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■【寄稿】家畜防疫関連の最新情報を一気呵成に把握!-啓発活動の源泉として

2026-03-05 17:01 掲載 | 前の記事 | 次の記事

中央畜産会謹製家畜疾病資料冊子の一つ

浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授)

感染症時代を生きる市井の人々を相手に呻吟…

2025年3月末、私(評者)は約40年間勤務した獣医大を定年退職、同時かつ自動的に頂いた肩書(名誉教授)を使わせていただき、退職数年前から職務外の合間、気ままに書き散らかしていた一般向け雑文・書籍刊行(浅川 2025等)や文化教室の講師等に傾注をしている。たとえば、前者であれば本稿掲載いただいた文永堂出版「JVM NEWS」の他、緑書房『いきもののわ』(そのうち“野生動物”のカテゴリーで連載中)に投稿、一方、文化教室講師の方は朝日カルチャーセンター新宿校で機会を頂戴している(その概要は浅川・村田 2025の冒頭で紹介)。加えて本媒体での「文化としての獣医学!を再び」も御確認いただければ幸いである。

問題は何を書き・話すかである。教員時代に心がけたように“おしゃべり袋”(浅川 2021)とならぬよう著者専門性(寄生虫[病]/医動物学および野生動物[医]学)に軸足を置くことを心掛けた。もちろん、いきなり本題に踏み込むことは絶対ダメ!というか、危険!受講者・読者が直ぐ去る。そうなると次は無い。学生さん相手のように「いいから黙ってきけ!」は、絶対、あり得ない!

つまり興味深く、ためになり(当然正確)、わかり易く“獣医学/獣医療とは何か”から徐々に説き起こさないとならない。やってみて解ったが、これが鬼門だし試練。加え、相手は特にコロナ禍/鳥フルで苦しめられ、今もアフリカ豚熱/ニパウイルス感染症/SFTSが迫りくる日々にある。つまり感染症の時代ど真ん中に生きておられる。だからと言って(基礎獣医学のような)基盤は無い。普通科高校2年生あたりを想定しつつ、感染症最新情報を導入時に折々関連付けないとならない。しかも、ウイルス感染症自体、私の専門外。何が正解なのかすら解らぬ中、毎回、五里霧中で準備に勤しむ。

高質な資料冊子の供給元が動画作成

そういった切羽詰まった状況下で広範囲情報源をバランス良く、しかも日々締め切りが迫り来る中準備。短期間で入手出来得るツールが希求されていた。そのような状況で北海道獣医師会誌上で「令和7年度臨床獣医師防疫体制強化事業に係る産業動物獣医師防疫体制強化研修(eラーニング)の受講案内」を目にした。無論、直ぐ申し込んだ。動画視聴はその北獣誌巻号刊の月末終了とあったからだ。さらによく読むとその研修動画は“公益社団法人 中央畜産会”が作成したもので、うち計25回分を視聴できた。各回約40分、資料としてスライドハードコピーがありほぼ全回分あったが、本稿ではそれらに関し自身専門に絡め概観・印象を簡単に記述し備忘録とした。

まず、動画視聴対象となる家畜診療専門臨床獣医師ではない私に視聴をご許可いただいた中央畜産会に深謝する。また、ついでのようで心苦しいが、当該畜産会には機会があればお礼を申したいと願っていた。現役時代、勤務先事務室にこの会謹製の資料冊子(写真はその一例)が数冊積まれ「希望者はどうぞお持ち下さい!」との添え書きあり、毎回、持ち帰っていた。

その冊子、品切れになることはなかったので「残はどうなったのか」と心配したものだ。内容の質の高さに加え、改訂版も刊行され啓発に熱心であることは認識していた。これら冊子は今も自宅書棚にあり必要に応じ拝読している。その度にいつか同会へ謝意を表したいと願っていたので、今回、良い機会を得た。そのような中央畜産会作成の動画教材。どれ程満足させていただけるのか期待しつつ視聴した。

