方なのではないかと思う。そう、本書は理屈抜きで「楽しめる本」なのだ。だからこそ、約半世紀にわたって獣医学の分野に君臨しているのではなかろうか。
以前の翻訳書と格闘されたベテラン臨床家におかれては、この第4版は学生時代の思い出と忘れかけていた知識を甦らせてくれるのと同時に、現代風の解剖学の楽しさを伝えてくれる格好の書籍であろう。そして、現役の学生諸君におかれては、先ほど述べた「何か」を感じ、見つけるために何回も何回も楽しみながら頁を括ってみてはいかがであろう。このような時間も決して悪くないものである。

「獣医畜産新報」2012年8月号 掲載

Ian R.Tizard

『Veterinary Immunology 9th ed.』

2012年・Elsevier発行・¥12,954(税込)

評者 鹿児島大学共同獣医学部教授 望月雅美

これまでは少し古いけれども『Handbook of Vertebrate Immunology』(Academic Press)が、動物種別に免疫機能が解説されているのでお気に入りであった。一方、免疫学の基本的なところは、人やげっ歯類などの免疫学を基に解りやすく解説し、邦訳もあって読みやすい『免疫学イラストレイテッド』(南江堂)や『エッセンシャル免疫学』(MEDSi)などのお世話になって、進展著しい免疫学に置いてきぼりをくわないようにしてきた。ごく最近まで神保町が近くであったことから、年に数回、三省堂や書泉に出かけては新しい免疫学の教科書、特に一目見て絵図が多用してあってやさしそうな書籍を衝動的に買い求めてきた。また最近の免疫学には分子生物学的な技法による詳細で解りにくいデータやギリシャ文字が溢れているため、その道の専門家でない小生には理解がおぼつかないことも多くなって、年式落ちの総説ばかりを漁っている。そして見渡してみると、「Manual だとかAtlas of ナントカImmunology」といった入門書籍が本棚に溢れている。ほとんど読んでいない。ウイルス学や感染症学の書籍ではそのようなことがないのに、これはやはり不得手にしている左証に違いないと思う。
さて本書を手に取ってみた。ソフトカバーの本文512頁から成っている獣医学専攻学生と臨床家向けの書籍である。開いた第一印象は書名からは想像できないほどイラストや写真が多いことであった。15分ほどかかったが数えると、図、表、それからBox(囲み記事)は各々524、49、49で、1頁に1つは図が入っており、横文字羅列の圧迫感はない。加えて、全部で41章もある。それも読者が知りたいところを選んで章立てているようにも見えるし、臨床事例も多い。ワクチンとその使い方、アレルギー、自己免疫と免疫不全、血液型や輸血、免疫系作用薬あるいは免疫学的診断技術などは診断と治療の方針決定に有用であろう。各章はおしなべて10頁前後(7~23頁、平均12.5頁)で、一気に読める量に、途中で放り出さないように意図的にしてあると感じた。外国語で書かれた文献も書籍も、読んでいる時は「ふんふん」と理解していても少し読み進むと前の部分を忘れてくるのは小生だけではないだろうと敢えて話すが、そんな時は、必ずabstractを読み直してからまた読み進む。本書は各章の始めに章内のキーワード目次とKey Pointsが列記されている。このKey Pointsは役に立つ。
実は本書を手にしたのは今回が初めて。これが第9版だそうで不明を恥じているが、機会がなかったので仕方がない。著者が特に勧めているのは本書のための「Evolve Website」の活用である。答え付きの多項式選択問題(450問以上)、ドリルカード、アニメーション、PubMedに合わせた各章毎の全ての参考文献に加えて、毎月、獣医免疫学に関する最新文献情報によるアップデートも入手できる。出版業界の最近の流行である。

「獣医畜産新報」2012年7月号 掲載

Karen M. Tobias, Spencer A. Johnston

『Veterinary Surgery Small Animal』

2011年・Elsevier発行・¥34,726(税込)

評者 北海道大学獣医学部教授 奥村正裕

本書は小動物外科の分野で欧米を中心に活躍する最も秀でた臨床獣医師たちが、外科に関連した基礎医学から最新外科手術学、そして外科分子生物学に至るまでを網羅したものである。これまで系統だった総合的な小動物外科の教科書として発刊されたものでは、『Textbook of Small Animal Surgery』(1985)が最も有名である。この教科書では多くの参考文献が引用され、科学的かつ臨床的に論理だったものとして多くの臨床獣医師に用いられてきた。その内容は解剖学、生理学から最新の外科技術に至るまで解説されたいわば“小動物外科医のバイブル”であった。この監修者であるDr. Douglas Slatterは、2003年にその第3版を仕上げた後、2005年に他界した。本書は、その『Textbook of Small Animal Surgery』のいわば第4版(プラスアルファ)と思われるほど、内容とそして最新知識が網羅されている。
本書では、正確な診断と適切な治療は正しい解剖学と生理学の理解に基づいて形作られ、そして最終的に素晴らしい外科的技術を手にすることができるという最も基本的かつ重要な理念に基づき一貫して必要な情報が示されている。外科生理学のセクションには、細胞生物学から分子生物学をも含み、近年、臨床診断学で重要視されてきたバイオマーカー、新世代の治療としての幹細胞療法などまで解説されている。もちろん、輸液、ショック、出血、創傷治癒なども色彩を駆使した立体的なイラストによってわかりやすく示されている。基本的な手術学、麻酔学、診断学なども丁寧に解説されている。各論でも立体的なイラストは基礎的な解剖・生理学から診断学、そして外科手術に至るまで使用され、大変わかりやすくなっている。また、CTやMRIの画像もふんだんに使用され、先端画像診断の一般化にも役立つ内容となっている。これだけ多くの内容を網羅するために、紙面は効率的に使用され、参考文献は、Webページを参照するようになっているなど工夫が施されている。まちがいなく、本書(2冊)で小動物外科学体系といえる内容である。
とても先端的なことが示されている本書ではあるが、生理学の基本から最先端の内容まで示されおり、学生から経験深い獣医師まで、飽きることなく知識の吸収ができるものと考える。一般的に用いる技術的な内容が多い外科学の教科書の中で、最も正統派の総合的教科書である点は、前述の『Textbook of Small Animal Surgery』と同様である。小動物外科学に携わる獣医師であれば、すべての方に深くお勧めする教科書である。決して平易な内容ではないが、基本に忠実に、そしてきわめて標準的で確かな外科学の知識を得るための教科書として本書が活用され、それが多くの動物たちの健康に寄与することを祈っている。

「獣医畜産新報」2012年7月号 掲載

June A. Boon

『Veterinary Echocardiography 2nd ed.』

2011年・Wiley-Blackwell発行・¥23,586(税込)

評者 日本獣医生命科学大学教授 小山秀一

第1版は1998年に発刊され、各断層像の描出方法や評価ポイント、心機能評価および臨床例など写真や図を用いて具体的に解説されており、犬猫および馬の心エコー図法のバイブル的書籍であった。そして、その後約10年の間に、獣医学領域での心エコーは、超音波診断装置の技術的進歩および普及によりめざましい発展を遂げている。その約10年間に蓄積されたデータや新しい技術を踏まえ、2011年に本書第2版が発刊されている。
第2版では、超音波の原理から始まり、断層心エコー検査で必要な各断層像を描出するための、プローブ走査をより理解しやすく解説している。特に、各断層像の見え方および描出テクニックは、簡潔にまとめられており読者にとって非常に読みやすい構成になっている。また、Mモード法およびドプラ法に用いられる断層像、描出テクニックおよび見え方も同様である。
そして、心エコー検査の基本である各断層像での評価ポイントを多くの写真を用いて具体的に示している。心エコー検査では様々な計測を行うが、計測に用いる断層像の描出の注意点、計測方法のポイントや注意点および判断基準なども別枠に書き出されている点がありがたい。心機能評価については、従来から用いられている指標の内容が充実しており、参照値等も詳しく出ている。特に、パルスドプラ法を用いた左室流入血流や連続波ドプラ法を用いた逆流血流等から得られる情報に関し充実した内容となっている。また、新しい技術として導入されている組織ドプラ法を用いた心機能評価の新た指標とその解釈が紹介されている。
臨床例に関しては、第1版では後天性心疾患としてまとめられていたものが後天性弁膜症、高血圧性心疾患、心筋疾患、心膜疾患と腫瘤とそれぞれ独立した章から構成されており、多くの臨床例を通して心エコーを理解できる。また、先天性心疾患も短絡性疾患・弁異形成と狭窄性疾患に分けて詳しく解説されている。
そして、非常にユニークなのが、各章の最後に小テスト問題があり、各自がどの程度内容を理解できているか自己判断できる点である。また、付録としての心エコー計測値の参照値がより充実されており、牛、犬、馬、猫およびその他の動物での品種別や年齢・体重別の参照値が記載されている。
心エコー検査を行っている者にとって、本書はぜひ手元に置いておきたい1冊ではないかと思われる。

「獣医畜産新報」2012年5月号 掲載

John W.Harvey

『Veterinary Hematology A Diagnostic Guide and Color Atlas』

2012年・Elsevier発行・¥11,398(税込)

評者 株式会社アマネセル代表取締役 高橋秀俊

本書のタイトル『Veterinary Hematology』は、一見すると血液学の教科書風であるが、副題には「A Diagnostic Guide and Color Atlas」とあり、教科書と言うよりは、実技書とういう印象を受ける。各ページの上等な紙質に加えてソフトな装丁も、勉強机から病院内の検査室デスクの顕微鏡横に持ち運びすることを意識しているかのようだ。
造血系細胞のみに留まらず、解剖学、組織学、生理学、生化学などの基礎的な情報は豊富で、各内容の要点は「BOX」として箇条書きにまとめられており、理解しやすい。血液細胞の発生から分化が、形態変化とともに解説されて、わかりやすく、血液学の基礎学習に必要な要素が全て網羅され、血液学の教科書としてはこの1冊で充分な内容である。
血液の採取・塗抹から始まる実技の解説は丁寧で、各種染色法の特徴や利点についての記載も実技書として他に類を見ない充分な内容で、骨髄穿刺の具体的な採取方法や、その後の塗抹作製の手順も、写真を交えて実に詳細に記載されている。初心者の内は必ずと言っていいくらい悩んでしまう、様々なアーティファクトや混在物についての解説も的を獲ており、詳細であり、日常の検査ですぐに使える内容である。
豊富な正常像に加え、血液細胞の形態から示唆される病態の典型例は、合計800枚以上のフルカラーの写真として掲載されて、しかもその写真は大きく見やすい。さらに、塗抹写真やイラスト、組織像との比較写真や電子顕微鏡写真も同時に多数記載されており、視覚化が容易で診断のための視覚的な理解を助ける。犬・猫のみならず、馬、牛、羊、山羊、豚、ラマに至るまで様々な動物種を含む内容となっているが、犬・猫が中心で、小動物臨床向けで、典型例の細胞形態写真は非常に多数掲載されている。だだし、まれにしか見られない、典型的ではない、実際の鏡検の際に分類に迷う細胞についての記載を、さらに充実させてほしいところではある。
血液での診断が必要な感染症から腫瘍まで、幅広くほぼ網羅されているが、個々の疾病の病態生理や治療については一般的な情報に留まり、本書の役割は診断まで、と割り切っているような印象を受ける。実際の症例についての記載は少なく、治療法については具体性に物足りなさがあるが、これは本書の役割を逸脱していると考え、さらに詳しい点については他の専門書や文献に譲っている。
写真を眺めているだけでも楽しく、自分も最新型で高解像度の顕微鏡と写真撮影装置がほしくなってしまう。日々の臨床の現場で、だれもが日常的に利用できるように、日本語訳が出版されることを期待する1冊である。

「獣医畜産新報」2012年4月号 掲載

Charles M. Hendrix, Ed Robinson

『Diagnostic Parasitology for Veterinary Technicians』

2011年・Elsevier発行・¥9,454(税込)

評者 林屋生命科学研究所所長 深瀬 徹

ここに紹介させていただくのは、『Diagnostic Parasitology for Veterinary Technicians』の第4版である。
書名には“diagnostic”とあるが、実際には、とくに診断に限らず、各種の動物に寄生する寄生虫の全般について記載されている。また、“for veterinary technicians”となっているが、獣医師が読んでも十分に役に立つ内容である。
近年、日本においては、とりわけ犬や猫に関しては、寄生虫症に遭遇する機会は少ない。しかし、寄生虫症がほとんどなくなったかといえば、そうでもない。先日も、あるブリーダーの犬舎で、犬鞭虫と犬小回虫が蔓延している事例に遭遇した。
そのとき、若い獣医師の先生から寄生虫の虫卵をあまり見たことがないと聞いて驚いた。犬鞭虫卵と犬回虫卵、猫回虫卵は見たことがあるが、犬鉤虫卵や猫鉤虫卵、犬小回虫卵は実物を見たことがないという。たしかに、現在では、鉤虫類は、その感染方法によるのだろうが、非常に少ないことは事実であるし、犬小回虫は、日本ではもともと発生が少ない寄生虫である。
だが、寄生虫症の診療は、かつてのように日常的ではなくなったにしても、皆無というわけではない。寄生虫症の診断方法についても、検査法の選択や検出されることが予期される虫卵や幼虫など、知っておくべきことは多いと思う。
ところで、専門家というものはえてして、自分自身の専門領域に関しては、それが非常に重要であると考え、ほかの人も是非、その内容を知っておくべきだと思いがちである。学生のときに、それぞれの科目の先生がご自身の科目がきわめて重要といっていて、苦労したことを思い出す。しかし、私は、一応は寄生虫学を専門としているけれども、この点に関しては謙虚である。寄生虫学や寄生虫の検査の基礎について、あらかじめ記憶しておくにこしたことはないとは思うが、動物医療が複雑化し、獣医師が様々なことを記憶しておかなければならなくなった現在、臨床に従事される先生方が寄生虫症にまで手が回らないことは十分に理解できる。
では、どうすればよいか。動物病院に1冊、臨床的な寄生虫学の書物、とくに寄生虫の検査法や寄生虫症の診断法が書かれている書物を備えて、必要に応じてそれを読んでいただければよいと思う。そして、よくわからない場合には、遠慮なく、専門家に質問すればよいだろう。
本書は、このような目的で備える書物の1つとして有用である。ただし、英語で書かれているので、ある程度は英語が読めることが前提ではあるけれども。

「獣医畜産新報」2012年4月号 掲載

Frank J.M. Verstrate,Milinda J. Lommer

『Oral and Maxillofacial Surgery in Dogs and Cats』

2012年・Elsevier発行・¥48,859(税込)

評者 フジタ動物病院 院長 藤田桂一

小動物臨床における獣医歯科学や口腔外科学の専門書は多く出版されているが、そのほとんどは英語で記載されたものである。翻訳されたものも徐々に増えてはいるが、その数はいまだに少なく、獣医歯科学をしっかり学びたい獣医師にとってはこの現状に不満足であるかもしれない。しかし、英語の書で学ぶことによって得るものは多く、優れた書は英語にかかわらず、手にしていただきたいものである。日常診療では、歯周病はじめ、さまざまな口腔疾患に遭遇するが、さてどの専門書で獣医歯科学を勉強したらよいか分からないといった意見を耳にすることが少なくない。
その点、本書は、きわめて鮮明な大きなカラーの写真とイラストが随所に掲載されており、大変理解しやすい。本書1冊で口腔および顎顔面における外科に必要な内容がほとんど網羅されている。最初は、英語の歯科学の専門用語に慣れないと読みにくいかもしれないが、辞書を片手に読む価値は十分あり、直ちに臨床に生かせる内容である。単なる技術書にとどまらず、生理や解剖なども同時に学べ、口腔および顎顔面における種々の疾患の最新のエビデンスに基づいて書かれており、ぜひ推薦したい1冊といえる。
本書は、下記のように全部で11章から構成されている。これを見ただけでいかに豊富な内容が満載されているか理解できよう。
第1章:外科の生物学
口腔軟組織の外傷の治癒、顎顔面骨の治癒、抗生物質と消毒剤の使用法、麻酔と疼痛管理、経腸栄養
第2章:外科
器具・体位・無菌処置、縫合糸の種類と生体用材料、レーザー治療、顎顔面における微小血管手術、犬と猫を用いた顎顔面の外科手術の実験的試み
第3章:抜歯
抜歯の原理、単根歯の単純抜歯、犬の犬歯の抜歯、犬の多根歯の抜歯、猫の抜歯の特徴、抜歯の併発症
第4章:歯周外科
歯周外科の原理、歯肉切除術と歯肉形成術、歯周フラップと歯肉粘膜外科手術、歯周外科における骨伝導および骨誘導物質、歯冠延長術、歯周の外傷治療
第5章:歯内治療
歯内治療の原理、根尖切除術
第6章:顎顔面における外傷治療
顎顔面の外傷治療の原理、顔面の軟組織の外傷、下顎および上顎の外傷への外科的アプローチ、切歯領域を含む下顎結合の分離と骨折、非侵襲性テクニック・骨内ワイヤー・ミニプレートとスクリュー・創外固定を用いた顎顔面骨骨折の整復、顎関節を含んだ骨折と脱臼、顎顔面骨骨折の併発症
第7章:口蓋の外科
口蓋裂と口蓋の外科の生物学的基本、口蓋裂の整復術、後天的口蓋欠損の修復
第8章:顎顔面腫瘍と嚢胞の治療
顎顔面腫瘍の臨床ステージとバイオプシー、臨床病理学的相関、非歯原性腫瘍・歯原性腫瘍の臨床的特徴、非腫瘍性増殖性口腔疾患、口腔腫瘍外科の原理、舌・口唇・頬の腫瘍の外科治療、上顎骨・下顎骨切除術、歯原性嚢胞の臨床的特徴と治療、進行した顎顔面の再形成術
第9章:唾液腺の外科
唾液腺外科の原理、唾液腺腫瘤の外科治療
第10章:その他の顎顔面の外科
口唇形成術、下唇小帯形成術とtight-lip症候群、顎顔面骨壊死症の治療、未萌出歯の治療、顎関節形成異常
第11章:耳・鼻・咽頭の手術に対する口腔のアプローチ
軟口蓋過長症の治療、咽頭切除術と咽頭切開術、鼻腔と鼻咽頭への口腔アプローチ、扁桃切除術

「獣医畜産新報」2012年4月号 掲載

Craig E.Greene

『Infectious Diseases of the Dog and Cat 4th ed.』

2011年・Elsevier発行・¥24,754(税込)

評者 内閣府食品安全委員会事務局技術参与 望月雅美

本書は編者のGreene氏以外に127名の筆者による犬と猫の感染症のバイブルである。厚さ5.7cm、重さ3.5kg、1,354頁、ハードカバーの装丁で、第1セクション(28章)にはウイルス、リケッチア、クラミジア病、第2セクション(25章)にはマイコプラズマ、細菌感染症、第3セクション(16章)には真菌、藻類感染症、第4セクション(12章)には原虫病、第5セクション(19章)にはclinical problems、最後に付録として予防接種、ワクチン、抗菌薬、診断薬等の解説が載っている。そして、これもクラウドコンピューティングと表現してよいのであろうか、ネット上(www.greeneinfectiousdiseases.com)で個々の感染症に関するさらなる情報(診断や治療法をまとめたテーブルや囲み記事、診断や予防接種のガイドライン、参照文献のPubMed要約へのリンクなど)が入手できると解説されている。表紙裏にスクラッチタイプのPINコードが付いていた。本書評を書いている2011年12月18日時点でサイトは新築中のため中身がみられなかった。
本書の目的は犬と猫の感染症の診断と治療に関する、臨床で有用な情報を網羅的に提供することにあり、1990年の初版以来、書の構成はほとんど変化していない。各セクションの第1章(diagnostic chapter)にはそのセクションで解説される微生物の診断法に関する情報(例えば、サンプリング、検体送付の仕方、結果の理解の仕方、簡易診断キットなど)を、そして第2章(therapy chapter)には治療法が詳述され、その後に各論が配置されている。そして今回の第4版には全般的なアップデートの他に、幾つかの新しい、あるいは再分類された病原微生物、例えば、犬呼吸器コロナウイルスと犬ニューモウイルス(第6章)や豚の腸腺腫症候群起因菌であるローソニア・イントラセルラリス(第37章)など7件が追加された。第5セクション第96章には野生猫の感染症の管理の仕方に関する解説が新しい。
世界中で使われるようにと、序にも書いてあるように、まさしく、犬と猫の感染症に関する欧米連合艦隊の旗艦的印象があり人種的な嫉妬を感じないわけでもない。しかしこの書を昔から座右に置いてきたことも事実で、この書に書いてなければ、大発見かまったくの「犬の糞」のどちらかであろう。
編者のGreene氏とは10年ほど前にコーネル大学のシンポで一度お会いしたことがある。多少なりとも教科書の編集に関わったことがある者として、本書のボリュームは驚異的としか言いようがない。編者としては全てに目を通し識者としての査読も必要である。やはり世界は広い。最後にこれは余計なことかもしれないが、本書を最初に手に取った時、重いと思った以上に、初めてMacBook Airを手にしたときと同じく「美しい」と感じた。

「獣医畜産新報」2012年2月号 掲載

Tobias Schwarz, Jimmy Saunders

『Veterinary Computed Tomography』

2011年・Wiley-Blackwell発行・¥22,026(税込)

評者 帯広畜産大学臨床獣医学研究部門教授 山田一孝

この10年間、CTはわが国の小動物臨床に急速に普及した。短時間で撮影できる多列検出器CTの出現が、CTの普及に拍車をかけた。今では、1診療圏に1台程度普及し、診断のツールとして重要な役割を担っている。しかし、CTについて調べようと思っても、 CTが系統的に説明されている獣医師向けの教科書はなかった。そのため、学部学生時代にCTの講義を受けていないわれわれの世代は、文献検索をして情報を探し出すしか方法はなかった。そんな中で、本書に出会った。
本書は、CT画像構成の原理はもちろん、現場で遭遇するアーチファクトについても解説されている。また、三次元ソフトウエア、PACSを利用したデジタル環境、CT導入の費用対効果といった周辺領域についても詳しい。さらに画像については、小動物の各部位別の疾患に加えて、馬、牛、豚、ウサギ、ネズミ、鳥、カメの画像も示されていて、予期せぬ患者さんに遭遇しても慌てない秘密の引き出しである。
また、日本では施設によってバラバラな断層画像表示(横断画像は、画像の上が動物の背側、画像の右が動物の左)が定義されている。さらに、断層方向(人と動物では頭部のtransverse、 dorsalの表示が異なる)の用語の定義が示されている。毎回同じ向きで画像を表示することは読影の基本である。読影に際し、統一された呼称と画像表示で議論することが、わが国のCT診断の更なる発展のために必要である。
医学放射線領域とは異なり、われわれの現場には診療放射線技師がいない。CTの操作から読影まで全て獣医師の仕事である。つまり、獣医師はCTについてオールマイティな知識が求められる。鑑別診断リストを頭に浮かべながら、必要な画像再構成関数を考慮にいれてCTを操作し、撮影後はウインドウレベルを操作しながら診断しているのが現実である。本書は、そんな状況でCTを利用している獣医師、これからCTを学ぶ獣医師にとって必見のバイブルである。
読み進めていくと、私の論文がFurther Readingとして3つ紹介されていた。ますますこの教科書が好きになった。

「獣医畜産新報」2012年2月号 掲載

Jorg A. Auer, John A. Stick

『Equine Surgery 4th ed.』

2011年・Elsevier発行・¥34,603(税込)

評者 酪農学園大学獣医学類教授 田口 清

馬の外科と手術全般を扱う1,500ページほどの大著であるこの本も第4版を数える。私は第1版から愛読しているが、以下のような2通りにこの本を使用してきた。
第一には手術や外科処置の基となる外科学総論の最新情報が臨床と関連するようにコンパクトに記述されている「外科生物学」の第1章から新情報を得ることである。この第4版では新たに再生医療の章が加えられており、多血小板血漿および間葉幹細胞の馬における臨床使用の基礎が記述されている。また「創傷治癒」および「術部感染と抗生剤使用法」の章は動物種を問わずたいへん興味深く、役立つ内容であることは前版と変わらない。また第2章には手術方法の基礎が分かりやすい図とともに記述されている。とくに初学者には手術環境・準備、手術動作・手術器具の取り扱い、縫合材と縫合法、包帯法、ギプス法、凍結手術法、レザー手術法などの基礎事項を幅広く知ることができる。第3章では「最新麻酔法」として麻酔と疼痛管理に関する新情報がよく整理されていて知識を更新することが容易である。
第二の使用法は第4章以下の身体各部位の外科疾病と処置・手術に関する記述の利用である。外皮系、消化器系、呼吸器系、神経系、眼と付属器、生殖器系、泌尿器系、画像診断、筋骨系の章立てになっており、あらゆる外科処置と手術が写真と図とともに説明されている。写真と図はカラーではないが、どれも見にくいものはなく、問題ない。臨床家であれば現在取り扱っている馬に関する外科診断、処置、手術に関する基本知識・リファレンス・マニュアルとしての使用に最適である。何でも載っているので、困った時にはまずこの本を開くことからはじめるとよい。本が分厚くて重いのが残念であるが、現在では電子版も販売されており(http://pageburststore.elsevier.comから購入できる)、Pageburstという自在なフリー検索ツールとともに利用することができる。全体的には今までの版を踏襲しながら、新しい知識と内容を加え、さらにわかりやすく簡潔に整理されるよう進化した感がある。この新版の出版を機会に是非購入してどんどん活用して欲しい1冊である。

「獣医畜産新報」2012年2月号 掲載

Kirk Gelatt, Janice Gelatt

『Veterinary Ophthalmic Surgery』

2011年・Elsevier発行・¥22,550(税込)

評者 トライアングル動物眼科診療室院長 齋藤陽彦

本著は、
第1章Surgical Instrumentationに始まり、
第2章the operating room、
第3章anesthesia for ophthalmic surgery、
第4章surgery of the orbit、
第5章surgery of the eyelid、
第6章surgery of the nasolacrimal apparatus and tear systems、
第7章surgery procedures of the conjunctiva and nictitating membrane、
第8章surgery of the cornea and sclera、
第9章surgical procedures of the anterior chamber、
第10章surgical procedures for the glaucomas、
第11章surgical procedures of the lens and cataract、
そして12章のVitreoretinal surgeryで構成され、全ての章をGelatt自らが執筆している。“ Mr. Ophthalmologist”の限りのない行動力に、まったく頭の下がる思いである。
各章とも最新の術式を含むすべての術式が掲載され、著者が前文に述べているように馬や鳥についても相当の頁が割かれている。さらに、解剖、適応症、術後管理、そして成功率までが詳細に記述され、まさに待望の獣医眼科手術の実用的百科事典と評することができる。
1例として、我々が頻繁に遭遇するチェリーアイにおける記述では、手術前後の瞬膜腺の病態や術後合併症など、今までの成書にない記述は術前の説明に大いに役立つものと確信する。また、ウェブサイトから動画の入手が容易なことも本書の特記すべき利点で、獣医眼科手術に興味のある臨床獣医師や学生教育にも最適の書と位置づけられる。一方、すべての手術において特定の術式を推奨することなく紹介されているため、読者自身による術式の選択が要求される。そして、各章末のreferenceからわかるように、獣医眼科手術の分野では文献が少ないため術式選択が難しいことも否めない現実である。いずれにせよ、本著が獣医眼科手術を網羅する書であり、現在最高峰の書であることは揺るぎの無い事実である。
最後に獣医眼科に従事する立場の諸兄には、治療コンセプトを明記した手術報告が1例でも多く報告されることを切望する。

「獣医畜産新報」2012年1月号 掲載

Ford, R. B. & Mazzaferro, E. M.

