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日本家畜衛生学会は、2026年7月4日、第103回大会シンポジウム「ワクチンの歴史、未来のワクチン」をオンライン(Zoomウェビナー)で開催した。
まず理事長の髙井伸二先生(北里大学名誉教授)が挨拶し、次いで学術企画委員会 委員長の上塚浩司先生(茨城大学)が、シンポジウムの趣旨説明を行った。髙井先生は、大学を卒業してからの1年間、北里研究所でアデノウイルスワクチンの基礎研究に従事した経験にふれ、シンポジウムを楽しみたいと述べた。上塚先生は、アンケートでの要望が多かったことと、農林水産省が2024年に動物用ワクチン戦略検討会を設置し、2025年間から6年間を動物用ワクチン戦略の推進強化期間としていること、薬剤耐性(AMR)対策としてワクチンが重要であることにより、時宜にかなったものとしてシンボジウムを企画したと述べた。
司会進行は大滝忠利先生(日本大学)が、シンポジウムの座長は迫田義博先生(北海道大学)と福士秀人先生(放送大学)が務めた。シンポジウムで発表された各テーマと講演者は以下の通り。
- mRNAワクチン、医薬を支える基盤技術と今後の展望
- 内田智士先生(東京科学大学)
- 日本における家畜用ワクチンの現状と将来展望
- 平山紀夫先生(元動物医薬品検査所)
- 豚熱の清浄化に向けた道筋について(豚熱清浄化ロードマップ)
- 武久智之先生(農水省動物衛生課)
- 馬用ワクチン製剤の現状と将来
- 山中隆史先生(日本中央競馬会)
- 鶏用ワクチンの生産性向上への貢献度
- 永井寿宗先生(株式会社ESAC)
内田智士先生は、mRNAワクチンを支える基盤技術としてのmRNAを作る塩基の化学修飾と運ぶ脂肪性ナノ粒子のこと、mRNAワクチンの展望、自身の研究事例を述べた。病原体を用いないワクチンとして、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン、組換え蛋白質などがあるが、それらの諸々の欠点を補うのが、mRNAワクチンである。その研究はこの20年で急速に進歩したが、N1メチルシュードウリジン修飾が、蛋白質の翻訳活性を損なわずに免疫刺激性を軽減できる方法として実用化されたこと、mRNAを生体に送達する方法に脂肪性ナノ粒子を用いることを発見したことが進展に大きく寄与している。また副反応対策としてのジェットインジェクターを用いたmRNA単体ワクチンの投与、ワクチンの高純度化などについても述べた。また、AMR対策ともなる緑膿菌へのmRNAワクチンの研究を進めていることも紹介した。
質疑応答で種差のことを問われ、人は炎症反応に弱くmRNAワクチン50µgの投与で副反応がみられるが、同量でマウスでも問題ない。種差はキーワードとなってくるだろうと述べた。また保管について問われ、脂質の不純物を除き、凍結乾燥で水分を無くせば丈夫となり、mRNAワクチンの保管は冷蔵庫レベルで可能になるかもしれないと答えた。また現状では、製造コストが高いことが課題であると述べた。
平山紀夫先生は、牛疫ワクチンへの日本人の貢献や、狂犬病、豚コレラ、ニューカッスル病などにおけるワクチンの効果にふれた後、国内の市販ワクチンの状況を概説した。接種の効率を求めて混合ワクチンが増えており、牛、馬、豚、鶏用ワクチンの混合ワクチンの比率は2025年で43%となっている。また油性アジュバントの改良により、免疫持続期間も長期になっている。また、伝染性疾病と利用可能なワクチンを牛、馬、豚、鶏の種ごとに一覧表で示された。
今は、牛伝染性リンパ腫、アフリカ豚熱のワクチン開発が望まれると述べた。またワクチンの効果が感染予防なのか発症予防なのか区別は難しいが、1991年に豚オーエスキー病ワクチンが発症予防で初めて認可され、ワクチン開発が容易に行えるようになった。畜産・水産におけるカナダや米国でのDNAワクチンの承認例、米国におけるmRNAワクチン承認例を紹介し、次いで国内における経口ワクチンの開発(「動物用食べるワクチンの開発による感染症対策の強化」)も紹介した。
質疑応答で、混合ワクチンについては安全性や効果に問題はないが、そのすべてが必要という訳でもない場合もあり、単味のワクチンの品揃えも大切だと述べた。米国では遺伝子組換え生ワクチンが製造・使用され、その畜産物が輸入されている現状を考えると、国内で開発を行っていくために消費者への理解を国が主導して醸成していくべきあり、それがワクチン製造の持続につながるとの討議がなされた。
