HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
- 発行元:ブックマン社
- 出版年月日:2023年12月12日
- 定価:1,980円(本体1,800円+税)
- 四六判、208ページ
- ISBN:9784893089656
- 詳細:https://bookman.co.jp/book/b637733.html
浅川満彦(酪農学園大学名誉教授・市民団体 野生動物の死と向き合うF・Vetsの会代表)
E-mail mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com
発行元と動物学新刊
題名から容易に推し量られるように、本書は獣医病理学領域の啓発書である。だが、その紹介に入る前、発行出版社について触れる。評者(私)は浅薄かつ不埒ゆえ、軽快さを彷彿させるその社名ブックマンを存じ上げていなかったし、本書献本送付時に同封された新刊カタログに心底驚愕したからだ。以下に、当該社からメール送付されたカタログ情報を示す(順序も当該メールに従う)。
- 『コウモリはウイルスを抱いて空を翔ぶ』(新田 剛)
- 『化石の復元、承ります - 古生物復元師たちのおしごと』(木村由莉)
- 『もがいて、もがいて、古生物学者‼-みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから』(木村由莉)
- 『前恐竜時代』(土屋 健)
- 『標本バカ(川田伸一郎)
- 『アラン・オーストンの標本ラベル』(川田伸一郎)
- 『恋する化石 - 「男」と「女」の古生物学』(土屋 健)
- 『アノマロカリス解体新書』(土屋 健)
- 『恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常』(真鍋 真)
- 『フタバスズキリュウ - もうひとつの物語』(佐藤たまき)
- 『国立科学博物館のひみつ』(成毛 眞・折原 守)
- 『国立科学博物館のひみつ - 地球館探検編』(成毛 眞、監修 国立科学博物館)
- 『ならべてくらべる絶滅と進化の動物史』(川崎悟司、監修 木村由莉)
- 『深海魚ってどんな魚 - 驚きの形態から生態、利用(尼岡邦夫)
- 『さめ先生が教えるサメのひみつ10』(仲谷一宏)
紹介前に食指が…
獣医/動物学に身を置く者なら、最強のラインナップを想像させるだろうし、畢竟、類書を扱う競合他社にとっては最恐になるかもしれない。それはともかく、私の食指が動いたのは前半で、本媒体(JVM News)にて昨年(2025年)公開をした『大地と獣』で扱った感染症と地史・古生物学の内容と重なりそうだったからだ。後半も私の専門と親和性が高い野生動物(医)に加え、学魚病/博物館(学芸資格取得コース)も見えた。
私は90年代中盤から動物系書籍情報を収集してきたので、どれかは投網にかかったはずだし、その結果、ブックマン社を知り得たはず。だが未知だった。それが不思議だったので、ここでクドクド記したのである。この出版社は70年代初頭創業、文芸・趣味実用・受験参考書等で展開したので、さもありなんと宥めたものの、授業で学問で偏狭・保守的な姿勢は自殺行為と何度も喧伝したのに、何のことはない。縊死していたのは私の方だった。
これを教訓に、今後の文献渉猟では既存の枠組みにとらわれず、果敢に挑みたい。もっとも、定年退職した今、余生を楽しむための書籍探索とはなるが…。
本書の章節構成
さて、その無敵艦隊の一隅を占めたのが本書である。書きぶりから想定されるに、主対象は小中学生なので、ボリュームも大部ではなく小さく軽い。通学バッグ内で邪魔にならない。包含される章も次の三つだけである。
第1章 動物の死から学ぶ
- 獣医病理医は「過去」を見る
- 顕微鏡で見る宇宙
- ペンギンも胃がん
- アフリカゾウの体内に潜る
- リスザルの連続死
- 「カンガルー病」ではなかった
- 謎の遺体の正体は
第2章 この子は最期に苦しみましたか?
- 「病理解剖してよかった」
- 動物のおくりびと
- 意図せぬ虐待
- 「よかれと思って」生肉を
- ネコは外が幸せ?
