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浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授)
正/続編副題共通のワンヘルスとは
本書正/続編副題に共通してワンヘルスという語が見える。このカタカナを国内最頻用の検索エンジンgoogleに打ち込むと、厚生労働省(厚労省)HPが表示され「ワンヘルス・アプローチに基づく人獣共通感染症対策」の欄に飛ぶ(2026年4月10日閲覧)。そして、ワンヘルスとは人・動物・環境の健康/健全性を包括的に捉え、人獣共通感染症のような分野横断型課題に対し連携し取り組む概念と知る。厚労省の次にヒットするWWFジャパンや環境省のHP等でも定義はほぼ同じ。当該カタカナの英単語one health同様HP上の定義も単純明快である。
しかし、2024年冬、この概念を一般の方に理解頂く役割を担うとなった刹那、評者(私)はフリーズした。その翌年、某文化教室でワンヘルスについて話をすると決まった時である。先程のようなワンヘルス自体の定義は知ったが解ったではなかった。それに、私にはその概念を実現・実践をした経験も無い。そのような者が他人(ヒト)に何をどう啓発するのか。これが凍結凝固した主因である。文化・啓発活動の絶対的入口問題
加えて、文化教室に集う方々は情報を単に受け取る(知る)ことだけではなく、音楽や絵画等のように楽しみたいのである。すなわち、講師にはワンヘルスを知り解り、教養文化としていただくという責務も担うのである。それ以前に、ワンヘルスが面白そうなのかどうかが決め手である。あまりにも自明だが、文化教室という啓発的な場は、相手がいないと成立しないからである。なので、そこは面白いではなく面白そう、あるいはそのように感じていただくことが肝要、すなわち入口問題である。
その判断の手引書がいわゆる一般書である。しかし、本はだいぶ苦戦している。たぶんに内容を載せる媒体の性質、すなわち紙or電子に起因するように素人目には映るが、この点は本稿範囲を超える。一つだけ確かなことは人々の知的好奇心は、依然、衰えていないことである。たとえば、その電子書籍の販売実績の堅調さがそれを裏付けている(市場のことは門外漢なので、多分…)。
ならば、ワンヘルスを主題とした講座募集の際、まず冒頭HP(前述)等で予備知識を得、申し込むかどうかの参考にする。面白そう!となれば、次は入手が容易な一般書を一瞥するのが自然の流れ。そして、ジックリ予習したいとなれば、その資料を前節のような形で、たとえばワンヘルス&一般書等のダブル検索結果を目安に探す。
ワンヘルス一般書等の刊行状況
実際、これを試行すると「おすすめの一般書・入門書」として次の①~③が明示された(2026年4月10日閲覧)。年代順に①浅川(2021)、②中山(2022)および③藏内(2023)。念のため他webで探ると2025年内に新刊が相次いで上梓されていた。著者名ABC順に藏内(2025)、羽山(2025)および大塚(2025)。なお、ワンヘルス専門職含む獣医療職域全般の一般書(浅川 2025)を著す前、中山(2022)の内容が重要視され詳細に検討された(浅川 2022)。また、大塚(2025)は欧米の若手研究者によるワンヘルス創立の歴史過程を示す稀有な資料と、現在、執筆中の拙著(浅川・村田 2026)内で紹介された。
さらに、web上にはこれらに加え、関連条例を制定した福岡県等自治体独自刊行物の存在も確認されたが、これは一般書への補足として扱っていただくのが適切だろう。これらを含めても生物系他領域と比較すると、ワンヘルスの予習資料(前述)点数は絶対的希少性が確認され、ならば、むしろ開き直って伸びしろを期待してもらうことにした。いずれにせよ、以上六冊が2026年4月10日現在、ワンヘルスを題材にした一般書で、その冊数三分の一を占める本書正続編(藏内 2023・2025)は断然存在感を示す。
本書概要とコメント
だが、一般の方々が予習資料(前述)とする適否は全く別である。本書は獣医師/博士[獣医学]である著者が政治家として、ワンヘルス理念を具現化する軌跡を実況中継のような備忘録的文書群が編まれた点が独特であったからである。ゆえに普遍的な読み物の延長たる文献としての是非判断は後年に委ねる。本両書共通構成としては二あるいは三のパート(本書で編)に大別され、各パート内に十数程度のコラム的短文(本書では話)を含む形態であった。これ以上に体系的な枠組み(章)は欠き、正続両編で列挙された合計約155話が直に提示された。以上であるため、書評常套の全目次を掲げ、その後概要を著述する形式は踏襲出来なかった。よって、話題名一覧は本拙稿末に掲げた引用文献表の本書出版元URLにて目次をご覧いただきたい。