武久智之先生は、2025年6月に定めた「豚熱清浄化ロードマップ」のことを解説した。防疫対策のひとつとして、ワクチン接種地域における刹処分を全頭から選択的に変えたところである。清浄化に向けては、現在はマーカーワクチンを開発中。マーカーワクチンが開発できれば、現行ワクチンと切り替えていく。感染抗体陽性豚をゼロにする目標は2035年頃。2045年には国際獣疫事務局(WOAH)の清浄国ステータス取得要件となることを目指す。
質疑応答において、対策のスピードを考え、海外で使用されているマーカーワクチンの使用の是非が問われたが、製品コントロールできるワクチンの開発が必要で、海外産を使用する可能性は低いと武久先生は述べた。海外製は識別についてや接種回数などの問題もある。現在の防疫対策として「飼養豚と野生イノシシ群の適切な隔離の推進」があげられているが、それが難しいのが現状。どのようにしていくべきなのかという問いに対して、効果の高い壁や下草刈りなどの対策があるが、その研究も続けていきたいと回答した。また、畜産の大きな課題である人手不足対策としての予防はとても大切であるとも述べた。
山中隆史先生は、馬産業の概要、馬へのワクチン接種の状況を解説した。日本では、毎年約8千頭の馬が生産され、ほとんどが競走馬。市場規模は小さいが、馬産業の大きさや、馬券売り上げのうちの国庫納付金が畜産振興に大きく寄与していることなど、馬産業の社会的意義は大きく、持続的なワクチンの開発・製造は重要であると述べた。国内では馬の7疾患に対するワクチンが発売されている。接種においては、軽種馬防疫協議会が定めた「馬の予防接種要領」に従っている。また「馬の健康手帳」(馬の検査、注射、薬浴、投薬証明手帳)を用いて個体ごとに健康管理が行われている。ワクチン接種の省力化においては、馬インフルエンザ、日本脳炎、破傷風に対する多価混合ワクチンが2005年から製造されている(「エクエヌテクトJIT」)。将来的には馬増殖性腸炎のワクチンが望まれると述べた。
また馬においては世界的には日本脳炎発生地域とウエストナイル発生地域が分かれていることで、ワクチンも偏在している(両疾患とも発生している地域もある)。競馬や馬術競技の国際大会に対応するための制度としてのトラベラーズ・ワクチンの必要性を述べた。
質疑応答では国際的な動向を問われ、先進国では情報は共有化されているが、データを開示しない国もあり、国際的な情報共有がこれからの課題であると山中先生は回答した。またローソニアのmRNAワクチンの開発に関する質問もあった。
永井寿宗先生はまず、「養鶏業界の感染症対策は、飼養衛生管理基準の遵守を土台として、その上で多くのワクチンが応用されることで成り立っている」と述べ、主要ワクチンと投与方法、薬剤耐性対策としてワクチンの価値を解説した。ニューカッスル病(ND)、伝染性気管支炎(IB)、伝染性ファブリキウス嚢病(IBD)、マレック病(MD)等のワクチンについて概説し、ニューカッスル病は日本の養鶏ではみられないがレース鳩で散発しており、ワクチンでの制御は必要であると述べた。鶏用のワクチンは、複数の投与経路があること、5種、7種と混合化が進んでいることを紹介した。点眼はとても手間がかかり、人で不足のなか、スプレー、飲水タイプへと改良して欲しいと述べた。また、卵内注射による投与方法は、労働コストのみならず、投与精度、孵化後の早期免疫付与といったメリットがある。ただ雌雄区別がつかずレイヤーでは使いづらく、卵の雌雄鑑別の確立が必要である。ワクチン接種によるウイルス感染防御は、細菌による二次感染を防いでおり、AMR対策にも寄与していると述べた。
質疑応答では、高病原性鳥インフルエンザワクチンに対する感想を求められ、長所も短所もあるが、接種後のモニタリングが確立していない状況だと返答した。またIBの変異に対するワクチン開発、MDの病原性が強くなっていることとワクチンとの関係などの質問もあった。
最後に福士先生は、カルタヘナ法(遺伝子組換え生物等を使用等する際の規制措置を定めている)が制定されて以降、遺伝情報の解析・入手は非常に進んでいる。(ワクチンの柔軟な開発のためにも)法への向き合い方を変えていく必要があり、日本が主導して欲しいと提言した。また迫田先生は、講演者も参加者も産官学の関係者が集ったシンポジウムであり、時間の都合で答えられない質問もあった。これを機会にさらに議論が深まっていくことを期待したいと述べた。
シンポジウムの講演要旨は、「家畜衛生学雑誌」Vol.52 No.1(2026.Jun.)に掲載されている。