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■【寄稿】国内外の各分野で活躍されている獣医師(34)エキゾチック動物診療 ヴァンケット動物病院三宿動物医療センター 松原且季先生
2026-08-13 14:33 掲載 ・2026-08-13 14:38 更新 | 前の記事
記事提供:動物医療発明研究会
インタビュアー・構成・執筆 伊藤 隆
動物医療発明研究会 広報部長/獣医師
国内外の各分野で活躍されている獣医師の取材記事を掲載しています。
今までエキゾチック動物を診療されている先生方として、栃木県宇都宮市のアンドレ動物病院院長の戸﨑和成先生(第10回目)、日本獣医エキゾチック動物学会会長で東京都駒込の日本エキゾチック動物医療センター院長の三輪恭嗣先生(第13回目)、日本獣医エキゾチック動物学会副会長で東京都の田園調布動物病院院長の田向健一先生(第15回目)、東京都豪徳寺の鳥と小動物の病院 リトル・バードの小嶋篤史先生(第26回目)のインタビュー記事を掲載いたしました。
今回は、ヴァンケット動物病院三宿動物医療センターの院長である松原且季先生(写真1)にお話をうかがいました。
(取材日:2026年6月17日)
Q1.ヴァンケット動物病院三宿動物医療センターの概要(開業年数、従業員数、年間症例数)と動物病院名の由来を教えてください。
- 開業年数:14年
- 従業員数:20名(内、獣医師が10名)
- 年間症例数:11000件
東京都世田谷区で2012年に開業しました。2021年に現在の場所に拡張・移転しました。動物病名の由来は、私の父の経営していた会社名と祝宴という言葉をかけたもので、「もてなし」「特別感」などをイメージしています。
Q2.主な診療動物の内訳比率を教えてください。
犬39.3%、爬虫類13.4%、猫13.2%、ウサギ6.4%、鳥類5.6%、フェレット4.9%、ヨツユビハリネズミ3.4%、ハムスター2.4%、その他11.2%(図1)
Q3.診療動物の内訳比率の元となるデータの集計期間と件数を教えてください。
集計期間は電子カルテを導入した2012年の開業当初から今年までの14年間分です。
延べ診療件数は98,913件でした。
Q4.来院する爬虫類の代表的な種類を教えてください。
ヒョウモントカゲモドキ、フトアゴヒゲトカゲ、ギリシャリクガメ、コーンスネーク・ボールパイソンなどが多いです
Q5.他にどのようなエキゾチック動物が来院しますか?
内訳比率を示した主な診療動物の他に、モルモット、チンチラ、デグー、フクロモモンガ、両生類などです。
Q6.松原先生がエキゾチック動物を診察するきっかけを教えてください。
もともと爬虫類・両生類・毒蟲などを多く飼育しており、それらの特殊な動物の治療をしたいと思いました。日本ではまだまだ飼育人口も少なく、診療を行う獣医師も少ないため、自分でやろうと思いました。
Q7.エキゾチック動物の人気の変遷と今後の人気動物の動向についてどのように考えていらっしゃいますか?
ウサギ・モルモット・ハムスターは根強い人気があります。フェレットは以前に比べると減少傾向かと思います。
近年ではヨツユビハリネズミ・ミーアキャット・デグー・フクロモモンガなどの動物種が増加傾向です。爬虫類に関しては、かつてはコレクターやマニアの方が多かったのですが、伴侶動物として動物病院を受診する方が増えていると思います。
Q8.エキゾチック動物を診療する上で気をつけていること、診療の難しさは何でしょうか?
検査・治療については、代謝・解剖学的な特殊性や体格の小ささが問題になることが多いです。
小型鳥類やハムスターなどでは血液検査をするのも採血量を考えなければなりません。鎮静や麻酔が必要なことも多いですが、犬猫に比べると麻酔リスクが高いので注意が必要です。
病気の進行も早いことが多いく、症状を隠しやすいので犬猫とは別物として捉えています。
Q9.松原先生は、日本獣医がん学会 獣医腫瘍科Ⅱ種認定医を取得されていますが、認定医を目指された理由を教えてください。
診療を行っているなかで、犬猫も含めて腫瘍性疾患の症例が非常に多いです。認定医取得に関しては腫瘍を学んでいくなかで一つの区切りとしてチャレンジしました。
目標があると勉強しやすいので、さらに上位の認定医や他の認定医にも挑戦していきたいと思っています。
Q10.来院するエキゾチック動物の主な疾患を教えてください。
当院は全科対応していますので、様々な症例が来院します。私の特に力を入れている分野として、腫瘍性疾患・循環器疾患・腎泌尿器疾患・外科疾患・寄生虫疾患などがあります。これらの分野では近隣からの紹介症例も多いです。
Q11.来院される各エキゾチック動物における腫瘍疾患の占める割合を教えてください。
ウサギ約15%、フェレット約70%、爬虫類約10%です。
Q12.爬虫類における腫瘍疾患の発生割合に関する海外文献を教えてください。また、貴院での腫瘍疾患の発生率と比較してどのように思われますか?
