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インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
今回より、JAVS(日本獣医学生協会)とのコラボレーションで、全国17獣医大学のなかで取材に応じていただけた大学を訪問し、インタビューを行っていきます。
JAVS(Japan Association of Veterinary Students)は、2006年に立ち上げられた全国の獣医系大学の獣医学生のための学生団体です。JAVSでの繋がりが各個人の可能性を広げ、未来を切り開いていく力になるという考えのもと「獣医学生である今」を「獣医師である未来」のためにというモットーを掲げて、獣医学生間の交流を基盤とした様々な活動を行っています。
現在会員数は1000人以上にものぼり、各大学間の垣根を超えた繋がり、社会で活躍されている先輩方や支援団体との交流、そして海外の獣医学生とも積極的に交流しています。
本シリーズの記事は、各大学のJAVSに所属する学生へのインタビュー、話題の研究室の先生方へのインタビュー、各分野で活躍する卒業生から学生へのメッセージの3つの構成で行っていく予定です。
最初の大学は、私立の酪農学園大学で(写真1A、1B)、前編と後編の2回に分けて掲載します。
前編ではJAVS代表平石陽花さん(2年生)、小見山慧之さん(1年生)、古谷勇真さん(5年生)の3人(写真1C、1D)へのインタビューをまとめました。
Q1.酪農学園大学のアピールポイントは何ですか?
1番目の魅力として、他の獣医大学と比較して、酪農という言葉を大学の名に冠しているとおり、キャンパスは農作地や放牧地が多くを占め、緑あふれる風景が広がっています。牛の飼育頭数も多く、酪農学園大学では、他の獣医大学同様キャンパス内に附属動物医療センターが設置されています。大学附属動物医療センターの総診療件数は、年間31,000件以上と非常に多いです。犬や猫などの伴侶動物は約10,000件で、酪農王国・北海道らしく牛や馬などの大動物約20,000件にものぼるのが特徴です。
キャンパスの大きさは本学キャンパスだけでも135ha(東京ドーム28個分以上)で、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーとUSJを合わせた広さに値する大きさです。
2番目に、他の獣医大学にはない麻酔科は、酪農学園大学附属動物医療センター2004年4月に日本で初めて開設され、現在、アジアNo.1の動物の麻酔診療科です。
There are no safe anesthetic agents; there are no safe anesthetic procedures; there are only safe anesthetists.
そして体重40gから1tまでをモットーに動物の麻酔疼痛管理の教育・研究に取り組んでいます。
動物に優しく、獣医師に易しく、環境にも優しい動物の麻酔疼痛管理法の確立を目指しています。
3番目として、犬・猫などの伴侶動物の診療と牛・馬などの大動物診療のバランスがとれていることです。伴侶動物であるペットの診療については、電車に乗れば15分で大都市札幌があり、大動物については江別などNOSAIの診療所が近くにあることです。
Q2.現在、酪農学園大学で取り組まれている主な研究テーマは何ですか?
主な研究として全部で3つあげられます。
1番目は獣医生化学ユニットで実施している「ファージ療法」です。
抗菌薬の効かない薬剤耐性菌がヒト・動物医療でとても大きな問題になっています。
近年、感染症といえばCOVID19による世界的なパンデミックが問題となっていますが、薬剤耐性菌はそれ以前から長年懸念されている重要な問題です。
このまま何も対処しなければ、2050年にはがんによる死亡者数を超える年間約1千万人が薬剤耐性菌によって命を落とすという試算があります。
また、本年報告された論文によると、薬剤耐性菌の感染が関連した死亡者数は世界で495万人であり、そのうち、薬剤耐性が直接の死の原因であるものが127万人にものぼると報告されました。
このような感染症に立ち向かうため、私たちは細菌にのみ感染し殺菌するウイルス「バクテリオファージ」を用いたファージセラピーの研究・開発を推進しています。
