HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事
■【寄稿】医系学会で知り得たヒト感染症概況-2026年2月に開催された日本微生物学会 第37回大会における研究概要から垣間見えた課題と雑感から 後編
浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授)
<前編はこちら>
大会要旨に見る獣医系ど真ん中的研究は医獣連携口火
本題に戻るが大会要旨集から教育講演(前述)やシンポジウム、テクニカルセッション等大会企画関連を除くと、疫学調査・症例報告等に類し口頭/ポスターで発表された演題数は約370であった。まず、これらを一瞥しただけで、医学(patientがヒトの)微生物学領域や感染症の現時点における問題/課題を知り得るヒントと直感した(いわゆるホットな情報満載)。その際、読み手が獣医師である場合、扱われる感染症のpatientが全てヒト(個人/人々)という点である。意識的に再確認した方が望ましいだろう。見方を変えれば(=獣医学/獣医療の立場で眺めれば)、ヒトという動物の疾病動向を眺めることも出来よう。それは新鮮かもしれないが、そのような姿勢は一旦封印し、ご自分やご家族・友人の健康に関する切実な問題と向きあう心持で接する方が好ましいと思う。まずは健康第一!やはりヒトが最優先されるし、そもそも獣医学/医療自体、健全な人間社会実現のための実学だからだ。
そして、感染症専門の獣医師は人々に余計な恐怖心を与えてはいけない。ヒトは動物と違い心を持つからだ。また、人々の好奇心を巧みに擽りながらワンヘルス理念を用いつつ(先程の感染症医と患者さんとの問答シミュレーションのように)感染症対策に寄与するツールとしたい。すなわち、この要旨集を他人(ヒト)事とし楽しむ。
そのようにシフトチェンジして臨んだつもりだが、愛玩/産業動物がレゼルボアとなり、ヒトの健康を害する疾病の研究発表には目が釘付けとなった。ある種職業病だろう。注視した中には、たとえば猫ひっかき病/ボルデテラ症や犬レプトスピラ症、豚丹毒、それにスカンク咬傷に起因するMycobacterium abscessus感染症等々が見えた(要旨集124、148、282、337および366頁)。
なお、ヒトにおけるM.abscessus感染症は肺アブセッサス症という病名がある程、近頃医系でよく知られている。いや、抗酸菌による疾病は他にもあり、この疾病含め非結核性抗酸菌NTM(Non-tuberculosis Mycobacterium)との総称もある。NTMとは結核菌群(M.tuberculosis complex)とライ病原菌M.lepraeを除く抗酸菌の総称で、この菌群による感染症がヒトで急上昇している。その背景の一つに日本人の高齢化があり、実際、国もこれを重視し「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」上でNTM感染症は2類指定である。新型コロナ感染症が当初、そのランクにあったことは記憶に新しい。その当時の厳しさによる不自由さはすっかり身に染みた。
これは感染症医の中にも厳格過ぎと見なし、5類引き下げを求めるグループもある。大会ではその活動の中間報告もなされた(要旨集219頁)。活動根拠の一つが診断面の困難性である。すなわち、診断材料から検出された抗酸菌がpatientの感染症を惹起させたのか、それとも、ただの保菌状態でたまたま見つかったのか、判断が難しいとしている。このあたりの事情を、獣医療に置き換え穿った見方をすれば「家畜伝染病予防法(家伝法)」施策でも似ており参考になる。
要するに、「感染症法」にせよ「家伝法」にせよ、生物現象であるヒトand/or動物感染症を融通が利かない法で統べるには何処かで無理が生ずるのだ。そして、その結果、この大会で声を上げたように実務者が悲鳴をあげることになる。医系/獣医系問わず感染症行政を仕切るエライひとは、感染症を生物現象として捉え対応をして欲しい。
