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■【寄稿】医系学会で知り得たヒト感染症概況-2026年2月に開催された日本微生物学会 第37回大会における研究概要から垣間見えた課題と雑感から 前編

2026-04-06 17:59 掲載 | 前の記事 | 次の記事

浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授)

ワンヘルス科学“保全医学”啓発の一環でムシ屋演台に

第37回日本臨床微生物学会総会・学術集会[期間:2026年2月13日~15日、会場:幕張メッセ国際会議場、会長:髙橋 孝 北里大学大学院、メインテーマ:臨床(医)と微生物検査(師)との更なる絆]が終了し約二か月経った。3月30日に受け取った大会事務局からの礼状によると3,100名を超える参加者があったという。この数は医系の集まり(以下、大会)としても、大盛会であったと思う。

内容的には獣医畜産や農業環境系等にも資する研究発表も多々あった。これら分野を横断的に扱う本媒体をお借りし、当該大会で発表された研究の概要を本拙稿にて著者(私)が興味を惹いた点を主軸に絡めて記したい。

確かに医系の集まりではあったが、私自身、医師/医学者ではない(ウイキペディア「浅川満彦」)。獣医大で寄生虫(病)学を担当し、野生/エキゾチックペット/動物園水族館動物等の獣医学/獣医療で扱われる非典型的な動物から見出される寄生虫(特に、蠕虫という大サイズのムシ)を研究対象とした者である。それも、2025年に定年退職し、今はその研究生活を回顧し、雑文を出す隠居である。もし、本稿で私の専門性orその身分を示す場合、長くなるのでムシ屋とする。

保全医学はあくまでもサイドビジネスとして関わる

一方でムシ屋とは別の側面もある。様々なムシを得るため野生動物(医)学分野の専門職修士MSc WAH (Royal Vet Coll)や国内の当該学会認定専門医の資格を得、前述の獣医大で野生動物(医)学教育も兼任しつつ(浅川 2021a)、専用施設“野生動物医学センター”を約20年間運営した。その施設時代の後半は野外放置の腐った死体の死因を探ったので(or探るように期待されたので)、“野生動物の法獣医学”(浅川 2021b)にも片足を突っ込んだ。

野生動物医学とはワンヘルスの学び“保全医学”(鈴木 2004)の一領域で、それも獣医学に軸足を置く(以上、浅川・村田 2026)。長くなったが、そのような経歴・立場から大会最終日の教育講演で「医学・獣医学・保全生態学の学際分野“保全医学 Conservation Medicine”の標的はワンヘルスとして、そのpatientは?」というタイトルで話すこととなった。そのため、医系の集まりではあったものの部外者の私がその学会に参加することになった。

教育講演目的はヒトの診療でワンヘルスを適切使用する方策提案

その私が関わる野生動物医学or保全医学のお尻にはいずれも医学が付く。医学(獣医学)とは患者(患畜)の存在が前提の実学である。それなら「保全医学の患者/患畜は誰/何?」を示すことでワンヘルスを解ってもらうことを狙った。ところで今日、問題は患者/患畜の呼び方である。

ヒトの患者では“様”という語尾が必要である。大昔は医術=算術と揶揄され、現在は医療・健康ビジネスという語が権勢誇る中で、患者様=お客様=神様なのは理解出来る。さらに獣医療も“獣医はビジネスだ!”という決め台詞の漫画があったように、患畜(本当は飼主)も神様である。昭和の獣医師としては、市中動物病院内で動物の名前(愛称)を“何々ちゃあーん”と聞くのはなんだか落ち着かないが、いずれにせよヒト/動物の患者/患畜を一般的に指す名詞が面倒な状況になったので拙稿ではpatientで統一した。

また、私の講演題名にある疑問「保全医学のpatientは誰/何?」の答だが、これはワンヘルス理念を理解して初めて会得出来るので、ここではリープしヒトの感染症専門医(以下、感染症医)が対峙するpatient(ヒト個人や人々)へこの理念(とその延長にある保全医学)を日頃の診療現場で如何に応用するかを簡単に示したいが、こちらも少し回り道させていただく(後述)。

(獣)医者の不養生で欠席、リモートで代替

以上が私の背景でありこの大会に呼ばれた理由であった。それにしても教育講演題名が異様に長い。当初、私には前述背景でワンヘルスの何かでヨロシク!とボヤっとした依頼であったが、結局、当方からの提案でこれに落ち着いた。よって、この長大題目に訝られたとしても、全て私の責任であるが、題名適否は一先ず脇に置いて、参集いただくのは前述のようなヒトをpatientとする感染症医等医系専門家の方々である。