『Kirk and Bistner's Handbook of Veterinary Procedures and Emergency Treatment, 9th ed.』

2011年・Elsevier発行・¥12,954(税込)

評者 東京大学名誉教授 長谷川篤彦

5年程前に本書8版の書評を依頼され、その書き出しを以下のように綴った。1969年にKirk先生とBistner先生が当時の急速に発展する小動物診療の状況を踏まえて、臨床獣医師が要求される諸問題に対処しなくてはならないことを念頭におき、その指針として“診療技法と救急対処法”を刊行した。以来、多くの臨床獣医師に活用され、また改版を重ね、初版から37年目の今年、第8版がR.B. FordとE.M. Mazzaferronoの両先生によって上梓されたのが本書である。診療の鉄則である迅速な対応を主眼とする構成は初版以来貫かれているが、そこには小動物臨床の最新知識と最高水準の技法が包含されている。この書評の第8版もそれ以前の版と同様に江湖に受け入れられた。
そしてこの度2012年度版として、第9版が発刊されることは誠に喜ばしく思われる。最近の獣医臨床の進歩はこれまでになく加速しているので、改定新版には特別な関心を抱いて通覧した。本書も初版の精神を受け継ぎ、第8版と同様の考えで編纂されており、随所に読者の便を図りながら新情報が加筆されている。ここで著者らは本書を本年1月に亡くなられたKirk先生に奉げるとしている。Kirk先生は何回か来日されているが、コーネル大学の獣医内科学教授を務め獣医界の発展に尽力された方である。また小動物皮膚科の発展にも貢献され、この救急医療書のシリーズやCurrent Veterinary Therapyシリーズの出版を牽引された功績は大きい。
本書の表紙を開くと先ず緊急時における主な治療対象がアルファベット順に記載され参照する頁が示されている。また裏表紙には緊急時のホットラインと臨床検査の参考値が表示されている。本書は本文のみで700頁に及ぶ大著で、前版同様6章から構成されている。第1章は救急対応の基本的事項に関するもので、即刻診断治療できるように配慮され本書の約40%の300頁を占めている。受診前対応、初診時対応、緊急処置、疼痛の評価と対応、特殊状態の緊急処置について記載さあれている。第2章は初診時対応、カルテの記載、各器官系の精査についての記述である。第3章は主要な臨床徴候の解説で、定義、関連徴候、鑑別診断(主に箇条書きで表示ないし流れ図)および診断計画で、問題中心の対応である。第4章は診断治療の手法の説明で、日常臨床の現場において必須とされる手技の解説で習熟の助けになるものと思われる。第5章は所謂臨床病理で、臨床検査の進め方、検査の手法などが詳述されている。第6章は各種動物(犬、猫、げっ歯類、ウサギ)に関する基礎的情報や臨床検査値が表示されており、100頁にも及んでいる。勿論常用薬剤の適応や用量の表(約60頁)も含まれている。
以上のような内容の本書であることから、臨床獣医師は勿論のこと、獣医学・獣医療関係者をはじめ獣医師を志す学生にも推奨できる一書である。

「獣医畜産新報」2011年10月号 掲載

Dawn Merton Boothe

『Small Animal Clinical Pharmacology & Therapeutics 2nd ed.』

2011年・Elsevier発行・¥15,293(税込)

評者 鹿児島大学教授 桃井康行

まず、そのボリュームに驚く。本文で1200頁を超え、全体で1300頁を超える大型の書物である。およそ10名の著者で書かれておりこのボリュームにしては著者数が少ない。内容を統一的にして読みやすくするためにはこれくらいの人数がよいのかもしれない。
書籍内は症例の写真はほとんどなく、本文とその説明のための図表で占められており情報がぎっしりと詰まっている。おそらく診療中に用量や副作用をすばやく調べる本ではない。レベルの高い教科書的な書籍で、腰を据えて毎日少しずつ読み込んでいくタイプの本であろう。特定疾患の治療のための薬剤に迷うときなど、やや詳細に情報が必要な場合にも本書は有用であろう。
内容としては、基本的な臨床薬理の解説に120頁(全体の約1/10)のボリュームを使っており、残りはすべて各論。基本的には感染症、消化器、循環器などすべての分野を網羅的している。対象動物は犬・猫である。各論の構成は書き手や分野によりそれぞれ若干異なっているが、病態や生理的な解説から始まり、基本的な薬理作用(理論)、各個別の薬剤の効果や副作用、同型薬剤間の比較などが詳細に記載されている。エビデンスに基づく記載をポリシーにしており、本文中には極めて多くの文献を引用している。よくこれだけの情報が集められたものだと、著者らの努力には頭が下がる。これまで動物での情報が手薄であった、各薬剤の吸収(例えば経口投与での利用率)、薬物動態(体内での分布や半減期)などの情報も豊富で、これらの知識は実際の処方の際に役に立つであろう。
臨床薬理の書籍には薬理作用中心のものもあり、臨床家としてはなかなか読みにくいものであるが、本書は臨床的に有用なものをという立場で書かれているようで、興味深く読み進めることができる。いまから本格的に小動物臨床を学ぼうとする学生(高学年)や若い獣医師には推奨できる。また十分に詳細な情報が盛り込まれているのでベテラン獣医師でも1年くらい時間をかけてじっくり読破すれば、臨床のレベルが1つ(または2つ)上がる、という書籍だと思う。また、このボリュームと内容でこの値段は喜ばしい。

「獣医畜産新報」2011年9月号 掲載

R.Eric Miller,Murray E.Fowler

『Fowler's Zoo and Wild Animal Medicine Current Therapy Vol.7』

2011年・Elsevier発行・¥24,754(税込)

評者 日本大学教授/日本野生動物医学会会長 村田浩一

『Fowler's Zoo and Wild Animal Medicine』 のシリーズは、爬虫類から哺乳類までの獣医学的情報を網羅的かつ総論的にまとめて出版した後、数年間はこの分野における最新情報を各論的に提供するのが特徴である。ちなみに、本シリーズの第5巻は、『野生動物の医学』(中川志郎監訳)として2007年に文永堂出版から刊行されている。今回発刊された第7巻は、上記した各論的情報の提供に該当するが、取り上げている内容は魚類から保全医学に関するものまで多様かつ豊富である。とくに、野生動物医学が種の保全に対して如何に貢献するかを、"One Health"という最新の概念を緒言で記しているのは注目すべきことである。近年問題となっている野生動物と家畜と人のインターフェイスにも一章が当てられている。単に希少種保全だけが、野生動物医学の目的ではないことを改めて認識させられた。北米における野生動物医学の方向性を示した選択だと思う。
本書の頁を開いて最初に目を引くのは、執筆者の多さである(119名!)。野生動物医学に関わっている専門家がこれだけいることに感動する。しかも、シルバーエイジの私が知っている研究者の名前は少なく、世代交代が確実に進んでいることを実感した。国内でも、いつかこのような専門書を出版できるよう、野生動物医学に関わる若い研究者や臨床家の育成と、学術領域における基盤構築を行いたいものである。
書評の字数が限られているため、83章もあるタイトルのすべてを紹介できないのが残念だが、個人的には第47章の "Haemosporidian Parasites: Impacts on Avian Hosts" と第56章の "White-Nose Syndrome in Cave Bats of North America" に関する最新情報が参考になった。鳥インフルエンザに対する動物園の対応(第45章)も、国内の関連施設にとっては役立つであろう。
特筆すべき本書の新規性は、これまでになくカラフルであること、写真や図表が多いこと(280点)である。各タイトルの文字色も、分野別に色分けされており、直感的に内容を把握しやすく配慮されている。ビジュアルを重視する若い世代の読者を意識したせいかもしれないが、これらの配慮は英語圏に属さない国の読者にとっても有難い。写真を見てそのキャプションを読むだけでも、臨床や研究の参考になるに違いない。
本書は、野生動物もしくは動物園動物の臨床や研究に関わっている方々に、かなりお勧めの好著である。翻訳本の出版など期待しないで、早く購入し英和辞書を傍らに置いて読んだ方が賢明だろう。

「獣医畜産新報」2011年8月号 掲載

Roger W.Blowey, A.David Weaver

『Color Atlas of Diseases and Disorders of Cattle 3rd ed.』

2011年・Elsevier発行・¥20,088(税込)

評者 酪農学園大学獣医学類教授 田口 清

英国の臨床獣医師であるBlowey氏は相変わらず精力的で、牛疾病アトラスである本書も3版となった。掲載された疾病写真は848枚に及び、第2版より96枚増えている。これらには少なくとも19種類の疾病の写真が新しく追加されている。そうであるのに本書はわずか250頁ほどで見やすく使いやすい。また3版では各写真にはキャプション(短い説明文)が追加されており、よりわかりやすくなっている。本文が簡潔で要を得ていることは前版と同様であるが、とくに第2版(2003年出版)以降においても大問題であり続けている、口蹄疫、ブルータング、BSEの項目は新たな研究成果も追加されて改訂されている。また本文中の他の多くの部位でも疾病管理法や類症鑑別について加筆・修正されている。
私も診療のときに多くの疾病の写真を撮影するが、ピントがあっているのは当然だとしても、視覚から感じ取った印象を写真に表現するのはなかなか難しい。このアトラスでは実にうまく表現されており、リアルである。食事の時間以外にパラパラと頁をめくって、写真をながめるのも楽しく、そうだったのかと新たな視点を得ることもある。また疾病の視覚的特徴や写真の表現法になるほどと思わせることも多い。つまりどのような感性で疾病を見(診)るべきかを示している。
この本を購入すると出版元のエルゼビア(Elsevier)のサイトで、pageburstというアプリケーションを用いてebooksにアスセスして、自分だけのポートフォリオを作ることができるようなっている。つまり購入書籍だけからではなくインターネットサイトを介して新しい学びのスタイルを得ることができるというしかけである。ぜひ本書とともに試していただきたい。本書は牛の臨床家のみならず、農場管理者、生産関係者、学生にも幅広く有用な“百聞は一見にしかず”の1冊である。

「獣医畜産新報」2011年8月号 掲載

Karen Helton Rhodes, Alexander H. Werner

『Blackwell's Five-Minute Veterinary Consult Clinical Companion Small Animal Dermatology 2nd ed.』

2011年・Wiley-Blackwell発行・¥13,866(税込)

評者 ASC皮膚科院長 永田雅彦

あくまで個人的な意見であるが、獣医師には凝り性が多いと思う。つり、マラソン、車等々、本業を遙かに超えた才に圧倒されることもある。かくいう私も、学生時代にアルバイトをしながら500枚をこえるレコードを収集していた。今はなつかしい思い出であるが、やはりその片鱗がしぶとく残っている。皮膚科で仕事をする以上、この領域のあらゆる情報を集めたく、現在20を超えるジャーナルを購読し、さらに次々に出版される書籍を購入しないと落ち着かない。Five-Minute Veterinary Consult初版ももちろん収集されていたが、本書が活用される場面はほとんどなかった。診察時に有用性を発揮するコンパクトな情報源として、5分で必要な情報が得られるというコンセプトはすばらしかったが、余白が多く活字の小ささに悩まされ、さらに様々な臨床皮膚科情報がいささか煩雑に並べられていた。
この度出版された『Blackwell’s Five-Minute Veterinary Consult Clinical Companion Small Animal Dermatology 2nd ed.』を手にしたときに妙な感覚に襲われた。これは第2版なのだろうか?最近の獣医出版業界は統廃合がすすみ、初版と第2版が違う出版社になることもめずらしくない。本書もそのひとつであった。新刊は業界大手WILEY-BLACKWELLに移り、表紙のデザインと色遣いはもちろんのこと、ハンディーなB5版ながら実に読みやすくレイアウトされていた。さらに写真も増数し、その質も大幅に向上している。もちろん皮膚科情報もアップデートされ、ポータブル・テキストと呼びたくなるほど整然と構成されていた。初版はDr. Rhodesひとりで執筆されていたが、第2版はDr. Wernertとの共著になっている。著者も、緒言にて「第2版を新書として読んで頂きたい」と記している。リメイクされた本書は、オリジナルを超えていた。

「獣医畜産新報」2011年7月号 掲載

Fred Anthony Mann, Gheorghe M. Constantinescu, Hun-Young Yoon

『Fundamentals of Small Animal Surgery』

2011年・Wiley-Blackwell発行・¥12,440(税込)

評者 北海道大学獣医学部教授 奥村正裕

本書には、外科手術学の基本が書かれている。翻訳本、著作本を問わず、国内で入手できる獣医外科手術学に関連したテキストはすべての疾患とその治療法を網羅することに主眼がおかれているか、よく使われる項目に限定して実用的な手技を説明したものがほとんどである。そのため、洗練された手術手法を、大学で受けた外科学実習での知識とその後の大きな努力によって手に入れられた先生も多いかと思う。そのような“遠回り”が必要となるのは、手術学という科目が独立して専門的に教育されていない現状とそれを教えてくれる専門書がなかったためかもしれない。経験を積まれた先生には手術学に関して「今さら聞けない」手術学の基本を、これから手術学を積み上げていこうと考えている若手の先生、そして手術学を独立した科目として学ぶ学生さんたちへの教科書として、本書は理想的な構成で書かれている。
本書は主に米国ミズーリ大学獣医学部の獣医外科学関連教員が学生用の教科書として作成したもので、手術の基本的な知識や手技に関する原理を学べるよくできた実用書である。また、治療のために動物に対して外科手術を実施する獣医師には、本書の内容をすべて頭に入れておいていただきたいほど、基本手技がわかりやすく網羅されている。手術学の基本手技だけでなく、手術器具の使用法から縫合法の標準的手技まで、写真と写実的なイラストがふんだんに用いられ、わかりやすく解説されている。臨床の先生がたが本書を読破される場合には、仰々しい(?)専門書ではなく、すべて消化できる内容の基本ルールを身に着けるためのガイドブックとして用いていただき、我流から脱して、標準的な技術を身に着ける道標としていただければよいのではないだろうか。基本がしっかりしていてこそ、難易度の高い手術手技を効率的かつ確実に会得できるものである。
わが国でも獣医学教育のモデルコアカリキュラムが策定された。これは、獣医師として持つべき基本知識と技術の指針が示されたことを意味する。そのなかで、これまでの枠組みではなく、外科手術学の内容が充実されている。獣医師を志す学生さんたちには、これまで体系的に学ぶことができなかった手術学の知識を得ることができるようになった。そのときの、わかりやすいハンドブックとして本書は最適なもののひとつである。
平易な内容であるが、基本に忠実に、そしてきわめて標準的で確かな手術技術を得るための教科書として本書が活用され、それに育まれた技術が多くの動物たちの健康に寄与することを祈っている。

「獣医畜産新報」2011年7月号 掲載

Steven F. Swaim, Walter C. Renberg, Kathy M. Shike

『Small Animal Bandaging, Casting, and Splinting Techniques』

2010年・Wiley-Blackwell発行・¥7,775(税込)

評者 武部獣医科病院院長 武部正美

人間であれば、小さな絆創膏ひとつで済む傷でも、犬や猫では大げさな包帯を必要とする場合が多い。例えば尻尾の先端の小さな傷でも、時には尻尾の付け根まで包帯を巻くことになる。ところが折角厳重に包帯をしても、尻尾の一振りで、あっという間に根こそぎ抜け落ちてしまうことがある。動物の場合、包帯を施すことが如何に難しいかがよく分かる。
この場合には、ちょっとしたコツがある。適当な幅の粘着テープで尻尾の両側に“あぶみ”なるものを予め張り付ければよい。これは四肢の包帯にも役立つコツでもある。ところが、こうしたコツを文章で説明するのは結構難しい。うまく表現して綴ったつもりでも、読者にはなかなか理解できないこともある。本書では写真を不断に使って、その包帯の仕方を段階的に示しており、極めて理解しやすくなっているのが特徴といえる。
本書は5章に分けられて構成されている。包帯は基本的には三層からなる。すなわち第一層は直接創傷に当てる部分であり、創傷の性質や状態によってその材質が異なる。第二層は創傷から体液を吸収、排出する層として働き綿パッドや巻いたコットンなどが使われる。第三層は第一、二層を保護する層となり、粘着テープや自己接着テープなどが使われる。第1章はこうした包帯の材質をはじめ、包帯の効能、注意事項など、総論的な内容が記されている。
第2章から第4章までは体の部位ごとの項目に別けて、包帯法が記されており、いずれの項目も、適応、手技、アフターケア、利点と問題点についてそれぞれ述べられている。第2章は頭部と耳の包帯法、第3章は胸部、腹部、骨盤部の包帯法が記されている。第4章では四肢の包帯、ギプス包帯、副子包帯、吊り包帯などの方法が記されており、この章が全体のかなりの部分を占めている。ちなみに、前述の尻尾の包帯法もこの章で分かりやすく写真を使って事細かに記されている。最後の第5章はエリザベスカラ―など、折角の包帯が外されないように予防する方法が記されており、なかでも胡椒が刷り込まれているテープや軽い電流が流れるテープなど興味をそそられる紹介もある。
数年前に『Animal Restraint for Veterinary Professionals』(『獣医療における動物の保定』文永堂出版)なる書籍を翻訳させて戴いたことがある。この場合も紐の結び方をはじめ、動物の押さえ方など経時的な写真が極めて効果的であった。文章を読まなくても写真を見ただけで直感できるものがある。こうした技術とコツを必要とする内容の書物では、写真やイラストを不断に使うことが必須であり、そういった意味から本書は親切で効果的な書物といえよう。
包帯は日常茶飯事の処置であり、動物に不安感や違和感などを抱かせないためにも適切な包帯法が重要となる。学生や研修医は勿論のこと経験ある獣医師にも十分役立つ書物と言えるであろう。

「獣医畜産新報」2011年6月号 掲載

Michael D. Lorenz, Joan R. Coates, Marc Kent

『Handbook of Veterinary Neurology 5th ed.』

2011年・Elsevier発行・¥15,293(税込)

評者 山口大学名誉教授 徳力幹彦

この本は初版から読んでおり、この第5版も以前の図や記事を思い出しながら読むことができた。しかし、著者が、私が顔見知りだったOliverやKornegayから新しい著者に代わっており、以前からの著者はLoenzだけで時代の流れを感じたが、著者が代わったために新しい情報が豊富に取り込まれた内容になっていた。
この本は、初版から、高度の確定診断機器をもっていないクリニックの臨床獣医師のための本という目的を貫き通している。したがって、神経障害があると思われる動物が来院したとき、最初から障害の原因を調べるのではなく、神経学的検査を基本とした局在診断により病変の存在部位を明らかにすることから神経診断を開始していくべきであるという、一種の哲学に撤している。この本が他の本と異なるこの特徴は、最初の3章に凝縮されている。したがって、この3章は初版からそれほど変わってはいないが、確定診断の章になって初めてMRIやCTのような高度画像診断を用いた説明が出てきて、神経病の各論では新しい知見が豊富に引用されている。
この本のもうひとつの特徴は、小動物の神経病が中心であるが、馬や家畜の神経病も説明されている点である。また、本に添付されている“Book Pin”を用いてウェブサイトを開き、神経病の小動物・大動物20症例のビデオをパソコンのディスプレイで見ることができる。文字の小さいのが難点ではあるが、文章は500頁未満であるため、獣医神経病の全体像を理解したいという臨床獣医師、あるいはこれから神経病を理解したいと考えている獣医学生には、是非ともお薦めしたい本でもある。
文章の内容を要領よく表にまとめてあることも特徴のひとつである。読んでいると、いちいち表を参照しなければならないために最初は戸惑いがちになるが、読み慣れてくると違和感がなくなり、特に再度内容を参考にしようとするときには非常な利便性を感じるようになるのであろう。
この本の最後に付録として、犬や猫の他に、牛、山羊、馬、羊、豚の先天性、遺伝性、品種特異性の神経疾患と筋疾患の表がついており、これらの表の後に、この本の引用文献がアルファベット順に記載されているのも便利である。各章の最後に引用文献の一覧表がついているが、引用順に配列してあるために、特定の著者の文献を探すのは非常に困難なので、1,000を超える文献の一覧表は非常に便利である。同時に、この本の著者達が、これだけの数の研究論文を如何に丁寧に調べて引用しているかが分かり、この本の価値を暗示しているようであった。

「獣医畜産新報」2011年4月号 掲載

Dennis J Chew, Stephen P. DiBartola & Patricia Schenck

『Canine and Feline Nephrology and Urology 2nd ed.』

2011年・Elsevier発行・¥13,219(税込)

評者 岩手大学農学部獣医学課程 教授 佐藤れえ子

日常の診療の中で、泌尿器疾患の占める割合は極めて大きい。私たちに泌尿器に関する多くの情報を提供してくれる尿検査は、日常のルーチン検査の筆頭にあげられるが、私たちはこの尿検査の中から、本当に重要なことをどれほど汲み取っているのだろう。「おしっこ」の示す情報は、腎臓や尿路からの重要なメッセージである。また、腎機能の評価についても、私たちはBUNや血清クレアチニン濃度がある程度高値を示さない限り、無頓着なことが多くないだろうか。無頓着なあまり、末期腎不全となって劇的な尿毒症の症状を示して死に至るまでに、泌尿器から繰り返し送られる信号を見逃してはいないだろうか。本書は、そのような泌尿器の異常に関する信号を診断する方法と、その臨床的意義、そして各種泌尿器疾患の治療法について解説してくれる実際的なマニュアルである。
ここでご紹介する『Canine and Feline Nephrology and Urology』は、1986年に発行された『Manual of Small Animal Nephrology and Urology』(Dennis J. Chew & Stephen P. DiBartola著)の第2版にあたる。初版は文永堂出版より『小動物の腎・泌尿器疾患マニュアル』(武藤 眞、渡邊俊文、小村吉幸 訳)として出版され、多くの臨床家に愛読されてきた。第2版である本書では執筆者にミシガン州立大学のPatricia A. Shenckを加え、新しい書式でよりわかりやすく、またDennis J. Chew と Stephen P.DiBartolaの両先生のオハイオ州立大学Veterinary Teaching Hospitalでの30年間にわたる臨床経験に基づく多彩なコメントがちりばめられている。第2版では、特に「What Do We Do ?」「Thoughts for the Future」「Common Misconceptions」「Summary Tips」「Frequently Asked Questions」という新しいコーナーが設けられて、臨床家の日頃感じている疑問に対する答えやヒントが織り込まれている。また、陥りやすい間違いについても、解説されている。
本書は、犬と猫の泌尿器病疾患の病態生理、診断法とその臨床的意義、そして治療法についてわかりやすく項目立てて解説されているが、それだけでなく泌尿器が尿を産生して排出するまでのしくみと役割についても鮮やかに解説されている。各項目では要点が箇条書きにされていて、大変読みやすい。また要所要所に図表が配置され、これが大変わかりやすく、読者の理解を助けている。写真も、美しい。そして臨床家にとって非常に重要な治療の際の薬物投与の仕方や投与量についても解説されており、日常の診療の際にすぐ役立つように考えられている。したがって、本書は、これから臨床獣医療を目指す学生諸君にとっても、そして若い獣医師や、もうベテランの域に達した臨床家にとっても、すぐに使える1冊である。是非、お手に取って試して貰いたい。私の、お勧めの1冊である。

