HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
第1回目と第2回目は、北ブロックの酪農学園大学を、第3回目は東ブロックの日本獣医生命科学大学を紹介しました。日本獣医生命科学大学は私立の獣医大学では、1番歴史が古く1881年に開学し、今年で143年の伝統があります。
第4回目は、「全国唯一の国立獣医畜産系単科大学」で、北ブロックの帯広畜産大学(写真1A、1B、1C)のJAVS代表 鎌田佳叶乃さん、川口永遠さん、岩﨑賢信さんにお話をうかがいました(写真2)。
(取材日:2024年3月27日)
Q1.帯広畜産大学のアピールポイントは何ですか?
帯広畜産大学は周りに緑が多く、畜産農家さんとの距離が近い大学です。牛や馬を扱う研究室もたくさんあり、臨床から基礎系まで実際に手を動かしながらじっくり学ぶことができることが大きな強みです。大学内には産業動物臨床棟という、大動物専用の診療施設があります。ここでは大きな動物を直接輸送して手術台にのせて手術をすることが可能です。馬や牛のためのCT・MRIもあり、様々な検査を行うことが可能です。この動物医療センターの設備は日本の大学附属病院で唯一です。大学内にも牛や馬が多くおり、サークルや搾乳農家さんのバイト等を通して、日常生活でも大動物に触れる機会が多くあります。
大動物に関する教育が充実している本学ですが、特に馬の繁殖、受精卵移植を研究している南保泰雄先生の研究室が有名です。馬術部や馬部、RDAちくだいなど馬のサークルが充実しているのもひとつの特色です。
帯広畜産大学には、一般教養科目がほとんどを占める1年生時に、全学農畜産実習という授業があります。この授業では、ジャガイモの栽培や、豚の飼育を通した食育、搾乳実習などを各実習班で協力して行い、農畜産技術を実際に体験して学ぶことで畜産業の大切さや生き物の大切さを学びます。
また、本学は北海道大学との共同獣医学課程であり、北海道大学と専門科目や実習を一部共同で行うことが特徴です。この教育過程では、EAEVE(欧州獣医学教育機関協会)認証を2019年12月に取得しており、国際的な教育を受けることができます。やりたい研究があれば北海道大学の研究室に進学することも可能です。
Q2.現在、大学が取り組まれている主な研究テーマは何ですか?
本学では他の獣医大学と比べ臨床系の研究室、基礎系の研究室共に産業動物に関する研究が伴侶動物に関する研究よりも比較的盛んに行われています。
特に、臨床系の研究室では馬の研究が他大学よりも盛んに行われているイメージがあります。南保先生の研究室では、馬の繁殖を研究しており、特に馬の体外受精に関する研究が行われています。
また、原虫病研究センターが有名です。原虫病研究センターは国内の獣医・畜産系大学の中で唯一の原虫病研究拠点で、国際獣疫事務局(WOAH)にセンター全体が認証された施設でもあります。医学や獣医学において重要な病原原虫および、これを媒介する節足動物について、独自のゲノムデータベースを構築するとともに、原虫病研究センター自身でもこれらを用いて原虫病の基礎・応用研究を行っています。
Q3.卒業後の主な直近5か年の就職先を教えてください。また、具体的な企業名等もあげてください?
