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■JAVSコラボレーション-獣医師による獣医大学訪問(6) 鳥取大学

2024-08-23 23:55 | 前の記事 | 次の記事

写真1A:鳥取大学キャンパスマップ。右下は鳥取大学イメージキャラクター「とりりん」/1B:正門を入ると時計台のある棟が見える/1C:左から藪さこローアン真さん、筆者、淵本理夏さん、石井健士郎さん。農学部2号館 鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの前で

表:卒業生の進路

写真2A:鳥取空港(鳥取砂丘コナン空港)/2B:米子空港(米子鬼太郎空港)/2C:JR境線の妖怪列車のひとつ 「ねずみ男列車」/2D:三朝温泉 旅館大橋/2E:VMAT制服姿の船津敏弘先生

記事提供:動物医療発明研究会

インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆

動物医療発明研究会 広報部長/獣医師

JVM NEWSとしてJAVS(日本獣医学生協会)とのコラボレーションにより獣医大学を紹介しています。

第1回目と第2回目は、北ブロックの酪農学園大学を訪問し、第3回目は東ブロックの日本獣医生命科学大学、第4回目と第5回目は、「全国唯一の国立獣医畜産系単科大学」で、北ブロックの帯広畜産大学でした。

第6回目は、西ブロックの鳥取大学(写真1A、1B)のJAVS代表 藪さこローアン真さん、淵本理夏さん、石井健士郎さんにお話をうかがいました(写真1C)。

(取材日:2024年5月15日)

Q1.鳥取大学のアピールポイントは何ですか?

まず初めに鳥取大学は、鳥インフルエンザの研究が盛んで、国内で唯一の鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターがあり、そこで日々研究が行われています。

具体的な研究や設立の目的などについては、鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの山口剛士センター長のお話を後で紹介します。

2番目に獣医師国家試験の合格率が高いことです。2024年2月に実施された第75回獣医師国家試験の合格率は、全国平均(17大学)新卒が84.4%、合計(新卒、既卒、その他)が72.7%に対して、鳥取大学は合格率97.1%と17大学で1番の合格率でした。第74回の鳥取大学の合格率は92.1%、第73回の合格率は96.9%、第72回の合格率は100%、第71回の合格率は93.9%といずれも90%を超える合格率の高さです。

合格率の高さの理由をQ10で紹介しています。

3番目に縦横(先輩・後輩)の繋がりが強いことです。具体的には、砂丘コン(砂丘新人歓迎会)を毎年開催し、新入生が「お披露目会」として自己紹介や一芸(特技)を披露する場があります。この砂丘コンでは、新入生、先輩、教授なども参加され、出身地や同じ苗字や趣味が同じなどにより、先輩や後輩の繋がりを深める良い機会となっています。

4番目に、教育熱心で学生思いの教員が多く、先生を囲んでの飲み会を開催して交流を深めたりしています。また、出身県ごとに飲み会もあります。

5番目に施設面ですが、農学部の研究室のある二号館がリフォームされ、また女子の学生が多くなってきたこともあり農学部棟のトイレが綺麗です。

6番目にキャンパス内に「三浦古墳」と「大熊段古墳」と2つの古墳があることです。

Q2.鳥取大学で取り組まれている研究テーマは何ですか?

実験動物の研究室では歯周病モデルマウスを用いた口腔内細菌の胚発生への影響、不妊との関係を研究しています。歯周病に感染しているマウスは通常のマウスと比べ、子供の数が少なくなったり、出産した子供の大きさが通常と比較して小さくなることがわかっています。胎仔発生に対するラクトフェリンの効果を検証しています。ラクトフェリンの効果である病原性細菌の感染抑制効果を研究しています。細菌成分であるLPSは胎仔の発生に悪影響を及ぼしますが、ラクトフェリンにより阻止されることがありさまざまな実験を行っています。

それ以外に遺伝子改変により作出した疾患モデルマウスの解析を通じて、動物や人の病気の原因分子や抵抗性分子を探求しています。特に、獣医学領域でも増加傾向にある「腫瘍」の悪性化を制御する分子や、医学領域でも未解決な点の多い「神経変性疾患」や「不妊症」への関与が疑われる外因性あるいは内因性の分子に着目して研究を進めています。疾患モデルで得られた知見を動物や人の健康増進・疾病制御に繋げていきたいと考えています。

野生動物を診ることもあります。大崎智弘准教授は、さまざまな動物の治療経験があります。具体的には、奈良の鹿やラクダなどの診療をされました。また鳥取県岩美町で見つかった野生のアザラシの赤ちゃんが農学部付属動物医療センターに保護されたこともあります(海と日本PROJECT in とっとり「鳥取の海岸にアザラシの赤ちゃん!」)。

Q3.鳥取大学の共同獣医学科の学生さんの人数と男女比を教えて下さい。

人数は、1学年33~40人ぐらいです。2/3が女子です。

Q4.鳥取大学は、岐阜大学と共同獣医学科となっていますが、具体的にどんな連携をされていますか?