「獣医畜産新報」2011年3月号 掲載

Todd R. Tams, Clarence A. Rawlings

『Small Animal Endoscopy 3rd ed.』

2011年・Elsevier発行・¥23,976(税込)

評者 鹿児島大学農学部 臨床獣医学講座 教授 桃井康行

伴侶動物の内視鏡分野の草分け的な書籍で、第2版から12年ぶりの改訂となる。650頁を超える意欲的な書籍であり、画像診断系の書籍ではあるが、画像だけでなく説明文章にも多くの労力をさいている(すごいボリュームである)。
内容としては機器の構成や基本的な操作法にはじまり、最新の手技まで非常に詳細に記載されており、網羅的な内容になっている。消化管内視鏡、腹腔鏡など内視鏡を扱う様々な分野においてビギナーだけでなく熟練者にも読みごたえのある1冊である。
フレキシブル内視鏡を使用した消化管検査が本書の前半を占めており、残り半分は硬性鏡に充てられていることも本書の特徴である。硬性鏡では、機器の説明や操作方法からはじめ、腹腔鏡、胸腔鏡、膀胱鏡、鼻、耳、関節など内視鏡が用いられているすべての分野について具体的手技が記載されている。硬性鏡を用いた伴侶動物の画像診断分野はまだまだ情報が少ないので、各種内視鏡手技の詳細を記載した本書の価値は高い。
本書は内視鏡について広い分野をカバーしている。そのため1人の臨床家が本書に記載それているすべての手技を習得することはできないと思われるが、発展の著しい内視鏡分野での先端技術を把握し、自分が実施できない手技については適切に二次診療施設等に紹介するための知識を得るのに適している。また高度獣医療施設や教育動物病院などさまざまな内視鏡獣医療を取り入れている施設では本書の網羅的な内容はスタッフの教育などにも大変有用であろう。

「獣医畜産新報」2011年3月号 掲載

Michael W. Ross, Sue J. Dyson

『Diagnosis and Management of Lameness in the Horse, 2nd Edition』

2011年・Elsevier発行・¥28,901(税込)

評者 酪農学園大学獣医学部教授 田口 清

馬の跛行のテキストブックといえば何と言ってもアダムスの『LAMENESS IN HORSE』であり、初版は1962年に出版され、現在5版を数える。一方、この書評で取り上げたDiagnosis and Management of Lamenes in the Horseの第1版は2003年に出版されている。アダムス本はどちらかというと馬跛行のエンサイクロペディア(疾病の記述的説明)で、解剖から始まり、跛行疾病の記載も解剖学的部位別に順序立てて整理されている。本書ではDiagnosis and Managementとタイトルにあるとおり、より実際的あるいは臨床指向といってよく、応用編といえるだろう。Managementという言葉もTherapyでないところが意味深長で、臨床というものが必ずしも正確な診断や治癒に導くことができない場合にも、その馬をなんとか有用に用いるようにすることが含意されている。
第1章は跛行の臨床診断と画像診断である。画像診断にはX線、超音波はもちろんであるが、核医学、CT、MRI、Thermography、内視鏡を含み、ここまでで270頁を割いている。第2章は大幅に増補された蹄病(生体力学と跛行の項が追加され、CT、MRI画像項が充実している)である。第3章:前肢の跛行疾病、第4章:後肢の跛行疾病、第5章:体軸骨格の跛行疾病、第6章:DOD、第7章:関節炎、第8章:軟部組織、第9章:治療学、第10章:運動競技馬の跛行となっており、文献と索引をいれると1400頁に及ぶ大著である。この本もアダムス本と同様に、臨床場面の疑問に該当する部分をめっくっては読むという使い方はもちろんであるが、第1章の跛行診断と第2章の蹄の部分はぜひともその始めの頁から全部を読破したい。臨床家の経験とは何か、新しい画像診断の発展で開けた地平とは何か、そして私の臨床家としての診療行為の基本や考え方をどう向けて行くべきかを考えさせられる。画像診断万能の時代であっても、臨床家の触診や観察をないがしろにしては正しい診断が得られないことにも警鐘を鳴らしている。第1版では跛行の動画(CD-ROM)が添付されていたが、第2版ではウエブサイトにアクセスすることで一般的跛行についてのナレーション入りの47編の動画をみることができる。

「獣医畜産新報」2011年3月号 掲載

Brian C. Gilger

『Equine Ophthalmology 2nd ed.』

2011年・Elsevier発行・¥25,531(税込)

評者 酪農学園大学獣医学部 講師 前原誠也

獣医臨床の場において、眼科疾患の割合は決して多いとは言えないが、無視できないことも事実である。しかし、眼科の診療には特別な機器が必要であり、またそれらが高価であるというイメージを持たれて、積極的な眼科診療を行っていない臨床獣医師は多いと思われる。本書は、まず第1章で眼科検査法が書かれている。その中には基本的な眼科検査法に始まり、細隙灯顕微鏡検査や眼底検査、さらには網膜電図検査、CT検査などについても書かれている。これらの検査は、特殊な機器が必要であったり、熟練した技術が必要であったりと、実際の診療現場では難しいことも多くある。
しかしこれでは、今までのように眼科診療を諦めてしまう。ここまではほとんどの眼科の成書と同様であるのだが、本書にはその後に特徴がある。確かに非常に高価な診断機器や治療機器、特殊な診断機器が必要である場合もあるが、眼科診療の全てにそれらが必要なわけではない。第2章では「Practical General Field Ophthalmology」と題して、特殊な眼科診断機器がなくても実際の診療現場で実施可能な眼科検査法や管理の仕方などが書かれている。また、巻末には眼科の専門用語の解説が書かれており、眼科用語に馴染みの薄い獣医師にとってはありがたい。さらに各部位の疾患では、眼の症例写真は全てカラー写真でありとても見やすい。このように本書は、これから眼科診療を始めてみようという獣医師にとって、非常に有益な本である。
しかし、本書はすでに眼科診療を専門的または積極的に行っている獣医師にとっても有用である。第3章以降は、眼の各部位について、それぞれの解剖、生理から始まり、各疾患の病態、治療法、予後、さらに手術手技については模式図もありそれら詳しく解説されている。とくに、回帰性ぶどう膜炎(equine recurrent uveitis:ERU)については、独立した章が設けられており、その病因、病態生理、治療法が最新の情報を基に詳しく書かれている。私自身が動物の視覚について研究させていただいているため、個人的に最も興味深かったのは、馬の視覚についての章、そして盲目となった馬の管理についての章である。馬の視機能については、人や犬・猫と異なることは他の眼科の成書にもある程度書かれていることであるが、本書は非常に詳しく解説してあり、とても勉強になった。
現在のところ、わが国では馬の眼科診療を行っている獣医師は非常に少ない。本書は、いわゆる眼科初級者にも、上級者にも、さらには研究者にとっても役立つ本であり、本書をご活用いただき、馬の眼科に興味を持つ獣医師が増えることを期待したい。

「獣医畜産新報」2011年2月号 掲載

Valarie V. Tynes

『Behavior of Exotic Pets』

2010年・Wiley-Blackwell発行・¥12,440(税込)

評者 麻布大学獣医学部教授 菊水健史

近年のペットブームによって、犬・猫の飼育家庭の数の増加はもちろん、これまで動物園などで見ることが楽しみであった動物が次第に家庭の中で飼育されるケースが増えてきている。エキゾチックアニマルと呼ばれるこれらの動物種は、最も広く飼育されているハムスターやカメなどから、珍しいオウムやトカゲなど、多様化しつつある。これら動物種は家畜化の過程を経ていないことから、野性味にあふれ、観察する者たちを強く惹きつけている。しかし、エキゾチックアニマルに関する生理学的、行動学的知見が少ないこと、またそれに輪をかけて、獣医診療や行動治療、さらには飼養管理法についての知識が非常に乏しいのが現状である。
そのような時代背景に即して、本書は作成されたと思われる。エキゾチックアニマルの行動学、特にその問題行動や異常行動と生理学的なメカニズム、さらには薬物治療や、適切な飼育、動物倫理的側面に関して網羅的に言及したはじめての書と言えよう。
本書の扉を開くと、まずその扱っている動物種の多さに圧倒される。鳥類から爬虫類、小型の哺乳類など、近年ペットとして飼育が増加している動物17種が含まれている。特に今回の書が、獣医師あるいは訓練士などの家庭動物を主に診ている人に向けてまとめられていることから、動物園動物などは含まれていない点も特徴的である。各章が、これらの動物種ごとに、その専門獣医が執筆していることからも、行動上の問題の把握からその対象法までが記載された専門性の高い書となっている。
各動物種について、まずはその動物の示す繁殖、養育、社会コミュニケーションなどの正常な行動が記載されている。これらを踏まえた上で、動物の行動上のニーズに対応するための飼養管理法が紹介されている。さまざまな動物にとって、適切な飼養管理を施すことで生態学的な行動特性が保証され、問題行動の発現率が軽減されることから、非常に重要な点といえる。また、飼育管理上、問題行動として飼い主から相談を受ける事項とそれに対する対処法に関しても取りまとめられており、一般の飼い主はもちろん、臨床現場における有用性も高い。
著者のValarie V. Tynes博士はテキサス州で獣医診療、特に問題行動の治療に従事してきた。大学卒業後はUC Davisの行動治療科にて専門的な問題行動の治療に携わり、その経験を積み重ねてきたようである。今回の著書の冒頭にUC DavisのJ. Hart先生からの寄せ書きが掲載されているが、これは彼女の恩師にあたることに由来するだろう。また行動治療のみならず、彼女自身が一般診療経験をもっていることから、生理学的な知見が要所に含まれており、これらの点も獣医師としてはありがたい。今後、多様化する臨床獣医場面において、非常に重宝する1冊になること間違いなし、お勧めである。

「獣医畜産新報」2011年2月号 掲載

J. Kevin Kealy, Hester McAllisteer, John P. Graham

『Diagnosis Radiology and Ultrasonography of the Dog and Cat 5th ed.』

2011年・Elsevier発行・¥21,773(税込)

評者 日本獣医生命科学大学獣医放射線学教室教授 藤田道郎

現在、小動物臨床の現場で用いられている画像検査としてX線検査、超音波検査、X線CT検査およびMRI検査があげられる。近年、多くの動物病院がX線CTを導入し、また我が国の獣医大学が次々にMRIを導入し、これらの高度画像検査機器が広く臨床の現場で活用されている。結果、X線検査や超音波検査では判読が困難、あるいは判読ができなかった事柄がX線CTやMRI検査を実施することで、評価が可能となり画像診断の有用性が広く認識され、画像診断に興味を持っている私としても非常に喜ばしいことだと思っている。しかしながら、その一方で危惧していることもある。それはX線検査や超音波検査を行わずに、あるいはきちんと読影せずに直ぐにX線CTやMRI検査を実施するなどX線や超音波などを用いた検査がおざなりになっている傾向があることである。言うまでもなく画像診断の基本はX線そして超音波検査である。先ず、これらの検査を行い、その上でより精査な情報が必要な場合、あるいはこれらの検査が不得手である頭蓋内、鼻腔内や脊髄内などの情報が必要な場合にX線CTやMRIといった断層撮像検査を行うという順序を忘れてはならない。本書を手にとって内容を熟読して欲しい。ごく、日常的に遭遇する多くの疾患が単純X線、造影X線そして超音波検査によって十分に診断が可能であり、そしてどのような疾患であればX線CTあるいはMRI検査が良いのか?さらに放射性物質を用いたシンチグラフィー画像で何を見るのかについてもシンプルにかつ実用的に示している。また各種画像検査の原理や基本的な手技などについても非常にわかりやすく解説している。本著は画像診断学を学ぶ学生にとっては教科書として、そして日々の診療に係わっている小動物臨床医にとってはX線や超音波検査の有用性を再認識することができる1冊である。

「獣医畜産新報」2011年1月号 掲載

Thomas, J. A. and Lerche, P.

『Anesthesia and Analgesia for Veterinary Technicians 4th ed.』

2011年・Elsevier発行・¥9,195(税込)

評者 酪農学園大学獣医学部伴侶動物医療教育群教授 山下和人

書評を依頼された本書が手元に届き、著者名を確認して驚いた。共著者の1人は、私が10年前にオハイオ州立大学獣医学部で獣医麻酔をともに学んだフィリップであった。彼は、『Handbook of Veterinary Anesthesia』の著者でもあるDr. Muir(現Chief Medical Officer, Animal Medical Center, N.Y.)、Dr. Hubbell、Dr. Bednarski、そしてDr. Skarda(故人)といった著名な米国獣医麻酔専門医の下で麻酔科レジデントとしてトレーニングを受けて米国獣医麻酔専門医の資格を取得するとともに、オハイオ州立大学大学院で博士号を授与され、現在、オハイオ州立大学獣医学部の麻酔科教員として活躍している。少し、個人的な縁を感じながら、この本のページをめくることになった。
本書は、その題名通り、動物看護師を対象とした動物の麻酔・疼痛管理のテキストである。1994年にMcKelveyとHollingsheadによって出版されて以来、米国の動物看護師教育に活用されてきた『Veterinary Anesthesia and Analgesia』の第4版として発刊された本書であるが、新しい著者を迎えて題名を『Anesthesia and Analgesia for Veterinary Technicians』と改め、旧版の良さを残しながらもその内容はより実用的に大幅に変更されている。本書は、A4判大の414ページのペーパーバックであり、第1章に麻酔の歴史、第2~7章に獣医麻酔の基礎知識(症例の術前準備、麻酔に用いられる薬物、麻酔機器、麻酔モニタリング、麻酔技術、疼痛管理)、第8~11章に動物種別の麻酔(犬と猫の麻酔、馬の麻酔、反芻獣と豚の麻酔、げっ歯類とウサギの麻酔)、第12章に麻酔時の問題解決法と救急治療、および第13章に麻酔業務に関連する職場の安全確保について記載されている。本文には、60の表に加え、240のカラー写真と60のカラー図説が用いられ、非常にわかりやすい内容となっている。とくに、麻酔機器や麻酔モニタリング機器の構造と取り扱い、血管確保や気管挿管などの麻酔技術に関する記載は詳細で丁寧であり、難解な文章や単語も少なく、日本の生産動物および伴侶動物医療に従事する臨床獣医師や動物看護師、そして獣医麻酔を学ぶ学生が臨床麻酔に関する知識と技術を得ることができる。また、各章の冒頭の1ページ目には、キーワード、記載内容の概要、得られる情報がシンプルにまとめられ、項目ごとにポイントを押さえた“TECHNICIAN NOTE”が記載されている。これらに目を通すだけでも麻酔診療のエッセンスを身につけることができる。さらに、各章の最後には小問題も掲載され、学んだ知識を確認できる工夫もされている。
米国の獣医療では専門医制度とともに動物看護師制度が確立しており、動物看護師が麻酔係(anesthetist)として担当獣医師(VIC, veterinarian-in-charge)の処方した麻酔プロトコールで麻酔管理を担当している。本書は、動物看護師を対象とした動物の麻酔・疼痛管理のテキストとして版を重ねた歴史を持ち、動物看護師が麻酔係としてVICと飼い主にどのように関わるべきかについて実用的な記載も多い。わが国でも、近い将来、動物看護師が国家資格として獣医師とともに獣医療を支える時代がやってくる。本書は、動物の麻酔・疼痛管理に関する記載を通して、今後わが国で獣医師と動物看護師がどのような立場で獣医療に携わっていくべきかのヒントを示しているとも感じた。
個人的な縁を感じながらページをめくった本書は、動物看護師を対象とした動物の麻酔・疼痛管理のテキストとしての旧版の良さを残しながらも、オハイオ州立大学の獣医麻酔専門医たちが重要視する実用性を加えた1冊であった。とくに、麻酔機器や麻酔技術に関する丁寧で詳細な記載と図説は、これまでの獣医麻酔学のテキストを凌駕するかもしれない。動物の麻酔に少しでも不安を感じている読者は、ぜひ、手に入れて日常診療に役立ててほしい。

「獣医畜産新報」2011年1月号 掲載

Judith Joyce

『Note on Small Animal Dermatology』

2010年・Wiley-Blackwell発行・¥10,885(税込)

評者 ASC動物皮膚科院長 永田雅彦

本書を手にして、大学を卒業しクリニックに勤務した25年前を思い出した。臨床の現場では覚えておかなければならないことがあまりにも多く、必須事項を書き込んだ手帳をポケットに忍ばせ、ことあるごとに書き込みや書き直しをしていた。この手帳はいつしか1冊のノートになっていたが、持ち歩くにはひどく痛んでいた。この度出版された『Note on Small Animal Dermatology』はまさにこれに相当する一品である。これはWilley-Blackwellによって企画された小動物診療に必要な診断治療知見を概説したノート・シリーズのひとつである。すでに内科、循環器疾患、ウサギ診療、猫診療が上梓されており、これに次いで皮膚病が出版された。
その内容は臨床家に優しく、基本的な皮膚科診療ツール、主徴からのアプローチ、病態からのアプローチ、発疹分布からのアプローチ、そして皮膚科の治療が色による付箋で整理され、さらに巻末には病歴カルテ、診察カルテ、飼い主様にお渡しする除去食試験のレター、薬物情報に関するアドバイス、グルココルチコイドを安全に使用するガイドまで添付されている。しかも品の良いカラー写真がほどよく配置され、診断アプローチの理解を助けるアルゴリズムまで用意されている。これぞまさにポケットに忍ばせたかったノートである。
本書のタイトルで使用されているsmall animal dermatologyは、獣医皮膚科聖書(成書ではなく)と呼ばれているかの有名なテキストと同一であり、これを情報源とした臨床家向けの書であることがうかがい知れる。その出来映えには眼を見張るも、恥かしながら著者のお名前を存じていなかった。さっそくウエブで検索した。著者は英国、エディンバラの下に位置するノーサンバーランドにあるCroft Veterinary Hospitalの皮膚科主任であった。この病院は24時間、365日救急診療を行う地域拠点病院であり、ここで28年の皮膚科経験をもって日々の診療に当たる中心的スタッフであった。なるほど、本書が臨床家の、臨床家による、臨床家のため皮膚科ノートであることに納得させられた。忙しい臨床家をサポートするノートとしてはもちろんのこと、新人臨床家や学生の皮膚科研修ガイドとしてもきわめて魅力的な1冊である。

「獣医畜産新報」2011年1月号 掲載

Kenneth J. Drobatz, Merilee F. Costello

『Feline Emergency & Critical Care Medicne』

2010年・Wiley-Blackwell発行・¥15,032(税込)

評者 赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫

猫に特化した救急医療の本はこれまでなかったが、やはり獣医学の進歩と共に、猫専門の本ができるようになったのだろう。この本を読むと、すべての器官系の疾患における猫の特殊性が各章の最初の囲みに箇条書きで書かれており、救急医療を一通りマスターした獣医師がその部分だけ拾い読みしても十分に学べる本であることがわかった。
さらに、重症の猫へのアプローチ法、心肺脳蘇生(CPCR)、ショック、創傷、重症患者への麻酔、重症患者の疼痛管理、輸液療法、重症患者の栄養サポート、呼吸器系エマージェンシー、心臓系エマージェンシー、血栓症といった通常の救急医療の教科書に掲載されている記述に加え、消化器系、尿路系、神経系、血液系のエマージェンシー、中毒、さらには内分泌系、電解質異常、眼科、皮膚科疾患にまで、とくに救急ではないものにも記述が及ぶ。
結局の所この本は、エマージェンシーを切り口にした猫の内科学の総合教科書であり、箇条書きのコンパクトな記述法により、簡単に読めるハンドブック的なものとなっている。様々なテクニックや病気の説明にはカラー図版が豊富に使用されている。また、いくつかの章には、薬用量の表も掲載されている。
編者のDrobatzはペンシルバニア大学獣医大学の救急医療の教授であり、Costelloはペンシルバニアの救急医療専門動物病院のスペシャリストである。著者は米英の大学の専門家、専門病院のスタッフなど40名を超える。救急医療のためには全部読んで身につけておくべきであろうが、それでも全体を通読して、どこに何が書いてあるかを把握しておけば、急に必要になった時に参照できる貴重な教科書と思われる。

「獣医畜産新報」2011年1月号 掲載

Elisa M. Mazzaferro

『Blackwell's Five-Minute Veterinary Consult Clinical Companion Small Animal Emergency and Critical Care』

2010年・Wiley-Blackwell発行・¥13,866(税込)

評者 日本獣医生命科学大学獣医学部獣医高度医療学教室教授 竹村直行

Dr. E.M.Mazzaferroの編集による『Clinical Companion Small Animal Emergency and Critical Care』を手にした。これは最近、盛んに出版されている5-Minuete Veterinary Consultシリーズの1つである。
本書は114章から構成され、1つの章で1つの疾患・病態が解説されている。通常、テキストのタイトルに“Emergency and Critical Care”の文字が並んでいると、我々は無意識のうちに「重症動物の管理法に関する教科書」を連想するのではなかろうか? 確かに緊急処置やICU管理が必要な疾患も扱われているが、これだけでなく実に様々な疾患・病態が扱われている。具体的には、アセトアミノフェン、チョコレート、殺鼠剤などの中毒、代表的な不整脈や酸塩基電解質障害、ショック、各種感染症など我々が日常診療の中でたびたび遭遇または疑診する疾患・病態が内科・外科を問わずびっしりと配列されているのである。
各章(つまり各疾患・病態)の解説は非常に簡潔で明快である。随所でカラー写真が挿入されており、シンプルな記載を補助している。例えば「ナトリウムの異常(26章)」は、定義、病因・病態生理、シグナルメント・病歴、臨床的特徴、原因鑑別、診断法、治療法、コメントにわけて低ナトリウム血症および高ナトリウム血症が5頁で解説されている。ナトリウムの代謝異常の解説としては、決して充実しているとは言えないが、このことは本書の編集方針が「5分間で相談できる(理解できる)」ことに徹している証拠でもあろう。すなわち、診断や治療方針に迷った時などに、本書は我々の迅速で良き相談相手(まさに5-Minuete Veterinary Consult)になってくれるであろう。同時に、本書の頁を全て括ってみて、「小動物臨床家である以上、どのような場合であっても本書の内容は忘れてはならない」と本書は我々に囁いているようにも思えるのである。換言すると、本書はいわゆるCommon Practiceの内容やレベルを我々に具体的に提案していると思える。実際の症例と対峙していなくても、日頃から本書を身近において通読しながら、必要な箇所はより詳しく解説された専門書を参照することで、様々な分野の知識が整理されるだけでなく、診療の幅やレベルが向上することは間違いないであろう。

「獣医畜産新報」2010年12月号 掲載

Jack Easley, Padraic M.Dixon, James Schumacher

『Equine Dentistry 3rd ed.』

2011年・Elsevier発行・¥22,291(税込)

評者 酪農学園大学獣医学部生産動物医療学部門外科ユニット教授 田口 清

410頁、23章に及ぶ馬の歯科学のテキストブックの第3版である。第1版は10年前に上梓されている。いうまでもなく馬の歯の解剖知識や疾病知識の進歩、無痛法と麻酔の進歩、画像診断の進歩、歯科手術の進歩は著しい。日進月歩の馬歯科学の診断・治療・予防は歯科学研究の発展に証拠づけられ、その最新の情報が記述されている。本書をぱらぱらめくるだけで美しいカラーの図と写真の多さに圧倒されるだけでなく、馬の臨床歯科学の全体(構造)を俯瞰することができる。馬とともに暮らしてきた著者ら(欧米人)ならではの獣医学書といえるだろう。つまり医療が先か、医学が先かという議論では、本書は明らかに臨床医療が先で、それを体系づけた馬歯科学書である。馬とその医療の物量とエネルギーを強く感じるのは私だけではないだろう。そしてシンプルな目標に全身全霊を集中させるとこのような本になるのだろう。ただあまりにもシステマティックな理とツールを見せつけられてしまうと、ありあわせで工夫してきたわれわれはどう振る舞うべきか立ち止まってしまう。巻末の歯科用語小辞典ともいえる用語集はたいへん便利である。馬の診療をわずかでも抱えている臨床獣医師は持っていて損のない教科書であるし、この分野(馬と歯科医療)に興味のある学生には驚きの1冊といえる。

「獣医畜産新報」2010年12月号 掲載

Michael E.Peterson,Michelle Anne Kutzler

『Small Animal Pediatrics -The First 12 Months of Life-』

2011年・Elsevier発行・¥14,645(税込)

評者 タカダアニマルホスビタル副院長 小村吉幸

子犬と子猫に関する小児科学の新刊が出版された。比較的コンパクトなボリュームの中に臨床の現場に携わる獣医師にとって重要な項目のすべてを収めつつ、それらをきわめて把握しやすいように分類していることが本書の特徴である。
母子の看護や管理、各種の感染症、そして主要な器官系についての新しい知見に基づいた解説だけにとどまらず、エマージェンシー、X線検査および超音波検査、そして麻酔ならびに鎮痛治療などの項目を設けているところがいかにも新しい編集の意図をうかがわせる。
本書は大きく4つのセクションに分類されており、第1章の一般的考慮事項から始まり、第2章が幼若な子犬および子猫で一般的な感染症、第3章が診断と治療のためのアプローチ、そして第4章の診断と治療のための系統的な臨床アプローチへと続く。
第3章と第4章は表題が似ているが、前者では、子犬および子猫におけるX線撮影時の考慮事項、超音波検査法、麻酔法、外科的な考慮事項、骨折の治療管理、疼痛の評価と管理、薬理学的考慮事項、中毒、診断検査施設の有効活用法、臨床化学検査、そして剖検法を解説している。後者は心血管系、血液リンパ系、呼吸器系、歯牙および口腔、消化器系、肝胆道および膵外分泌、尿路系、生殖器系、神経系、皮膚および耳、筋骨格系、眼科、栄養学的アプローチ、そして人動物共通感染症を網羅している。
このように分類された項目が、第1章の第1項の母犬および母猫に対するケアから始まり、全46の項目へと順序良く解説されていく。各項目が具体的に挙げられているので、いま何についての情報を得るためにどこを開けばよいのかが一目瞭然であり、目にとまりやすく色分けされたページや本文中のサブタイトルもうれしい配慮の1つである。
また、獣医学英語を勉強中の方にとっては、臨床で出会う様々な分野の単語や表現が1冊の本の中に出てくるので、本書の各項目を読破することにより、大変効率よく獣医学用語の勉強を進めることができると思う。
さて、骨成長板の閉鎖時期を調べるときはどの本だったか? 子犬、子猫のALPは月齢でどのくらい変化するのだったか?etc. さっと本書を開くことができるように、現場の書庫の最前列に置くこととしよう。

「獣医畜産新報」2010年11月号 掲載

Fitzmaurice,S. N.

