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記事提供:動物医療発明研究会
インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
JVM NEWSとしてJAVS(日本獣医学生協会)とのコラボレーションにより獣医大学を紹介しています。
第1回目と第2回目は北ブロックの酪農学園大学、第3回目は東ブロックの日本獣医生命科学大学、第4回目と第5回目は「全国唯一の国立獣医畜産系単科大学」で北ブロックの帯広畜産大学、第6回目は西ブロックの鳥取大学、第7回目と第8回目は北ブロックの北里大学のインタビュー記事を掲載しました。
第9回目は東ブロックの麻布大学(写真1A)のJAVS支部長の長 和楓子さん、6年生の安田伊武希さんにお話をうかがいました(写真1B)。
(取材日:2024年8月7日)。
Q1.麻布大学のアピールポイントは何ですか?
アピールポイントをあげていきます。
- (1)国内だけでなく、海外の専門資格を持つ教員が在籍している。
- (2)獣医療の現場と連携した最先端の実践教育をしている。
- (3)特許を取得している教員も在籍している。
- (4)日本の獣医系大学で最多の40研究室を獣医学部に擁し、「基礎獣医学系」「病態獣医学系」「環境獣医学系」「生産獣医学系」「臨床獣医学系」から多角的に学べる。また、3年次(希望者は1年次)から、研究室での活動が可能である。
- (5)実験動物のことを様々な角度から総合的に学べる。
- (6)全国最多のOB・OGが就職をサポートしている。
- (7)約130年前(1890年9月)から獣医学教育を実践し伝統と歴史のある大学である。
- (8)2015年9月に学園創立125周年を記念して開館された麻布大学いのちの博物館がある。
- (9)麻布大学の場所は、都心でもなく、郊外でもなく横浜まで(約35分)、新宿と渋谷(約45分)、東京(約65分)など程よい距離にある。
- (10)先生と学生の距離が近く、アットホームで何でも相談しやすい環境である。
- (11)過去5年間の獣医師国家試験の累積合格者数がNo.1である。
Q2.海外の専門資格を持つ教員が在籍しているとのことですが、その人数と具体的にどんな資格を持たれているのでしょうか?
海外の専門医資格を持つ教員は、動物病院だけでも現時点で私が知る限り5名はおり、以下のような資格を取得しています。
- 米国獣医内科学専門医(心臓病)
- アジア獣医内科学専門医(小動物、神経病)
- アジア獣医外科学専門医
- 米国獣医病理学専門医(臨床病理学)
Q3.獣医療の現場と連携した最先端の実践教育について、具体的にどんなことをされているのでしょうか?
学内にある最先端の設備を備えた「動物医療センター」や「産業動物臨床教育センター(LAVEC:Large Animal Veterinary Educational Center)」で最先端の獣医療技術を培います。
Q4.動物医療センター、産業動物臨床教育センターで実習をすることによる期待できる成果や学ぶ内容を具体的に教えてください。
動物医療センターでは、「最先端の獣医療技術で生命と向き合います」。麻布大学では、既存の施設の一部を2024年1月から動物医療センター(附属動物病院)として新たに増改築し(写真1C)、より多くの診療と最先端医療が行えるようになりました。多くの症例と向き合い、放射線装置(リニアック)といった最新設備を活かすことで、最先端の獣医療技術修得を目指します。
産業動物臨床教育センター(LAVEC)では、「自らが下した診断結果を、高度な設備で確認する」ことを目的としています。LAVECには、大型動物に対応した多種多様な設備を有しています。大型動物を固定し、さまざまな角度からの手術を可能にする油圧式手術台や手術室や実習室への搬入をスムーズにする電動式天井クレーン、手術の様子を見るための55インチ大モニターなど高度で最新鋭の設備を使用し、さまざまな産業動物に関する臨床経験を培います。
また、仮想現実技術を活用した実習も行っており、この実習を通じて「臨場感溢れるVR実習で外科手術を学びます」。
獣医系大学にてVRを採用した教育は、国内でまだ例の少ない先進的な取組です。VRを授業で活用している獣医総合臨床実習では、臨場感溢れる映像で、気管挿管や手術などの技術・知識を修得することが可能です。
この取組は、動物への負担軽減というアニマルウエルフェア(動物福祉)にも貢献しています。
Q5.獣医学科で5つの分野から多角的な知識を身につけられるとのことですが、5つの分野でそれぞれ何が学べるのでしょうか?
