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■【寄稿】「ウィスコンシン酪農セミナー2024」報告-(3)

2024-12-03 18:16 | 前の記事 | 次の記事

写真1 Dr.Ollivettを囲んでの集合写真。後列右から3人目がDr.Ollivett。

図 血清IgG濃度による疾病調査のグラフ

写真2 Dr.Ollivett検診随行での肺エコー手技(10月24日午後)。初めに、子牛を頭側から保定(A)し、臍部腫脹を確認(B)する。胸部をアルコールスプレー(C矢頭)で十分に湿らせたのち、右肺の第6肋間から第1肋間つづいて左肺の第6肋間から第3肋間の順に超音波検査を行う(D)。異常がある場合には、農場ごとのプロトコルに従って治療する。

兵庫県農業共済組合南あわじ家畜診療所 石井菜鈴

1.セミナーに参加したきっかけ

私が入所した当時の所長は、本セミナー前身のイリノイセミナーに参加されており、先進的な合衆国の酪農や参加者の先生方との交流に大変刺激を受けたと以前より伺っていました。日々の診療で様々な症例に興味がわく中で、私も本セミナーでさらに視野を広げてみたいと思い参加しました。

2.講義内容の報告

私が報告を担当する講義は、10月24日午前に行われた「Dairy calf health management(Dr.Terri Ollivett)」です(写真1)。この講義では、前半は最新のアメリカの獣医療のトピックの紹介、後半は肺エコーの活用についての講義でした。以下に内容を記載します。

§前半:最新の合衆国の獣医療トピックスについて大きく3つご紹介いただいた。

(1)高病原性鳥インフルエンザ(HPAI) H5N1の牛への感染

2024年春にテキサス州の農場で臨床獣医師が「乳量がごく僅か」「初乳のように粘性のある乳」といった症状の牛を発見し様々な人と話し合ったのが感染発見のきっかけとなった。発生農場では鳥や猫も死亡したことから、牛、鳥及び猫のサンプルを検査したところHPAIのH5N1が検出された。ウイルスは乳汁に排菌され、発熱や乳量低下の症状は約2週間継続するが死亡率は低い。最初の牛は渡り鳥からの感染が疑われているが、農場内での感染は搾乳を介していると考えられている。また、政府機関による移動の規制がないことから約6割の農場が発症後に牛を移動しており、現在では14州に感染が拡大している。人に対しての感染も生じており、そのうち4人は酪農関係者である。排菌期間や感染経路などの詳細についてはわからないことが多く現在も研究が進められており、防疫にはバイオセキュリティが大切である。

(2)交雑種肉牛における肝膿瘍の発生

近年、干ばつの影響で肉用牛が減少し、乳用牛へ肉牛精液を授精する件数が増加している。しかし、交雑種の約半数で屠畜時に肝膿瘍がみられ、作業時間の延長や肉の一部を廃棄するという問題が出ている。原因には、アシドーシスや臍静脈からの感染が疑われているが、詳細については研究中である。

(3)初乳の過剰摂取による問題

初乳は免疫に重要なIgGや活性物質を含むために、初乳の投与量や投与時間については様々な議論がある。血清IgG濃度が高い牛は病気になりにくい(図)ことから、IgG濃度が最も高いとされる分娩直後の初乳を用いることや初乳投与を2回に分けることを実施している。しかし、過剰に初乳を投与すると病気を生じやすくなることがある。例えば、初乳を出生直後に4ℓ、その6時間後に2ℓを胃チューブによって投与する農場では病気が多い傾向にあると考えている。中には、生後9時間で子牛が横倒しで呼吸困難となり10時間で死亡するケースもある。解剖すると、第4胃内に約28cmのカードが入っており、初乳の過剰摂取が問題であった。子牛の胃の大きさは第一胃と第四胃を合わせて4ℓほどであるため、Dr.Ollivettは出生直後に4ℓ投与した後には12時間後頃の自ら初乳を飲みたくなるタイミングに経口で投与するのが良いと考えている。

§後半:「How best to find “Abnormal” calves」

合衆国では、潜在性の肺炎が問題になっている。潜在性の肺炎は外見上の異常がなくとも肺に炎症が起きており、2週間ほど経過してから症状が出るため、臨床症状のある肺炎の2〜4倍の数の潜在性の肺炎がいると考えられている。この潜在性の肺炎の発見のためにDr.Ollivettは2週間に1度の肺エコーによる検診を推奨している。Dr.Ollivettが5年間検診を行う2000頭飼育の農場の例では、10~35日齢の間で毎週肺エコーを行った結果、35日齢以下の治療は2倍になったが35日齢から6ヶ月の治療は5分の1に減少した。また、抗生物質の使用量が減少したことや死亡率が3.5%から0.5%に減少したため、100頭あたり500ドルの節約につながった。さらに、肺エコー手技の一連(図3)で臍帯の腫脹の確認や臍部エコーによる診断をおこなうことで臍部の感染性疾患への早期の対処も可能となる。肺エコーによる検診を行うと同時に、農場従事者が呼気吸気のバランスや異常な糞便などの「異常な子牛のサイン」を見つけられるように指導することで、子牛の疾病を減少できる。

3.セミナー全体の感想とセミナーに参加して感じたこと、得たもの、今後の抱負

セミナーに参加する前は、3年目という自分自身の知識不足や言語の壁に不安もありましたが、熱意ある参加者の先生方に刺激を受けて自然と積極的な姿勢になり、“今できる最大限の勉強しよう!”というマインドで楽しく過ごすことができました。今回の研修を通して、合衆国の農場では最先端のシステムを用いるだけではなく、獣医師や従業員間との細やかな連携から成り立っていると感じました。例えば、獣医師と農場間の連携では、Dr.Ollivettは潜在性の肺炎の発見のために異常な子牛の呼吸方法について、最後肋骨の動きを落ち着いている哺乳後2-3時間に観察するように従業員に教育したそうです。また、従業員間の連携については、Blue Star農場で分娩管理の従業員交代時に情報共有しやすいように、分娩状況や哺乳状況を多言語の表を作成して工夫していることが印象に残っています。

個体診療が日々の中心で遠く感じていた群管理について小規模でも活かせることがあると知り、今後の診療の中で取り組んでいきたいと考えています。合衆国の最新の情報を肌で感じながら学べただけではなく、全国で活躍される先生方とたくさん意見交換ができたこと、つながりができたことは私にとって宝物となりました。最後に、素晴らしい機会を用意してくださった佐藤 繁先生、渥美孝雄先生、多大なご支援をいただいた共立製薬の皆様、参加にあたりご協力いただいた診療所の先生方に心より感謝申し上げます。