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■髙井伸二先生のモンゴルだより(2) モンゴルの教育制度

2024-08-29 16:39 | 前の記事 | 次の記事

図1「モンゴルの年代別・男女別の人口ピラミッド(2019)と年齢表」

図2「モンゴルの学校系統図(左)と学位の種類(左)」/図3「一般教育学校における学年暦」

表1「高等教育に関する主要なデータの推移」

モンゴルの獣医学教育と獣医師養成の支援事業で、現在、ウランバートルに派遣されている北里大学名誉教授の髙井伸二先生にプロジェクトのことやモンゴルの獣医事情などの紹介をいただきます。2~3か月のインターバルでの掲載を予定しています。(編集部)

モンゴルにおける獣医学教育 その1:モンゴルの教育制度

モンゴル生命科学大学獣医学部・JICAオフィス

 髙井伸二(北里大学名誉教授)

1.モンゴルのベビーブーム

モンゴルの獣医学教育を紹介する前に、まず、図1「モンゴルの年代別・男女別の人口ピラミッド(2019)と年齢表」を見ていただきたい。

2019年の人口構成図を見ると、30~34歳以上の層までの人口ピラミッドは富士山型である。2000年代に入り社会主義崩壊の混乱期に人口増加が鈍化した影響で2009年出生者まで若年層が減少し、30~34歳層の人口を頂点とし15~19歳の層を底とした壺型に変わった。ところが、2014年以降、急激な出生者数の増加が続いて、星型に変わった。モンゴルの合計特殊出生率は2.77で日本の2.3倍である。

2024年現在、図1の2019年の0~4歳層は5~9歳、5~9歳層は10~14歳と、小中学生になっている。モンゴルの人口は約345万(2022年)、首都ウランバートルの人口は約169万人(2022年)で、イメージとしては静岡県(358万)、ウランバートルは福岡市(159万人)のサイズであるが、この出生率が維持されれば2045年には500万人を越えると予想されている。データは古いが2018年度の15歳未満人口割合は27%(日本は14.9%)、65歳以上人口割合は4.4%(日本は28.4%)と、日本の1950年代後半から60年前半の割合に一致する。戦後の第一次ベビーブーム世代が小中学校に在籍した時代に類似しており、モンゴル、特にウランバートルにおける初等中等教育の教育施設整備は児童生徒数の増加に追いついていない。その対応策は後に述べる。

2.モンゴルの教育制度

モンゴル国の学校教育制度はソビエト連邦の5・3・2の10年制の流れを汲み、1990年代後期には 5・4・2 の11年制であった。現行の教育制度は2006年に改正された「教育法」を基にしており、2008年より6・3・3 の12年制が導入された。その後、2012年の「教育法」改正により小学校5年制、中学校4年制、高等学校3年制へと変更し、図2左「モンゴルの学校系統図」に示すような小学校、中学校の9年間を義務教育とする5・4・3制となっている。

義務教育段階の学費は、私立学校を除いて、全額国家負担である。未就児については1歳6か月から入園でき、年少(1歳6か月から2歳)、年中(3歳)、年長(4歳)、就学準備(5歳)に分かれており、教育・文化・科学・スポーツ省の管轄で国立幼稚園の保育費は国家負担となっている。

義務教育の小学校から中学校の教育暦は図3の通りである。日本の場合、学習指導要領で学習週間数が35週(1年生は34週)以上となっており、さらに、多くの学校で年間200日(40週)が通例である。モンゴルの学習時間は7~10週も短い。

夏休みは特に長く、小学生は5月末から9月末まで、中高生も6月中旬から9月末までとなっている。この間、子供たちは田舎に住む祖父母の所で暮らすというのが多くの家庭で行われている。祖父母との関係、従兄弟・従姉妹同士の関係性も深くなり、家族の繋がりが形成されるようだ。

3.小中高等学校が午前と午後の2部制方式

「多くの開発途上国、特に都市部においては、学校が午前と午後の二部制(double-shift schooling)で運営されている。さらには三部制が行われるケースもある。複数の異なる児童生徒のグループが時間をずらして同じ校舎・施設設備を使用するものである。校舎・施設設備を拡充するための資源が限られた中で、増加する学齢児童に対応するための措置である。途上国の現在の財政状況、学齢児童数の推移、就学率の動向を見るなら、二部制学校は過度的、臨時的な措置というより、むしろ半恒久的なものとして常態化しつつある。学校の日課、教員の勤務形態、子どもや家庭のライフスタイルは、すべて半日単位の学校活動を所与の前提として組み立てられている(斉藤泰雄2005)」。