ファージが救ういのちのために、次世代型感染症治療法の確立と普及に全力で挑んでいます。
未来の医療をファージで切り拓いていきたいと考えています。
ファージセラピーの利点は、生体への影響が少ないことです。
具体的には、細菌特異的なので生体への副作用が少ないこと、宿主特異性が高く菌交代症がおきにくいこと、投与回数を削減可能であることです。
また、薬剤耐性菌にも有効であることです。具体的には、溶菌機序の違いから薬剤耐性菌を溶菌可能です。薬物治療の機会が増加することや、新たな耐性菌に対するファージの分離が容易であることです。
2022年4月11日に放送されたラジオNIKKEI「感染症TODAY」にて、「細菌感染症に対するファージセラピーの実用化に向けて」と題し、岩野教授が出演されています。
昨年、ファージセラピーの実用化に向けて、日本で初めてとなる臨床試験【犬の難治性外耳炎(原因菌は緑膿菌)に対するファージセラピー】を行い、見事成功に導きました。薬で治らなかった犬の耳の細菌感染症が、ファージセラピーで完治しました(写真2A、2B)。
その結果を受けて、今年度はクラウドファンディングを行い、臨床試験の支援を受けながら、さらに症例数を重ねていく予定です。
2番目は、伴侶動物外科学ユニットにある「腫瘍科」です。
近年、寿命延長に伴って伴侶動物の腫瘍が増加しています。動物の悪性腫瘍(がん)はヒト以上に経過が悪いため、正確にがんの種類と症例の状態を把握し、迅速かつ効果的にがんを生体から排除することが目標です
腫瘍科では、外科手術、放射線、薬物、さらには免疫を駆使して、がんを排除する治療を実施しています。年間診療件数は1,000件、年間手術件数は220件、年間画像検査が200件なので、腫瘍科に所属すると多種多様な手術を体験できます。また、最新鋭の腹腔鏡手術装置が導入されています。
しかし、腫瘍が全身に広がっていて完治が難しい場合にはQOL(生活の質)を維持する緩和治療も必要です。また、腫瘍以外の軟部組織の外科疾患の診断と治療も行っています。
3番目は、食品衛生学ユニットです。薬剤耐性菌問題対策の難しさとその重要性を感じていることから「人を含む動物が薬剤耐性菌といかにつきあっていくか」を大きなテーマとして研究を行っています。
具体的には、薬剤耐性菌の発現機序や伝播経路を明らかにするため、主に分子生物学的手法を用いて研究を進めています。また、薬剤耐性菌の出現につながるバイオフィルム中におけるpersisterの研究も開始しました。それ以外に携帯型シークエンサー(写真2C)により乳房炎原因菌をその日のうちに判定できるようになりました。
今後、実験室で得られた知見をいかにして臨床現場や社会とつなげるかということを考えています。
Q3.卒業後の就職先は主にどんなところでしょうか?
2022年度の実績例
- 北海道農業共済組合
- 株式会社微生物化学研究所
- 酪農学園大学附属動物医療センター
- 株式会社ノースブル
- 日本中央競馬会
- 学校法人酪農学園
2021年度の実績例
- 藤本製菓株式会社
- イオンペット株式会社
- 北海道農業共済組合
- 十勝統括センター
- オホーツク統括センター
- 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
- 独立行政法人家畜改良センター
- 北海道衛生研究所
- 東千葉動物医療センター
- 福岡中央動物病院
- 全国農業協同組合連合会
- 農林水産省
- 北海道
2020年度の実績例
- イオンペット株式会社
- 北海道ひがし農業共済組合
- 北海道中央農業共済組合
- 株式会社日本動物高度医療センター
- 奈良動物医療センター
- 農林水産省
- 北海道
主に大動物診療や小動物病院、農林水産省に2020年、2021年合格しているのが特徴です。
2022年度分野別就職データだと獣医学類では、就職率98.2%です。学術研究・専門・技術サービス業が64.2%、金融業・保険業が17.4%、公務員が11.9%、卸売業・小売業1.8%、製造業0.9%、農業・林業が2.8%でした。
学術研究・専門・技術サービス業は、動物病院が多いです。金融業・保険業は、北海道農業共済組合、兵庫県農業共済組合、広島県農業共済組合、山口県農業共済組合、長崎県農業共済組合、宮崎県農業共済組合、鹿児島県農業共済組合、沖縄県農業共済組合、ひがし統括センター(旧北海道ひがし農業共済組合)、新潟県農業共済組合があります。卸売業・小売業はイオンペット株式会社です。製造業は、株式会社秋川牧園、株式会社微生物化学研究所、共立製薬株式会社です。農業・林業は、ノーザンファーム、日本レイヤー株式会社、株式会社ノースベッツです。