なお、産業動物獣医師防疫体制強化研修(eラーニング研修)は、日本中央競馬会畜産振興事業である臨床獣医師防疫体制強化事業として実施されている。

研修動画全体の枠組みと課題

本題に戻る。北海道獣医師会誌上の案内文(前述)には研修動画群の枠組みは次の三部講座に大別されていたので、これに従い1.防疫体制強化、2.特定疾病等および3.特用家畜等疾病に従い、視聴動画“タイトル”(略記改変)を区分け以下列挙した。

1.防疫体制強化

動物検疫、日本における家畜防疫体制(家伝法)、畜産現場における効果的消毒(マイクロMIX法)、飼養衛生管理基準、野生動物対策(イノシシ生態と防疫)、同対策(カラス被害)、特定家畜伝染病防疫指針、養鶏現場獣医師が考える高病原性鳥インフルエンザ発生状況・疫学・防疫

2.特定疾病等

牛伝染性リンパ腫(BLV診断)、同リンパ腫(病態)、牛疾病(ヨーネ病)、牛サルモネラ症、特定家畜伝染病(豚熱)、同病(アフリカ豚熱)、同病(口蹄疫①)、同病(口蹄疫②)、同病(高病原性鳥インフルエンザ)、ランピースキン病(防疫・病性・診断)、豚下痢性疾病(PED等)、豚疾病(呼吸器病)

3.特用家畜等疾病

あひる・うずら・だちょう特用家きん飼養衛生管理、養蜂飼養と疾病対策(養蜂)、同対策(蜂病)、めん羊主要病気と寄生虫管理、山羊飼養衛生管理と取扱い、ジビエ衛生管理

全体的枠組みは“1”の総論、“2”および“3”の各論で、特に2は牛、豚、緬山羊、家禽および蜜蜂の代表的感染症がおさえられ、期待通りの高質な研修内容であった。ただ、非典型的飼育種を含む野生動物医学を専門の一つとする私としては、“3”は鳥類のみで明らかに物足りないし、走鳥類であっても高病原性鳥インフルエンザにより日本各地で殺処分されたエミューの欠落は如何なものか。また、哺乳類は皆無で、せめてアルパカあたりは欲しい(以上2種の特用家畜・家禽は私自身関わっていたので、ややバイアスがあるが…;高野ら 2016)。次年度以降の中で補遺・増補等を期待したい。

獣医学正規課程での使用も是非ご検討を

ただこの研修事業はこれまで三か年度続き、今年度で終了するようなので安定した状態ではない。そうなると、より発展的な応用が懸念される。もし、これが解消されれば、リカレントや卒後教育のみならず、獣医学正規課程での転用も検討されてよいと思う。今回の動画には動物園水族館(園館)展示動物の検疫・防疫の現状はなかったが、この検疫・防疫の現状や結果により殺処分される現状は、是非、知らしめて欲しい。園館動物は学生にとっては人気ではあるが、華やかな面しか知らないのは片手落ちであるし、激しい競争の末、せっかく園館に就職したのにその凄惨なギャップに退職する遠因だとも私は想像している(浅川 2025、浅川・村田 2025)。

今回の画像でもっとも衝撃を受けたのは、蜜蜂に関してであった。すべてがほぼ初めて知るモノゴトに溢れていた。養蜂編で講ぜられた蜜蜂の生物・生態・行動は、通常の獣医大課程で学ぶことは絶対不可能な優れた教材であり、可能ならば全学部生にも視聴して欲しい。新卒で家畜衛生分野の公務に就き、明日からこの昆虫を家畜として扱え!と言われても当惑だけである。

加えてその姉妹編・蜂病では寄生虫病学的な内容は、もし、私が現役の寄生虫病担当者ならば、必ず授業で使わせていただきたいと思わせる動画であった(遅すぎだ!)。なお、ノゼマに関し分類・病態・診断・対策等の詳細に関しては、どれもこれも、私が苦労して作成した微胞子虫総説(浅川 2024)の作成前に知りたかった情報源であった(無念!再)。もっとも、知らないままで終わるよりは、断然ましである。