『Saunders Solutions in Veterinary Practice,Small Animal Neurology』

2010年・Elsevier発行・¥10,621(税込)

評者 とがさき動物病院院長 諸角元二

本書は臨床家向けに神経病学を分かりやすく解説した本である。そのため、神経疾患動物に対する病歴の取り方や神経学的検査の項は基本的なこととなり、目新しいことはほとんどない。しかし、「神経病の診断は、病歴、身体検査や神経学的検査を中心にした臨床診断が大きなウエイトを占めることから、MRIのような高価な画像診断装置を買うかわりにこの本を買ってください」という著者の言葉にあるように、本当に大事なことは基本的なことである。
さて、各論に入ると大項目で「意識レベルの変化」「行動の変化」「発作」「脳神経機能」「歩様」などなど、これらがさらに小項目に分かれ、それぞれ症例の紹介、臨床検査所見、治療法、予後、疾患の解説となっている。読み進むうちに著者の教育講演を聞いているように感じられる。また時代を反映して、きれいなMRI写真も豊富に使ってあるのでかなり楽しく読むことができる。
個人的に興味深かったのは、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの頚部の異常感覚(うちの病院では以前から「キャバリアのカイカイ病」と言っていて、おそらく脊髄空洞症に関連した掻痒症と考えている)に痛みを伴う症例が紹介されている。動物の自覚症状は獣医師にとって確認不可能であるものの、異常感覚であれば中には痛みを感じる症例がいてもいいか、と妙に納得してしまった。
獣医師は神経疾患が疑われる動物に対して「神経系に病変が存在するか?」「病変部位はどこか?」「どのような性質の病変か?」という3点を検討し、暫定的に診断していくものである。本書は、これらのことを丁寧に解説して暫定診断に至る考え方を身に付けるように書かれている。したがって、初心者にも中級者にも役に立つ本である。

「獣医畜産新報」2010年10月号 掲載

Ruth Dennis,Robert M. Kirberger,Frances Barr,Robert H. Wrigley

『Handbook of Small Animal Radiology and Ultrasound-Techniques and Differential Diagnoses-2nd ed.』

2010年・Elsevier発行・¥12,435(税込)

評者 麻布大学獣医学部講師 茅沼秀樹

近年、様々な画像診断法が身近になり、とかくX線CTやMRIといった画像診断法が注目されている現状にある。しかしながら、大雑把ではあるものの全体像を容易に把握できるX線診断法、断層によってより詳細に病変部の構造を把握できる超音波診断法が、画像診断法の基本になっていることは言うまでもない。これら画像検査法によって鑑別診断や治療方針を絞り、そこからさらにその他の画像診断法が必要となるのかを決定する必要がある。また、X線CTやMRIをこれから撮影する動物についても、X線所見や超音波所見を判断し、造影検査を付け加えたり、撮影法を変更したりして、より情報量が多く得られるように撮影を工夫する必要がある。したがって、X線CTやMRIが日頃使用できる獣医師にとってもX線診断や超音波診断は非常に重要である。
本書は、X線診断法と超音波診断法に限定された画像診断書である。12のチャプター(1.骨一般、2.関節、3.付属骨格、4.頭頚部、5.脊椎、6.下部呼吸器、7.心臓、8.胸部、9.腹部、10.消化器、11.尿路、12.軟部組織)からなり、各チャプターともに始まりには一般事項(撮影法、解剖、X線解剖、超音波での描出法等)が記載されている。これらの内容は、箇条書きで要点に絞られて記載されている他は、従来の画像診断書と何ら替わりが無い。本書が他の画像診断書と異なる特徴を有しているのはこの後で、X線画像や超音波画像の異常所見が大きな項目として挙がり、鑑別診断が列挙されている点である。ただそれだけの非常にシンプルな構成である。
画像診断書の多くは、疾患名(診断名)の項目があり、それに続いて各種画像診断法における異常所見が述べられている。この形式は、勉強する上で理解しやすいものと思われるが、診療の合間で診断に迷った際、チラッと確認するには非常に不便な作りである。診断名が不明だからこそ検査をしているわけで、異常所見から診断名がみつけられる本書の書式は非常に臨床に即している。また、どの様な検査法でも所見から1つまたは2つの疾患名に絞って診断を進めていくと、外れたときに混乱するといった経験は多いものと思われるが、鑑別診断リストを示してくれる本書のような形式の書籍は非常に心強い。
これらの記載は、英語であるものの、全て箇条書きであることがら、診療時のクイックリファレンスとして非常に役立つ1冊と思われる。また、これから画像診断を学ぶ学生にとっても、臨床に即した学習が可能な書籍と考えられる。仕事柄、様々な画像診断書に目を通す機会が多いが、「あっ、これいいな」と久しぶりに思えた1冊である。

「獣医畜産新報」2010年10月号 掲載

Brinsko,S.P. et al.

『Manual of Equine Reproduction 3rd ed.』

2011年・Elsevier発行・¥11,658(税込)

評者 NOSAI日高 家畜診療センター所長 樋口 徹

生産地で働いていると馬の臨床繁殖は離れられない課題なのだが、経験が乏しい若い獣医師にとっては難しい分野でもある。なにせ膨大な回数の直腸検査の必要にかられ、診断機器といっても超音波装置が使えるくらいで、それ以上というといきなりホルモン測定のナノグラム・ピコグラムの世界になってしまう。そして、結果は妊娠したか、しなかったかの二つに一つしかない。勉強しようにも、臨床的な観点から馬の繁殖について書かれた本はほとんどなかった。繁殖分野では扱う臓器は限られているが、特有の生理学を基礎とし、用語も独特で門外漢には取り付きにくい。楽しく読めて、必要なときには簡単に調べることができるハンドブックやマニュアルが望まれる理由だろう。
本書は馬の臨床繁殖学の「マニュアル」の第3版で、ペーパーバックとはいえA4判で325ページもある。特筆すべきは写真の多さで、超音波画像を除けばすべてカラーである。写真には人の姿がずいぶん写っていて診療の実際のようすがわかるし、手元を写した写真も多くて、処置や操作のやり方がよくわかる。図、表、グラフ、本文中の見出しもカラーでたいへん見やすいし、楽しく読める。
著者はテキサスA&M大学の獣医繁殖の専門医の先生達で、このマニュアルは学術的に正しい最新情報を基礎としながら、豊富な症例、実践経験から書かれている。各章の始めには「目的」と「学ぶ上での課題」が明示されているので、それを念頭において各章を読めばポイントが頭に入る仕組みになっている。
「雌馬の解剖構造」には直腸検査の方法が解剖体での写真を使って説明されている。「雌馬の繁殖器官の外科」、「雄馬の繁殖器官の外科」では外科の成書にもないカラー写真や図を使って手技が解説されている。「新生子馬の処置と管理」では新生児学的記載もある。サラブレッド以外の馬も対象になっているので、「精液採取と人工授精」「精液保存」「受精卵移殖」の章もある。他には「妊娠していない馬の生理学」、「雌馬の繁殖上の健康検査」、「臨床繁殖の経直腸超音波検査」、「子宮内膜炎」、「妊娠:生理学そして診断」、「妊娠喪失」、「妊娠馬の管理」、「難産と分娩後の疾患」などの全19章からなっている。生産地の獣医師をはじめ、馬の繁殖に関わる人にとって重宝する書だろう。

「獣医畜産新報」2010年9月号 掲載

Dubielzig,R.R.,Ketring,K.,Mclellan,G.J.

『Veterinary Ocular Pathology -A Comparative Review-』

2010年・Elsevier発行・¥49,637(税込)

評者 日本大学生物資源科学部助教 滝山直昭

獣医眼科病理の本というと、果たして何人の人が購入するだろうか?と思わないでもないが、かく謂う私は出版前に予約をして出版直後に入手した。偶然にも書評の依頼を頂戴したが、書評を依頼されたから良いことを書くのではなく、この本の出版を心待ちにしていた者として本書をお勧めしたい。
獣医病理学に従事する方はもちろん、専門的・準専門的に獣医眼科臨床に従事する獣医師のみならず、眼科を取り扱う一般臨床獣医師においても、非常に有益な情報が本書には満載されている。本書の取り扱っている眼科病理の症例は犬猫が中心ではあるが、馬や牛の眼科病理についても記載があるので、臨床獣医師といっても小動物獣医師だけでなく大動物獣医師にとっても重宝されることと推察する。
本書の筆頭著者のDr. Richard R. Dubielzig(私は親しみを込めて「Dr. Dick」と呼んでいる。決してDubielzigが発音しにくいからではない…)はウィスコンシン大学の獣医病理医で、特に眼科病理に特化したComparative Ocular Pathology Laboratory of Wisconsin(COPLOW)のヘッドである。これまでに2万5千を超える獣医眼科の病理組織を診てきており、世界一の獣医眼科病理医といって差し支えないだろう。
私個人は獣医眼科を専門に診療する立場にあるため、症例の検体を病理検査の外部機関へ委託することがある。しかし獣医眼科病理(獣医病理の眼科)についての情報は少なく、獣医病理医も眼科はちょっと苦手…という方が多いように感じる。実際に、自分自身でDr. Dickらの研究データを探して標本の再評価を行わないといけないことは少なくない。本書を是非活用して頂いて、外部検査機関の病理診断の精度がさらに向上することを期待したい。
臨床家にとって本書が有益な理由は、臨床的な所見から病理所見、予後などの情報が掲載されていることである。私自身が数例しか経験がない疾患で、かつ獣医眼科の成書にも情報が少ない眼科疾患についても、本書にはその膨大なデータからの記載が多数みられるので非常に重宝する。また病理組織の写真だけでなく、摘出した検体のマクロ写真が多く、臨床的な外観や眼底の写真も非常に豊富である。これは臨床家にとってはありがたい。
目次はあっさりしているが、各章の冒頭に詳細な目次がついていること、正常な解剖についての記載もあり、各章の最後にある参考文献は疾患ごとにまとめられているなど、Dr. Dickの細やかな配慮が伺い知れる1冊である。
当然ながら、「これ1冊で全てを満たす」という本は存在しない。利用される各位の状況に合わせて他書も参考にし、なおかつ本書もご活用いただくと非常に有益となるであろう。

「獣医畜産新報」2010年9月号 掲載

Rob Foale, Jackie Demetriou

『Saunders Solution in Veterinary Practice Small Animal Oncology』

2010年・Elsevier発行・¥10,750(税込)

評者 鹿児島大学農学部臨床獣医学講座講師 瀬戸口明日香

本書は一言でいうと「症例から学ぶ腫瘍学」についての本である。腫瘍学の教科書の多くが、各臓器に発生する腫瘍ごとに論じられ、これまでのエビデンスを基にまとめられているのとは異なり、本書は鼻汁、流涎、嘔吐、血便、貧血といった症状を呈する患者において、どのような腫瘍性疾患が認められたかというケーススタディになっている。例えば、「第5章:The cancer patient with sneezing and/or nasal discharge(くしゃみや鼻汁を認める症例)」では3つの症例がとりあげられ、それぞれのシグナルメント、主訴、病歴、臨床検査所見、鑑別診断リスト、診断評価、検査所見、治療が順を追って述べられている。この流れは私たちが日常行っている診療手順や思考回路と同じであるために非常に判りやすい。エビデンスを重視して構成されている従来の教科書は、参考書としては非常に有用であり科学的でもあるが、初学者には病気の全体像がとらえにくいという欠点がある。しかし本書では具体的な症例の検査・診断といった一連の流れの中で、「theory refresher」という項では疾患の概要が簡潔にまとめてあり、病気の全体像がつかみやすくなっている。
また「clinical tip」という項では生検や画像診断などにおけるツボについて注意が喚起され、「nursing tip」の項で診断治療に際して発生しうる問題点やそれに対する対処・看護法などがメモされるなど、非常に臨床的なまとめ方になっている。先に例として挙げた「くしゃみや鼻水を認める症例」の項では鼻腔腫瘍、鼻鏡腫瘍が解説されているが、鼻鏡に発生した腫瘍に対する外科療法の術後経過や、外科以外の治療法、例えば光線力学療法(photo dynamic therapy:PDT)を行った例など豊富な写真とともに記載されている。
通読してみると、著者の1人が外科専門医であるためか、腫瘍内科専門医による教科書と比較して、外科治療の術式が詳細に述べられている点が印象的である。上顎に発生した口腔内メラノーマの症例についての記載では、術中の経過写真が複数掲載されていることで、「どこからアプローチして、どの程度剥離し、腫瘤の切除後の粘膜フラップはどのようになされているか」が判りやすくなっている。腫瘍外科を行う獣医師にとって非常に役立つのはもちろんのこと、実際にメスをにぎることはない筆者(内科担当医)にとっても「この腫瘍は外科的に切除可能かどうか?!」ということを考慮する上で非常に参考になるであろうと感じた。
さらに、本書が非常に臨床的であると感じたのは、「How to」について詳細に述べられているという点である。第1章では「How to obtain the perfect biopsy(完璧な生検を行うには)」と題され、生検法について写真で手順を追いながら解説されている。第3章の「Principles of cancer chemotherapy(化学療法の基本原則)」では抗癌剤の投与準備、静脈内留置針を入れる方法(注意点を含む)が8枚も!の写真で解説されている。「どうやって抗癌剤を投与するのか?」「どこに気をつければいいのか?」という化学療法初心者が感じる疑問(実は質問されることが多いのだが…)にも対応できるように構成されている。
ただし、本書は「あの病気何だっけ?」「この腫瘍について調べてみよう」という参考書としての利用にはあまり適していない。参考書的利用の場合は、臓器別・腫瘍の種類別に記載された従来の教科書が引きやすいであろう。本書は症例に即して記載されたコンパクトな実習書ととらえていただけたら、最も有効に利用できると考えている。その意味では腫瘍学の初学者~中級者におすすめの1冊であり、是非一読されたい。

「獣医畜産新報」2010年8月号 掲載

Raymond R. Ashdown,Stanley H. Done

『Color Atlas of Veterinary Anatomy Vol.1 The Ruminants 2nd ed.』

画像  『Color Atlas of Veterinary Anatomy Vol.1 The Ruminants 2nd ed.』

評者 酪農学園大学獣医学部教授 田口 清

本書はきわめて個性的な牛の解剖書である。第一に局所解剖書であること、第二に解剖体の局所の写真とその解剖図からなっていること、第三に外貌写真と解剖写真が符合するようになっていることである。これらは実際の動物体の体表の手触りや凸凹からその部位が解剖構造のどこに当たるのかを学び、解剖写真とその図によって体表と体内構造の関係を理解することを目的にしている。すなわち実際の動物に向かって行う五感による臨床検査のことを意識的に取り入れた解剖書である。もともとは学ぶべきことが膨大に膨らみ、実習時間もままならない学生側と常に解剖体を準備できない先生側の双方を助けるために考え出された方法でもあるという。
解剖学を学んだだけでは、多くの学生が牛の膝蓋骨がどこにあるのかを実際の牛で指さしたり、触診したりできないことは皆さんも経験があるでしょう。私自身、この本の第1版を見たときは衝撃的であったことを覚えている。
現在、第1版が手元にないので、解剖写真や解剖図に新しく付け加えられたところがどこなのか定かではないが、骨のX線解剖の章が終末に追加されている。しかしこの章のX線写真の画質は悪く、あまり役立つものにはなっていない。もうひとつ難をいえば、たとえば肢の腱の走行などに関して二次元の解剖写真では三次元的に連続したり、交差する構造がわかりにくいことである。また局所・局所でわかってもそれが全体的にどう繋がって関連しているのかは他の解剖書をみなければならない(局所解剖書だから当たり前だが)。解剖写真の筋肉や臓器のほとんどが赤茶色なので判別しがたい部分もある。
とはいっても革命的な牛の解剖書であることはまちいがいなく、装丁もソフトカバーになり使い勝手もよくなっている。BSE問題で牛の解剖をみることができなくなった学生と臨床獣医師、体表と解剖構造の関係を今ひとつイメージできない学生と臨床獣医師、手術や損傷部位をもう一度確認するために、罹患部位を調べ直さなければならない学生と臨床獣医師にはうってつけの本だといえる。なお牛の写真はすべてジャージー種が使用されている。

「獣医畜産新報」2010年6月号 掲載

Peter M.Rabinowitz, Lisa A.Conti

『Human-Animal Medicine Clinical Approaches to Zoonoses, Toxicants, and Other Shared Health Risks』

2010年・Elsevier発行・¥9,973(税込)

評者 日本大学生物資源科学部教授 丸山総一

私達の周囲には、家畜、ペット、野生動物などさまざまな動物が存在しており、これらの動物と人が密接に関わる現代社会では、それぞれが相互に影響を及ぼしあい、複雑な関係を構築している。また、世界各地では人口増加と温暖化に代表される環境破壊、食料不足、エネルギー不足が急速に進行し、深刻な問題となっている。さらに、ボーダーレスな人々の移動や物流の活発化に伴って、各地で高病原性鳥インフルエンザ、狂犬病、パンデミックインフルエンザなどの感染症が次々に発生し、わが国も対岸の火事とはいえない状態となっている。こういった状況から、「One World、One Health」という概念が近年欧米を中心に広く用いられるようになってきた。これは、「世界は切り離すことのできない緊密さで繋がっており、人、動物、環境を含めた健康の維持には1国だけでなく地球規模で対応する必要がある」という概念で、適正な人と動物の相互関係、適切なリスク管理、人獣共通感染症の統御、感染症以外の疾病制御には、これまでのように個々の専門分野が独自で対応するのではなく、医学と獣医学が連携して問題解決に当たる必要性が提唱されている。
本書では、動物が人へ及ぼす影響には、少なくとも3つの形態があると考えている。第1は、動物との接触による人獣共通感染症、動物アレルギーと咬傷、刺咬の危険性。第2は、ヒューマン・アニマルボンドといった心理社会学的効果が身体に及ぼす恩恵、第3は、環境中の化学物質や感染症など人への危害となるものに対する「歩哨」としての動物役割である。14章から構成されている本書では、人と動物にとって共通の問題である人獣共通感染症、化学物質による中毒およびその他の健康危害の問題を広い視点から取り上げており、医学・獣医学の両視点に立って記述している。各章では、人や動物の健康危害について、豊富な写真と図表を用い、具体的な事例を挙げて分かりやすく解説している。特に、感染症の写真の中には、海外のみで流行していたりすでに日本では見られなくなったものが多数掲載されていることから、不測の事態に遭遇した際の格好の資料となるであろう。本書は、One Healthの概念に基づいて記述されており、医学・獣医学両分野の臨床家や公衆衛生に携わる専門家が人と動物の健康を理解する上で必携の書といえよう。

「獣医畜産新報」2010年5月号 掲載

Stephen M. Reed, Warwick M.Bayly, Debra C. Sellon

『Equine Internal Medicine 3rd ed.』

2010年・Elsevier発行・¥31,104(税込)

評者 NOSAI日高 家畜診療センター所長 樋口 徹

『Equine Internal Medicine』の第3版が出版された。初版から5年を経て第2版が出され、さらに6年を経て第3版が出たことになる。このような本が5~6年に1回改訂されることに驚いてしまう。世界にはそれだけ馬の医療の需要があり、最新の情報と教育が求められているのだろう。
第2版の執筆者76名のうち19名は交替し、さらに1名が加わって77名が執筆している。執筆者が変わっていない章も手が入れられている。1659ページあったページ数は、1466ページになった。巨大な本だった第2版よりはコンパクトにしたいというのがコンセプトにあったのかもしれない。残念ながら紙の質が少し落ち、目次と索引が見にくくなったかもしれない。
内容は、第2版までのスタイルを踏襲していて、パート1は病気のメカニズムと治療の原則を総括し、パート2で各器官の疾病について詳述している。馬の内科学を網羅しようとしている本で、記載はあくまで学術的であるが、もちろん臨床で疾患に遭遇したときの手引書としても使える。ただし内科診断学的な章はなく、その点では学生や初心者のマニュアルではない。しかし、写真、イラスト、グラフ、表も多いので、硬すぎたり無味乾燥な印象は受けない。残念ながらカラーページはない。心臓病や神経病の症例の動画などが入ったDVDが付属しており日本のパソコンでも問題なく見られる。
内科学とは言いながら、眼科学、生殖器疾患の章もある。子馬の障害、皮膚の障害、筋骨格の障害などの章もあり、これらは現在では、馬の眼科学、馬の繁殖学、馬の新生子学、馬の皮膚病のアトラス、馬の跛行など、それぞれについての成書があるので、内科学の一部として記述の価値に疑問を感じる人もいるかもしれない。馬の急性腹症、馬の消化器学、馬の呼吸器の内科と外科などの本と比べれば、消化器病や呼吸器病の章ですら物足りなさを感じることもあるだろう。しかし、生理を理解し、病態を把握し、治療を考えていくというアプローチの仕方こそ内科学であり、本書を貫いている原則である。パート1の疫学の章は、エビデンスベースドメディシン(EBM)をキーワードに記載されている。本書のあらゆる記載は引用文献が示されており、EBM時代の学術書として使える。馬臨床の専門書をそろえるのがたいへんなら、これ1冊で代用するのも方法かもしれない。この本があれば馬のあらゆる障害にアプローチする手がかりになる。馬臨床家は手元に置いておきたい本だ。馬臨床医を目指す人の1冊にも適している。

「獣医畜産新報」2010年4月号 掲載

Carolyn J.Henry

『Cancer Management in Small Animal Practice』

2010年・Elsevier発行・¥12,824(税込)

評者 鹿児島大学農学部臨床獣医学講座講師 瀬戸口明日香

本書はタイトルが示す通り、小動物における腫瘍性疾患の診断、治療、管理について、臨床に即し具体的に解説された本である。腫瘍の病態生理や分子生物学的な腫瘍発生機構から始まり、疫学、統計学、臨床研究の進め方といったベーシックな腫瘍学と、腫瘍性疾患の診断、治療といった臨床的な側面とにわたって、幅広くまた詳細に述べられている。それぞれの内容には近年の臨床および基礎研究結果が反映されており、最新の情報を得ることができる。また米国で行われている臨床研究についての情報も記載されており、今どのような治療が検討されているのか?ということまで判る内容となっている。それもそのはずで、著者のCarolyn J.Henryは米国獣医癌学会(Veterinary Cancer Society:VCS)のchairmanをつとめた人物である。各項の著者もVCSで活躍するおなじみのclinicianかつresearcherであり、第一線で働く米国きってのoncologist揃いである。だからこそ、近年の臨床および基礎研究結果が反映された最新の内容となっており、新しい知見が盛り込まれたup to dateな教科書となっている。
本書の特徴は、何といっても臨床の第一線で働く著者の本らしく、臨床に役立つ工夫が随所にちりばめられているころであろう。例えば表紙の裏には各種抗生剤の抗菌スペクトルや栄養管理のためのカロリー計算表がついており、本文中には各社の療法食のカロリーや成分比が表にまとめられている。化学療法の章では各種薬剤の用量のみならず溶解、保存法や保存期限などについても表に示してあり、臨床家にとって必要な情報がまとめられている。また、副作用の対策法、血管外漏出などのエマージェンンシー時の対応についても表として掲載されており、いざというときに判りやすい。さらには化学療法剤を安全に取り扱うための器具やその入手先のweb siteなどまで記載され、まさに女性のoncologistらしい細やかな心配りがなされている。
新しい診断方法として、PETや核シンチグラフィーといった技術について記載されているのも小動物の腫瘍に関する書籍としては本書が初めてであろう。また鼻鏡検査や膀胱鏡検査の具体的な実施法など各種検査手技がBoxとして別記されており非常にわかりやすくなっている。実際の検査画像も多く、初心者にも検査のイメージがつかみやすい。
さらに、特筆すべきは放射線療法についても比較的多くのページが割かれており、これまで日本では馴染みの薄かった放射線療法についても学ぶことができる。
腫瘍学の各論については、頭部から尾部まで順に臓器ごとに構成されている。各項において、対象臓器で認められる腫瘍の種類と治療成績の比較(外科療法vs放射線療法vs化学療法)やステージと予後などが表により判りやすく掲載され、オーナーに治療法や予後を提示する際に役立つ形になっている。例えば、骨肉腫の治療については様々な報告があり、1つ1つを記憶しておくことは困難である。しかし本書の表を参照するだけで、これまでの主立った治療に関する報告を比較することができる。
では、本書をどのように活用したら良いであろうか?腫瘍学の初心者はじっくりと少しずつ読み進めることで、腫瘍学の1から10までを知ることができるであろう(まず、腫瘍学の基礎の項をじっくりと読んでいただきたい。腫瘍性疾患に向き合う上で何が必要かという著者の信念が感じられる)。腫瘍学の中級者は最も有効に本書を利用できるであろう。実際の症例の診断および治療を行う際に、常に近くにおいて、必要な情報を本書から取り出せばよいのである。腫瘍学の上級者は、本書にちりばめられた最新のエッセンスを楽しんでもらえばよいであろう。本書は、最新の情報が盛り込まれた、現在の米国での治療のスタンダードを知ることができる新しい腫瘍学の教科書である。
余談ですが、英語で書かれた本ではあるものの、表やボックスでポイントが明確にしてあり、かつ写真も多いので読み進めるのにそれほど困難はないように思いますよ!

