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■獣医学教育への動物代替法導入 着実に進む 日本獣医学会

2024-09-19 17:17 | 前の記事 | 次の記事

獣医学教育改革シンポジウムの会場。右奥は座長を務めた東京大学の堀 正敏先生(左)と鳥取大学の菱沼 貢先生(右)

第167回日本獣医学会学術集会では、2024年9月13日、獣医学教育改革シンポジウム「獣医学教育への動物代替法導入の現状と今後」が行われた。

以下の先生方から、それぞれの大学における現況が報告された。

  • 帯広畜産大学 松本高太郎先生
  • 酪農学園大学 伊丹貴晴先生
  • 北里大学 高橋史昭先生
  • 日本獣医生命科学大学 横須賀 誠先生
  • 東京農工大学 西藤公司先生
  • 東京大学 中川貴之先生
  • 日本大学 浅野和之先生
  • 鳥取大学 原田和記先生
  • 岡山理科大学 神田鉄平先生
  • 鹿児島大学 浅野 淳先生

昨年にも同テーマでのシンポジウムが開かれており(「第19回獣医会教育改革シンポジウム」)、これで全大学が発表したことになる。

各大学はできるだけ生体を使用しない方向で実習の改革を進めている。とくに臨床分野では、外科実習ではまったく生体を使用しなくなったという大学もある。

代替法で使用するものは、動画、模型、シミュレーター、と体、コンピュータ、VR、ホルマリン標本、骨、市販肉、大腸菌など。

採血用や内視鏡用、縫合のシミュレータを装備しているという報告は多かった。コンピュータを使用した解析やシミュレーションは、無料のアプリも活用されている。

人を使った実習も行われている。従来、ウサギなどが用いられていた筋電図の実習では、学生が自身の体で測定するということがいくつかの大学で行われている。フロアーから倫理上の問題はないのかとの声があったが、鳥取大学の原田和記先生は、同大学医学部の倫理規定をクリアし、かつ学生の同意書を得た上で、誘発筋電図の実習を行っていることを紹介した。自分の動きがどのように反映されるかが分かり、理解が深まるとの利点がある一方、それだけでは薬効を確認することができないという問題点も残る。

西藤公司先生は、東京農工大学の臨床実習として装備している以下のシミュレータを詳しく紹介した。

  • 犬の橈側皮静脈注射トレーニング模型
  • 犬の口腔シミュレーション模型
  • 手術練習用シミュレーション模型
  • 食道-胃シミュレーション模型
  • 眼シミュレーション模型
  • 心肺蘇生シミュレーション模型

東京大学では、尿道カテーテルのシミュレーションモデルを自作するなどの工夫も行っている。市販のモツを使った吻合の実習も行っている。解剖学については自作の動画ライブラリーの整備を進めており、馬版を完成させ、今年度は豚版、さらに山羊版、犬版、牛版と続く予定。

日本大学の淺野和之先生は、外科を行う上で必要な解剖学を初動教育で十分に教えることは困難であり、2021年に日本外科教育学会(当初は研究会)が設立されるなど、医学においても同様な状況であることを紹介した。

岡山理科大学では、今までは設置申請になかった代替法による実習を行うことができなかったが、2024年度からは整備を進めている。同大学の情報理工学部と連携して、心臓超音波検査シミュレータの開発を行っていくことも紹介した。

スキルスラボの整備も進んでいる。2020年に山口大学がスキルスラボを紹介し、各大学でも整備されつつある。帯広畜産大学では、伴侶動物研究棟の一室に伴侶動物分野のスキルスラボの設けられ、また産業動物臨床棟のロビーに産業動物分野の実習機材が置かれている。学生証がカードキーとなり、学生は自由に出入りし使用することができ、その使用記録は保存される。今のところは、参加型実習(vetOSCE)の前1か月に使用が集中しているとのこと。座長の堀 正敏先生からは、学生の利用状況の詳しいデータをまとめ、文部科学省への提出資料として欲しいとの要望があった。

酪農学園大学は付属高校の旧校舎を利用して、3階建てのスキルスラボを整備した。臨床検査実習室、生産動物臨床実習室、大動物臨床実習室、外科実習室、麻酔実習室、臨床繁殖実習室、画像診断実習室、模擬動物病院などが整えられている。

その他の大学では、vetOSCE前に期間限定で設置されることが多く、専用スペースでの常設整備が課題となっている。日本大学は今年度中に設置される予定。

酪農学園大学のスキルスラボでは、もちろん放射線は使用できないが、画像診断実習室には実際の臨床同様の機器・機材が整えられている。画像診断実習については、フロアーから「各大学におかれては、学生には防護服を着て、防護手袋を付けての作業を体験させて欲しい」とのコメントがあった。

シミュレータの使用は、反復が可能であり、知識や考え方の修得、特に鎮静下での処置について効果的である。一方で、リンパ節を感じることができない、痛みに対する反応の程度を実感できないなど、生体を利用した場合との様々な差は当然ある。生体を利用した場合に比べて、学生は真剣さに欠ける、興味が低い、緊迫感が希薄という状況。

代替法を進めていくことは必須のことで、各大学は教育の質を低下させてはいけないと、模索しつつ整備を進めている。常に問題となるのは経費。初期導入の予算を確保できても、修繕費などの維持を賄うことが難しいという問題がある。人材不足という課題もある。in silcoの開発導入、動画教材のさらなる充実も求められる。

なお、生体を利用する場合は、複数学問分野で共用し、安楽殺させた後は臓器を利用するなど、使用数の削減に努めている。生体利用として、シェルター施設との連携を紹介した大学も2大学あった。