長い引用となったが、モンゴルの首都ウランバートル市では、急激な人口流入により教育施設整備が追い付かず、二部制・三部制による授業を余儀なくされている。獣医学部の隣には第32番総合学校(小中高)があり、午前と午後の2部制の授業が実施されている。早朝から夕方まで、第32学校前の交通の激しい道路の横断歩道の両側に保護者は当番制で、School Policeのチョッキを着て、黄色い旗で、子供たちの道路横断を助けており、日本と同じ風景が見られるが、こちらでは朝の通学時間だけではなく、昼の帰宅児童と午後から通学する児童、更に夕方の帰宅時と、1日中のボランティア活動である。保護者が車で送り迎えする児童生徒もおり、学校前の道路は、特に朝の通学通勤時間帯は恐ろしいほどの交通渋滞となる。

4.モンゴルの高等教育機関の変遷

モンゴルにおける高等教育は、1940年12月6日、国家大会議の決議によって、国として初の大学を設立することが決定され、第二次世界大戦中の1942年10月5日にモンゴル初の大学として、畜産学・教育学・医学の3専攻科から成るモンゴル国立大学(The National University of Mongolia:NUM)が創立されたことから始まる。

その後、1980年代末の民主化運動を経て、1992年の憲法発布によって民主主義国家への移行及び市場経済への漸次的移行が図られた。その結果、高等教育に関しても、ロシアの強い影響下にあったモデルからの脱却が図られ、急激な変革の流れが生まれた。高等教育機関の中央集権的管理体制の廃止及び自治権の付与、高等教育機関への柔軟かつ多様な教育をする機能と研究の機能の付与、学費無償及び給与支給の停止とすべての高等教育機関への学費徴収の導入、私立高等教育機関の創立と国立高等教育機関の民営化等の変化が生じた。

1992年以前は8校であった高等教育機関が、2000年には172校となったが、多くの私立大学において教育の質が問題となり、政府が主導して高等教育機関の縮小・統合が実施され、2019年度時点では、国立18校、私立73校、外国大学の分校3校が存在している。モンゴルの高等教育機関は、総合大学(学士、修士、博士課程の開設可能)、専門大学(ディプロマ課程:学士課程3年目で授与されるもの、学士課程、修士課程の開設可能)、カレッジ(ディプロマ課程、学士課程のみ)の3つに分類される(図2)。モンゴルは日本の国土の4倍の広さがあり、大学が分散して存在する必要があると思われるが、静岡県とほぼ同じ人口で高等教育機関が94校存在するというのは、一見すると想像を超えた数である。因みに静岡県内には国公立大学は5校、私立大学は12校の合計17校である。しかし、静岡県の短大・大学進学率は66%と、ほぼモンゴルの大学進学率と同じであるが、県内大学進学者数は約30%で、70%は県外に進学する。この県外分を収容する大学数を単純計算すると、17校÷0.3=約57校(国公立17校、私立40校)で、モンゴルの場合は私立大学の数は異常だが、国公立は学問分野を網羅すれば、このような数字になるのであろう。

モンゴルの大学入試選抜試験は、2006年度より大学毎の試験から全国統一試験となった。各大学の専攻課程によって受験科目と合格点が予め設定されている。受験生は10科目(モンゴル語、英語、ロシア語、現代社会、モンゴル史、地理、化学、物理、生物、数学)のなかから指定科目を受験し、志望大学が設定している以上の得点を獲得することが必要条件となる。モンゴル生命科学大学獣医学部の必須科目と基準点もHPに紹介されている。

獣医学部が所属する国立モンゴル生命科学大学(旧:モンゴル農業大学)には6つの学部と獣医学研究所がある。今回は、モンゴルの教育制度の概要を紹介した。次回は、獣医学部の詳細を紹介したい。キーワードは、国立大学という名の私立大学である。

図表は参考文献から引用した。

参考文献

  • 1)独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構(2021) モンゴルの高等教育・質保証システムの概要 2021年11月
  • 2)科学技術振興機構 さくらサイエンスプログラム 教育および科学技術に関する各国・地域の調査結果 モンゴル国
  • 3)原田省吾(2022)モンゴル国の義務教育カリキュラムにおける家庭科教育の位置付け-我が国の家庭科教育との比較を通して- 国際教育研究所紀要 第33巻,33-44.
  • 4)ジャルガルサイハン ジャルガルマー(2020)モンゴルにおける国立大学の予算-収入構造に着目して- 『日本とモンゴル』第54巻 第1号・第2号合併号,134-148.
  • 5)Myagmar ARIUNTUYA(2021)モンゴルの教育制度・高等教育の質保証・モンゴル人学生モビリティ状況 NIC-Japan セミナーシリーズ「外国の教育制度・高等教育資格」2021年7月28日
  • 6)斉藤泰雄(2005)二部制方式による学校運営の実態と問題点-日本の経験- 広島大学教育開発国際協力研究センター『国際教育協力論集』第8巻第2号,25-37.