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■【寄稿】「ウィスコンシン酪農セミナー2025」報告-(4) 講義「ゲノム検査と収益性の向上」

2025-12-05 19:23 掲載 ・2025-12-07 13:45 更新 | 前の記事 | 次の記事

図1 講義後のMcNeel氏との記念撮影

図2 DWP$と観察された生涯利益の関連

図3 牛の生涯にわたる累積利益

NOSAI北海道 家畜部 獣医療研修センター 石狩北部家畜診療所 富永翔太

1.セミナーに参加したきっかけ

私は8年目になりますが、ただひたすらに目の前の仕事をこなすだけの日々を送っていました。本セミナーの存在は、昨年の報告書を見ていたので知っていたのですが、そこに自分が参加している姿を思い描いたことはありませんでした。そんな時、NOSAI北海道より推薦をいただき2つ返事で参加を決めました。そこからは英語漬けの日々を送り、不安10割で当日を迎えることとなりました。

2.講義内容

私が報告を担当するのは、Zoetis社のMcNeel氏による、Zoetis社サービスであるClarified plusに関する米国での活用方法についての講義です(図1)。

ゲノム検査とは、牛のゲノム解析が完了した翌年の2009年から実用化された乳牛の遺伝情報(SNP)を調べることで、その牛が有する将来の疾病発生リスク、また、その牛が将来発揮する生産性や経済性を予測することができるものである。講義では、「どのように使われているか」、「どのような変化をもたらしたか」、「最も効果的な使い方」の3点について話があった。大前提として「酪農はビジネス活動である」と強調されたのが印象的であった。商業酪農における収益性の因子について、利益に関係しない因子としては「搾乳牛群サイズ」、「育成牛頭数」、「出荷乳量」、「労働コスト」が挙げられた。これに対して、利益に関係する因子として「後継牛コスト」、「空胎日数」、「育成牛生存率」、「個体乳量」、「体細胞数」、「死亡率」が挙げられた。これらをまとめると、「適正な育成牛在庫で運営コストを最小化、生殖能力と成績を改善し空胎日数を減少、育成牛と成牛の生存率を改善し資源ロスを減少、個体乳量を最大化、体細胞数を減らし出荷乳価値を向上することが収益増加につながる」ということであった。

Daily Wellness Profit Index(DWP$)はZoetis社独自の総合インデックスであり、動物の期待される生涯利益を表す選抜指数である。特に健康形質(乳牛および子牛)に重きを置いている指標である。2020年の検証研究の結果、DWP$の上位25%は下位25%より生涯で$811多くの利益を生み、DWP$が$1増加すると、生涯利益は$1.84増加した(図2)。12ヶ月間の利益、乳量、乳脂肪、乳蛋白、在群日数、死亡率、分娩頭数、疾病においても同様に上位25%で好成績であった。このように、子牛のDWP$を予測することは、生涯の潜在的利益を推定するのに利用可能である。

DWP$は選抜を繰り返せば上位25%に入る牛が多くなっていく。DWP$上位の牛と下位の牛では、育成コストを取り戻すのに搾乳期間として3ヶ月の差がある(図3)。さらに、育成コストを取り戻せずに除籍された牛は、DWP$上位は16%であったのに対し、下位では32%であった。DWP$上位の牛の乳量が多いのは、生産性や収益性に影響を与える遺伝的ポテンシャルが高いこと、繁殖能力が高く泌乳状態にある期間が長いこと、在群期間が長いこと、健康状態が良いことに起因している。いずれも、DWP$上位の牛における健康形質によるものである。さらに、畜主はゲノム検査の結果から後継牛選抜と、繁殖計画を立てることができる。DWP$上位牛には性選別精液を授精し、下位の牛にはETや肉用種を授精することが必要であるとした。

McNeel氏は、Clarified plusのポジティブなデータを多く示し、導入していない農家における導入後のDWP$の伸びは大変大きく効果的であるとし、強く導入を促した。

3.感想と今後の抱負

ゲノム検査による後継牛選抜は長命連産において有用で、将来においての収益性を考慮すれば導入する価値が大きいと感じました。

今回、参加者は3年目からベテラン先生までが一緒になって講義をうけました。NOSAIの獣医師として、これほど多くの開業の先生から知識を習得することができる機会は少なく、貴重な機会になりました。個体に留まらず酪農全体にアプローチしようとする姿勢と、圧倒的な知識量と熱量に曝され、時差ボケが吹き飛ぶ思いでした。臨床獣医師として視界が広がった研修となりました。最後に、素晴らしい機会を用意してくださった佐藤 繁先生、渥美孝雄先生、コーディネートしていただいた鷲山順慈様、そしてご支援いただいた共立製薬株式会社の方々に厚く御礼申し上げます。