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■イヌの組織球肉腫の分子メカニズム解明 アニコム損害保険株式会社

2023-07-05 15:19 | 前の記事 | 次の記事

アニコム損害保険株式会社は、2023年6月7日、東京大学、日本小動物がんセンター、四国動物医療センター、日本獣医生命科学大学との共同研究を通じて、イヌの組織球肉腫の治療に有効となる新たな標的分子を同定したと発表した。イヌの組織球肉腫の遺伝子変異とそれに起因した異常な分子経路を次世代シークエンサーで探索し、解明。

この成果は、組織球肉腫の病態解明や新しい治療法につながる可能性がある。同研究成果は、学術誌「Scientific Reports」で5月26日にオンライン公開された。

イヌの組織球肉腫(histiocytic sarcoma:HS)は非常に悪性度の高い腫瘍だが、その稀少性から適切な治療法が見つかっていない。HSの治療に有効となる標的分子の特定を目的とし、最新の塩基配列解読装置(次世代シークエンサー)とイヌのHS細胞株を用いた実験によって、イヌHSの遺伝子変異とそれに起因した異常な分子経路の探索を行った。

はじめにイヌの遺伝子、とくにタンパク質をコードしている領域(エクソン)を網羅的に解析する「エクソームシークエンス」と、遺伝子の発現量を網羅的に解析する「RNAシークエンス」を行った結果、RTK(受容体型チロシンキナーゼ)シグナル経路とERK1/2(ERKシグナル)、PI3K-AKT(Aktシグナル)、STAT3経路の活性化に関連する遺伝子変異を発見した。

続いて「定量的PCR」と「免疫組織化学」による解析の結果、線維芽細胞増殖因子受容体1(FGFR1)が過剰発現していること、また全てのHS細胞株でERKおよびAktシグナルが活性化していることが確認された。その上でFGFR1阻害剤の有効性を評価したところ、12種類のイヌHS細胞株のうち2種類の株において用量依存的な増殖抑制作用を示した。

同研究で得られた知見は、イヌHSにおいてERKおよびAktシグナルが活性化されており、FGFR1を標的とした薬剤が一部で有効である可能性を示している。またこれらの成果は、ヒト分野でのがん研究や新規治療法の確立にも繋がる可能性がある。