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■【寄稿】『獣医さんがゆく』上梓その後と補遺

2025-06-26 16:46 掲載 ・2025-06-26 17:29 更新 | 前の記事 | 次の記事

角野獣医師が現地日本人学校からの依頼で、理科の授業で牛の眼の構造を教えている様子

  • 浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授/非常勤)
  • 連絡先 mitsuhikoasakawa(アットマーク)gmail.com

獣医師は昔から“食いっぱぐれない資格”として見なされていた。要するに供給が需要に追いつかない希少資格であり、ことさらに昨今の公務員数を充足しない状況をご覧になれば実感できるだろう。いや、そのようなのんびりした話ではない。少ないどころか、安全・安心な生活を維持が難しい程のレベルに近い。消防、警察、国防等がお寒い状態で普段の生活をしているのとほぼ同じことだと思う。

定年退職がある一方、憲法で保障された“職業選択の自由”は厳守なので、公務員獣医師数はさらに不足するのは必至。ならば量的劣勢をカバーするにはお一人お一人の質的な向上をして頂くしかない。つまり、現職の公務員獣医師が創造力を発揮し、量の問題を解決せよとなる。前例主義では未曽有の危機では使い物にはならない。だからといって、物量の前に劣勢になったどこかの国で強いられた特攻精神を求めるのは無茶だし、それではまた敗戦する。

でも、負けると多くの人-あなたや私、国民・市民の健康が害される。したがって、この戦いに敗戦という選択肢は無い。ならばどうする?民主国家でその方策を論議するためには、まずその問題点を多くの方々が共有しないとならない。そのような思いで上梓したのが『獣医さんがゆく』(東京大学出版会)であった。幅広く公務員獣医師の職域と対峙する動物の現状を可能な限り詳細に記した。

しかし、さすがに“食いっぱぐれない”職域だけあって、東京大学出版会さんから厳しく指定された量ではコンパクトな器に全てを盛り込むのはどだい無理であった。この媒体であらためて話すのも気が引けるが、獣医師の職域はそれ程までに広大なのである。学生・院生時代含め、四十数年間も獣医大に身を置いたが、これ程までだとは…。

泣く泣く省いた一つが厚生労働省や国際協力機構(JICA)であった。そのような苦渋漂う決断で著したが、刊行直後にうってつけの情報が飛び込んできた。角野(2025)である。どうやら厚生労働省に所属しつつJICAに出向しているという。まず、そういった道があるのかと熟読し、恥ずかしながら初めて知った。もっと早く知っておれば、『獣医さんがゆく』に盛り込んだのにと後悔をしたが、角野(2025)によるとこのJICA長期専門家として加わる当該プロジェクトは2023年開始で、『獣医さんがゆく』が出る前々年なのでどちらにせよ間に合わなかった。

ならば急ぎ補遺しないとならない。いや、実はまだまだ追加紹介しないとならない職が残されているのだが、今回、なぜそれらを飛び越して、こちらを披歴するのかというと、なるほど確かに拙著の事情もあるが、個人的贔屓の方がかなり強い。角野(2025)ご本人は著者が約20年間運営した野生動物医学センターをゼミ生の一人として力強く牽引してくれたからである。著者共著としても、当時刊行した報「長野県内で捕獲されたアライグマProcyon lotorとアメリカミンクNeovison visonの寄生蠕虫類保有状況」が見える程信頼している。筆頭が無いのはちょっぴり残念だが今後に期待しよう。

まあ、それだけ期待していたが奴さんの卒業時、“バカ”呼ばわりをした(ようだ)。農林水産省を受け不合格と報告をして来た時、罵詈雑言を浴びせかけた(ようだ)。そのエピソードが角野(2025)冒頭にあった。著者自身、受験には苦い思いがあるので、難関の国家公務員試験で落ちたとしても、決してこのようには詰らない。それもそのはず、その悲報を当方にした際、彼自身あまり試験準備しなかったというではないか。

先程述べたように公務員は“前例主義”の権化で、それは納税者を公平に遇する点で必須スキルである。当然、その採用試験は当該スキルの確認である。よって、過去問習熟は不可欠。それを怠っていたと知り先程の悪口となった。著者の“バカ”の定義は明確な因果関係が理解できないことだから、同じようなことを知り得れば、今日でも類した反応をするだろう(さすがに言葉を選ぶだろうが)。

でも今、彼は日本の獣医界と人類福祉に貢献している。何しろご自身とご家族が楽しんでおられるようだ。三方良しなので結果オーライ。そうそう、本稿の前の方で披歴した拙著だが上梓して僅か3か月後、3刷になったという。東大出版会さんも奇跡!ととても喜んでくれた。めでたしめでたし。購入頂いた皆様に感謝致します!

  • 引用文献
  • 角野敬行(2025) 海外で活躍する獣医師(X)南米パラグアイJICA技術協力の現場.日獣会誌78:216-221.