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■【寄稿】「ウィスコンシン酪農セミナー2024」報告-(2)

2024-12-03 17:50 | 前の記事 | 次の記事

写真1 講師のLuiz F.Ferraretto

表1~表3

写真2 Crave Brothers FarmのTMR

株式会社ノースベッツ 大久保宏平

今回、ウィスコンシン大学および酪農場の研修ツアーに参加いたしました。獣医師として働き始めてから11年目となりますが、これまで合衆国の酪農に直接触れる機会がなかったことから、貴重な経験となりました。私は、北海道で繁殖検診と栄養管理を軸に酪農場の牛群管理業務に従事していますが、繁殖成績、粗飼料の質や収量、子牛の疾病、乳房炎および改良の方向性といった様々な課題に直面しています。セミナーでは、このような課題に関して5人の講師に講演頂いた後、実際に酪農場を訪問しました。セミナー中は、まさに「井の中の蛙、大海を知らず」といった状況で、見聞きするもの全てが新鮮で、有意義な時間となりました。その中で、私は2日目のDr.Luiz F.Ferraretto(写真1)による栄養管理の講義について、内容と所感を報告します。

「移行期の栄養管理および粗飼料と採食行動」

講義は大きく分けて「負のエネルギーバランスを克服するための栄養戦略」と「粗飼料の消化性及び物理性が採食行動や生産に及ぼす影響」のテーマで実施されました。

1つ目のテーマである負のエネルギーバランスは、移行期の生産要求量と採食に伴う供給量の差によって発生します。デンプンの給与はエネルギーバランスを克服するために重要ですが、アシドーシスと乾物摂取量の低下を起こすリスクに注意が必要です。分娩前後のデンプン変化は乾物あたり10%以内に抑えること、飼料メニューのデンプン源とその発酵性に注意することが大切です。また、分娩後の脂肪動員を防ぐために、コリンとアミノ酸の給与(バイパスメチオニンとバイパスリジン)が重要であるという指摘がありました(表1)。コリンは、脂肪代謝を促進しエネルギー産生を促す栄養素です。移行期に給与することで、乾物摂取量及びエネルギー補正乳量の上昇、ケトン体や血糖値といった負のエネルギーバランスの指標が改善されることが期待されます。

また、エネルギーバランスと同様に、移行期は蛋白質も負のバランスになることが指摘されており、対策としてバイパスリジンとメチオニンの給与を推奨していました(表2)。その際はメチオニンとリジンの両者を給与すること、そのバランス、さらに生産性を上げるためには移行期を通して給与することが重要です。

2つ目のテーマである粗飼料と採食行動の関係については、表3に講義内容を整理しました。粗飼料が行動と生産に及ぼす要因は、粗飼料NDF、NDF消化率、物理性(切断サイズ)があります。粗飼料NDFに関しては、低ければ良いというわけではなく、飼料効率上重要な要素であるとのことでした。一方で、粗飼料のNDF消化率は、採食行動と乾物摂取量の向上に寄与します。ソルガムはコーンサイレージに比べて消化率が低く、採食時間の延長と乾物摂取量及び生産性が低下することを紹介していました。採食時間の延長は起立時間の延長に繋がります。飼料中の不消化繊維(uNDF)を下げることで、ソーティングが減り生産性が向上します。物理性は、ルーメン環境の恒常性に寄与する点で重要です。実際に周辺農場の切断サイズは長めにカットされている印象(写真2はCrave Brothers FarmのTMR)で16-19mmとのことでした。一方で、高い物理性はソーティングによる採食時間の延長と生産性の低下に寄与することを指摘していました。以上を整理すると、酪農生産をする上で草種、刈り取りの高さ、切断サイズ、収穫時期などに留意した収穫作業と、粗飼料NDFと物理性に留意した設計が重要であることを再認識しました。

今回のセミナーは「井の中の蛙、大海を知らず」的なことばかりでしたが、「空の青さを知る」研修でもありました。粗飼料の質を上げていくことで、日本の酪農生産の更なる向上が期待できます。また、同じ志をもつ日本中の仲間に出会えたことが大きな財産となりました。このような機会を頂いた佐藤 繁先生、渥美孝雄先生、現地でコーディネートをして頂いた鷲山順慈先生、共立製薬株式会社の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。今回の研修で学んだことを日々の業務に活かしていきたいと思います。