総論で法律等の決まりに関しての概論法律や省令等の概説があり、これが理解し易くとても勉強になった。一般化するのは短絡過ぎるが、そもそも獣医師とは臨床であろうと、伴侶・産業動物であろうと、また、たとえ公務員であっても家畜衛生(動物衛生)/公衆衛生等と部署が異なればその法体系の理解は厳しいものである(私見御容赦)。実際に困った状況に追い込まれ(要するに、自身がやらかし叱られ)、つまり切実な状況に追い込まれ、必死に学習するものである。これは私自身の経験であるので、間違いない。もっとも、このような個人的経験を広げるのは無理があるが、“防疫体制強化”の画像はそのようなギャップを埋める上で参考になるはずだ。

ワンヘルスとの関連性

寄生虫(病)学専門家としては「めん羊の主な病気と寄生虫管理」に注目したが、その中で捻転胃虫等線虫症予防としてイベルメクチン等駆虫薬の全頭への定期的投与を完全否定されていた。しかもコアカリ教科書を、前面に引き合いに出され、非常に衝撃を受けた。薬剤耐性線虫を生まないため当然の主張である。

でも、前世紀末まで、到底考えられない言説で、その背景に今般の抗生物質耐性菌問題等が追い風になったのだと想像された。“薬剤耐性は細菌だけの話で、寄生虫は別”という風潮に私も現役時代から大いに不満があった。しかし、公言することは憚れ、5年ほど前になってやっと、私が上梓した拙著(浅川 2021)の中で、この点に言及することができた。

それでも当時の身分は、講座主任的な立場ではなかったので、かなり“気を使いながら”記した。ちなみにその本は要するに、寄生虫等病原体や動物園等非典型的飼育/野生動物等をワンヘルスという観点から論じた著作であった。その拙著で宿主動物が離島に隔離された場合、寄生線虫の絶滅現象が起きることについて言及した。これを家畜線虫病のコントロールに応用してはという妄想の中での付記である(同書34頁)。駆虫薬の予防的投与は当時も今も反対だし、ここで講ぜられたように明確な否定は百万の味方を得た気持ちである。ただ、妄想ついでに申せば、もう一歩踏み出されワンヘルスの観点から(環境にも動物にも人にも優しい)、線虫コントロールの代案を示して欲しかった。まあ、それも次の動画改訂版を期待しよう。

そうそう、ワンヘルスで思い出したが、国内外の獣医学、特に日本の動物衛生界隈では、最近、ワンヘルスという文言が飛び交う(喧しい)が、この一連の研修動画内にはその文言を拝聴する機会がほとんど無かった。実に興味深かった。これも福岡県のワンヘルスセンターが本格運用化以降は異なる展開となるのだろう。楽しみにしたい。なお、ワンヘルスや野生動物医学となれば、本講座でもジビエ、イノシシ、カラス等野鳥の動画タイトルが見えるように充実していた。が、いや、そのためコメントは確実に長大になる。また、直近の啓発雑文や講座での基盤としての情報吸収はできたので、それらに関してのコメント等は別機会にさせていただく。

引用文献

  • 浅川満彦.2021.野生動物医学への挑戦―寄生虫・感染症・ワンヘルス.東京大学出版会,東京:196 pp.
  • 浅川満彦.2024.真菌としての微胞子虫およびその疾病に関する情報整理.北獣会誌,68:391-396.
  • 浅川満彦.2025.獣医さんがゆく-15歳からの獣医学.東京大学出版会,東京: 240 pp.
  • 浅川満彦・村田浩一.2025.君たちの保全医学―地球環境を守るために知り・学び・変わる.文永堂出版,東京:印刷中.
  • 高野結衣ほか.2016.道内で特用家畜・家禽として飼育されるアルパカ(Vicugna pacos)とエミュー(Dromaius novaehollandiae)の寄生虫保有状況に関する予備試験.北獣会誌,60:427-429.