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■【寄稿】JAVSコラボレーション-獣医師による獣医大学訪問(8) 北里大学-後編

2024-11-28 18:07 | 前の記事 | 次の記事

写真1:高野友美教授が最近執筆・監修されたFIPに関する学術関連雑誌(画像提供:高野友美教授)

写真2A:朴 永泰先生(JAVS第1期の会長)/2B:戸崎和成先生(日本獣医エキゾチック動物学会 副会長)/2C:戸崎和成先生が考案された戸崎開頬器(チンチラ・モルモット・デグー用、シンメディコ社より販売)

写真3:北里大学獣医学部の研究室棟の階段にある動物達の写真。4階と5階の間の鹿とウサギ(足跡もあります)、6階と7階の間の猿と鳥類

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

JVM NEWSとしてJAVS(日本獣医学生協会)とのコラボレーションにより獣医大学を紹介しています。

第8回目は、第7回目に続き北里大学へのインタビューを行いました。

今回は、北里大学の獣医学科研究室の中で「予防衛生系」である獣医伝染病学研究室 高野友美教授と獣医公衆衛生学研究室 柏本孝茂教授のお2人にお話をうかがいました。

(取材日:2024年6月19日)

1番目は、獣医伝染病学研究室の高野友美教授です。

Q1.獣医伝染病学研究室では どのような研究をされていますか?

世界中の猫の長寿化の為にワクチン開発をしています。具体的には主に、猫のウイルス感染症の研究を行っています。現在は、猫のコロナウイルス感染症である猫伝染性腹膜炎が研究の中心です。猫伝染性腹膜炎(以下FIP)はネコ科動物の病気であり、この病気を発症した猫は高い確率で死亡します。

私たちはFIPの発症メカニズムを解明するとともに、効果的な治療薬・ワクチンの開発を試みています。FIPの研究で得られた情報はヒトのコロナウイルス感染症の研究にも貢献しており、現在は猫とヒトのコロナウイルス感染症の撲滅につながることを念頭に本研究を推進しています。

FIP以外にも、猫と犬のウイルス性胃腸炎(ノロウイルス、パルボウイルスなど)の研究も行っています。

Q2.日本ではFIPワクチンは未発売ですが、FIPワクチンの開発を難しくしている要因は何ですか?

FIPのメカニズムの研究の中で、抗体があるとウイルスが増殖(抗体依存性感染増強作用:ADE)してしまうという特徴があり、そのことがワクチン開発を難しくしている点ではないかと思います。

Q3.ワクチン開発が難しい現状で、FIP治療の現況を教えてください。

治療薬がある程度出始めている状況です。FIPでは、2010年代後半に二つの抗ウイルス薬(GC-376とGS-441524)が同定されており、高い治療効果が得られています。この事実は、後に発生した新型コロナウイルス感染症の治療薬の開発に大きな影響を与えました。

これらの抗ウイルス薬のうち、GS-441524は特に高い治療効果が得られており、現在では国内外の動物病院において広く使用されています。しかし、GS-441524は動物薬ではないので、今後は獣医師や猫の飼い主が安心して投与できる治療薬を開発する必要があるでしょう。

また、このようなFIPの治療薬が実用化されると、今後、検査が重要になってきます。FIPの確定診断法は病原部位からのウイルス抗原の検出です。しかし、生前検査におけるウイルス抗原の検出は感度が低いことから、現在では遺伝子検査でFIPと仮診断する方法が多用されています。しかし、遺伝子検査は動物病院で実施することが困難です。そのため検査会社に検体を送付するわけですが、そうすると検査の結果で出るまでに病状がどんどん進行してしまうというジレンマがあります。

私たちの研究室では動物病院でも実施可能な遺伝子検査の開発を進めています。この開発研究は、獣医伝染病学研究室の所属学生(5、6年生)とともに行っています。

それ以外の研究として猫コロナウイルスの基礎的研究やFIPの治療薬の研究を行っています。FIPの治療に使用されている人体薬は外国製で高価です。他の研究機関とともに国内製のFIP治療薬の開発を進めています。これらの研究も研究室の所属学生とともに行っています。昔から獣医伝染病学研究室の学生は研究に対して熱心に取り組む人が多く、おかげでFIPおよび猫コロナウイルスの研究に関しては、日本において最も多く学術論文を発表した研究室となっています。

Q4.FIPでは抗体があると逆にウイルスが増殖してしまうという課題があるとのことですが、それをクリアできるワクチンをどのように開発するのですか?

