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記事提供:動物医療発明研究会
インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
国内外の各分野で活躍されている獣医師の取材記事を掲載しています。
厚生労働省に勤務されている獣医師の仕事について知りたいとの要望があり、厚生労働省獣医系技官の3人の先生にインタビューを行いました。
その後ワンヘルスや人畜共通感染症といった公衆衛生学分野で海外活躍されている獣医師にもインタビューをとの要望があり、第1回目は戸上絵理先生、第2回目は塩田佳代子先生、第3回目はWOAHアジア太平洋地域代表事務所の浦辺真帆先生、そして今回の第4回目は厚生労働省獣医系技官でWHO栄養食品安全部にテクニカルオフィサーとして出向されている長谷川朗生 先生(写真1)にお話をうかがいました。
(取材日:2026年8月3日、10月14日)。
Q1.長谷川先生のWHOにおける現在の業務について教えてください。
サルモネラやカンピロバクターなどの食中毒を引き起こす微生物に関するリスク評価専門家会議(通称ジェムラ(JEMRA))や食物アレルゲンに関するリスク評価専門家会議の企画・運営を担当しています(写真2)。
会議事務局として、専門家およびデータの募集、会議開催に向けた調整、会議当日の運営・議論のフォロー、会議後の報告書作成支援などを行っています。
また、コーデックス委員会のWHOの窓口を担当し、食品衛生部会をはじめとする国際会議にWHO代表団の一員として(時として一人で)参加しています(写真3)。会議では関連する会議報告書や活動の説明を行い、参加者から行われる会議報告書の質問に回答するなどして、議論が円滑に行われるよう対応しています。
Q2.コーデックス委員会とは何でしょうか?その主な役割や目的を教えてください。
コーデックス委員会は、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年に国際連合食糧農業機関(FAO)及びWHOにより設置された国際的な政府間機関です。日本は1966年より加盟しています。
コーデックスの主な役割と目的は以下となります。
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- 健康の保護:食品添加物や残留農薬、汚染物質などの科学的基準を定め、消費者の安全を守る。
- 公正な貿易の促進:世界共通の国際食品規格(コーデックス規格)を策定し、国境を越えた食品流通を円滑にする。
コーデックス規格は、世界貿易機関(WTO)の「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」(SPS協定)において食品安全分野の国際的な参照基準として位置付けられています。
Q3.2022年夏からWHOに赴任されていますが、業務は4年間同じなのでしょうか?
組織再編に伴い上司が一度交代となりましたが、業務の内容は4年間ほぼ同じでした。
一度「食品システムの水質と食品安全への影響に関する専門家会議」の事務局を担当したことがあり、化学物質のリスク評価に関する知識が必須だったため、その際は水の衛生や環境衛生を担当する部局の担当者と協力しながら乗り切りました。
Q4.WHOには獣医師は何人いるのでしょうか?また、どんな業務をされているのでしょうか?
正確な数は不明ですが、私の直属の上司は獣医師ですし、食品安全や動物由来感染症の担当部署には一定数いるものと承知しています。
WHOは人の健康全般を扱うため所掌は広く幅広いバックグラウンドを持つ方が多いです。
Q5.WHOで獣医師であることが、どのような場面で役立ちましたでしょうか?
例えば鶏肉におけるサルモネラのリスク評価を行った専門家会議では、鶏肉の生産から加工までの工程を議論する必要がありました。議論を行うのは会議に招集された専門家の先生方ではありますが、事務局として議論をフォローする際、食鳥処理がどのような工程を踏むかを把握していることは大変有用でした。
また、専門家会議の報告書をコーデックス委員会食品衛生部会等で報告する必要があるのですが、報告書を正確に把握し、参加者にわかりやすく説明することが求められるため、同様に獣医師としての知識が役に立ちました。
Q6.厚生労働省獣医系技官として入省されてから、WHOに赴任するまでのご経歴を教えてください。
2012年に厚生労働省に入省し、食中毒被害情報管理室(現、食品健康被害情報管理室)、国際課、結核感染症課(現、感染症対策課)、厚生科学課に勤務しておりました。他にも神戸検疫所、九州厚生局にも勤務経験があります。
Q7.WHOにおいて、厚生労働省で勤務されていたご経験がどのような場面で役立ちましたでしょうか?
