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■新刊『なぜ犬と暮らす人は長生きなのか』

2024-10-15 17:28 | 前の記事 | 次の記事

『なぜ犬と暮らす人は長生きなのか』

谷口 優先生と愛犬フィン(ジャックラッセル・テリア)

著者の谷口 優先生は、国立環境研究所環境リスク・健康領域主任研究員、東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員の医学博士である。老年医学の研究者が、犬が高齢者に及ぼす影響を研究テーマとして取り組み、その成果をわかりやすく解説したのが本書である。

本書の章構成は以下の通りである。

  • 第1章 犬と暮らすと健康になるって本当?
  • 第2章 犬と人との不思議な関係
  • 第3章 科学的データでわかった!高齢者が犬と暮らすと長生きできる
  • 第4章 高齢者が犬と暮らすためのアドバイス
  • 第5章 犬との楽しい暮らしを始めましょう

まず序章となる第1章で、犬を飼うことが長寿につながること、海外との比較で日本は動物を飼いにくい社会であると述べる。認知症やフレイルになりにくいことにもふれ、犬は健康状態を底上げする効果があると断言し、第2章以降の話が展開されていく。

第2章では、犬との歴史、犬種、使役犬、嗅覚、子供の効用、オキシトシンの分泌、犬の常在菌、CAPP活動、高齢者の飼育などのことが述べられている。獣医師にとっては勝手知ったるという内容もあるだろうが、実に簡明に分かりやすくまとめており、見習うところが多い。CAPP活動の先駆者で今も実践し続けている柴内裕子先生をインタビューしてその内容が紹介されているのは、うれしい限りである。

第3章では、著者自身の研究成果が紹介される。フレイルの予防、フレイルの改善、自立喪失(要介護状態になることや死亡すること)になりにくいことなどに犬の飼育が有効なことが科学的に実証されたことが述べられている。話は社会保障費の抑制につながることにも及ぶ。また、犬を飼うと散歩時の道行く人との交流や犬友ができるという効用はよく述べられることであるが、本書では、動物病院のスタッフと交流できることが犬を飼うことの効用にあげられている。これも読んで嬉しくなった一文である。環境省と農林水産省による愛玩動物看護師に関する審議会の場でも、動物病院の看護スタッフによる動物の訪問診療に、高齢者の見守りの機能があることが話題として出ていたが、本書のように医学分野から動物病院の役割について言及されるということは、獣医療と介護分野の連携がこれから深まっていく社会が訪れるのかもしれない。

しかし、実際には高齢者が犬を飼い始めるのは難しい面もある。第4章では犬を手に入れる方法の実際などにふれ、「高齢者でも安心して犬と生活できる方法を一緒に考えることが大事」と著者は述べているが、まさに本書がその考えるきっかけとなるものである。

最終章の「犬との楽しい暮らしを始めましょう」は、犬との生活に必要なこと、どんな生活になるかが、簡明に記されている。この章はとくに多くの人の目に触れてもらいたい。販促・広報の一環として何らかの形で公開されればよいなと思った。