「基礎獣医学系」では、動物・生命の基礎を学びます(例:獣医解剖学、獣医生理学)。「病態獣医学系」では、病気の成り立ちを学びます(例:獣医寄生虫学、獣医微生物学、獣医病理学)。「環境獣医学系」では、ヒトや動物を取り巻く環境を学びます(例:実験動物学、獣医公衆衛生学)。「生産獣医学系」では、牛・豚などの産業動物を学びます(例:家畜衛生学、家畜伝染病学)。「臨床獣医学系」では動物の診療や治療を学びます(例:獣医内科学、獣医外科学、臨床病理)。
Q6.研究室での活動が3年次(希望者は1年次)と他の獣医系大学に比べ入室時期が早いと思いますが、その理由や目的を教えてください。
これは「麻布出る杭プログラム」に基づくものです。「麻布出る杭プログラム」は、文部科学省の知的集約型社会を支える人材育成事業「出る杭を引き出す教育プログラム」で採択された「動物共生科学ジェネラリスト育成プログラム」の略称です。
麻布大学の強みである「動物共生科学」を主軸に動物・食品・環境の各分野で研究プロジェクトを行っており、1年次の後期から、所属学科に関係なく興味を持った研究プロジェクトに参加できます。
Q7.「麻布出る杭プログラム」を実践することによって、どんなことが身につくのかを具体的に教えてください。
1年次の後期から本物の研究にチャレンジするだけでなく、研究を通して3つの力が身に付きます。
3つの力とは「広範展開力」「専門コア力」「実践力」です。
広範展開力とは、自分の専門性を広く生かすための力です。学科を超えた幅広い専門分野の教員から、動物生命や食品・環境について学べるため、自分の専門分野で得た知識や考え方を、関連する分野へと展開する力を獲得します。
専門コア力は、高い専門性が求められる研究に1年次から参加することで、専門性とそれをさらに深堀りする力を身につけます。
実践力は、「フィールドワークセンター」や「データサイエンスセンター」などの実践の場で教育や研究を行います。実社会は答えのない世界です。その中で最も適切となる答えを見つけ、それに向けて実践する力を養います。受け身の教育では得ることが難しい資質や感覚を磨きます。
3つの力が身に付く以外に大学院の早期履修が可能になります。学部在籍中に大学院の授業が履修できるため、大学院修士課程を1年早く修了できるチャンスがあります。1年分の学費が節約できるだけでなく、理系大学院修了者には大きなメリットがあり、学部卒業者と比較し年収が約4000万円増加することが内閣府の調査研究「大学院卒の賃金プレミアム-マイクロデーターによる年齢-賃金プロファイルの分析-」で明らかになっています。
Q8.「麻布出る杭プログラム」を実施することに客観的評価はどうでしたか?
2022年度に行われた文部科学省による中間評価では、このプログラムへの参加学生が大きく成長している点が高く評価され、最高評価となる「S」を獲得しました。
Q9.麻布大学は、最近「神奈川学園中学・高等学校」や「横浜高等学校」との連携協定を締結したり、神奈川歯科大学との連携協力に関する包括協定を締結していますが、どのような目的で連携協定を実施されているのでしょうか?