実習例を紹介します。鳥取大学の学生は、2年生の時に岐阜大学に行き、滋賀県のJRA栗東トレーニングセンターで馬の、岐阜中央家畜保健所で大動物の実習を経験します。逆に岐阜大学の学生は、大山の牧場で実習を経験します。

Q5.就職先は主にどんなところでしょうか?

直近5か年の就職先は表の通りです。小動物臨床と地方自治体に進むことが多いです。

公務員や組合、団体・民間企業の具体例をあげます。

  • 公務員:農林水産省、鳥取県庁、兵庫県庁、徳島県庁、愛媛県庁、長野県庁
  • 組合:鳥取県農業共済組合、兵庫県農業共済組合、千葉県農業共済組合、熊本県農業共済組合
  • 団体・民間企業:日本中央競馬会、公益財国法人動物臨床医学研究所、独立行政法人家畜改良センター、伊藤忠飼料 等

Q6.提携関係にある海外獣医大学を教えて下さい。

英国のケンブリッジ大学です。

獣医療先進国かつ動物愛護の最先端国である英国において、現地の臨床ローテーション実習に参加します。最先端の診断・治療に関する講義および実習をはじめ、飼い主へのインフォームド・コンセントなど、充実した獣医臨床教育に触れることができます。

ケンブリッジ大学に短期留学された石井健士郎さんに回答いただきました。

Q7.ケンブリッジ大学への短期留学で日本と異なると思われたことは何かありますか?

学生の意欲の違いを感じました。症例報告時のディスカッションが凄く、レジテントに対しても臆することなく質疑応答や自分の意見をしっかり述べている所が凄いと思いました。1症例についての質疑応答時間は10分~15分で、多方面でのアプローチで検討した結果最後に結論を出すという感じでした。

また、レジデントは学生に対してどのように指導するかが、レジデントの評価に繋がるとのことでした。

Q8.鳥取大学内でのJAVS活動について教えて下さい。

JAVS支部が最も盛り上がりを見せるイベントは「砂丘鬼ごっこ」です。

鳥取大のJAVS会員が企画・運営を行うイベントで、西日本の獣医大学を中心に全国から獣医学生が集まり、持てる体力を全て出し切り楽しみます。ちょうど今年度の開催も企画を進めている最中です。

今後は水族館や動物園のバックヤードツアー等、学術的な内容を盛り込んだ支部旅行を企画できればなと考えています。

特に近くリニューアルをする須磨水族館には、支部員で裏側まで見られるよう交渉した上で訪れ、学べる機会を作ることができればと考えています。

Q9.鳥取大学の受験生に向けて先輩からのアドバイスをお願いします。

何より共通テストでほとんど勝負が決まるような配点となっているので、基本的には共通テスト対策を徹底する必要があると思います。

最も重要なのは英国数の3教科です。理科、社会は後から集中的に詰め込めば得点を伸ばせますが、英国数に関しては1年以上かけてじっくりと点数を上げていく必要があります。それぞれの参考書を完璧に覚えるレベルに仕上げましょう。

共通テストの判定でDやEだった人が各学年に数人、二次試験で逆転合格をしています。

試験当日まで全力で学習に取り組み、向上心を失わないことが大切です。

今日の自分は昨日よりも成長できただろうか?と毎日自身に問いかけてみましょう。

Q10.鳥取大学における獣医師国家試験対策を教えて下さい。

まず初めに、獣医師国家試験対策の補講の実施があります。また、みんなで合格しようという空気感があります。落ちこぼれを作らないようにするため、常に孤立した人が出ないように声を掛け合うなどの対応を図っています。

さらに教授のテストの難易度が高く、進級する過程で真面目に勉強する癖がつきます。田舎なので誘惑が少なく勉強に専念できる環境にあります。

獣医師国家試験が近くなると、農学部の中に国家試験のための専用勉強部屋の設置が始まり、学生が鍵を持ち管理を自主的に行っています。

獣医師国家試験が2月に終了すると、翌年国家試験を受ける学生は、過去問を一人9問~10問ランダムに振り分け、受験生全員が正解とその回答理由の作成を期限(今年は8月まで)を決めて実施します。