「獣医畜産新報」2010年4月号 掲載

K.M.Dyce, WO.Sack, C.J.G.Wensing

『Textbook of Veterinary Anatomy 4th ed.』

2010年・Elsevier発行・¥19,181(税込)

評者 日本獣医生命科学大学准教授 竹村直行

本書を手にして約800頁の全てを手繰ってみて、感じたことを書くことで書評とさせて頂きたい。
本書の内容を一言で書けば、「総論的な解説に引き続いて犬、猫、馬、反芻獣、豚および鳥に分けてそれぞれの解剖学を解説している」ということになる。しかし、これでは本書の魅力は全くお伝えできないであろう。
本書は解剖学の教科書であり、同時に臨床の入門書としても位置づけられるべきであろう。上述した様々な動物種の肉眼解剖図はカラーで、ほぼ全ての頁にカラー図版が掲載されている。この図が非常に良く工夫されており、臨床家が解剖学を復習するのに非常に役立つことは間違いないと断言できる。加えて、X線(各種造影を含む)、CT、超音波などの各種画像も随所に挿入されており、臨床家が親近感を持つのは勿論、学生諸君は「解剖学の向こう」にある臨床獣医学との接点を随所で感じ取るに違いない。私はいわゆる「積み上げ6年制教育」を受けた世代なのだが、本書に掲載されている非常に美しく理解しやすい発生学に関連するイラストや標本の写真を見ると、当時の発生学や解剖学の教科書を必死に睨み付けるようにして先天性心臓病の発生メカニズムを勉強した当時を懐かしく思い出した次第である。
いずれにしても、本書が我が国でも教科書または副読本として活用されれば、学生諸君にとって獣医解剖学はより魅力的に感じられるであろうし、単なる講義科目ではなく学問としての素晴らしさを体験するはずである。
言うまでもなく、解剖学は他の基礎獣医学と並んで非常に重要な分野である。獣医学教育に使用される動物の頭数が制限されていることを背景に、より充実した教科書が今後も求め続けられるであろう。そして、本書は我々のこのようなニーズに十二分に応える恰好の書と思われる。

「獣医畜産新報」2010年3月号 掲載

John R. August

『Consultations in Feline Internal Medicine Vol.6』

2009年・Elsevier発行・¥21,125(税込)

評者 赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫

このシリーズはほぼ3年毎に改訂版が出版され、Volume 6に達した。猫の内科学に関する最新の話題を、器官、系統別に書いた本である。しかもこのシリーズは、これまで翻訳出版されていない。これまでの猫の内科学に精通しているなら、この本1冊で知識の補充となるだろうが、この分野における新しい知識の集積はめざましく、猫専門の認定医制度もわが国ではないため、そのような人もなかなかいないだろう。
緒言にも書いてあるとおり、このシリーズは1冊で完結するものではなく、前々からの知識の積み重ねで学ぶようになっているため、この号だけを手にとっても、抜けている記述はたくさんある。これまでの知識で、まだあまり変わっていない内容は、これまでのバックナンバーで参照するように作られている。
それにしても、これだけ新しい知見が出てきたのかと驚くような内容が本書である。感染症分野では、膿胸のような基本的な病気の記述もあれば、インフルエンザウイルス、アスペルギルス症のような珍しいものも登場し、さらにレトロウイルス、FIPについてはアップデートもある。栄養学では、慢性下痢症や慢性腎臓病の食事療法、プロバイオティックス、救急医療と食事などの記載が新しい。消化器系では、機能試験、超音波診断、高分化型リンパ腫、炎症性肝疾患、新しい制吐剤など、興味をそそる内容にあふれている。内分泌系では、よくある質問への答え、甲状腺機能亢進症と腎臓病の関係、新しい長時間作用型インスリンの使い方、皮膚病ではインターフェロンの皮膚病に対する使い方、メチシリン耐性ブドウ球菌などが新しい。その他、心臓病、呼吸器病、泌尿器系、神経病、血液病、腫瘍学と、広範囲に猫の内科学に限った最新の記載がある。また、ポピュレーションメディスンという新しい分野にもかなりのページ数がさかれている。
昔から変わっていない項目についてある程度広い理解があり、最近の知見をかなり網羅したものが欲しければ、前号のVolume 5と本号のVolume 6を手元に置くとよい。それにより、最新の猫の内科学の恩恵を受けることができるだろう。

「獣医畜産新報」2010年3月号 掲載

Lance Jepson

『Exotic Animal Medicine -A Quick Reference Guide-』

2009年・Elsevier発行・¥12,435(税込)

評者 明治薬科大学薬学部准教授(薬学教育研究センター基礎生物学部門) 深瀬 徹

エキゾチックアニマルといわれる多種多様な動物が獣医臨床の対象として広く認められるようになって久しい。それにともない、エキゾチックアニマルに関する獣医学書も、現在では多数が出版されるようになっている。
それらの獣医学書には、エキゾチックアニマルの全般を扱ったものがある一方、特定の動物のグループを対象としたもの、たとえば爬虫類とかカメ類のみを扱ったもの、さらには診療機会が多いフェレットやウサギについて動物種ごとに著されたものがある。
ひとくちにエキゾチックアニマルといっても、その範囲は広く、診療の方法も一様ではない。そのため、その獣医学書は、なるべく動物のグループごとに、可能であれば動物種ごとに1冊にまとめるのがよいと思う。しかし、その反面、入門書としてはエキゾチックアニマル全般に関する書物の需要もあろうし、また、知識の整理として、ある特定の観点から多くの動物種について論じた書物も必要であろう。
ここに紹介する『Exotic Animal Medicine:A Quick Reference Guide』は、多様なエキゾチックアニマルについて、それらに関してある程度の知識を有する獣医師が臨床の場で参照すべきものとして、症例に遭遇したときにその診療に役立つように著されたものである。記載は主に箇条書きで、書名にあるように、まさに“A Quick Reference Guide”といえる。そして、診療室で仮に水などに濡れることを想定しているのだろうが、表紙と背表紙、裏表紙に撥水性を示す素材が用いられている点は、気配りが行き届いていると思う。こうした書物が出版されることは、エキゾチックアニマルの診療が犬や猫の診療のレベルに近づきつつあることを示しているといえるかもしれない。
さて、本書の内容であるが、先に多様なエキゾチックアニマルについて書かれた書物と紹介したが、無脊椎動物は含まれていない。具体的には、全体を13の章に分け、①フェレット、②ウサギ、③チンチラとモルモット、デグー、④小型齧歯類、⑤オウムとインコ類、⑥カナリアと九官鳥、フィンチ類、オオハシ類など、⑦トカゲ類、⑧ヘビ類、⑨カメ類、⑩両生類、⑪金魚と鯉、⑫熱帯性淡水魚(いわゆる熱帯魚)、⑬熱帯性海水魚について、生物学的な事項から一般的な診療手技、そして、疾病については主に器官系ごとに原因や症状、診断法、治療法を簡単に記載している。
診療機会の多い動物、多くの知見が集積されている動物については種ごと、あるいは比較的小さな分類グループごとにまとめ、そうでない動物については大きなグループにまとめているのは、エキゾチックアニマル全般について書かれた従来の書物と同様であるが、魚類に多くのページを割き、その内容が充実していることが本書の特徴であろう。魚類の臨床に興味のある先生方にお奨めしたい1冊である。
最後に難点を1つ。獣医学の洋書にありがちなことだが、本文中の項目の大小が判別しにくいのが欠点である。見出しの文字の大きさのわずかな違いとそこに使用している色の違い、大見出しの下には点線があることで項目の大小を判断できるのだが、慣れないと非常にわかりにくい。“Quick Reference”と謳うのであれば、すぐにわかるような構成を考えてもらいたいと思う。こうした例をみるたびに、日本の多くの書物のデザインの優秀さを感じる。

「獣医畜産新報」2009年10月号 掲載

David E.Noakes, Timothy J. Parkinson, Gary C.W. England

『Veterinary Reproduction and Obstetrics 9th ed.』

2009年・Elsevier発行・¥25,531(税込)

評者 山口大学農学部教授 中尾敏彦

獣医繁殖学の世界的名著として知られ、多くの国で教科書として用いられている『Veterinary Reproduction and Obstetrics(獣医繁殖・産科学)』の第9版が最近刊行された。本書は、初版が、1938年にドイツ語の『牛と馬の産科学』の英訳版として発刊され、その後、おおよそ10数年ごとに改訂が重ねられ、2001年には、第8版が刊行されていた。この間、1982年に刊行された第5版は、河田、浜名両先生の監訳による日本語版として、1988年に発刊され、獣医繁殖学の参考書として、愛用されてきた。
最新版となる第9版は、執筆陣に英国以外の国の気鋭の研究者を多く加え、全ての章において、最近の繁殖学の進歩に基づいた大幅な追加・修正が行われており、章によってはほとんど書き換えられている。創刊以来の長い歴史によって培われてきた貴重な伝統を守りながら、なおかつ、新しい知見を積極的に取り入れて、獣医繁殖学教育の国際標準を示すかのような本書を完成させた監修者の情熱と努力に敬意を表したい。
本書は35の章からなり、これらの章は、さらに、①卵巣の周期活動とそのコントロール、②妊娠と分娩、③難産とその他の分娩関連疾患、④産科・繁殖関連の手術、⑤不受胎と低受胎、⑥雄の繁殖、⑦エキゾチック動物の繁殖、⑧生殖補助療法の8つのパートに分かれている。また、付録として、繁殖領域で用いられるホルモン剤、関連薬剤およびワクチンの一覧があり、それぞれの薬剤の由来や生理作用、商品名、製造元、薬理作用が解説され、動物種別に適応と用量が記載されている。
本書の最大の特徴は、全ての動物種の繁殖生理と繁殖障害を網羅しているところにあり、牛、馬、豚、綿羊、山羊、犬、猫の他、ラクダ科の動物、水牛および愛玩用の小型哺乳類(ウサギ、モルモット、チンチラ、ラット、マウスほか)などの繁殖の基礎と応用が丁寧に記述されている。各章とも、カラーとモノクロの鮮明な写真がふんだんに使用され、明瞭な図表とともに、内容の理解を助けている。
もともと、本書は、獣医学を学ぶ学生を主な対象として編集されたものであるが、獣医繁殖に関する教育、研究、診療等に従事する獣医師にとっても十分に参考になる内容を多く含んでいる。牛と馬の臨床的な手技についても、多くの症例の写真や図に基づいて詳細に記載されているので、産業動物臨床に携わる獣医師にとっても貴重な専門書になるであろう。また、犬や猫の繁殖と繁殖障害についても、臨床的事項も含めて丁寧に記載されているので、小動物臨床に携わる獣医師にとっても、有益な書籍となろう。

「獣医畜産新報」2009年9月号 掲載

Patric R. Gavin, Podney S. Bagley

『Practical Small Animal MRI』

2009年・Wiley-Blackwell発行・¥30,973(税込)

評者 麻布大学獣医学部講師 茅沼秀樹

1978年、MRによる人体撮像が初めて成功し、1983年、日本で初めてMRI薬事が認可された。この様に医学領域におけるMRI検査の臨床応用は1980年代前半であり、およそ30年である。しかしながら、その間におけるMRI機器の性能向上はめざましく、様々な撮像法が開発され、形態診断ばかりではなく生理、機能診断にも臨床応用されている。
一方、獣医学において、MRIが臨床応用されるようになってからは、十数年が経過している。初期は獣医大学を中心に導入され、臨床例に用いられてきた。その頃、MRI診断に関する論文は、散見される程度であり、書籍の形態で出版されていたものはMRI断層像と解剖学的名称が記載されているMRI断層解剖アトラスのみであった。しかしながら、現在では、伴侶動物に対するMRI検査の有用性が認知されるとともに、社会的ニーズがあいまって、様々な民間病院にも導入される様になった。若干地域差はあるものの、近隣の検査センターを利用すれば、一般開業医においても容易に検査が行える現状にある。また、MRI診断に関する論文数も豊富となり、診断にともなって治療に関するものもかなり充実してきている。そのような中、MRI診断について初めてまとめられ、書籍の形態で出版されたものが本書である。
本書は、MRIの原理やアーティファクト、脳脊髄、骨関節、腹部、胸部、神経疾患以外の頭部といった内容で構成されている。退屈な原理やアーティファクトについての記載は必要最低限であり、ページの多くは他の画像診断に関する書籍と同様、MRIに即した解剖学や各種疾患のMRI診断に割かれている。従来は診療の合間、MR画像を前に解剖や各種疾患のMRI所見についてその場で知りたいと思っても、文献の検索や収集が必要であるため、容易に調べることができなかったが、本書があれば容易にその場で検索することが可能であると思われる。また、一般開業獣医師が多くの文献を入手することは、我々のような大学勤務の獣医師よりもさらに手間と時間を要する。以上から、本書は洋書であるものの、MRI診断に関わる獣医師のみではなく、一般開業獣医師にとってもクイックリファレンスの書として有用であると考えられる。

「獣医畜産新報」2009年9月号 掲載

Thomas N. Tully, Jr., Gerry M. Dorrestein, Alan K.Jones

『Handbook of Avian Medicine 2nd ed.』

2009年・Elsevier発行・¥17,496(税込)

評者 飼鳥野鳥病院院長 長堀正行

ルリコンゴウの表紙でお馴染みの『Avian Medicine』(2000年初版)の第2版が、表紙の鳥種をスミレコンゴウに、書名を『Handbook of Avian Medicine 2nd ed.』と替えて刊行された。この書は、各章をその分野の専門家が分担執筆する共著書であるが、新版では新たに6名が編著者に加わった。
旧版は、順に解剖生理・栄養学的特徴、身体検査、臨床検査、画像診断、病鳥看護、インコ・オウム類、フィンチ・カナリア・マイナー類、タカ類、ツル類、ダチョウ類、水禽類、家禽類、オオハシ類、ハト類、海鳥類、動物園飼育鳥類、薬用量に関する17章の構成であったが、この度の改訂では最終章が削除、第1章として鳥類の発生進化に関する章が、さらに付録(主要鳥種の体重・血液学的・血清生化学的データ、オウム類の英名学名対照表)が追加された。今回の追加章の如き内容は、とりわけ即戦力を求めがちな開業医にとっては、臨床に直結しない興味に欠ける情報かもしれない。しかし、実際には、こうした知識こそが、鳥類の解剖生理学的特性、臨床手技の原理原則、病態などを理解、説明するために役立つのである。本書では、臨床に絡めた解説を所々にとり入れ、臨床家にも苦痛なく読めるよう配慮されている。各章には、2008年までの文献に基づいた新知見が補足され、重要な箇所には目印を付して、文字も太字になっている。図は150点から356点に増え、飼い主に対する説明や指導を行ううえで有用な図が多数追加されている。さらに、写真はすべてカラーを採用、これにより術式や病状は格段に理解しやすくなったと考える。なお、著者が替わった第3章(身体検査)と第17章(動物園飼育鳥類)は、内容が一新した。こうした改訂により、本書の総頁数は初版の411から478になったが、紙質を替え、図と文字を小さくすることで本の厚みは初版とほぼ変わらない仕上がりである。しかしながら、縮小による不便さはまったくなく、見出し、写真、表、囲み記事がすべてカラー化されたことで全体的にめりはりがつき、むしろ見読しやすくなったと感じる。鳥類医学は、1980年代後半にAAV(Association of Avian Veterinarians)が発足して以降、急速な進歩を遂げている。とくに外科学、栄養学、感染症(微生物学)、臨床検査の分野においてもたらされた成果は大きく、1990年代に入ると多数の成書が出版されるようになった。よく「どれが良いか」と訊かれるが、どれも一長一短、「これ1冊あれば」というものはない。本書にも海外との飼育事情や診療環境から生じる難点はあるが、今日の鳥類診療に必要な情報は概ね網羅されており、幅広い飼育種に対応できる参考書として備えておきたい1冊といえる。

「獣医畜産新報」2009年8月号 掲載

Stanley H.Done, Peter C.Goody, Susan A.Evans, Neil C.Stickland

『Color Atlas of Veterinary Anatomy, Vol.3 , The Dog and Cat, 2nd ed』

2009年・Elsevier発行・¥18,274(税込)

評者 麻布大学獣医学部教授 浅利昌男

評者は以前、この初版本の訳出を手がけたことがあった。訳出後、評者はこの本が、「実際に、時間をかけた緻密な犬の解剖を通して、今までにあまり例のない、わかりやすくて詳細なアトラスを完成させたもので、あたかも犬体の解剖室が本棚に収まり、読者は必要に応じて見たい部分をいつでも取り出して見ることができるたいへん有用な本だ」との感想を述べたことを昨日のことのように覚えている。今回、この初版本にひきつづき第2版(2nd ed.)を読む機会があったのでここにあらためて紹介する。この第2版もその基本的な構成は初版本とほぼ同じであるが、いくつかの点について変更が加えられている。例えばこの第2版の第1章は犬の体表および外貌について解説しているが、初版でこの章にあった体の各部位のX線画像や表層解剖図をここでは略してあり、それらは第2章以降、いわば各論である頭部、頸部、胸部、腹部、前肢、後肢、骨盤部そして猫と、体の各部位に振り分けて載せて、画像診断のための一助となるようその有用性をより高めているようである。また、その第2章以降各章のはじまりには、その部位の一般的な特徴あるいは特有な構造について概略的ならびに網羅的な解説をつけ、有益な情報がまとめられている。また初版本にはなかったが、第2章以降、必要に応じてCT断層画像が各部位の最後に挿入されており、断層画像診断の手助けとなるように工夫されている。このようにいくつかの点についてその体裁に変更が加えられているが、基本に流れるこの本のコンセプトは以前と同じ、犬の体の表層から深層にかけて連続的で緻密な解剖であり、これらの写真を目で追うことにより、まるで自分が実際に解剖をしているような経験が得られる、『本棚の中の解剖室である』ことには変わりないように思え、安心した。したがって、この本は単に犬と猫の体に興味を持つ人のためばかりではなく、小動物臨床の現場で日々犬や猫に向き合う臨床獣医師にとって是非1冊は手元に置いておきたい本であると思う。

「獣医畜産新報」2009年8月号 掲載

Juan C. Samper

『Equine Breeding Management and Artificial Insemination 2nd ed.』

2009年・Elsevier発行・¥17,366(税込)

評者 岩手大学准教授 大澤健司

「いい、これはいい。」最初に手に取った時の素直な感想である。本書は2000年に出版された書籍の第2版であり、編者は現在馬の臨床繁殖の世界で最も精力的に活動している獣医師の1人、Samper博士である。第2版で変更が加えられた点としては、本のサイズが洋形B5判から洋形A4判へと一回り大きくなり、ページ数(336ページ)が初版よりも30ページほど増えた上に、文字サイズが一回りだけ小さくなったこと、すなわち大幅に情報量が増えたことである。それでいて格段に読みやすくなっている理由は、初版の写真や図表が全てモノクロであったのに対して本書では全編を通してフルカラーの図表や写真がふんだんに使用されているからである。特に、イラストの多くがカラー化に伴って新たに描き直されていて、非常に見やすい。また、近年繁殖学領域においても知見が増えてきたカラードップラーによる卵胞や黄体、胎子の画像や、蛍光色素で染色された精子の鏡検像なども今回追加されていて、カラー写真ならではの特徴が活かされている。
馬の繁殖や臨床繁殖に関する書籍はいくつかあるものの、なかでも本書は繁殖管理の現場において実用的な情報が満載されていて、繁殖成績を向上させるために必要な事項を網羅している。合計で27章から構成されていて(初版は全18章)、種雄馬の管理、交配前後における繁殖雌馬の管理、分娩管理、分娩後の雌馬の管理、新生子ケアのみならず、馬の獣医療において応用されつつある新しい補助生殖工学技術についても1章が割かれている。初版の最後の章「馬の生殖工学の将来」において、『10年以内にクローン馬誕生の可能性もある。』との記載があるが、実際、それからほどなくしてクローン馬が誕生し、以来現在まで欧米における馬の体外受精や補助生殖獣医療の発展は目ざましいものがある。今版においても体細胞クローン馬作成技術について詳細な解説がなされている。
Samper博士とは2年前の学会で同じテーブルでランチを取ったことがある。その際、私がかかえていた患者(牝馬)の繁殖障害の症例について質問をしたのだが、真剣に耳を傾けて状況を聞いてくれたことが今でも思い出され、博士のプロフェッショナルとしての意識の高さが強く印象に残っている。そんな著者のプロ意識を本書からも感じ取ることができる。
本書は臨床獣医師や馬の繁殖に携わっている関係者のみならず、馬の臨床繁殖学を学ぼうとする獣医学徒にとっても有用な参考書として推薦したい1冊である。

「獣医畜産新報」2009年4月号 掲載

William W. Muir, John A.E. Hubbell

『Equine Anesthesia Mnitoring and Emergency Therapy 2nd ed.』

2009年・Elsevier発行・¥17,107(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

本書は馬の麻酔学全般を体系的に記したテキストブックの第2版である。初版は1991年に発行されており、17年ぶりの改定である。新しい内容には疼痛管理、麻酔補助薬による麻酔導入・維持・覚醒の改善、ロバとラバの麻酔などが追加されている。
疼痛管理に関する章は、薬物の説明を中心とした章と周術期の疼痛評価と治療を中心とした章の2つに分けられている。また巻末には疼痛管理計画シートが付いており、疼痛評価と治療の実際的使用の参考になるだろう。
完全静脈麻酔(TIVA)および吸入麻酔時の麻酔補助薬の章では、TIVAのための薬物コンビネーションが麻酔時間別に記され、propofolを用いたTIVAについても記載されている。また吸入麻酔薬量を減らすための静脈内投与薬とその方法と効果についてもよく説明されている。個人的に驚いたのは局所麻酔の章で、硬膜外麻酔のための薬物(とコンビネーションおよび容量)が20種類以上示され、効果発現、無痛時間、副作用がみごとな表で示されていることである。吸入麻酔薬の章では旧版に載っていなかったsevofluraneやdesfluraneについても記載されているのはもちろんである。
このような17年間の進歩の記述は麻酔リスクの最も高い動物種である馬の麻酔ストレスを実際的に軽減することになるだろう。また馬の麻酔は馬医療を概括する物語ともなっている。つまり痛みの克服、すなわち麻酔法の進歩が医学の歴史のうえで最も劇的な発見であったことが、馬においてもそうなのである。
本全体も少し大判となり、図表と文章の配置は旧版より見やすくすっきりしている。馬の麻酔学の専門書というだけでなく、生理学(とくに循環器と呼吸器)、薬理学・薬物学、臨床外科学の理解を深めるテキストとしても十分に堪能できる。

「獣医畜産新報」2009年4月号 掲載

Bonnie V. Beaver

『Canine Behavior: Insights and Answers 2nd ed.』

2009年・Elsevier発行・¥8,496(税込)

