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■【寄稿】新刊『動物と人間の関係を考える 日本人と動物のビッグヒストリー』

2025-11-05 17:06 掲載 | 前の記事 | 次の記事

『動物と人間の関係を考える 日本人と動物のビッグヒストリー』

  • 著:佐渡友陽一
  • 発行日:2025年9月25日
  • 価格:定価2,860円 (本体価格2,600円)
  • 発行元:東京大学出版会

浅川満彦(酪農学園大学 名誉教授)

佐渡友陽一氏による『動物と人間の関係を考える 日本人と動物のビッグヒストリー』が刊行された。佐渡友ファンを自認する紹介者自身(浅川 2022、浅川 2024)は当然、本書副題“日本人と動物のビッグヒストリー”を出版元である東京大学出版会のホームページ「これから出る本」上で目にした数か月前から心待ちにしていた。まさに満を持しての一級資料刊行であると予感したからだ。

読み終えその思惑通りであったと確認、今、その余韻に浸っている。著者(元・日本平動物園勤務)が動物園人としての思考・常識を備えているのはその通りとして、彼独特のどこか冷め、でも寄り添いが妙に温かい書きぶりは当方をいたく刺激する。とくに第2章の大和朝廷~今世紀の経年的な提示は適度な器(長さ)で語り切り、あれもこれもではなく(冗長とならず)、ストーリーとしての流れ具合が俊逸。繰り返し読みたいと思わせ、北海道弁“よまさる”出来。妬ましい兼ねて内容自体は汎用性が高いので資料としても有用。

とりわけ紹介者が注目したのが“明治維新から戦争への道”で、その背景・理由は“野生動物の法獣医学”に関わったからである。当方がこの領域に関わる書籍・資料等をいくつか刊行した数年前、自転車操業の鉄火場であったので、肝心の“法獣医学”という和製漢語がなんと明治時代に存在していたことを見落としていた。先取権的にマズイ!と大パニック。と、同時にあんな昔に「日本人ってスゲー!」と感心も。そのようなことを思い出しつつ本書当該頁をめくった。そこには維新前後の屠畜・毛皮・狂犬病等当時のあたふたした中、様々な情報が押し込められていた。これらも十分思考醸成に益したが、本心ではこの時代のモノゴトにもう少し紙幅を費やして欲しかった。もっとも他とのバランスもあったのだろう。無い物強請りは封印。

これらと時期的に近いがロンドン動物園の1828年の開園の記述にも目が行った(94頁、第3章「西洋との比較」)。紹介者自身が通った専門職大学院のキャンパスであったからだ。でも、偉そうにヒケラカシしたものの、そこには恥ずかしいことに知らない情報ばかり。今後何度も参照・引用させていただくことになるであろう(注:Wild Animal Health 修士は当該園が授与するのではなくご近所のロンドン大学王立獣医大認定)。

経年的には一気に新しくなるが、“ワンヘルス”に言及いただいたのも嬉しい(67頁、第2章「日本における人間と動物の関係史」)。なぜなら紹介者は野生動物医学の専門家も兼ねるからで、この理念を一般の方に御理解いただくのは至難の業なのだ。ちなみに(皆さんにはどうでも良いでしょうが…)本来の専門は人含む動物寄生虫(病)で、要するに“体の中のよく分からない、もぞもぞするもの”(42頁、第2章「日本における人間と動物の関係史」)だ。なお寄生虫のうちでもダニ・シラミのような脚があるモノではなく、ミミズみたいなモゾモゾ的動物で蠕虫(ぜんちゅう)。この機会にお見知りおきを。本書ではこの他安楽死(殺)やミーム(文化的遺伝子)、さらにペンギン趾瘤症ほか伝染病等々突っ込みたいネタ満載だがこのあたりで。

以上のように一筋縄ではいかない大昔から今日までの東西世界の飼育/野生動物の価値観・距離感の激変・変遷を語る力量は佐渡友氏だけだろう。

引用文献

§『動物と人間の関係を考える 日本人と動物のビッグヒストリー』の主な構成

はじめに-自己紹介と問題提起

第1章 千変万化する人間と動物の関係

  • 日本人と西洋人、それぞれの判断-安楽殺を巡って
  • シャチ、イルカのショーと認知的不協和
  • 動物の多様性と言語による理解
  • 「動物」とは何か、「人間」とは何か
  • どこまでも理解しきれない動物との関係
  • 動物を語ること、比較することの効果と限界
  • 第1章のまとめ

第2章 日本における人間と動物の関係史

  • 大和朝廷の成立まで-日本人と動物とのなれそめ
  • 古代~中世-殺生禁断令の始まりと祟り・穢れの忌避
  • 近世/前半-生類憐みの令に至る道
  • 近世/後半-泰平の、しかし低成長の江戸時代
  • 近代/前半-明治維新による大転換
  • 近代/後半-戦争への道とその結末
  • 現代/前半-戦後の激動と高度成長
  • 現代/後半-国際摩擦と動物愛護
  • 21世紀を迎えた日本人と動物たち
  • 第2章のまとめ

第3章 西洋との比較-食べる、使う、畏れる、愛でる、守る

  • 日本の歴史を相対化する
  • 動物の食べ方を比べる-動物を殺して食べるという葛藤、保全と管理
  • 動物の使い方を比べる-歴史を動かした家畜、家畜化のメカニズム
  • 動物の畏れ方を比べる-理解しがたい世界と向き合うために
  • 動物の愛し方を比べる-自由と管理と訓練と、愛ゆえの対立
  • 動物の守り方を比べる-動物保護と環境保全
  • 日本の特徴を考える
  • 第3章のまとめ

第4章 現代日本とこれからの人間と動物の関係

  • ビッグヒストリー-我々はどのような存在なのか
  • 赦しと諦め-人間の意識に必要なもの
  • 動物を殺す-日本人が考えるのを避けてきたこと
  • 動物福祉と動物愛護-「動物のため」を考える意義と限界
  • 徳倫理とファンドレイジング-人間の多様性と社会の構造
  • イノベーション-社会が新しい文化を獲得するプロセス
  • 第4章のまとめ

おわりに