以上が国試の合格率の高さにつながっていると思います。

Q11.動物医療発明研究会の取材記事で、どの分野の獣医師の話を読みたいですか。あれば教えてください。

全国の水族館、JRA等…。

最も取材していただきたいと思うのは、鳥取大学の近くにあるカニっこ館です。無料で入ることの小規模な水族館ですが、さかなクンさんが不定期で訪れて研究活動をしていると聞いたことがあります。

ラッコやシャチの飼育をしている施設は、多くの獣医学生が興味がありますので、まだ取材していない施設がありましたら、是非お願いします。須磨水族館のシャチの移動やそれに伴う心身のストレス対策なども知りたいところです。

公務員獣医師については、農林水産省は情報がある程度出回っていますが、厚生労働省の獣医師の先生の仕事については知る機会が少ないため取材をしていただきたいです。

また、ペットとの生活に先進的な技術を盛り込む取り組みを行なっている企業への取材を希望します。例えば下記の企業です。

  • RABO(ラボ):AIとデータ管理により飼い猫を見守るサービス「Catlog」を手がける企業
  • carelogy(ケアロジー):猫の表情からAIにより痛みを判断するアプリを手がける企業
  • アニコムホールディングス:AIを用いてペットの動画から感情を判定するシステムとその感情判定方法について、日本での特許を取得。アニコムどうぶつ病院グループでは、イヌ血小板由来成長因子療法を開始した。

Q12.ご当地自慢をお願いします。

  • 鳥取の食べ物はおいしいです。カニやのどぐろなど海産物はもちろん、野菜やフルーツ(二十世紀梨)もおいしいものが沢山あります。日本で唯一 梨のテーマミュージアムである「エースパックなしっこ館」が倉吉市にあります。
  • 鳥取県には2つの空港がありひとつは、大学に近い鳥取空港(鳥取砂丘コナン空港)、もうひとつは、米子空港(米子鬼太郎空港)です。どちらもアニメ・漫画にちなんだユニークな名前の空港です(写真2A、2B)。また米子駅から境港駅を結ぶJR境線では、妖怪列車が走っています(写真2C)。
  • 自然が豊かです。名所には、鳥取砂丘や世界屈指の放射能泉で心と身体を癒してくれる三朝温泉(写真2D)などがあります。海も山もすぐ近くにあり、釣りや海水浴、スキー場や温泉地などにすぐに行くことができます。

鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの山口剛士 センター長にお話をうかがいました。

Q13.鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの設立の背景を教えて下さい。

設立時、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)などの人獣共通感染症の出現が大きな社会問題になっていました。本センターは、鳥インフルエンザ等の鳥類から人に感染する疾病対策の確立を目指し、鳥類に由来する人獣共通感染症を専門とする国内唯一の研究機関として農学部に2005年4月に設置されました。

Q14.鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの目的を教えて下さい。

前述の通り本センターは、鳥類から人に感染する疾病対策の確立を主な目的とし、鳥インフルエンザや抗菌薬耐性菌に関する研究を行っています。鳥インフルエンザについては、病原体の生態解明や分子遺伝学的性状を解析することで、国内での発生予測や有効な予防方法の確立、さらには国内危機管理体制確立への貢献を目指しています。この他にも家禽のサルモネラ症や抗菌薬耐性菌、鳥パラミクソウイルス感染症について国際的な規模で取り組んでいます。

Q15.研究の特色について教えて下さい。

この研究センターは鳥由来人獣共通感染症を専門とする国内唯一の存在で、病態学研究部門、疾病管理学研究部門、分子疫学研究部門で構成されています。野鳥を対象にした野外調査や家畜伝染病が発生した家禽農場などを対象に、疾病制御のための実践的研究を推進しています。主な研究内容は以下の通りです。

  • 野鳥や小型野生哺乳類を介した家禽へのウイルス伝播に関する研究
  • 分離ウイルスの分子疫学的解析による地球規模のウイルス動態解明
  • 関係省庁や鳥取県などとの連携による鳥インフルエンザウイルスの早期発見とその性状解析

Q16.センターの人員と構成メンバ―を教えて下さい。

センター長を含めて7名です。獣医公衆衛生学、獣医衛生学、獣医感染症学、獣医微生物学を専門とする教員で構成されています。

人への感染リスクのある高病原性鳥インフルエンザウイルスを直接取り扱う研究は、主に獣医師の資格を持つ教員や大学院生が行っています。

Q17.鳥インフルエンザウイルスの研究を行っている大学・施設は鳥取大学以外にどこがありますか?

