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■【寄稿】『クマタカ生態モノグラフ』(平凡社)読了を機に思索―生態把握援用に保有寄生虫を biological tag活用のお願い

2026-02-26 16:46 掲載 ・2026-02-27 10:11 更新 | 前の記事 | 次の記事

平凡社刊『クマタカ生態モノグラフ』編著者・クマタカ生態研究グループ代表山﨑 亨先生のご許可を頂き、食性の部分を示す画像の一部転載。

浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授)

はじめに

昨秋『クマタカ生態モノグラフ』(平凡社)が刊行された(以下、本書)。当該書籍の編著者で獣医師・野生動物医学仲間でもあるクマタカ生態研究グループ代表・山﨑 亨先生から私に書籍紹介のご依頼を賜わった。大変名誉なことであったが、本書は私が紹介するまでもなく、対象種が猛禽の超人気種であるし、多数多様の画像は鳥愛好家にとり垂涎の書となるはずである。そのようなことから、少しコアな特長を示すと野外調査や救護カルテ等を作成上、有益な資料になると、特定非営利活動法人バードリサーチの“ブログ書籍紹介”上、そのように申した。

もっとも、私が書評・書籍紹介をさせていただく際、より我が儘で自身の専門から具体的にシミュレートしている。あたかも人様の労作をお借りし、自身の関心事を語る偏向産物となっている。随分、失礼な話であるが、この姿勢は私が前勤務先で運営した野生動物専用施設に出入りした学部生・院生・研究生も“共犯者”になってもらい、そういった文章を一緒に上梓してきた。そのような拙稿がかなりの数となり、数年前にそれらを編んで冊子にしたほどである。ありがたいことに、本媒体web版JVMでも紹介いただいた(参照:JVM NEWS 2020-01-16「書評・書籍紹介集を編集 酪農学園大学 浅川満彦先生」)。

モノグラフとは

そもそもであるが、本書題名にあるモノグラフとは通常、対象生物種(群・特定地域の相ファウナやフロラ)に関し、原記載や総説等一次資料を水をも洩らさぬ緻密さで渉猟網羅し編んだ知の総体である。いわば完全無敵の二次資料で、たとえば私の守備範囲(寄生虫学)では前世紀中葉、伝説の巨星・山口左仲先生による数々の刊行物が真っ先にイメージされる。本来ならば鳥類関連を例示した方が良いのだが、素人なので御容赦いただく。

御注意いただきたいが、先程の守備範囲の学問は“寄生虫病学”ではない!病気の原因となるモノ(寄生虫)で、その形態・生態等を調べる学問、寄生虫学である。しかも、ムシはムシでも回虫やサナダムシ等大サイズでクネクネする蠕虫という代物である。だがれっきとした(扁形や線形等の)動物群ではある。これらを漏れ無く列挙した刊行物こそtheモノグラフで、私(紹介者)のような小者がおいそれと手を出す刊行物ではない。眩しくて(重くて)近寄り難い本ではあるとしても、私は後述のように参考資料としては常に活用させていただいている。

試しに山口先生によるこれら著作タイトルを一瞥してみよう。末尾チを訓令式にしてYamaguti、それにhelminthかhelminthumという語でAND検索するといくつかヒットする。

あらためて私の位置

もちろん私はモノグラフを著す大学者とは無縁の小者。そのような者が、そもそも門外漢の鳥類生態に関する知の体系を紹介・評するなど烏滸がましい。せいぜいケチな粗探しに留まる程度だ。さてその小者だが、野生動物医学専門医として野生/非典型的飼育動物(鶏鶉等伝統的家禽以外にダチョウ・エミュー等特用家禽、動物園水族館飼育種、エキゾチックペット等)に寄生する蠕虫(前述)同定とこれに起因する疾病診断・疫学・予防等に関わってきた。

中にはヒトにも感染するムシも見つかり結果として公衆衛生面でも貢献、要するに理念ワンヘルス実践の好例ともなった(参考:厚生労働省Webサイト「ワンヘルス・アプローチに基づく人獣共通感染症対策」)。野生鳥類にはこういった寄生虫のみならずウイルス・細菌・真菌等病原体をごく普通に保有する。こういった背景ゆえ、前述の山口先生による著作群のヘビーユーザーとなった次第であるが、その蠕虫の中には鳥類生態(学)に関わる種もある。中には希少鳥類に寄生し、深刻な健康被害を与え保全生態学上、注目されるものもあるが、ここで言及したいのはより基盤的な生態学領域である。