ハンセン病と結核、そのほか抗酸菌感染症
抗酸菌感染症について補足するが、つい先程出た保菌とはヒトにおける感染という状態である(有症状を呈した病的状態の現象感染症ではない)。されど、ヒトに感染した経緯には動物におけるNTM保菌状況と密接に関連する。ゆえに動物を材料にした疫学調査結果が参照にされる。野生動物医はそこに関わるし、私以外のオール獣医学が貢献する余地がある。
たとえば、前述NTMの主役級が鳥型結核菌M.avium complex(ヒトにおける感染症は肺MSC症)であるが、人々の普段の暮らしの中では入浴施設や庭土等からの感染が疑われるようだが、そこに動物が関わるものも多いだろう(複数要旨)。しかし、そこを追求するのは医系感染症医ではなく、こちら側(獣医系)だ。人々に近い鳥類となると、カラス・ドバトもだが飼鳥も要警戒。そうなると、鳥類医学/医療に長けた獣医師参加も望まれる。「疫学って何か臨床と違って地味なんだよなあー」という声も聞こえてきそうだが、そのあたりを如何に克服するか…。獣医師も欲得に塗れた一人間なので、そのあたりの心情をどうするかもワンヘルス具現に関わる。
なお、NTMから除外されたライ病菌M.leprae感染症がハンセン病である。これは「らい予防法」(1996年廃止)関連により、差別を受けた人々の裁判報道で見聞きすることが多い。しかし、ヒト特有疾患で獣医系では周知されないが、私の獣医大現役時、野生動物(医)学で異節類アルマジロが当該抗酸菌自然宿主であり(M.leprae培養不可)、ハンセン病制圧で貢献したことは伝えた。だが、獣医学徒が私に期待するのは、絶対にそこではない。それにpatientがヒトだけなので、畢竟、暖簾に腕押し状態の授業となる。
だが、ハンセン病が別称業病・天刑病とされ、その病名を背負った同胞を長年、理不尽で残酷な状況に追い込み、古い歴史的事実として仕舞い込む姿勢はダメだ。獣医師という前に、人間として良くない。負の文化として共有して欲しいと願う。いや、これは歴史博物館的な話では無い。WHOによると今でも国外では年20万人以上の新規罹患者が出ている。一方で、前述「らい予防法」が消え現感染症法にはこの病名が無い。そのため、厚生労働省(国)は当該病新規患者の動向把握は埒外となった。極端から極端という実にこの国の行政らしい特質も見せる疾病でもあった。
次いでNTMから除外された結核(肺病・労咳)。前世紀末、私がMSc WAH(前述)を得るためロンドン動物園にいた際、展示サル類のほとんどがヒトから起源の結核に感染(浅川 2021a等)、すべて安楽殺されていた。そのような個人的な苦い体験から、私は結核の悩ましさを実感している。結核は地味に、しかし確実にpatientのヒトと動物の病魔として蔓延している。要旨集ではこのような広まり方をサイレントパンデミックと形容していたのは見事であった。したがって、この疾病が「感染症法」上2類に留まるのは仕方あるまい。国外流入含め薬剤耐性結核菌も危ないからだ。
一方、patientが動物の業界では結核菌群の一つウシ型結核菌による感染症が警戒される。「感染症法」の獣医版=「家伝法」で統べるのは牛中心でツベルクリン反応により隔離等を義務付ける。先程のサルにしてもウシにしても関わる法は異なっても、病原体自体は菌種としては共通する。以上、結核・ハンセン・NTMをあわせた抗酸菌感染症は医系/獣医系の境界を越えた医獣連携の地平を予感させた(真のワンヘルス職創出の端緒!)。
病原体別概観で真菌健闘
コロナ禍もあり、また、最近でも獣医仲間が亡くなったばかりのSFTSは、もちろん、医療でも注目されていたが(144と263頁)、個人的にはもっと扱って欲しい気もした。もし、感染症医が亡くなっていたらもっと大きく取り上げていたと思う。このような所で疾病注目度に差異が見え隠れしたのは(SFTSで亡くなった方たちには不敬な表現だが)客観的には興味深いと感じさせた。