抗体を誘導しない免疫ができないか、つまり液性免疫(抗体)でなく細胞性免疫が誘導できるワクチンを開発している状況です。以前、液性免疫より細胞性免疫を優位に誘導するエピトープを解析したことがあります。

人のコロナワクチンがいろいろ開発されており、その中で細胞性免疫を優位に誘導するワクチンも見つかって来ている状況なので、今後期待はできると思います。

Q5.米国ではZoetis社の経鼻タイプの「Vanguard Feline FIP Intranasal(FIP vaccine)」ワクチンが発売されていますが、この商品をどう評価していますか?

防御効果は弱いと思います。実際に猫に接種しても感染防御や、発症予防に難しい状況だと思います。

経鼻タイプワクチンなので局所に免疫を獲得するのが目的です。Zoetis社のFIPワクチンの血清型がⅡ型ですが、野外は血清型Ⅰ型が多いです。Ⅰ型とⅡ型は中和抗体の反応性が全く違っていて、経鼻タイプなのでⅡ型のIgA抗体(注:IgA抗体はADEを誘発しない)ができたとしても、野外はⅠ型が多いので感染を防御することができません。

ですので、米国においてもFIPワクチンはコアワクチンにもノンコアワクチンにも分類されない位置づけになっています。

Q6.FIPに関する知識を深めて行く上で読むべきものを教えてください。

最近、私が執筆・監修した学術関連雑誌を紹介します(写真1)。

  • 「CLINIC NOTE」(No.213 2023 Apr 4月号) ISFM2022ガイドラインから学ぶ 新常識!FIPの診断と治療
  • 「CLINIC NOTE」(No.226 2024 May 5月号) 新ガイドラインと専門家の臨床的解釈から学ぶ もっと知りたい! FIPの検査と治療
  • 「CAP」(2024年6月号) 特集 ここまで来た! 猫伝染性腹膜炎治療の最前線
  • 「VIP」(vol.25. 2022年1月~vol.30. 2023年4月) 連載(6回) FIPとその病態、そしてワクチン
  • 「動物用ワクチン-バイオ医薬品研究会ニュースレター」(No.27.2023年6月) 猫伝染性腹膜炎の治療薬

などです。

また、2023年度は日本獣医師会年次大会、動物臨床医学会年次大会、北海道小動物獣医師会、高知県獣医師会などで臨床の先生方を対象にFIPの講演を行いました。

2番目は、獣医公衆衛生学研究室 柏本孝茂教授です。

Q7.獣医公衆衛生学研究室では どのような研究をされていますか?

我々の生活環境には、人や動物の健康を害する様々な要因があります。本研究室では、食物や傷口を介して人に感染し、感染者の皮膚や筋肉などの軟部組織を壊死させ死に至らしめる、いわゆる人喰いバクテリアの病原戦略の解明と抗生物質に頼らない新規治療法の開発に力を入れています。

Q8.人喰いバクテリアについて研究をされているとのことですが、具体的にどんな細菌を研究されているのですか?

最も研究が進んでいるのは、好塩性のグラム陰性桿菌であるビブリオ・バルニフィカスです。本菌は、魚介類の生食や傷口を介してヒトに感染し、極めて短時間内に軟部組織を壊死させながら増殖して、感染者の命を奪います。

体内での増殖があまりに早く抗生物質による治療効果を上回るため、有効な治療法はありません。現在でも、致死率は50%以上と非常に高く危険です。

Q9.ビブリオ・バルニフィカスの流行地域はどこですか?

海水中およびそこに生息する魚介類表面で増殖します。ビブリオ・バルニフィカスは、海水よりも若干塩分濃度が低い2~3%で旺盛に増殖します。そのため、水温が上昇しやすい夏季に、遠浅で流入河川の多い湾の沿岸地域に流行がみられます。米国では、カキの生食による感染事例が多く、カキの産地であるメキシコ湾沿岸地域で特に問題となっています。

我が国では、遠浅で流入河川の多い有明海沿岸地域で夏季に多く発生が認められています。近年、地球温暖化により海水温が上昇しているため、世界的に発生地域が北上しているので注意が必要です。これまで発生の認められていなかった、北欧でも発生がみられます。

Q10.人喰いバクテリアは、なぜ感染者体内での素早い増殖が可能なのでしょうか?