4つの海外文献を紹介します。
- Neoplasia in Snakes at Zoo Atlanta during 1992–2012.
- 米国アトランタ動物園におけるヘビの剖検時における腫瘍発生率は、平均値が12.5%だったとの報告があります。
- Neoplasia in Snakes at the National Zoological Park, Washington, DC (1978-1997).
- 米国ワシントンD.C.の国立動物園(NZP)において20年間(1978年~1997年)にわたり死後検査を行われた幼体及び成体のヘビ291匹の内、36匹(雌24匹、雄12匹:発生率12.4%)に腫瘍が認められたとの報告があります。
- Reptile Neoplasia: A Retrospective Study of Case Submissions to a Specialty Diagnostic Service.
- 5353件の爬虫類のサンプルの内579件の腫瘍性病変が認められ、腫瘍発生率は、9.8%との報告があります。腫瘍発生率の多い爬虫類は、ヘビが最も高く(15%)、次いでトカゲ(8.5%)、カメ類(2.7%)、ワニ類(2.2%)の順でした。
- Oncology of Reptiles: Diseases, Diagnosis, and Treatment.
- テキサスA&M大学の論文では、病理診断サービスに提出された動物のデータに基づくと、爬虫類における腫瘍の発生率は12%から26%の範囲で報告されています。これらの推定値にばらつきが見られるのは、調査対象となった地域、検体の収集方法、実施機関や民間診療施設の違いに起因する報告バイアスによるものと考えられます。
一概に来院する爬虫類の種類が異なるので、確実なことは言えませんが当院における爬虫類における腫瘍発生率が約10%でした。
海外文献におけるヘビを含めた爬虫類における腫瘍発生率が9.8~26%程度なので、ほぼその範囲内に入っている発生率の結果ではないかと思います。
当院における腫瘍発生の認められた爬虫類の診療件数ですが、延診療件数は98,913件×爬虫類の診療内訳比率が13.4%×爬虫類における腫瘍発生率が10%となると1,325件ぐらいになります。
Q13.各エキゾチック動物の腫瘍症例中の腫瘍疾患の内訳を教えてください。
- ウサギ(図2):子宮腺癌60%、皮膚腫瘍25%、乳腺腫瘍5%、精巣腫瘍5%、その他5%
- フェレット(図3):副腎腫瘍40%、膵島腫瘍30%、リンパ腫10%、肥満細胞腫10%、その他10%
- 爬虫類(図4):皮膚腫瘍30%、リンパ腫20%、消化管腫瘍20%、卵巣腫瘍10%、肉腫10%、その他10%
Q14.エキゾチック動物の各腫瘍疾患に対する治療方針を教えてください。
基本的にどの動物種であっても、外科手術・化学療法・放射線治療の組み合わせを主軸に治療を計画しています。
外科手術と化学療法はほとんどの症例を当院で行っています。放射線治療に関しては、可能な施設を紹介していますが、今後オルソボルテージの導入も検討しています。
電気化学療法にも興味があるので導入を検討しています。
Q15.各エキゾチック動物の腫瘍疾患の代表例を紹介してください。
ウサギの子宮腺癌(写真2)、ヨツユビハリネズミの口腔内扁平上皮癌(写真3)・リンパ腫(写真4)、フェレットのインスリノーマ(写真5)・リンパ腫(写真6)・副腎腫瘍、ヘビの腺癌(写真7~9)、フトアゴヒゲトカゲのメラノフォローマ【黒色素胞腫】(写真10)などをよくみています。
Q16.エキゾチック動物の腫瘍疾患治療の難しさや犬猫との違いを教えてください。
腫瘍の治療報告が犬猫に比べると圧倒的に少なく、薬用量さえも決定されていないため治療が手探り状態です。
他の動物種の治療を外挿して行うのですが、ベストな治療がわからないです。いろいろとご意見や批判もありますが、私は少しでも良い治療を目指して積極治療をしていきます。
Q17.治療が成功した腫瘍疾患症例を教えてください。
リンパ腫や肥満細胞腫などの独立円型細胞腫瘍については、犬猫の化学療法を外挿することで管理ができることがあります。フェレット、ヨツユビハリネズミ、爬虫類の腫瘍に対しCOPやTUFTSをベースにして治療を行い、一定の効果を得ています。
Q18.最近エキゾチック動物関連で力を入れて執筆、監修、翻訳、講演をされたものは何かございますか?
