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■【寄稿】「ウィスコンシン酪農セミナー2025」報告-(2) 講義「乳牛の繁殖管理」

2025-12-05 18:46 掲載 | 前の記事 | 次の記事

図1 オブシンク初回GnRH投与時のプロゲステロン値と受胎率の関係

図2 Paul Fricke先生と参加者

空と太陽どうぶつ病院 藤川拓郎

1.セミナーに参加した動機

獣医学科を卒業して10数年が経過し、日々の仕事を行う中で新しい知見、考え方を得たいという思いからセミナーに参加しました。今までにも国内での学会には参加してきましたが、今回はアメリカにおける酪農を学び、職場や酪農家に還元できるようにと参加を決めました。

2.講義・視察内容

私は、Paul Fricke先生による「乳牛の繁殖管理」の講義について報告します。

2000年ごろまで空胎期間は年々延長していたが、TAIプログラムや活動計モニターを活用し授精機会が増加することにより、遺伝的な改良とは関係なく改善してきている。高泌乳牛では飼料摂取量が多く、消化管血流量が増加し、肝臓の血流量が増加するためステロイド代謝が増加し、血中のエストラジオールやプロゲステロンが低下する。経産牛はエストラジオールの上昇に時間がかかり、LHサージが遅れて卵子のエイジングがおきてしまう。これらのことが、育成牛よりも経産牛の受胎率が低い原因の1つとなっている。これらの問題を解決するため、オブシンクなどの繁殖プログラムを活用していくことが重要、とのことでした。

オブシンクを開始する場合、初回GnRH投与時の血中プロゲステロン濃度が0.5~6.99ng/mLで受胎率が高く、低すぎるプロゲステロンや高すぎるプロゲステロンでは受胎率が低下するため、発情後7日あたりでオブシンクを開始するのがよい(図1)。そのためにプレシンクやダブルオブシンクを活用し、受胎率の向上を目指している。アメリカでは、価格の問題からプロゲステロン膣内挿入剤は使用せず、GnRHを使うことが多いそうです。また、コシンクはプロトコールが簡単であるが、受胎率が低いので使うべきではないとのことでした。高い繁殖性を目指すために、分娩後のボディコンデションスコア(BCS)を低下させない重要性についても話していました。分娩前21日の時点でBCSが高い牛ほど分娩後のBCSが低下する牛が多く、BCSが低下した牛は疾病罹患率が高く、初回授精受胎率も低くなるため、オブシンクなどの繁殖プログラムを活用し、なるべく早く妊娠させ、分娩時に過肥の牛を作らないことが重要とのことでした。各ステージにおけるBCSの推奨値も現在はもう少し低い方が良いと主張されていました。

3.今後の抱負

ゲノミック、繁殖学、栄養学、牛舎環境、アニマルウェルフェア、呼吸器疾患の超音波診断など多くの分野の講義を受けることができ、大変刺激を受けるとともに、自分の勉強不足も痛感した日々でした。アメリカの農場の規模の大きさには圧倒されっぱなしで、見学に行った数千頭規模の農場ではクロスベンチレーションを採用しており、平均乳量40kg以上、乳脂肪4%以上でありながらも妊娠率は29%を達成していることに驚きました。また従業員は70人程度いる中で離職率は2%以下で、従業員のマネージメントにも力を入れており、牛舎環境だけでなく職場の環境もこの成績の達成につながっていると感じました。オブシンクなどの繁殖プログラムについて、日本のような頭数規模の場合でもやる価値はあるかという質問に、Fricke先生は、確かに効率は悪いかもしれないが、1頭を妊娠させるという価値は変わらないのだから活用していくべきと答えており、規模が違っても参考にできることは多いと感じました。今回得られた知見だけでなく、同じ志をもった参加者の皆様と出会えたことはとても大きな経験となりました(図2)。これらのことをモチベーションに今後も頑張りたいと思います。今回のセミナー開催に尽力していただいた、佐藤 繁先生、渥美孝雄先生、共立製薬株式会社の皆様、参加者の皆様に感謝申し上げます。