我々はそのメカニズムを解明し、その結果を応用して抗生物質に頼らない、あるいは併用可能な人喰いバクテリア感染症の新規治療法の開発を目指しています。

これまでに最新の遺伝子組み換え技術を応用して、病原遺伝子の網羅的検出系を開発し、ビブリオ・バルニフィカスが生体内で増殖するために必要とする遺伝子を100程度、同定しました。驚くべきことに、それらのうち40もの遺伝子が白血球の攻撃から逃れるためのものだったのです。

Q11.人喰いバクテリアが白血球の攻撃から逃れるために必要な40もの病原遺伝子を突き止めたということで何がわかったのですか?

まず、ビブリオ・バルニフィカスにとって、感染者体内で白血球の攻撃から逃れることがいかに重要なことであるのかがわかりました。

これは、新たな治療戦略を考える上で非常に重要なことです。加えて、これら40の遺伝子が、いつ、どのような場所(皮下、筋肉、血液内)で、どのような白血球の攻撃から逃れているのかを知ることで、ビブリオ・バルニフィカスの感染者体内における生存戦略が見えてきたのです。これらの成果を治療につなげる研究に力を入れて行きたいと考えています。

Q12.ビブリオ・バルニフィカス感染症を再現する為にどんな動物モデルを使用しているのでしょうか?

人の症状を再現する為に、マウスの感染モデル系を確立しました。このモデルでは、人がビブリオ・バルニフィカスに感染した際に認められる症状や病態の再現に成功しています。

ビブリオ・バルニフィカスが生体内で増殖するために必要とする遺伝子の網羅的検出系も、このモデルマウスを使用して開発しました。

Q13.今後の研究の進め方を教えてください。ビブリオ・バルニフィカス以外はいかがでしょうか。

ビブリオ・バルニフィカスに関しては、白血球抵抗性機構の解明を継続します。

現在、複数の大学病院と共同研究を実施しており、ビブリオ・バルニフィカスと同様、人に感染後、短時間内に皮膚や筋肉を壊死させる軟部組織壊死感染症 (NSTI)の起因菌を分与いただいて、研究対象の菌種を拡げています。

今後は、ビブリオ・バルニフィカスで培った研究方法をエロモナス属菌や緑膿菌などに応用し、臨床現場で問題となっているNSTIの抗生物質に依存しない、あるいは併用可能な新規治療法の開発に繋げていきたいと考えています。

2人の卒業生からのメッセージを紹介いたします。

1人目は東京を中心に5病院を展開している総院長の朴 永泰先生(写真2A)です。朴先生は、JAVS第1期の会長でもあります。

【現在の仕事や活動について】

現在僕は東京を中心に5病院を展開している株式会社ベックジャパンという企業動物病院の総院長をしています。

主な活動として力を入れているのは、内視鏡外科です。犬や猫に対して腹腔鏡手術、胸腔鏡手術と呼ばれる侵襲性の少ない手術を専門的に行っています。また学会発表、論文執筆などにも力を入れており全国の動物病院と連携して、日本の臨床力を世界に向けて形にしたいと思ってます。

【学生時代について、JAVS設立の理由】

懐かしいお話です。北里大学1年生から野生動物医学会学生部会という組織にお邪魔していました。

野生動物好きな他大学の学生と仲良くなれる組織で、とても将来に向けた刺激を受けました。

と同時に、なぜ、獣医学生に特化したこのような学生部会がないのだろうと、疑問に思いました。

私たちはどの獣医大学を卒業したのかを問われるのではなく、どんな獣医師なのかを問われる社会に身を投じるはずなのに、なぜ、進学した大学内の人間関係や情報のみで自分の人生を決めるのか、もしも他大学との交流があれば、自分の人生はさらに開けた可能性に満ち溢れたものになるかもしれない。

人の繋がりこそが人生の価値である。

これが、JAVSを立ち上げるきっかけになった気持ちです。

【北里大学で学んで役立ったこと】

僕は北里大学が大好き過ぎて、北里コンかもしれません。(笑)