昨年末にRADLINE主催の25時間セミナーライブのエキゾチック動物分野で講演いたしました。
今年1月にEDUWARD PRESSのVETS ACADEMYセミナーで「フクロモモンガ・デグー はじめての診療ガイド」の講演をいたしました。
CAP誌のリレー連載「こんな症例に出会ったら?とある診察室を覗いて学ぶアプローチ法」を執筆いたしました。
一般向けとしてブラックアウトという爬虫類販売イベントで毎回講演をしています。
Q19.ヴァンケット動物病院三宿動物医療センターには多くの獣医師が勤務されていますが、勤務医にどのような指導をされていますか?またチームワークを図るために実施されていることがございましたら教えてください。
朝のミーティングでは、入院症例や当日オペの情報を共有します。終了時にもミーティングを行い、その日の症例の治療方針や疑問点などを話し合います。
月に1回は全体ミーティングを行い、病院内での問題点や意見を把握して改善に向けて行動しています。学会発表も推奨していて、1年に1回以上は症例発表の機会を作るようにしています。
勤務医には極力確定診断を取るように指導しています。
Q20.勤務されている若手獣医師に期待することは何でしょうか?
一般診療はもちろん一通りできなければいけませんが、なにか得意分野をつくって伸ばしてほしいです。獣医療は日進月歩なので常に勉強してほしいです。
Q21.実施されている社会貢献・地域貢献を教えてください。
東京都獣医師会に所属しており、学校飼育動物や傷病野生鳥獣の診療を行っています。
Q22.大切にされていることを教えてください。
確定診断を心がけています。亡くなった動物は極力剖検を行い、診断・治療の裏付けをとるようにしています。
Q23.剖検は1年間にどのくらいの症例数で実施されているのでしょうか?
200症例は越えていると思います。現在剖検した検体は、摂南大学および麻布大学に送付しています。
Q24.今後、チャレンジしたいことは何でしょうか?
今年中にヘリカルCTを導入予定なので、CTの撮影と読影をできるようになりたいです。放射線治療や電気化学療法も導入して、より良いがん治療を行いたいです。
Q25.エキゾチック動物を診療する上で開発を要望するものを教えてください。
細い気管チューブがあると助かります。
Q26.どのくらいの細さの口径を要望されますか?
現在、尿道カテーテルの4-8Frを気管チューブとして使用しているので、そのくらいの太さが欲しいです。
Q27.エキゾチック動物の診療を希望される獣医学生さんへのメッセージをお願いいたします。
犬猫の診断治療をまずはしっかり勉強して、応用編としてエキゾチック動物の診療を行うのがおすすめです。
編集後記
今回、エキゾチック動物の診療の第5回目として、日本獣医エキゾチック動物学会学会運営委員で、ヴァンケット動物病院三宿動物医療センター院長である松原且季先生にインタビューを行いました。松原先生には、2026年3月に日本獣医エキゾチック動物学会症例検討会2026でお会いしました。松原先生はその時ポスター発表で爬虫類の腫瘍疾患について発表されていました。
松原先生は、日本獣医がん学会獣医腫瘍科認定医Ⅱ種や、日本獣医腎泌尿器学会認定医を取得されており、腫瘍や整形外科の手術を得意とされています。
今回は、エキゾチック動物の腫瘍にフォーカスを当ててお話をうかがいました。そのため、動物病院2012年オープンから現在までのエキゾチック動物の診療件数、腫瘍発生率、主要なエキゾチック動物の腫瘍の種類別内訳を集計・分析していただきました。
何故、このような依頼をしたかというと、エキゾチック動物においても今後ますます腫瘍は重要な疾患になるのと、エキゾチック動物の腫瘍疾患を診られる獣医師が限られる中、日本における主なエキゾチック動物の腫瘍発生率を知り、特に爬虫類の腫瘍発生率の海外との比較を検証してみたかったからです。結果として日本でもほぼ同じ発生率だということが推察されました。
松原先生は、日常診療の傍ら獣医関連本も執筆されています。その1つが『エキゾチック臨床シリーズ Vol.18 爬虫類の疾患と治療』(学窓社)の分担執筆で、「トカゲのクリプトスポリジウム症」「トカゲの生殖器疾患」「トカゲの抗酸菌症」「ヘビの呼吸器疾患」「ヘビの卵塞と卵菅蓄卵材症」「爬虫類の腫瘍」をご担当されています。
また、2024年6月にはキャット・フレンドリー・クリニックのゴールド認定を取得されるなど、猫に配慮した診療をされております。
松原先生は確定診断を心がけておられます。亡くなった動物は極力剖検を行い、診断・治療の裏付けをとるようにしていることは特筆すべきことではないかと思いました。
今後の展望としてヘリカルCT、放射線治療や電気化学療法も導入して、より良いがん治療を行っているとのことですので、エキゾチック動物を含めた腫瘍疾患への更なる治療効果がアップすることに期待したいと思います。
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シリーズ「国内外の各分野で活躍されている獣医師」
- (1)~(29):「(33)」からたどることができます。
- (30) ジョンズ・ホプキンス大学 ブルームバーグ公衆衛生大学院 博士課程 戸上絵理先生:前編
- (31) ジョンズ・ホプキンス大学 ブルームバーグ公衆衛生大学院 博士課程 戸上絵理先生:後編
- (32) ボストン大学 公衆衛生大学院 グローバルヘルス学科 アシスタントプロフェッサー 塩田佳代子先生
- (33) 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染症サーベイランス研究部 第一室 篠崎夏歩先生