話原典は著者が福岡県議員や日本獣医師会々長として同会メールマガジン等で発信された短信/論考である。正編は東日本大震災挟む2010年代や21年公布の福岡県ワンヘルス推進基本条例および2019年岡山理科大学獣医学部創設等々のエピソードが盛り込まれていた。一方、続編の方はアジア獣医師会連合会や世界獣医師会等リーダーとして獣医学教育・活動の国際化への提言、生涯学習認定・農場管理獣医師、愛玩動物看護師国家資格化、学校獣医師配置、動愛法マイクロチップ登録、G7広島サミット、能登半島地震動物救護活VMAT等現在につながる話題が俎上に上がっている。
そしてコロナ禍(附 訂正希望箇所)
2020年3月~2023年5月、突如世界を席巻したコロナ禍で全世界は激変した。続編に収納された原典はこの期間内に作成・発信されたものが中心で、当然、コロナの次なるパンデミックに備える動きが活写された。同時期、並行しSFTSや豚熱等も次々勃発、著者ら人々の代表者としての東奔西走ぶりが立法・行政面から実況中継されていた。大変貴重な記録である。その中には福岡県ワンヘルスセンター(動物保健衛生所)設置やその根拠となる福岡県条例(前述)施行後の様子も詳述された。一事が万事、正続編を読み比べることで、コロナ前後でワンヘルスに軸足を置いての世相比較が出来得た。得難い読後感だった。
前述で備忘録と述べたが、個々話はpublishされたものなので個人的なメモ・走り書きではない。後年、ワンヘルス専門職が公的に認知され、その教育研究が遍く医学・獣医学・理学(生態系)の職を司る国家資格教育課程内で、歴史的資料として活用されるであろう。それを鑑み、大変心苦しいが続編で気になる二点を指摘させていただく。まず、センザンコウに関する記述(続編225頁)である。本web媒体JVM NEWSでこの動物から見出された病原体に関し披歴したように(「コロナ禍初頭に注目されたIUCN絶滅危惧種センザンコウ-保有寄生虫等 (後編)」)、まず、今般のコロナ禍ではほぼ無関係である。この獣を感染経路(自然宿主)とされる表現は不適である。
加えてこの動物が胎盤を有する哺乳類(真獣)適応進化、特に偶蹄類や食肉類等家畜・愛玩動物等ヒトとの密接な系統性が指摘される。ワンヘルスという見方には自然環境の健全性も含まれる。そこではこういった時空間の見方も不可欠で、センザンコウはこれを今日体現するモデル獣でもある。あらぬ濡れ衣を着せてはならない。
次いでカウンターパート所属誤記である。続編序文4(iv)頁の横倉義武氏を日本獣医師会とされたが医師会の誤りである。横倉先生は本文で複数記される程重要な方であるし、医学/医療はワンヘルスを構成する重要分野である。慎重にお願いしたい。以上二点、改訂版での訂正を望む。
引用文献
- 浅川満彦.2021.野生動物医学への挑戦-寄生虫・感染症・ワンヘルス,東京大学出版会,東京:196 pp.
- 浅川満彦.2022.書評『獣医師を目指す君たちへ』.Zoo and Wildlife News(日本野生動物医学会刊ニューズレター),(55):35.
- 浅川満彦.2025.獣医さんがゆく-15歳からの獣医学,東京大学出版会,東京:240 pp.
- 浅川満彦.2025/2026.ワンヘルス/保全医学を公共知とするために(その1~7).北獣会誌,69:447-449,505-507,560-562 / 70:12-14,58-60,96-98,(その7は印刷中で頁未確定).
- 浅川満彦・村田浩一.君たちの保全医学―地球環境を守るために知り・学び・変わる,文永堂出版,東京:印刷中.
- 羽山伸一.2025.ワンヘルスという共存-野生動物と人間をめぐる関係を見るための視座.森林環境2025,森林文化協会,東京:32-41.
- 藏内勇夫.2023.熟慮断行-ワンヘルスの推進と期待,文永堂出版,東京: 342 pp.
- 藏内勇夫.2025.続 熟慮断行-ワンヘルスの更なる発展,文永堂出版,東京: 309 pp.
- 大塚健司 編.2025.アジアのワンヘルス-人・動物・環境の健康をめぐるリスクとガバナンス,アジア経済研究所,千葉:290 pp.
- 中山裕之.2022.獣医師を目指す君たちへ-ワンヘルスを実現するキャリアパス,東京大学出版会,東京:152 pp.