いずれにしても、私はSFTS含めヒトの感染症では獣医系同様何となくウイルス優勢とする偏見・先入観があった。が、前節NTMや後述耐性菌等のこともあり、細菌関連の演題数がウイルスと拮抗していた。私は細菌研究者が減少傾向と聞かされていたので意外であった。
これが影響し要旨演題数ではウイルス・細菌同程度で主体占め、少々間をあけて真菌が続く格好であった。数のみならず内容自体も刺激的ではあったが、本稿で個別に述べる余裕は無い。別機会とさせていただく。
また、獣医系と比して医系における真菌の興隆羨ましいとも感じた。真菌がムシ同様、真核生物に属すので遅れたイメージを押し付けられる病原体であるからだ(ウイルス・細菌等小さい程、patientの健康問題面では退治し難い、すなわちより重要、ポストも研究費も多いというカルマ的格差。医系でも獣医系でも明言されないが…)。
そのせいで、獣医系真菌(病)の扱いは細菌(病)のサイドビジネス的な位置付けであった。以上からムシ屋は同病相憐れむ的屈折した心持から、真菌へ秋波を送ってきたつもりだったが(たとえば、浅川 2021の80から82頁、浅川 2024)、あにはからんや医系では大変盛り上がっており、先程の羨望となったしだいで…。そのようなケチな個人感情を抜きにしても、真菌/寄生虫間の系統性にも新知見が続出し、たとえば魚類・昆虫(ミツバチ等)寄生性原虫と見なされてきた微胞子虫が、実は真菌であったことが最近判明したように、真菌は謎の宝庫。獣医系でも真菌に関しより丁寧な対応を期待したい。
寄生虫病症例はたった1件!?
さて、そのもう一方の真核生物、つまりムシである。僅か1件(要旨集333頁)であった。これにはさすがに膝から崩れ落ちた。企画物では原虫やムシ関連はいくつかあったが…。勝手に悲嘆しているが、ムシ屋(私)の教育講演要旨(125頁)を見直しても寄生虫のキの字も無かった。忸怩たる思い…。もし、感染症教育を仕切るキーパーソン(医学教育を仕切るエライ方々)が要旨集をご覧になられたらと思うと嫌な汗が出る。
悲観論の前にこの貴重症例を少し眺めよう。まず、孤軍奮闘された英雄(当該発表者)は杏林大学/北陸大学の感染症医(櫻井友美先生ら8名の先生方)であった。7歳男児から排便時に排出された日本海裂頭条虫の片節をもとに診断・治療された症例であった。その子がスモークサーモンかお寿司を摂取したと記されていたが、一月以上前の食事内容を子どもが憶えていたとは思えない。おそらく、初診時に同行した親からの稟告であったろう。
Patientは心情有すヒト
消化器症状は無かったということで安堵だが、その子が用を足した際、見慣れぬ白き異物と一人で対峙した。それが自分の体内に棲みついていたと想像したら、驚愕かつ恐怖心に囚われたろう。その子の勇気に賞賛する一方、彼のPTSD等心的状態も気になった。私のような昭和世代なら深淵便槽に落ちて終わりだが、今日の便器構造ではファーストコンタクトが容易い。つまり類似した邂逅シーンは至る所で起きているだろう。このような出会い、大人なら平気でも(いや、どうかな?)、幼子なら…。私の懸念はそこだ。
獣医系ムシ屋はpatient(宿主)が動物でこういったことは不要だが、ヒトなら当然そのような心配が必須である。ムシ屋含む感染症研究者は病原体だけに気をとらわれず、それが取り出された宿主patientは心情を有すヒトである。これを決して忘れてはいけない(自戒込めつつ)。
ムシとの邂逅が次代ムシ屋誕生契機ならメデタシ、メデタシ