具体的には感染症専門医・同看護師や病原微生物に特化した臨床検査技師等の皆さんである。ところが、私は動物をpatientとする獣医師/獣医学者で、しかも、そこでもマイナー、というか「どうせ趣味だろ!」的扱いの野生動物が絡む話をたった30分間で、おまけに話術力が拙い者が、こういった門外漢の皆さんに理解いただくのは端から無理と諦めていた。そこで、自習用テキストを書き上げ、文永堂出版のJVM NEWS投稿し、掲載いただいた(「前編」、「後編」)。また現在(2026年3月下旬)、検索エンジンで調べると大会事務局がJVM NEWS初校を元にした「PDF」もヒットする。ただし、そちらは画像が足りず、また大会が終了したので永続的ではない。だが、いずれかをお読み下さったら、十分理解出来得る内容との自負がある。

と、長々前置きをしたものの、当日、私は体調不良で欠席した。穴をあけないため、動画を流し対応いただいたが、換言するとその場不在で本拙稿を作成するとなると、大会講演要旨集(以下、要旨集)を頼るしかなかった。なお、件要旨集は「日本臨床微生物学会雑誌」(第36巻、Supplement 1)として編まれ、販売価格設定も見えるので入手希望者は当該学会に問い合わせていただきたい。

このようなことで、まず講演座長・春木宏介先生(協医科大学越谷病院臨床検査部主任教授)や大会事務局には大変ご迷惑をかけた。事後、春木先生から無事終了、盛会と連絡をいただき安堵した。春木先生には心からお詫びしつつ感謝をする。また、柔軟に対応くださった大会運営事務局・幕張メッセの祐乗坊/朝倉両氏に謝意を表す。さらにお二人には前述PDF版テキスト公開でも御尽力いただいた。

講演結論はワンヘルス/保全医学を理解いただく適切な和製漢語の造語/提示

以下、長くなるので、一先ず前々節末提示した専門医がpatientと向きあった際のワンヘルス応用例を示しておく。まず、この理念を標的とした学びがconservation medicine(浅川 2025a・2025/2026、浅川・村田 2025等々)である。これを鈴木(2004)は“保全医学”とした(「エゾシカをめぐる個体群管理と感染症の話題」)。だがこれは、(鈴木も私も獣医系であるので)医系内では浸透していないように感ずる。ならば代替となる漢語を医系から出して欲しいと講演最後で結んだ。

無理して漢字に拘らずワンヘルスは“一つの健康”で示せば十分ではないか。簡単な日本語だし…。いや、やはり、表意文字の漢字には敵わない。たとえば、すっかり年末恒例となった“今年の漢字”一文字。2025年は“熊”であった。これを示された途端、誰しも瞬時に納得する。表意文字の威力は物凄い。一方、“一つの健康”の文字列では無理。そこで、間接的だがconservation medicineの方を漢字表記にし、これを介し欧米発の抽象概念(たとえば哲学や経済等)を解ってもらおうとなった。私は密かに“和製漢語化作戦”と名付けた。

鈴木(2004)が造語した“保全医学”であるが、医系ではとりわけ“保全医療”と混同される危険性がある。ならば、いっそのこと新語を作らず“保全医療”を再定義し、conservation medicineの訳語として充当してはどうかと講演でそのように結んだ。現時点(2026年3月下旬時点)でこれを採用したとの連絡は無い。感染症医の皆さん方で論議をされているのだろう。Patientや一般の人々はこの漢語から遡り、ワンヘルスの真意に自然と達する。それがあってこそ予防含む有効な感染症診療へと進むと思う。以上が私の結論(解答)である。

“保全医療”と保全/保護の再確認

それにしても、“保全医療”の意味が医療実務とかけ離れている点がネックである。ご存知のように、この意味は(ヒトの)医療裁判等において医療記録保存する(させる)法的行為である。一方、野生動物専門医はconservationを動物とその生息環境を積極的にまもり、時に持続的利用する所作を意味し漢字は“保全”を充てる。似た語が“保護”でこちらには積極性or利用は含まず単に見守るpreservationである。実は保全/保護は野生動物専門医間で時々論議俎上に載る。加えて“保護”も加わるし、“愛護”延長線(の負傷動物)“救護”もある。鬱陶しいので拙著(たとえば、浅川 2021a・2025b)内で動詞として使う際、一括して平仮名“まもる”とした。

医系の方々には想像も出来得ないような様々な考えを有す団体・人々が動物界隈には存在する。いきおい言葉遣いは慎重になるのだ。もちろん、ワンヘルス直結のconservation medicineは“保全”で、もし、保護医学とされたら救護(前述)の基盤と誤解されるだろう。したがって、鈴木(2004)の“保全医学”は適切である(注:なお“保全医療”はpreservation of medical records?)。

感染症医とpatientの模擬やり取りから

以上のように、ワンヘルスの標的科学を漢字表記することで、漢語化作戦(前述)が成功する可能性が高まった。次いで、感染症医がこの漢語をpatient(以下問答では“患者”)に対し、どのように使うかだ。以下にその問答をシミュレートするが、あくまでも獣医師である私が想像したものなので不適切だと思う。お許しいただきたい。