WHOで担当していた業務はリスク評価に関するもので、厚生労働省が担うリスク管理とは異なる枠組みとなりますが、先ほど回答したようにコーデックス委員会では専門家会議の報告書の要点を参加者にわかりやすく説明することが求められます。リスク評価の結果が各国の施策立案にどのように活用されるかを意識しながら議論に参加することで、会議の進行に貢献することができました。
厚生労働省での勤務経験が大いに役に立ったと考えます。
Q8.WHOの業務を推進する上でFAOやWOAH(OIE)との連携はありますでしょうか?連携がありましたら、その仕事やプロジェクトの内容を教えてください。
私が担当した微生物に関するリスク評価専門家会議、食物アレルゲンに関するリスク評価専門家会議はいずれもFAOとの共同プログラムですので、FAOとは一緒に活動してきました。
WOAHとの連携はありませんでした。
Q9.WHOの業務を推進する上で、日本の厚生労働省、農林水産省、消費者庁との連携はありますでしょうか?連携がありましたら、その仕事やプロジェクトの内容を教えてください。
国際機関ですので特定の国とのみ連携して業務を行う機会は多くはありませんが、関連する業務において厚生労働省、農林水産省、消費者庁と連携する機会はありました。
例えば世界食品安全の日のリーフレット(日本語版)は、WHOでも確認作業やロゴ掲載手続きを行い、WHOのロゴを付けて発刊されています。
Q10.日本向けに長谷川先生より情報発信(講演会や学会で招聘)はされていますか?
予算の許す範囲ではありますが、IAFP(International Association for Food Protection)やFood Microといった研究者が集まる学術会議(年次大会や地区大会など)にも出席し、関連活動の報告を行っています。
WHOの活動に対する理解を深めていただく他、専門家募集に応募いただける方を増やすことを目的としています。
Q11.WHO赴任は長谷川先生ご自身が希望されたのでしょうか?
はい、国際関係業務につきたい旨省内で希望は出していました。
Q12.WHOの業務経験の中でうれしかったこと残念だったことを教えてください。
自身が事務局として関わった専門家会議の報告書が公表され、その成果がコーデックスのガイドラインの策定や改訂に繋がったことです。
専門家会議の開催から報告書の公表までには数年を要することも多く、さらにコーデックスでの議論や合意形成にも幾つものステップがあります。
そのため最終的にガイドラインが採択された際には、長年の取組が実を結んだと感じ、大きな達成感を得ることができました。
Q13.海外の国際機関で獣医師として勤務する上で、必要な資質は何だと思いますか?また何を身に着けることが必要だと思いますか?
赴任前は自身の英語の日本語訛りが気になり、ネイティブのように発話を行う必要があると思っていましたが、着任してみると私の部でも、メキシコ、ブラジル、ポルトガル、オランダ、デンマーク、韓国など様々な国の出身者が勤務していました。
そのため訛りも様々で誰も気にしていませんでした。文法の誤りも当然ありますし、単語が出てこないけどなんだっけ、という話になったりもしますが誰も気にしません。
むしろ自分の考えをしっかりとわかりやすく伝えることが大事だと感じましたし、それは日本語で仕事をする際も同じです。単に英語というツールが増えるだけと考えて、身構えずチャレンジすべきと考えます。
Q14.ご自身としてどのような場面においてWHOに貢献されていると思いますか?
WHOでの業務はほぼ1人で担当することが多く、微生物に関するリスク評価専門家会議や食物アレルゲンに関するリスク評価専門家会議の企画から運営まで自身の責任において進める必要があります。限られた予算を見つつ、FAOと相談しながら進めていくことはとても大変ですが、一つ一つの会議をこなすことでWHOへの貢献ができていると考えています。
Q15.WHOなどの国際機関で働いている長谷川先生から見た日本の課題は何でしょうか?
国際機関で働いている日本人の方が少ないこと、また専門家会議への日本の研究者の方の応募がまだまだ少ないと思われることです。
日本政府からデータ提供などは積極的に行っていますが、専門家として議論に関わることも必要であり、この点は今後の課題であると考えます。
Q16.ジュネーブでの生活で思い出深いことがありましたら教えてください。
ジュネーブはフランス語圏なので生活の立ち上げからすべてフランス語で行う必要があったのが大変でしたが何とか乗り越えられました。
特に困ったのが電話口の自動音声で、何言っているかわからないという状況を周囲の助けも得つつ乗り切りました。
Q17.獣医師になられた理由を教えてください。
大学に入る前からSARSなどの新興感染症のニュースを耳にし、漠然とではありますがこのような病気を防ぐ手立てを探りたいという思いがありました。そのため、大学進学時に理系を選択しました。
私が在籍した東京大学では当時大学2年生で進学する学部を選択できるのですが、学部を選択する際に人獣共通感染症の講義が面白かったということもありました。
また獣医師として資格があると将来的に有用なことも多いのではと思ったことも理由です。
Q18.どのような学生時代を過ごされましたでしょうか?
公衆衛生学研究室におりました。学生時代には海外留学はしておりません。
アルバイトは家庭教師や塾講師などを行っていました。
Q19.厚生労働省を志望された理由を教えてください。
研究者や農林水産省と迷いましたが、研究成果を直接人の健康に関する施策に結びつけられるという点で厚生労働省の公務員を志望しました。
Q20.厚生労働省の中でどのような英語の勉強を日々研鑽されていたのでしょうか?