もっとも、もし、その子がこれを切っ掛けに、将来、寄生虫学者を目指すとなったらムシ屋コミュニティーとしては大儲。新たなムシ仲間の誕生であるからだ。ちなみに、私が幼児であった頃、尻から出したのはヒトカイチュウであった。小児科で駆虫薬を投与され、その薬効確認のため、母親に命ぜられ庭先で脱糞させられた時だ(前述便器構造では無理なので)。無事排出されたカイチュウが眼前でダイナミックな動きに興奮したのを今でも憶えている(この様子は浅川 2021aの1頁で活写)。前述条虫片節はvividな動きは期待されないし、トイレから呼び出された親は愛すべき我が子から大きな異物から大いに慌てたはず。しかし、その親は冷静にそれを採取、廃棄せず子供と一緒に英雄の大学病院に持ち込んだ。そして、感染症医は正しく診断・駆虫し、本大会で報告された。以上プロセスに気紛れや偶然が入る隙間は無い。これは弛まぬ啓発活動の結果である。如何に啓発教育が重要かこれだけも推し量られよう。よって、教育・啓発の重要性を冒頭キーパーソンの方々の賢明なる対応を期待する。
大会発表されたのは寄生虫病のほんの氷山の一角
ダメ押しをする。厚労省官報によれば日本海裂頭条虫症は年間数十例のオーダーなので大会で発表されるのは氷山の一角なのだ。一方、同官報上にはアニサキス症例数はこの条虫症の一桁上で凌駕する。そうなると、この大会でアニサキス症関連が無かったのは解せない(0なので一角にもなっていない)。
アニサキス症は海産魚(待機宿主)に潜む病原幼虫経口的摂取により、体内で寄生・穿孔する疾病(胃/腸/消化管外アニサキス症)とその虫体構成/包含蛋白等が毒素(アレルゲン)となってアニサキスアレルギーのダブルで人々を苦しめる。つまり、病気発症の範囲は広くなる(表現が適切かどうか…)。どちらかの軽症をも含めれば、日本人で夥しいアニサキス症があるはずだ。そのような背景から、感染症医はこの疾病発症を当たり前、陳腐と捉えているかもしれない。そうなると学会発表なんて大袈裟と判断されたかも。だが、本大会で積極的に披歴いただき、医師・検査技師それと偶然目にする私のような捻くれ獣医師が共有出来得る形にしていただければ有益であると感ずる。
生物毒性中毒と感染症の峻別
前文のアニサキスアレルギーに驚かれた方もいらっしゃるかもしれない。つい最近になって認識されたからだ。コアカリ獣医寄生虫病学教育では現在も埒外である。これは蕁麻疹を主徴とし血圧降下・呼吸不全・意識消失等アナフィラキシー症状を呈す侮れない疾患である(国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト)。少し整理するとアニサキス症は感染症+生物毒中毒の複合疾患である。それゆえ公的決めごと上、複雑な事情が醸成された。
まず、古典的な消化管におけるのアニサキス症に対し、かなり以前から食中毒という名称を付与された。食物摂取・その原因で急性発生する病気に食中毒とする気持ち・感覚はまだ解る。時が経ち1999年/2012年の「食品衛生法」改正でアニサキスが食中毒原因物質とされ、診断した医師は保健所への報告が義務付けされた。ここでアニサキス(食)中毒が公的名称となった。当時、アニサキスアレルギーは今より一般に認知されていなかったが、後にムシの生物毒面からの悪さが判明したらきっと混乱するから、名前だけでもアニサキス感染症とする等とした方が良いとした(たとえば、浅川 2021aの68頁)。実際、アレルギーが知られた。加えて「食品衛生法」改正時、ヒトを(終)宿主としない寄生虫由来の生物毒(たとえば、ヒラメ刺身のクドアや馬刺の住肉胞子虫の蛋白成分毒素)による食中毒も報告義務の俎上に載っていたのに関わらず、これはアニサキスアレルギーのように原因生物毒があれば、アレルギーなり中毒が起きるわけだ(寄生虫は死んでいても)。周知のことだが、中毒・感染症の混同は予防・治療面で厄介である。大会研究発表はこのような状況を整理する上でも良い機会である。そのためにも、その口火となる一般講演におけるアニサキス症等の報告が欲しい。なお、前述した生物毒性中毒と感染症との峻別必要性については、本学会の第35/36回大会における私の講演を総括した解説(浅川 2025)でも言及した(参照:「人と動物の共通感染症の現状と課題-特に野生動物専門医の視点から-」)。御参考頂ければ幸いである。
