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■【寄稿】コロナ禍初頭に注目されたIUCN絶滅危惧種センザンコウ-保有寄生虫等 (中編)

2025-08-15 16:22 掲載 ・2025-08-15 18:01 更新 | 前の記事 | 次の記事

写真2 著者の手元にあるセンザンコウ模型。国外の方がご覧になった際に備えて一言添えておきます。This is NOT absolutely real! This model was made from rubber,and sold at Kasetsart University in Thailand, Oct.,2005.

浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授/非常勤)

連絡先 mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com

前編の続き>

著者の手元にあるセンザンコウ

先程、キモレステス復元図は省いたが、その末裔センザンコウの画像は堂々と供覧したい(写真2)。ただし、この写真のモデルは本物の生体/死体ではない。2005年10月、タイ国カセサート大学獣医解剖学教室でセンザンコウ死体から忠実に型をとり同教室で作られたゴム模型である。当大学主催アジア野生動物医学会学術集会の会場で販売されていたのを著者の野生動物(医)学等教材として購入したのだ。ちなみに価格は1500バーツ(現日本円約7000円。現地物価を鑑みるとかなり高額)。教室運営費獲得として優れたアイデアだと思う。このような背景なので違法性は微塵もない。おそらくその死体は現地官憲当局で摘発されたモノや動物園等飼育個体であったのだろう。

上写真は背側全身像。特にご覧いただきたい部分は、中央写真の頭部および前肢帯拡大像である。前肢爪が発達している。これは主要餌資源のシロアリ生息の蟻塚を破壊し、二次的には樹上生活(木登り等)に適応した形態である。下写真は鱗を拡大した画像で、縦状の線は体毛が変化したとされる。もし、この模型が口内も再現していたら長い舌に驚く。爪で崩した蟻塚の穴からその舌を挿入、その舌表面にシロアリを粘着させて飲み込み胃に直行させる。口腔内は無歯なので咀嚼せず胃の中で小石(鳥のグリッター的)を用い砕き消化する。ゆえにセンザンコウの胃を砂嚢と称する場合もあるようだ。適否は解剖学者ではない著者には判断できない。

いずれにせよ面白い獣である。解剖学教室の強みを生かし、次回作は内部構造も再現した模型を期待したいものだ。もちろん、その前に一刻も早く犠牲となる個体を減らすことが最優先。が、保全活動もまずこの獣について広く知っていただき支援がなければ始まらない。この場合の支援とは予算である。拙著『獣医さんがゆく』(参照:JVM NEWS 2025-06-26)でも繰り返したが、経済なき理想はただの空想(ちなみに理想なき経済は犯罪、経済は生きるための手段)。

余談になるが著者退職時にこのセンザンコウのゴム模型の処遇に悩んだ。結構大きく、“終活”真っ盛りであり廃棄も選択肢にあった。前勤務先に寄贈したくても大学博物館が無いので結局邪魔になろう。そう言えば、この“子”とコンビで授業にて供覧したアルマジロ標本はどうなったのだろう。思い出すと辛くなるので強制終了。

コロナ禍で俄然注目

余談が過ぎた。以上のように、センザンコウの姿は印象的ではあるが、保全上は極めて厳しい現状である。なのにこの獣が日本国内で注目されることはなかった。が、今般のコロナ渦中に原因ウイルスが検出され、一時レゼルボア(自然宿主)“容疑”をかけられた。一時的でも注目されたこと自体、慶賀いや怪我の功名であった。それにこの容疑の疑いは直ぐに晴れたし…。

だが、喜んで良いのか悪いのか。関連して忙しくなるからだ。必ず次のような質問が著者に頂く。

「そういえばセンザンコウにはどんな寄生虫がいるの?」

野生動物専門医中で寄生虫(病)学を専らとしているからである。光栄だし社会貢献や啓発等で図らずもこの資格が生かされるのは嬉しい。実際、2025年前後の定年退職前あたり、東南アジアの某動物園専属獣医師から、胃炎により斃死した飼育センザンコウの病変部から得た蠕虫同定依頼があった。既に標本授受・観察が不可能な状況であったので依頼メールに添付いただいた画像でお答えすることにした。