評者 麻布大学准教授 菊水健史

本書はテキサスA&M大学のBonnie V. Beaver博士による犬の行動学に関する書『Canine Behavior: A Guide for Veterinarians』(1999)の第2版にあたる。第2版を出版するに当たり副題を変更しているが、この点はおそらく彼女の本書に対する意識が表れており、第1版にくらべて科学的見地に立ち、より深く犬の行動と問題行動の背景について考察しているためだと思われた。著者のBonnie V. Beaver博士は1863年に設立されたThe American Veterinary Medical Association(AVMA)の前会長であり、動物福祉や行動治療の分野に多大なる貢献をした先生である。今回の書物は、犬の行動の背景にある神経科学的、行動遺伝学的知見に関する非常に有益な情報が満載であり、問題行動のカウンセリングを行う獣医のみならず、犬のトレーナー、保護団体、さらには一般の飼い主にもよい書となっている。犬の本来の行動パターン、犬の正常な行動パターンから、犬が犬とどのようにコミュニケーションをとっているのか、犬の感覚器の発達やその未知なる能力、さらには薬物の作用機序など、科学的データを基に淡々と、そして不足のない内容が満載である。本書には大きく4つのポイントが存在する。まず1つは、非常に幅広い見地から犬の行動を説明しており、基本的な犬の行動の理解は、犬が進化の過程で手に入れてきた自然条件化での行動レパートリーを通して見つめなおすことから始まり、その観点から現代社会、特に都市部に住む犬の行動、問題行動を呈する犬を考察する点である。2つ目として、問題行動の各行動別にまとめられた章構成になっていることである。特に、攻撃性、分離不安、恐怖症とストレス症候群、マーキングなどの排泄に関する問題、過剰な吠え、落ち着きのない行動などについて、一目でその背景となる犬本来の行動から、学習過程でどのように行動が強化され、そしてその治療に関するアドバイスがまとまっており、臨床医にとってとてもありがたい構成をしている。3つ目に、近年の向中枢薬の作用機序、効果、副作用に関する最新情報が記載されている点である。特に人の臨床結果や副作用に関する知見は、獣医診療においても役立つものが非常に多い。最後に、行動カウンセリングの手ほどきが非常によくまとまっており、やるべきこと、その順番、飼い主への伝え方など、臨床の場面に役立つ情報が記載されていることがうれしい。
本書を読むことで、“最良の友”と呼ばれる犬についての理解がさらに深まることだろう。このような科学的な理解が進むことは、犬の不適切な行動を減少させ、予防することが可能となり、その"最良の友"との何事にも代えがたい、共に過ごす価値ある生活を手にすることにつながるはずである。“Veterinarians work to make the lives of animals and people better- it is our passion”彼女の冒頭の言葉であるが、獣医師は動物の健康だけでなく、動物と共に過ごす人へ幸せをもたらす仕事である、というのが本書の最もよい説明なのかもしれない。

「獣医畜産新報」2009年4月号 掲載

A.Rijnberk, F.J. van Sluijs

『Medical History and Physical Examination in Companion Animals』

2009年・Elsevier発行・¥14,645(税込)

評者 岩手大学農学部教授 安田 準

『Medical History and Physical Examination in Companion Animals』の2版がこのほどSaundersから出版された。おおもとの原書は1990年にオランダのユトレヒト大学で編集された獣医内科学総論の教科書である。日本には獣医内科学総論の適当な教科書がなかったため、評者は1995年発行の英語翻訳の初版本を参考にして講義資料を作成して使ってきた。初版はKluwer Academic Publishersから出版され、モノクロ印刷で判型もひと回り小さく地味な体裁だった。2版は出版社が替わり体裁が一新して、たくさんのカラー写真と挿画が掲載された教科書にふさわしい作りになった。獣医内科学の講義範囲は膨大で、総論に使える講義時間数はわずかしかない。学生全員が臨床に進む訳ではないので、講義ではカルテの記載法や問診の具体的ノウハウなどは端折らざるを得ない。本書は臨床研修獣医師や臨床現場での経験が浅い獣医師が、カルテの書き方や診断の進め方の知識を整理する上で有用な1冊になるであろう。臨床入門書としての性格上、1日も早い日本語の翻訳出版が望まれる。
さて、内容を紹介しよう。大学の総論講義ではなかなか詳細を伝え切れないカルテの書き方、稟告の取り方、診断の進め方などを理論整然と解説している。犬や猫の脈や体温の取り方、触診の仕方などの動物の全身状態の把握に関する詳細な記述がある。呼吸器、循環器、消化器、腎泌尿器、生殖器、体表組織、目や耳などの臓器別の身体検査の進め方では、カラー写真と挿画が豊富で理解しやすい。さらに付録のDVDでは検査法や保定・採材法などを動画で見ることができる。動物の動きや反応を観察して診断する運動器や神経系の検査法は、文字で読むと分かりづらいが動画で見ると一目瞭然である。尿や血液、分泌液など生体試料を採取する際の、動物の保定法や採取方法についても挿画と写真、動画を使って視覚的に理解できる。DVDにはPDFファイルもインストールされており、ユトレヒト大学で使われている各種検査用紙が取り出せる。日本語版ではないので、日常このまま使うことはないが、自分の行っている検査手順の再確認には有用であろう。
本書はCompanion Animalを対象にしているので、犬・猫だけでなく、鳥類、ウサギや齧歯類、さらには両生類、は虫類などについても、保定法や身体検査法が記述されている。挿画と写真、動画を使った視覚的な解説は、臨床獣医師だけでなく、実験動物や野生動物を取り扱う初心者にも参考になる。

「獣医畜産新報」2009年3月号 掲載

Dawn E. Christenson

『Veterinary Medical Terminology 2nd ed.』

2008年・Elsevier発行・¥9,843(税込)

評者 東京大学名誉教授 長谷川篤彦

獣医学科に入学するとまず解剖学を勉強することになる。そして学生は動物の生体の各部位にそれぞれ名称があり、それを理解し記憶しなくてはならない。それには何の理由もなく説明もない。多くの人にはただの強制であり、拷問と感じる者もいると思われる。外国のある大学で経験したことであるが、その獣医科では入学試験はなく、希望者は誰でも(高卒などの条件はあると思うが)入れるが、まず関門となるのが解剖学である。新学期には骨標本を手に持った学生が校庭に溢れかえっている。しかし暫くするとその数は激減し、2~3か月もすると教育するのに丁度良い人数になると言う。善し悪しは別にして、解剖学と言うか集中的な記憶力で選抜しているのではないかと思われた。一方では専門分野を問わず、専門領域に習熟するには先ず専門用語の習得が必須である。獣医学も例外ではなく、日本語であっても最初は異文化の見知らぬ国の全く異なった言語に遭遇するようなものである。まさに言葉上での挑戦である。そして最近の社会の変貌が急激であることと相俟って、従来の言語との距離が拡大している。われわれは最早明治時代の文献も、昭和初期の論文すら読めない状況である。いわんや漢文などは専門家の領域である。このことは欧米においても同様であると思われる。ギリシャ語やラテン語は等閑視され、特にアメリカの現状は英語のみで外国語の読み書きの修得は重視されない傾向にあるように思われる。恐らくこのような背景を踏まえてのことと推察されるが、近年獣医専門用語に関する解説書が何種類か上梓されている。
ここに紹介するDawn E. Christensonによる『Veterinary Medical Terminology』もその1冊である。本書は1997年に出版されたものの改訂第2版である。一瞥して、獣医学用語、特に解剖学に関連する用語の習得のための佳書であり、専門用語を分解説明している。そして用語は文章の中にあって初めて理解されるとする観点から解剖学的記載が展開されている。各臓器系統別の章において使用される用語を成立にそって分割し、語の核となる語根、接頭辞、接尾辞、つなぎの辞なる母音を示し語源の観点から説明が加えられている。このことから言語の理解が深まると同時に語彙が広げられることになる。したがって、本書を通覧すれば用語の本質が理解され、また解剖学的知識の確認となることから、獣医学を学ぶ初心者はもとより、指導的立場にある先輩獣医師にも参考になるものと思われる。

「獣医畜産新報」2009年2月号 掲載

Gregg A.DuPont, Linda J.DeBowes

『Atlas of Dental Radiography in Dogs and Cats』

2009年・Elsevier発行・¥16,459(税込)

評者 フジタ動物病院院長 藤田桂一

口腔疾患を診断、治療、予後判定および経過観察する際に口腔内検査は重要である。その中で口腔内X線検査は避けて通れない最も重要な検査といっても過言ではない。歯の萌出障害、交換異常、発育障害の評価、歯の損傷における評価、歯周病における歯周組織の評価、歯内疾患における歯髄腔や根管および根尖周囲の評価、抜歯する際の歯根形態、骨性癒着(アンキローシス)、嚢胞、吸収病巣などの有無やその程度、矯正前後の歯根や歯槽骨の状態の評価、ならびに口腔内腫瘍の浸潤の評価など、ほとんどの口腔疾患において必要不可欠な検査である。実際、口腔内X線写真では、歯槽骨の吸収の状態を確認することが多いが、得られたX線写真では、通常生じている骨破壊の30~40%はX線写真には表れないといわれているので、その点を踏まえてX線写真を読影することが重要と思われる。
口腔内という非常に狭い部位を撮影するために、口腔内X線撮影は、経験を積まないと撮影することが困難であることは経験するところである。しかし、撮影法には一定の法則があり、下顎臼歯部以外は、2等分面法という特殊な撮影法を習得することにより誰でも撮影できる。撮影できてもX線写真を読影できなければ診断や治療に結びつかないことは当然であるが、その点、本書ではこれから口腔疾患を勉強し始めようとする方でも理解しやすいように構成されている。すなわち、本書は4つの章から構成され、1章は序章、第2章はX線解剖(犬の口腔X線解剖、猫の口腔X線解剖、顎関節)、第3章はX線検査における各疾患のエビデンス(歯周疾患、歯内疾患、吸収病巣、腫脹と腫瘍、歯の発育障害、外傷、その他の疾患)、第4章は歯科X線検査法と歯科用X線撮影装置について解説されている。
本書は、すべての画像が鮮明で、挿入写真が大きく、美しい。また画像の解説に留まらず、その疾患の診断、治療法、さらには予後判定や術後の管理法、注意事項まで述べられている。口腔内X線写真の読影に慣れていない方では、とくに第2章のX線解剖から読み始めると理解しやすいと思われる。頭蓋、歯、歯周組織のどの部位が、どこにどのようにX線写真で写って見えるかを豊富な写真を用いて丁寧に解説されている。第3章では、各疾患ごとに豊富に症例が提示されているので、ほとんど重要な口腔内疾患は網羅されていると思われる。第4章では、犬・猫別々に各歯の撮影法が詳細に図説されている。すなわち、各々の頭蓋骨を用いた口外法による撮影法、ならびに口内法による上顎切歯、上顎犬歯、上顎前臼歯、上顎後臼歯、下顎切歯、下顎犬歯、下顎前臼歯、下顎前臼歯および下顎後臼歯に対する撮影法について分かりやすく解説されている。また撮影に失敗した場合、失敗した画像を分析して、その失敗の原因と解決法まで述べられている。
近年、徐々にではあるが、このような獣医歯科関係の専門的良書が我が国にも紹介されてきているので喜ばしい限りである。

「獣医畜産新報」2009年2月号 掲載

Siobhan B. McAuliffe & Nathan M. Slovis

『Color Atlas of Diseases and Disorders of the Foal』

2008年・Elsevier発行・¥20,218(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

ページをぱらぱらめくるとすべての子馬の病気の写真が次々に現れるのに圧倒される。一言で言えば、馬の小児科学の写真版百科全書である。落ち着いて最初から眺めると周産期の母馬の疾病、そして分娩・新生子の検査とケアから始まる(ここまで80ページで、全体の5分の1)。ほとんどの臨床症状、診断、治療の項が箇条書きになっている。次からは子馬の臓器系疾病(消化器、呼吸器、泌尿器、循環器、筋系、骨格系、肝臓・腹膜・脾臓、免疫系…)の章となる。各臓器系では、診断法と正常所見の写真・図から始まり、先天性疾患、そして後天性疾患の順に各病名の説明と写真が続く。ここでも臨床症状、診断、治療はきわめて簡略に書かれていて、写真と図による説明の方が多い。したがって、病気のエコロジーや病因・病態生理をじっくり学ぶためのものではない。臨床家や学生がとりあえず何病で、診断法は何か、画像ではどう見えるか、治療法は何かを手っ取り早く知るための本であることに徹している。臨床家や学生の馬医療に関する知識の始まりがまず病気を知ることであるとすれば、これほど簡略であればあるほど、疾病というものの理解を深くしていくアイロニーのようにも思われる。馬の小児科学など日本の獣医科大学で本格的に教授することも、習うこともほとんどないことを思えば、この本で学ぶしかないし、この本で学ぶことができるという意味に満ちた本である。子馬の医療学の進歩を指し示すばかりでなく、もっともっと深く勉強するための入り口になることを著者らも願っている。

「獣医畜産新報」2008年11月号 掲載

Anita Patel, Peter Forsythe

『Saunders Solutions in Veterinary Practice: Small Animal Dermatology 』

2008年・Elsevier発行・¥10,621(税込)

評者 日本大学 前教授 長谷川篤彦

Saunders(Elsevierグループ)の新企画である獣医臨床に関するシリーズ本が刊行される運びとなり、Fred Nind先生が編集主幹を担当されている。その1冊として最初に上梓されたのが、小動物獣医皮膚科の本書である。執筆者は獣医皮膚科専門医であるAnita Patel先生と同じくPeter Forsythe先生である。
本書の構成を俯瞰すると、最初に皮膚科診療での問診や身体検査の基礎と臨床検査の概説と以下の7項目を取り上げている。すなわち、痒を中心とする問題、落屑・痂皮、脱毛、潰瘍・糜爛、色素異常、結節・腫脹および各部位に関する問題である。それぞれの項目には、緒論の章があり、その後に症例に即して数章が記載され、本書の中心をなしている。これらの章では、主に病歴、臨床所見、鑑別診断、診断、予後、病理発生、疫学、治療、監視について統一されて記述されている。
本書は全体で57章から構成されており、末尾に付録として自己研修に役立つように5択の試験問題とその解答が掲載されている。そして、皮膚科で汎用される抗生物質の一覧、使用器具、皮疹別の疾患一覧、シャンプー療法および人獣共通感染症について纏められている。さらに理解を深められるように参考図書や文献が各章ごとに記載されている。また書物の活用に欠かせない索引も要領よく配置されている。
全体を通して要領よく記述されており、写真も多く適宜挿入されており理解に役立っている。そしてエキゾチック動物の例もあるが、主に犬と猫の頻度の高い、最近注目されている疾患、症例が取り上げられている。1例を挙げると、脱毛については病変が対称性のもの、病変が多発しているもの、全身症状を伴うもの(腫瘍随伴症候群)に分けて取り上げている。また、融解棘細胞の認められた皮膚糸状菌症の犬の症例、代謝性表皮壊死症の犬の症例、多発性紅斑の犬の症例など、最近日本でも報告の見られる問題に関しての解説も多い。
したがって、皮膚科臨床に興味を持つ人のみならず、小動物臨床に携わる多忙な先生方には是非手元に置いて参考にして頂きたい1冊である。

「獣医畜産新報」2008年11月号 掲載

Mark A. Mitchell, Thomas N. Tully, Jr.

『Manual of Exotic Pet Practice』

2009年・Elsevier発行・¥15,163(税込)

評者 明治薬科大学准教授 深瀬 徹

エキゾチックペットあるいはエキゾチックアニマルと称される動物の臨床について、幅広い動物種を対象としてまとめた書物である。
本書は全体を19の章に分け、初めの2つの章を総論とし、第1章はエキゾチックペットの歴史、第2章はエキゾチックペットの診療を始めるための準備について記載している。それ以降は、無脊椎動物と観賞魚、両生類にそれぞれ1つの章(第3章-第5章)を割りあて、爬虫類はワニ類、ヘビ類、トカゲ類、カメ類に分けて4章(第6章-第9章)とし、また、鳥類は1つの章(第10章)にまとめているが、哺乳類は有袋類、マウスとラット、フェレット、ウサギ、ハムスターとスナネズミ、ハリネズミ、モルモット、チンチラに各1章の計8章(第11章-第18章)を割いている。そして、最後の第19章は、エキゾチックペットというわけではないが、野生動物を扱っている。鳥類は1つの章であるのに対して、爬虫類は4つの章になっているなど、動物のグループによって割りあてている章の数に粗密があるが、飼育されている個体数や診療機会の多寡を考えれば、妥当な構成であると思う。
評者は、エキゾチックペットに関する獣医学書は、少なくとも哺乳類に関しては、将来的にはできる限り動物種ごとに、それが難しければ科(family)または目(order)程度の分類のレベルで1冊にまとめるべきであると考えている。しかし、その一方、入門書としては、ここに紹介する書物のようにエキゾチックペットの全領域を俯瞰した書物も必要であろう。本書は、そのようなエキゾチックペットの全般を扱っている書物のなかで、ほぼ最高位に位置するものと思う。ただ、難をいえば、章によっては、昨今の書物としては写真の掲載数が少なく、そのため、動物そのもののイメージがつかみにくかったり、あるいは外科的処置の手技がわかりにくいかもしれない。
ところで、これは評者の個人的な好みであるのだが、本書は無脊椎動物にも比較的多くのページを割いているところが嬉しい。エキゾチックペットの診療がふつうに行われるようになったとはいえ、それでも無脊椎動物は、養蚕あるいは養蜂という産業のために飼育されているカイコやミツバチを除けば、獣医臨床の対象とはなりにくい ( 「なりえない」というべきか) のが現状である。しかし、ヨーロッパやアメリカ合衆国では近年、無脊椎動物が獣医学の対象になりつつあるらしい。無脊椎動物の診療は、意外とおもしろいように思う。近い将来、日本においても無脊椎動物の診療を得意とされる臨床家が現れることを期待している。

「獣医畜産新報」2008年10月号 掲載

Arlene Coulson

『An Atlas of Interpretative Radiographic Anatomy of the Dog and Cat 2nd ed.』

2008年・Wiley-Blackwell発行・¥38,102(税込)

評者 岩手大学農学部教授 安田 準

『An Atlas of Interpretative Radiographic Anatomy of the Dog and Cat』は2002年に初版が出版され、2003年にはインターズー社から神谷新司先生監訳による『犬と猫のX線解剖アトラス』として翻訳出版された。このたび原書の2版が出版されたので、評者の手元にある旧版翻訳書と見比べて本書の書評としたい。
本書は臨床家が日常のX線画像診断を進める際に手元に置き、症例のX線画像と本書の正常像とを対比させて、読影力を高めるのに最適な成書である。本書は基本的には旧版と同じX線画像および等倍でトレースした線画による模式図を対にレイアウトして、読影のポイントを解説している。X線画像をトレースした線は当該部の特徴をよく捉え、頭部などの陰影が複雑な箇所では複数枚の線画を使い分けて解説しているので理解しやすい。また臨床家が異常所見と見誤りやすいピットホール(落とし穴)の画像についての解説も実践的である。さらに撮影時の動物の体位と照射中心が附図として掲載されているので、臨床家がX線撮影する際に参考となる。本書で用いているX線画像は1975年から1995年の間に撮影されたフィルム・スクリーン系のアナログ写真である。最近のX線撮影ではデジタル化が進み、Computed Radiography(CR)やフラットパネルディテクター(FPD)による画像を見る機会が多くなった。本書のような精密なアナログ写真を見ると、デジタル写真より遙かに大きな画像情報量を持つことが改めて実感できる。
単純X線写真では、犬と猫の骨格系と軟部組織が系統立てて掲載されている。犬では犬種により体型が大きく異なることから特徴的な犬種の画像を紹介し、犬と猫の月齢別骨成長のX線画像を並べているのも興味深い。本書では、旧版で記述の少なかったX線画像を評価する場合の正常臓器の大きさや位置関係の計測法を事細かに線画を使って解説しており、異常所見を診断するに役立つ。旧版との大きな違いは造影X線写真が充実したことである。胆嚢造影、経静脈性尿路造影や逆行性膀胱二重造影、脊髄造影などでX線写真と模式図が大幅に増えた。一方心血管系の造影X線写真が掲載されていないのは片手落ちである。本書は651ページのアトラスでかなり重たい。これ以上の紙面増は実用性に問題があるのかもしれない。
超音波画像、X線CT画像、MR画像など、獣医画像診断は近年大きく飛躍した。これら画像診断に進む際の基本情報はX線診断から得る。X線診断のスキルアップに本書は最適な参考書となるだろう。

「獣医畜産新報」2008年9月号 掲載

Sally M.Turner

『Saunders Solutions in Veterinary Practice - Small Animal Ophthalmology』

2008年・Elsevier発行・¥10,621(税込)

評者 安部動物病院 副院長 安部勝裕

この本は小動物眼科、犬、猫およびウサギの眼科学が非常にわかりやすくまとめられている。
本全体の構成は眼瞼、角膜など解剖学的部位別に記述されているが、病気の臨床症状、ヒストリー、検査とその進め方のポイント、鑑別診断のポイント、治療および動物看護士へのアドバイスなどが詳しく述べられており理解しやすい。加えて鮮明な画像や手術手技のイラストなどが多数用いられており眼科初心者にも理解しやすいように工夫されている。各セクションの文頭には、飼い主様からの主訴となる「眼が赤い」、「痛い」、「眼が見えない」などのキーワードが載っており、眼科診療を行う上で非常に役立つと思う。またケーススタディも多数掲載されており、診療の合間や通勤時や就寝前などにこれだけを読んでいても凄く勉強になると考える。
この本は、一般臨床医にとっても、これから眼科の勉強を始めようと思っている獣医師にとっても、また眼科専門医にとってもお奨めできる1冊である。

「獣医畜産新報」2008年8月号 掲載

Jill E. Maddison,Stephen W. Page,David B. Church

『Small Animal Clinical Phamacology 2nd ed.』

2008年・Elsevier発行・¥14,256(税込)

評者 東京大学教授 尾﨑 博

本書は、Jill E Maddison、Stephen W Page、David B Churchの3名を編者とし、総勢34名の執筆者による小動物臨床薬理学書である。2002年に第一版が出版され、今回は改訂第2版であるが、小生第1版の存在を不覚にも知らなかった。
編者の2名は英国人で1名はオーストラリア人であり、筆者の大方もこれら2国の人達で占められている。2段組で600ページに及ぶ大著である。2色刷で見やすいレイアウトになっている。処方例もボックス表示で示され、そこだけを確認したい臨床家にも親切な気がする。ただし、図版が少ないのが少し残念といったところか。
2008年の改訂版だけあって、新しい薬も網羅され、新規治療法を開拓したいと考えている臨床家にとっては好都合かと思う。
他書にはない記載ということで、動物薬の併用禁忌がリストで表示されていること、動物行動の治療薬、眼科や皮膚科治療薬といった章立てがあること、抗炎症薬や心不全治療薬の記載が非常に詳しいことなどが挙げられる。
今、人の高血圧や心不全の治療では、これ以上もう新しい薬は必要ないとも言われるほどに多くの種類の薬が出回り、臨床家はどの薬を選択して良いのか迷うほどの状況である。本書の循環系の記載は詳しく、カルシウムチャネルブロッカー、ACEI、ARB、アルファーブロッカー、ベータブロッカー、ニトロ剤、ジギタリス、利尿剤など、まるで人における循環器系薬の解説を見ているのではと勘違いさせられるほどである。「獣医学もここまで進歩したのか、獣医学でもやろうと思えばここまでできるのか」ということを実感させられる章である。
今後、臨床薬理学のスタンダードとなる本であることは間違いなく、余裕のある獣医師は是非とも購入して日頃の診療に生かしてもらいたいものである。

「獣医畜産新報」2008年8月号 掲載

Cecilia Gorrel

『Saunders Solutions in Veterinary Practice - Small Animal Dentistry』

2008年・Elsevier発行・¥10,621(税込)

評者 フジタ動物病院 院長 藤田桂一

通常の専門書では、「この疾患は、このような症状で、この検査や治療を行う」といった画一された内容で構成されていることが多いように思われる。しかし、口腔疾患においては、1つの疾患に罹患しているとは限らず、他の口腔疾患も併発することも少なくなく、咬合や咀嚼といった機能についても考慮しなければならない。したがって、臨床現場では、教科書通りに事が運ばず、口腔疾患の症例に諸検査や治療を行う際に混乱を招くことも少なくない。すなわち、現在診ている症例において何をどのように検査して、どのような結果であれば何を疑い、どのような診断をして、何を優先して、どのように治療していくか、予後はどうかなど分かりにくく複雑なものとなる場合がある。口腔疾患の中で、同じ疾患に罹患した場合においても、個体により歯周組織の状態、あるいは歯や口腔粘膜の損傷の程度などが異なり、他の口腔疾患も併発していることもあるため症例ごとに治療法が異なる場合があるからである。
その点、本書は臨床における実践書といえる。最初の章は、歯と歯周組織、ならびに咬合に関する解剖と生理が学べ、次の章では、口腔検査とそのデンタルレコードの書き方、ならびに口腔X線検査の方法が簡潔に解説されており、口腔疾患を最初に学ぶ獣医師にも大変理解しやすく構成されている。次いで、第3章からは応用編となり、主に歯周病、慢性歯肉口内炎、歯根吸収、不正咬合、根管および根尖病巣における項目で、それぞれ5~9症例紹介され、合計で35症例ほども症例紹介されている。その内容は、症例の紹介から始まり、その症例の既往症、無麻酔下での口腔検査、麻酔下での口腔検査、さらなる諸検査、口腔X線検査所見、プロブレムリスト、疾患の解説、治療法のオプション、本症例における治療法、術後のチェック、予後、ならびに考察の順に詳細に解説されており、臨床獣医師にとって同じ疾患でも症状が異なる実例や反対に異なる疾患であっても共通した症状を示す実例が豊富に掲載されている。そのため、この症例の場合であれば、このような検査を行ってこのように治療すればよいということが分かる構成になっている。いわば、本書は1例1例チェックすべき点が詳細に解説されているので適切に治療するための指南役を果たしているといえる。
また、付録としてホームケア(口腔衛生管理)、歯科器具・機材の解説、抗生物質と消炎剤、ならびに歯内治療についての情報を得ることもできる。さらに、著者が薦める専門書や文献も掲載されているためにさらに調べたい場合、非常に参考になる。ぜひ、臨床獣医師に推薦したい1冊である。