最も多い就職先は大動物臨床(35%)、次いで動物病院(28%)、公務員(22%)、民間企業(12%)です。大動物臨床の中では、全国の農業共済組合(NOSAI)に就職する卒業生が最も多く、主な職務として加盟している農家さんの診療を行っています。NOSAIは全国にあるため、北海道に残る人の他に、地元に戻って地元のNOSAIに就職する人もいます。
また、馬関連の研究室やサークルが他大学に比べて充実していることや、日高に独立の馬の臨床医が多いなど周辺に就職先が多い影響から、JRAやノーザンファーム、ホースクリニックなど馬関連の企業への就職は他大学よりも割合が多く感じます。
今回の集計では大動物の動物病院は大動物臨床の方に含まれているため、動物病院の割合に含まれてるのは小動物臨床のみです。その中でも、イオンペット株式会社などの企業が運営しているものから、個人開業の病院への就職など様々です。
公務員では、各都道府県、市町村の地方公務員のほか、国家公務員もいます。国家公務員は農林水産省への就職が中心となっており、他には環境省、厚生労働省、文部科学省に就職する方もいます。
また、公務員への就職の中では地方公務員が最も割合が多く、(地域としては)畜産が盛んな都道府県への就職が多いですが、北海道や東京都を始め、広範囲に渡ります。民間企業は製薬会社への就職が多いですが、食料・飼料メーカー、検査機関へ就職する学生もいます。これらの割合は他の大学とあまり変わらない、もしくは低く感じます。その他には、動物病院や企業だけでなく、京都大学霊長類研究所、地方独立行政法人北海道立相互研究機構といった教育・研究機関の研究員や研修医として就職することもあるそうです。
Q4.提携関係にある海外獣医大学の国と名前を教えてください。
現在、「大学間学術交流協定」を結んでいるのは、次の通りです。
- カナダ アルバータ大学
- パラグアイ アスンシオン大学
- フィリピン フィリピン大学ロスバニオス校
- 韓国 忠南大学校獣医科大学
- 韓国 ソウル大学校農業生命科学大学及び獣医学大学
- 韓国 建国大学校
- 韓国 江原大学校
- ドイツ ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(通称ミュンヘン大学)
- ドイツ ハノーバー獣医科大学
- スリランカ ベラデニア大学農学部
- 中国 新疆農業大学
- 中国 中国黒龍江省農業科学院
- モンゴル モンゴル国立農業大学(別名モンゴル生命科学大学)
- ベトナム フエ大学
- スイス ベットスイス連合獣医学部(別名ベルン大学獣医学部)
- タイ マヒドン大学
- タイ チェンマイ大学
- タイ チュラロンコン大学
- インドネシア ボゴール農業大学
- 台湾 国立屏東科技大学
- アメリカ コーネル大学
- アメリカ ウィスコンシン大学
- ポーランド ヴァルミア・マズーリィ大学
- ポーランド ポーランド技術アカデミー
- ポーランド ヴロツワフ環境生命科学大学
- ベルギー リエージュ大学
このうち韓国の忠南大学校獣医科大学、ソウル大学校農業生命科学大学及び獣医学大学、建国大学校、江原大学校、ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、台湾の国立屏東科技大学、スリランカのベラデニア大学農学部、中国の新疆農業大学、タイのマヒドン大学、モンゴルのモンゴル国立農業大学は学生交流協定校に指定された派遣先大学となっており、台湾の国立屏東科技大学とタイのマヒドン大学以外の8大学は単位互換が認められています。
このほかに、原虫病研究センターが「部局間学術交流協定」を以下の部局と結んでいます。
- フィリピン フィリピン大学マニラ校公衆衛生学部
- フィリピン フィリピンカラバオセンター
- フィリピン カピテ州立大学
- フィリピン ダバオデルスル州立大学
- 中国 中国農業科学院上海海獣医学研究所
- 中国 新疆農業大学獣医学部
- ブルキナファソ ワガドゥーグー大学
- 南アフリカ ノースウェスト大学
- モンゴル モンゴル獣医学研究所
- スリランカ スリランカ動物生産健康局
- メキシコ ケレタロ自治大学自然科学学部
- ベトナム マラリア・寄生虫病外動物研究所
- キルギス キルギス共和国獣医科学研究所
- 韓国 SDバイオセンサー社
Q5.JAVS会員の主な活動内容や悩み、今後実施したいことなどを教えてください。
JAVS畜大支部は、1年生から6年生までの獣医学生が深く関わることができる、非公式のサークルです。ご飯会やドライブなどの対面での交流会を行い学生どうしのつながりをつくる機会を設けています。1〜6年生の全学年と繋がることができるのは、本学ではこのサークルだけです。他大学と協力し全体での対面およびオンラインイベントも行っており、他大学の学生とのつながりも作ることができます。