ワンヘルス主要課題の一つAMR関連と進化適応
飼育動物に予防・治療用に投与された抗生物質により抗微生物薬耐性AMR(Antimicrobial Resistance)現象が、医獣系に広く生じつつあるし、具体的に医系でも悩ましい事案として重視されていることを要旨で実感した。そもそもAMRはワンヘルス主要課題の一つでもあるため(浅川 2025/2026、浅川・村田 2026等)、こちらも注目せざるを得なかった。ただ、抗菌剤ゆえ標的病原体は、無論、細菌一択となる。ならば、ムシ屋としては守備範囲外で私の物言いには嫌々・仕方なし感が出てしまう。
もっとも、AMRはムシでも問題視され、たとえば、反芻家畜の胃虫(線虫)で抗生物質の一種イベルメクチン耐性が生じている。このことは、つい先日、このweb上でも動物衛生に関する体系的教育動画の視聴報告内で言及した(参照:「家畜防疫関連の最新情報を一気呵成に把握!-啓発活動の源泉として」)。もちろん、ムシ屋の端くれとして、当該現象が(家畜寄生虫でも)起きていたことは以前から存じていた。したがって、そこ(浅川 2026)で強調したのはAMR寄生虫自体ではなく、動物衛生関係者等からのこれが公式的に披歴に表明された事実であった。
それでは耐性菌関連に戻るが、これには幾分身贔屓的きらいがある。前職・酪農学園大学獣医学群二名同僚が関わっていた点が特筆された(162および220頁)。まず、当該大学長の岩野英知 教授(生化学)が耐性菌感染症へのファージを用いた治療戦略が紹介され、当該大動物病院における多剤耐性緑膿菌による犬の慢性外耳炎性を初めてファージ単独治療成功を契機にしたことが披歴された。多様な宿主細菌の耐性化機序やファージ薬剤作製の基盤等、基礎・応用両面の試みが語られた。もう一人、臼井 優 教授(食品衛生学)は当該大附属農場を舞台に家畜由来AMRが堆肥-土壌-作物を介した耐性菌出現機序をプラスミド伝播が判明し、ヒトや環境等広範に拡がる危険性を指摘した。これは畜産を包含する農学に密接に関連するだろう。
前述・岩野先生が対象としたファージに絡むが、麻布大学獣医感染免疫・佐藤祐介先生(馬連鎖球菌症ファージセラピー)が宿主細菌への特異性(広~狭宿主域への特化現象=特化型)の適応進化(定着最適化)を究極要因的切り口で解説していた(147頁)。直接的アプローチ(至近要因)はゲノム上の機能喪失/獲得機能である。一方、こちらは臼井先生の内容にも関係するが、北海道大学大学院保健科学研誘院・大久保寅彦/山口博之両先生による自由生活性原虫(アメーバや繊毛虫)と共生する環境クラミジアAMR能がプラスミドを通じ拡散過程に関わることを示した(164頁)。私は宿主―寄生/共生体関係を進化・生態面から眺望するのが好きで、時間に余裕がある今(前述)、たとえば、古生代地史と真獣祖型宿主との関係史を俯瞰した(参照:「大地と獣」)。こういった妄想の精度を高めるためにも、以上先生方の研究展開に期待している。獣医学徒の希望ワンヘルス職創出との関連性
カール由紀先生ら福岡県保健環境研究所チームが愛玩動物のAMR性腸内細菌保有実態は来年2027年に運用開始される福岡県ワンヘルスセンターの職務を類推する上で有益であった(356頁)。ワンヘルスキャリアパスを目指す獣医学徒が注目する発表ともなろう。感染症医と患者との問答で前述したように(患者さんの娘さんが獣医師希望と設定したくだり)、獣医師職域は多様であるものの(浅川 2025b)、獣医学徒はワンヘルスへの関心が高い。前職で野生動物(医)学を兼任した経験からの結論である。そのようなことから、福岡県ワンヘルスセンターの船出は未来の獣医師も心待ちにしているはずだ。