大学では、北海道大学、宮崎大学、鹿児島大学、京都産業大学など、研究機関では、農研機構 動物衛生研究部門、国立環境研究所などです。

Q18. 高病原性鳥インフルエンザウイルスの定義および診断基準を教えて下さい。

高病原性鳥インフルエンザとは、鶏に対し特に高い致死性を示す高病原性鳥インフルエンザウイルスによる家禽の疾病です。

感染に対しては、ほぼ全ての鳥種が感受性と考えられており、感染した鳥との接触や排泄物等を介して感染します。一般に高い死亡率を示しますが、無症状から神経症状、呼吸器症状、消化器症状等、鳥種やウイルス株により症状は多様です。

Q19.日本では高病原性鳥インフルエンザへの対応は摘発淘汰ですが、諸外国の対応状況や高病原性鳥インフルエンザの最近の知見について教えて下さい。

一部の国では予防のためにワクチンも使用されています。高病原性鳥インフルエンザが常在化傾向にあるヨーロッパでは、フランスがカモに対しワクチン接種を始めました。しかし、この感染症は現在のワクチンでは完全に予防することができません。このためワクチンはあくまでも緊急避難的措置であり、日本でも実施されている摘発淘汰が感染拡大防止の国際標準となっています。

最近の知見として、米国で酪農従事者が高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染していたことが「The New England Journal of Medicine」(2024年5月3日)に発表されました。その人からはH5N1亜型のウイルスが検出され、高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した牛からの感染が疑われています。

Q20.今後やってみたい研究は何ですか?

1つ目は、各所と連携をとりながら進めている発生農場等への鳥インフルエンザウイルス伝播経路の解明をさらに推進し本病の発生を未然に防ぐことで、さらに異分野や海外の研究者との連携を深め、未知の病原体を含め多様な鳥由来感染症の野鳥等による地球規模の伝播経路を明らかにし、将来の予測や予防に貢献したいと考えています。2つ目は、緊急用に迅速かつ効果的に利用できる鳥インフルエンザ用ワクチンの開発。3つ目は、ウイルス側だけでなく感染に対する感受性に関与する宿主動物側の因子についても研究を進めて行ければと考えています。

先輩からのメッセージを紹介いたします。

動物環境科学研究所 所長の船津敏弘先生です(写真2E)。船津先生は、環境省から2023年動物愛護管理功労者として表彰されました。

【現在の仕事や活動ついてのご紹介】

V51(昭和55年・1980年卒)の船津です。大学卒業後すぐに動物病院に就職し、35年ほど臨床現場で仕事をした後に病院を後進に譲り、自宅で動物環境科学研究所を立ち上げました。現在はペット防災や過剰繁殖問題などの講演活動を行っていますが、研究所の本来の目的は、「動物のこころ」を解き明かすことです。そのために人間の心理学を手がかりにして少しずつ研究を進めています。

獣医師会では、災害時における動物の救急部隊であるVMATを福岡県に日本で初めて創設し、現在は全国にVMATを作るための普及活動をしています。

また日本で唯一の常設型災害時動物シェルターである九州災害時動物救援センター(大分県九重町)の管理獣医師として、熊本地震や九州北部豪雨災害における被災動物の健康管理を行いました。この施設は災害がない平静時においては、防災啓発イベントや九州VMATの合宿訓練などに活用されています。

【学生時代について】

すべての思い出は砂丘での新歓コンパから始まりました。今でもすり鉢の一番下から頂上まで、何度も駆け上がる自分の姿が目に浮かんできます。もともと自然が好きでしたから、コンパの後にワイワイ言いながら賀露港まで歩いて行き、日本海の荒波を見ながら朝まで語り明かしたことは良い思い出です。

同級生とは今でも同窓会や出張で会うことがあり、数十年という時を超えて同じ話題で何時間でも語り合うことができるのは、本当にありがたいものです。

学生時代にはあれだけ嫌だった勉強も、多忙な臨床の現場に出てみると学生の頃のようにじっくりと時間をかけてもう一度やり直したいと今でも思います。

昔は農家の納屋を改造した下宿が多く、1年の時からお世話になった下宿屋のおばさんには、卒業後も子どもを連れて何度も挨拶に行きました。何十年経っても昔と変わらぬ笑顔で迎えてくれる、まるで鳥取の母のような存在でした。

【鳥取大学で学んで役立ったこと】

何と言っても大学の大先輩であり、後の日本獣医師会会長であった山根義久先生にお会いできたことです。初めて病院におじゃました時に、書斎の壁一面に並んだ専門書の数には圧倒されました。臨床家というのはこんなに勉強しなければいけないのだと驚く以上に、こんなに本が読めるのだという憧れを抱いたことを思い出します。