当たりを付けた感染症を念頭に感染症医が問診開始。適切な稟告を得るため、病原体生態と生息環境の説明をする。その際、ワンヘルスの理念の説明が要る。だが、そのカタカナを言った途端、患者はキョトンだ。“一つの健康”と言っても反応は同じ。当然、ここで“保全医学”を出すのも尚早。おそらく、そこで患者との間には次のようなやり取りが始まる(申し訳ないが、いわゆる“三分診療”は諦めて欲しい)。

  • 感染症医 人が住むところにクマ/シカ等が出てきて、色んな所で迷惑をかけますね。そうですか、あなたの所も同じで…。事実、去年(2025年)の漢字も熊でしたものね。今年になってからは、奈良公園から大都会・大阪にもシカが来て大騒ぎでしたね。でも、こういった野獣は人を襲ったり、作物を荒らしたりばかりではなく、時々病気(病原体)も運んできます。なので、NHK『ダーウィンが来た!』に出るような獣学者と獣医さんが組んで、動物が持つ病原体を調べています。ご存知でしたか?実はそういった獣医さんが、私たち感染症専門医ともつるんで、ヒトに罹る病気を調べているんですよ。
  • 患者 えっ、獣医さんって犬猫を診る人たちでしょ?大丈夫?先生(感染症医)も付き合っているの?
  • 感染症医 ええ、情報交換をしてますよ。それに、コロナ禍の時でも、獣医さんがたくさんテレビに出てましたし。もちろん、その人たちが、ここ(ヒトの病院)に来てあなたを直接触るわけではないのでご安心を(笑)。」
  • 患者 いいことをきいた。娘が常々獣医さんになりたがっていたので、帰ったら早速話すよ。
  • 感染症医 それなら、僕ら感染症の集まりに、時々出る獣医さんが出した本『獣医さんがゆく-15歳からの獣医学』(浅川 2025b)が役に立つはず。獣医さんの仕事をいろいろ書いてあるし、もし、娘さんが野生動物や動物園水族館を目指すなら、『野生動物医学への挑戦-寄生虫・感染症・ワンヘルス』(浅川 2021a)もおすすめ。その獣医さん、獣学者と共同研究する野生動物専門なんでね。
  • 患者 でも、うちの子、本を読んでる姿、見たことないなあ。たまに本を開いていると思ったら漫画ばっかりだし…。
  • 感染症医 なら丁度いい。その野生動物医の娘さんが漫画家で獣医ネタの漫画『ラストカルテ』(浅山 2022/2025)を最近出したんでプレゼントしては?(問診に戻り)ところで、ご家族の具合はどう?あなたの近くにいた動物からうつるのも沢山あるんで聞かせて?あのコロナ(のウイルス)も最初は外国のコウモリにいたけど、その住処を壊した時、現地の人にうつったの。それが、あっという間に世界中にひろまって大騒ぎになったんだよね。

以上問答で、ワンヘルス理解の前振り(序論)としては十分だろう。

前世紀末の欧米若造がconservation medicineを創学

そして、一気に“本陣”に切り込む。

  • 感染症医 実は、コロナの前から野生や環境から感染症が続々現れると予想されていたんだよ。さっきの野生動物獣医さんのような人たちが欧米にもいてね。で、コロナは想定内だったわけ。そこで前世紀終わり頃、医大・獣医大生と大学で生態(環境)学を学ぶ学生さんが膝附合わせて話しあっているうちに、有効な感染対策をするアイデアが生まれたんだよ。

と、三つ丸ベン図描描きながら、それらの三つの丸に医学=人の健康・生態学=環境の健康、獣医学=動物の健康、最後に交わった部分を“一つの健康”と記し、そこを指差しさながら、

  • 感染症医 私たちはこのアイデア“一つの健康”を(この病院のように)ヒトの医療現場で形にしている医師の一人なんだよ。その学問の名前は今、決めている最中なんで、次の時にお話ししましょう。でも、いろんな科学が近寄って新領域を創るのは、これに限らず環境や気象、情報科学なんかが集まって地球温暖化に向き合ってますね。このアイデアを探る医学/医療は出来たばかりだから治療/予防の実例が必要なんです。ですから、あなたはまずこの病気をしっかり治し、この新領域発展に協力してくださいね。もちろん、それで獣医さんを目指す娘さんの健康をまもることにもなりますし。

以上のように、まず、目の前のpatientを大切にしてワンヘルスという理念・概念とその目的を理解してもらう。それを積み重ねて初めて、将来、人々の共通知となる。でも、その学びに知的な楽しみが無いと長続きはしない。私はこれを新興感染症に立ち向かうサバイバル文化の醸成と呼んでいるが(浅川 2025/2026、浅川・村田 2026)、感染症医の皆さんはこれを実践いただければと切に願う。

以下、後編に続きます(引用文献は後編に記載されています)。

後編に続く