JVMNEWSロゴ

HOME >> JVM NEWS 一覧 >> 個別記事

■中央畜産会 施設・機械部会トップセミナーを開催

2025-11-13 15:04 掲載 | 前の記事 | 次の記事

講演会場の様子。左奥の壇上は挨拶を述べる太田哲郎 施設・機械部会長

公益社団法人中央畜産会の施設・機械部会は、2025年11月11日の午後、東京・都市センターホテルで「令和7年度施設・機械部会トップセミナー」を開催した。

施設・機械部会は、会員(畜産関連施設・機械関連会社などで、2025年6月時点で82社)を対象に、トップランナーの講演によるセミナーを毎年開催している。セミナー終了後には親睦をはかるための情報交換会も行われている。今年は、通常よりも多い2名による講演があり、メディアにも公開された。

施設・機械部会長の太田哲郎氏は冒頭の挨拶で、「畜産業界は資材が高値で推移して苦しい状況が続いているが、酪農においては乳価が何度か上がったことで先行きが見え、酪農家の気持ちは明るくなった面もある。政府が対策を打っていることは実感できている。簡単ではないが、価格転嫁に結びついていけば」との主旨のことを述べた。

セミナーのテーマと演者は以下の通り。

  • 大川小学校津波被災事件から学ぶ組織の災害リスクマネジメント~平時からの組織的対応と事後対応の重要性~
  • 齋藤雅弘 氏(四谷の森法律事務所 弁護士)
  • 世界の食料安全保障と日本の農業
  • 横山 紳 氏(株式会社農林中金総合研究所 理事長)

公益社団法人中央畜産会顧問弁護士を務める齋藤氏は、東日本大震災で津波による多くの犠牲を出した大川小学校の児童遺族が闘った「大川小学校津波被災事件」の国家賠償訴訟の2名の弁護人のうちのひとり。当時、大川小学校では、下校済み、保護者に引き取られた児童を除く76名が学校管理下にあった。津波に飲み込まれても助かった児童が2名、70名が犠牲となり、4名は今も行方不明となっている。教員10名も犠牲となった。

講演では、事件のこと、訴訟のこと、訴訟結果の社会的意義などを述べた。

地震当日の時系列での大川小学校の様子、被災地の地勢・地形を示し、校長が午後に休暇をとり指揮官が不在であったこと、危機管理マニュアルに不備があったこと、裏山への避難の訴えが現場の教員の共通認識にならなかったことなど問題があったことを紹介した。石巻市教育委員会等の不誠実な対応、納得のいかない検証委員会の結論により、「我が子の最期の真実を知りたい」という思いが叶えられなかった遺族は、時効前日に訴状を提出し、致し方なく訴訟に踏み切った。仙台地方裁判所での1審を経て、仙台高等裁判所での控訴審となり、組織構成員としての校長らの過失が認められ、国家賠償の責任が肯定された。

控訴審の判決が示した意義には、学校の管理運営者には児童・生徒への安全性確保義務が肯定されたこと、平時の対応義務にまで責任が及ぶことを示したこと、情報共有・安全確保における協同(学校・教育委員会・自治体)の重要性と必要性が認められたこと、ハザードマップの誤りを認定したこと、現場の教員だけにすべての責任を還元させてはならないと示したこと、などがあげられる。これらは、学校に限らず、企業・組織の災害に対するリスクマネジメントを考えさせられるものであった。そして、事前対応において、①疑わしいときは行動せよ、②最悪の事態を想定して行動(決心)せよ、③空振りは許されるが、見逃しは許されない、というプロアクティブの原則が緻密ではなかったと指摘した。また、議論できる環境(学校の管理者と教員)であることの必要性についても述べた。

なお、原告はネット上、押しかけ、路上などでの心無い誹謗中傷や脅迫を受けており、「訴訟を通じて権利を主張し、実現していくことは当然のことである」という理屈が通りづらい日本人の法意識の問題にも触れた。

訴訟のことはドキュメント映画「『生きる』-大川小学校津波裁判を闘った人たち」になっており、ぜひ観て欲しいと述べた。

横山氏は前農林水産省農林水産事務次官。農林水産省在任中には「食料・農業・農村基本法」改正を陣頭指揮した。牛海綿状脳症(BSE)発生時にはその対応に尽力し、米国赴任中に同国でBSEが発生した際は、その情報を日本に送り続けた。

講演では「食料生産量の増加は、耕地が広がったのではなく品種改良などによりる単収が伸びたことによる。3大穀物の生産量は、トウモロコシ約12億トン、小麦約8億トン、米約5億トンで、米はほとんどが自国消費となっており、貿易量は少ない。」と述べ、トウモロコシ、小麦、大豆の2002年と2022年の各国の生産量と輸出量を示し、その対比を解説した。世界の食料の総量は足りているが、不公平な分配と地域の事情により、11%が飢えにさらされている。

日本においては、今の食生活、耕地では食糧自給率を100%にするのは不可能であるという。国内の耕地面積は、427万ha(田232ha、畑195万ha)。消費全ての生産に必要な耕地面積を試算すると1,332万haとなり、約3.1倍の耕地が必要となる。輸入食料相当を生産する場合に必要な耕地面積は、小麦183万ha、トウモロコシ164万ha、大豆100万ha、畜産物265万ha、その他193万haとなり、海外依存度の高い麦、大豆、飼料作物の生産を一層拡大していくことが必要である。

高齢化が進み、法人が増えている生産現場のことも示し、輸出も視野に入れつつ、新しい技術を活用していくしかないと話を締めくくった。