また、賛助会員をはじめとする様々な就活情報の発信も行っており、学生に様々な情報発信を行っています。特に、本学ではこの立地もあり、あまり対面での小動物臨床のセミナーが行われないため、JAVSのセミナーに参加することで小動物臨床の就活情報を得る学生も多くいます。
現在、本支部では、会員として在籍しているにもかかわらずイベントにほとんど参加しない学生が増えていることが問題となっています。特に対面イベントの参加者は、本支部のみでのイベント、全体でのイベントともに非常に少ない状態です。そのため、今後、対面イベントの良さや楽しさを他の会員にSNSを通して定期的に発信し、イベントの参加者を増やしたいと考えています。
Q6. JAVS の先輩として、受験生へのワンポイントアドバイスをお願いします。
私は、後期試験でこの大学に入学したので、その体験を話します。後期試験では、帯広畜産大学入学者選抜要項で定められている共通テスト5教科7科目の受験が必須となっており、傾斜配点された計600点満点と2次試験の小論文200点、面接200点の全合計1000点満点で評価されます。前期、後期ともに共通テストの配点が高いのでしっかり共通テストで得点をとることが必要です。特に、前期の2次試験は問題数が少なく、一つ一つの問題の配点が高いので簡単な問題をしっかりとる必要があります。
まず、夏休みまでに前期試験のためにも高校の範囲が全て終わった状態にしておき、夏休みには高校の夏期講習を利用するなどして、総復習、共通テストの対策に取り組んでいました。また、それとともに、赤本にも少しずつ取り組んでいました。その上で、また復習をし、もう一度演習をするということを繰り返したり、共通テスト、2次試験まで、高校の特編授業も利用したりして、苦手を洗い出しながら勉強に取り組んでいました。
小論文に関しては、英語文が出題されるため、赤本に出てきた単語は確実に覚えられるようにし、グラフも活用して読み取る練習、また、高校の先生にも頼み、英語の解釈や作文の添削もしていただいていました。小論文のテーマは獣医学の分野に限らず、生物系であるため、広く調べて知識を持っておくと良いです。
面接は、高校の先生にチェックしてもらう他、予想される質問や獣医学の分野に関することをインターネットなどで調べ、まとめて知識を入れるという方法を取っていました。これは、小論文にも役立ったと感じています。その他にも、畜産系の事柄やアニマルウェルフェアへの配慮など本学のホームページに記載されている事項を調べることも有効です。また、オープンキャンパスに参加するのも役立ちます。WEBオープンキャンパスの動画で聞いた内容が面接に使えたり、実際に現地に足を運ぶことでその大学だけでなく住む予定となる街の雰囲気も感じることができたり、取り組んでいる研究やその大学でできることも知ることができます。
最後に、大学でやりたいことを見つけるということが大事だと伝えたいです。学習だけでなくバイトやサークルでもなんでもよいので、そういった目標を具体的に持っていたほうが頑張れると思います。私自身、前期試験は別大学を受けていたのですが、後期試験に向けて切り替えた後のほうが目標が一つに定まってより一層頑張ることができました。こういったはっきりとした目標を持っていたほうがモチベーションを保ちやすいと思います。受験生の皆さんには、やりたいことに真っ直ぐ向かっていってほしいです。
Q7.獣医師国家試験への対応を教えて下さい。
有志で国試対策委員を編成し、国試対策授業の連絡、他大学との連携、他大学から発売されている参考書などの販売の取りまとめをしています。この委員は全ての大学に存在します。他大学が作成したまとめは、国試対策委員が斡旋していて、「日獣まとめ」や「麻布カラーアトラス」など希望者のみが購入しています。ほぼ半数の学生が購入していたそうです。
国試対策授業は、各教科の先生方に依頼して開講していただいているもので、例年10科目程度行われています。授業時間はそれぞれ2〜6時間ほどです。
そのほかには、大学内に国試部屋という部屋がいくつか用意されており、所属研究室が近い学生数名が集まって勉強していました。加えて、集まって問題を出し合い、解説しあうことなども行っていました。ずっと1人で勉強すると精神的につらいので、互いの無事を確認するためにもよかったそうです。
Q8.動物医療発明研究会の取材記事で、どの分野の獣医師の話を読みたいですか。あれば教えてください。