麻布大学は、神奈川学園中学・高等学校とともに、それぞれの教育内容の充実、学生及び生徒の資質向上を図り、社会に貢献する人材の育成に寄与することを目的として協定を締結しました。連携事業の具体的な内容は以下の通りです。
- (1)麻布大学は、神奈川学園中学・高等学校が実施する特別講義に講師として派遣するほか、神奈川学園中学・高等学校が掲げる教育目標に応える生徒を育成するために必要な指導方法及び教材の開発等の取組に資する活動等に協力する。
- (2)神奈川学園中学・高等学校は、麻布大学が実施する高校段階における大学教育の早期履修体験活動に神奈川学園中学・高等学校の生徒を派遣するほか、神奈川学園中学・高等学校の生徒の能力をさらに伸長できるような高度なカリキュラムの構築に資する活動等に協力することです。
また、神奈川歯科大学とは、相互の教育・研究の一層の進展を図り、それによって有為な人材の育成、学術の発展、および専門技術による社会貢献に寄与することを目的とします。
Q10.麻布大学いのちの博物館の主な特徴は何ですか?
いのちの博物館は、獣医系、生命・環境系の大学として長い歴史の中で蓄積してきた多種多様な先人の遺産ともいえる展示品を揃えています。また、レプリカではない本物の大型動物の全身骨格標本を中心として、歴史的に数々の貴重な資料を一般に公開しています(写真2)。
Q11.レプリカではない本物の全身骨格標本が多くあるとのことですが、人気の差がありますか?
アナコンダ、キリン、ナマケモノ、ペンギンなどが人気です。
Q12.いのちの博物館の入口に研究成果を紹介した展示がありますが、その中のプラスティネーション(血管樹脂鋳型法)について教えてください。
動物の血管は、体のすみずみにまで行き渡っています。末端ではミクロの細さになりますが、二宮博義先生(麻布大学名誉教授)は、血管をプラスチックで写しとる高度技術により、プラスティネーションを製作することに成功し、本学に残されました。
Q13.卒業後の主な直近5か年の就職先を教えてください。また具体的な企業名等もあげてください。
最も多い就職先は伴侶動物臨床(64%)で、産業動物臨床(12%)、公務員(11%)、医療福祉・医薬品(4%)、進学(4%)、動物園・水族館(1%)と続きます。伴侶動物臨床は2次診療施設を含む全国各地の動物病院です。
産業動物臨床は、軽種馬育成調教センター、地方競馬全国協会、日本中央競馬会(JRA)、NOSAI北海道、NOSAI岩手、NOSAI宮城、NOSAI山形、NOSAI千葉、NOSAIぐんま、NOSAIひょうご、NOSAO岡山、NOSAO広島、NOSAI宮崎などです。
公務員は農林水産省、環境省、全国各地の県庁/市町村など基礎自治体です。
医療福祉・医薬品は、アステラス製薬、オリンパス、共立製薬、新日本科学、大正製薬、日本全薬工業などです。
進学は、麻布大学大学院、東京大学大学院、京都大学大学院、北海道大学大学院、大阪大学大学院、東京科学大学大学院、東京農工大学大学院などがあります。
動物園・水族館では、オリックス水族館、横浜八景島などがあります。
その他として、医薬品医療機器総合機構、農業・食品産業技術総合研究機構などがあります。
Q14.提携関係にある海外獣医大学の国と名前を教えてください。
学術交流協定校・機関は、以下のとおりです。
- アメリカ:北イリノイ大学、フロリダ大学、ペンシルベニア大学
- スイス:ベルン大学
- 台湾:国立台湾大学、国立中興大学
- モンゴル:モンゴル科学アカデミー、フスタイ国立公園、モンゴル自然史博物館
- タイ:チェンマイ大学
- 中国:吉林農業大学、北京農学院
- 韓国:全北大学校
- パラグアイ:アスンシオン大学
Q15.JAVS会員の主な活動内容や悩み、今後実施したいことなどを教えてください。
運動会、BBQなど学年を超えて親睦を深められるようなイベントの他に、先輩を呼んでの定期試験対策やスケッチ講習会など、みんなで学び合えるようなイベントも実施しています。新歓BBQでは他大学のJAVSメンバーも来てくれて、獣医学生の結束力がより高まりました(写真3A)。
悩みとしては学年が上がるに従ってJAVS会員の人数が減っていくことです。
今後は「麻布支部らしさ」を出せるように、相模原市獣医師会の方と連携して地域に密着した活動も行っていきたいです。
Q16.受験生へのアドバイスをお願いします。
獣医学科を目指す受験生の皆さんの多くは、街で目にする犬や猫といった愛玩動物の獣医師になることを漠然と夢見ているのではないでしょうか?