その後インターン時代から、現在の動物臨床医学会に参加し、それぞれの分野で突き進んでいる先輩たちと直接お話ができることが楽しくてしかたありませんでした。

臨床に入ったばかりで、ともすれば目の前の症例だけに一喜一憂していた私に、その経過をきちんとカルテに書き、一例報告としてまとめ上げ、さらに症例を蓄積して分析し学会に提案していく「研究」というありかたを教えていただきました。そしてその姿勢は今でも研究所という形で続いています。

学生の皆様には人との出会いを大切にしていただきたいと思います。

【今後の目標】

災害大国日本においては逆に災害に慣れてしまって、残念ながら適切な防災対策ができているとは言えません。なかでも犬や猫などのペット、牛や豚などの産業動物、さらに動物園や水族館の貴重動物たちに対する防災対策は皆無です。動物の専門家である獣医師の一人として、これからは獣医界だけでなく社会全般に対して動物防災の必要性を啓発するつもりです。

もちろん最終的には脳科学を基盤にした「動物のこころ」の研究を通して、動物と人間とがお互いを尊重した良い関係性を見つけたいと思っています。そしてこの研究を通して獣医科学生の就学援助基金を構築することが私の最終的な目標です。

【後輩へのメッセージ】

荒れ狂う日本海、広大な砂丘、ドッドッと湧き出る温泉、何者かが隠れていそうな深い森、ゴツゴツと登るのを拒む岩山、そしてさざなみ静かな湖山池など、鳥取は五感を刺激し癒やしてくれる自然にあふれています。自然を身近に感じられる環境こそが、獣医師として生きていくための根っこになることは、多くの卒業生を見ればわかっていただけるでしょう。

ヒトを含めた生き物は、自ら経験したことだけで世界を見ています。青いリンゴしか見たことがないヒトには、赤いリンゴは見えないのです。もちろん人間には言葉や書物がありますから、赤いリンゴの存在を教えてもらうことはできるでしょう。しかし自分で見て、自分で味わった青いリンゴは確信できても、他人から聞いた赤いリンゴは想像できるだけです。確信と想像では次の行動力、発想力が全く異なってきます。学生の皆様には他人からもらった情報を元にして頭の中だけで想像するのではなく、必ず自分の目で見て、自分の手で触って、自分の足で歩くという体験をして欲しいと思います。

これから、社会という楽しい旅に出発するための、最後の優しい港である鳥取大学での生活を存分にお楽しみ下さい。

編集後記

今回で6回目となる「獣医大学訪問」は、西ブロックの大学である鳥取大学です。

鳥取大学は、テレビでも話題になる鳥インフルエンザの研究が盛んで、国内で唯一の鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターでは、日々研究が行われています。今後、ますます重要な疾病となっていくであろう鳥インフルエンザの研究や日本の対応は、世界が注目するものと思われます。

今回の取材の中で印象深かったのは、「砂丘コン」を通じての先輩・後輩との繋がり、教員と学生との繋がりがとても強く感じられたことです。このような繋がりが毎年高い国家試験の合格率を維持している理由のひとつではないかと思いました。

後輩へのメッセージを寄せていただいた動物環境科学研究所 所長の船津敏弘先生は、長年の功績に対して環境省から2023年動物愛護管理功労者として表彰されました。その理由は、以下のようなことに尽力されたことです。

  • 飼い主のいない猫の不妊去勢手術を行う「あすなろ猫事業」を創設
  • 財団法人福岡県動物愛護センター等から譲渡される犬・猫の不妊去勢手術および健康チェック
  • 公的機関(保健所等)に持ち込まれた子犬・子猫を産んだ親犬・親猫の不妊手術
  • あすなろ猫(いわゆる地域猫)に対する不妊去勢手術の実施

また、東日本大震災では発生4か月後に福島警戒区域動物救援獣医師チームの一員として取り残された動物救援プロジェクトに参加し、福島第一原発から20km圏内の犬・猫を探し、確保等に貢献されました。

福岡獣医師会災害時動物救護対策では、災害時獣医療派遣チーム(VMAT)の育成活動に取り組み、現在では約60名を超える隊員を認定、2016年の熊本地震では福岡VMATを被災地に派遣し支援活動を実施されました。

地震の多い我が国においては、今後、ますますVMATの活動は重要となってくるでしょう。是非、VMATの取材を行いたいと思っています。

動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。

シリーズ「JAVSコラボレーション-獣医師による獣医大学訪問」