畜大生で興味を持っている人が特に多いのは、ウマ・ウシなど北海道の大動物に携わるJRAやNOSAI北海道などと考えます。また、公務員の仕事は情報が少ないように感じるので、農林水産省や家畜保健衛生所、環境省、各市町村のような行政の仕事の取材記事を読みたいです。また、狭き門であるが故に話を聞く機会が少ない大学院のこと、例えば製薬会社などで、働きながら博士課程を修めることができると聞きましたが実態(割合やメリット、大学教員への選択肢)はどうなのか、などが知りたいのではないかと思います。
<その他知りたいこと>
- JRAの日高育成牧場の獣医師の1日、1年の動き
- 馬関係の北海道の就職先の一覧が欲しい
- 病理組織検査 ノースラボ(NORTH LAB)札幌の獣医師のキャリア形成、働き方
- NOSAI北海道の各地方での違い
- 獣医学生の就活や国試までの動きやイベントのフローチャート
- 動物園獣医師のキャリア形成
- 海獣動物診療の獣医師のなり方、様々なキャリア形成
- 農林水産省の機関が具体的にどのような政策にどのように関わるか
- 家畜保健衛生所で働く獣医師について
- 開業医になるためには何をすればよい
- 海外で活躍する日本人(国際援助や海外での臨床)
- 大学教授のキャリア形成
Q9.大学の施設や名物の紹介、ご当地自慢をお願いします。
畜大の2つの自慢を紹介します。
まず1つ目は、キャンパス内に、お酒の工場があることです。大学構内の酒蔵「碧雲蔵」で実施している令和5年度の「学生の酒造りプロジェクト」による日本酒、特別純米「萠宥(ほうゆう)」が完成しました。このお酒は大学の生協で販売されています(写真3A)。
本プロジェクトは、本学の学生が碧雲蔵で実際の醸造を現場で学び、自身の研究の考察への活用をはじめ、高い職業意識の育成を図ることを目的としたインターンシップとして実施しているもので、今年度で3回目となります。
2つ目は、大学構内にある「ファームデザインズ」というおしゃれなカフェです(写真3B、3C)。
帯広市のある十勝地方は漫画「銀の匙」や、連続テレビ小説「なつぞら」の舞台にもなっており、北海道らしい雄大な風景が広がっています。十勝19市町村だけで10,830km2と、岐阜県(10,620km2)とほぼ同じ面積を持つのですが、ジャガイモ、ニンジン、コムギ、枝豆、てんさい…日本一の収穫量を誇る農作物だけでもここでは紹介しきれない程、桁違いに規模が大きいです。
食糧自給率は1100%を超え、パンや豚丼、乳製品やスイーツなど、美味しいものが数多あることや、日本一の規模である「家畜改良センター十勝牧場」の白樺並木、日本一広い面積約1,700ha(東京ドーム358個分⁉)の牧場「ナイタイ高原牧場」、世界で唯一の「ばんえい競馬」(写真3D)など、一度見たら忘れられない景色、十勝でしか味わえない魅力があることは自慢です!
編集後記
獣医大学への第4回目のインタビューは、全国唯一の国立獣医畜産系単科大学の帯広畜産大学でした。広大なキャンパスの中で、牛や馬を扱う研究室もたくさんあり、臨床から基礎系まで実際に手を動かしながらじっくり学ぶことができることが大きな強みだと思いました。
例えば、大学内には産業動物臨床棟という、大動物専用の診療施設があります。馬や牛のためのCT・MRIもあり、様々な検査を行うことが可能です。この動物医療センターの設備は日本の大学附属病院で唯一であることが特徴です。
また、原虫病研究センターは国内の獣医・畜産系大学の中で唯一の原虫病研究拠点です。2009年には共同利用・共同研究拠点「原虫病制圧に向けた国際的共同研究拠点」として文部科学省に認定されました。その前年の2008年には、原虫病分野では世界初の国際獣疫事務局(WOAH)コラボレーションセンターに認定されました。また、キャンパス内に、お酒の工場があることも特筆すべき点でした。
カリキュラムにおいては北海道大学との共同獣医学課程であり、北海道大学と専門科目や実習を一部共同で行うことが特徴です。北海道大学の得意分野である小動物臨床と帯広畜産大学の得意分野である大動物臨床(馬や牛などの産業動物)が相互補完されていることも素晴らしいことだと思います。
この教育過程では、EAEVE(欧州獣医学教育機関協会)認証を2019年12月に取得しており、国際的な教育を受けることができます。EAEVE認証を取得しているのは、全国獣医大学の中で帯広畜産大学・北海道大学の共同獣医学部と鹿児島大学・山口大学の共同獣医学部の4校のみです。
次回も帯広畜産大学のことが続きますが、得意分野である馬の研究とEAEVE認証取得について、先輩OB・OGからのメッセージを紹介します。
動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。
シリーズ「JAVSコラボレーション-獣医師による獣医大学訪問」
- (1) 酪農学園大学-前編
- (2) 酪農学園大学-後編
- (3) 日本獣医生命科学大学