また、この施設はconservation medicineを具現化するハードである。したがって、繰り返しとなるが、この英単語に適切な漢語を早急に与えて欲しい。これは医系と社会双方にインパクトを与えるキャッチフレーズとなり、福岡県以外に第二・第三のセンターを創出するためのプライマーとなろう。
納豆・乳酸飲料・加湿器絡みの細菌感染症
細菌(病)が獣医系に比べ、(ヒトの)医療系で元気なことは述べたが、この中には少々ユニークな報告が彩りを添えた。たぶんにこぼれ話、余話的となるが紹介させて欲しい。たとえば、納豆菌感染症(バシルス敗血症;361頁)で、patientは30代男性健常成人、その血液培養と毎日納豆を摂食した稟告から診断・治療された。慎重な検査結果から単なる汚染では無く、真の菌血症(敗血症)とされた。当該patientには肺結節・塞栓症が認められたものの感冒対症療法で完治したという。
また、加湿器熱という病名が付いたSphingobacterium属細菌感染症(365頁)では発熱・乾性(痰無しの咳)咳嗽のあった18歳男性の例であった。さらに、乳酸菌飲料常飲によるLacticaseibacillus属細菌性の菌血症症例もあった(267および330頁)。要旨にはこれ以外にもプロバイオティクスによる菌血症/敗血症の先例があり稀では無いようだ。名の知れた飲料名も記され驚かせて(面白がせて)くれた。家畜でもプロバイオティクス投与は普通になりつつあり、獣医療でも参考になろう。以上は、ヒトのライフスタイルを反映した細菌感染症で、実にヒトらしい。
愛玩動物看護系からも演題-shelter medicineの和製漢語も悩ましい
英語shelter medicineも和製漢語にし難く、一般書である拙著(浅川 2021b)では苦し紛れにシェルター医学”とした。出版社が読者の便を考え、漢語表現を強く要望されたが、シェルターへの充当する漢字として避難所あたりも候補に挙がったが却下された。しかし、ヒト系には、たとえば避難所医学は無く、どうやら愛玩動物医療独特の枠組みらしい。確かに、日本赤十字社等のHPでは避難所で留意すべき疾病とその医療面での対応は示されるが、shelter medicineのような確固たる名称は見えない(あるならば乞ご教授)。このような背景なので、いくら窮余の策“とはいえシェルター医学(前述)なる語を用いたが、私は猛省をしている。
「ならばカタカナ表記にすれば良かったのに」となろうが、web上でほんの少しみても、シェルターメディシンと…ディスンの二通り(後のしがシorス)があり困惑する。ある程度想定内であったが、このような複数表記法の生起も私が漢字に固執する理由の一つとなる(たとえば、この懸念は浅川 2025/2026、浅川・村田 2026)。なお、世界獣医師会2026の企画には“災害獣医療という名称が見えはしたが、たので、企画が見えたので、動物虐待が起きる場はブルーダーや飼育崩壊が起こるようなケースもあり災害だけに関わらないし…。
枝葉末節的な日本語論はさて置き、被災された人々と避難所周辺に起居される人々の健康被害は可及的速やかなる対応は、野生動物医にとっても使命である。前勤務先では石巻と南相馬で野生動物が介在する感染症疫学調査に赴いたことがあったが(浅川 2021a)、動物虐待面ではなかった。さて、その災害関連の大会企画に戻るが、愛玩動物と一緒に避難所に入った際のヒトの健康被害について論ぜられていた。避難所でペット禁止の厳格な運用は、非難された人々の心情を推し量った場合、難しいと思う。その大会企画を主催・登壇されたのがヤマザキ動物看護大学・木村祐哉先生たちで(149と150頁)、シンポジウム総合タイトルは「地震被災地で気を遣う人と動物の感染症」が掲げられた。対象となる事例は東日本/能登半島地震被災地における愛玩/産業動物であった。登壇された一人が日本獣医生命科学大学で愛玩動物虐待を法獣医学から阻止する田中亜紀先生であった(田中 2025)。以上から、これら講演ではペット動物が単にヒト感染症のレゼルボア面だけではなく動物福祉面への配慮面からも語られた(と思う)。特に、不慣れなシェルターで極度のストレス下に晒され、あるいは他個体との接触から犬ジステンパー、ケンネルコフ、犬パルボウイルス感染症、レプトスピラ病等が懸念されると要旨には記されていた。