しかし、獣医師の仕事は幅広く、国家公務員や地方公務員、全国農業共済組合連合会(NOSAI全国連)、製薬会社など獣医師として活躍できるフィールドは数多くあります。
今、皆さんが夢見ている「獣医師」への理解を深めることは、受験勉強へのモチベーションの向上に繋がることはもちろんのこと、獣医師としての将来を考えるよい機会となるはずです。また、このことは推薦入試の面接対策に非常に有用です。
皆さんが希望の進路に進めることを心から願っています。応援しています!
Q17.獣医師国家試験への対応を教えてください。
獣医師国家資格の取得をめざす総合的なカリキュラムを設定しています。6年次の「総合獣医学」では学習の総まとめを行い、基礎力・応用力アップを図ります。また、学生団体の「獣医学科5・6年生(国試対策委員会)」が自主活動により合格をバックアップしています。その委員会では独自の参考書カラーアトラスを制作しており、他獣医系大学にも配布しています。
Q18.動物医療発明研究会の取材記事でどのような分野の獣医師の話を読みたいですか。あれば教えてください。
ペットフードメーカー、動物薬を取り扱う製薬会社、本のメディカルイラストレーター(株式会社LAIMAN)。
Q19.麻布大学を含めた周辺のご当地自慢をご紹介ください。
生協では小諸市と共同で開発した鹿肉のジャーキーを販売しています(写真3B)。
大学は都心から少し離れており、タヌキを見かけることもありますが、最寄りのJR横浜線矢部駅からターミナル駅の町田駅までは3駅と都市部へのアクセスはよいです。
1年生の一般教養では、矢部駅から2駅隣(同じく学生が利用している淵野辺駅からは1駅隣)の古淵駅の近くにある公園や、大学から徒歩圏内の相模原市立博物館などで実習を行うこともあります。周辺には、ズーラシアや町田リス園など獣医学生に人気の施設もあります。
相模原は学ぶ環境と遊ぶ環境のバランスが良い所だと思います。
編集後記
今回、私立の麻布大学を取材しました。麻布大学のアピールポイントを11個記載いたしましたが、大きく4つに分類されるのではないかと思いました。
第1番目は、最先端の設備を備えた施設の充実(動物医療センターやLAVEC)や、日本の獣医系大学で最多の40研究室を獣医学部に擁し、3年次(希望者は1年次)から、研究室での活動が可能であること。
第2番目として、海外の専門資格を持つ教員や特許を取得している教員が在籍していること。
第3番目として、新しい事に対して積極的に取り組む姿勢です。例えばVRを採用した教育は、国内でまだ例の少ない先進的なもので、「臨場感溢れるVR実習」で外科手術を学べることでしょう。それ以外に「麻布出る杭プログラム」を実施したり、神奈川県内における他大学や高校等との連携を強化する為の包括協定を締結しています。
第4番目は、1890年9月から獣医学教育を実践し伝統と歴史のある大学であり、温故知新の精神で、学園創立125周年を記念して麻布大学いのちの博物館を開館して、一般の方にも公開していることです。
後半の記事では、麻布大学の獣医学科教員3人のお話を紹介します。臨場感溢れるVR実習を開発された小動物外科学研究室 高木 哲教授、産業動物の現場(NOSAI)で臨床を経験された後に麻布大学に勤務され、学生に実践的な経験に基づく教育をされている産業動物内科学研究室 風間 啓助教、米国獣医病理学臨床病理専門医の資格を取得された臨床診断学研究室 根尾櫻子講師の3先生です。
また、2人の国内外で活躍されている先輩から後輩に向けてのメッセージもあるのでご期待ください。
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シリーズ「JAVSコラボレーション-獣医師による獣医大学訪問」