Q4.提携関係のある海外の獣医科大学を教えて下さい。
タイのカセサート大学、カナダのあるバード大学、アメリカのフィンドレー大学があります。
Q5.酪農学園大学内でのJAVS活動について教えて下さい。
大きく2つあります。1番目は酪農学園大主催で雪まつりを実施しました(写真3A)。全国から約100人集まり、鹿児島大学の学生さんは、10人も参加してくれました。2番目は、酪農学園大学が加盟している北ブロックは、東ブロックにある日本獣医生命科学大学、日本大学、東京農工大、麻布大学のように各大学間の距離が近くない状況です。そこで北ブロック内での交流を深めるために北海道大学と新人歓迎会を合同で実施しています。
Q6.酪農学園大学を受験する学生さんに対してJAVSの先輩としてアドバイスをお願いします。
理科の科目選択をする際に化学が得意な方でしたら、是非、化学で受験して下さい。化学は、生物に比較して簡単なのでより高得点が取れます。数学の対策には、国立大学の二次試験の問題を勉強していた方が良いと思います。英語は一般的に難しいです。
Q7.酪農学園大学における獣医師国家試験に対する対応状況について教えて下さい。
まず、酪農学園大学の卒業試験に合格できないと国家試験は受験できないようになっています。卒業試験の足切りは約7割で補習後のテストで95%以上解答できないと卒業できません。
また、獣医師国試対策委員会のメンバーが学生の中で構成され、そのメンバーが国家試験を想定した模擬試験を作成いたします。作成した試験問題は、先生方が添削指導をして下さり、学生が模擬試験を受験します。模擬試験の受験者は130人中100人程が受験します。
Q8.動物医療発明研究会で、今後取材を希望される分野の獣医師の先生がありましたら教えて下さい。
3つの分野で活躍している獣医師の先生を希望いたします。1番目は、テルモやオムロンなどの医療機器に勤務されている獣医師の先生。2番目は、VMATで活躍されている獣医師の先生。3番目は、釧路にある猛禽類医学研究所に勤務されている獣医師の先生のインタビューを希望いたします。
Q9.酪農学園大学を含めた周辺のご当地自慢をご紹介下さい。
2つあります。1番目は、酪農学園大学の生協で販売しています酪農大の学生が製造した酪農製品です(写真3B、3C)。2番目は、酪農学園大学の近くにあるスリーエッグス通称サンタマがあります。サンタマはパスタとパフェが食べられるカフェでどのメニューも美味しくボリュームがあります(写真3D)。
編集後記
今回から始まりました獣医大学へのインタビューですが、第1回目は、私立の酪農学園大学でした。
この大学は、1933年に創設された「北海道酪農義塾」を起源とし、昨年で創立90周年を迎えました。創立者は日本の酪農業の発展と北海道の開発に貢献し「日本酪農の父」や「北海道開拓の父」と呼ばれた黒澤酉蔵です。また、キリスト教を建学の理念の一つとしている大学です。
酪農という言葉を大学の名に冠しているとおり、キャンパスは農作地や放牧地が多くを占め、夏には緑あふれる風景が広がっています。この風景は第16回江別市都市景観賞の特別部門にも選ばれています。
キャンパスの大きさは本学キャンパスだけでも135ha(東京ドーム28個分以上)、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーとUSJを合わせた広さに値する大きさです。
このような素晴らしい環境で、しかも附属動物医療センターは2016年4月に臨床獣医学教育研究棟を増築し、医療センターにはコンピュータ断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像法(MRI)など最新設備が配置され、獣医学生が幅広い動物診療の実際を体験しながら獣医臨床分野教育と学術研究を実施できることはとても素晴らしいと思いました。
また、診療施設、入院棟、教育研究施設、環境汚染物質・感染病原体分析監視センター、野生動物医学センターなどからなる建物群の施設規模は「日本国内の獣医師養成大学の中で最大規模」です。次回も酪農学園大学のインタビューですが、野生動物医学センター(WAMC)を紹介すると共に先輩OB・OGからのメッセージを紹介します。