北里大学は1年目を相模原で、2年目~6年目を青森県十和田市で過ごします。

かけがえのない人生の青春時代(20代前半)をほとんどの学生が、親元離れた十和田市で集団生活をしています。

友とともに過ごし、自然に囲まれ、自由な時間を捻出できる北里大学は自分と向き合い、人生のベクトルをまとめあげるのに十分な環境なのです。

獣医学の学びはもちろんのこと、たった5年間しかない十和田での学生時代を研究や、部活や、恋愛や、様々な時間に一生懸命になることで卒業後の自分の心を豊かにしてくれます。

とにかく、何かに夢中になって一生懸命になってみることです。

【先生の今後の目標】

僕の獣医師としての目標は、日本の臨床獣医学を世界に発信する文化を当たり前にすることです。

獣医学の教科書は日本から発信されているわけではありません。

日本は世界から見た時に獣医学では影響力の低い国かもしれません。

しかし、日本においてレベルの高い臨床は日常なされていて、飼い主様の動物を想う心は世界トップレベルだと思っています。

私たちが日々経験している命の記録を、世界に還元する文化を根付かせたい。そう思っています。

【後輩へのメッセージ】

獣医師という国家試験免許よりも、獣医学生という資格の方がよっぽど貴重な資格です。

しかも獣医師免許と違って、6年というタイムリミットが存在する資格です。責任を伴わず、好奇心のままにどこにでも顔を出して、飛び込むことができる。

獣医学生のことを快く思わない人はいないでしょう。

そうやって何にでも挑戦してみてください。刺激をもらいに行ってください。

自分の胸に手をあてて、ドキドキする瞬間がどこにあったのか、夢中になれる瞬間がどこにあったのか、魂の声に耳を傾けて、本当になりたい獣医師像に向かった意思決定をしてください。

変な人材派遣会社などが、現在君たちの将来を食い物にしています。

せっかく苦労して手に入れた獣医学生という資格です。獣医師としての未来は自分の手で手に入れてください。

後輩たちの輝かしい未来を願っています。

2人目は日本獣医エキゾチック動物学会副会長もしています栃木県宇都宮市において動物病院を開業されている平成元年(1989年)卒業のアンドレ動物病院戸崎和成先生(写真2B)です。

【現在の状況】

私はぼんやりとした小中高を過ごし、獣医学科進学も高校3年生になってから決めました。そして幸運にも北里大学に入学できました。幸運とは入試結果もそうですが、父母には申し訳ないですが、裕福でない家庭での経済的な状況も含まれています。

当院では社会貢献として開業当初から20数年間、中学生の学外体験実習を受け入れており、女子は目標をもっている生徒が多いですが、男子のほとんどはぼんやりしており、当時の自分を見ているようです。彼らには院内実習により、「科学的思考のスイッチを入れる」ことを目標にしています。

体験者のなかで獣医学科や愛玩動物看護学科に進学した生徒もいて、自分たちの仕事が生徒たちの目標とされる喜びと誇りを感じています。

当院看護師スタッフの一人はその実習生です。

【学生時代の思い出】

十和田では、クラブ活動(弓道部)で同期と苦楽を共にし、先輩・後輩との人間関係、毎日の反省ミーティングを体験し、それらが今のコミュニケーション能力や病院内でのスタッフミーティング(病院運営)に繋がっていると感じています。夜は友人たちと酒を飲み語らい、ファミコンを飽きもせずにやっていました。したがって、授業はよく寝ていました。

現在、愛玩動物看護師専門学校で17年間非常勤講師を務めていますが、パワポ授業なので暗くて多くの生徒が寝ています。学生時代に寝ていた自分への因果応報とし、眠気を越える授業を目指し、人に教えることの難しさを学んでいます。

大学院では(当時は4+2年制)外科や内科などの臨床即戦力でない研究室でしたが、寄生虫の複雑な生態系(面白さ)に感銘を受け、寄生虫学研究室に所属しました。指導教授の小山田 隆先生から「修士論文作成は論文の書き方を学ぶこと」という御言葉をいただき、「獣医師は科学者で科学的思考が大切である」ことを学びました。