「獣医畜産新報」2008年8月号 掲載

Thomas J. Divers, Simon F. Peek

『Rebhun's Diseases of Dairy Cattle 2nd ed.』

2008年・Elsevier発行・¥22,032(税込)

評者 石井動物病院 石井一功

乳牛の疾病について完全に網羅した本である。心臓、呼吸器、消化器、乳房、繁殖、泌尿器、神経、眼科の順に器管別に配置され、すばやい参照が可能で、読みやすい。実際的な外科・内科的療法と、現場のハードヘルス的アプローチの双方が重要視された記述となっている。重要な項目には多くのページを割いており、最新の情報が盛り込まれ、臨床現場のニーズに応えている。
例えば、乳房炎の項では、ラクトコーダーによるミルクフローグラフが掲載され、ユニット装着が早すぎる場合のいわゆる「搾乳前過搾乳」や薬物による盲乳の方法に関してまで言及されている。繁殖においては子宮炎に9ページを割き、消化器病においては、HBSも記載され、子牛の大腸菌性下痢は13ページ、サルモネラ症は子牛親牛合わせて11ページ、BVDに至っては16ページに亘り、疫学的背景・診断・治療・予防法について詳述されている。跛行や蹄病に関しても、20数ページに渡り豊富な写真と共に解説がなされており、DIP関節のドリリングや断趾術、蹄尖壊死部の大胆な除去など、かなり積極的な外科療法について述べられている。私にとっての最新情報がこのような成書にすでに掲載されていることに感心しつつ、焦りも感じる。
教科書らしく、稟告の取り方、検査法、採血、経口補液、注射部位、保定法、輸血、腹腔穿刺、除角法などにも触れ、カビを含む中毒情報、参考ウェブリンクまで掲載されていて参考になる。フルカラーで写真も豊富。個別のケーススタディは鑑別診断において大変参考になる。各項目において、推奨薬用量、米国の法定休薬期間、公衆衛生・家畜衛生学的見地からの疫学情報も詳しい。
付録DVDも必見である。エコーや内視鏡の動画に加え、各疾患に特徴的な神経症状や跛行は、言葉で説明するのは難しいので、動画で見ることに大きな価値がある。BVDに胎内感染した子牛の神経症状や、頚静脈へのカルシウム投与を失敗しホルネル症候群を起こした例など、我々の日常診療で出会うような症例も多く収録されており、一度見ておけばひと味違ったアドバイスができるのではと思う。
ある目的地に到達するのに、人に書いてもらった簡単な道順と目印だけを頼りに行くのと、自分で詳しい地図を見て全体像を把握しながら行くのとでは、結果は同じでも意味が全く違う。特に道に迷った時の対処の仕方では大きく差が出るだろう。この本で「乳牛の病気」の全貌を把握しながら、進んでいきたいと思う。

「獣医畜産新報」2008年3月号 掲載

David J. Maggs, Paul E. Miller, Ron Pfri

『Slatter's Fundamentals of Veterinary Ophthalmology 4th ed.』

この商品には新版があります:2012年・Elsevier発行・¥17,496(税込)

評者 おおた動物病院 院長 太田充治

本書は1981年に初版が出版されてからこれまでに2度の改訂をされ、第2版はわが国においても訳本が出版されており、我々臨床獣医師には長く愛読され続けてきた眼科学の成書である。今回、3度目の改訂によって第4版が出版されたが、今回の改訂による本書はこれまでの版とは全く別の書籍であるかのような全面的なリニューアルがなされた。
まず第一の大きな変更は全ページがカラー化されたことであろう。眼科学の成書にとって挿入された写真が鮮明であるかどうかは非常に重要な要素であるが、これまでの版では巻頭に数十枚のカラー写真がまとめて掲載してあるだけであったのに対し、この第4版では写真はすべて解説箇所に挿入してあり、それらの数もかなり増えている。
全体的なボリューム(ページ数)は前版に比べて4分の3ほどに縮小されているが、これは図表の大きさを縮小し、近年の獣医眼科学の基礎知識レベルの向上を考慮して、解説する必要性の低くなった「眼科手術の原則」と「よくみられる眼科疾患の鑑別診断」の章を削除したためである。これに代わり新しく追加された章として「エキゾチックアニマルの眼科」があるが、これも現在の獣医臨床現場における必要性を考慮しての加筆であろう。
またこれまでの版ではソフトカバーであったために、頻回の使用には耐えられずにページが外れてしまう経験をしているが、今回の第4版ではハードカバー仕上げになっており、日常の臨床現場でのリファレンスとしての頻回使用にも十分耐えられるようになったと感じる。
今回の改訂では3人の著者によって書かれており、各著者の得意分野であるか否かによって各章のボリュームに偏りがあることは否めないが、獣医眼科学のすべてを網羅したコンパクトな成書として非常によくまとまった良書である。
最後に、第3版までの監修者であるDr. Slatterがこの第4版の改訂が本格的に始まった時にはすでに亡くなられていたことから、この第4版では監修者に彼の名前は無くなったが、これまでの彼と第3版までの本書の功績を称え、タイトルが“Slatter's ~”と変わったことも、Dr.Slatterのご冥福をお祈りしつつ付け加えたい。

「獣医畜産新報」2008年2月号 掲載

Rhea V. Morgan

『Handbook of Small Animal Practice 5th ed.』

2008年・Elsevier発行・¥22,063(税込)

評者 日本大学生物資源科学部教授 長谷川篤彦

小動物臨床、なかんずく内科学に関する多種多様な書籍が陸続として出版されている。
内科診療全般にわたるもの、また各臓器系統別に血液学、循環器学、神経学、内分泌学、消化器学、腎泌尿器学、皮膚科学、眼科学など専門的な著書が刊行され、加えて感染症学、寄生虫病学、アレルギー・免疫学、代謝病学、中毒などについても詳細に解説している良書も多数存在している。
このような状況にあって、今般 Rhea V. Morgan 編纂の『Handbook of Small Animal Practice』の第5版が出版された。本書の初版が上梓されたのが1988年であり、その後改版が重ねられ約5年振りに新版が登場した。本書が江湖に広く受け入れられて来た所以は内容もさることながら、記載方法に負うところが大であると思われる。第5版においても、記述形式に同様の工夫が認められ、統一性のある脈絡で構成されている。各疾病に関して簡潔な記載によって理解を容易にし、臨床の現場で直ちに役立つように配慮されている。第一の特徴はすべて箇条書き方式を採用している。このことは執筆者が要点を整理して記述することになり、読者にとっては把握しやすいことになっている。しかし一方では単純化による問題がないわけではないが、その点は賢明な獣医師にとっては危惧するに当たらないと思われる。
本書は19項に分類される136章からなり、参考値や薬剤などについての付録がある。各疾病については、すべて定義、原因、病態生理、臨床症状、診断、鑑別診断、治療、経過監視の順で記述され、各章の最後に文献が載せられ読者の便に供している。写真は少ないが図表は随所に挿入されており、理解に役立つものと考えられる。執筆者は第一線で活躍中の130人にも及び、各項目に担当責任者がおかれている。
改版が重ねられることは好評を博している証左であり、すなわち佳書である証である。今回出版された第5版もこれまでの版と同様に臨床の現場の獣医師は勿論のこと、獣医療関係者、獣医師を志す学生らにとっても利用価値の高い参考書となるものと推察される。

「獣医畜産新報」2008年1月号 掲載

Peter G.G. Jackson, Peter D. Cockcroft

『Handbook of Pig Medicine』

2007年・Elsevier発行・¥15,163(税込)

評者 有限会社サミットベテリナリーサービス院長 石川弘道

今、養豚現場が抱えている一番大きな問題は疾病対策である。その疾病対策を担っているのは獣医師である。PRRSやサーコウイルスの出現以降、豚病は複合感染が主流となり、適切な解決策を提示するためには、高度な技術、知識が要求されるようになってきている。近年専門的な養豚獣医師を望む声が高くなってきた背景には、こうした事情が反映されている。
しかし獣医学を教える教育現場である大学には、豚病学を講座として設置している大学は皆無に等しく、養豚獣医師を目指す獣医師は独学でその道を切り開くか、または海外に勉強の場を求めていくしか手立てがない。独学で勉強する場合にまずぶち当たる壁は、適切な教科書が見あたらないことである。本書は、これから養豚の世界に飛び込もうとしている若き獣医師にとっては、まさに“バイブル”的な教材になるだけの内容を備えているだけでなく、経験者にとっても十分参考になる内容となっている。
本書は著者が英国人ということもあり、第1章では聴診や触診など個々の豚に対する診療指針が細かく記述されている。現在の養豚獣医医療は群管理が主流となっているが、群を構成する個体の観察無くして、群診療は行えないことをこの本は教えてくれている。また病気の各論では、運動器、呼吸器、消化器、皮膚、神経系などの系統別に解説され、さらに本書に掲載されている図、表、写真は全てカラーで構成されており、そのため病気の症状、病理所見などが非常に理解しやすくなっている。
本書は現場で混迷する養豚獣医師に対し、適切なアドバイスを与えてくれるものと確信する。

「獣医畜産新報」2007年12月号 掲載

John H. Lewington

『Ferret Husbandry, Medicine and Surgery,2nd ed.』

2007年・Elsevier発行・¥11,787(税込)

評者 明治薬科大学薬学部准教授 深瀬 徹

フェレットはイタチ科の動物である。ただし、野生の動物ではなく、ヨーロッパケナガイタチやその近縁種を起源とする家畜である。
フェレットの家畜化が行われたのは、紀元前のことであり、北アフリカにおいてであったらしい。その後、フェレットはヨーロッパ、そしてアメリカ合衆国へと伝えられ、様々な目的で飼育されてきた。家畜化された初期の目的はネズミ駆除やウサギ狩りのためと考えられるが、このほか毛被獣あるいは実験用動物として利用され、さらにペットとしても世界の各国で飼育されている。
フェレットが獣医学の対象として重要視されるようになったのは、ペットとして普及して以降である。それにともなって、フェレットの臨床に関する書物も多数が著されている。そうした書物のなかで、とくに優れているのは『Biology and Disease of the Ferret』と、ここに紹介する『Ferret Husbandry, Medicine and Surgery』であろう。前者はペットとしてだけでなく、実験用動物としてのフェレットにも注目し、そのために誌面が割かれているが、後者は主にペットとしてのフェレットに焦点を合わせているようである。ともに良書であり、『Biology and Disease of the Ferret』は1998年、『Ferret Husbandry, Medicine and Surgery』はこのたび2007年に第2版が発行されている。
ところで、近年は、国内外を問わず、きわめて多くの獣医学書が出版される状況にある。しかし、その一方、1冊の書物の寿命が著しく短くなっていることは否めない。初版の第1刷を発行した後、それ以降は版を重ねるどころか、増刷されることもほとんどないのが現状ではないだろうか。獣医学の発展が日進月歩であるため、といってしまえばそれまでだが、書物の出版に対する意識が変化し、安易に出版が行われていることも事実であろう。できることならば、優れた書物を出版し、学問の進歩に合わせてその内容を改訂していってもらいたいと思う。
今回、『Ferret Husbandry, Medicine and Surgery』の第2版が発行されたことは、非常に喜ばしいことである。フェレットに関する獣医学書として残っていくためにも、今後も改訂を続けていかれることを期待している。
最後に、本書の具体的な内容を紹介しておきたい。本書は4つの部分から構成され、第1編が飼育とそれに関連する生物学的な基礎知識、第2編が内科、第3編が外科に関する記載になっている。最後の第4編はやや特殊で、“Special Anatomy”という項目のもと、フェレットの歯と歯科疾患の病理について詳細な解説が行われている。第4編は趣を異にするが、第1編から第3編までは、日常の診療に大いに役立つものと思う。

「獣医畜産新報」2007年12月号 掲載

Andrea E.Floyd, Richard A.Mansmann

『Equine Podiatry』

2007年・Elsevier発行・¥16,848(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

Podiatryとは足病学である。この本のタイトルは馬の足病学ということになる。馬の足とは蹄のことであり、人では靴にあたる。したがって馬の靴の学問の本といってよい。
「遠い昔、馬が輸送手段だったころ装蹄師と獣医師は一人が両方を兼ねていた。馬の獣医学が起こり、獣医師は馬の健康管理に、装蹄師は技能者として分離した。しかし、燃焼エンジンが発明され、20世紀中ごろには馬の頭数がピーク時の十分の一となり、馬の獣医学書の出版はおよそ半世紀なくなった。有能な装蹄師もリタイヤした。そして獣医師と装蹄師は離ればなれになった。だがその後、思いもよらぬことに馬はレクレーションアニマルとして、そして大きな産業として復興した。現在では装蹄師は公的な訓練を受けたプロフェッショナルである。しかし獣医師の装蹄に関する知識は乏しいものになった。」長く引用したが、この本が装蹄師、馬のオーナー、獣医師のすべてを対象に書かれた理由である。この本は新しい時代の装蹄師と獣医師の協力・友愛のために書かれている。これがこの本に求められている読み方である。そうすればその気持ちが残るはずである。
内容は5つの章に分かれている。第1章は馬蹄の解剖と生理である。馬蹄の機能解剖や神経支配の項はとくに新鮮である。肉眼的構造のみならず顕微鏡解剖においても美しいカラーの図と写真はすばらしい。第2章は馬蹄の評価と疾病診断で、とくに画像診断に重きが置かれている。第3章は馬蹄疾病とその処置が、多くの連続したカラー写真を用いて実際の馬蹄の問題をどう扱うかを見事に表している。第4章は蹄葉炎。最新の知識を平易に解説し、処置から馬の管理法まで記載されている。第5章は装蹄に冠する議論である。予防的な護蹄プログラムやチームアプローチにも言及されている。
500頁近い大著で、馬の「靴」に関する必要な言葉と図や写真がすべて含まれ、たずねること全部に応えてくれる本である。

「獣医畜産新報」2007年10月号 掲載

Joann L Colville, David L. Berryhill

『Handbook of Zoonoses:Identification and Prevention』

2007年・Elsevier発行・¥8,158(税込)

評者 国立感染症研究所獣医科学部長 山田章雄

本書はノースダコタ州立大学を退官した臨床獣医師J. L. Colvilleと同校の臨床微生物学者D. L. Berryhillによるzoonosisのコンパクトな解説書である。序文で述べられているように本書は健康管理に関わる学生や、医療・獣医療の従事者を主な対象としているが、それ以外の読者にも分かりやすいよう書かれている。2部構成の前半でzoonosisの基礎、後半で42の代表的疾患について、病原体、宿主、伝播様式、動物および人の症状、診断、治療、予防についてまとめている。各疾患の罹患率と致死率を4段階に分けて表示することで、各疾患の公衆衛生上の重要度が一目で分かるような工夫がされている。各疾患はアルファベット順で掲載されているが、第1部に病原体あるいは宿主動物に基づいた分類表を載せることで参照を容易にしている。また疾患によってはhistorical factあるいはhistorical noteとして、名称の由来やちょっとした逸話などが挿入されている。
Zoonosisは疾患数で200を超え、病原体は900種近くに上る。また、人に感染する病原体の約6割はzoonosisの病原体である。したがって、どのような視点でzoonosisを捉えるかによって、扱う対象は大きく異なる。本書はすでに述べたような層を読者として想定していることから日常の獣医療で遭遇する可能性の高いものが主に選ばれているが、一方で、稀な疾患であっても一般の関心の高い疾患についても取り上げている。60の図表が使われているが、視覚的にやや劣るところが惜しまれる。原版がカラーであるにも拘わらず白黒である点も残念である。
記述はできるだけ正確であるように心がけたとしているが、一部疑問の残るところもある。例えばSalmonellaの表記が最近の知見とあっていない点や、Salmonella typhimuriumをパラチフスの病原体のように記述していたり、狂犬病の記載で、人を咬んだ犬の取り扱いに疑問のある部分があったりする。また、インフルエンザに関してもH5N1亜型に偏った扱いになっている点も気に掛かるところである。節足動物媒介性感染症の予防に関する記載が、多くの疾患で重複していることも改善すべき点に思われる。
巻末のAppendixはいずれも理解を助ける上で役に立つと思われる。
類書が多く出版されている中で、本書が特に優れているとも言い難いが、zoonosisの入門書として、あるいは臨床現場における参考図書としてはそれなりに役立つものと思われる。

「獣医畜産新報」2007年10月号 掲載

Donald E. Thrall

『Textbook of Veterinary Diagnostic Radiology 5th ed.』

この商品には新版があります:2012年・Elsevier発行・¥19,181(税込)

評者 麻布大学獣医学部講師 茅沼秀樹

画像診断を専門に始めた頃は、異常所見の検出と診断に主眼を置いてきた。したがって、診断名があり、異常所見が羅列されているようなテキストの方が使いやすかったように思う。しかしながら、画像診断の基礎となる解剖学や病理学的背景に関する知識が菲薄な状態では、ある一線を越えられないことが解った。そんな時、非常に参考となったテキストが、Thrall監修の『Veterinary Diagnostic Radiology』である。このテキストは、正常画像と解剖学、異常所見と病理学的変化がバランス良く記述されており、画像診断を理論的に理解することができる。この点が、他の画像診断のテキストにはない心強さであるといえる。
また、コンピューター関連機器はめざましく進歩し続けていることから、これに伴い、画像診断機器もめまぐるしいスピードで新しいものが誕生し、獣医学分野に浸透している現状にある。本テキストにおいてもCR(computed radiography)、DR(digital radiography)、CT(computed tomography)、MRI(magnetic resonance imaging)といった最新の画像診断機器の原理から診断のポイントがX線のみならず、ふんだんに織り込まれており、今回第5版にまで改訂され、他の画像診断学のテキストにはないすばらしいスピードで進歩している。第1版からの流れで、X線診断が本テキストの基本であることには変わりないが、特に、CTやMRIが獣医臨床において身近になっていることから、頭部脊柱の画像診断が相当量加えられ、腹部領域については超音波診断がより詳細に解説されている。したがって、X線診断を中心とした総合画像診断テキストといえる。さらに今回からは、X線正常像、超音波ドプラ音、静止画のみでは伝えるのが困難な事柄を動画やアニメーションにてウェブサイト上で閲覧できるように工夫されている。
様々な画像診断法から次の選択すべき画像検査を考える上で、X線以外の画像診断法についても、獣医師として知識が必要な時代となっていることから、本書は診断において避けて通ることのできない画像診断法のすべての知識を得るために必要な1冊と考えられる。また、画像診断における異常所見と鑑別診断が、随所にボックスで要点のみが記述されていることから、本書は当然英語での記載であるが、日常の診察においてもクイックリファレンスとして活用できるものと思われる。

「獣医畜産新報」2007年10月号 掲載

J.E. van Dijk, E.Gruys, J.M.V.M.Mouwen

『Color Atlas of Veterinary Pathology 2nd ed.』

2007年・Elsevier発行・¥20,606(税込)

評者 動物細胞病理研究会主宰 後藤直彰

獣医病理学を学ぶ上での大切なことは何よりもまず目で見ることてある。病気、病変が非常に多くあることは言うまでもないが、それぞれが多くの臓器、器官に発生し、さらにその進行度合の差によって、すなわち初期像、最盛期、終末像とそれぞれ異なり、これらの組合せで膨大な数の肉眼所見になることは明らかである。
それらの全てを実際の経験、自らの知識として貯えることは希むべくもない。これらを補うものとしてのカラーアトラスがある。
この『Color Atlas of Veterinary Pathology』は獣医学を学ぶ学生、研究所で獣医学的な仕事に従事する卒業生、食肉検査に従事する人を対象に作られたもので、初版は1982年に刊行された。
初版にはそれまでの20年間に獣医病理学の知識が急激に増大し、獣医学を学ぶ学生に大きな負担となっていると述べられているが、当時から現在に至るまでも、さらに事実、知識が多く集積されていることから、この第2版には旧版には見られなかった事柄を増補することでより現状に即したものとなっている。
初版では、とくに「病気と病気の進行過程の理解」を目的とし、細胞病理学、炎症、循環障害、腫瘍を各臓器、組織ごとに明確にしているが、この第2版では、その内容をさらに進め「臓器、組織の一般的な形態的反応」というように拡張して、自由度をもって考えられるようにしている。
また、このアトラスでは学生諸君が取り付きやすいように、各臓器、器官ごとに一般的な導入部を設けてあるのも親切な点である。
また先に述べたように、新しい材料が加えられ、多くの写真が拡大されているのも利用者にとって参考にしやすいことであろう。
病変の取り上げられている動物も馬、牛、羊、山羊、犬、猫、ウサギと多種に亘り、このようなアトラスで従来ありがちであった大動物に片寄ることなく、日常多く出会う動物、特に小動物臨床で多く出会う犬、猫の例が多く、鮮明な写真で見られることは学生、研究者ばかりでなく一般の臨床家にとっても役立つところが大きいと考えられる。
獣医師の実際の業務においては死後の検査もしばしば要求されることから、病理学の専門家以外であっても肉眼的病変をその場で見分けるための知識も必要となる。そうした知識を広く養うためにも、本書は有用で、獣医業に従事する者は、是非書架に1冊備えておきたいアトラスである。

「獣医畜産新報」2007年4月号 掲載

Theresa Welch Fossum et al.