Biological tagとしての寄生虫

たとえば幼虫時、ある特定動物に潜み感染可能な状態にまで発育、そのような成熟幼虫を野鳥が食べて感染する生活史(発育環)がやや複雑な種を含む。専門用語を出して申し訳ないが、そのような“特定動物”は中間宿主、この場合の野鳥(その体内で成虫になる)は終宿主と呼ばれる。

もし、そういった蠕虫が終宿主としての野鳥で見つかると、そのような中間宿主を摂取した証拠となる。したがって、しばしばこういった寄生虫をbiological tagとして応用(参照)される。長くなったが、そのようなことから野鳥生態を主眼とする本書で寄生虫云々にも触れて欲しいと注文させていただいても掟破りにはなるまい。

もちろん、生態に軸足を置くのだから、随所で食性(獲物)に関する目視やペリット等による貴重な画像入りでの情報が散見された(図)。それ自体貴重だがこの手法は散発・偶発的な要因に左右されると思う。

寄生虫という中長期的に保有されるtagはそれなりに有益である。研究グループでもこの応用を御検討いただき、次回改訂版での掲載を期待したい。なお、内部寄生虫というと(寄生虫が腐る前の新鮮)死体を弄るべきという思い込みがある。先程申したように寄生虫も動物なのでしっかり死ぬし、死んだら腐る。本書によると状態の良いクマタカの死体入手は稀そうなので、そういった試料の出現はまさに僥倖。ならば糞便検査で寄生虫卵や原虫シスト等を得るのはどうだろう。糞便だけではどうしても低精度だが、あたりはつく。検査にはそれなりの技量が要求されるので、そういった研究者を巻き込まれては如何であろうか。

野外生態学者をフィールドで雄々しく駆け巡る孤高の人々とする定義(印象)は、もちろん若者の憧れだし、今後も大事である。だが時には、先程“巻き込み”案を吐露したように、ほんの少し別の姿勢も検討されては如何だろう。私のような部外者が余計な物言いだが、その部外者も関わるが、動物看護師が国家資格化し野生動物医学領域含む分野でもチーム獣医療が普通になりつつある(と願いたい)。野生動物医学の大事なカウンターパートである生態学が旧態依然のままで良しという理由は無い(参考:野生動物医学会Webサイト「活動方針」)。

クマタカの寄生虫報告

寄生虫(病)学の同志(後進)の立場をおもんばかって、“仲間に入れて欲しい”と申したが、実際、クマタカの寄生虫に関しても山口先生(前述)以降でも次がある。

この報告は、岐阜大学との共同で行ったその大学が所在する地域の個体を調べたものであり、本書と密接に関わる鈴鹿山脈とも比較的に近い。前述のように記録された寄生虫と食性との関連性にまで論考は広がるはず。本書改訂版ではご活用願いたい。なお、上記報告の引用文献にはシラミ類等外部寄生虫や今世紀初頭、岩手大学が行った筋胃に寄生する線虫やシラミ等外寄生虫の情報もある。この報告の筆頭研究者は、私が前職時に運営していた“野生動物医学センター”で研究後、博士号を無事取得、釧路市動物園で勤務され盛んに鳥類寄生虫等を研究される吉野 智生先生である。

寄生虫以外のクマタカ健康被害要因

寄生虫(病)以外の健康被害要因に関しては、本書第6章内の節“死亡原因と寿命”で言及され、高濃度PCB体内蓄積やシカ・幼魚場防除/防鳥ネットへの絡網、高病原鳥インフルエンザが明示されていた。中でも、私が起居する関係から、北海道釧路市にある猛禽類医学研究所(齊藤慶輔 代表)が中心に報告される鉛中毒に注目した(参考:猛禽類医学研究所Webサイト「健康状態の把握」)。

しかし、鈴鹿山脈等本州以南での事例が本書では明確ではなかったので(存否情報)、次回にはその補足説明を望みたい。加えて虹彩後癒着の機序についてもその原因は必ずしも明確ではない書きぶりだった(265頁には“何らかの外傷で水晶体に炎症が生じた?”とあったが)。獣医学分野では眼科領域が現在進展中で、その促進剤としても詳しい主因と(もし有りそうなら)生態学的な副因披歴も期待する。

以上、勝手な注文ばかり書き連ねたが、前述したバードリサーチ“ブログ書籍紹介”上で本書概要や目次等の基本情報を示したので(「書籍紹介:クマタカ生態モノグラフ」)、まずそれをご覧いただき、是非、堪能して欲しい。