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■症例報告「親猫にはない新規の遺伝子変異により筋ジストロフィーを発症したネコの症例」アニコム損害保険株式会社

2024-04-24 16:49 | 前の記事 | 次の記事

アニコム損害保険株式会社は、2024年4月18日、北海道大学との共同研究を通じ、親猫にはない新規に生じた遺伝子の突然変異によってネコの筋ジストロフィーが発症したことを明らかにしたと発表した(参照:アニコム損害保険株式会社ニュースリリース)。

この成果は、非侵襲性の遺伝子検査の実施が、ネコにおける筋ジストロフィーの診断補助、治療方針の策定、さらにはネコの繁殖に役立つことを示している。

同研究成果は、4月13日、「Journal of Veterinary Internal Medicine」にオンライン公開された。

北海道大学附属動物医療センターに来院したMDの疑いがあるキンカロー種(アメリカン・カールとマンチカンの交配種)の雄ネコに対して正確な診断を行うため、DMD遺伝子を含むすべての遺伝情報(ゲノム)を調べるとともに、親猫やキンカローおよびキンカローに近縁なアメリカン・カールとマンチカンを合わせた357個体に対しても追加で調査を行った。

来院した10ヶ月のキンカロー種の雄ネコに臨床徴候はなかったが、血液検査、超音波検査、CT、病理学的検査により、MDに罹患していることが分かった。

原因となる遺伝子変異を明らかにするため、このネコの血液からDNAを抽出し、次世代シークエンサーにより全ゲノムシークエンシング(Whole Genome Sequencing:WGS)を行った。続くWGSのデータ解析で、DMD遺伝子上にあるタンパク質の生産に大きく影響すると予測される変異を抽出したところ、これまでに知られていたDMDの遺伝子の変異は存在せず、別の位置に該当する変異が見つかった。

さらに、この変異が親猫のどちらかに由来するものか、突然変異により生じたものかを調べるため、親猫2頭の臨床診断と当該遺伝子変異の有無を確認した。超音波検査や血液検査等、複数の臨床検査の結果、親猫2頭は現在までに臨床的に健康であること、当該変異を持たないことが明らかになった。

また、キンカローを97頭、アメリカン・カールとマンチカン、それぞれ125頭と132頭においても変異の有無を調べたところ、該当する変異は見つからなかった。

以上から、今回明らかになったDMD上の変異は該当個体でのみ確認されたため、新しく生じた突然変異であることが分かった。

MDは主に病理組織検査を用いて診断されるが、根本的な治療方法は確立されていない。しかし、一部の麻酔薬の使用によって横紋筋融解症などのリスクが高まることが分かっており、病理組織検査のための手術や生体検査においても厳格な麻酔管理が必要。一方、侵襲性が低い遺伝子検査を事前に実施しておくことで、適切なリスク管理が可能になる。そのため、予防医療の観点からもMDが疑われる場合は早期に遺伝子検査をしておくことが望まれる。今回の罹患個体のように、親猫が変異を持っていない場合でも、突然変異によってMDが生じる可能性があることが分かった。そのため、生体検査以外の検査結果でMDが疑われる個体に関しては、生体検査時の麻酔のリスクを低減するため、事前の遺伝子検査とその検査結果に基づく適切な治療方針の策定が重要であると言える。