【卒業後とエキゾチックアニマルとの出会い】

卒業後は、院長とマンツーマンの病院で3年間、多数の獣医師がいる病院にて3年間勤務しました。多数の獣医師がいる環境では勉強不足を痛感しました。それにより、座右の銘は「臥薪嘗胆」となりました。開業してからはエキゾチック動物のブームで、個々に真面目に取り組んだこともあり、症例数が増え、ウサギで有名な斉藤久美子先生にエキゾチックペット研究会での症例発表をすすめていただき、エキゾチックペット研究会(現在は日本獣医エキゾチック動物学会)で毎年発表するようになりました。

以降、研究会で出会った先生たちと楽しく交流を重ね切磋琢磨してきました。そこには学生時代には知り合えなかった北里の先輩・後輩もいるのですが、話してみると何かでは繋がります。知人の知人とか、知人の先輩後輩とか、研究室が同じとか、クラブが同じとか、近くに住んでいたとか、獣医学科あるあるです。

多くはないですが、光栄にも長年にわたり講演や獣医師向け雑誌の投稿依頼をいただき、自分らしい、聞き手、読み手に面白いと感じてもらえるようにとその作成に多くの時間を費やしましたが、それらは自分の糧・勉強・やりがい・達成感(宿題・ストレス)にもなりました。

【エキゾチック動物診療の現状】

犬と猫の飼育頭数は2008年をピークに下がりつつあり、特に犬の飼育頭数は年々減少しています。また、2021年から施行された「改正動物愛護管理法」による制限により、犬猫の販売頭数の減少と販売価格の上昇は容易に想像されます。それに反して全国の動物病院数は増加傾向にあります。すなわち、今後各地域において各動物病院で減少していくパイの取り合いをしなくてはならない状況です。

ただ、こんなことを希望と情熱でいっぱいの若い獣医師や学生に言ってもしょうがないし、いつの時代も社会的・経済的な不安はあるし、どこにいってもライバルはいます。

若い獣医師に限ったことではありませんが、獣医学を広く学ぶことは大切ですし、加えて得意分野を追求することは大きな武器となり、やりがいにもつながります。

犬猫の減少とそれに反して犬猫以外の動物すなわちエキゾチック動物の飼育頭数の増加により、エキゾチック動物診療に興味をもつ獣医師が増え、エキゾチック動物診療の情報を発信する日本獣医エキゾチック動物学会Japanese society of Exotic Animal Medicineの会員数も年々増加してきました。ただし、エキゾチック動物と言っても来院する動物は、ウサギ、フェレット、ハムスター、ラット、チンチラ、モルモット、デグー、ハリネズミ、モモンガ、リスなどの哺乳類、セキセイインコやオカメインコなどのインコやオウム類、文鳥、にわとり、アヒルなどの鳥類、陸ガメ、水性ガメ、トカゲ類、蛇類などの爬虫類、その他の動物など多岐多種にわたります。

また、短期的なブームによって一気に来院数が増加し、対応しなくてはならないこともあります。ひと昔前はフェレット、プレーリードッグ、近年ではハリネズミやフクロモモンガなどの来院が急増しましたが、現在はすでに下火になってきていると体感しています。

エキゾチック動物診療は個々の動物種における獣医学的情報だけでなく、飼育や栄養などの情報も必要となることが多いです。犬猫でもそうですが、真偽に関わらずネット上に情報があふれている現在、いい加減な根拠のない診療はその動物が不幸になり、その飼い主だけでなく、多くの顧客の信頼を失うことになります。

犬猫の診療もそうですが、エキゾチック動物診療においても、書籍やセミナーで多くの知識や情報を習得することも大切ですが、本に載っていない現場での知識や経験が最も重要です。これらはそれぞれの病院によって異なることも多く、院長などの指導医の経験・知識や病院内環境に大きく左右されるし、自身の努力や能力にも左右され、獣医師としての能力は短時間では習得できないと筆者は思います。

多種多岐にわたるエキゾチック動物診療は犬猫の獣医療の知識に加え、各動物種の特異的な特徴、いろいろな工夫や臨機応変で柔軟な対応も必要で大変ですが、そこが面白いところでもあります。

【開発した商品(戸崎開頬器)についての発売までの経緯】

ウサギ・チンチラ・モルモット・デグーは切歯だけでなく臼歯も一生伸び続け、各歯列は咬耗によって良い塩梅に維持されます。

歯槽部に異常が生じると伸展方向も異常になり、その伸展・先鋭化した歯先で舌や頬を傷つけ食欲不振となります。治療は伸びた歯を削ることになります。麻酔下で行う場合、臼歯にアプローチするために、顎を上下に開く器具と頬を左右に開く器具が必要となります。

