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国立研究開発法人国立環境研究所の谷口 優先生らの研究グループは、2026年8月18日、約11,200名の地域在住高齢者を対象とした7.5年間の大規模疫学研究により、犬と暮らす高齢者が増えると4年間で約5,920億円の公的支出を削減するという結果であったと発表した。研究結果は「International Journal of Environmental Research and Public Health」誌に掲載された。
- Investigating the Potential Protective Effect of Dog Ownership on Incident Disabling Dementia and Its Cost-Effectiveness.
- 谷口 優(国立環境研究所)
- 齋藤良行(東京大学)
- 清野 諭(山形大学、東京都健康長寿医療センター研究所)
- 秦 俊貴(静岡大学)
- 森 裕樹(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 小林江里香(東京都健康長寿医療センター研究所)
- Int. J. Environ. Res. Public Health 2026, 23(7)
認知症は、高齢化が進む我が国において重要な健康課題であり、2040年には約584万人が認知症になると推計されている。一方、犬との暮らしは身体活動の増加や社会的交流、精神的健康の維持などを通じて健康に良い影響をもたらすことが報告されているが、認知症発症との因果関係や医療・介護費への影響については、十分に明らかになっていなかった。
研究チームは、約11,200名の高齢者を対象に7.5年間の大規模疫学研究を実施した。犬の飼育と要介護認知症発症リスクとの因果関係を検討するとともに、犬との暮らしが医療・介護費に及ぼす影響を評価した。
東京都健康長寿医療センターが実施する大規模疫学研究に参加した11,224名の自宅で暮らしている高齢者を7.5年間追跡した。参加者を「犬を飼育している」「過去に飼育していた」「飼育経験がない」の3群に分類し、要介護認知症の発症および死亡との関連を解析。解析には、観察研究で問題となる原因と結果の向きの誤りや情報の欠落による影響を低減するため、操作変数解析を実施し、犬の飼育と認知症発症との因果的関連の可能性を検討した。また、犬との暮らしによる医療・介護費や健康寿命への影響を評価するため、犬と暮らす高齢者が増加すると仮定した予算影響分析および費用対効果分析を行った。
操作変数解析(観察研究で問題となる逆因果や測定できない交絡の影響をできるだけ除き、因果関係を推定するための統計手法)の結果、犬を飼育している高齢者は、犬を飼育したことがない高齢者と比較して、要介護認知症の発症リスクが48%低い(オッズ比0.52、95%信頼区間0.27.0.98)ことが示された。これは、犬との暮らしが認知症発症を抑制する可能性を示す結果であった。犬と暮らす高齢者が増加する(犬の飼育率13.4%)と仮定した予算影響(施策や介入により社会全体の支出がどれだけ変化するのかを示す指標)分析では、犬を飼育することによる家計からの支出を含めた社会全体の追加費用は約4.63兆円になること、公的支払者視点での医療・介護費は4年間で約5,920億円の削減になることがわかった。また、犬を飼育することの費用対効果は、公的支出の節約効果が大きく、健康効果が高いことも示された。これらの結果から、犬と暮らす高齢者が増えることで犬関連産業への支出が拡大するとともに、公的な医療・介護費の節減につながる可能性が示された。
同研究は、犬との暮らしが認知症予防に寄与し、公的な医療・介護費の抑制につながる可能性を示した。今後は、犬との暮らしそのものだけでなく、犬の散歩や地域交流など、犬との生活を通じて生まれる健康行動を活用した認知症予防施策や健康寿命延伸の取り組みについても検討を進めることで、超高齢社会における新たな健康政策への応用が期待される。