厚生労働省に入った後に人事院の長期派遣制度があると知り、それに応募したいという動機でTOEFLなどの試験対策を週末などの機会を利用して頑張りました。長期派遣制度での留学(米国で2年間(写真4))では公衆衛生学修士号のプログラムを履修し、感染症疫学などを学びましたが、留学後も国際業務に就く可能性があったことから、継続してオンライン英会話などを利用し、英語の学習は続けていました。
Q21.今後先生がチャレンジしたいことは何かありますか?また、厚生労働省に戻られて4年間のWHOの経験を活かして実施したいことは何でしょうか?
WHOでの専門家会議の企画・運営やコーデックス関連業務を通じて培った経験を生かし、今後は国際的な業務により一層貢献したいと考えています。
コーデックス委員会をはじめとする国際会議への参加や、日本政府の立場での国際交渉、さらにはその成果を踏まえた国内施策の立案・推進においても自身の経験や知見を生かして貢献していきたいと考えています。
Q22.スイスの魅力を教えてください。どこかへ出かけられましたか?
マッターホルンを有するツェルマット、ユングフラウ・アイガー・メンヒを有するグリンデルワルトにはよくハイキングに行きました(写真5,写真6)。
日本にも雄大な自然を味わえる場所は多くありますが、スイスのアルプスの山々はまた違った趣がありハイキングの都度感動することが多かったです。
Q23.海外で活躍する獣医系技官を目指す学生さんにアドバイス、メッセージをお願いいたします。
海外で働くというと「特別なスキルがなければ難しいのではないか」と感じる方も多いと思います。実際、私自身もWHOへの赴任前は身構えていました。
しかし、実際に働いてみると、語学力は必要になるものの、仕事の進め方そのものは日本での業務と大きく変わらないと感じています。もちろん、言葉や文化の違いに戸惑うこともありますが、それも含めて貴重な経験になります。
世界に目を向けると、様々な分野や働き方の機会がありますので、少しでも興味があれば、ぜひ積極的にチャレンジいただくのが良いかなと思います。
編集後記
ワンヘルス、人畜共通感染症や食品衛生に関する公衆衛生学分野で海外活躍されている獣医師の方々の第4回目として厚生労働省獣医系技官でWHO栄養食品安全部にテクニカルオフィサーとして出向されている長谷川朗生 先生にインタビューをいたしました。
長谷川先生を最初に知ったのは、厚生労働省獣医系技官の「採用案内2026」でした(p13に記載)。
長谷川先生にWHOにおいて、獣医師であることがどのような場面で役立ったのかお訊きしたところ、「例えば鶏肉におけるサルモネラのリスク評価を行った専門家会議では、鶏肉の生産から加工までの工程を議論する必要がありました。議論を行うのは会議に招集された専門家の先生方ではありますが、事務局として議論をフォローする際、食鳥処理がどのような工程を踏むかを把握していることは大変有用でした」と述べられています。
また、WHOにおいて、厚生労働省で勤務されていたご経験が、どのような場面で役立ったのかをお訊きしたところ、「WHOで担当していた業務はリスク評価に関するもので、厚生労働省が担うリスク管理とは異なる枠組みとなりますが、コーデックス委員会では専門家会議の報告書の要点を参加者にわかりやすく説明することが求められます。リスク評価の結果が各国の施策立案にどのように活用されるかを意識しながら議論に参加することで、会議の進行に貢献することができました。厚生労働省での勤務経験が大いに役に立ったと考えます」とのコメントをいただきました。
WHOにて4年間勤務されていますが、業務でご経験された中でうれしかったこと残念だったことについてお訊きしたところ、「自身が事務局として関わった専門家会議の報告書が公表され、その成果がコーデックスのガイドラインの策定や改訂に繋がったことです。専門家会議の開催から報告書の公表までには数年を要することも多く、さらにコーデックスでの議論や合意形成にも幾つものステップがあります。そのため最終的にガイドラインが採択された際には、長年の取組が実を結んだと感じ、大きな達成感を得ることができました」と述べられています。
今後、厚生労働省に戻られて4年間のWHOの経験を活かして実施したいことは何かとお訊きしたところ、「WHOでの専門家会議の企画・運営やコーデックス関連業務を通じて培った経験を生かし、今後は国際的な業務により一層貢献したいと考えています。具体的には、コーデックス委員会をはじめとする国際会議への参加や、日本政府の立場での国際交渉、さらにはその成果を踏まえた国内施策の立案・推進においても自身の経験や知見を生かして貢献していきたいと考えています」との抱負をいただきました。
4年間のWHOの経験を活かして、長谷川先生の厚生労働省での今後の活躍を祈念いたします。
動物医療発明研究会は、会員を募集しています。入会を希望される方は、「動物医療発明研究会」まで。
シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」