ウサギの頬を開く開頬器はすでに販売されていましたが、チンチラ・モルモット・デグーには大きくて使えませんでした。筆者は当初人用の鼻鏡のブレードを薄く削って応用していましたが、臼歯切削を繊細に行うことは困難でした。

それでいろいろなオリジナル器具を作製している医療機器会社のシンメディコさんに相談したところ作製していただくことになりました。

作製するとなったら、具体的なイメージや寸法などが必要になります。

基本的な機能的デザインはウサギ用のものと同じですが、小さくて狭くて深いチンチラ・モルモット・デグーの口に合うように具体的なデザインを模索しました。動物種や口内状況の変化に対応できるようにブレードの幅を大中小の3種にするアイデアを出して、ちょうどいいブレードの形・幅・長さ、開頬する力(スプリングの力)、手で持って使用するために持つ部分の長さなどを筆者が模索・決定して製品作製をしていただきました(写真2C)。詳細は「SAMI NEWS No.67」を参照ください。

本製品を使用するようになって、難しかった最奥の臼歯の切削など、思うようにできなくてストレスに感じていた処置にしっかり対応できるようになりました。本製品をまったくの発明品とは言いませんが、「必要は発明の母」を実感しました。

自分にとって素晴らしい製品を製作していただいたこと、また、多くの先生にも使っていただき大変うれしく思っています。

私が死んだら本製品を棺桶に入れてもらうように言っています。また、「鼻や口にはめないように!」とも言っています。(笑)

【学生へのメッセージ】

後輩へのメッセージは自分自身へのものでもありますが、「人生は時間で時間は人生」です。獣医師として最小限の努力をして、あとの時間を趣味などに費やすのもありだし、獣医師としての勉学や経験に多くの時間を費やすのもありです。特に女性は出産・子育てなどでより多くの時間を費やされますが、子供も人生の「やりがい・楽しみ」です。「よい仕事をすること」を目標にしている私は多くの時間を仕事や発表・投稿などに費やしてきました。「人生のエネルギーを何に費やすか?」が重要で、そこで「やりがい」を作れたら最高でしょう。人生に失敗はありませんが、先のことまでよく考えて、後から後悔しない選択をするようにしましょう。

編集後記

今回2つの研究室をでのインタビューを行いましたが、いずれも臨床現場において重要な課題について果敢に取り組まれ、かつ新たな発想で原因を究明するところはとても素晴らしいと思いました。

例えばFIPの研究で得られた情報は、人や他の動物のコロナウイルス感染症に役立てることが可能です。

このことは、「学者の知識はどのように革新的で高尚なものであっても、それが一般社会に還元されなければ何の役にも立たない」という学祖 北里柴三郎先生の思いを継ぎ、社会に還元できる成果を求め今後も研究を続けてもらいたいと思いました。

また、研究室を訪問する際に階段を利用しましたが、各階段に動物の写真が組みこまれているのがとても獣医学部らしく印象的でした(写真3)。

北里柴三郎先生の思いは脈々と受け継がれ、それを体現した卒業生お2人を紹介しました。

お1人は獣医学生に特化した学生部会が無いことに疑問を感じてJAVSを設立し、東京を中心に5病院を展開している総院長の朴 永泰先生です。

もうお1人は、日本獣医エキゾチック動物学会の副会長である戸崎和成先生です。ウサギ・チンチラ・モルモット・デグーは切歯だけでなく臼歯も一生伸び続け、治療は伸びた歯を削ることになります。麻酔下で行う場合、臼歯にアプローチするために、顎を上下に開く器具と頬を左右に開く器具が必要となります。ウサギの頬を開く開頬器はすでに販売されていましたが、チンチラ・モルモット・デグーには大きくて使えなかった点について着目して、自ら試行錯誤をされてついに「戸崎開頬器」を開発し商品化まで漕ぎつかれた点は尊敬に値することだと思いました。

今後、北里大学の学生さんの活動に期待しています。

動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。

シリーズ「JAVSコラボレーション-獣医師による獣医大学訪問」