- 危うい友情-ネコとゴールデンハムスター
- 「娯楽」にされる命
第3章 珍獣〈エキゾチックアニマル〉たち
- 腸閉塞のヒョウモントカゲモドキ
- 子どもを咬んだミーアキャット
- 「ミニ」や「マイクロ」でも……
- ツシマヤマネコのロードキル
- 死を学ぶ子どもたち
- 病理解剖された動物たちは今も生きている
法獣医学も著者専門なのだが…
以上三つの章の他-これは、本書に限らずだが-、おわりにとprofileも見逃せない。そこでは著者が、日頃、情報発信あるいは剖検依頼ツールとして運用中のSNS、すなわちX、ブログおよびnote上のハンドルネームが記されていたからだ。
重要情報なのでこれも確認したい。私は現役時の業務命令で公式facebookを使用してきたが(退職後も継続)、これ以外は未知である。それでも、野生動物専門医間の連携上、2026年5月からnoteに入ったので(「fvetsnokai」)、さっそく著者のハンドルネーム「Shin/獣医病理学者」を実見した(2026年5月現在)。他二つのプラットフォームは異世界・異次元なのでノーコメント。
法獣医学は埒外、残念ながら…
以降はまず何が述べられ、ついで何が述べられなかったのかを徒然に記述するつもりであった。が、この順序は変更する。つい先日、中村先生筆頭論文が日本獣医師会の機関誌上に掲載されたからである。
- 中村進一、金谷咲愛、杉山晶彦
- 法獣医学の認知度と経験に関する実態調査
- 日獣会誌 2026. 79: e21-e27.
すなわち、獣医師会(業界)では中村先生を獣医病理学者のみならず、法獣医学者としても認知した証左である。ならば、中村先生は本書でこの領域にどのような形で切り込んでいくのかと再確認をしたが、結局、本書では未言及であった(第2章では虐待の文字が見え、匂わせてはいるが…)。
本書本文のみならず、前述profileでも中村先生の専門に法獣医学が欠落していた。中村先生は勤務先(岡山理科大学)で「国際獣医法医学」の授業も担当されている(私信)。以上を総合すると、中村先生は愛護動物虐待を獣医病理学に軸足を置き解明する今日の法獣医学教育研究を牽引する専門家である。
むしろ、ここで拙速とはならず、次世代である若い世代へ、法獣医学の科学的基盤が獣医病理学であり、その原点が(マクロ/ミクロ)解剖学、これら一連の流れを啓発する路線を計画され、その一環として本書刊行となったのだろう。
法獣医学の基盤は解剖・病理学
そして、この路線計画から、本書姉妹編として緑書房から『不思議でおもしろい動物たちの「からだの中」の話-獣医病理学者が語る臓器と病気』、『獣医病理学者が語る 動物のからだと病気』の2点をを上梓したのだ(と思う)。私はこれら両書を表す機会も得たので御参考いただきたい(紙媒体なのでURL明示難)。
ところで、法獣医学という領域名称自体は、明治時代に誕生した(浅川満彦、徳宮和音.2022.明治期の「法獣医学」について. 北海道獣医師会誌)。しかし、今日は愛玩動物の虐待防止を主眼にした実学(科学)として再定義された。これは次の単著上であった(田中亜紀.2025.法獣医学者が解き明かす-動物の事件簿. 岩波書店)。前述した中村先生が目論む本書を含む一連の刊行が、田中先生の著作に先立って刊行された点は銘記されるべきである。要するに、法獣医学は病理学が基盤=その科学的根拠だと社会へのという宣言なのである。ゆえに、ご専門とされる中には獣医法医病理学という名称を提唱される方もいらっしゃる程である。このような話は素人の私が関わることではないのでここまでとする。
病理の動物病院における重要性をnon-vetsへ伝えるヒント
本書では獣医病理学の重要性を、既に獣医師vetsとして現場で立ち働かれる熟練者には、獣医師ではない方non-vetsに説明する際、力を発揮するだろう。