センザンコウからの内外寄生虫と推定される宿主食性

このような依頼対応では先行例把握が鉄則である。まず、センザンコウとはアジアとアフリカに生息する単一属Manis数種の獣を指す。その寄生虫関連既報告は、案外、少なくないことに驚かされた。いかに不勉強であったことか汗顔しきり。ただこれら全原著の入手はもはや困難なので、チェックリスト(Bartonら2022、Mohapatraら2016)はとても助かった。きっと皆さんも興味があるはずなので(決め付けご容赦)、せめて寄生虫属名だけでも紹介したい。

寄生虫の系統分類等は概ねコアカリ寄生虫の教科書に準じ、分類群(目・科等)中の配列属名ABC順とし、所々で補足した追加情報は抑え気味にコアカリ念頭を心掛けた。なお元々のリスト内でPiroplasmaMicrofilaria等曖昧模糊な名称は情報としてほぼ無価値なので除外。まず、原虫は鞭毛虫TrypanosomaとアピコンプレックスToxoplasmaおよびEimeriaのみであった。ピロプラズマという記述もあったが省いた。後述のようにマダニ類が寄生するのでバべシア等が寄生する可能性が高い。次いで蠕虫相では吸虫が欠落している点は注目された。

センザンコウは水棲動物を摂食しない(し難い)からなのか。ナメクジやマイマイ等陸棲腹足類を第二中間宿主とする吸虫も少なくないはずだし、お馴染みの槍形吸虫の仲間はセンザンコウが好物のアリ(シロアリとは違う?)を第二中間宿主とするのだが…。

寄生性扁形動物では条虫は複数属いる。ダベン条虫科(鶏の方形条虫等の仲間でDiorchiraillietinaInermicapsiferMetadavaineaおよびRaillietina)、膜様条虫科(Hymenolepis)および裸頭条虫科Bertiellaはいずれもコアカリで登場する科である。裸頭条虫科に近いLinstowiidaeのOochoristica属が記録されたが、この属条虫の自然宿主は爬虫類ゆえ、センザンコウには偶発寄生だろう。条虫科ではメジャーなEchinococcusが見えたが文献にはhydatid cystsと併記されていたので、成虫ではなくメタセストーデのステージ包虫である。家畜や道民ではお馴染みのエゾヤチ等で見られるあの白い袋である。この点は“キモレステス-食肉類ライン”がEchinococcusの感染性にも影を落としていなくて良かったと安堵している。成虫寄生ではないようなのでセンザンコウがキツネや野犬のように公衆衛生上の標的(これを理由に捕殺)にはならないのが救われたからだ。

前段の条虫を概観しての感想はセンザンコウが中間宿主となる多様な昆虫や自由生活性小ダニを摂食していたことがうかがえた。以上蠕虫寄生はこの獣の食性を反映しそうだ。つまり寄生虫は宿主の生態を示す生物学的なタグとしてもダメ押し的な有用性が再確認された。道民としてどうしても気になるエキノコックスである。この包虫寄生がセンザンコウで稀事ではないのなら(当該地域の生態系内で常態化しているのなら)、センザンコウがそこで食肉獣の餌資源として組み込まれていることも示唆されよう。

蠕虫のうち多種記録されているのは線虫であったので別に節を立て示す。また、コラム(浅川2025)冒頭で研究エピソードを披露したが、その対象としたのは寄生線虫でもあり思い入れもある。よって少し丁寧に書き記させていただくが迷路に入らないよう配慮する。

鉤頭虫(または棘頭虫)も食性反映して感染

なお、コアカリ的には他蠕虫や寄生性節足動物もあるのでチャチャッと片付けよう。まず、鉤頭虫(または棘頭虫)自体、最近、18Sリボソーム遺伝子の系統発生解析によりワムシ類に近縁とされ、話題が多い動物でもあるが、これまで同様、センザンコウで記録された属のみ記す。いずれも豚の大鉤頭虫等含む大鉤頭虫科Oligacanthorhynchidae科Paraprosthenorchisの他、NephridiacanthusOncicolaIntraproboscis(Giganthorhynchidae)。

Macracanthorhynchusは前述した大鉤頭虫を含む属なのでセンザンコウが動物衛生上、留意すべき側面も示唆される。なおParaprosthenorchisはセンザンコウに宿主特異的とされるが、鉤頭虫も間接発育をし、宿主特異性もそれほど厳密ではない印象なので、中間宿主の昆虫・甲殻類等を摂食する他獣を体系的に調査して結論した方が望ましい。いずれにせよ、このように先程の条虫同様、センザンコウの昆虫食・節足動物食を反映している点は興味深い。

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