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■HAB、One HealthそしてOne Well-beingへ JAHA年次大会2025が行われる

2025-12-04 14:35 掲載 ・2025-12-05 08:55 更新 | 前の記事 | 次の記事

特別プログラム「One Well-being~動物病院の未来に向けて」。左より石田卓夫先生、上野弘道先生、宗像俊太郎先生

公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)は、2025年11月26日、東京・AP東京八重洲で「年次大会」を開催した。大会テーマは「One Well-being『対話』-すべての生命が響き合う、調和の未来へ-」であった。

安斎勇樹氏(株式会社MIMIGURI)による大会記念講演「新時代の組織づくり:軍事的世界観から冒険的世界観へのカルチャー改革」、特別プログラム「One Well-being~動物病院の未来に向けて」、「JAHA流ラウンドスペシャル編 こんなときどうする? VET×VNコラボの力」、菊水健史先生(麻布大学)による講演「イヌは世界をどう認識しているのか~視覚・認知・行動に関わる遺伝的背景の理解~」のほか、獣医師向けの学術講演、スタッフ向けの講演、しつけの問題など市民も参加できる講演、CAPP活動報告など盛りだくさんの内容で行われた。

特別プログラム「One Well-being~動物病院の未来に向けて」では、石田卓夫先生(赤坂動物病院)、上野弘道先生(日本動物医療センター)、宗像俊太郎先生(あさか台どうぶつ医療センター)が登壇した。司会進行はJAHA理事の大石太郎先生(やさか動物病院)が務めた。

まず、2009年~2013年にJAHAの会長を務めた石田卓夫先生がHuman-Animal Bond(HAB)の歴史、概念を紹介し、JAHAがいかにHABを取り入れ、その理念を形作ってきたかを述べた。HABはOne Healthを形成する要素であり、福祉、医療、教育において人と動物の双方においてよい効果をもたらすものであると話を展開した。

JAHAのCAPP活動を開始し牽引し続けている柴内裕子先生(赤坂動物病院 名誉院長)が携わっている公益財団法人日本ヘルスケア協会のペットパスポートの発行や、柴内晶子先生(赤坂動物病院院長)が、NHKの番組「視点・論点」で「人と動物の絆 伴侶動物と築く幸福と健康」(11月11日放送)のテーマでHABを語るなど社会は動き出していると述べた。

日本では伴侶動物の飼育率が諸外国に比べると低くく、かつ、犬の飼育数は減少しているのが現状。それは、動物がもたらすよいものを失くしてしまうということになる。動物の役割を認識できている社会になれば、飼育数、飼育率を増やしていけるだろう。その手段の例として、HABの小学校教育への導入、インフラの整備(高齢でも安心して飼えるという体制やペットを当たり前に飼える社会環境)などが考えられる。それらを国策とすべきであり、政治的な働きかけも必要である。また、動物の主治医としての役割、保護動物などの一時的シェルター機能を持つ、保護動物の飼育者をさがす、飼い主に問題が生じた際の手助けなど「獣医師が汗をかかなくてはならない」と述べた。

また、高齢者の飼育として、赤坂動物病院が実施している「70歳からパピーとキトンと暮らすプログラム」にも触れた。

続く上野弘道先生は獣医師会の役割とOne Healthについて述べた。上野先生は、公益社団法人東京都獣医師会の会長、公益社団法人日本獣医師会の理事、JAHAの副会長を務めている。

現代社会は専門性が深化しているが、それが故に連携が欠如しているということに陥り、部分最適が全体最適になっておらず、ほころびが可視化された状態であろうと。例えば、農薬ネオニコチノイドの開発がミツバチ減少や生態系攪乱を引き起こす、抗菌薬の発展が薬剤耐性の世界的拡大をもたらす、里山の放置・変化が野生動物の出没増をもたらす、食産業の生産効率の追求が倫理的課題や環境負荷を増やしてしまうなどである。今の時代、獣医師は、One Healthという社会・環境を「医す」存在(獣医師をVer 4.0と表現している。Ver 1.0は軍馬・国家、Ver 2.0は産業動物、Ver 3.0は伴侶動物としての獣医師)となっていると述べた。そして、One Health(感染症や病気を防ぐ基盤)は、One Well-being(共に生きる幸福、QOLの向上)に向かっていくべきで、その点において目的や活動領域が異なっても、JAHAと獣医師会は共に「良い社会の実現」を目指すという意味では共通している。そして「動物も、人も、社会も、医す・それが私たちの使命です」と講演を締めくくった。

次いで宗像俊太郎先生が、「人・動物・社会環境と未来への展望」のテーマで、JAHAのプログラムを紹介した。宗像先生はJAHAの会長を務めている。

One Well-beingとは、人・動物・社会のWell-being(心身の幸福・良い状態)である。JAHAにおいては、動物病院への経営支援、動物病院スタッフへの継続教育や労働環境改善、獣医療に貢献できる人材育成による人と動物の幸せな暮らしの育み、アニマルセラピーや動物病院による社会貢献という形で、その実践を行っている。そして、JAHAが行っている動物病院認定制度の要件は、One Well-beingにつながるように設定されている。JAHAの活動は「人と動物の共生社会の重要性をあらゆる人にわかってもらう」ということが根幹にある。

さらに石田先生同様に飼育頭数の減少に触れ、「人と動物との共生の大切さ」「動物とどこにでも行ける社会」「いつでも共に暮らせる社会」が解決の鍵であり、CAPP活動、ペットを機内に同乗してのハワイ渡航の実現に向けての働きかけ、ペットパスポート、シニア飼育支援などを紹介した。

最後に討論が行われた。如何に社会に働きかけていくのかなどが話し合われた。石田先生は、自身が創設し現在は名誉会長を務めている一般社団法人日本臨床獣医学フォーラムでは、来年の年次大会で市民公開のものを大規模にすると述べた。上野先生は、来年4月に東京で行われる第41回世界獣医師会大会に向けて、広くアピールできる手段での企画を考えていると述べた。宗像先生は、JAHAの催しをもっと増やしていきたいと述べた。政治的なアプローチについても具体的内容が語られた。