HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
モンゴルの獣医学教育と獣医師養成の支援事業で、現在、ウランバートルに派遣されている北里大学名誉教授の髙井伸二先生にプロジェクトのことやモンゴルの獣医事情などの紹介をいただきます。2~3か月のインターバルでの掲載を予定しています。(編集部)
JICA MJ-VET獣医学卒前・卒後教育プロジェクトの終了
- モンゴル生命科学大学獣医学部・JICAオフィス
- 髙井伸二(北里大学名誉教授)
1.11年間に渡るモンゴルにおける卒前・卒後の獣医学教育支援
モンゴルにおける獣医師養成機関に対する技術協力プロジェクトが2014年から11年間継続され、2025年6月25日に完了となる。第一期目は「モンゴル国 獣医・畜産分野人材育成能力強化プロジェクト(2014-2020)」で、獣医畜産分野の指導と普及を担う専門技術者の能力を強化することを目標とし、1)獣医学部の教育カリキュラムが改善、2)新カリキュラムのための獣医学部の体制の整備、3)獣医学部の教員の指導能力の強化、4)獣医師の卒後教育コースの設置、の4つの目標達成に向けて、プロジェクトが進んだ。第二期目は「公務員獣医師及び民間獣医師実践能力強化プロジェクト(2020-2025)」で、モンゴル国・総合獣医庁の肝いりである獣医師免許更新制度の設置に伴って、免許更新研修会のカリキュラムの作成と研修会講師の養成を目的として、卒後教育の人材養成と体制整備を行った。
第一期のチーフアドバイザーは梅村孝司北大名誉教授(2014−2019)、多田融右先生(2019−2020)、第二期アドバイザーは杉本千尋北大名誉教授(2020-2024)、髙井伸二北里大学名誉教授(2024−2025)が担当した。
2.モンゴルの獣医師免許更新制度
モンゴルの獣医師免許は唯一の国立大学の獣医学部の卒業試験に合格することで自動的に取得できる。この11年間のプロジェクトで獣医学教育研究環境は研究機器機材の整備によって格段の進歩があった。さらに、5年毎の獣医師免許更新のためには研修により20単位以上の取得が必須となった。この研修内容と講師の養成を目的として第二期目のプロジェクトが開始され、4つのカウンタパートの教職員で構成された10の教育・研修グループは家畜感染症・寄生虫感染症・食品安全・食肉衛生・馬医療・牛の診療などの領域での研修と実習をモンゴルの21県で展開した。Covid-19の影響で、実質的には2022−2024年の3年間に延べ2000人を超える獣医師が研修に参加した。なお、モンゴルの獣医師は3000人余である。
3.短期専門家と本邦研修
第一期は短期専門家として北大、帯広畜産大学を始めとする大学関係者が39人、延べ134回にわたり来蒙いただき、現地での講義・実習・研究指導に携わっていただいた。同時に、北大、帯広畜産大学、動物衛生研究所などの協力機関にモンゴルの教員・研究者57人が短期研修をお願いした。さらに、8人が北大・大学院博士課程に進学した。
第二期目は、2020−2021年のCovid-19のパンデミックにより、オンラインとモンゴル国内のみでの活動となった。本格的な活動は2022年以降となるが、短期専門家は32人、本邦研修は41人と、空白の2年間を取り戻す活動が2023−2025年に展開された。
短期専門家は4つのカウンターパート機関の研究者への研究指導も実施いただき、数多くの研究論文としてその成果が公表された。また、講義・実習内容のレベルアップも同時に指導していただいた。
4.第6回合同調整委員会(JCC)
本プロジェクトの統括責任者はモンゴル国・総合獣医庁・ナラントヤ長官で、4つのカウンターパート機関の長と、JICAモンゴル事務所・JICA本部担当者、プロジェクトスタッフと前チーフアドバイザーの杉本千尋先生を構成メンバーとする最終会議が2025年5月19日に開催された。これまでの事業成果と今後の事業の継続性が担当機関から意志表示され、事業をバトンタッチした。これまでの事業を礎にさらなる継続と発展のため、モンゴル生命科学大学獣医学部は、今後、獣医学生涯教育センターの設立を目指すことを表明した。
5.終わりに
2024年4月10日成田空港14時40分発MO502便でウランバートル国際空港に向け出発し、この日からモンゴルでの派遣専門家としての活動が始まった。この便りを書いているのは2025年6月中旬で、残す任期は2週間を切った。プロジェクトの会計報告書と最終報告書も完成し、獣医学部にあるプロジェクトオフィスの後片付けが静かに進行している。
シリーズ「髙井伸二先生のモンゴルだより」