『Small Animal Surgery 3rd ed.』

この商品には新版があります:2012年・Elsevier発行・¥29,290(税込)

評者 相川動物医療センター院長 相川 武

本書は1997年の初版以来、多くの獣医師、獣医学生に親しまれてきた。獣医学生や新人獣医師にも理解しやすい基本的な用語説明、解説に加え、充実したカラー写真やイラストを使った手術手技説明は他の教科書には見られない特徴である。
今回新しく加わったリハビリテーションの項ではその基本的理論と手技の解説がされ、いくつかの実例写真が紹介されている。内容的には今後さらに充実する余地を残しているが初心者にとっては読みやすいと感じた。多剤併用による疼痛管理の項では、代表的薬剤の説明、併用の方法、用量の表、代表的な局所浸潤麻酔法手技がイラストとともに紹介されている。解りやすくまとまり臨床現場で疼痛管理を実施する際に参考になる。低侵襲手術(スコープ検査、手術)の項では基本的スコープの分類、用途の説明があり、各種検査の例が紹介されている。より詳細なスコープ手技は後の各論において個々に論じられている。新しく追加された情報や治療法にはAPマークが付けられ読者には見つけやすい。第2版に見られたSelected abstracts of recent manuscriptは削除されている。
軟部外科では、これまでと基本的な構成は変わりないが、眼科に関連する基本的手技(眼球内手術を除く)が単独の項となった。その他、腹腔鏡手術、尿道脱の尿道固定法、膀胱鏡検査による異所性尿管の所見などが紹介されている。心臓外科の項で心房中隔欠損の治療具が紹介され、上部気道の項で鼻腔への側方アプローチ法、口腔内アプローチ法や喉頭、気管の内視鏡検査法などが追加された。
整形外科においてはD.Hulseに代わりK.Schulzが加わり、基本的な項目の大部分を受けついでいる。UC Davisにおいて関節疾患についての様々な研究実績を持ち、関節鏡手技や人工関節の開発研究に携わり、その発展に力を注いできたK.Schulzが加わったことにより、第3版ではそれらの内容がより充実している。関節鏡による検査、治療法や前十字靭帯疾患に対するTPLO、TTA、股異形成に対するJPS、BiomedtrixのセメントレスTHR、その他ロッキングプレート法、ループサクラージワイヤー法、下顎骨折の歯内固定法などが加わっている。
神経外科では環軸亜脱臼の治療項目で新手技が紹介されている。初版以来、全体の内容の多くに変化無いが、現在あまり選択されない方法が依然として紹介されていることがあるという印象を持った。今回は第2版に取り上げられた末梢神経損傷に対する治療法の項が削除されている。
本書はわかりやすい基本的説明を重視する入門書としてのイメージがあったが、獣医学の進歩とともに少しずつ内容の改定が行われ、版を重ねるごとに最新の情報を取り入れている。多くの外科専門医によって評価されているために、一部の外科医の経験論や主観的判断のみに基づいた理論や手術手技の記載が少ないという点ではSlatter編の『Textbook of Small Animal Surgery』と共に獣医外科学のバイブル的書籍であると感じる。

「獣医畜産新報」2007年4月号 掲載

Jacquie Rand

『Problem-based Feline Medicine』

2006年・Elsevier発行・¥16,848(税込)

評者 赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫

現在では欧米の獣医大学における教育の方法が、疾患別、原因別から、問題別、器官系別にシフトしている。学生がいざ臨床現場に出てみ ると、試験の時には良くできていても、臨床例に対してさっぱり診断がつけられないという問題に教員が直面し、それでは教える方法を変えてみようという試みから始まったものである。すなわち、“Problem-based”とは、飼い主が主訴として報告する臨床症状、あるいは問診や身体検査、その他の検査から明らかになった臨床徴候や検査異常、それを患者の“問題点”としてとらえ、そのような問題が明らかにある臓器系の問題を示しているのなら、特定の臓器系に目をつけて診断を進め、漠然とした問題ならば、その問題が起こるメカニズムを考えて行く、こういった診断における思考過程を指す。
本書は、猫における全ての疾患を網羅して、“問題点”から引くことのできる、猫の病気の辞書のようなものである。したがって、目次は問題別に、第1章 上部気道徴候(急性のくしゃみと鼻からの分泌、慢性鼻疾患症状、喘鳴)、第2章 下部呼吸器または心臓の徴候(呼吸困難または呼吸促迫、胸水貯留、咳、チアノーゼ)、第3章 心疾患徴候(異常心音/心肥大、心拍数または調律の異常)、第4章 尿路系徴候(排尿困難、失禁、尿色の異常、不適切な排泄、多尿と多飲)、というように各身体器官系を網羅して、あらゆる問題が目次に立てられている。問題の中には行動学的問題も、臨床検査上の異常所見も、さらには臓器系は特定できない漠然とした問題、子猫特有の問題や、薬物に関する問題点も記載されている。
各章は細かく問題別に分けられ、そこにはその問題が起こるメカニズム、その問題はどこで起こっているか、そしてその問題が起こる病気には何があるかの順で書かれている。病気には何があるかの項では、一般の教科書同様に、その病気の詳しい説明から、最新の治療法までが書かれている。したがって、本書は猫の臨床の教科書であることは間違いなく、これまでの教科書との違いは、病名がひらめいてその項を参照するのではなく、患者の問題からたどって行くと、その病名にたどり着くというものである。
編者のJacquie Rand(女性)はオーストラリア、クイーンズランド大学の教授で、Center for Companion Animal Healthの所長を務める。米国獣医内科専門医の資格を持ち、獣医界で広い交流を持つことから、本書の執筆は、英国、米国、カナダ、オーストラリアなどから専門家を選りすぐって行われている。記述は詳細であり、ほぼすべての病気を網羅してあることから、かなり膨大なボリュームで、しかも図版などは少なく、もっぱら文章で綴ってある。したがって、一気に読むのはかなり大変であるが、いわゆるクイックリファレンス的な本ではないので、ある程度読んでおかないと、患者が来てから読める本でもないと思われる。

「獣医畜産新報」2007年3月号 掲載

Safia Barakzai

『Handbook of Equine Respiratory Endoscopy』

2007年・Elsevier発行・¥11,623(税込)

評者 酪農学園大学教授 田口 清

馬の呼吸器系疾患の内視鏡図譜である。すなわち馬の呼吸器とその疾病の内視鏡像に慣れ親しむための便覧である。また実際の内視鏡検査時に携帯して参照するための本である。そして130頁あまりのA5判の小さな本である。この本が生まれたのも獣医学領域における内視鏡の発達によるばかりでなく、馬の呼吸器病がメジャーな疾病で、なおかつ内視鏡検査が日常診療においてきわめて有用だからである。
第1章と第2章は内視鏡器具と使用法の説明であるが、ハンドブックであり、初学者や学生をも対象にしている本なのでもう少し実際的な記述が欲しい。たとえば検査者や馬、また内視鏡自体に安全な使用法や取り扱い方である。内視鏡の洗浄や消毒法についても具体的かつマニュアル的な記述があったらよかった。しかし、その後に続く第3章から第7章の鼻腔、咽頭、喉嚢、喉頭、気管・気管支の正常内視鏡像と疾病像の写真と簡潔な説明は満足できる。欲をいえばもう少し理解が深まる解剖図が添付されていればなおよかっただろう。
私は今まで馬の呼吸器の内視鏡検査時には『Equine Endoscopy 』(1999, Mosby)という本を携帯して使用していたが、今後はこの本を使うだろう。それはよりたくさんの疾病の内視鏡写真があるからである。ビジュアル(画像診断)の強さを納得させる現代の馬の診療になくてはならない1冊である。

「獣医畜産新報」2007年3月号 掲載

Juan C.Samper, Jonathan F.Pycock & Angus O.McKinnon

『Current Therapy in Equine Reproduction』

2007年・Elsevier発行・¥21,254(税込)

評者 帯広畜産大学教授 三宅陽一

この10数年、馬の繁殖管理に関する幾つかの著書が刊行され、様々な新知見を目の当たりにできるようになってきた。それらの中でも、ここで取り上げる『Current Therapy in Equine Reproduction 』(2007, Saunders)は61名の著者によって書かれたもので、馬の繁殖管理に関わる66話題が豊富な新知見をベースに載せられている。
本書の特徴の1つは著者の多くが実際にフィールドで日夜馬の繁殖管理を含む診療に携わっている獣医師であることだ。また、若手の大学教員や学生、大学院生とおぼしきメンバーが執筆しているのには、さらに驚かされるとともに、この分野の研究の拡がりに深い感銘を受ける。
内容は、開業の獣医師や、学生、さらには馬の繁殖管理者をターゲットにして、馬の繁殖に関する管理の全てが実にバランスよく網羅されている。繁殖障害の診断、あるいはその外科的処置も含めた治療法についても言及している。馬の内分泌動態の研究成果が披瀝されていることや、豊富なエコー像はこれから馬の繁殖学を学ぶ学生や、フィールドでの繁殖管理の理解に欠かせないものとなっている。
本書は全部で8章に分かれている。第1章には雌馬の卵巣動態と子宮の変化、発情や排卵の同期化処置、加えて発情の抑制法などについて書かれている。第2章には雌馬の繁殖障害に関わる問題に焦点をあわせて、卵巣、卵管、子宮、外陰部の病的な状態について記述され、内分泌的、細胞遺伝学的、外科的処置が網羅されている。第3章と4章には種雄馬の正常な生殖器の構造と機能、その検査法、障害について書かれているとともに、第5章では受胎率の向上に欠かせない精液の採取、採精液の評価について記述されている。そして、第6章には胚移植を含む最新の生殖補助療法について紹介され、第7章では妊娠に伴う諸問題が、第8章では分娩後の繁殖管理のポイントがよく述べられている。このように本書は高い生産性が求められている馬の繁殖管理に利する優れた指導書となっている。
ただ残念なのは、著者の中に日本人研究者・獣医師の名前を発見できなかったことだ。わが国には西川義正先生を筆頭に、馬の繁殖管理や指導に長けた多くの獣医学関係者による研究成果を基に、今日の日本の馬産が支えられてきた。しかし、西川義正先生は別格として、それらの成果はまだ国際的な評価を得るに至っていないかもしれない。是非とも、大いに海外の研究を凌駕するような独創的で、優れた研究の進展が望まれているところであり、今日その芽は大いにあると思っている。青雲の志をもって、日本発『馬の増産』の発刊に期待するところである。
なお、Wisconsin-Madison大学のGinther,O.J.教授が、『Reproductive Biology of the Mare』の第3版を近々出版の予定と聞く。本書の刊行とあわせて、馬の生殖科学および繁殖管理に関わる新知見が続々と現われることは、馬生産に携わる獣医学関係者にとって真に喜ばしいことだ。

「獣医畜産新報」2007年3月号 掲載

Robert S. Youngquist & Walter R. Threlfall

『Current Therapy in Large Animal Theriogenology 2』

2007年・Elsevier発行・¥27,605(税込)

評者 鹿児島大学名誉教授 浜名克己

Youngquistによる同名の初版が1997年に出てから、待望久しく10年ぶりに本書が刊行された。初版と同様に大部であり、A4変形版で1061頁に及ぶ。本書のまず第1の特徴は豊富な執筆陣にあり、全米、全カナダを網羅し、オーストラリアから数名、メキシコ、ペルーからも加わり、総計177名に達している。職域は大学教員が主であるが、臨床獣医師や民間会社員も加わっており、羨ましいほど層が厚い。それぞれが主に1、2項目、多くて6項目を担当している。
対象動物は7種類に分けられ、牛の記述が最も多い(290頁)が、北米ではコンパニオンアニマルとなっている馬も非常に多く(220頁)、山羊、羊、豚、ラマ科(ラマ、アルパカ)、特用家畜(シカ科のアカシカ、ワピチ、ダマシカ、尾白シカ、トナカイ、Axisシカ、トナカイ。バイソン)がいずれも100頁を超えている。またいずれも雌に片寄らず、雄についてもしっかり記載されているのも本書の特徴である。
内容は繁殖生理(解剖を含む)に始まり、妊娠診断など各種検査法、繁殖障害の各項目、外科および産科処置について、図表・写真が多用され(計456枚)、分かりやすく具体的に記述されている。また各家畜について、群としてのReproductive Health Program(繁殖管理)が詳述されている。文献が豊富で、ある項では219もあげられており、近年のものに加えて、1940年代のものも含まれている。いくつかの項では、多すぎるので「新規以外は初版を見よ」とある。その中で、世界的に有名な名著Robertsの『Veterinary Obstetrics and Genital Diseases. 3rd ed』(1986)は、今なお広く引用されている。
バイオテクノロジーを用いた生殖補助医療(ART)の項もあり、一方、乳牛の周産期の代謝性疾患についても24頁にわたって記述されている。最新の知見が多く含まれているのは当然で、例えば、牛の胎盤停滞の治療法として、用手剥離は禁忌であり、代わってコラゲナーゼを胎盤動脈内に注入すると、36時間以内に85%が排出されたとある。帝王切開時に本法を応用すると、その後の胎盤停滞の防止にもなる。
産業動物臨床における繁殖学の地位は、生命に直接かかわることが少ないため、ややもすれば軽視されてきた。しかし、近年は生産性を向上させるため、飼い主は獣医師に繁殖関連の進んだ技術とその適用を強く求めるようになった。それらには、胚移植、体外受精、凍結精液、精液輸送、定時授精、高い繁殖性の維持などがある。
本書は獣医学の学生にとっては教科書として、また教員と臨床獣医師にとってはすぐに役立つ参考書として非常に有用であり、ぜひ手許に備えたい1冊である。自動翻訳機があれば、直ちに日本語として紹介したいほどの価値がある。

「獣医畜産新報」2007年2月号 掲載

Susan G.Wynn & Barbara J. Fougre

『Veterinary Herbal Medicine』

2007年・Elsevier発行・¥17,366(税込)

評者 日本大学教授 長谷川篤彦

洋の東西を問わず、古くから植物を治療に使用し、その効果についての記載が集積されてきた。中国においては数千年の経験に基づき後漢時代にまとめられた神農本草綱目が古典として有名である。我が国においても、中国からの影響を享受しつつ我が国の医学として発展をとげ、漢方医学として今日に至っている。江戸時代には、我が国独自の本草綱目が出版されている。獣医療においても医療に追従して進歩してきたことは周知の事実である。このような伝統的な医学が、近代科学を基盤とした医学における問題を解決するために最近特に注目されるようになっている。
獣医東洋医学会もこのような時代の趨勢にあって創設され、この分野の発展に努力している。また2005年にアジア伝統獣医学会が設立され、2006年10月北京で第1回大会が開催されている。西洋にあっても薬草の歴史は古く、その研究も盛んであり、獣医領域における関心も年々高まっている。
今般、Wynn, S.G.とFougere, B.J.の両先生が編纂された『Veterinary Herbal Medicine』がMosby 社から出版された。現在、この関連各分野で活躍中の20名に及ぶ執筆者による約700頁の大著である。
本書は5章から構成されており、第1章は緒論で、歴史を踏まえた薬草医学の概説である。第2章は薬草の治療における位置付けを明らかにする必要性やその手続きについて紹介している。第3章では、薬草として使用される植物についての解説で、薬学的背景を主体に論述されている。第4章は臨床における有用性を中心とした項目である。臨床の実際面と馬や牛での治療上の問題が記述されている。また、200頁以上を割いて各薬草それぞれの特性を記載している。最後の第5章は付録で、用語解説など実用上役立つ5項目について示されている。
したがって、本書はこの分野を志す後学にとって必見の書物であり、初心者は勿論のこと経験を積んだ臨床獣医師や研究者にとっても極めて利用価値の高い好著であると思われる。

「獣医畜産新報」2007年2月号 掲載

Stanley I. Rubin & Anthony P. Carr

『Canine Internal Medicine Secrets』

画像  『Canine Internal Medicine Secrets』

評者 タカダアニマルホスピタル副院長 小村吉幸

面白い本が出版された。臨床でよく遭遇する諸問題の重要なポイントについて、神経および神経筋肉、心臓、呼吸器、内分泌、消化器、泌尿器、生殖器、多発性/全身性の問題、血液リンパ系、感染性疾患の10カテゴリーに分け、Q&Aの形式で解説してある。我々が日頃接するセミナーでも、熱心な講師は受講者から質問されることをとても喜ぶ。真剣に耳を傾けてくれている証拠だからである。しっかり理解しようとすれば、誰でも知識の浅い部分がおのずから顔を出して出てくるものである。そこに気づくことができるからこそ、楽しく有意義な勉強なのである。また、“自分がわからないときは人も同じ! あなたの疑問は周囲の10人の疑問でもある!”とよく言われる。コンピュータがいうことを聞かないときに、マニュアル本を読み返すよりも、サポートページの“よくある質問”をチェックすることが役に立った経験があることでしょう? そんなことを考えつつ読み進めると意外に早く読破できる。実力試験のつもりで利用してみると面白い。本書の英文は簡潔明瞭であり、日ごろよく使われる表現満載である。そこで、臨床獣医学英語を勉強中のインターンにはダブルの利益が得られる格好の勉強材料であろう。“IBDとは何でしょう?”、“IBDの臨床徴候とは何ですか?”と後輩に聞かれたとき手短に何と答えるか。それとも本書を手渡すか? Seeing is believing! ぜひ、ご一読いただきたい。

「獣医畜産新報」2007年2月号 掲載

Margaret V. Root Kustritz

『The Dog Breeder's Guide to Successful Breeding and Health Management』

2006年・Elsevier発行・¥4,270(税込)

評者 日本大学生物資源科学部教授 津曲茂久

本書はアメリカの犬のブリーダーを対象として書かれたものである。著者のRoot Kustritz女史は犬の繁殖学の著名な学者であり、2001年に獣医師向けに出版された、現在この分野で最も定評を得ている“犬猫の獣医繁殖学”の著者の1人でもある。従来の犬のブリーダー向けの本はややもすると一部の分野に偏っていたり、素人向けの平易過ぎる内容であったりと1冊の内容としては不十分な本が多かった。その点本書は犬のブリーダーは勿論のこと、毎日の診療で犬の繁殖に従事することの少ない獣医師にも大変参考になる実践的かつ有益な情報が網羅されている。これらの内容の多くは“犬猫の獣医繁殖学”を簡略に書き直した観があるが、前著書と異なり全編に亘りカラー写真が豊富に使われており、読み飽かせないよう工夫されている。さらに、内容の理解度を確認するために小項目ごとに、ブリーダーから良く受ける質問コーナーや理解度診断コーナーが設けてある。
内容は大きく分けて4章から構成されている。すなわち、1章:栄養と基礎科学、2章:雌犬の臨床管理、3章:雄犬の臨床管理、4章:犬の繁殖に関する一般的管理である。1章と4章は犬のブリーダーを特に意識した内容であり、本の本来の趣旨に最も合致した部分である。2章と3章は雌雄犬の臨床管理とあるように、犬のブリーダーが実際に行う内容というよりは、臨床獣医師の診療内容を理解させ、獣医師に診療を依頼する時に必要な犬の徴候変化などを教示した内容になっている。したがって、これらの部分は臨床獣医師に大変参考になる内容であることは疑いない。若い獣医師からは、大学卒業以来犬の交配や分娩立ち会いの経験がほとんどないために、飼い主にどのような徴候が現れたら来院指示すればよいのか、確信が持てないとの意見を聞くことがある。この本はそのような獣医師に是非読んでもらいたい書である。
最近、我が国においても、犬の凍結精液人工授精で生まれた子犬を登録認定しようとする機運が高まりつつある。しかしながら、新しい理論に裏打ちされたホルモン測定による交配適期診断や子宮内に精液を送り込む人工授精技術の両方が伴わないと、犬の凍結精液による受胎はほとんど期待できない。そのような意味で犬の繁殖に長年携わってこられた獣医師にも推薦したい本である。

「獣医畜産新報」2006年7月号 掲載

Jrg A.Auer & John A. Stick

『Equine Surgery 3rd ed.』

この商品には新版があります:2011年・Elsevier発行・¥34,603(税込)

評者 酪農学園大学獣医学部教授 田口 清

本書は馬の外科と手術に関してすべてを網羅した最新の第3版で、65名以上のエキスパートによって執筆されている。最初の3章はいわゆる外科学総論ともいえる内容で、手術生物学、手術法、麻酔に関する最新の進歩(ショック治療、敗血症、創傷療法、外科患者の代謝と栄養管理、手術感染、抗菌療法、滅菌消毒、疼痛管理法など)が記載されており、そのページ数も110ページと第2版の倍以上になっている。これらは第4章以降の各外科的疾病の記述にも増して、手術全体に関する取り組みやその考え方を読み取ることができ、外科療法や手術について深く考えさせる章となっている。退屈な総論ではなく、エキサイティングな最新情報であり、外科に関する新しい心構えやアプローチが得られる。
第4章からは馬の各外科疾病の成り立ち、病態、症状、診断、治療、予後などが臓器系別の章立てで詳細に記述されている。疾病の理論的理解にきわめて有用であり、その記述は手術適応やその方法について明快である。またこれらの記述は畜主に当該馬の罹患疾病や手術について説明するためにもわかりやすく整理されているといえる。本書は手術アトラスではないので詳細な手術手順の図示はないが、要領よく図と写真が数多く配置されており、経験のある獣医外科医にとって手術法の理解に困難なことはない。しかし、初心者や学生は手術アトラス書や解剖図譜などの他書と併用する必要があるかもしれない。
手術というものが成書の図や写真のとおりできるようになるイメージがいかに重要であるかを示し、外科医として自分を確かなものにしていく力、自分に書き込む行為が備わった書である。本書によってエキスパートと同じ知識レベルが得られるはずである。

「獣医畜産新報」2006年7月号 掲載

P.M.Taylor & K.W.Clarke

『Handbook of Equine Anaesthesia』

2007年・Elsevier発行・¥10,362(税込)

評者 酪農学園大学獣医学部教授 田口 清

臨床現場(病院とフィールド)での馬の鎮静法と麻酔法のガイドラインを記したコンパクトな最新のハンドブック(190ページ)である。最新であることの意味は、麻酔薬や麻酔薬に対する馬の反応に関する理解の著しい進歩、新しい麻酔薬、新しい技術、古い薬の新しい使用法などによってより安全でコントローラブルな馬の麻酔が可能になったことに起因する。しかし、この小さな本は最新であるばかりでなく、基本的な馬の麻酔手技を網羅した臨床マニュアルであり、「元来、安全な麻酔薬などはなく、安全な麻酔者だけがいる」ことを前提に、麻酔を安全に実行することをコンセプトとしている。したがって、鎮静法・無痛法・麻酔前処置法、静脈内麻酔法、吸入麻酔法とその薬物使用といった教科書型知識の羅列ではなく、麻酔モニター法と麻酔に付随して起こる問題についてもそれぞれ章を設けて写真と図とともに要領よく説明されている。さらに子馬、妊娠馬、帝王切開、整形外科、急性損傷、疝痛、眼科手術などの特別の場合の麻酔法についてその病態生理から麻酔覚醒までの麻酔手順がまとめられている。臨床現場のハンドブックとしての使用はもとより馬の鎮静・麻酔法全般を理解するためにも一読の価値がある。索引の項目は非常に使いやすく適切で、また本に付いている赤と白の2本の紐状のシオリはかわいらしく、便利である。馬の麻酔に関わる臨床家あるいは学生にとってポケットや卓上に常にあるべき本の1冊である。

「獣医畜産新報」2006年6月号 掲載

Douglas R. Mader

『Reptile Medicine and Surgery 2nd ed.』

2006年・Elsevier発行・¥23,328(税込)

評者 明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授 深瀬 徹

ここ数年、爬虫類の獣医学に関する大部の書あるいは良書の出版が続いている。エキゾチックアニマル全般を扱っているものを含めれば、たとえば私の手元にあるだけでも以下の書籍がある。
・BSAVA Manual of Exotic Pets,4th ed,edited by Meredith A and Redrobe S,British Small Animal Veterinary Association,2002
・BSAVA Manual of Reptiles,2nd ed,edited by Girling S J and Raiti P,British Small Animal Veterinary Association,2004
・Medicine and Surgery of Tortoises and Turtles,edited by McArthur S,Wilkinson R and Meyer J,Blackwell Publishing,2004(獣医畜産新報、58、344(2005年4月号)に書評掲載)
・Clinical Anatomy and Physiology of Exotic Species:Structure and function of mammals,birds,reptiles and amphibians,edited by O'Malley B,Elsevier Saunders,2005(獣医畜産新報、58、961(2005年11月号)に書評掲載)
そして、ここにご紹介する『Reptile Medicine and Surgery』の第2版である。
* 『Reptile Medicine and Surgery』の初版は1996年の発行である。初版でも500ページを超える大きな書物であったが、今回の第2版はこれをはるかに超え、1242ページに及んでいる。これはもちろん、単にページ数が増えたのではなく、内容も大きく改訂され、初版以降の10年間に得られた知見が盛り込まれた結果である。爬虫類の生物学や飼育法、解剖学、生理学、行動学から臨床検査、各種疾病への対応まで、臨床家にとって必要な事項が網羅されており、爬虫類の臨床に関する書物として世界でもっとも詳しいものになっている。
* ところで、本書の特徴は、詳細な記載に加えて、爬虫類について総括的な記述が行われていることにあると私は思う。
爬虫類は脊椎動物を構成する1つの綱(class)であり、現生の爬虫綱はカメ目と有鱗目(トカゲ亜目およびヘビ亜目)、ワニ目、ムカシトカゲ目の4つの目(order)に大別される。このうち、ペットとして飼育されているのは、カメ目と有鱗目である。そのため、爬虫類の獣医学書では、カメ類、トカゲ類、ヘビ類と分けて記載していることがある。これは当然といえば当然で、目が異なれば、哺乳類でいえば犬と牛ほども違うからである。
しかし、この書物では、カメの疾病、トカゲの疾病、ヘビの疾病というような目または亜目ごとの記載を避け、たとえば循環器疾患、皮膚疾患、感染症など、疾病ごとの記載が中心になっている。このことは、本書は大部の書であるとはいえ、あくまでも爬虫類を1つのグループとしてとらえ、その臨床に関する入門書的な位置づけにあることを示しているのではないだろうか。
私は、理想的には、獣医学書は動物種ごとに成立すべきであると考えるが、しかし実際には、爬虫類について種ごとの書物を著すほどの知見はいまだ得られていない。こうした状況において、爬虫類とはどういう生物か、その臨床はどのように行われるべきかについて総括的に示した書物の集大成としての本書の意義はきわめて大きい。
* これだけの書物の邦訳を出版することは、おそらく不可能であろう。訳書がそれほど多く売れるとも思えないし、また、邦訳すれば原書よりもページ数が増えるのが常であり、その価格は著しく高くなることは間違いない。英国やアメリカ合衆国で爬虫類に関する多くの書物が比較的安価で発行されるのは、世界的な販売が見込めるからである。
本書は、英文で書かれたものであり、読むには確かに苦労する。しかし、爬虫類の診療に興味をお持ちの先生には、是非とも書棚に備えていただきたいと思う。

「獣医畜産新報」2006年6月号 掲載

Stephen J.Bichard & Robert G.Sherding eds.

『Saunders Manual of Small Animal Practice 3rd ed.』

2006年・Elsevier発行・¥26,309(税込)

評者 日本大学生物資源科学部教授 長谷川篤彦

古来よく言われるように、書は読むべきものであって読まれないように注意しなくてはならない。同様に、手引書や指針の類についても当てはまるものと思われる。マニュアル通りなら間違いないとか、マニュアルの習得のみに終始することは論外である。マニュアルを忠実に実行することは、それなりに利点の多いことも事実である。すなわち、活用の仕方によるし、利用者の態度に左右される。強く打てば大きく響き、弱く叩けば小さく鳴るのは常識である。
本書の初版は1994年に上梓され、6年後に第2版、そしてさらに6年を経て、改訂第3版として発刊されたものである。米国オハイオ大学獣医教育病院の臨床を支えるStephen J. Birchard とRobert G. Sherdingの両先生による初版以来の編纂で、一貫した考えのもとに纏められており、獣医臨床の最前線で活躍中の約150名の執筆者による力作である。最近の獣医臨床の進歩を包摂して、現場の診療に適合した内容へと充実を図った佳書と言えよう。疼痛管理やワクチン接種指針の項目なども追加され、また挿入された多数の図表が理解の助けとなっている。
いずれにしても、多忙な臨床獣医師をはじめ、獣医師を志す学生にとっては、座右において知識の確認や習得に役立つ1冊であることはこれまでの経緯からしても窺い知られるところである。

「獣医畜産新報」2006年5月号 掲載