先に述べた法獣医学は拙稿前方に出た和製漢語にも関連するので補足する。田中先生が掲げる法獣医学とは、forensic veterinary medicine等からの翻訳だが、この語自体、既に明治時代に登場した和製漢語である。造語された背景は当時、問題多発した公衆/動物衛生問題を取り締まる(警察獣医学の一環で)生じた。浅川(2021b)の第1刷時点ではこれに気付かず、第2刷以降に追記した。なので、私にとって少々トラウマを伴うのであまり話をひろげたくはないが、和製漢語/再定義に関わる。私がこの語を使った文脈は野外放置され著しく変質した死体死因解析にヒト医療の法医学応用が必要とした主張に沿って用いた。
また、浅川(2021b)に着想を得、浅山(2022/2025)が上梓、法獣医学という語がweb媒体上で見え始めたが、ここで述べただけでも①公衆/動物衛生、②動物虐待、③変性死体死因の異なった意味合いが法獣医学に含まれる。浅川・徳宮(2023)で言及したように、和製漢語には生物分類学で混乱元凶となるホモニム(異物同名)問題が付き纏うので、再定義をする際、既文献を慎重に整理・確認することが肝要である。
まとめ
拙稿は以下節等を立て展開をした。まず、ワンヘルスの学び保全医学を啓発する一環で教育講演することになった背景を示した。そして、感染症医が診療時、理念ワンヘルスを使用する具体案としてこの理念を追求する科学conservation medicineを瞬時理解のための表意文字で構成される適切な和製漢語造語を提案した。たたき台として獣医系で頻用される保全医学、あるいは既に医系で知られる保全医療を提示したが、その決定は感染症医はじめ医系の方々に委ねた。この漢語を診療や啓発活動で用い、ワンヘルスを共通知=文化として醸成し、新興感染症へ立ち向かうツールとして欲しいこと、そこでは医獣連携が要で、その口火としてNTMやAMR菌、真菌や寄生虫病等の事例研究が必要と述べた。私の教育講演題名であるワンヘルスを追求する保全医学/医療のpatientは誰/何を示すのかは本web公開中の講演テキスト上確かめていただきたい。
引用文献
- 浅川満彦.2021a.野生動物医学への挑戦-寄生虫・感染症・ワンヘルス,東京大学出版会,東京:196 pp.
- 浅川満彦.2021b.野生動物の法獣医学,地人書館:256 pp.
- 浅川満彦.2024.真菌としての微胞子虫およびその疾病に関する情報整理.北獣会誌,68:391-396.
- 浅川満彦.2025a.「人と動物の共通感染症」の現状と課題-特に野生動物専門医の視点から.日臨微生会誌,25:11-19.
- 浅川満彦.2025b.獣医さんがゆく-15歳からの獣医学.東京大学出版会,東京:240 pp.
- 浅川満彦.2025/2026.ワンヘルス/保全医学を公共知とするために(その1~7).北獣会誌,68/69:447-449:505-507,560-562 / 12-14,58-60 / 96-98.(注:その7は印刷中なので頁不明)
- 浅川満彦・村田浩一.2026.君たちの保全医学-地球環境を守るために知り・学び・変わる.文永堂出版,東京:印刷中.
- 浅山わかび.2022/2025.ラストカルテ,小学館,東京:全10巻.
- 田中亜紀.2025.法獣医学者が解き明かす動物の事件簿,岩波書店,東京: 224 pp.
- 連絡先:浅川満彦
E-mail mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com