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酪農学園大学野生動物医学センター内に保管されたセンザンコウ剥製(北海道遠軽家庭学校より寄贈)。拙著「コロナ禍初頭に注目されたIUCN絶滅危惧種センザンコウ-保有寄生虫等」ではゴム製モデル画像であったがこちらは本物。特に前肢爪はド迫力。これを使って木に登りアリ塚破壊!
浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授/F・Vetsの会 代表)
動物に死亡/遺体は国語的にダメ?
文化を支えるという文脈で表徴される昭和世代とそれ以降の人々とは日常言語で、まず大きな隔たりがある。たとえば、動物の死に纏わる局面に大きな断絶があり、人の亡くなる(死亡)やその結果物(遺体や遺骸)を扱うシーンで、かつては動物が死ぬであり、死体(死骸)であった。しかし令和の御代は、とりわけ愛着ある動物(愛玩や動物園水族館の人気個体、時にはわが子同然に育てた家畜・家禽)に関しては亡くなるだし、多分、もうすぐ遺体が普通になる。こういった国語面でも動物愛護/ウエルフェアは強大な影響を与える。
一方、野生動物等に対しては昔から死ぬだし死体。これは今直ぐに変更される気配もない(と願う)。今、書き手/話し手としての余生を気楽に楽しむ身分ではあっても、言葉の感覚が鋭い方々(多くが年長者)を相手にしているので、かなり神経をすり減らし言葉を紡ぎ出している。つまり、著しい言語ストレス下に晒されている。これが心底きつく、変更無し確定ならば福音。
だが、気配無しの微香を嗅ぎ取ったのはたった四、五年前。拙著『野生動物の法獣医学』粗稿を出版元(地人書館)とやり取りをしている最中だけであった。当時、言語ストレスフリーの私による原稿は、動物の死亡等と記され、修正指示で真っ赤になって戻された。正統日本語を操るプロ直々の添削は得難い日本語リカレント教育となった。当時の赤ペン先生には心から感謝をしているし、その教えに従い、今後も「動物が死んだ後の死体が残る」ように運用するはず。ただの個人的運用規定ではあるが、対象動物に関しては例外条項も設けることにした。
希少野生動物が亡くなった!
その条項とは「人の影響で絶滅に瀕した野生動物(域外保全個体含)に限っては、亡等人に対し使う文字を充てる」である。この背景には、時々、真の遺憾を込めるので(注:TVで盛んに見聞きする軽々しい響きのイカンではない)、遺という文字も同様に使いたい。つまり死亡であり遺体を動物にも適用する!という宣言である。
そして、本稿は、いみじくも当該規定に準ずる運用初例で、対象希少種とはセンザンコウ(正式和名ミミセンザンコウ)である。当該動物については、2025年夏、本媒体上で紹介したように「国内では東京・上野動物園のみ、かつそれも1個体が飼育されるので、是非、見守って欲しい!」とした(参照:JVM NEWS 2025-08-15「コロナ禍初頭に注目されたIUCN絶滅危惧種センザンコウ-保有寄生虫等」)。
だがその年末、当該個体は亡くなった。哀悼の念を禁じ得ない(注;この物言いも、日本語的に要審議だが脇に置く)。ご記憶にあろうが、亡くなったのとほぼ同時期、同施設ジャイアントパンダの中国返還が大注目され、一部地方紙では報道されたものの(参照:山陽新聞2025年12月24日「上野動物園のミミセンザンコウ死ぬ センザンコウは国内展示ゼロに」)訃報は近隣ですら話題とはならなかった。
亡くなった(いなくなった)事実自体も悲報だが、それ以上にこのような人々の冷淡な反応、無関心さこそを嘆いた。
センザンコウは犬猫パンダのご先祖様に近いのに…
その人気者パンダのご先祖様と系統的に近く、かつ家族扱いの犬猫含む食肉目を生じせしめたセンザンコウ。そして人類の欲で絶滅近くに追い込まれる今、その唯一個体の死亡に注意が払われなかった…。「獣医学を文化に」との大望で、私は啓発活動に邁進するがまだまだ道半ばか。なお、センザンコウと食肉目の系統関係は前述2025年夏公開のJVM NEWS上解説も詳しいが、『コアカリ野生動物学 第2版』(文永堂出版)の30ページ、国立科学博物館・田島木綿子先生が執筆担当分の系統分類玉稿「(センザンコウは)食肉目に近縁なグループとして理解」と明示されている。
なお、本拙稿作成のため、現役時代に立ち上げたSNS Facebookの過去投稿記事を回顧したら、元勤務先・酪農学園大学野生動物医学センター(以下、センター)内に保管されたセンザンコウ剥製標本の写真が出て来た。非常に動揺(下記写真)。この動物は「国際希少野生動植物種」に指定されワシントン条約で国際取引厳禁である。もちろん(標本含)遺体授受は違法で、現に5年前、長野県内某古物商がその剥製(装飾用だろう)を商いし書類送検されているし(参照:信濃毎日新聞2021年1月13日「センザンコウ剥製譲渡疑い 古物商夫婦を書類送検」)…
第3土曜は世界センザンコウの日
係累に妙な嫌疑がかかってはならぬ。私から釈明(説明、告白、白状or自首…?)する。これは北海道遠軽家庭学校標本室閉鎖にあたり、中の標本・教材が全廃棄されるので、当時、サトウ先生(女性)という方からセンターにお電話を頂き、急遽、浅川が同校へ出向きそこで御寄贈頂いたモノの一つと記憶している(当然?この剥製以外にも多数譲渡)。運搬作業では浅川が勤務先から公用車を借り私一人が全て担った。新移動先となったセンターは、私の定年退職前々の2023年夏に運用停止したが、当該含む標本群は同大に保管されている(と思う)。
事程左様、同センター運用中にはこのような貴重な標本・試料が多くの方々から贈与・収集されたが、同大にはいわゆる動物系博物館が無い(2026年3月現在)。したがって、これら宝物の今後が心配される。事実、野生動物等から40年間にわたり得られた寄生虫標本・試料は、全て廃棄されたように。
前述のように、センザンコウが国際希少野生動植物種に指定されるほど、絶滅が懸念されるのだが、繰り返すがそのような状況に追いやったのは人類である。その責任を皆で痛感・共有するため、WWFは毎年第3土曜日を世界センザンコウの日と決め、世界各地(日本除く注釈するのは悲しいが…)で関連イベントが催されている。
今年(2026年)は2月21日で、翌猫の日に完全にかき消されてしまった。来年は思い出していただき、可能ならば昨年末逝った上野個体のことを偲んで欲しい。