もちろん、獣医師の皆さんvetsは病理学の全貌は解っている。しかし、それを獣医学的背景が無いnon-vetsにご理解いただくための技量は別である。要するに、自分が知っていることと、他者に知っていただくこととは異なるのだ。もちろん、non-vetsには眼前の畜主(いや、今は飼い主様、顧客)が含まれる。その方々に真に理解してもらうとは、コストがかかる迅速病理検査を承諾し、死後献体いただくのを気持ちよく受け入れて下さる上で、本書の語りかけの手段は不可欠なスキルなのである。もし、失敗したら顧客を失い、貴院の経営は危機的状態に落ち込む。それを回避するためのヒントが満載。
たとえば、細胞や組織のおもに形態を調べことわり(理)を究明する科学に奉ずるのが中村先生のような獣医病理医(17頁)。獣医学(医療)でも、最近、専門・細分化が進み、このような何々医が生じつつある現実(現に野生動物医学会認定専門医も野生動物医等)も共有してもらおう。
塩辛やスルメの死因究明は無理!を公共知に
採材細胞や組織が変質し、形が崩れると究明困難。これを明確に語っている(149頁;ゆえに固定が大事!とも)。ならば、それを食い止めるため、non-vetsは食肉を保存する要領で冷凍となろうが、如何にダメ! なのか、懇切丁寧かつ実に明快に示していた(200頁)(ついでに、寄生虫卵検査用の糞便も冷凍したらオジャン)。次出す本で、この点は次回改訂版か別の書籍で追記をして欲しい。卵殻が細胞を破壊したように、凍らすと同じ運命を辿るからだ。
死体が腐ると死因究明不可能!という事実だけでも、国民の公共知となれば、腐った野生動物死体(既に塩辛・スルメ状)や冷凍された肉片一部を野生動物医に持ち込み、「死因を調べろや!」とはならなかったはずだ。中村先生は剖検のため、団らんどころではなかったと吐露されたが(80頁)、私も同じだった。理不尽な要望と腐った死体を相手に家庭崩壊したのだから(笑)。
野生動物管理マネージメント等との協働示唆
なお、シカ等の保護管理実務として悩ましい現象がキャプチャーミオパシー(本書では捕獲性筋疾患)。これが、なんと飼育カンガルーで生じていた事実を知った(61頁)。実に示唆的で、病理医が必要とされる領域がいかに広大かを感じさせた(より積極的な協働を希求)。また、私のホームグランドである寄生虫(病)学関連では、リスザルのトキソプラズマ症やタヌキの疥癬等、面白すぎ参った。重篤疥癬のタヌキを『ハリーポッター』のしもべ妖精と比喩(64頁)した点は俊逸!私がこれを現役時に知っておれば、何度も授業ネタにし、学生を辟易させていたろう。書き手としての中村先生の卓越ぶりが垣間見えた。
病原体つながりで気になったのは(というか謎のままとなり、モヤっとしたまま)、ミニブタ。豚熱ウイルス陰性は一安心だが、細菌性の丹毒か前述トキソはどうだったか。症状からこれは無い…?でも、殺鼠剤誤飲かな(以上、161頁)。いずれにせよ、ズブの素人なりに楽しめましたが、外野は黙った方が良いでしょう(気に入らないのなら、御自身が、動物病理医の道に進みましょう!)。
出張病理解剖は、是非、継続を!
お子さん対象の出張病理解剖(171頁以降)は、疑問の余地なく素晴らしい試みだ。確かに、最近ではその継続に鳥フルやコロナ等のバイオリスク的ハードルはごまんとあろう。
それに加え物騒な社会情勢。私に野生動物(医)学教育・啓発活動を丸投げされて3年目の1997年初夏、近隣小中児童対象に公開講座を画策した。これを面白がってくれた北海道新聞さんは「公開野生動物教室」と名付けてくれたっけ…。しかし、その前日、神戸市における連続児童殺傷事件があり(サカキバラが犯した陰惨行為)、急遽、中止された。死体を扱うということは、このようにセンシティブな問題にも巻き込まれるのだ。なお、前述したように、教室に関し、盛んに新聞等で告知されたはずだが、検索してもヒットしない。この機会にしっかり回顧、記録を整理・公表をしたい。
死体か遺体か
なお、本書では中村先生、その動物に対し敬意を示し遺体や亡くなる等の日本語表現を用いていた。しかし、私は死体であり死ぬで通したい。その背景・理由を記載した記事を提示し(JVM NEWS「訃報 国内最後のセンザンコウが亡くなりました」)本稿を閉じたい。
